誰も救われない話 35KB
悲劇 差別・格差 れいぱー 久々にてんこの出ないシリアスものです。
※餡子ンペ09に出展するはずだった作品を書き直したものです。
※駄文、稚拙な表現注意。
※俺設定注意
「ふう・・・今日は次で終わりにするか。」
寒々とした山で俺は一人で白い息を吐いた。リュックを背負い、手に持ったスコップを小脇に抱え、目当ての物を探し求める。
真冬だから当然寒いが、このあたりは雪が積もらないのでまだ動きやすい。
目当てのもの。それは冬篭りしているゆっくりの巣だ。
と言うとゆっくりをむりやり寒空に引きずりだして虐める虐待お兄さんと勘違いされそうだがぜんぜん違う。
自分はゆっくり学部の学生で別に虐待趣味もない。
今回教授から出されたレポートのテーマが「冬季におけるゆっくりの生態」な為、それを書くのに必要な話をゆっくり達に聞きに来たのだ。
友達からは図書館の資料やネットで調べればいいじゃないかと言われたが、どうもそれは性に合わない。
真実はいつも自分の足で探し求めなければならない。それが俺のポリシーだ。
まあこれは同じ幻想大学の射命丸先輩の受け売りなのだが。
「おっ!?あれなんてそれっぽいな。」
そうこうしているうちにそれらしき穴を見つける。直径1メートル強ほどの横穴でいかにもゆっくりが住み着きそうな感じだ。ガイアがこの穴を探せとささやいてるぜ。
穴の脇にスコップを置き、ライトを取り出す。中腰になりながらそろそろと俺は中に入る。
なにやら丸いものが穴の中で動いている・・・ビンゴだ。
居るのはれいむか?まりさか?俺は目を凝らす。
しかし・・・・
「・・・なんだ?こいつ?」
俺はそのゆっくりを見て思わず声を上げてしまった。
その奇妙なゆっくりは何度も見たことがあるけど、はじめて見るゆっくりだったのだ。
誰も救われない話
わかりづらい言い方をして申し訳ない。しかし本当にそうとしかいいようがないゆっくりなのだ。
それは金髪のぱちゅりーだった。大きさは子ゆっくりより一回り大きいくらいでぱちゅりー種特有のぼうしからキラキラ光る金色の髪をのぞかせている。
もちろんぱちゅりー種自体は腐るほど見たことがある。
テレビで雑誌でゆっくりショップの店頭で。野良で野生で飼いゆっくりで。
むしろ一度も見たことがない人間こそいないだろう。とにかく何度も見てきたのだ。
しかし金髪のぱちゅりーなど見たことがない。
もしかして新種・・・?だとしたらゆっくり学部の学生としてこれほど興味深い個体はない。
興奮しながら洞窟の中に入る俺。当然逃げようとするぱちゅりーだがそれをむんずと捕まえる。
薄暗いのでぱちゅりーをライトで照らし、まじまじと見た。もし新種だとしたら大発見なのだが・・・
「なーんだ・・・」
すぐに興奮と期待は落胆へと変わる。結論から先に言えばそれは新種でもぱちゅりーでもない。
それはぱちゅりーの帽子をつけたありすだった。よく見れば、ぱちゅりー特有の太い2本のもみ上げもなく髪も短い。薄暗い洞窟の中なので分からなかったのだ。
しかしそうなると別の疑問が湧いてくる。なぜこのありす、ぱちゅりーの帽子など着けているのだろう?
ゆっくりにとって飾りはアイデンティティそのもの。命の次に大事なものなはずだ。
時折、飾りを失った野良が他のゆっくりを襲い、そいつのお飾りを奪うこともあるがそれも同じ種類のゆっくりでしかやらない。
このケースのようにありすがぱちゅりーの帽子を被っているケースは皆無といっていいだろう。
だとしたらなぜ?わからない・・・
「お・・・おにいさん!!そ・・そのこをはなしてあげてね!!!」
「ごほ・・・ごほっ・・・そのおちびちゃんはぱちぇたちの・・ごほっ・・だいじなおちびちゃんなの・・・」
ありすを抱えたまま考え込んでいた俺だがゆっくり達の声にハッと我に返った。
おそらくこのありすの両親なのだろう。そこにいたのはまりさとぱちゅりーだった。
ぱちゅりーはかなり顔色が悪く声をだすたびゴホゴホと苦しそうに咳をしている。今にも死んでしまいそうで、見ているこっちがハラハラしてしまう程だ。
ますます謎が深まる。こいつらが親だとしたら子供はまりさ種かぱちゅりー種かのどちらかしか生まれない。
なんでありすが産まれたんだ?チェンジリンク?例えそうだとしても帽子の謎が解せない。
「お・・おねがいします!!おにいさん!!そのこをつれていかないでくださいぃいいい!!!おちびちゃんはとってもゆっくりしたいいこなんです。」
顔を擦り付けるようにして懇願するまりさ。人間で言うところの土下座といったところか。
どうやら俺を虐待お兄さんか密猟お兄さんか何かだと勘違いしたらしい。俺は慌ててありすを放し、事情を説明する。
自分は虐待お兄さんでも密猟お兄さんでもないこと。
研究のためにゆっくりの話を聞いているだけで危害を加えるつもりは一切ないこと。
そして協力してくれれば冬ごもりに必用な食料(野菜クズ)をあげること。
最初は疑わしそうにしていた3匹だが、野菜クズをやると聞くとピクリと反応を示した。冬のゆっくりにとって食料の確保は死活問題である。仮に十分な量を確保できていたとしても多いにこしたことはない。
「ねえ、おとうさん。おやさいがてにはいるのならきょうりょくしてあげてもいいんじゃないの?」
「ゆう・・・おちびちゃん・・・でも・・・」
「うちはだいじょうぶだけど、ごはんさんがたりなくてふゆをこせないところがあるかもしれないわ。そういうところにごはんさんをわけてあげるのよ。ぱちゅは・・・だいじょうぶだから・・・」
「ゆう・・・おちびちゃんがそういうのなら・・・・」
ありすに促されあまり乗り気ではなさそうだがまりさも承諾した。
「ごほっ・・・さすがまりさとぱちゅりーのおちびちゃんだわ・・・むれのみんなのことをかんがえることができるなんて・・・おちびちゃんならきっとみんなをゆっくりさせられるりっぱなもりのけんじゃになれるわ・・・ごほごほっ・・」
咳き込みながらも笑顔のぱちゅりー。子供が順調に次の長として成長しているのがうれしいのだろう。
「・・もちろんよ。ぱちぇはおかあさんみたいなりっぱなゆっくりになるんだから。」
そういって母ぱちゅりーにすーりすりするありす。ありすなのにぱちぇが一人称というのは違和感があるが、それ以外は仲睦まじい親子の微笑ましい光景だ。
しかし俺は見てしまった。
喜んでいるぱちゅりーの傍らでありすとまりさの表情が一瞬、影がさした事を。
それはやるせなさや罪悪感に満ちた顔だった。
「すまないな・・・・わざわざ寒いとこまで出てきてもらってしまって・・・」
「ゆう・・・いいよ。そんなこと・・・」
俺、まりさとありすは洞窟の外へ出た。ぱちゅりーを1匹だけ巣に残して。
狭い洞窟では落ち着いて話もできないので外で話を聞くということにし、具合の悪そうなぱちゅりーは巣で待っているよう俺が提案したのだ。
自分の家族が見知らぬ人間に連れて行かれることに不安そうなぱちゅりーだったが、どの道病弱な自分がいっても足手まといにしかならないと判断したのかあっさりその要求を受け入れた。
「さて・・・この辺でいいかな・・・」
俺は巣から少し離れた場所にある岩に腰掛けた。ここならすぐそばに茂みもあるので風もこない。まりさ達も寒くないだろう。
まあ場所はどこでも良かったのだ。ぱちゅりーのいない場所ならどこでも。
先程の表情で俺は分かってしまった。この2匹はぱちゅりーになにか隠し事をしていると。
おそらくそれがぱちゅりーの帽子をかぶったありすという奇妙な状況に関係があると俺は踏んだのだ。
「で・・・話というのはそのありすのことなんだけど・・・」
「ゆう・・・やっぱりにんげんさんにはわかっちゃうんだね・・・・」
ため息をはきながらまりさはつぶやいた。通常ゆっくりは飾りで個体や種族の認識を行う。さきほど親ぱちゅりーが子ありすを同じぱちゅりー種だと思っていたのもその為だ。もちろん人間相手には通じない偽装ではあるが。
それを見破られても驚かないあたりこのまりさ、人間とゆっくりの認識の違いについてちゃんと理解しているようだ。
「良かったら話を聞かせてくれないか?勿論タダとは言わないからさ。」
ゴソゴソと俺はリュックから残りの野菜クズを出す。これだけあれば冬もかなり裕福に過ごせるだろう量だ。
「これだけあれば他のゆっくりにも配ることができるぞ。そうすれば群れで餓死するものもいなくなるんじゃないか?」
「でも・・・・」
迷いながらもチラリと子ありすをみるまりさ。どうやらありすのことを気にしているらしい。
「いいのよ、おとうさん。ぱちゅのことはきにしないで。このにんげんさんはいいひとみたいだし・・・」
そんなまりさにニコリと笑うありす。
「・・・ついてきて、にんげんさん。あんないしたいばしょがあるの・・・」
そう言うとありすは跳ねだした。
なにやら深い事情がありそうだ。俺もそれについていく。
後でまりさが悲しそうな表情をしていたのが、やけに印象的だった。
10分程歩いただろうか。眺めのいい丘の上でありすは跳ねるのをやめた。
「ここよ。おにいさん・・・」
そこはわずかばかりながら冬にも関わらず花が咲いていた。なかなか景色のいい場所だ。
「これって・・もしかして・・・墓なのか?」
小さな盛り土にお供え物らしき、花や木の実が置いてある。
「ええ・・・これはほんもののぱちゅりーのおはかよ。」
本物のぱちゅりー?どういうことだ?本物が死んだのならお前は一体何者なんだ?
混乱する俺をよそに、ありすは近くにあった花をプチリとちぎりそっと花を墓に供えた。
そして静かに語り始めた。なぜ自分がぱちゅりーになったのかを。
ありすはあるゆっくりれいむの子として生を受けた。植物型にんっしんっで3匹姉妹の末っ子、2匹のれいむの妹としてだ。
「ゆっくちしちぇいっちぇね!!」
ありすは夢見ていた。両親と姉妹に囲まれたゆっくりした生活を。
母親にすーりすりしてもらい、姉妹全員で日なたぼっこやお歌を歌ったりする。夜は一緒にむーしゃむーしゃして幸せな気分でみんなで眠る。
そんなささやかなゆっくりとしての幸せをありすは望んでいた。
しかしその夢は誕生してすぐに打ち砕かれることになる。
「・・・・・・・・」
母れいむはありすの誕生のご挨拶に答えない。ただ冷たい目でありすを見下ろしているだけだった。
子ありすが母れいむから受けた視線。それにはありすへの愛情もありすが誕生した喜びもない。
その視線には憎悪と汚物を見るような嫌悪感しか存在しなかった。
「・・・?ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」
挨拶のしかたが悪かったのかと更に大きな声で挨拶するありす。しかし、れいむの険しい表情は変わらない。
それどころかありすの髪を口でガブリとくわえそのまま巣の外へひきずり出し始めた。
「やめちぇね!!いちゃいよ、みゃみゃ!!」
頭頂部の痛みに泣き叫ぶありす。人間で言えば髪をつかまれ引きづられているようなものだから当たり前だ。
しかしれいむは止めようとはしない。ありすをくわえたまま外に出て・・・ぶんとありすを放り投げた。
べちゃ!!!
「ゆべっ!!いちゃい・・・いちゃいよ・・・みゃみゃ・・」
地面に叩きつけられたショックにのたうつありす。
幸いクリームが出るような傷は負っていないがそれでも痛いことには変わりない。肉体的にも、そして精神的にも。
自分はなにもゆっくりできないことなんてしてないのになぜこんな仕打ちを受けねばならないのか。
涙がひとしずくありすの頬をつたう。あまりに理不尽である。
しかし現実は非情だ。ありすが痛みで動けない間に母れいむは入り口を木の枝でふさぎ始めている。
ありすは慌てた。このままではおうちに入れなくなってしまう。痛む体に鞭打ち起き上がる。
「みゃみゃおうちにいれちぇね!!」
必死に入れてと懇願するがするがれいむは全く聞き入れようとしない。入り口をふさぎ終わるとそのまま巣の奥へ消えていってしまった。
「どうちて?ありしゅもゆっきゅりさせてぇええええ!!!」
声の限りさけぶありす。しかし巣への入り口は堅く閉ざされたままで二度と開くことはなかった。
「ゆーんゆーん。みゃみゃおうちにいれてぇえええ!!!」
「きょんなのとかいはじゃないいいいい!!!」
見れば泣き叫ぶありすは自分一人ではない。この群れの至る所で赤ありす達が巣に入れてもらえずにいた。
なぜこのようなことが起こってしまったのか。
実はこの群れは1週間程前にれいぱーありすの群れに襲われていたのだ。
不幸中の幸いだったのはこの群れの長がみょんだったこと。自身もゆっくりとしてはかなり強いほうで、日ごろから合間を見ては群れの皆にも稽古をつけていたのでこの群れは戦闘能力が他の群れより高かったのだ。
なんとかれいぱーの撃退に成功した群れのゆっくりたち。数、身体能力ともに上回るれいぱーありすを退かせることができたのだから奇跡といってもいいレベルの勝利だろう。
しかし勿論こちらも無傷とはいかない。多数の死傷ゆっくり、そしてれいぱーありすによってにんっしんっさせられたゆっくりがでてしまった。
「どうしようおさ・・・れいむ、れいぱーのこなんてうみたくないよ・・・・」
「まりさもだよ・・・それにこんなにおちびちゃんがうまれたらごはんさんもたりないよ・・・」
「・・・みょん・・・」
みょんは困った。このみょん、戦闘や戦術に関する能力は高くても、群れを治める政治能力は並なのだ。この難解な局面を乗り切る妙案など浮かぶはずもない。
悩んだあげくみょんは以下の事を群れに告げた。
子供はきちんと産み育てるようにすること。守らない場合は制裁の対象とする。
ただしその子供にはありす種は含まれない。例え何があっても群れとしては関知しない、と。
つまりありすは間引こうが、捨てようがお咎めなし。事実上のありす種の棄民政策だ。
一見、無責任で薄情に思えるが、これはみょんにとっても苦渋の決断だった。
季節は晩秋。もうすぐ冬ごもりだ。にんっしんっしている子供達全員を育てれば間違いなく冬が越せない。
それにれいぱーありすにそっくりなありす種の子供達を育てることは精神的にも酷だろう。家族や仲間をれいぱーに犯し殺されたものも大勢いるのだから。
今回の戦いでの戦死者は赤、子ゆっくりも多く含まれている。その分の食料をこれから産まれてくる子供達の食料に回せばなんとか半分程度は育てられそうなのだ。
そう、ありす種以外の半分を、である。幸いにもこの群れにはありす種はいない。
ちなみにまだこの赤ありす達はマシなほうなのだ。生まれる前に間引きされた実ありすも数多くいたのだから。
産んでもらえただけ、生きているだけでまだ幸運といえるだろう。絶望しかなくても生きていることを幸運というのなら、だが。
こうして産まれながらにして親に捨てられた赤ありす達。
厳しい大自然の中で、親の庇護のない赤ゆっくりの運命など朝露のように儚い。
「ゆぁあああああああああああん!!!」
赤ありす達の鳴き声はいつまでも森にこだましていた。
その後、巣の前で待ち続けたありす達。しかし二度と巣の中へ入れてもらえることはなかった。
たまに出てくる大人ゆっくり達に助けを求めてもチラリと一瞥されるだけで完全に無視。無理に近づこうとして体当たりを喰らいそのまま動かなくなった者もいた。
それでもありすは待ち続けた。いつか許される時が来るのを信じて。
「・・・・・よ。」
(ゆっ?みゃみゃのこえだよ)
入り口ごしに聞こえる母の声。聞き耳をたてるありす。
「みゃみゃ、どうしてあのこをおうちにいれてあげないの?」
「あにょこはれいみゅのいもうちょなんでしょう?」
どうやら先に生まれた姉れいむたちと母れいむが何か話している。
妹をなぜ巣へ入れないのか不思議に思っていたのだ。姉妹なのだから当然の疑問だろう。
「いい、おちびちゃんあのこはね。れいぱーなんだよ。」
「ゆっ!?れいぱー。」
驚く姉れいむ達。産まれたばかりでも本能的にれいぱ−がゆっくりできないものだというのは分かるようだ。
「そうだよ。あいつはれいぱーなんだよ。むりやりすっきりーして・・えいえんにゆっくりさせちゃうれいぱーなんだよ!!」
れいむは絶叫する。外まで聞こえるような大声で。いつしかその声は涙声になっていた。
「あいつらのせいでれいむは・・・れいむは・・・うわぁあああああ!!!」
巣の中で泣き崩れるれいむ。このれいむもまたつがいのまりさとその子供を犯し殺され、自身も無理やりにんっしんっさせられた。
その悲しみが癒えていなかったのだ。
そんな母親の姿にショックをうける子れいむ達。しかしもっとショックを受けたものがいた。
(ありしゅが・・・れいぱー!?)
ゆっくりは餡子(クリーム)に記憶を受け継いでいる。だから生まれながらにして言葉もしゃべれることができる。
その記憶が言っている。れいぱーはゆっくりできないものだ。そして自分がれいぱーと同じありす種であることも。
そのゆっくりできないものだと実の母へ断言されてしまったのだ。
(しょんな・・・しょんなことって・・・)
確かに踏みしめているはずの地面がグニャグニャと歪んで見える。それほどありすはショックを受けていた。
巣の中からは母れいむの泣き声が聞こえる。まるでありすを責め続けるように。
この赤ありす、他の赤ゆっくりと比べて飛びぬけて賢く、善良だった。しかし賢いがゆえに全てを悟ってしまったのだ。
もはやありすに帰る場所など存在しない。なぜなら自分はゆっくりできないれいぱーなのだから。
そうどうしようもなくありすは理解してしまった。
ヨロヨロと巣から離れていくありす。
行く当てがあるわけではない。ただ母の泣き声が聞こえない場所に行きたかった。
数日後、そこにはボロボロで痩せこけたありすがいた。
その頭にはあるはずのカチューシャもなく、跳ねることもできずズリズリと這い回っているがそれすらも休み休みである。
あの後ありすはなんとか一人で生きようとした。
なんとか食べられる草、そして自分が住むおうちをさがす。
しかし現実は甘くない。
もう冬に近い山々にはほとんど食べられる草など存在せず、都合良く先住者のいないうちなど見つからない。
時折見かける他の群れのゆっくりに助けを求めても誰もありすに係わり合いになろうなどしない。母れいむと同じ侮蔑や嫌悪感がみえみえの表情で無視されるか、理不尽に罵倒されるだけ。
時には「れいぱーはしねぇええ!!!」などと言われながら体当たりされそうになることもあった。
挙げ句の果てにカラスの襲撃に遭い命の次に大事なカチューシャを取られる始末。
最初は良く見かけていた他の捨てられた赤ありすも見なくなった。おそらく厳しい自然の前にあえなく全滅したのだろう。
ポツ・・・ポツ・・
いつの間にやら雲行きまで怪しくなってきた。雨はゆっくりの大敵で長く当たれば溶けてしまう。小さなありすなら尚更だ。
しかしありすにはもう雨風をしのげる場所まで動く体力は残されてなかった。
このまま雨で溶けて死んじゃうのか・・・・そうありすが覚悟したとき。
「ゆっ?あれは・・・」
目の前に大きな洞穴が見えた。あれなら雨風をしのげそうだ。
あそこで雨宿りをしよう。そう思い最後の力を振り絞り跳ねていく。
これが自分の運命を大きく変えるとも知らずに・・・
「はぁはぁ・・・・ゆふぅ・・・」
洞窟にたどり着き一息ついたありす。しかしこの洞窟にはすでに他のゆっくりが住んでいた。
「ゆっ!?だれなのそこにいるのは!?」
急に詰問されてビクッとするありす。そこにいたのはこの辺りの群れの長であるゆっくりまりさだった。
「ご・・・ごみぇんなしゃい!!だれきゃのおうちとはしらなかったんでしゅ!!」
なんとか許してもらおうと小さな体を縮めて謝る。この山はれいぱーが良く出る為ありす種の地位が甚だ低く、ましてやれいぱーの子など犯罪者予備軍としてしか扱われない。巣に無断に入れば問答無用で潰されても文句は言えないのだ。
「ごほごほっ・・・どうしたのまりさ。なにかあったの?」
そのとき巣の奥から声がした。
暗がりの中目を凝らしてみるとそこに顔色の悪いぱちゅりーが座っている。腹部のあたりが膨らんでいるので胎生にんっしんっしているらしい。
「ゆぅ・・・それがおかざりのないおちびちゃんがきているんだよ。」
「むきゅ?おちびちゃん・・・ごほ・・・なにかあったの?よかったらぱちゅたちにはなしてくれないかしら。」
怯えるありすに、にっこりと笑いかけるぱちゅりー。
ありすは涙ぐむ。ありすはこれまで優しくされたことがなかった。
今までありすが受けたもの。それは憎悪や嫌悪そして侮蔑といった負の感情ばかり。
こんなふうに微笑まれたことなどなかったのだ。
ありすは話した。その不幸な生い立ちの全てを。
時に涙で声をつまらせながら。時に涙で顔をクシャクシャにしながら・・・・
「ゆう・・・そうだったの・・・」
あまりに酷い話に言葉も無い二匹。ありすのしゃくりあげる声だけが巣に響く。
二匹ともありす種の差別に心を痛めていたのだが、ここまで酷いとは思っていなかった。
特にぱちゅりーはこのありすの境遇に深く同情したようである。
「ねぇまりさ。このこ、しばらくおいてあげることはできないかしら・・・ごはんはぱちぇのをはんぶんあげるから・・・」
「ゆう・・・・・」
まりさは困った。食料のことではない。食料ならこれから生まれてくる子供の分や冬ごもりの分を考えても余分にある。
にんっしんっしているぱちゅりーも小食。問題は別なのだ。
問題は・・・・この子がれいぱーありすの子だということ。
このあたりはれいぱーが多く、いつ豹変するかわからないということでありす種は迫害される傾向にある。
事実ありす種は隔離された場所に住まわされているくらいだ。
ましてやありす種でお飾りもない子など他のゆっくり達が群れの一員として認めてくれるはずもない。れいぱーの子である以上、今は良くても将来れいぱー化する可能性もある。
まりさはこの群れの長だ。ゆっくりでなしと言われようが群れの未来に禍根を残すような存在は排除するのが正しい。
そう長としては正しいのだが・・・
まりさはありすを追い出さなかった。
赤ゆっくりを寒空の下へ放り出すことなど死ねと言っていることに等しい。どうしてもそんな非情な判断をまりさはできなかった。
このまりさ、長をやるにはあまりに善良で優しすぎたのである。
その日の夜。
「むきゅ、そろそろねましょう、おちびちゃん。」
「わ・・わかっちゃわ。おばちゃん。」
「ふふっ。ママでいいのよ。ここにいるあいだはわたしがおかあさんなんだから。」
ベッドに入るぱちゅりーにおずおずとありすが続く。まりさはもう先に隣にある自分のベッドで寝ている。色々ありすのことで悩んでいたら疲れたらしい。
(うわぁ・・・ふかふかしちぇちぇとってもときゃいはだわ・・・)
あまりの寝心地のよさに驚くありす。それもそのはず。ぱちゅりーのベッドは干草をふんだんに使った特別仕様なのだ。大きさも子供が産まれたも一緒に寝れるように、かなり広めにまりさが作ってくれた。
その広いベッドの隅で縮こまるように眠ろうとするありす。そんなありすにぱちぇりーは何も言わずに、すーりすりをした。
思わず泣きそうになるありす。こんなふうに他のゆっくりの体温を感じるのは初めてだ。今まで迫害され、罵倒され、蔑まれ続けたのでありすは母のぬくもりというものに慣れていなかった。
「ねぇ・・・どうちてありしゅにやさしてくれるにょ・・・?ありしゅなんてゆっくりできないのに・・・」
自分は何の価値もないゆっくりできないれいぱーのはず。実際、他のみんなはありすを汚物のように扱ってきた。
なのにぱちゅりー達だけは自分に優しくしてくれる。それが不思議ならなかった。
「むきゅ、ありす、じぶんでじぶんのことをゆっくりできないなんていっちゃだめよ。そんなこといってるとほんとうにゆっくりできないゆっくりになっちゃうわ・・ゴホゴホッ・・」
優しく諭すようにたしなめながら、少し咳き込むぱちゅりー。
「まあ、なぜといわれれば・・・おちびちゃんとぱちゅりーがにているからかしら・・・」
そう言ってぱちゅりーは自分の身の上話をし始めた。
ぱちゅりーもまた病弱なのを理由に捨てられた子で、自分など世界に必要ないと思っていた。
しかしそんなぱちゅりーを拾ってくれたのが今住んでいる群れの長だった。実の家族ですら冷たくされ続けたぱちゅりーを先代の長まりさ達は暖かく迎えてくれた。
その恩に応えるべく薬草や群れの運営を猛勉強したぱちゅりー。その努力が認められ現在の長まりさのつがいになることが許されたのだ。
「だからおちびちゃんもね、じぶんはゆっくりできないなんておもわなくていいのよ。きっとあなたのことをみとめてくれるひとがたくさんいるはずだわ。」
「あ・・・ありがちょう・・・ぱちゅりー・・・みゃみゃ。」
もじもじと照れながらママというありす。産まれて初めて自分の存在を認めてもらえたようで嬉しかった。
この日ありすは産まれて初めて他のゆっくりと一緒に寝た。ぱちゅりーの体は温かくふわふわしていて、とてもゆっくりすることができた。
ありすがまりさの巣に来て1週間が過ぎた。
森の中をポインポインと跳ねていく大小2つの影。まりさとありすだ。
こころなしか2匹とも元気がないように見える。
「きょうもだめだったね・・・・」
「ごめんなさい・・・ありすがいなかもののれいぱーだから・・・」
「そ・・そんなことないよ!!ありすはゆっくりしてるよ!!」
うなだれるありすを必死で励ますまりさ。
まりさ達はここ数日狩りと一緒にありすの里親を探していた。一緒に暮らせないのならせめて里親ぐらいというわけだ。
今日は少し遠出をしてありす達が住むありすの里と呼ばれる場所へ行ってきた。
ありす種が差別されるのならありすの元へ行けば里親が見つかると思ったからだ。しかし結果は見てのとおりである。
そもそも、あの場所はありすの里といえば聞こえはいいが、なかばありす種の強制収容所に近い場所なのだ。
餌場も少なく住み心地も最悪の場所に隔離されたスラム街や吹き溜まりといってもいい。
当然食料の余裕などなく、自分の子供でさえ育てられないものがいるような状況である。
そんな中、れいぱーの子供でお飾りもない奴を育ててくれる物好きなどおらず、けんもほろろに断られた。
ちなみに他の群れのゆっくりにも里親を頼みに言ったがやはり駄目。それどころか、そのれいぱーの子と縁を切らないのであれば、今後はそちらの群れとの付き合いを考えさせてもらうというゆっくりまでいた。
まりさは焦っていた。
なんとかせねば・・・・もうすぐ冬ごもりが始まってしまう。
こうなれば、町まで下りて地域ゆっくりに助けを求めようか。
風の噂では1丁目のゆうかがお飾りのないさなえを養子にしたらしい。ならばこの子も・・・
実際ありすは優秀だ。自分やぱちゅりーの教えたことはちゃんと1回で覚えるし、赤ちゃん言葉が抜けるのも早かった。性格も思いやりのある善良なゆっくりだ。地域ゆっくりとしても十分やっていける素質を持っている。
れいぱーの子でなければ皆から愛され、将来は群れの長になり幸せなゆん生を送れただろう。
もし、この子が自分の子供だったら・・・そう、考えてもしょうがない、もしもの話を考えてしまう。
ありすの未来のためにまりさは悩んでいた。
「ゆっくりただいまー。」
「むぎゅ・・・おかえりなさい・・・ごほごほっ・・」
まりさ達は巣に帰ってきた。ぱちゅりーが出迎えるが相変わらず顔色が悪くすぐ咳き込んでしまう。
「どうだった?ありすのあたらしいかぞくはみつかりそうかしら・・」
「も・・もちろんだよ。ありすのあたらしいおかあさんになりたいゆっくりはたくさんいるよ。いまはだれのところがいいか、ありすとえらんでいるところだよ。」
「そ・・そうよ!!みんなとかいはなゆっくりだわ。」
ぱちゅりーにはいい里親が見つかりそうだと嘘をついている。
にんっしんっ中のぱちゅりーに余計な心配をかけたくなかったからだ。
「ごほっごほっ・・・」
「だいじょうぶ、ぱちゅりー?」
咳き込むぱちゅりーを気遣うまりさ。もうすぐ出産日のはずなぱちゅりーだが、最近は体調が悪化したのか咳き込むことが多く、食事もほとんど食べようとしない。
元々体の弱い体質だったがにんっしんっして以来さらにひどくなっているようだ。
(ゆう・・・しんぱいだよ・・・)
まりさの悩みの種は尽きない。
ありすはぱちゅりーの子供が産まれて来るのを楽しみにしていた。まるで自分の妹が生まれて来るかのように。
母の愛情を知らないありすにとってぱちゅりーは母親同然だった。
優しく微笑んですーりすりをしてくれるぱちゅりー。赤の他ゆっくりであるありすがママと呼んでも嫌な顔ひとつしなかった。
ありすはぱちゅりーが大好きだった。だがだからこそ自分はぱちゅりーと一緒にいてはいけないとも思っていた。
ぱちゅりーは、ああ言ってくれたが、自分は所詮れいぱーの子。誰もが忌み嫌うゆっくりできない存在。
そんなものが近くにいては、ぱちゅりーとまりさ、そして産まれてくる子供がゆっくりできない。
そうありすは考えたのだ。
子供が産まれたらここを出よう。幸いまりさは狩りの名手。
そのまりさの狩りについていったことでありすは狩りの基本を覚えることができ、冬でもご飯が採れる餌場も教えてもらった。
もちろん、だからといって赤ゆっくり一人で生きていけるほど甘くない。冬を越せず死んでしまう可能性のほうが高いだろう。
だがそれでもいいとありすは思った。
自分のせいで皆が差別されゆっくりできなくなるぐらいなら、自分が死んだほうがマシだ。
自分が居なくてもこれから産まれてくる子供がぱちゅりー達をゆっくりさせるだろう。むしろその幸せに自分は邪魔なのだ。
そんな悲壮なまでの決心をするありす。
今日もありすはぱちゅりーの隣で眠る。ぱちゅりーのぬくもりを感じながら。
一人で生きていくことになっても、せめてこのぬくもりだけは忘れぬように。
そしてありす達は運命の日を迎えることになる。
その日はどんよりと曇っていていつ雨が降ってきてもおかしくない天気だった。
「ごほっごほっ・・・うまれるわぁ・・・・・・」
「ぱちゅりーがんばって!!がんばってね!!」
いきむぱちゅりーと励ますまりさ。予定日からだいぶ遅れてぱちゅりーが産気づいたのだ。
(がんばって、ぱちゅりーまま・・・)
まりさの後ろでありすも見守っている。自分にできることは何もないが、せめて産まれる赤ちゃんを祝福しようと思ったのだ。
「うまれるぅうう!!!」
ぽんっ、と音を立てて赤ゆっくり。 重力に従いポテリと地面に落ちる。
子供を産み落とすとぱちゅりーは気を失った。どうやら出産で全ての体力を使い切ったらしい。
「こ・・・これは・・・」
産まれて来た子を見てまりさは絶句した。
「むぎゅ・・・むぎ・・・ゅ・・・」
誕生の挨拶もできず意味不明な鳴き声を放ち続ける異形の物体。
ぱちゅりーの帽子に目や口など顔の配置もグチャグチャのそれがブルブルと小刻みに震えている。
奇形ゆっくりだ。
出産時に極まれに起きてしまう悲劇。恐らくぱちゅりーの母体に何らかの原因があったのだろう。
口の中がカラカラに乾き、つばも飲み込めないまりさ。
まさか・・・まさかこんなことが起きるなんて・・・
産まれて来た赤ゆっくりが奇形だった場合殺す。それがこの群れのルールだ。
ひどいと思われるかもしれないがこれが自然の摂理。役に立たない足手まといを養っていけるほど野性の世界は簡単ではない。
幸いにもぱちゅりーは気絶している。今なら、ぱちゅりーに見られずにこの子を永遠にゆっくりさせることができる。
殺すしかないのだ・・・殺すしか・・・
そう思い思いつめた顔で奇形ぱちゅりーに近づくまりさ。その口には護身用の尖った棒がくわえられている。
中枢餡を一突きすれば楽に死ねるはずだ。涙でにじむ視界で目標を定め・・・刺そうとした。
「やめちぇえええ!!!そのこをころさないでぇええええ!!!」
叫び声にはっとするまりさ。その声の主はありすだった。まりさと奇形ぱちゅりーの間に割って入り仁王立ちする。
ありすは本能的に解っていた。これからまりさが何をしようとしているのかを。
「そのこがしんじゃったらぱちゅりーママもかなしむわぁあああ!!!」
「ゆ・・・う・・・でも・・」
まりさは戸惑う。たしかにありすの言うとおりだ。
ぱちゅりーは子供の誕生を楽しみにしていた。もしそれが奇形児で自分のつがいに殺されたとあってはその心労は計り知れない。
ただでさえ体の弱いぱちゅりーのことだ。最悪ストレスで死んでしまうこともあるだろう。
だが・・・・
二匹が言い争っていたそのときだった。
「むぎ・・・むぎゅうううううう・・・・」
急に苦しむ出す奇形ぱちゅりー。不自由な体をジタバタと痙攣させ苦しさを露にしている。
「や・・・やっぱり・・・」
まりさは知っていた。奇形ゆっくりは長くは生きられないことを。
元々奇形ゆっくりは安全な母体の中でかろうじて生きていられるような脆弱な存在だ。産み落とされた後は長くても数日しか生きることはできない。体力のないぱちゅりー種なら尚更のこと。
だからこそまりさは奇形ぱちゅりーを殺そうとしたのだ。
例え子殺しの十字架を背負おうとも。せめてこの子が苦しまず逝けるように。
それが親としてできるせめてもの、最初で最後の愛情だと信じて。
「ぱ・・ぱちゅりーゆっくりして!!ゆっくりしてね!!」
なんとかぱちゅりーにゆっくりしてもらおうとぺーろぺろやすーりすりを繰り返すありす。しかしそんな物で治るはずもない。
徐々にその命の炎は消えつつあるのがありすにもわかる。
ありすはこの子に生きて欲しかった。
この子ならぱちゅりーとまりさをゆっくりさせることができるのだ。皆に愛されゆっくりできることも。
れいぱーの子である自分とは違う。
奇形ゆっくりかなんて関係ない。生きて・・・生きてゆっくりして欲しい。それがありすの願いだ。
しかし運命はあまりに残酷だった。
「むぎ・・・む・・・・」
赤ぱちゅりーの頭から音もなくお帽子が落ちる。まるで失われる命を暗示するかのように。
最後に小さく痙攣した後、ぱちゅりーはもう永遠に動くことはなかった。
五分、十分、それとも数時間。
どれだけ赤ぱちゅりーの死体の前で呆然としていたのだろうか。いつのまにか外はどしゃ降りの雨になっていた。
まりさは、ぱちゅりーの方を見た。ぱちゅりーは精根尽き果てながらもどこか幸せな顔をしている。
おそらく産まれたおちびちゃんとゆっくりする夢を見ているのだろう。ぱちゅりーはこの子が産まれてくるのをずっと楽しみにしていた。
病弱でなかなか子供を作れなかったぱちゅりー。体力的になかなかすっきりーできない上、不にんっしんっ体質だった為なかなか子供に恵まれなかった。
この群れでおちびちゃんがいない家族はまりさ達だけ。自分のせいでまりさに寂しい思いをさせているといつも負い目に思っていたのだろう。
だからこそ今度のにんっしんっを誰よりも喜んだ。
ぱちゅりーが目を覚まし、このことをこのことを知ったらどれだけ悲しむだろう。
ああもしこの子が生きていてくれたら・・・
「・・・ゆっ!?」
まりさは目を疑う。そこには死んだはずのぱちゅりーが立っていたのだから。
勿論、奇跡が起きたわけではない。
ありすが赤ぱちゅりーの帽子を被っているだけだ。ゆっくりは個体認識を飾りで行う為一瞬そう見えただけだ。
「な・・・なにをしてるのありす?それはぱちゅりーのぼうしでしょ・・・・」
ありすの思わぬ行動に驚くまりさ。
「ありすが・・・ありすがしんだぱちゅりーのかわりになるわ!!」
「な・・・なにいってるのありす!!?そんなのむりにきまってるでしょお!!」
「でも・・・おちびちゃんがしんだことをしったら、ママはとてもかなしむわ・・・」
「で・・でも・・・」
あまりに突飛なありすの行動にまりさは動揺を隠し切れない。
確かに帽子を被れば、ぱちゅりーと偽ることは可能だ。群れの皆にもばれないだろう。
しかしそれは机上の空論にすぎない。
ありす種とぱちゅりー種の個性の違いもある上、もし他のゆっくりに正体がばれた場合ぱちゅりーを殺して、長の子供に成り代わろうとしたゲスありすと勘違いされ殺されるかもしれないのだ。
あまりに危険すぎる。
しかし、ぱちゅりーを悲しませたくないのはまりさも一緒だ。
責任感の強いぱちゅりーの事だ。きっと赤ちゃんが死んだのは自分のせいだと自らを責め続けるだろう。
まりさは悩んだ末・・・結局ありすを止めることはできなかった。
こうしてありすは望みどおり、ぱちゅりーまりさ達の子として生きることになった。望まぬ形ではあったが・・・
ありすは群れの皆から歓待と祝福をもって迎えられた。
長の子供は次の長になることが多い。将来は自分達の指導者になるのだから当然と言えば当然である。
「ゆゆーん。とってもゆっくりしたぱちゅりーだね。」
「ちょっとかわってるけどかわいいおちびちゃんなんだねー。わかるよー。」
皆が口々にありすを褒め称える。つい先日まで害虫のように扱われていたのが嘘のようである。
友達もできたし、みんな優しくしてくれる。もう誰もありすを蔑みなどしない。
しかしありすは全くそのことを喜べない。表面では笑っていたが心の中では全くゆっくりしてなかった。
なぜならこれはありすのものではないから。
優しい両親も、友達も、みんなの優しさも。みんな元々ぱちゅりーの物だ。
自分はそれを横から掠め取ったゲスに過ぎない。
夜、眠ると悪夢を見る。死んだ奇形ぱちゅりーが出てくる夢だ。
夢の中でありすはゲスだと赤ぱちゅりーに糾弾され続ける。ありすは謝罪し続けるが、どんなに謝っても許してもらえない。
そして汗びっしょりで目覚めるのだ。
「どうしたのおちびちゃん?またこわいゆめでもみたの?」
そう言ってぱちゅりーはありすをあやすようにすーりすりしてくれる。いつもと変わらぬ優しさで。
そんなぱちゅりーの優しさがありすには何よりも痛かった。
もし全てを打ち明けることができたらどれほどいいだろう。しかしそれはできない。ぱちゅりーを悲しませることになるから。
今日もありすは、ぱちゅりーを演じ続ける。その先に未来などないことを知りながら・・・
長い独白は終わった。ありすはぱちゅりーの墓の横でうつむいたままだ。
「なあ、ありす・・・おまえこのままでいいのか?」
思わず口にしてしまう俺。こんな嘘がいつまでもばれずにすむとは思えない。
そしてこのままではありすに救いがなさすぎる。
「じゃあ・・・おにいさんはありすにどうしろっていうの?」
「どうって・・・」
思わぬありすの問いかけに口ごもってしまう。
「もしぱちゅりーであることをすててしまったら・・・ありすはまたひとりになってしまうわ。」
フッと目を伏せるありす。なんだかありすが消えてしまいそうなほど儚く見える。
「おにいさんがありすをかってくれるの?あたらしいかぞくになってくれる?むりでしょ・・・そんなこと。」
確かにありすの言うとおりだ。自分のアパートはゆっくりを始めペットは全面的に禁止。もしこのありすを飼うとしたらゆっくりオーケーのマンションあたりに引っ越さねばならないことになる。
たまたま会ったゆっくりにそこまでやってやる義理はない。貧乏学生には金銭的にも不可能だ。
「それに・・・たとえおにいさんがどんなにゆっくりしたひとでありすをかってくれるっていっても・・・ありすはここをでるわけにはいかないわ・・・」
「えっ・・・?」
「だって・・・ありすはぱちゅりーママのこどもだもの・・・たとえうそでもいい・・・ありすとしてじゃなくてもいい・・・ありすは・・・ありすはママのおちびちゃんでいたい・・・」
「・・・・・・・・・」
「そんなかおしないでおにいさん・・・これでもありすはしあわせなのよ・・・だいすきなママたちとやさしくしてくれるむれのみんなにかこまれて・・・」
そう言って微笑むありす。
しかし俺にはその笑顔がどんな泣き顔より泣いているように見えた。
「・・・あいつら、みんないい奴だったな・・・」
そうつぶやきながら山道を下る俺。もうすっかり夕暮れ時だ。
あの後、俺はリュックに残った野菜全てをまりさ達にやってきた。何もできない俺にはそれぐらいしかできない。
そう、皆いいゆっくりなのだ。
だが誰も救われない。誰も幸せになれない。
全員が善良なゆっくりあったが故の悲劇。1匹でもゲスがいればこうはならなかっただろう。
神とは残酷なものだ。こんな理不尽な運命をありすに背負わせるなんて。
しかめっ面で考え込む俺にヒラヒラと白いもの舞い降りる。
雪だ。このあたりでは珍しい。
この雪は積もるのだろうか。それともとけて消えゆく運命にあるのだろうか。
雪の降りしきる中、俺は家路を急いだ。
挿絵 byM1
あとがき
いつもご愛読ありがとうございます。餡庫に出てくるてんこの口癖をメスブタで統一したい長月です。
今回は羽付きまりさシリーズのような寒々とした読後感を目指してみたのですが・・・やはり難しいですね。
コメントでご意見・ご感想待っております。
PS
正月に挿絵を描いてくださった車田あき様、嘆きあき様、おまんじゅうあき様、本当にありがとうございます。
嘆き子ちゃんの出演に関しては次回以降の予定です。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- 願わくばこの優しい嘘が暴かれることがないように願うわ -- 2016-07-29 15:45:58
- 鋼の錬金術師の盲目の錬金術師の話のオマージュだよね
サイトルが最後に主人公が言うセリフと同じだし、ありすの「わたしこれでもしあわせなの」も鋼の中で使われたセリフだし -- 2013-05-27 23:57:18
- 救われないなあ… -- 2012-09-18 02:10:01
- ↓どうでもいいなら書かないでね、コメントでうんうん出さないと
すっきり出来ない餡子脳なの? -- 2012-08-25 12:34:48
- 誰も救われない話というかどうでもいい話だな -- 2011-09-17 05:45:55
- この作品の続編がミラーにあがってるぜ!ひつっどくっ!!だぜ!! -- 2011-09-06 01:45:37
- やべえ、いい話じゃねえか・・・ -- 2011-08-28 03:24:36
- しかしどこまでいってもれいむはうざいのな・・・ -- 2010-11-28 06:25:06
- すげー本格的なショートストーリーだじぇ・・・
-- 2010-11-09 22:20:34
- 悲しい話だ… 良い話だったよ -- 2010-11-09 14:36:28
- れいぱー以下の存在であるれいむ如きが随分な大口だな -- 2010-09-15 16:24:30
- なんて可愛い善良なゆっくりなんだ!そしてなんて悲しいんだ!興奮できゅんきゅんする! -- 2010-08-24 20:29:45
- 被害者ばっかりで誰も悪くないのに、みんな悲劇のなかで生きていかないといけない…
哀しすぎる…(れいぱーは除く) -- 2010-06-21 12:09:50
- 決めた、俺マンション引っ越す -- 2010-04-18 10:33:49
- なんて悲しい話だ・・・ -- 2010-03-30 19:03:03
最終更新:2010年02月06日 16:13