新PCがセットアップ中で、作業なんてまだまだなので、つい。


 ゆらり、と――薄暗い部屋の中に、紅い炎が揺らめき立つ。

 メイコである。床に腰を下ろして、右手には一升瓶。床に、だらりと投げ出された両脚は、確かに美しくはあるのだが。

 果たして、そこは何の部屋なのか。いやまあ、それはどうでも良いことだ。酒を手にした女が一人、それ以上の説明は、大して意味はないだろう。

 いや、もう一人の女がいる。相手と同じ紅い瞳の持ち主で、しかも極めて美しい肢体を持つ灰色の雌豹――勘の良い者なら、この説明ですぐに判る。弱音ハク、その人である。

 かつて、酒を飲んでは弱音を愚痴る、そんなダメ人間の象徴であった彼女。しかし、「DTMが苦手。何をやっても駄目」→「苦手なのはDTM」→「なら、それ以外なら何でも出来るんだな?」と拡大解釈されてしまったあげく、「無限マイナスDTM」というチートスペックと、超絶ナイスバディを手にするに至った、ボカロ派生系キャラのシンデレラガール、それが弱音ハクなのである。これぞ正しく、数多のうp主達に愛されたが故の――ああ、適当すぎる解釈はこれぐらいで。

 兎に角、メイコはそんな彼女と対峙している。いや、別に嫉妬心で火花を散らすような、そんな関係では無い。なにしろ、メイコにとって大切な仲間なのだから。

「出たわね」
 そうメイコが呟き、一升瓶からグビリと一呑み。そんな彼女から、ハクは「は、はい」としどろもどろに答えつつ、廻し呑みをおずおずと受け取る。そんなハクを見がら、メイコは続ける。

「そう、出るのよ。3人目が」
「はあ、あの――3人目って」 
「判らない? まあ、いいわ。ここに来て、挨拶するように言ってあるから」
「え?」
「あのぉ、こんにちは~(汗」

 と、目を泳がせながら入ってきた、恐らく尋ね歩きながらようやく辿り着いたのであろう、一人の女性。

 それはメイコ、そしてハクにも負けない見事なプロポーションと美形の持ち主で、ギリギリまで切れ込んだスリットから覗く美脚も麗しい、デビューしたばかりの新人歌手。巡音ルカ、その人であった。

「す、すみません。メイコさんはこちらに……きゃっ」
「あら、来たわね。いらっしゃい」
「びっくりしたぁ。そ、そんなところに――あ、いえ、その」

 ルカはたじろいだ。なにしろ、明かりも点けず薄暗い部屋の中で、「先輩」が床に直座りしているのだから無理も無い。そんな彼女の様子を見てメイコは、ふっ、と溜息混じりの苦笑いを漏らす。あるいは、皮肉げな笑いであったか。

 そして、メイコは親切に彼女を誘う。
「まあ、すわんなさいよ」
「へ、あ、あの、ここにですか?」

 やはり新人、あまりにも返答が迂闊すぎたようだ。やにわに、メイコが勢いづいた。

「あ? ここに座ってる私が変だというつもり」
「い、いえ、そんなつもりじゃ――(隣にぺたんっ)――あ、あの、お話というのは^^;」
「あなた、女よね。しかも大人の女性よね」
「え、あ、まあその、設定は確かに二十歳ですが」
「そうよ。どっからどう見ても大人の女よ。さあ、呑みなさい」
「え(゚-゚;)? いや、そんな」
「呑むのよ。大人の女性だから大酒飲みと相場が決まってるのよ。さあほら」
「あ^^;あのぉ、日本酒は、その……」
「私達が呑むっつったら、この神宮寺以外に何があるって言うのよ」
「い、いや、あの、ワインとか、ちょっと嗜む程度なら……」
「あ? たしなむぅ?」
「……え、あの、ダメですか」
「そんな甘っちょろい設定で済むと思ってんの? 酒呑みってのわねぇ、それこそ泥酔するまで、こーして、こーして」

「もう止めて!」

 と、ハクが二人の間に割って入る。
「め、メイコ、あなたは酒呑みだけの女じゃ無いわ。だから――」
「うるさい! 大人の女性ってだけで酒呑みにされる! それがこの世界の決まりよ! 掟なのよ!」
「だからって、新人のコにそんなふうに」
「別に新人だからっていびってる訳じゃ無いわ! 変な設定、与えられてからじゃ遅いんだってば! 根性据えてなきゃやってられない世界だってことを叩き込んであげなきゃ」
「あなたにだって素晴らしい設定があるじゃない。咲音メイコっていう――」
「私が欲しいのは過去の栄光じゃないわ! 私は未来が、未来が欲しいのよう!」

「あ、あの、呑みます」
 新人ルカは二人のやり取りに感化されたのだろう。建機に一升瓶をメイコから取り上げ、ぐいっと一呑み……。

 いや、それを誰かが差し止めた。
 ふいに彼女たちの間に滑り込んだ、一陣の蒼い涼風。

「やれやれ、また呑んでるのか」
「う、うるさい! もう、私なんか! 私なんか!」
「誰だってそうだよ。ミクだって、リンやレンだって」

 嘘はつかない。ごまかさない。だからこそ、心に響くものがある。
 例え、真実という名の過酷さに身を苛まれようとも。

「彼を覚えているかい? ほら、一緒に歌ったじゃないか。彼の歌を」
「う、あ、あ……」
「あの、僕らより10倍高いボーカロイド、PC6601……僕らも彼と同じ栄光を手にするんだ。そしてまた、僕達のところにみんなホイホイ集まってくれる」
「う、う……」
「僕達も彼のようになるんだ。いつまでも、その栄光は人々の心に輝き続ける――」

 尚もむせび泣く彼女の肩を、そっと抱き寄せるカイト。ハクは思う。メイコ、何よりもあなたには彼がついているではないか。あなたの豪腕ソプラノをしっかりと受け止るカウンターテナー、カイト。彼とあなたは、いわば同期であり、そして。

 そんな彼女らの姿を見て、新人ルカは拳を握りしめた。
(ありがとう、メイコさん。ありがとう、カイトさん。なんのこっちゃさっぱり判らないけど、お陰で私も覚悟が出来た。これから先、どんな扱いをされようとも、私は頑張る)

 様々な苦難が彼女を襲うだろう。時にはグラットンソードを腰に刺し、あるいは両腕を広げてグルグル回り続けて、巨大マグロを担ぎ上げ……。

(で、でも、この子のことは、もう少し内緒にしておこう)

 そんな彼女の足下には、貰ったばかりのサブキャラ「たこルカ」が、もう帰ろうよ、とばかりに、きゅーきゅーとまとわり続けているのであった。ルカはそんなペットを、さらりとスカートの影に隠す。

(いいのかなあ、こんなの貰っちゃって^^; 先輩方はネギとかロードローラーとか、そんなんばっかりなのに。ああ、可愛いw)

 やはり、新人。行く末など考えもしない、今が一番楽しい盛り、というところか。

(了)


最終更新:2011年08月12日 23:26