発電する魚

登録日:2022/11/14 Mon 20:21:45
更新日:2024/03/06 Wed 22:46:49
所要時間:約 4 分で読めます





【概要】

体に発電器官を持ち獲物を捕らえたり身を守ったりする時に電気を放つ魚たちのこと。
淡水魚が多い。
おおよそ7種類ほどが知られており、電圧や電流は種によって様々で、動物を殺しかねないほどの高電圧を放つものから静電気程度の弱い電気を放つものまでいる。

デンキウナギなど、発電器官が体の大部分を占めているためか体の前部分に心臓などの一般器官が詰まっていることが多い。


《そもそも、なぜ発電を行うのか》

電気というのは言わずもがな取扱い注意の危険なエネルギーであり、気軽に取り扱える代物ではないのは人も魚も同じである。
それなのに、電気魚はなぜリスクを負ってまで電気を取り扱えるように進化したのか。
他の水生生物相手にこうかばつぐんを狙い優位に立つためではない

・障害物と獲物の探知

ほぼすべての電気魚に共通する理由は視界の悪い水中で障害物・獲物を正確に探知するため
発電する魚は自身の身辺に電場を張り巡らせることができる。
その電場の中に他の生き物や物体が介入してくると、周囲のオブジェクトとの電気抵抗の差が発生し、電場が歪む。
すると、発電する魚はそれを「電気受容器(電位差を感じる器官、いわば電気センサー)」で受け取り「あっちにこのくらいの大きさの生き物がいる」という情報を察知することが出来るのである。

これは、一般的な魚が頼っている視力・嗅覚・触覚とは比にならない正確な情報源であり、生存競争において感電のリスクをも上回るアドバンテージとして、現代まで受け継がれてきたものであると考えられている。
余談だが、自ら電気を発することはなくとも電気受容器を操ることができる生き物は、サメやカモノハシなどがいる。
やっぱり水辺において電気は強いのである
ちなみに探知できる範囲についてだが、(電気の性質上、水や地面のコンディションによって変わるものの)理論上は半径50cm~1mくらいは探知できるらしい。

・コミュニケーション

放電と電気受容体を用いてコミュニケーションを行う種がいることが確認されている。
まさに文字通りの電気通信
研究によると、パルスの応答によって同種であるかどうかを確認したり、種によっては相手の雌雄の判断もつけることができるらしい*1
とはいえ、電気通信の内容を魚に直接聞いたり盗聴したりするわけにもいかないのでこの分野は未知も多いという。
もしかしたら、人間の知らない泥の底で「この辺は電波悪くてかなわんわ」なんて会話をしているかもしれない…。

・攻撃手段

上記のように、電気魚はレーダーとして電気を扱うのが主である。
だが、後述する通り、デンキウナギのように電気を獲物や外敵への攻撃手段に転じられるように進化した生き物もいるのだから、全く自然界とは不可思議なものである。


【主な種類】

◇デンキウナギ

学名:Electrophorus electricus
電圧:600~850V

発電する魚でもぶっちぎりの知名度を持つ代表にして最強の電気魚
体長は2.5mほどにもなり、高電圧に加えて電流も1A(アンペア)以上を放てるので心臓が弱い人だと感電死する可能性がある
また電気ショックで水中での自由を奪われ溺死する危険性もある。
現地のアマゾンやオリノコ川でも食物連鎖の頂点に位置する。
諸君は小学校の理科の実験で、並列つなぎよりも、直列つなぎの方が電球が明るくなる=電圧が強いことをご存知だろう。
それと同じで、発電器官一つ一つが放つ電気は弱いものの、直列つなぎのように組み合わさるため高い電圧を放つことができるのだ。
普段は弱い電気を流しながら泳いでおり、視力は弱いものの電気をレーダーのようにして獲物を的確に探すことができ、出会うと高電圧を放ち気絶させて食べる。
体は円筒形で全身が暗褐色。

名前にウナギとあり外見も似ているが、実はウナギとは全く違う生物で1属1種の独立種。
どちらかというとナマズに近い*2
疲れたり高齢な個体は上手く発電できない場合があり、そのため一度水面を叩き放電させれば捕獲はそれほど難しくはない。
実は発電中は自分自身も感電しているが、体内に蓄えた脂肪が絶縁体の役割を果たす為、感電死することはない。
だがエラがあまり発達しておらず、たまに空気を吸いに水面に顔を出さないと魚なのに溺死するという間抜けな一面もある。
水族館では水槽に電力を視覚化する為のメーターが付いている事が多く、発電する様子を見る事ができる。
また、上述のように一般器官が体の前側に詰め込まれているため、う○こも喉の近くから出す。
ちなみに脂肪の影響で、ウナギと違い食べても美味くはない…らしい。
アクアショップでもごく稀に入荷されることがあるが、巨大になる上に危険性も高いため、一般的な設備で飼育することは極めて難しい。


◇デンキナマズ

学名:Malapterurus electricus
電圧:300~450V
体長:60~120cm

デンキウナギに次ぐ発電力を持つ種でアフリカに生息する。
デンキウナギは体の後半部分が発電器官になっているが、デンキナマズは体表を包むように発電器官が発達しており、頭部がマイナス、尾部がプラス極となっている(デンキウナギは逆)。
電気の使い方はだいだいデンキウナギと同じで、こちらも脂肪が絶縁体を果たすため感電死することはない。
日本ではアクアショップで販売されており、家で飼う事も可能。
だが、縄張り意識が強く他の魚を入れると殺してしまうことがあるので単独で飼育する必要がある。
また、暖かい地方に生息しているため冬場は「ヒーター(温度管理)」が必須。


◇シビレエイ

学名:Torpediniformes
電圧:50~80V
体長:30~40cm

円形の体で、発電する魚では唯一日本近海に生息する。
一対の蜂の巣状の発電器官で獲物を麻痺させて捕食する。
発電できることは古代ギリシャから知られており、出産や手術時に麻酔用として利用されていた
よくそんなマンガみたいなことを考えつくなァ…。
体の仕組みが解明されるまでは魔術を使う生物だと信じられていたという。
漫画『テルマエ・ロマエ』で現代にタイムスリップした古代ローマの風呂技師ルシウスが「電気」の存在を理解できていたのも、このシビレエイ麻酔を知っていたからである。
また、ラテン語ではトーピードと呼び、魚雷の名前の由来となった。
アクアショップでも稀に入荷しているが、大型の海水魚用水槽が必要であり、難易度は高い。


◇エレファント・ノーズフィッシュ

学名:Gnathonemus petersii
電圧:1~5V
体長:約20cm

生息地はデンキナマズと同じくアフリカ。
名前の通りの鼻のような突起があるが、鼻ではなく下顎部分が突き出したものである。
これは獲物が水底に生息しているためで、弱い電気を放ちながら濁った水でも獲物を探せる。
実は魚類では最もが大きい種類であり、体との比率でいうと人間を上回る。
現地では食用にされる他、日本でもアクアショップで観賞用の個体が売られているが、性格は臆病で大人しいため危険ではない。


◇ブラック・ゴースト

学名:Apteronotus albifrons
電圧:1~5V
体長:30~50cm

デンキウナギ目に属し、ナイフフィッシュの一種。
生息地はベネズエラやペルーで夜行性。
名前の通り黒い幽霊のような不気味な姿だが、性格は臆病なため危険ではない。
アクアショップでも安価で売られており、やや偏食で餌付け次第では肉食魚用の人工餌も食べるようになるが、飼育難易度は初心者向けの魚よりはやや高い。


◇グラス・ナイフフィッシュ

学名:Eigenmannia virescens
電圧:1〜5V
体長:オス約45cm、メス約20cm

生息地はチリを除く南米。
グリーンナイフフィッシュとも呼ばれる。
体が半透明で骨や内臓が透けて見える。
平たい体をしており、臀鰭を立たせて泳ぎ、群れで行動する。
性格は大人しいため飼育は比較的容易。


◇ジムナーカス

学名:Gymnarchus niloticus
電圧:1~5V
体長:約1.5m

発電する魚ではデンキウナギに次ぐ大きさ。
イルカのような頭部とウナギのような細長い体型が特徴。
視力は弱いためデンキウナギと同じく発電器官をレーダーのようにして獲物を探す。
電圧は弱く、ぶっちゃけ電気よりも何にでも噛み付く獰猛な性格と人間の指を噛みちぎることもある鋭い歯の方が危険。
水槽で飼える魚の中では最強という意見もある。


【関連キャラクター】

デンキウナギのイメージが強いためか、フィクションではほとんどデンキウナギモチーフのものが登場する。続いてシビレエイであろうか。



【余談】

  • デンキクラゲ
魚ではないが、同じ水生生物仲間のクラゲ界隈にも、デンキクラゲと呼ばれるカテゴリが存在する。
最も代表的なのは、カツオノエボシ

ただし、クラゲの場合は感電したかのように強烈な痛みを生じるを持つというだけであり、ここで挙げた魚のように本当に電気を発する種はいない。
それでも、ここから派生してクラゲと電気を結びつける創作はよく見られる。


  • 電気エネルギーへの転用
電気魚を用いた発電システムの発明という研究の分野が存在する。
具体的には、シビレエイから切り取った発電器官(・・)を用いて発電機関(・・)を作り出す研究や、シビレエイを家畜のように育てて発電を行わせる研究なども行われているらしい。
現在(2022年執筆次点)においてはまだ発電所レベルの発電機関にはほど遠い状況であるものの、プロセスの解明や実際に電気を作り出す実験などは成功例がある。


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最終更新:2024年03月06日 22:46

*1 後述するジムナーカス科は雌雄でパルスが異なるという

*2 いずれも骨鰾上目に含まれ、デンキウナギ目とナマズ目は特に近縁とされている。

*3 作中のレポートにて、シビレエイなどの魚に見られる「発電器官」が形成された怪人と説明されている。