女人化蛇説話

   「柚多和の大坂を過ぐ。この暁、坂の中に大樹に蛇形の懸かれるあり、
    昔女人の化成せると云ふ、云々」とある。
   これは「道切りの蛇縄」と呼ばれる、樹木に巻きつけて外部の悪を払う習俗という。
   柚多和は熊野参詣の二大ルートの一つ、中辺路の牟漏郡にある地名。
   なお、『道成寺縁起絵巻』では蛇体と化した女を牟漏郡の者としている。

  • 説経『まつら長者』に、橋の人柱が大蛇となった一節が載る。
   「奥州のある池の大蛇に人身御供に出されたさよ姫は、
    逆に大蛇を法華経で教化し、大蛇の半生を聞く。
    大蛇はもと伊勢国二見の女で、橋の人柱になるために売られてきた」とか。

(『あやかし考』田中貴子)


「江洲伊香郡での古い言い伝えに、昔郡内の某川に大きな穴が出来て川の水を吸込み、沿岸の農村悉く田の水の欠乏を患いていたとき、井上弾正なる者の娘、志願してその潭(ふち)に飛込み、蛇体となって姿を隠すや、忽ち岸崩れて、その穴を埋め、水は豊かに田に流れるようになった云々。即ち弟橘媛の物語以来久しく行はるる、水の神に美しい生牲を奉ったという話の部類ではあるが、なおこの地ではその娘が片目であったといい、その故にこの川の鯉には今でも一尾だけは必ず一つしか目がないと言うている」
(『定本柳田國男集 第五巻』「一目小僧」)
最終更新:2011年08月05日 18:55