概要
むかし、三条のたかくらに右大臣がいた。御子は男子三人、女子二人。特に妹姫は容姿端麗で、帝は后にする事を望んでいた。
妹姫が十五歳になった八月十五夜の版、二十歳くらいの美男が現れ、契りを結ぶ。以降同じことがたびたび続き、妹姫は妊娠する。帝から姫に歌が届けられるが、母上が返歌をしきりに勧めるため従うと、夢に契った男が現れ、帝に返事をしたことであなたは穢れてしまった、形見の子供は五歳になったら迎えに来る、自分は天の神、あめわかみこだと言い残し、以降姿を見せなくなった。
帝から立后の宣旨がくだされたが、父の右大臣は妹姫の妊娠を知り、家から追い出してしまう。かわりに姉姫を入内させるが、帝は容貌に劣る姉姫を見て失望、歌を贈って姉姫の返歌から妹姫でない事を確かめた帝は以降近づかなくなってしまう。姉姫は実家に戻り悲しみの内に死去する。
妹姫は鏡のような若君を生み、大臣殿は喜んで再び姫を家に迎え入れるが、若君が五歳になった七月七日に、空に紫の雲がたなびき下ってきて、あめわかみこが若君を玉の輿に乗せて天に連れ帰る。人々は悲しんだが、あめわかみこから与えられた瑠璃の壺の薬を与えると、嘆きも消えてしまった。
帝はこの事を聞き再び妹姫を后にしようとするが、姉姫を邪険にされた大臣がこれを拒否、帝は譲位して出家してしまう。
姫は新帝の立后の宣旨をお受けして、これにより一門は繁昌した。
- 『七夕』というタイトルになっている異本もあり、そちらでは雨若みこは蛇の姿で天から降りてくる、
異類婚姻譚の形式をとっている。
- 「あめわかみこ」は記紀神話のアメノワカヒコ(天若日子、天稚彦)と強い関連があると見られる。
(zsphereコメント:ざっと見ただけでも、三輪山系の説話、
コノハナサクヤヒメと
イワナガヒメの神話、
竹取物語説話などがミックスされているように思われ。これだから中世は……とも思うがw
個人的に特に面白いのが『竹取物語』との接近か。帝と歌を交わすことを「穢れ」とする感覚、
天に連れ帰られる若君、「思ふところもなくはべる」ようになる薬。
またイワナガヒメの神話も、『竹取物語』も「天皇が不死を拒む」話と見れば、さらに接近する。
とはいえ、竹取物語では中国神仙思想が想定されていただろう月が、この話では
高天原の使いであるアメノワカヒコにされているので……どうも一筋縄でない話)
参考文献
『日本伝奇伝説大事典』
最終更新:2014年01月18日 02:38