1990年第35回有馬記念

登録日:2022/12/23 Fri 15:35:02
更新日:2024/03/06 Wed 06:23:04
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90年 有馬記念



オグリキャップ復活、ラストラン。




神はいる。そう思った。




有馬記念が、くる。



200を切って、オグリキャップ!オグリキャップ!
さあ頑張るぞオグリキャップ!!
オサイチジョージ!ホワイトストーン!そしてメジロライアン!
オグリだ!オグリだ!オグリキャップ!オグリキャップ───
──2011年 JRA CM 有馬記念編



1990年12月23日に中山競馬場で行われた第35回有馬記念は日本の競馬の在り方を大きく変えたと言われる名馬オグリキャップの勝ったレースであり、そこまでの劇的な流れから、今もなお語り継がれる伝説のレースである。


【本番までの動き】

地方の笠松から始まり、現役最強古馬タマモクロスとの死闘、平成三強との熱い闘い、第9回ジャパンカップでの激走といった数々の名勝負を繰り広げてきたオグリキャップであったがその年の安田記念をピークに衰えを隠せず、直前のジャパンカップでは11着ともはや見る影もなかった。
ファンの間では「オグリは終わった」「もうこれ以上オグリが負けるのを見たくない」と声が上がり、しまいにはJRAにオグリキャップの出走を取りやめなければ馬主の自宅および競馬場に爆弾を仕掛けるという脅迫状が届く事態まであった。
それでも、陣営は引退レースとして有馬記念への出走を決定し、ファンもオグリキャップをファン投票1位で送り出した。

【馬柱】



1990年中山5回8日9R 第35回有馬記念 中山芝右2500m
4歳以上オープン 4歳55kg、5歳57kg、6歳以上56kg(牝馬2kg減)


馬名 騎手
1 1 オースミシャダイ 松永昌博
2 ヤエノムテキ 岡部幸雄
2 3 オサイチジョージ 丸山勝秀
4 ランニングフリー 菅原泰夫
3 5 メジロライアン 横山典弘
6 サンドピアリス 岸滋彦
4 7 メジロアルダン 河内洋
8 オグリキャップ 武豊
5 9 キョウエイタップ 柴田善臣
10 ミスターシクレノン 松永幹夫
6 11 リアルバースデー 大崎昭一
12 エイシンサニー 田島良保
7 13 ホワイトストーン 柴田政人
14 ゴーサイン 南井克巳
8 15 カチウマホーク 的場均
16 ラケットボール 坂井千明

平成三強の内スーパークリークイナリワンは既に引退、
この年の牡馬クラシック三冠レースを制したハクタイセイ(皐月賞)、アイネスフウジン(日本ダービー)、メジロマックイーン(菊花賞)がいずれもこのレースに出走しなかったということもあり、

1番人気はクラシックで好走し前走ジャパンカップでも日本馬最高の4着だったホワイトストーン。
2番人気は前走天皇賞(秋)で2着と好走したオグリの同期メジロアルダン。
3番人気はこれまたクラシックを好走した4歳馬メジロライアン
そして4番人気はオグリキャップであり、この年の宝塚記念馬オサイチジョージ、88年皐月賞とこの年の天皇賞(秋)を制したヤエノムテキらがこれに続くという形のオッズとなった。
フジテレビ実況の大川和彦はオグリ贔屓で、解説の大川慶次郎はオグリは既にピークは過ぎていると見做し、メジロライアンを本命に推していた。
なお他にも、日本競馬史上に残る大波乱を引き起こした1989年エリザベス女王杯馬サンドピアリス、この年のオークス馬エイシンサニーとエリザベス女王杯馬キョウエイタップ*1、重賞三勝の老兵ランニングフリー等が参戦している。


競走前にヤエノムテキが大観衆に驚いて鞍上の岡部幸雄を振り落として放馬してしまうハプニングがあったが、スタートは切られた。

逃げると思われていたミスターシクレノンが出遅れ、オサイチジョージが押し出される形で先頭となる。
それによってレースはかなりのスローペースとなり、177776人の異常なまでの大歓声と合わさって折り合いを欠く馬も出た。

しかしオグリキャップは中団5,6番手で落ち着き見事に折り合いをつけた。

経験豊富なオグリにとって歓声は日常であり、場数も多く踏んでいたという事情は有るだろう、さらにこのスローペースはオグリが最も得意なマイル戦を思わせ、手綱を握る天才武豊、大川慶次郎氏が本命から外す等、勝利の舞台が整いはじめていた。


さぁ…澄み切った師走の空気を切り裂いて最後の力比べが始まります さぁオグリ、オグリが上がって行った
そしてその内側にスーッとリアルバースデー、リアルバースデー さぁオグリが行った! 武豊が行った!


そして第4コーナーに差し掛かりオグリキャップは外目から先頭集団に並びかける。
鞍上の武豊はこの時点で勝利を確信していたという。

そして最終直線、オグリがオサイチジョージを交わして先頭へ上がると内からホワイトストーン、外からメジロライアンが追い上げに掛かる。


第4コーナーを回って直線、大歓声です! さぁオグリキャップ先頭に立つか、先頭に立つか、オグリキャップ先頭に立つか
さぁ内で頑張った、オサイチ頑張った オグリキャップ、オグリキャップ先頭か、オグリキャップ先頭か!
200を切った! オグリキャップ先頭!
「りゃいあん!りゃいあん!」
オグリキャップ先頭! オグリキャップ先頭!


しかし最後の力を振り絞ったオグリキャップが真っ先にゴール板に飛び込み決着となった。


オグリ1着! オグリ1着! オグリ1着! オグリ1着!!
右手を上げた武豊! オグリ1着! オグリ1着!
見事に引退レース、引退の花道を飾りました! スーパーホースです! オグリキャップです!!


武豊は実際にはこの時左手を上げていたのだが、実況の大川氏は完全に涙ぐんだ絶叫混じりの実況であり、どれだけ興奮していたのかがわかる。

ゴール直後から中山競馬場はお祭り騒ぎとなり、約17万人の大観衆からオグリコールが巻き起こった。
日本競馬が始まって以来、騎手へのコールこそ有ったが、勝ち馬へのコールは初めての事だった。

1着 オグリキャップ
2着 メジロライアン
3着 ホワイトストーン
4着 オサイチジョージ
5着 オースミシャダイ
6着 ランニングフリー
7着 ヤエノムテキ
8着 ミスターシクレノン
9着 ゴーサイン
10着 メジロアルダン
11着 リアルバースデー
11着(同着) カチウマホーク
13着 キョウエイタップ
14着 エイシンサニー
15着 サンドピアリス
16着 ラケットボール

勝ち時計 2:34.2
上がり4F 47.2
上がり3F 35.4

払い戻し

単勝 8 550円 4番人気
複勝 8 250円 4番人気
5 160円 2番人気
13 140円 1番人気
枠連 3-4 720円 3番人気

凄まじい反響があり社会現象まで巻き起こし、日本競馬史上に残る伝説の名"場面"であるこのレースだが、レース内容に目を向けるとお世辞にもいい物とは言えない。
この年のクラシック勝ち馬がいないなどメンバーもだいぶ手薄だったほか、前半がきわめてスローペースの展開になったために、勝ち時計は同日同場同距離で行われた条件戦のグッドラックハンデ(勝ち時計2:33.6)よりも遅かったのである。
ライアンコールをターフに響かせた評論家の大川慶次郎からは「お粗末な内容」と評されてしまっている。
しかし、このスローペースによってオグリキャップが最も得意とするマイル戦のような競馬になったことが勝因であるとも述べており、オグリキャップの積み重ねられた経験が呼び込んだ勝利といえるだろう。

【余談】

  • 武豊は先んじて父・武邦彦が管理するオースミシャダイの騎乗依頼を受けていたのだが、オグリキャップの騎乗依頼が来たことを父に報告すると「オグリに乗れ」と促されたという。
  • 調教助手辻本光雄は、オグリキャップが不振を極める中で同馬が負ける夢をよく見ていたが、レースの数日前に勝つ夢を見た。
  • レース当日の昼休みにイナリワンの引退式が執り行われていたが、オグリキャップの厩務員の池江敏郎は当日の朝にイナリワンの厩務員の五関保利に「天皇賞6着、ジャパンカップ11着というのは去年のうちの馬とそっくり同じだから、きっとオグリキャップも今日の有馬記念は1着になりますよ」と声をかけられており、その通りの結果になった。
  • この時の単勝馬券を換金せず持って帰ったファンは多く、当時単勝・複勝馬券に馬名の記載はなかったが、この事象を受けJRAは翌1991年の馬番連勝導入によるシステム変更を機に単勝・複勝馬券に馬名を記載することを始めた。また、馬券のコピーサービスも行うようになった。
  • このレースの馬券売り上げ480億3126万2100円は当時の新記録である。現代からするとそこまでには見えないかもしれないが、このレースは馬連導入前有人窓口発売のみという時代背景からするととんでもない売り上げだった。91年以降の有馬記念は軒並み89年以前とは隔絶した売り上げを出している中では突出しているといえる。

最後に武豊による証言をもってこの記事の締めくくりとしよう。
「もう、毎年、あの有馬記念の話を聞かれますね。
そのとき生まれていなかった人からもよく聞かれます。
初めてお会いした人からも、あのレースの、その人なりの思いとかストーリーをよく聞きますし」

「みんなオグリキャップが好きですからね」

──Number 917・918号

追記・修正はオグリコールを叫びながらお願いします。


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最終更新:2024年03月06日 06:23

*1 余談だが、この有馬記念に参戦しなかった90年時桜花賞馬こそ、後にアグネスフライト・アグネスタキオン兄弟の母となるアグネスフローラである。