「ふぅん、あんただったんだ」
今朝、下駄箱に入っていたノートの切れ端。
『放課後、誰もいなくなったら、一年五組の教室に来て』
その呼び出し通りに一年五組の教室に言った私を待っていたのは朝倉涼子だった。
「遅いよ」
朝倉はくったくのない笑みを浮かべて言った。
「来ただけでもありがたく思いなさい。で、用はなに?」
典型的な優等生である朝倉は、私が求めている面白さとはかけ離れている場所にいる。
だから私は、彼女にたいした興味を持てなかった。
「人間はさあ、よく『やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいい』って言うよね。これどう思う?」
「はあ? そんなの当然じゃない。うじうじ悩むくらいならズバッと行動した方が良いに決まってるわ!」
「そうよね! 涼宮さんならそう言ってくれると思っていたわ」
よくわからないけれど、なにやら納得してくれたようだ。
とにかく、早く帰ろうと朝倉に背を向けた。
ドアに手をかけようとするのと同時に、背後から朝倉の声を聞いた。
「好きです」と。
さすがに予想外だったわね。
女の子に告白されたのは初めてじゃないけれど、朝倉にそっちの趣味があるなんて思いもしなかったから。
当の本人は「へへ、ずっと言いたかったんだ」なんて言いながら笑っている。
その笑顔は素直に可愛いと思った。
少なくとも教室で、友人相手への笑みとは比べ物にならないほどに魅力的だ。
「ねえ、涼宮さんは私のこと嫌い?」
「べ、別に嫌いじゃないわよ」
少なくとも、3分前までよりは確実に好意を持っている。
「本当? じゃあ付き合って」
さっきもだけど、自分の本心をためらいなく伝える子だ。
少し羨ましいかもしれない。
それに、そんなに真っ直ぐに言われるとその、なんだが女の子の気分というか
愛されたい気分になってしまう。
結局、私は自分の気持ちに抗う事無く、今まで通りに交際の申し出を受けることにした。
「涼宮さん、はい、今日のお弁当」
「いつも悪いわね」
「いいのよ、涼宮さんに食べてもらうのが嬉しいんだから」
私の希望通りというべきか、涼子は私に対する愛を惜しまなかった。
元々、面倒見のいい性格なのだろう。
私がどんなにワガママを言っても「仕方ないなあ、もう」と笑って聞いてくれる。
私はその「仕方ないなあ、もう」が大好きでいつもワガママを言って甘えてしまう。
「あれ、お弁当食べないの?」
「……食べさせなさい」
「仕方ないなあ、もう」
そう言って、涼子は箸でキレイに焼かれた卵焼きを私の口に運んでくれる。
誰かに甘えるのがこんなにも幸せだなんて知らなかった。
付き合ってからわかったことがある。
典型的な優等生に見えた涼子だけど、変わったところも多かった。
刃物の類が好きだったりするのが、その最たる例かな。
そんな新しい一面を見れただけで、もっと涼子に近づけた気がして嬉しかった。
どんどんと涼子と好きになっていく自分がいる。
「ねえ、涼宮さん? 長門さんと一緒にいること多くない?」
「そりゃあ、有希は団員なんだから当然じゃない」
「それだけ?」
「もちろんよ! 私が好きなのは、その、あなただけなんから」
これも最近わかったことだけど、涼子は意外に独占欲が強い。
縛られることなんて大嫌いだった自分だったけれど、涼子になら構わないなんて思ってしまう自分がいる。
「もしも、浮気したら酷いよ」
なんて笑顔で包丁を研いでる涼子を見ながら、愛されてるんだなと感じる私は、いよいよ末期なのかもしれない。
最終更新:2009年01月25日 13:39