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ナイトメア・プロジェクト YAKATA - (2013/12/08 (日) 18:23:48) のソース

*ナイトメア・プロジェクト YAKATA
【ないとめあ・ぷろじぇくと やかた】
|ジャンル|RPG|&amazon(B00006LJQ9)|
|対応機種|プレイステーション|~|
|発売元|アスク|~|
|開発元|チャイム|~|
|発売日|1998年6月4日|~|
|価格|6,800円(税込)|~|
|分類|BGCOLOR(lightsteelblue):''ゲームバランスが不安定''|~|
|ポイント|ミステリの皮を被ったホラーファンタジー&br()文字通り悪夢を見せるエンカウントとカメラ&br()''先生、小説を書いてください''|~|
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#contents(fromhere)
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**概要
 ミステリ作家にして、あの[[宮部みゆき>http://www23.atwiki.jp/ksgmatome/pages/1234.html#id_1a5ef50b]]女史をこの世界に引きずり込んだ張本人としても知られるゲーマーの綾辻行人氏が原作・原案・脚本・監修を担当した事で話題となった作品。全九章でディスク三枚組というボリュームを誇る。

 本作は綾辻氏の代表作である『館』シリーズのうち、第一作『十角館の殺人』から第五作『時計館の殺人』までをストーリーの下敷きとしている。~
 『館』シリーズは1987年から今日に至るまで発表され続け、シリーズ累計四百万部を突破したミステリ小説である。『十角館の殺人』が発表された事で、当時斜陽だった国産ミステリ界は息を吹き返し、作者の綾辻氏も新本格ミステリの旗手として一躍脚光を浴びる事となった((当時の国産ミステリはリアリティを重視した社会派サスペンスや時刻表トリックなどが主流で、『十角館の殺人』のようなロジックを主体とした作品が国内で発表された事自体が画期的な出来事だった。))。~
 そんな『館』シリーズを原作とし、綾辻氏自らが脚本を執筆した本作は、誰もがミステリと相性の良いAVGとしての発売になるだろうと考えていた。だが実際に世に送り出された本作のジャンルはまさかの''RPG''であった((実際、当初はサウンドノベルの予定だったそうだが、綾辻氏がRPG好きだったためこのような形になったと、氏本人が攻略本に収録された鼎談内で語っている。))。~
 説明書のモンスター紹介に''「大ゴキブリ おぞましい。」''、''「巨大ゴキブリ もっとおぞましい。」''と書かれているなど、バカゲー臭すら漂わせている本作の出来は果たして……。

 なお、[[同名の携帯アプリゲームサイト>http://www23.atwiki.jp/ksgmatome/pages/575.html#id_49e43616]]とは一切関係はない。

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**特徴
-ミステリ小説を原作としておきながら、本作は「人々の見る悪夢が現実世界に漏れ出し実体化している」という設定のため、主人公達の拠点となる青屋敷と十角館を除く全ての館内にモンスターが出現するようになっている。
--主人公パーティーはそれぞれの館を探索し、謎を解いて''「悪夢界」''と呼ばれるダンジョンへの入り口を探し出さなければならない。一つの館には複数の悪夢界が存在し、そこに潜むボスを倒す事で、館を悪夢から解放する事ができる。
-戦闘の際は六角形のフィールドの周縁にパーティーメンバーが、中心に敵が配置される。各キャラクターはAP(アクションポイント)を消費してフィールド上を移動し、攻撃を行う。
--相手の側面や背面から攻撃する事で与えるダメージ量を増やす事が可能。また、複数のパーティーメンバーで共同魔法を発動するためには決められた陣形を作らなければならないなど、戦闘中は如何に効率良く移動と配置を行えるかが重要になってくる。~
当然ながら敵もフィールド上を動き回るため、プレイヤーの思い通りに陣形の中へと入ってはくれない。
-特定の場面では会話がフルボイスで進行する。また、一部のイベント時にはアニメーションムービーが挿入される。
--アニメパートの監督は、『ポケットモンスター』シリーズの総監督として有名な湯山邦彦氏。また、キャラクターデザインは『[[俺の屍を越えてゆけ]]』の佐嶋真実氏が担当している。

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**館一覧
 本作に登場する全ての館は、原作同様に中村青司((奇才と呼ばれた建築家。各地に奇妙な仕掛けを施した館を建てた。原作では既に故人だが、本作では……?))が建てたものである。
#region(close,クリックで開閉)
***青屋敷
-九州の孤島、角島に建てられた豪邸。当主は中村千織。~
主人公達の拠点となる。
-原作『十角館の殺人』では、物語の開始前に火災によって焼失している。本作でも一度火災に遭っているが、その後再建されたそうだ。

***十角館
-青屋敷の側に来客用の離れとして建てられた、正十角形をした館。~
本作では日本各地に建つ青司の館へ移動するためのワープゲートとして用いられている。
-原作に登場した十一角形のカップは、本作でもキーアイテムとして登場する。

***水車館
-岡山県の山奥に建てられた、巨大な三連水車と城のような外観が特徴的な館。当主は画家の藤沼紀一。~
当主の紀一は数日前から行方不明になっており、また、紀一に引き取られたユリエという少女も時同じくして姿が見えなくなっている。
-原作で重要なガジェットとして登場した絵画、「幻影群像」は本作でも登場。多少サイズは小さいものの、本作のために一枚絵が書き起こされている。
-出現するモンスターは、絵画や彫刻を引用元とするものが多い。

***迷路館
-丹後半島の広大な敷地に建てられた館。かつての当主はミステリ作家の宮垣葉太郎。~
館の本体は地下にあり、各部屋を繋ぐ廊下は迷宮のように入り組んでいる。~
当主の宮垣が亡くなった後、この館の何処かに隠された遺稿を求めて、各出版社の編集者や作家達が大挙して訪れている。
-出現するモンスターは、神話や伝説を引用元とするものが多い。
-この迷路館のみ原作『迷路館の殺人』の後日談という形になっている。

***人形館
-京都市内に建てられた、日本家屋と洋館を組み合わせた外観の館。当主は人形作家の飛龍高洋だったが、故人のため現在は息子が家督を継いでいる。~
日本家屋部分が飛龍家の住居で、洋館部分はアパートとして貸し出されている。~
館内の至る所に不気味なマネキン人形が設置されている。
-出現するモンスターは、人形や無機物を引用元とするものが多い。

***時計館
-鎌倉市の外れに建てられた、巨大な時計塔を持つ館。当主は大手時計メーカー会長の古我倫典だったが、故人のため現在は息子が家督を継いでいる。~
各部屋には大量の時計が設置され、その全てが寸分の狂いもなく時を刻んでいる。
-本作に登場する館の中で、原作から最も大きな変更が行われている((原作にあった振子の部屋が塔として独立している。))。
-出現するモンスターは、古代の生物を引用元とするものが多い。

***最後の館
-世界の何処かにある本作オリジナルの館。~
水車館から時計館までの四つの館から悪夢を吸収し、増幅するための装置として建てられた。~
本作の最終目的は、この最後の館の場所を突き止める事であり、そのために主人公達は各館に隠された「悪夢の石版」を探し出さなければならない。
#endregion

-本作が発売された1998年には第六作『黒猫館の殺人』も既に発表されていたが、とある事情から本作への登場は見送られている。

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**キャラクター
#region(close,ここでは初期パーティーメンバーのみを紹介する。)
***古我ユキヤ
-主人公。~
17歳の内向的な少年。時計館に縁のある人物として角島に招かれた。~
一人だけ角島行きの船に乗り遅れてしまったため、漁船をチャーターして単身島へと向かうが、嵐に遭って難破し記憶を失ってしまう。~
プロローグのアニメパート終了後に名前の変更が可能。ただし苗字はストーリーの関係上、古我で固定となっている。~
担当声優は石田彰氏。
#region(close,ネタバレ)
-時計館の当主である古我倫典の実子。時計館を訪れた事により、少しずつ記憶を取り戻していく。
#endregion
-原作『時計館の館』にも同姓同名の人物が登場するが、性格設定は大きく異なる。

***北浜ミズキ
-コテコテの関西弁で喋る17歳の少年。水車館に縁のある人物として角島に招かれた。~
年相応の性格をした高校生。意外な特技としてピアノが弾ける。~
担当声優は小野坂昌也氏。
#region(close,ネタバレ)
-小学生の頃に水車館へ迷い込み、そこで出会った幼少時のユリエに恋心を抱いている。
#endregion

***川口ミルコ
-幻影社という大手出版社に勤める25歳のキャリアウーマン。迷路館に縁のある人物として角島に招かれた。~
序盤で彼女と会話した際に受ける事ができる心理テストは、後半でパーティーに加わるあるキャラクターのパラメーターに影響する。~
担当声優は水谷優子女史。
-実在する女性編集者の山口ミルコ女史((当時は幻冬社の社員。現在は退職し、フリーの編集者として活動中。))がモデルになっている。

***赤城ソウイチ
-25歳の売れない俳優。人形館に縁のある人物として角島に招かれた。~
パーティーの中心人物として他のメンバーを纏め上げている。~
担当声優は置鮎龍太郎氏。
#region(close,ネタバレ)
-人形館の当主である飛龍高洋の実子。本名は飛龍ソウイチ。幼少期に母親と死別し、館を出て静岡に移り住んでいた。
#endregion
-原作『人形館の殺人』にも同名の人物が登場。物語の中心人物であり、そのためか本作でもソウイチが中心となってストーリーが進行する事が多い。
-幼少期のある出来事が原因で多重人格者となっており、特定のキーワードに反応して別の人格が出現する。ストーリーが進行して新しい人格が出現する度に、''戦闘開始時にランダムでどれかの人格が現れて戦闘を行うようになる''。
--多重人格自体は実在する精神疾患だが、彼の場合はかなり特殊で、''別の人格が現れると体型や性別はおろか服装まで変わってしまう''((劇中の描写から、悪夢が現実に漏れ出した影響で、人格が変わると同時にそれに見合った姿が顕現していると解釈する事はできる。))。
#region(close,ソウイチの別人格について)
***江戸川ランコ
-ソウイチの第二の人格。「事件」をキーワードに出現する女性探偵。

***闘神サンダータイガー
-ソウイチの第三の人格。「鍵のかかった扉」をキーワードに出現する覆面レスラー。~
大仰な技名を叫びながら扉に突撃するが、一度として成功したためしはない。
-物理攻撃オンリーのキャラクターで、ソウイチの状態で覚えていた魔法を使う事ができない。そのため、''戦闘開始時にこのキャラがランダムで出現すると共同魔法が使えなくなってしまう''。

***高山リカ
-ソウイチの第四の人格。「病人」や「怪我人」をキーワードに出現する女医。

***忍田テンクウ
-ソウイチの第五の人格。「マジック」をキーワードに出現するマジシャン。~
様々なマジックを披露するが、''明らかにタネや仕掛けでは説明できない事を平然とやってのけたうえ、マジックだと言い張る''。
-本作発売から14年後、シリーズ第九作『奇面館の殺人』にまさかの登場を果たしファンを驚かせた。


これらのキャラクターは、男性キャラを置鮎氏が、女性キャラを冬馬由美女史が演じ分けている。
#endregion
#endregion

-なお、『館』シリーズで探偵役を務めている島田潔は、本作には登場しない。

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**秘宝館
-クリア後のセーブデータを使って開始する事で、秘宝館というおまけモードを遊べるようになる。~
秘宝館にてプレイヤーができる事は以下の通り。
--本作に登場する全ての館を、モンスターが出現しない状態で自由に探索する事ができる。~
その際、キャラクターモデルを主人公のユキヤから各館に配置されている任意のキャラクターへと変更可能。
--ゲーム本編において低確率で出現する隠しモンスターと、任意のパーティー編成で戦闘ができる。
--サウンドテスト。~
なんと、''綾辻氏自ら歌った曲を聴く事ができる''((綾辻氏の歌は、ゲーム本編でもある場所で聴く事ができる。))。

-探索可能な五つの館の何処かにはおまけ要素が隠されており、それを探すという楽しみがある。
#region(close,おまけの内訳) 
-竹本健治氏((小説家。元マンガ家志望で、実際に本作発売の翌年にマンガ家として再デビューを果たしている。))直筆のイラスト。
-喜国雅彦氏((マンガ家。90年代初頭にはベーシストとしても活躍しており、それで名前を知っている人も多いと思われる。))書き下ろしの四コママンガ。
-京極夏彦氏((小説家。デザイナーとしても活動し、綾辻氏の著作や本作の攻略本の装丁も手がける。))直筆の書画。
-綾辻氏が当時執筆中だったシリーズ第七作『暗黒館の殺人』冒頭部分の原稿。
--『館』シリーズはこの時点で六年間も新作が発表されていなかったため、当時のファンが嬉々として家捜しを行った事は想像に難くない。
#endregion

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**評価点
-原作に登場した館の敷地内及び館内を、自由に探索する事ができる。各館は3Dモデルで細部に至るまで作り込まれている。
--ただし、本作に登場する各館はゲーム用に間取りの変更などが行われているため、原作小説に掲載されている見取り図と全く同じというわけではない。

-各館に配置されているキャラクター達は、原作小説に登場した者以外にも、実在する小説家や編集者をモデルとした者が多く登場する。ミステリファンならば思わずニヤリとする事間違いなしだろう。ストーリーの都合上、多くの出版関係者が集まる迷路館は特にそれが顕著である((本作に登場するキャラクターのモデルとなった人物は、全員エンドロールに名前が掲載されている。そこに掲載されているメンバーだけで雑誌が創刊できる程の豪華な顔ぶれである。))。
--中でも迷路館に登場する''キョーゴク''というキャラクターは、''「パーティーメンバーと青屋敷の関係者以外で唯一異変に気付いている節がある」''、''「奇抜な外見」''、''「モデルとなった人物の知名度の高さ」''から、彼をパーティーメンバーに加えたかったというプレイヤーも。
-装備品やアイテムの類にも、古今東西のミステリネタがふんだんに盛り込まれている。「リュパンの眼鏡((言わずと知れた怪盗アルセーヌ・ルパンの事。小説の表紙では片眼鏡姿で描かれる事が多い。))」のような有名キャラクターを元にした分かり易いものから、「天使の牙((大沢在昌氏のハードボイルド小説。映画化もされている。))」のような近年発表された作品のタイトル、果ては''「チャカポコ祭文」''((夢野久作氏の著書『ドグラ・マグラ』に登場する祭文の一節が元ネタ。))などという物騒な名前の物まで登場する。
-モンスターの中にもミステリ小説を引用元とするキャラクターが数多く登場する。''書籍そのものが動いて襲い掛かってくる事も''。
--一番最初の悪夢界で、''中ボスとしてメルカトル鮎((麻耶雄嵩氏の一連の小説に登場する「銘」探偵。推理のためなら強請、捏造、自演と何でも平気で行う。本作でやっている事も、だいたい原作通りである。))がそのまま出てきて''面食らったファンも多いのではないだろうか。

-原作者自らが執筆しているだけあって、脚本の質は高い。後述するような点もあるが、それによってストーリーが破綻してしまったというわけでもなく、複数の謎を軸とした展開でプレイヤーを引き込む事に成功している。
--本作の脚本を共同執筆した舞阪洸氏による、各キャラクターの肉付けも概ね好評である。

-各章が終了して青屋敷の自室に戻る度に、主人公が今までの出来事を回想するかどうか選ぶ事ができる。
--後述する理由でどうしても長丁場となるため、情報を整理するという意味でもストーリーのおさらいができるのは地味に嬉しい。
--この回想モードでのみ閲覧可能な一枚絵も多く存在する。

-『パカパカパッション』の南澤大介氏によって手掛けられた音楽は軒並み評判が良い。
--本作のサントラは、現在も氏の公式サイトにて購入する事ができる。

-出演声優陣が豪華。90年代後半の作品という事もあってか、2000年以降に活躍する声優諸氏が端役で出演している点もポイントが高い。~
例を挙げると、『∀ガンダム』に出演してブレイクする前の稲田徹氏、改名前のたかはし智秋女史、名もないモブ役を複数担当している神谷浩史氏など。
--特に、中年男性の声を無理して演じている神谷氏(当時20代前半)はファン必見。

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**問題点
***あまりにも極端なエンカウント率
-本作はパーティーメンバーの平均レベルによってエンカウント率が増減するようになっている。そのため、ゲーム開始直後に主人公一人で挑まなければならない「悪夢の森((角島にある森。主人公は島の反対側に漂着してしまったため、この森を抜けない限り青屋敷には辿り着けない。つまり、第一章すら開始されない。))」では、少し歩いただけで戦闘が発生してしまう。
-逆に終盤になってパーティーメンバーの平均レベルが上がると、エンカウント率が低下してしまい、思うようにレベル上げができなくなるという問題が発生してしまう。

***カメラワークについて
-館内や悪夢界を探索中は、''常にカメラが回転している''。そのため3D酔いになり易い。
-カメラを任意の方向へ高速で動かしたり、カメラを固定したまま移動する事は可能。しかし操作に慣れない序盤では要領良く視点の回転が行えず、その結果大事なものを見落としてしまう事も。
--悪夢の森ではそれが顕著に表れている。本来なら操作性に慣れるためのチュートリアル的なダンジョンの筈なのだが、目印になる物が少ない森の中という事もあって「森の出口が見えない」、「体力回復アイテムの入った宝箱が見えない」という事態に陥ってしまう。前述したエンカウント率の高さも相まって''青屋敷に辿り着けないままゲームオーバーを迎えたプレイヤーも多かった''((綾辻氏も、そういう意見を沢山耳にしたと攻略本にてコメントしている。))。
--もう一つの鬼門が青屋敷。高い壁と回転するカメラのせいで現在位置を把握する事が難しく、探索すべき部屋のドアを見落としてしまう事も多々ある。~
特に螺旋階段は、操作に慣れないうちは''下りているつもりが上っていて、目当ての階層に辿り着けない''という事態に。

***現在位置が把握できないマップ
-各館と悪夢界では、イベントや宝箱でマップを入手する事ができ、以後はセレクトボタンでマップを開けるようになる。~
各館では主人公パーティーの現在位置もマップ上に表示されるのだが、''悪夢界では一切表示されない''。
-悪夢界は程度の差はあるものの、全て複雑に入り組んでいる。しかもここでの謎解きはお使いゲームとしての側面が強いため、前述のエンカウント率の高さとカメラの仕様もあって、迷い続けた挙句パーティー全滅という事にもなりかねない((救済措置なのか、本作はレベルアップでHPとNP(ナイトメアポイント。魔法を使用するために必要)が全快するようになっている。))。
-一応目印として、調べる度に色が変化する水晶が悪夢界のあちこちに設置されている。この水晶はマップ上に表示されるため、各水晶の色を手がかりに大体の現在位置を把握する事はできる。
--恐ろしい事に、攻略本に書かれてあった綾辻氏のコメントによると、''当初はマップすら出すつもりはなかったらしい''。自力でマッピングしてこそゲーマーだと言いたいのだろうか……?

***戦闘のテンポが悪い
-通常攻撃や魔法、アイテムの使用など、戦闘時には敵も味方もアニメーションで動きまくるが、その結果一回の戦闘が冗長になっている。[[この作品>女神異聞録ペルソナ]]を想像してもらうと分かり易いだろうか。
--その反面、強力な共同魔法を入手すると雑魚モンスター戦は作業と化す。
-どちらにしろ、評価点でも書いた通り音楽が良いため飽きが来ないのが救いか。

***手軽にできない合成
-宝箱や敵からのドロップアイテムで「悪夢の結晶」というアイテムを手に入れる事ができる。~
これを持ってある場所へ行き合成する事で、強力な共同魔法やレアアイテムを作り出せるようになる。結晶は八種類あり、任意で三つを選び合成を行う。
-だが''合成後の結果が表示されない''ため、初見で任意のアイテムを作り出す事は難しい。しかも序盤の館で入手可能な結晶は、中盤以降の館では入手できなくなるので、肝心な時に結晶が足りず合成ができないという事態を起こしかねない。
--もっとも、序盤の館では大量に結晶が入手できるようになっているため、余程浪費しない限りは大丈夫だが。

***最終章でのパーティー編成について
-ある理由で主人公を除く初期パーティーメンバーは、縁のある館を攻略した後にパーティーから離脱してしまう。彼らは最終章で復帰し、主人公のいる現行パーティーとは別に行動するようになる((最後の館はザッピングにより、片方のパーティーが謎を解く事でもう片方のパーティーが先へ進めるようになっている。))のだが……。
-彼らは現行パーティーの中で''最も低いレベルのキャラクター''と同じレベルにまで引き上げられている。~
ここで問題となるのが前述のエンカウント率。最終章の雑魚モンスターは他の章の中ボス並の強さがあるため、レベルの低い初期パーティーメンバーは''レベル上げもままならない状態で大量の敵とエンカウントし、即ゲームオーバーとなる危険性を孕んでいる''。
--更に言うなら、装備が充実している現行パーティーと異なり、初期パーティーメンバーは最強装備を悪夢界の宝箱から回収しなければならないため、もし入手し損ねたら''ラストのボスラッシュで文字通りの悪夢を見る羽目になってしまう''。
-せめて任意のパーティー編成を行えるのであれば話は違っていたのだが、技術的な問題で編成を変えられなかったとの事((具体的に言うならソウイチのせい。彼一人で五人分の内部データを持っており下手に弄れなかったため。綾辻氏もここは残念だったとコメントを残している。))。

***各館に存在する「呪い」
-本作には''進行不能を誘発する性質の悪いバグが多く''、対策を知らなければ引っ掛かってしまう可能性がある。
--中には古い型番の本体でプレイすると発生するようなバグも存在する。

***コンプリート困難なコレクション要素
-本作にはモンスター図鑑を埋めるというコレクション要素が存在する。だが前述したエンカウント率の問題もあって、なかなか目当てのモンスターと遭遇する事ができない。
-特に悪夢の森は章が進むにつれて出現するモンスターが入れ替わるが、''入れ替え前のモンスターは二度と出てこない''。しかもゲーム中で手に入るフロッピイ(チュートリアルが閲覧可能になるアイテム)には、入れ替え前のモンスターも含めて全て出現するという旨の記述がなされており、それを信じて図鑑を埋められなかったプレイヤーも多かったと思われる。

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**賛否両論点
***真面目に推理すると馬鹿を見るストーリー
 本作のストーリーの軸となる謎の一つに、中村千織殺害事件がある。~
 第一章の後半で、青屋敷に集まった主人公達に事の詳細を話す前に、当主の千織が密室と化した寝室の中で死体となって発見されてしまうのだ。~
 ミステリ小説が原作なので、真面目に犯人とトリックについて考えを巡らせたプレイヤーも多かったと思われるのだが……。
#region(&color(red){''事件の真相。ネタバレ注意''}) 
-時計館に仕掛けられたある秘密によって、主人公は意識だけが事件当夜の青屋敷へと戻ってしまった。そこで主人公は、自分達を屋敷に呼び寄せた千織こそが全ての黒幕だったという事実を知ってしまう。~
主人公は眠っていた過去の自分の肉体に乗り移ると、千織と話し合うべく青屋敷内の隠し通路を通って彼女の寝室を訪れる。~
しかし千織は主人公の姿を見るや問答無用で襲い掛かってきた。首を絞められた主人公は、咄嗟にその場にあったオルゴールを掴むと彼女の頭を殴りつけてしまう。~
血を流して倒れ込んだ千織の姿に恐れをなした主人公は、隠し通路を引き返して自室まで逃げ帰るが、そこで意識は現在へと戻ってしまう……というのが要約である。

-本作は事件の真相として''主人公が犯人というミステリのタブーを堂々と犯しており''、推理が入り込む余地は皆無となっている。
-概要でも書いた通り、本作は『館』シリーズを下敷きにしているというだけで、シリーズそのものをゲーム化したわけではない。綾辻氏の他の著作を引き合いに出すならば、本作は『囁き』シリーズや『[[眼球綺譚>黒ノ十三]]』、あるいはアニメ化もされた『Another』のようなホラー寄りの作品である((事実、本作の一部演出やエンディングは、ホラー映画でよく使われる手法を踏襲している。))。~
しかし本作のパッケージ裏に''「綾辻ミステリとロールプレイングの合体」''と大きく書かれてあった事もあり、新本格ミステリを期待して肩透かしを食らったプレイヤーも少なくはなかった((本作に謎解き要素が全く無いわけではないが、いくつかは原作小説そのままのトリックである。))。
#endregion

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**総評
 原作付き作品でありながら作者主導で意図的に内容を変えてあるため、原作を知らないプレイヤーでも問題無くプレイする事ができる。一方で、3Dモデルで再現された各館、ビジュアル化された原作の登場人物、端々に仕込まれたミステリ関係の小ネタと、原作ファンやミステリファンならより一層楽しめる作りになっている。~

 反面、意図的に難しくしたとしか思えないようなゲームバランスと慣れるまで時間を要するカメラワークのせいで、ゲームそのものの難易度は高く、攻略までのプレイ時間も冗長になってしまっている。そのため、せっかくストーリーや音楽が良質であるにも関わらず佳作の域を出られないというのが実情。~

 インターネット上で本作のレビューを行っているサイトもいくつか存在するが、一回のプレイで充分という者から、何周もやり込んだという者まで人によって様々な事からも、本作が人を選ぶ内容だという事は理解していただけると思う。~

 全く攻略できないほどの難易度でもないので、綾辻氏や『館』シリーズのファンで時間に余裕のある方は一度プレイしてみてはどうだろうか。また、ミステリに興味は無くとも、昨今のぬるい難易度のゲームには飽きたという筋金入りのゲーマー諸氏にもお勧めしたい。

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**余談
-本作の攻略本は、三つの出版社から発売されている。もし今からプレイしようと思うのであれば、綾辻氏自らによる開発裏話やバグの回避方法が掲載されたメディアファクトリー刊行の物をプレイのお供としてお勧めする。ただし、本作以上に入手し辛くなっているが。
-『Yakata』という本作のコミカライズ作品が、角川書店の『月刊少年エース』誌上で連載されていた。作画は田籠功次氏。内容はゲームと大幅に異なり、完全にホラー寄りになっている。
-秘宝館に冒頭部分の原稿が隠されていた『暗黒館の殺人』だが、実際に『IN・POCKET』誌上で連載が開始されたのは''本作発売から二年後''であった。下手に冒頭部分を読んでしまったばかりに、二年間もやきもきしながら続きを待っていたファンの心中は如何ばかりであったか……。
--流石に二年も経っていたため、発表された『暗黒館の殺人』の冒頭部分は手直しが施されていた。そのため、本作に収録されている「手直し前の原稿」は、現在では資料的価値も高い。
-本作の制作に取り組んだため、綾辻氏は実に''三年半もの長きに渡り文壇から遠ざかっていた''((脚本執筆だけで原稿用紙二千から三千枚分も書いたとの事。))。そのためゲームに興味の無い、あるいはプレイして高難易度に打ちのめされ投げ出したファンは口を揃えてこう言ったとか。~
''「先生、小説を書いてください」''と。