未成ゆん 62KB
自業自得 家族崩壊 『町れいむ一家の四季』シリーズ
『未成ゆん』
D.O
季節は夏。
夏も終わりに差し掛かったとはいえ、まだ人間も当分は猛暑に苦しめられる時期だ。
だが、この頃まで生き延びた野良ゆっくり達ともなると、
水の確保や涼しいおうちへの引越しも終わっているので、意外と快適に過ごしていたりする。
水不足による野良の大量死を目にすることも無くなり、
むしろ適度な間引きが済むことによって、町が過ごし易くなったと思うゆっくりも多い。
ここは町中の、とあるビルとビルの間のわずかな隙間、
薄暗く、人間は近づくことも無ければ、視線も向けない狭い空間。
よく見ればそこには、明らかに目的を持って並べられた、いくつかの木箱があることがわかる。
ブルーシートをかぶせて雨を防ぎ、風もビルがさえぎってくれるココは、
事故でも無ければ夏を充分に生き延びるであろう、賢いゆっくりの住処であることは容易に想像がつく。
その気になれば数家族は住むことが出来るであろう、拡張と改良を重ねられたそのおうちには、
たった一家族、とあるゆっくりまりさの親子が住んでいた。
一家の構成は、父まりさと子まりさ。
子まりさとは言え、サイズはもうサッカーボールより少し小さいくらいで、
野生のゆっくりであれば、親元からいつ独立してもおかしくない、成体一歩手前の青年ゆっくりである。
そのおうちの中では、今日も父まりさの怒号が響いていた。
「おちびちゃん。どっちのキノコさんが、毒があって食べられないのぜ。」
「ゆぅ~ん、こっちだね!」
「・・・違うのぜ。こっちなのぜ!もう4回目なのぜ!!いつになったら覚えるのぜ!!!」
「ゆぁーん。『よんかい』ってわからないよぉ。」
「ゆぅ、3回の次なのぜ!」
「ゆぇぇ。『さんかい』って、はじめてきいたよぉ?」
「ゆ・・・2回の次なのぜ。」
「ゆぅん?『にかい』って、なに?」
「ゆ、ゆぅぅぅ・・・。1回の次なのぜ・・・」
「ゆっくりりかいしたよ!『にかい』は、『たくさん』だね!」
「ゆぅぅうううう!!違うのぜぇええ!!!」
「ゆぁーん!ゆっくりおこらないでぇ!!」
この一家の住むおうちの造り、大きさ、内装から家具類に至るまで、
野良ゆっくりの平均水準を大きく越えたものであり、
少なくとも父まりさが、相当に優れた能力を持った野良であることはわかる。
その親から生まれた子なら当然、そこそこ優秀で手がかからないのが普通だ。
だが、先ほどのやり取りからもわかるように、父まりさは子まりさの教育に手を焼いていた。
・・・それには、理由がある。
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父まりさは赤ゆっくりの頃、店から購入されて数日で捨てられた、
元飼い、というにはあまりにも不幸な捨てゆっくりであった。
だが、その長くも無いゆん生の中でも、いくつかのすばらしい出会いによって、
何とか生き延びてきた過去がある。
例えばそれは、
捨てられて間もなく出会い、父まりさをわが子のように育ててくれた老ぱちゅりーであり、
老ぱちゅりーと生き別れてから共に生活した、ゆっくりした群れのみんなであり、
今育てている子まりさと一緒にゴミ捨て場にいた、虐待済みのれいむであったり。
老ぱちゅりーは、父まりさは知らないことだが、ゆっくりにとっては厳しい環境である町中で、
実に十年近くも生き続けた、極めて優秀なゆっくりであった。
次に出会った群れのみんなは、ゲスもレイパーもいない、
人間の農地の近くに住みながらトラブル一つ起こさずに生きてきた、これまた優秀なゆっくり達であった。
その後町に来てから出会った、ゴミ捨て場の虐待済みれいむは、容姿こそゆっくり出来ないことになってはいたが、
母性も強く、思いやりもあり、機転も利く、町野良の中ではかなり上等な部類のゆっくりであった。
それに、父まりさ自体が、町に住むゆっくりの中でも上位に入る優秀なゆっくりであった。
父まりさから見たゆっくりとは、一部のゲスを除けば、
温和でゆっくりしていて、むやみにわがままを言ったり、怠けたりしない存在だった。
一を聞けば十を知る、とは言わないまでも、教えられたことくらいは理解でき、ちゃんと憶えられる生き物だった。
世間一般から見たゆっくりと比べ、父まりさの中にある平均的なゆっくり像は、あまりに優秀すぎたのだ。
「どうして何回言っても憶えないのぜ!!もっと真面目に話を聞くのぜ!!」
そして、もう一つ重大な理由があった。
「おどうざぁぁああん!ゆっぐぢざぜでぇぇぇ!ゆっぐぢぃ、ゆっぐぢぃ、ゆっぐぢじだいぃぃいいい!!」
そろそろ成体として落ち着きが出ていい年頃にもかかわらず、
赤ゆっくりのようにゴロゴロと地面に転がり駄々をこねる子まりさ。
「ゆっぐ・・・ゆぅ・・・ゆ、まりさ、ないたらおなかがすいたよ!ごはんにしようね!」
「ゆぎぎぎぎぎ・・・まだお話は終わってないのぜぇ!!」
「ゆぴぃぃいいい!!」
子まりさの出来が悪すぎたのだ。
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この子まりさ、実は父まりさとは餡子のつながりが無い、養子ゆっくりであった。
子まりさが生まれたのは、ゆっくり工場。
子まりさはそこで生産される商品の一つ、『ゆっくりプラネタリウム用・星まりさ(小)』として産まれた。
ゆっくりプラネタリウムとは、トゲのついた発光体を、数千匹の赤ゆっくりの体内に埋め込んで、
天体をかたどって天井に固定し、室内を暗くしてプラネタリウムのように鑑賞して楽しむという、金持ちの道楽施設である。
体内をトゲに痛めつけられた赤ゆっくりの叫び声と、その美しさから、一度はやってみたいというマニアは多い。
それ用の赤ゆっくりに求められるのは、お腹・声の美しさと活きの良さ、より長い間苦しみ続けるための持久力のみ。
頭が良いとか、行儀が良いとか、足が速いなどという能力はむしろ徹底的にそぎ落とされている。
例えば、平均的な野良ゆっくりなら、3まで数えられるかどうか程度の知能はあるが、
この改良ゆっくり達は、1つか複数か、という判別しか出来ない。
普通のゆっくりならば、餡子の継承という形で先祖から受け継いだ知識が多少はあるものだが、
改良ゆっくり達は数百世代を工場内で過ごしているため、基本的な言語と本能以外何も知らないで生まれる。
ゲス性はほとんど無い、というかゲス行為自体が思いつかないので、
わがままを言ったり駄々をこねる事はあるが、他のゆっくりと接しなければ極めて無害なのが取り柄だ。
つまり子まりさは、通常ならば飼いゆっくりや野良ゆっくりになることはまずありえない商品として産まれたのである。
現在野良とはいえ、普通のゆっくりらしい生活が出来ていることが奇跡なのだ。
結局駄々をこねる子まりさに負け、夕ご飯を食べた親子であったが、
食後にお勉強を再開する、という約束もどこえやら、子まりさは腹が膨れるとそのままごろりと横になって眠ってしまった。
「ゆぴー、ゆぴー。もうたべられにゃい・・・」
「ゆぅぅぅ・・・、このままじゃ、おちびちゃんがゆっくり出来なくなるのぜ。」
父まりさは、餡子の繋がりが無いとは言え、子まりさに深い愛情を持っていた。
しかし、だからこそあせってもいた。
今の子まりさは危なっかしくて外にもろくに連れて行けず(実際は親子同行して実地勉強する町ゆっくりの方が多いのだが)、
とても独り立ちさせられるような状態ではない(あくまで父まりさ基準、長生きはできないだろうが)。
だが、父まりさは野良の世界の厳しさを知っている。
父まりさは明日、自分が永遠にゆっくりしてしまったとしても、子まりさだけにはゆっくりと生きてもらいたかったのだ。
たとえ、厳しく育てる中で、自分が恨まれたとしても。
その気持ちが子まりさに伝わることはなかったが・・・。
「ゆぅぅ~。おとーさん、きのうもゆっくりさせてくれなかったよぉ~。」
翌日の明け方、父まりさは子まりさにお留守番させ、いつも通り狩りに出ている。
お留守番中は、父まりさの言いつけでおうちを隠すためのバリケード作りを復習するよう言われているが、
その必要性などさっぱり理解していない子まりさは、大抵はおうちでダラダラと過ごしていた。
だが、この日はめったにおうちから外に出してもらえない不満もあり、おうちのあるビルの隙間から出て、
近所の散歩に出かけていた。
もそっ・・・もそもそっ!
その時たまたま通りがかったゴミ捨て場で、生ゴミを漁るれいむと、その子供であろう数匹の赤れいむを見かけた。
仲良さそうなその姿は、かつての自分と父まりさの姿を思い出させ、子まりさを苛立たせた。
「ゆ、やったよ、おちびちゃん!ふくろさんがあいたよ!」
「ゆわーい。おきゃーしゃん、しゅごーい!」
もそもそもそ・・・
「ゆぅー!やったよ!おべんとうさんがあったよ!まかろにさんも、たまごやきさんもあるよ!」
「おきゃーしゃん!ゆっくちできるにぇ!」
「おきゃーしゃん、こっちにぱすたしゃんがありゅよ!」
「ゆっくち、ゆっくち!」
「ゆぅ?なにしてるの?」
立派な体に成長していながら、子まりさは知らなかった。
一般的な野良ゆっくりがどうやって食事を手に入れているか。
それは、元々山育ちの父まりさが、他のゆっくりがあまり食べない、植栽の影などに生える野草の類を主食にしていたこともあるが、
それ以上に、人間の食事の味によって、子まりさが贅沢を覚えてしまわないように、との配慮でもあった。
「ゆゆっ!?あげないよ!これはれいむたちがみつけたごはんなんだよ!」
「ゆぅぅ?それがごはんなの?」
「とってもゆっくりしたごはんなんだよ!だからぜったいあげないからね!」
野良れいむ一家はそういうと、せっかく得た食べ物を横取りされないように警戒しながら、
足早にゴミ捨て場を去っていった。
「・・・ゆぅ。」
見れば子まりさの目の前には、れいむ一家が持ち切れずに置いていった、サラダやパスタの欠片が落ちている。
「ゆっくりしたごはん・・・『ぺろり。』むーしゃむーしゃ・・・!?」
それは・・・子まりさが今まで経験したことのない美味であった。
「ゆ?ゆゆ!?『ぺろり。むしゃむしゃ。ぺろり!』ゆぅぅぅぅううう!?」
それは、父まりさがかつて一度も子まりさに食べさせてくれたことのない、刺激的な味であった。
「おとーさん・・・どうして・・・?」
子まりさの中で、その結論が出るまでには、そう長い時間はかからなかった。
「ゆっくり帰ったのぜ!おちびちゃん、お留守番はちゃんと出来たのぜ?」
「・・・おとーさん・・・おしえてね。」
おうちの奥で父まりさを出迎えた子まりさの前には、先ほどゴミ捨て場に捨ててあった賞味期限切れの弁当があった。
「ゆ・・・おちびちゃん!勝手にひとりで外に出たのぜ!?」
「そんなのどうだっていいよ!おとーさんは、まりさのしつもんにこたえてね!!」
「ゆっ!?何なのぜ?」
「まりさは、これまでこんなにゆっくりしたごはん、たべたことないよ!!」
「ゆぅ、それは・・・」
「まりさにはにがいくささんばっかりたべさせて、おとーさんはおそとでゆっくり、むーしゃむーしゃしてたんだね!」
「ゆぅぅ!?それはちが・・・」
「まりさをいっつもゆっくりさせてくれないのも・・・おとーさんは、まりさがかわいくないんだね!」
「そ、それはちがうのぜ。ゆっくりおはなしきくのぜ。」
「ゆぎぎぎぃぃいいい!まりさが、ほんとうのおちびちゃんじゃないからって、ひどいよぉ。ゆぅぅううう!!!」
「ま、待つのぜ!おちびちゃん、それは違うのぜ!!おち・・・」
あまりの事に、普段ならば子まりさより力でも、足の速さでも遥かに上にも関わらず、
父まりさは子まりさがおうちを飛び出して行くのを止めることが出来なかった。
結局、子も親も、餡子の繋がり無しに美しい絆を作るには、余りにも未熟で経験不足であったのだろう。
こうして、この親子は幸福になる道を完全に失うことになったのであった。
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それから一週間後。
同じ町内の路地裏に、とあるゲスゆっくり2~30匹の集団がいた。
体格だけなら成体ゆっくりと言ってよいが、まだ独り立ちしたかどうかと、かなり若いゆっくりで構成されている。
最近町内で増えている、ゆっくり愚連隊、通称『ゆ連隊』と呼ばれている若ゲスの小規模チームの一つである。
「わかるよー!うちの『しま』から、おばかなれいむいっかが、ごはんをもっていこうとしてたよー!」
「ゆげへぇ!そのれいむたちは、ちゃんと捕まえたのぜぇ?」
「もちろんだよー!こいつらだよー!」
その集団の中央にいるのは、周囲のゲスゆっくりより一回り以上大きな体のゲス、リーダーまりさである。
リーダーまりさの前に、先日子まりさと出会ったれいむ一家が運ばれてきた。
『しま』と言うのは要するにナワバリのことだが、れいむ一家があさっていたゴミ捨て場の事だ。
「やめちぇー。ゆっくちさせちぇー!」
「やめてね!かりばはみんなのものなんだよ!れいむは、ゆっくりごはんをさがしてただけだよ!」
「なーにいってるのぜ?あそこはまりさのチームの狩り場なのぜ。」
「どうじでそんなこというのぉぉぉおお!?」
「ゆっへっへぇ。今日はどんなせいっさいがいいのぜぇ?」
「せいっさいは、まりさにもやらせてね。」
「ゆへへぇ。いいのぜ。じゃあ、今日は新入りのまりさにやらせてやるのぜぇ。」
この若いゲスゆっくりの集団の中に、あの子まりさの姿もあった。
プラネタリウム用として造られ、有能な親に育てられた子まりさは、
他の野良より遥かに美しい容姿を手に入れていたために、好色なリーダーまりさに見染められたのである。
「きょうは、さっかーをするよ!ちぇんもいっしょにやってね!」
「りょうかいだよー。」
「ゆぴぃぃいいい!やめちぇぇぇ『ぼゆんっ』ゆぴぃっ!いぢゃいぃぃいいい!!」
子まりさとゲスちぇんは、赤れいむを使ってサッカー(のパス交換)を始める。
赤ゆっくりに対しては、しばしば行われているせいっさい方法だ。
「ゆっゆっゆー『ぼゆんっ!いぢゃいー。』、おちびのれいむは、ぼーるさんにちょうどいいね!」
「わかるよー。『ぼゆゆんっ!ゆびぇっ・・・』ながくたのしませてねー。」
「やべでぇぇええ!おぢびぢゃんにひどいことじないでぇぇぇえええ!!」
ぼゆんっ!「ぴゅぅ・・・・・・。」
「ゆぅん。もうえいえんにゆっくりしちゃったよ。」
「ゆぁぁあああ!れいむのゆっぐぢぢだおぢびぢゃんがぁぁあああ!!」
「じゃあ、つぎのちびをせいっさいだねー。」
「ゆぴゃぁぁぁああ!!いやぢゃぁぁああ!おきゃーしゃぁぁぁん!!」
「ゆっくりたのしませてね!」
・・・・・・。
「おぢびぢゃん・・・どうぢでぇぇ。」
「ゆへぇ。ウチの『シマ』を荒らすゴミチビには当然の制裁なのぜぇ。それよりクソれいむ。」
「ゆぅぅぅ・・・ゆぅ?」
「おちびちゃんがいなくなったのが悲しいなら、また作ればいいのぜぇ。」
「ゆ・・・ゆ、やめてね・・・ゆっくりさせて・・・。」
「みんなでたっぷり可愛がってやるのぜぇ!不細工だけど、まむまむの締まりは良さそうなのぜぇ!!」
「ゆぁぁぁぁああああ!!やべでぇぇぇぇええええ!!!」
「わかるよー!みんなでりんっかんしてやるんだねー!」
「ちがうよ!とかいはのあい、とかいうのをくれてやるんだよ!ゆひゃっはー!!」
「ゆぁぁあぁぁあああああ・・・・・・」
町のゆっくり社会はココ10年ほど、厳しい環境ながらもそれなりに安定していた。
苦しい生活とはいえ、みんなが平等に苦しいのだから、せめて仲良くはしようということが大本の考え方だったようだが。
たとえば、ゴミ捨て場や広場などの狩り場、おうちにしやすいゆっくりプレイスなどは、
『早いもの勝ち』と言う原則こそあれ、殺しあったり独占したりして奪い合う類のものではなかった。
『ゆっくり殺し』や『独り占め』などはゆっくり社会においても犯罪扱いとして相応の罰を与えられたし、
目に余るゲスやレイパーは、片っ端から捕えられ処刑されていたので、街中では意外と治安も良かったのである。
町ゆっくり達の中では、苦しい生活なりに一定の秩序が存在していたのであった。
だが・・・この年の夏、ある日を境として虹浦町内のゆっくり社会では、秩序が崩壊してしまっていた。
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近年この町のゆっくりの秩序を守っていたのは、2つの大きな力だ。
それは『みょん警』と『ゲスファミリー』。
『みょん警』すなわち、みょん自警団は、町内ゆっくりの代表達の提案によって組織された警察組織だ。
訓練されたみょん達によって構成され、主にゲスやレイパーの取り締まりと排除を目的としているが、
ゆっくり間のイザコザの仲介もやっているなど仕事は幅広く、表社会の秩序を守る存在であった。
ただ、みょん種が一般的に融通が利かない性格なのと、彼女達は彼女達で生活があることから、
どうしても活動には限界があった。
そしてもう一方が『ゲスファミリー』。
野生・野良問わず、ゆっくりには一定確率でゲス、
すなわち自分のゆっくりのためには他ゆっくりを平気で生贄にするようなはみ出し者が存在する。
どの町でもはみ出し者ははみ出し者で集まり、ヤクザまがいの集団を作って善良なゆっくりを食い物にしているのだが、
虹浦町を根城にする『ゲスファミリー』は、そんな中でもかなり特異な存在であった。
総数50匹にも満たない小規模な集団ながら強力な結束と企画力で、
白い粉(小麦粉)・甘い粉(上白糖)等の麻薬密売、
売ゆん(売春)に賭博(1~3の目だけのサイコロを使ったチンチロ)の元締め等、裏稼業を牛耳る町の闇の存在。
それだけなら困り者なのだが、利益独占のためとはいえ、結果的に町内の潜在ゲスの無法や町外ゲスの侵略を、
圧倒的な暴力を用いた方法で排除してくれていたため、善良な町ゆっくりの間では、意外と頼りにされていたりした。
だが、夏のある日以降、その2つの力が全く働かなくなったのだ。
きっかけは、ある日ゲスファミリーの長であったゲスまりさが、突然行方をくらましたことであった。
野良のゆっくりが突然姿を消すことなど、別に珍しい事ではないのだが、
ゲスファミリーは、長を『おとうさん』と呼び、残り全員が姉妹の誓いを交わす、特殊な組織であった。
その長が突然姿を消したことで、ファミリーは長まりさ捜索に全力を投入することになる。
結果としては、裏稼業を行うどころか、縄張りににらみを利かせることすら出来なくなってしまった。
さて、そうなると困ったのはみょん警だ。
町の周囲からはここぞとばかりにゲス達やレイパーが押し寄せる。
自分達の町を守るために、みょん警は町の境界に常時貼りついていなければならなくなってしまった。
すると今度は、町内でゲスやレイパーがどんどん増えていく。
これまでにらみを利かせていたみょん警はいなくなり、
裏稼業を牛耳っていたゲスファミリーは休業状態。
若いチンピラゲス達は、ここぞとばかりに市場に参入していった。
なんだかんだ言っても、裏稼業は需要があって成り立っていたのである。
しかもその旨味は、無視しておくには大きすぎた。
これまでの供給者が居なくなったと言うことは、新規参入のチャンスでもあったのだ。
そして新規参入者の多くは、地道で安定した生活を続けてきた成体ではなく、
親元から独り立ちするかどうか、と言った若いゆっくり達であった。
つまり町の裏社会は、『ゆ連隊』によって動かされるようになったのである。
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ゆ連隊の裏稼業の過激さは、若さからくる無知と無鉄砲によって、
かつてゲスファミリーが健在だった頃とは比較にならないほど危険なものであった。
歩道橋の階段下を改造したゆ連隊の溜まり場に、あんよをボロボロに傷つけられた数匹の成体ゆっくりが置かれていた。
全員にんっしん済みであり、頭上には5~6匹の実ゆっくりがぶら下がっている。
「ゆへへぇ!!さっさとチビを産みやがるのぜぇ!!」
「ゆぅぅぅ、だめだよぉ。おちびちゃぁん、ゆっぐぢぢでぇぇ。『ぷちっ、ぽとり。』」
「ゆっくちちちぇっちぇにぇ!!」
「ゆっくりしていくのぜぇ。この袋の中に入ったらもっとゆっくり出来るのぜぇ。」
「ゆっくちりきゃいしちゃよ!」
何もわからないうちにコンビニ袋の中に放り込まれていく赤ゆっくり達。
「おぢびぢゃぁん、だめぇぇ・・・。」
「うるせぇのぜぇ。さっさとすっきりーして次のチビを産むのぜぇ!」
「むほぉぉぉおおお!!おちびちゃんがうまれてすぐのれいむも、とってもせくしーねぇ!」
「ゆぅぅ・・・ずっぎり・・・」
新入りの子まりさには、雑草中心とはいえ、わざわざ食事まで与えて赤ゆっくりを量産させる意図がわからなかった。
しかも数日間とはいえご飯を与えて、自分達で跳ねまわれる程度には育ててまでいる。
「りーだー?このちびたちはどうするの?」
「ゆっへっへぇ。クソとレイパーのチビでも、使い道は山ほどあるのぜぇ。」
「りーだーはかしこいんだよー。しんいりも、すぐにわかるよー。」
ゆ連隊メンバーが、コンビニ袋に山盛りの赤ゆっくりを持って行ったのは、とある飲食店。
「ゆぅ~。ここはにんげんさんの、ごはんさんのあるところだね!」
「そうなのぜぇ。それに、それ以外もあるのぜ。」
「ゆぅ?」
「ゆぉい!チビ達、まりさのお話を聞くのぜぇ!」
「ゆぅ~?にゃんにゃの?れいみゅたち、ゆっくちおなかしゅいたよ!」
「ちょうどいいのぜぇ。この人間さんのおうちには、たくさんあまあまがあるのぜぇ。」
「ゆ!あまあましゃん!?」
「そうなのぜぇ。今からまりさがこのおうちに入れるようにするから、
みんなでおうちの中の人間さんに、あまあまをおねだりするといいのぜぇ!!」
「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!」×30
「人間さんは追いかけっこが大好きだから、おうちに入ったらたくさん追いかけっこしてあげるのぜぇ。きっと大喜びなのぜぇ。」
「ゆっくちがんばりゅよ!!」×30
「りーだー?だいじょうぶなの?」
「まあ、見とくのぜぇ。ちぇん達は、いつもどおりで行くんだぜぇ!」
「わかるよー。じゅんびおっけーだよー。」
すると、リーダーまりさは、飲食店入り口の自動ドアのタッチスイッチをポンっと押し、ドアを開けた。
先ほどの打ち合わせ通り、赤ゆっくり達はドアから店内になだれ込む。
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!!」×30
「うおっ!?何だ何だおい?」
「ゆっくちおいかけっこしゅるよ!!」×30
「ちょ・・・うわっ!店ん中うろちょろすんな!おい!店長ー!大変っすよ!野良のチビが!」
「うえぇっ!またかよおい!ゆん明、ぜって―逃がすんじゃねえぞぉ!」
飲食店の店内に野良ゆっくりがうろちょろしているというのは、イメージ的にも衛生的にもマズイ。
テーブルの下やら客の足元やらを駆け回る赤ゆっくり達によって、店内はパニックになってしまった。
「いまだよー!」
その時、ゲスちぇん達が店の裏側、厨房の方から店内に侵入し、我が家のようにスムーズに棚にたどり着くと、
そこから小麦粉・砂糖・調味料、さらにゆっくりでも開けられそうな包装の食材を手際良く探り当てる。
あっという間に目的を済ませると、店内のパニックがおさまらない間にさっさと脱出してしまった。
「ああー!まったくヒデエ目にあったぜ。最近ホンット多いな。全部捕まえたかぁ?」
「多分大丈夫ですよ。」
「ゆっくちがんばっちゃから、おなかぺーこぺーこだよ!ゆっくちあまあまちょーらいにぇ!!」
「・・・おい、ゆん明。」
「はい。」
「熱湯ぶっかけとけ。」
「了解ー。」
「すごいね!にんげんさんから、こんなにとってこれるなんて!」
「たいりょうなんだねー。りーだーのさくせんは、かんっぺきなんだねー。」
「ゆっへっへぇぇ。それほどでもあるのぜぇ。」
麻薬売買には、仕入れルートが重要だ。
とはいえ無論、ゲスファミリーでもこんな無茶な盗みを行ったりはしなかった。
赤ゆっくりの命やら、危険云々ではなく、人間を本格的に敵に回しかねないからだ。
このような無謀な手段を今後も続けていけば、遠からず町ゆっくり全員を不幸にしかねないのだが、
若いゲス達は、残念ながらそこまで計算できていない。
「ゆっへっへ。次はお得意さん回りなのぜぇ。新入りにもやってもらうから、よーく憶えるのぜぇ。」
「ゆぅーん。ゆっくりりかいしたよ!」
その時、収穫の多さにゆっくりしていた子まりさ達の後方、
先ほどの飲食店から赤ゆっくり達の絞り出すような悲鳴が聞こえたが、子まりさを含めその声を気にするものは誰もいなかった。
「ここなのぜぇ。」
「ゆゆっ?ここって、にんげんさんのおうちだよ?」
「お得意さんは、ここのありすなのぜぇ。」
「ゆぅ?」
リーダーまりさと子まりさが家の生け垣に近づくと、
体には汚れのシミ一つない、しっかりとブラシを入れられサラサラの金髪を持った、
美しい飼いありすが顔を見せてきた。
飼いゆっくり登録のみで特に試験等は受けていない銅バッジゆっくりであるが、
少なくとも大切にされている事は間違いない。
「まりさね。」
「ありす、お待たせなのぜぇ。」
「頼んでたものは、持ってきてくれた?」
「もちろんなのぜぇ。あまあまはあるのぜぇ?」
「ええ。・・・早くちょうだい。」
リーダーまりさは、先ほどの窃盗で使わなかった赤れいむを3匹と、白い粉の入った小さな袋をありすに渡し、
代わりにチョコ数個とビスケットを受け取った。
「じゃあ、失礼するのぜぇ。たっぷり楽しむのぜぇ。」
「ええ。また今度、お願いするわ。」
「あのありすが、『おとくいさん』なんだね。」
「そうなのぜぇ。」
「きれいだったし、あまあまもたっくさんもってたね。」
「・・・でも、白い粉さんも、チビも手に入らないのぜぇ。お互い欲しいものがあるから、商売になるのぜぇ。」
「しろいこなさんはわかるけど、おちびちゃんは、どうするの?そだてるの?」
「まあ、それは無いのぜぇ。ありすに売ったチビは、これで30匹以上なのぜぇ。」
「『さんじゅう』ってたくさん?」
「すごくたくさんなのぜぇ。人間さんでもそんなに育てられないのぜぇ。ま、どうでもいいのぜぇ。」
「そうだね!あまあまがたくさんもらえるんだから、どうでもいいよね!」
「そういうことなのぜぇ!!」
一方先ほどのありすの家のお部屋の中。
当然飼い主は今、家にいない。
「ありしゅおにぇーしゃん、れいみゅ、おなかしゅいちゃよ。」
「れいみゅも、むーちゃむーちゃしちゃいよ。」
「しゅーやしゅーや。ゆっくちー。」
勝手なことを言っている赤れいむ達だが、ありすは完全に無視して反対側を向き、赤れいむと一緒に購入した小麦粉を吸引している。
「ゆーはー。ゆーはー。ゆふ、ゆふふふ・・・」
「ありしゅおにぇーしゃん!きーちぇるにょ?」
ぬらり、と振り向く飼いありす。
だが、その表情に、先ほど子まりさ達と話していた時見せていた理性は、欠片も残っていなかった。
目は大きく見開かれ血走り、口はニタリとだらしなく歪みよだれをたらし、全身から妙な粘液が滴っている。
そのあごの下辺りからは、はちきれんばかりにそそり立ったぺにぺに。
飼いありすは、レイパーだった。
「むほぉぉぉおおおおお!!!おちびちゃんたちのわかいまむまむ、とってもみりょくてきだわぁぁああああ!!」
「ゆぴゃぁぁぁあああ!!れいぱーはゆっくちできにゃいぃぃぃいいい!!!」
逃げようと、飼いありすの反対側に振り向き、ぽゆんぽゆんと跳ねる3匹の赤れいむ。
しかし飼いありすは一跳ねで追いつき、3匹の上にのしかかった。
「むほぉぉぉぉおおおお!!!おちびちゃんたちのすべすべおはだ、とってもとかいはだわぁぁああああ!!!」
「ゆぴぃぃいい!くるちいよぉぉ!」
「いぢゃいぃいぃ!きぼぢわりゅいよぉぉおおお!」
「ゆっくちさせちぇぇぇぇええええ!!!」
「むほぉむほぉぉぉおおお!!おちびぢゃんだぢっだら、づんでれさんねぇぇぇぇええええ!!ずっぎりずっぎりずっぎりぃぃいいい!!」
「ゆびぇ・・・ぢゅっぎり・・・・・・。」
「むほぉぉおお!!もっどあいじであげるわぁぁあああ!!ずっぎりぃぃいいいい!!!」
赤れいむ達は、短時間の間に十数回も飼いありすのすりすりすっきりーを受け、ほぼ同時に3匹とも黒ずんで息絶えた。
だが、まだ飼いありすは止まらない。
「くろずんだおちびぢゃんだぢもかわいいわぁぁあ!!『むしゃむしゃ』とってもとかいはなあじねぇぇええ!!」
黒ずみ息絶えた赤れいむ達を、かじり、引き裂き、押しつぶした上むさぼり食う。
結局飼いありすが理性を取り戻したのは、赤れいむの命どころか遺体までこの部屋から消え失せた後であった。
「はぁ・・・ふぅぅぅ・・・、たりないわぁ。またあまあま、たくさんあつめないと・・・。」
飼いありすは朦朧としながら、フローリングの床に散らばった、
赤れいむの破片と自分の体液が混ざったドロドロの液体を名残惜しそうに味わいながらなめとっていった。
「ゆぅーん。りーだーはすごいね!かいゆっくりからあまあまをもらうなんて!」
「ゆっへへぇ。欲しいあまあまは、持ってるやつからもらうのが一番なのぜぇ。お得意さんは、ぜんっぶまりさが開拓したのぜぇ。」
「すごいよ!りーだーはゆっくりしてるね!」
あの飼いありす達に堕落の味を覚えさせたのは、このリーダーまりさに代表される、ゆ連隊の若ゲス達だった。
そうでもなければ、いかにストレスをためようと、それなりに大切にされている飼いゆっくりが、
欲望のままにゆっくりにとっての禁忌をいくつも破るような行動をとることは無い。
これもまた、以前のゲスファミリー達なら絶対やらなかった商売である。
飼いゆっくりに対する暴行被害と大して変わらないこの手の悪事がバレれば、
野良ゆっくりに対する風当たりが強くなる程度では済まない事は、おとなのゆっくり達ならよくわかっていたのだ。
ゆ連隊は見た目羽振りが良く、若く浅はかなゆっくり達にとっては格好よく見えたのであろう。
町中のゆ連隊の数は瞬く間に増加していき、最盛期には個体数で10000匹以上、300以上のグループが生まれた。
それが永遠に続くはずもなく、自殺行為そのものであると気づくことなく・・・。
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季節は秋に変わった。
子まりさも、体だけを見れば成体と言っていいほどに育ち、ゆ連隊でも新入りと呼ばれなくなって久しい。
食事もおうちも充実しており、子まりさはその素質を開花させ、
相変わらず無能ではあったが、野良では群を抜いた美貌を手に入れたのであった。
「まりさは、まりさのことをずっと幸せにしてやるのぜぇ。だから、まりさとずっとゆっくりするのぜぇ。」
「りーだー・・・。」
そして子まりさは先日、ついにリーダーまりさとずっとゆっくりする誓いを終え、
情熱的なすっきりーの末に、お腹に2匹と頭上に5匹のおちびちゃんを授かっていた。
「ゆぅぅ~ん・・・。」
「どうしたの?りーだー。そんなにこわいかおして。」
そんなある日、リーダーまりさが何やら難しい顔をして考え込んでいた。
「ゆぅぅ。おちびちゃんが生まれてきたら、このおうちは狭すぎるのぜぇ。」
「ゆっ!?たしかにそうだね。」
「だからお引越ししたいけど、遠すぎてもダメだし、安全じゃないとおちびちゃんがゆっくり出来ないのぜぇ。」
まりさ夫婦の住処は路地裏からビルの隙間に入り込んだところに木箱や廃材を持ち込んで作ったおうちだったが、
リーダーまりさ自慢のおうちも、拡張性という点で問題を抱えていた。
なんと言っても家族が10匹近くになるのだから、おうちの規模がいかにも足りない。
出来ればゆ連隊の構成員まで招待できるような、大きなおうちが欲しい。
「ゆぅ~・・・、まりさのおとーさんのおうちぐらいおおきかったらいいのに・・・。」
「ゆぅ・・。・・・ゆ?それって、いい考えなのぜぇ!?」
「ゆゆっ?」
「まりさのお父さんのおうちをもらうのぜ!何なら、一緒に住んであげてもいいのぜ!」
「ゆ!そ、そうだね!おとーさんも、りーだーみたいなゆっくりしたゆっくりと、
たっくさんのおちびちゃんにあったら、きっとゆっくりしてくれるよ!」
「そうと決まれば、さっそくこれから、まりさのお父さんのトコに行くのぜ!」
「ゆっゆーん!!」
そんなわけで、まりさ夫婦は、引越しのための最低限の準備をすると、
そう距離も離れていない父まりさのおうちへと向かっていったのだった。
残念なことに、子まりさは自分が何で父まりさの元を飛び出したのか、完全に忘れていた。
場面は父まりさのおうちへと変わる。
なるほど、父まりさの知恵と努力の結晶であるこのおうちは、
どう控えめに見ても、成体ゆっくり10匹以上を収容可能な、豪華で堅牢なものであった。
だが、そこに一匹で住む父まりさの方は、表情に覇気もなく、
食事時のたびにうっかり2匹分のご飯を準備しては、ため息をついて1匹分を片づけるといった有様で、
体力こそ落ちてはいないようだが、すっかり老けこんだような雰囲気を漂わせていた。
「ゆぅ~。ああ、もうお昼なの?ふぅ・・・お外出るの、めんどくさいよ・・・。」
以前は無理して使っていた『だぜ』の語尾も完全に抜けきっている。
「ゆ~ん!ゆっくりただいまだよ~!おとーさんいる~!」
そんなところに、余りにものんきな、それでいて涙が出そうなほど懐かしい声が飛び込んできたのであった。
「ゆ~?気のせいだね。おちびちゃんは、帰ってこないよね・・・。」
「ゆゆ~ん。いるんならへんじしてね!おとーさん!」
「・・・・・・?」
振り返った父まりさは、口をあんぐりと開け、抜け殻のような表情になる。
そこには、表情に陰一つなく、とても美しく育った子まりさがいた。
「おとーさん、びょうきなの?ゆっくりできてないけど。」
「ゆ・・・ゆ?ゆ、ゆ・・・・お、おちびちゃ・・・。・・・そのまりさは誰なのぜ?」
今にも子まりさにすがりつきそうになっていた父まりさだが、そこは長い経験のある賢ゆっくり。
子まりさのお腹と頭上のおちびちゃん、そして子まりさの隣に立っていたリーダーまりさを見て、急速に頭を冷やしていく。
ここ数週間雑草の生えるままだった父まりさの脳内の草原に、急速に芝刈りが行われていった。
「ゆ!まりさは、まりさのだーりんのまりさだよ!ゆれんたいのりーだーさんなんだよ!すっごくゆっくりしてるよ!!」
「・・・・・・。」
「ゆっへぇ!まりさ達のおうちは、ちょっと狭いのぜぇ!だからお父さんのおうちで一緒に住んであげてもいいのぜぇ!」
「・・・・・・・・・ね。」
「「ゆ?」」
「ゲスは死ねぇぇぇぇええええええ!!!」
次の瞬間、父まりさの本気の体当たりが、リーダーまりさに炸裂した。
「ゆぎゃぁぁああ!何するのぜぇぇええ!」
「そうだよ、まりさのだーりんになにす『ぺちんっ!』ゆぅぅうう!」
父まりさは子まりさに振り返ると、お下げで頬を思いっきりひっぱたく。
「何のんきなこと言ってるのぜ!ゆ連隊なんて、あんな・・・あんなゲス達と一緒に・・・一体何やってるのぜ!」
「ゆ・・・おとーさん?」
「あいつ等が何やってるかわかってるのぜ!?あんな連中といたら、絶対ゆっくり出来なくなるのぜ!」
再びリーダーまりさに正対する父まりさ。
リーダーまりさもさすがにゲスを率いるだけあり、大したダメージもなく臨戦態勢に入っていた。
「いくらはにーのお父さんでも、許すわけにはいかないんだぜぇ。覚悟するんだぜぇ。」
「おちびちゃん!このゲスはお父さんに任せるのぜ!奥に隠れてるんだぜ!!」
子まりさにとっては、父と夫にあたるゆっくりの、壮絶な殺し合いとなった。
双方ともまりさ種、武器は水上移動の際にはオールにもなる長い木の棒。
どちらも一撃まともに食らえば、ただでは済まない。
「ゆへぇ!ゆふっ!!じじいのクセに、粘るんじゃないのぜぇ!!」
「体が大きいだけで、大したことないのぜ!この程度でおちびちゃんのダーリン顔するんじゃないのぜ!」
リーダーまりさはガタイの良さとケンカの強さでのし上がったバリバリの武闘派で、
当然そこらの野良数匹程度、軽く薙ぎ払えるほどの実力を持つ。
だが、父まりさは優れた教師の指導の元鍛えられ、一度は群れを率いたこともあるという、
筋金入りの強ゆっくりであった。
ついさっきまで抜け殻同然であったにもかかわらず、父まりさは若きリーダーまりさの攻撃を受け止め、
徐々にではあるが圧倒し始めていた。
「ゆげ、ゆぎひぃ!何なのぜぇ!強すぎるのぜぇぇぇええ!!」
「おちびちゃんにぺにぺにが生えた程度のチンピラが、まりさに勝てると思うんじゃないのぜぇぇええ!!」
「ゆひぃぃぃいい!!」
ぐさりっ・・・
死闘の末、父まりさの棒がリーダーまりさのお腹に届く、まさにその時だった。
父まりさの動きが止まった。
「ゆ・・・・ぐ?おちびちゃ・・・?」
父まりさの背中には、まりさ種特有の道具、木の棒が突き刺さっていた。
その棒を口にくわえているのは・・・子まりさ。
「お・・・おちびちゃ・・・ん?」
「おもいだしたよ。・・・おとーさんは、まりさがしあわせーになるのがいやだったんだよね・・・。」
「ちが・・・お、ち・・・・・・。」
どさり
父まりさは、うつぶせに倒れながら口をパクパクさせていたが、やがてゆっくりと意識を失った。
「ゆへぇ~。危なかったのぜぇ。さすがまりさのハニーなのぜぇ。」
「ゆぅ。とんでもないおとーさんだよ。もう、おとーさんじゃないよ。さっさところしちゃおうね。」
「ゆっへへ・・・。」
「待つみょん。」
「「ゆ?」」
だが、とどめは刺すことが出来なかった。
「ゆっくり殺し未遂で、タイホみょん!」
「みょーん!みょーん!みょーん!みょーん!!」×50以上
この日、町にはみょん警が帰ってきたのであった。
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父まりさとリーダーまりさの死闘が行われる日の明け方。
死闘が繰り広げられる地・虹浦町、その隣町である湯栗町に、
種類も大きさもバラバラな、50匹に満たないゆっくり達の集団が集合していた。
より正確にいえば、その湯栗町にある小中一貫校・湯栗学園の校庭隅にある、コンポスト周辺に。
「むきゅーん。げふっ、げふん・・・お父さん!人間さんに捕まってたのね!」
「ゆふん。うかつだったのぜ!ゆうかりんにつかまっちゃったのZE!」
「むきゅう。お父さんも、もうちょっと深刻になってほしいわ!げふっ。」
「うー。これじゃあ見つからない。」
「困ったねー。どうやって出したらいいー?わからないよー。」
「む~。みょんなら壊せるかも知れないみょん。」
それは不思議な光景であった。
人間の学校、その校庭の隅の、さして広くもない場所に、
ちぇんやぱちゅりーのような通常種、
れみりゃやふらんのような捕食種、
空を飛ぶ希少種もいれば、人間に虐待を受けたように傷だらけのみょん等もいる。
その全員が、今コンポストに放り込まれている一匹のまりさを心配して集まっているのだ。
「こわすのは、ちょっとまつのぜ。まあ、そうあせるんじゃないのぜ。」
「むきゅ。でも人間さんに捕まってたら、げふげふ、お父さんもゆっくりできないわ。」
「ゆ~ん。そうでもないのぜ。」
「ゆ?」×47
「まりさもてきがふえてたから、さいきんあぶなくっておそとにでれなかったのぜ。
まあ、しばらくかくれるにはちょうどいいのぜ。ごはんもあるし、あめさんもかぜさんもはいらないのぜ。」
そう、この学校のゆっくりコンポストに入っているゲスまりさこそ、
町の裏の秩序を守っていたゲスファミリーの頂点、『ゴッド・お父さん』ことゲスまりさであった。
こんな所に放り込まれた理由の方は大部分省くが、美れいむを見つけて色ボケしてたら、
学校職員のゆうかりんに捕まって、殺処分代わりにコンポストに突っ込まれた、というなんとも不名誉な事情があったりする。
きっかけは情けない事この上ないが、ゴッドまりさとしては案外悪い事ばかりでもないことに気づいてもいた。
なにせ、社会の裏に生きてきた以上敵は多い。
みょん警だって意外とあてにならないし、実際刺客に狙われたことも多い。
この学校に散歩に来たのだって、たまたま安全が確保できた日の、束の間の息抜きのつもりであったのだ。
それが今では、牢獄といえば牢獄だが、働かなくても三食出てくるし、
並のゆっくりでは傷一つ付けられない堅牢な壁に守られてもいる。
問題があったら看守であるゆうかりんに頼めば、案外良くしてくれるので、
不都合と言えばファミリーの仲間と連絡が取れないことぐらいであった。
それも解消された以上、ここで無理して脱出した揚句、人間さんやゆうかりんに目をつけられる必要はない。
「・・・というわけなのぜ。いまは、ゆうかりんもおともだちだし、こっちはとうぶんこのままでいいのぜ。」
「むきゅー。意外と色々考えてるのね、むきゅげふんっ!」
「うるさいのぜ。それより、そっちはなにももんだいないのぜ?」
「むきゅ・・・実は・・・・・・」
こうなると、当然現在幅を利かせているゆ連隊の話を伝えざるを得ない。
ゴッドまりさも、話を聞いているうちに、苦々しそうに唸り声をあげていた。
「ゆぅー。にんげんさんにわるさはまずいのぜ。おこらせても、ろくなことにならないのぜ・・・。」
「むきゅん。どうするの?お父さん。」
「なぁーにいってるのぜ。そんなことまで、まりさがいわないとだめなのぜ?そだてかたまちがったのぜー。」
「むきゅー。げふげふっ、お留守番出来なくてごめんなさい。お父さん。」
ぱちぇだけでなく、ファミリー全員が申し訳なさそうな顔をする。
「うー、でもお父さんも勝手にいなくなったから悪い。」
「それをいわれるとつらいのぜ。」
「でも、もうお父さんも見つかったみょん。これからはいつも通りでいけばいいみょん?」
・・・・・・。
指令を求められ、これまで冗談混じりだったゴッドまりさの声色と口調が変わる。
「・・・それでいいよ。特にクソチビ達は、こどもの遊びを越えてるからね。おとなのルールでお掃除すればいいよ。」
・・・・・・。
「むきゅん!それじゃ、お仕事が終わったらまた遊びにくるわ!」
「ゆぅ~。あまあまのさしいれをよろしくなのぜ!」
「わからないよー。」
「そういわないでほしいのぜぇ~!」
こうしてゲスファミリーは活動再開を宣言し、午前中の内には周辺地域のゲスグループも引き上げ、
みょん警は、町中の巡回と言う、通常業務に戻ることが出来たのであった。
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みょん警の包囲網をかいくぐってリーダーまりさは逃げ切ったが、身重の子まりさはあっさりと捕まった。
逮捕のストレスもあってか子まりさが産気づいたため、父まりさも子まりさも、
みょん警本部の隣にある、えーりんの居る『びょういん』に運ばれていった。
ぷつんっ!べちゃり。
「ゆ、ゆ、ゆっくちちちぇっちぇにぇ!」
しゅぽーん!べちょり。
「ゆ、ゆ、ゆぅ・・・ゆっくちちちぇっちぇにぇ!」
「ゆぅ、ゆっぐ・・・ゆっぐぢぢでいっでねぇぇ。」
植物型出産と動物型出産を立て続けに行い、子まりさは母親となったのであった。
子まりさは、自分の餡子を受け継いだ新しい命を目の当たりにして、ただただ喜びの涙を流し続けていた。
父まりさの命を心配することすらなく。
子まりさは出産を終えると間もなく、裁判の場へと立たされた。
罪状は家族殺し未遂の現行犯。
ゆ連隊時代の悪事については追及されない。
理由は、その期間みょん警が町中にほとんどいなかったので、証拠が揃えられないためだ。
無論今後は、これまで通りの活動など出来なくなるので、ゆ連隊の時代は終わったと言ってよかったが。
「みょーん。まりさは、自分のお父さんを殺そうとしたみょん?」
「ゆっ!あんなのおとーさんじゃないよ!あんなげす、しんでとうぜんだよ!」
「餡子が繋がって無くても、立派に育ててくれたんだみょん。少しは敬えみょん。」
「でも、ゆっくりさせてくれたことなんて、ぜんぜんないんだよ!そんなのおとーさんじゃないよ!」
こんな態度だとゆっくり社会では、極刑クラスの罰を受けてもしょうがないところである。
しかし、この裁判を難しくしているのは、子まりさの弁護をするのが、
よりにもよって殺されかけた父まりさだという事であった。
「ゆぅぅ・・・、悪いのは・・まりさなんだよ。おちびちゃんは、おちびちゃんは許してあげてね・・・」
「わかるよー。あんまりひどいばつは、やってほしくないよー。」
人間ほど複雑な思考をしないゆっくりの裁判では、情に訴えると言うのはかなり有効だ。
陪審ゆっくり達は刑を軽くする方に偏っていっている。
しかし、そうも言っていられないのが重鎮ゆっくり達だ。
一匹見逃せば、数万匹の駄ゆっくりがそれに追随することになるので、やる時はしっかりやる必要があるのだ。
裁判官は町ゆっくりの長老達3匹。
みょん警の団長みょん、
「困ったもんだみょん。」
(あんなダメな子の、なにがいいのかわからんみょん。あんなの捨てて、新しい子供を作ればいいみょん。)
町では知恵者で通っている、びょういん(病院)の院長えーりん、
「でも・・・このまま許したらダメよ。」
(あの子、きれいなお帽子かぶってるわね。お帽子の破れたうちの患者にくれないかしら。)
ほいくえん(孤児院)の保育まりさ。
「ゆぅん。あのまりさじゃ、許したらまた、同じことするよ。」
(あんなの、あにゃるにからしをねじ込んでやれば、すぐに素直になるよ。ゆぅ、早くお昼寝したいよぉ。)
心の声はともかく、少なくとも無罪にしてやる気は無かった。
家族殺しは、餡子の繋がりの有無、被害者が生きているかどうか、などは関係なく重罪なのだ。
そして結局、3匹の裁判官は子まりさにとって最も残酷な刑罰を与えることになる。
「みょーん。まりさには、『ゆっくりひとりでいきてね!』の刑を与えるみょん。」
「ゆゆっ?」
『ゆっくりひとりでいきてね!』の刑。
それは、町の全ゆっくりが、子まりさにどれほど頼まれようとも、生活を一切手助けしない刑。
要は、野生で、群れにも所属しないゆっくりにとっては当たり前の環境に、いきなり放り込まれるということである。
人間の感覚では戸籍丸ごと剥奪のようなものなので、かなり大事にも見えるが、
ゆっくりの社会で助け合いと言ってもたかが知れているので、比較的軽い刑である。
今回刑罰として適用されたのは、それが子まりさにとって十分な罰になるということが分かっていたからであった。
父まりさは、事の重大さに気付き、傷の痛みに苦しみながら必死で叫び続けていた。
「やめでぇ・・・おちびぢゃんは・・・・まりさがづいでないど・・・・・・」
「だから罰なんだみょん。まりさも絶対助けちゃだめだみょん。助けたら、両方許さないみょん。」
「ゆぅぅぅぅぅううううぅぅぅ・・・。」
だが、ここに及んでも子まりさは平気な顔をしていた。
「ゆっゆー。かんったんだよ!これからまりさは、だれにもたよらないで、おちびちゃんたちをゆっくりそだててみせるよ!」
「・・・勝手にすればいいみょん。」
こうして子まりさは、ほっぺに『ゆっくりひとりでいきてね!』の刑の受刑者である印の星マークを彫り込まれると、
つい先ほど産んだ赤ゆっくり7匹とともに、みょん警本部をたたき出されたのであった。
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一方みょん警から逃れたリーダーまりさは、30匹弱のゆ連隊メンバーと一緒に、
みょん警の目を逃れるため路地裏を走っていた。
「ゆへぇぇ・・・ひどい目にあったのぜぇ。」
「りーだーもゆっくりできないんだねー。わかるよー。」
「ゆぅぅ、みょん達はゆっくり出来ないのぜぇ。・・・ゆゆっ!?」
ふと、リーダーまりさがゆっくりの気配を感じて正面の路地裏の闇に目をやると、
その闇の奥から、ぱちゅりーとみょんが音もなく這い出てきた。
「げふっ、げふっ・・・、むきゅー。あなた達がやんちゃしてるおちびちゃん達ね。」
「ゆぅぅぅ。誰がおちびちゃんなのぜぇ!まりさたちは、おとななのぜぇ!」
それは、実に気味の悪いぱちゅりーとみょんだった。
2匹とも口元は笑みがたたえられ、表情は笑顔であるにも関わらず、その瞳だけはまったく笑っていない。
ぱちゅりーはその口から覗く舌先で、飴玉のようなカラフルな玉をコロコロと転がし、味わうようにもてあそんでいる。
顔面には斜めに走る向こう傷があり、ほっぺにも犬にかじられたような醜い傷跡がある。
他のぱちゅりー達以上に咳き込むその顔色は、暗い路地裏にもかかわらず顔色の悪さが分かるほど紫色だ。
にもかかわらず、妙に堂々としたその態度は、無性にゆっくり出来なかった。
みょんに至ってはさらに異形で、顔面を縦に、ブロック塀ですりおろしでもしたかのように、
上下の唇が完全に削り取られ、前歯が丸見えになっている。
ぱちゅりーほど大きな傷は無いが、細かい傷なら全身に無数についているのがわかる。
それでありながら、黒いリボンだけにはかすり傷一つ付いておらず、そのツヤがかえって無気味であった。
額にはひらがなで『げす』と書かれており、人間の手による暴力を受けたのであろうことだけは見てとれる。
「むきゅん。年寄りのぱちぇからみたら似たようなものよ。それにしても色々ひどい事しているそうね。げふっ、げふっ。」
「わからないよー。ちぇんたちはゆっくりしただけだよー。」
「でも、自分達のゆっくりのために、人間さんのおうちに盗みに入ったりしたって聞いたみょん。」
「だから何だって言うんだぜぇ!がたがたいうと、痛い目みるのぜ!」
ゲスちぇんやリーダーまりさの声も荒くなってくる。
痛いところを突かれようとしていることもあるが、2匹の雰囲気が、とにかくゆっくり出来なかったのである。
だがそれが、危険を体が察知しているサインであることまでは、自覚できてはいなかった。
「むきゅん・・・迷惑なのよ・・人間さんや、みょん達とは仲良く・・げふっ!げふげふっ・・・げふぅっ!!」
「でかいくちたたかないでよー。つぶすよー!」
「むっきゅっきゅっ・・・げふぅっ!!」
ひゅっ!ぼしゅっ!!
「わぎゃっ!!」
ぱちゅりーが大きく咳き込んだ瞬間、最前面に立っていたゲスちぇんの顔面に小さな穴が開き、後頭部が弾けとんだ。
一瞬、ゆ連隊の全員が、何が起きたのか理解できなかったが、ゲスちぇんのすぐ後ろに立っていたリーダーまりさに、
ちぇんのチョコのしぶきが思い切り浴びせかけられたのを見たことで、ゲスちぇんが死んだことをゆっくりと察した。
「・・・・・・な、な、なんなのぉぉぉおおお!!!・・・ゆっ!?」
その時、リーダーまりさのお腹に、かすかな痛みが走る。
ころん。
リーダーまりさがお腹に力を入れると、お腹の中央にいつの間にか出来ていたへこみから、何か固いものが落ちてきた。
お腹から落ちたものは、カラフルに輝く、一個のビー玉。
ぱちゅりーが口の中でもてあそんでいたものであった。
「むきゅん、今日は調子が悪いわ。一匹しか貫けなかったのね。」
「もう年だからだみょん。だからぱちゅりーは、おうちでお留守番しとけばよかったみょん。」
「むぎゅぅぅ、ぱちぇはまだまだ現役なのよぉぉおお!?」
リーダーまりさの常識をはるかに超える一撃を放っておきながら、ぱちぇとみょんは、何事も無いかのように雑談にふけっている。
だがこの一言で、ぱちゅりーがゲスちぇんをバラバラに粉砕したことが、リーダーまりさにも理解できた。
ぱちゅりーは、咳と同時にこのビー玉を飛ばして、ゲスちぇんの中枢チョコを一撃で貫いたのである。
「ゆ、ゆぎぃぃぃいいい!!よくもちぇんをぉぉぉおお!!」
「・・・ゆっ・・くくく・・・怒ったみょん?いいみょん。久しぶりに本気で遊んでやるみょん。まとめてかかってくるみょん!」
・・・ごぽりっ!
ゆ連隊の全員が、木の枝などの武器を口に構えると同時に、今度はみょんが動いた。
舌を器用に使って喉の奥から、刃渡り30cm以上の、銀色に輝くケーキナイフが抜かれたのだ。
武器を隠していた場所も異常だが、その振る舞いも、ケーキナイフを操る舌の滑らかな動きも、同じゆっくりのモノとは思えない。
その態度は、木の枝などで武装した数十匹の成体ゆっくりを、相手するつもりとは思えないほど落ち着いたものであった。
ゆっくりにとって心の負けは、体の負けでもある。
ゆ連隊の、リーダーまりさを含めた全員は、そのケーキナイフの輝きを見た瞬間、
勝ち目が無い事を悟ってしまった。
この瞬間、圧倒的多数を誇っていながらゆ連隊の敗北は決定されたのであった。
こうなると、次にゲスのとる行動は、命乞いである。
「ゆ、・・・ゆゆ、れ、れいむを、た、たすけてね・・・」
「・・・なんでみょん?」
「れ、れ、れいむは、ゆっくりした、おちび、ちゃんがい、いるんだよ!」
「で、なんだみょん?」
「れいむは、お、お、おちびちゃんをそだ、そだてるために、しょうがな、なくって、あんなこと、し、してたんだよ・・・。」
「みょ~ん。・・・そこのまりさ?」
「ゆ、ゆ、ゆぅ?」
「れいむの言ってること、本当みょん?」
「ゆ、ゆひぃぃ・・・ほんどうでずぅ、わるいごどだっでわがっでまぢだぁぁ。」
「みょ~ん。」
「れいむがいなぐなっだら、おぢびぢゃんがぁぁ、おぢびぢゃ」
すとんっ。
一瞬何かが光ったかと思った後、れいむは『おたべなさいっ!』したかのように、縦に真っ二つになっていた。
「どうでもいいみょん。どうせロクなガキじゃねーみょん。」
「ゆぴぃぃいいいい!!だずげでぇぇぇ!!」
「おどーぢゃぁん!おがーぢゃぁぁああん!!」
「もう終わりかみょん。・・・つまんねーみょん。」
完全に勝負が着いたところで、ぱちゅりーから声がかかる。
「むきゅーん。ダメよ。みょんは今日は出番無しよ!今日はおちびちゃんお勉強だっていったでしょう?」
「む、みょーん。ついつい楽しくなっちゃったみょん。それじゃ、あとはおちびちゃんに任せるみょん。」
・・・おちびちゃん?
そのとき、ぱちぇとみょんの背後の闇がゆらりと揺れた。
最初、リーダーまりさ達は、闇はビルの影が作り出しているものだと思っていたが、
注意を向けてみると、その闇は、生き物のように拍動し、いまや明らかに前進し始めていた。
その証拠に、今ではもうぱちぇとみょんの後頭部は闇に覆われている。
「むきゅっ。それじゃ、おちびちゃん・・・」
闇の中心には、紅い光が2つ・・・
「たくさんあるから、おいしいところ以外は残しちゃってもいいわよ!むっきゅ!」
「そーにゃのかぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
闇は半径2mを超え、一気に前進を始めた。
「な、な、な、なんなのそれぇぇぇええええ!!!」
リーダーまりさ達は、その余りの常識を超えた光景に、身動きすることすら出来ない。
そして、闇の塊は、原油のようにどろりと揺らめきながら、リーダーまりさを除く、ゆ連隊の全員を飲み込んでいったのだった。
「な、なん、・・・」
「みょーん。感謝するみょん。リーダーさんには別メニューみょん。」
「や、や、べ、で・・・」
「もうすぐ永遠にゆっくりするんだから、ゆっくりしていけみょん。」
・・・・・・。
「むきゅん。よくやったわ、おちびちゃん。すーりすーり。」
「そーにゃのかー、そーにゃのかー!」
闇が晴れ、地面には中枢餡と目玉だけを食い尽くされたゆっくりの残骸が散らばる中、
ぱちゅりーと、まだ幼い子るーみあがすーりすーりしていた。
みょんも異形と化した顔に優しげな笑みを浮かべている。
一部始終を見ていなければ、そこにいるゆっくり達が、
あたり一面に転がる、苦痛と恐怖の形相のまま息絶えた饅頭達を作り上げた存在であるなど、想像もできないであろう。
ぱちゅりーと子るーみあが愛情のこもったすーりすーりを続けていると、
ぱちゅりーのお帽子から、まだ生まれて数日経ったかどうかという、赤れみりゃも顔を出してきた。
「れみぃもたべりゅのかー?」
「うー!うー!」
子るーみあが、先ほど食らい尽くしたゲス達の中枢餡の欠片を、口移しであげている。
その姿は、種族も別、餡子の繋がりも無いが、確かに姉妹同士の絆を確かめ合うものであった。
「むきゅ、おねーちゃんを見習って、おちびちゃんも立派に育つのよ!」
「うー!」
「・・・みょーん。みょんも仲間外れにしないでほしいみょん。そろそろ次の場所に行くみょん。」
ゲスファミリーは、極めて特異な『家族』であった。
元々は、一匹のゲスまりさが、使い捨ての便利な手駒を手に入れる手段を考えたのが始まりであったのだ。
色々考えた結論は、『自分で都合のいいゆっくりを育てるのも手なのぜ!』であった。
ペットショップの裏に落ちていた、飾りに傷のある赤ぱちゅりー、
木の上の巣から落ちたのであろう、生まれたての赤ふらん、
人間に虐待を受け、瀕死の状態にあった赤みょん等々、ゲスまりさはなるべく生まれたての、純粋な赤ゆっくりを集めていった。
当然体は健康で、素質のありそうな赤ゆを選んで拾ってきたのではあったが、結果は大きな誤算を生むことになる。
誤算の1つ目は、ゲスまりさの子育て能力が、自身が思っていたより遥かに高かったこと。
誤算の2つ目は、ゲスまりさのゆっくりを見る目が、自身が思っていたより遥かに高かったこと。
その結果、捨て駒のつもりであった赤ゆっくり達は、使い捨てるにはもったいなすぎるほどの、
ゲスまりさと肉親以上の絆を持つ、有能な子供達となった。
やがて成長した子供達はゲスまりさに習い、見込みのありそうな赤ゆっくり達を拾って来ては我が子のように育てていく。
餡子の繋がりもない小さな家族は、やがて大きな家族となり、
いつしか町の秩序を担う勢力の一つとなったのであった。
若く未熟なゆ連隊のゆっくり達に欠けていた物の多くを、ゲスファミリーは持っていた。
捕食種・あるいはそれ以上の力、人間や賢いゆっくり達を敵に回さない知恵と配慮、
そして仲間や肉親との絆・・・・・・。
だからこそ、ゲスファミリーは生き残り、ゆ連隊は排斥されていったのであった。
そしてこの日、総勢47匹のゲスファミリーによって、みょん警から逃れていた8000匹以上のゆ連隊メンバーが文字通り根絶やしにされた。
ただし、200余匹のリーダーゆっくりについては、見せしめとして、
生きたまま顔面の皮を剥がされ、その生皮は町の広場の板塀に飾り立てられた。
苦しみぬいた呪詛の死臭をしみこませたお飾りとともに・・・。
虹浦町のゆっくり社会には平和が戻ったのである。
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全ての決着がついたあの日から、3日が経った。
子まりさは7匹の赤まりさとともに町をさまよい歩き、
道路脇の地面に掘られた、細長い溝の中を新たなおうちにしていた。
幅は少々狭いが、屋根もあるし、何より町のゆっくり達の視線から逃れることが出来るのが、都合良かったのだ。
子まりさはジャンプ一回でお外に出れるが、赤まりさ達は簡単にお外に出られないところもよい。
しんぐるまざーである以上、赤ゆっくり達は連れ歩くか、さもなくば安全なおうちの中に閉じ込めておくしかないのだから。
だが、子まりさの幸運は、そこそこ居心地のいいおうちを手に入れたところで完全に尽きていた。
「おきゃーしゃん。まりしゃ、むーちゃむーちゃしちゃいよー。」
「ゆぅー。きょうは、あまあまがみつからなかったんだよ。」
「おきゃあしゃぁぁん!!ゆっくちさせちぇぇぇえ!ゆっくち、ゆっくちぃ、ゆっくちちちゃいぃぃいいい!!」
「ゆぎぎぎぎ・・・わがままはゆっくりできないよ!」
「ゆぇぇ~ん。おきゃーしゃんがゆっくちさせちぇくれにゃいよぉぉ。」
コロコロと転げまわりながら駄々をこねる赤まりさ達。
その姿は、かつて父まりさに対して子まりさ自身が行っていたワガママの姿そのものであった。
そう、赤まりさ達は、母親である子まりさから、容姿から中身まで、しっかりと遺伝子餡を受け継いでいたのである。
しかし、かつての子まりさと違い、態度はどうあれこの赤まりさ達の言い分には正当性があった。
子まりさが刑を言い渡されてから今に至るまで、つまりは赤まりさ達は生まれてからずっと、
雑草を少々と、おうちである溝の内側に生える苔をわずかに食べた以外、ロクに、食べ物を口にしていないのであった。
それも当然だ。
町のゆっくり達は、ただでさえ慢性的な食糧不足に悩まされている。
なのに、子まりさのように大切に扱われ、これまで自分で食料を集めることすらしてこなかったゆっくりが、
7匹ものおちびちゃんを満足させられるだけの狩りなど、出来るわけが無いのであった。
それに・・・
「ゆぅ~。だれもごはんさんくれないし・・・こまったよぉ。」
子まりさは、ここに至っても自分がどういう罰を受けているのか、イマイチ理解できていなかった。
ちなみに、『ゆっくりひとりでいきてね!』の刑だが、実はコレ、
手を貸した側に罰則があるわけではないので、こっそり子まりさを助けることは可能だったりする。
だが、自分達だけでも余裕が無いのに、ゲス確定の烙印が押されたゆっくりなど、肉親以外で助けるものはいなかった。
父まりささえケガで動けなければ、子まりさは誰の助けももはや得られないのである。
「まりしゃはゆっくちむーちゃむーちゃしちゃいよ!おきゃーしゃんは、もっとがんばっちぇにぇ!ぷっきゅー!!」
「ゆぅ。こまったよ。もうこけさんもないし・・・あしたはゆっくりしたごはんさん、みつかるかなぁ。」
だが、子まりさの心配は無用な物であった。
なぜなら、子まりさが狩りに行ったのは、この日が最後だったのだから・・・
10月を迎えたこの日、町に久しぶりの雨が降った。
「ゆぴぃぃいいい!おみじゅしゃんがおっかけちぇくりゅよぉぉぉ!!」
「おちびちゃんたち!ゆっくりにげてね!ゆっくりいそいでね!!」
「ゆぁぁーん、ゆっくちできにゃいぃぃ!!」
子まりさ一家は、溝の中でも屋根のある場所に潜り込んで雨をしのごうとしていた。
だが、水の流れる音にハッとして溝の先に視線を向けると、
その先に、子まりさ達に向かって勢いよく流れてくる水流が目に映った。
・・・それは当然である。
子まりさ達のおうち、道路脇の溝とは、雨水を流すための側溝であったのだから。
「ゆひい、ゆひぃぃぃいいい!!」
「おきゃーしゃん!いきどまりだよぉ!ゆっくちできにゃいぃぃぃ!」
追いつめられた先、水流は刻一刻と迫ってくる中、まりさ一家はお外に飛び出せる屋根の切れ目も見つけられないまま、
大きく深い穴に追いつめられてしまった。
後ろには水、前にも水の溜まっている深い穴。
絶体絶命であった。
「ゆぅ、ゆぅぅぅ。・・・ゆぅ!そうだよ!おちびちゃんたち、おぼうしにのるんだよ!!」
「ゆ!?ゆっくちりきゃいしちゃよ!!」×7
危機一髪、子まりさ達は全員が水流の魔の手から逃れることが出来た。
前方に広がっていた、深く広い穴に溜まっていた水の水面にお帽子を浮かべ、その上に乗ることに成功したのである。
「ゆっくりなんとかなったよぉ。ゆっくりしてね!おちびちゃん!」
「おきゃーしゃん、しゅごーい!とっちぇもゆっくちしちぇるにぇ!」
「ゆふーん。とうぜんだよ!まりさはとってもゆっくりしたおかーさんなんだよ!」
「おきゃーしゃん!」
「ゆ?なに?」
「どうやっちぇでりゅにょ?」
「ゆ・・・・・・」
子まりさ一家がたどり着いた、深く広い、水の溜まった穴、
それは、屋根の部分をグレーチング蓋で閉ざされた、側溝の集水枡であった・・・
木の枝が蓋の上まで伸びているので、雨に打たれて死ぬことは無いが、慰めにはならない。
そこは、雨が止み、側溝の中をさかのぼらない限り外に出ることのできない、
子まりさ達をゆっくりと追いつめていく、町の牢獄・・・。
「・・・おきゃーしゃん・・・」
「おちびちゃん、どうしたの?」
「まりしゃ・・・、おきゃーしゃんとしゅ、しゅーり、しゅーり・・・しちゃいよぉ・・・」
「ゆぅ・・・じゃあ、こっちにちかづくからね・・・」
ちゃぷちゃぷ・・・
「ゆぅ・・・しゅ・・・り、しゅ『ぽちゃん』・・・・・・」
「おち・・・おちびちゃん?おぢびぢゃぁぁぁああん!!」
母にすーりすーりしようとした長女赤まりさは、のーびのーびの体勢に入ったところでバランスを崩し、
その最期の望みを叶えることも出来ずに、水中へと沈んでいった。
「おきゃーしゃん・・・・・・、まりしゃ、おなかしゅいちゃよぉ。」
「ごべんでぇ・・・・おみずさんをのんでねぇ・・・」
「ゆぅぅ・・・ゆっくちごーきゅごーきゅしゅる『ぽちゃ』・・・」
「お・・・おぢびぢゃぁぁぁあああん!!!ゆっぐぢうかんでぎでぇぇええ!!」
空腹を少しでも紛らわすため、自分達の浮かんでいるお水を飲もうと体を動かしたところで、
バランスを崩して落下、4女赤まりさはお水をお腹一杯飲んで永遠にゆっくりした。
・・・3日後。
雨はまだ止まない。
かつて7匹いた、子まりさの可愛いおちびちゃん達。
だが、今では胎生型にんっしんだったために他の5匹よりも体が大きく、
バランスがとりやすかった2匹の赤まりさだけしか生き残っていなかった。
子まりさ達の周囲には、もはや主を失った小さなお帽子が5つ、ぷーかぷーかと浮いている。
先ほど親切なれいむ一家が通りがかり、一生懸命助け出そうとしてくれたが、
ネジで留められている上、金属製の重い蓋は、ゆっくりにとって持ち上げられるものではなかった。
雨はこれからも当分止みそうな様子ではなく、子まりさ達はすでに、
食事も睡眠もとらず過ごしてきた3日で、身も心も限界に達していた。
・・・希望は、尽きた。
子まりさは、最後の力を振り絞ってオール(として使っている木の棒)を集水枡の壁に打ちつける。
これまで3日、コンクリート製の壁に何とか脱出口を開けようと、何千回と続けてきた行為であった。
その結果、オールの先端はもはや古い歯ブラシの様にボロボロになり、
一方壁の方は、こびりついていた泥がはがれてきれいな灰色の姿を取り戻していた。
この壁に、穴が開くことはないであろう・・・。
数回オールを弱々しく壁に打ち付け終えると、まりさはふぅ・・・とため息をつく。
その時、子まりさの頭の中に、なつかしい光景が思い出された。
子まりさがまだ赤ゆっくりだった頃、怖い人間さんに追われて父まりさと2匹で逃げ出した日のこと。
「おちびちゃん。おちびちゃんには、これからたっくさんの事を教えてあげるのぜ。立派な、立派なゆっくりになるのぜ。」
「ゆーん?どんにゃことー?」
「ゆぅ?ゆぅー。そうだね。あの、道路さんの端っこに、細い溝さんがあるのぜ。」
「ゆわー。しゅっごいながいにぇー。」
「あれはね。雨さんが降ったら、川さんになっちゃうのぜ。だから、雨の日は、絶対はいっちゃだめなのぜ。」
「ゆーん!ゆっくちりきゃいしちゃよ!!」
子まりさは、ようやく気付いたのであった。
・・・自分が、父まりさから、どれだけ大切なことを教えられていたのか。
・・・そして、自分が父まりさの教えを、初めっから何一つとして聞いていなかったことに。
クマのできた目をぐったりとうつむいたままの赤まりさ達に向け、オールを2匹の体にあてがうと、
子まりさは、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「おどーじゃん・・・わるいごでごめんにゃしゃい・・・。」
ぽちゃぽちゃん。
・・・・・・・・・・ぼちゃん。
饅頭が3つ、水に落ちる音が響いた。
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「おちびちゃん・・・・・・」
雨の未だ止まない中、父まりさは、集水枡の上に立っていた。
子まりさの狂行によって傷ついた体はまだまだ回復しておらず、
父まりさの通った後の道路には、餡子の跡が生々しく残っている。
父まりさは、なんとか動けるようになってすぐ、子まりさを追って町中を彷徨い歩いた。
ゆっくりの情報網や記憶力などたかが知れている。
その捜索は難航した。
最後には、側溝などという危険な場所に住んでいるバカなゆっくりがいる、と言う噂に一縷の望みをかけ、
なんとか正解へとたどり着いたのであった。
・・・だが、全ては手遅れであった。
父まりさは、雨の強くなる一方の中で、集水枡の上に立ち、雨を多少は防いでくれる大事なお帽子を脱ぎ棄てた。
「おちびちゃん・・・れいむ・・おかーさん・・・」
まりさの肌に少しずつ雨水がしみ込み、皮が破れ、餡子が流れていく。
だが、不思議と痛みは感じていなかった。
ただヂクヂクと、まりさの餡子の大切な部分に、言い表せない息苦しさだけがあった。
「ごめんね・・・まりさ、もうつかれたよ・・・・・・」
翌日。
久しぶりに、太陽の光にキラキラと輝く道路には、
主のいない、まりさの黒いお帽子が1つ、ぽつんと残されていた。
挿絵 by嘆きあき
挿絵 by儚いあき
挿絵 byくらっかーあき
挿絵 byくらっかーあき
おまけ:ゲスファミリーの麻薬調達ルート
ゲスファミリーとてゆっくりだ。
そう簡単に小麦粉やら、砂糖やらを調達できるはずもなく、
その調達ルートの確保には大変な労力がつぎ込まれている。
人間さんから手に入れるしかないそれらの品々だが、当然人間さんのおうちから直接盗むと言うわけにもいかない。
盗みは、ゆっくりだけでなく、人間さんの間でも犯罪なのだ。
うっかり見つかろうものなら、自分達どころか町野良全体にとっての悲劇にもなりかねないのである。
では、ゲスファミリーではどのようにして、それらの品々を手に入れているのだろうか。
ゲスファミリーは、一人暮らしのお年寄りをターゲットとする。
お年寄りと言ってもなお当りはずれがあるので、初めて接触する相手は、数日前から監視して入念に下調べを行う。
キーワードは『寂しそうなお年寄り』である。
ターゲットが基準を満たしている事を確認したら、次は接触だ。
突撃部隊の班編成は、
ふらん・れみりゃをはじめとする飛行型ゆっくり2匹以上+俊足を誇る突撃ユニット1匹+おもちゃのホイッスルを持つ観測ゆっくり1匹。
観測ゆっくりは、ファミリーのトップであるゴッドまりさがつくのが基本パターンだ。
突撃ユニットは、お年寄りが縁側あたりでぼーっとしている時間帯を見計らって、おうちの外から呼びかける。
「わかるよー!おじーさん、ゆっくりおはなしがあるんだよー!」
このとき、ターゲットに虐待臭がしたら、観測ゆっくりのホイッスルの合図で、飛行ゆっくりがターゲットの顔の周囲を飛び回る。
捕まらない距離で飛び回ることで目隠しをし、その間に突撃ユニットは逃げるわけだ。
「うーむ。なんじゃな?わしなんぞに用かの?」
食いついてきたら成功。
「ちぇんは、けがしたゆっくりをたすけてあげたいんだよー。」
「ほうほう。それは感心じゃのぉ。」
「でも、おくすりさんがたりないんだよー。たすけてほしいよー。」
「んむ?薬なぁ。うーむ。人間の薬って、ゆっくりに効いたかの?」
「ちがうよー。ほしいのは、こむぎこさんだよー。」
「こむ・・・小麦粉か。そんなもんでいいのかね?」
「ちぇんたちのおはだは、こむぎこさんなんだよー。けがしたら、こむぎこさんでなおるんだよー。」
「ふぅーむ。なるほど、いいぞ。あげよう。」
「わかるよー!おじーさんは、とってもゆっくりしてるねー!」
とまあ、上手くねだれば小麦粉あたりなら、拳一握り分程度はもらえたりするのである。
だが、一度食いついた流通ルートは、簡単に手放してはならない。
ここからが本番である。
ターゲットの家に、後日そこらに生えてるタンポポなどと、ひらがなで『ありがとう』と書いた手紙でも置いていくのだ。
何せ、文字は無料だし、道に咲いてる花なども食べ物にはなるとはいえ、基本無料である。
仕込みとして使う分には、まったく惜しくない。
そうして、後日また会いに行くと、ターゲットは自分から物資を供給してくれるだけでなく、
場合によっては家に上げてもらうこともできるのだ。
そこまでいけば、あとは欲張らない程度にねだれば、一定量の小麦粉を定期的に供給してもらえる寸法となる。
場合によってはあまあまやご飯をもらうこともできる、非常にうまみのある商売だ。
とはいえ、手間がかかっている上、危険と隣り合わせであることは確かなので、麻薬取引のレートは上がる。
今回のゆ連隊の手法(窃盗)で、確かに一時的に大量の小麦粉を手に入れることも出来たが、
この場合、取引レートが下がる上、人間との付き合いも微妙なものとなる危険は高く、
ゲスファミリーとしては、大変迷惑な話だったのだ。
ゲスマフィアなどは、ゆっくりの間では恐れられているが、
実は人間のお年寄り達の間では、すこぶる評判がよい。
寂しい独り暮らしの中で、話し相手になってくれる、というだけで、彼らの方は大満足だったりする。
ゲスとして生き、ゲスとして活動するには、このように頭と手間暇がかかることも、止むをえないのである。
ゲスをやるのも楽ではないのだ。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- この作品は、まさに、ノワール。この作品はゆっくりノワールだ。 -- 2016-11-09 22:30:49
- 素晴らしすぎます。みょんとぱちゅりーカッチェー! -- 2016-08-12 23:23:02
- 本作をよんでいる時は、広江礼威先生の作品を読んでいる気分でした。 -- 2016-08-12 23:02:54
- 三番目のくらっかーあきさんの挿絵を見た瞬間にMELLさんの「Red Fraction」が脳内再生された。 -- 2016-07-19 19:55:21
- 訂正、本作を読んでるいる時は、広江礼威作品を読んでいる気分でした。
-- 2016-07-19 18:48:44
- 本作読んでる時はまるで広江礼威作品を読んでるいる気分でした。 -- 2016-07-19 15:13:32
- 凄く面白かったです。本作のみょんとぱちゅりーは広江礼威先生の作品、特に、「BLACK LAGOON」に出てきそうなキャラクターですね。最後に、みょんとぱちゅりー凄くかっこいいです。 -- 2016-07-19 15:09:12
- 挿絵のクオリティがw -- 2015-11-23 01:47:40
- だめなゆっくりが虐待されるのはいいけど、そうじゃなければ切ないよなあ。
子ゆっくりも最後の最後に気付けた分だけ救いがないし。 -- 2015-08-03 22:27:12
- 挿し絵見て思った。
にんげんさんでも勝てる気がしない -- 2013-12-11 02:33:42
- 挿絵の差がw -- 2013-08-24 22:33:51
- 親まりさは個人的に生きてて欲しかったなあ……
ちょっと悲しくなったわ…… -- 2013-05-07 02:15:41
- バッ バカなJOJO第一部より面白い (JOJO見ながらチラッとみていたがいつの間にかSSしか見ていなかった) -- 2013-04-03 14:30:22
- 並みのVシネマより面白いかったwwwwwwwww -- 2013-03-26 18:08:06
- ゲスファミリーのお父さんマヌケすぎだろwwwww -- 2013-01-27 17:43:18
- なんだろう…これ虐待じゃなくて哀しいシリーズだな……
そういえば『ゴッド・お父さん』の成り上がりを他作者が書いてたな -- 2012-11-28 01:36:22
- 仁義なき戦いみたいです。ゲスファミリー優秀。 -- 2012-09-09 19:03:14
- みょんの中ってどうなっているんだ?
4枚目のぱちゅりーがバカっぽいwww -- 2012-03-28 22:03:29
- みょんカッケーーーーー
設定もおもしろい -- 2011-12-22 15:59:12
- みょん怖ぇwww
-- 2011-10-19 19:59:04
最終更新:2010年01月23日 06:26