『ティターンズ』
一年戦争終結後、公国軍残党による小規模な衝突が各地で頻発していた。
地球連邦軍は、先の戦争で疲弊した組織の立て直しを優先しており、それらに対抗する有効な手段を講じられずにいた。
宇宙世紀0083年10月、連邦軍が極秘に開発していたガンダム試作2号機の強奪に端を発する「デラーズ紛争」が発生。
ここに至り、ようやく公国軍残党の脅威を痛感した。
デラーズ紛争は、およそ一ヶ月に及んで様々な事象を引き起こした。
地球連邦軍は、事実上、戦争に匹敵する規模の軍事行動で対抗しようとしたが、
あらゆる局面で後手に回り、有効な対抗手段を講じられなかった。つまり、連邦軍の通常の戦略では、デラーズが展開したような複合的な作戦には対抗することが出来ないということが明らかになった。
しかし、連邦軍首脳部は、軍組織そのものの改革を嫌い、いわゆる「公国軍残党」に専門で対応する部署の新設だけで問題を解決しようと考えたのである。
デラーズ紛争そのものは、軍による核運用を前提とした兵器開発の事実を隠蔽するため、公式記録から抹消され、
その真相は闇の中に葬られたが、軍首脳のみならず、連邦政府も公国軍残党に対応する組織の必要性を感じていた。
そういった状況もあり、地球連邦軍大佐(当時)のジャミトフ・ハイマンが、かねてより提唱していた
公国軍残党殲滅組織「ティターンズ」が、設立されることになった。
ティターンズは、多様な状況に包括的な対応が可能で、その為に、十分な権限を持つ独立部隊であることが条件とされた。
そして、地球連邦軍組織の枠にとらわれない活動が保証され、通常の指揮系統からも切り放されていた。
ティターンズの創設者であるジャミトフは、連邦軍の権限を大幅に引き上げることで、最終的には軍事国家的な統制政府を
創り出そうと考えていた。
地球連邦政府は一年戦争から何の教訓も得ておらず、地球再開発に名を借りた環境汚染を続け、既得権の維持と拡大のみに
執着している。ジャミトフには、このままでは地球が食いつぶされてしまうという危機感があった。
そして彼は、地球の再生を実現する手段として、地球上の全人類の抹殺をも選択肢とする構想を得た。
その端緒がティターンズの設立だったのである。
一年戦争においてジオン公国軍が敢行したブリティッシュ作戦は、地球環境を著しく損なった。
この作戦を発想することは、地球で生まれ育った人間には不可能である。
ジャミトフは、宇宙移民者はすでに人類とは異なる存在であり、別種のメンタリティーを持っていると感じた。
彼らスペースノイドは地球を食い荒らす寄生虫であり、ニュータイプは現在の人類を脅かすミュータントでしかない。
さらに、地球連邦政府を構成する各国、各サイドの代表者は、なまじな権力を持っている分悪質な烏合の衆であり、
絶対民主主義の名を借りて、民意という隠れ蓑で私服を肥やす以外のことを考えられない、史上最悪最低の存在である。
連邦内部においても軍閥による利益誘導や内部派閥の勢力拡大のみ血道をあげる無能な将軍ばかりが幅をきかせ、
実直で誠実であること以外に能のない暗愚な職業軍人が現実問題の対応に追われている。
しかも、公然と頻発する反地球連邦運動や新兵器の強奪などが起こり、失墜する一方である連邦の威信を回復する手段を、
一つの部署を設立することですべて押しつけてしまおうとする姑息さを自覚してさえいない。
無論、ジャミトフはそれを見越した上でティターンズを設立したのだが、その事そのものがティターンズの性格を決定づけた。
ジャミトフは、この絶望的で救いようのない地球連邦の組織を見限ったのである。
ザビ家独裁による一年戦争における数々の暴挙は人類史上希にみる犯罪行為であり、その信奉者たちを排除する事は
正義であるというコンセンサスは成立していた。
ティターンズは、地球圏を脅かすジオン公国軍残党を殲滅する精鋭部隊である。
その宣伝は功を奏し、実力のある将校や意欲的な若い士官が次々と参集した。
その為、ティターンズはいわゆる軍組織としての質も軍人達の士気も練度も非常に高かった。
そして実質的に精鋭部隊として実力を備える実戦的な組織として充実していった。
その一方で、組織の性格から、ティターンズを構成する軍人は、地球出身者で地球育ちのアーズノイドに限られた。
ジャミトフはアースノイド以外の参入を認めなかった。これは「任務内容の性格による配慮」という方便に糊塗されていたが、
実際にはエリート意識や差別感覚を潜在的に醸成していく手段でもあった。
ティターンズは実績を積み重ね、その地歩と地位、存在意義を確実なものとしていった。
そして、総指揮官であるバスク・オム大佐のもとで遂行された「30バンチ事件」を契機とし、
連邦軍内部における発言力を一挙に拡大した。
30バンチ事件とは、0085年7月31日に起きた大虐殺事件のことである。
当時、サイド1の30バンチにおいて、反地球連邦を掲げる市民グループによって抗議集会が開催されていた。
その影響で、コロニー内の各所でデモやサボタージュ、さらには小規模な暴動などが散発的に発生していた。
対応に苦慮した政庁は、連邦軍の駐留部隊に鎮圧を要請し、駐留部隊はティターンズに出動を要請した。
そしてティターンズは、一切の通告なしに、30バンチのコロニー外壁から毒ガスを注入し、住民数百万人を虐殺したのである。
この事件は報道管制を受け、住民の突発的な大量死は激発性の伝染病が流行したためと公表された。
ティターンズは、これを機に連邦軍内で絶対的な発言力を獲得し、隠然たる恫喝をもって恭順を強要した。
連邦軍首脳の多くは、身の安全を計るためにそれに従い、この暴挙を追求する事はせず、真相を知るものの多くは実質的な共犯者となってしまったのである。
その一方で、この事件はそれぞれ独自に活動していた反地球連邦政府運動の結束を固めさせることになった。
そして連邦軍内部の反ティターンズ派や軍事統制政府成立という事態の招来を危惧する政財界勢力などの参画を経て
「
エゥーゴ」(反地球連邦政府組織=A.E.U.G.=Anti Earth United Goverment)が結成された。
その後、ティターンズはさらに権勢を拡大し、独自の軍事拠点としてサイド7にグリプス2コロニーを建設し、
地球圏支配の準備を着々と進行させていた。そしてエゥーゴもまた、それに対抗すべく、行動を開始していた。
そして0087年。再び戦乱の時代が訪れる。
最終更新:2015年01月30日 17:18