NightCry

【ないとくらい】

ジャンル 3Dホラーアドベンチャー
対応機種 Windows
プレイステーション・ヴィータ
メディア ダウンロード専売
発売元 Playism Games
アクティブゲーミングメディア
開発元 ヌードメーカー
発売日 【Win】2016年3月29日
【PSV】2019年1月31日
定価 2,480円(税込)
プレイ人数 1人
レーティング CERO:D(17歳以上対象)
判定 なし
ポイント 『クロックタワー』の精神的続編
随所の演出とコンセプトは損なっていないが…
意味不明な脚本・演出
インディーゲームと差し引いても作りは粗い

概要

クロックタワー』の生みの親である河野一二三が手掛けたホラーアドベンチャー。
「特殊能力を持たない一般人が、巨大なハサミを使う不死身の殺人鬼から逃げる」というクロックタワーシリーズのコンセプトを継承している。
同シリーズの版権はサンソフトが所有しているため、直接的な繋がりの無い精神的続編となっている。
開発に当たってはサンソフトとカプコンから許諾は得ている。

殺人鬼のデザインはSILENT HILLシリーズのモンスターデザイナーだった伊藤暢達*1
実写トレイラームービーも制作され、こちらは『呪怨』で知られる清水崇監督が手掛けた。

2015年のクロックタワー誕生20年に向けてその魂を受け継ぐホラーゲーム製作プロジェクト「Project Scissors」によるインディーゲームとして立ち上がった*2
元々はスマートフォン、タブレット、PSVita用ソフトとして開発が始まったが、クラウドファンディングで資金を募った結果、予想を上回る支援を得たことでマルチプラットフォーム化と日本語ボイス導入が決定。
2016年にはPC版が、3年後の2019年にはPSVita版が発売された。

当記事ではPC版を基準として紹介する。


ストーリー

西暦2016年8月18日。カリブ沖を航海中の豪華客船オシアネス号。
モニカを始めとする大学生達は教授のレナードに引率されて乗船していた。
船内でカクテルパーティーが催される中、一息入れようと会場を抜け出すモニカだったが、
彼女の目の前で友人のハリーが惨たらしい死を遂げる。
そして現れる巨大なハサミを持った殺人鬼「シザーウォーカー」。
訳も分からないまま逃走するモニカだったが、同時に船には怪しい仮面を付けた者達も暗躍していた。


登場人物

+ クリックして展開
  • モニカ・フローレス(CV:名塚佳織)
    • チャプター1の主人公。オシアネス号に搭乗している女子大生。気分屋でミーハー。社交的な性格なので友人は多いが親友は少ない。ある理由から玉の輿を狙っており、この旅で相手を見つけるつもり。
    • 当初の発表では彼女が全体の主人公のように描かれていたが、実際はプロローグにあたるチャプター1のみの操作となる。
  • レナード・コスグローブ(CV:小山力也)
    • チャプター2の主人公。モニカとルーニーの通う大学の教授で彼女らの引率者。ルーニーにとっては父親代わりにあたる。現場主義かつロジカルな思考を持つ一方、ロマンチストなオカルト愛好家でもある。
  • ルーニー・シンプソン(CV:松井恵理子)
    • チャプター3の主人公であり、本作のメイン主人公。ある事件が原因で希死念慮を持ち、「死にたがりのルーニー」と呼ばれて疎外されている大学生。自身に恨みを持つ少女の幻影を見る。
    • 旧作の主人公だったジェニファーと同じ姓を持つが関連性は特に無い*3
  • ジェローム・テュリオ(CV:水野駿太郎)
    • 世界的に有名な指揮者の青年。断続的な記憶の混濁に悩まされている。自身と似た境遇のルーニーに興味を持つ。
  • エリック(CV:宮野真守)
    • オシアネス号の乗務員。どこか近寄り難い雰囲気を持ち、惨劇の中でも不自然なほどに落ち着いている。

特徴

  • 『クロックタワー』に倣った通り、不死身の殺人鬼から逃げ隠れしながら進行するゲームであり、主人公も超能力や戦闘能力の類は一切持たない。
    • 舞台は豪華客船「オシアネス号」。海上の牢獄となった船で殺人鬼との逃走劇を繰り広げる。
  • 今作の殺人鬼は『クロックタワー』のシザーマン同様に巨大なハサミを凶器とする「シザーウォーカー」。
    • 黒いオーラを纏いながら、ハサミの音と、赤子の夜泣き(NightCry)のような声を響かせながら凶行を繰り返し、主人公に迫る。
    • 「シザーマン」ではない理由は無論版権の都合もあるが、実はそれだけではない。ゲームを進めれば判るかもしれない。
  • ゲーム進行は『クロックタワー ゴーストヘッド』以前と同じくクリック方式。マウスポインタを操作し、クリックによって主人公を移動させたりオブジェクトにアクションを起こしながら進行する。
    • 一方、ゲーム画面は『クロックタワー3』や、その実質的続編『DEMENTO』と同様、カメラが都度切り替わる3D方式となっている。
  • シザーウォーカーと遭遇すると逃走モードに入る。何らかのオブジェクトでシザーウォーカーを撃退するか、隠れてやり過ごすまで継続する。
    • 今作では逃走中は主人公の後方視点に切り替わる。後ろを振り返ることでシザーウォーカーがどこまで迫っているか確認できるが、当然前方は見えなくなる。
    • 今作でも主人公に体力の概念が存在し、敵との揉み合いで減少するが『1』同様に走っても減少する。しかも今回は無くなると疲れてその場にへたり込んでしまう。また、躓いて転んでしまう事も。
    • シザーウォーカーに追いつかれると揉み合いとなり、パニック連打が発生する。成功すれば切り抜けられるが失敗すれば殺されてしまう。体力が少ないほど連打の難度が上がる。体力切れでへたり込んでいる時に追いつかれると即死。
  • 一部隠れポイントに隠れると、シザーウォーカーが去るまで息を止めて恐怖に耐え抜くミニゲームが発生する。
    • 動く心臓型サークルにポインタを合わせ続ける形で息を止める。耐え切れなかった場合はパニックを起こしてそこから飛び出してしまう。『3』のパニックメーターを自分で制御するようなものか。
    • 中にはパニック連打で切り抜けるポイントもある。
  • 回避ポイントに関しても旧作同様、確実に成功するもの、失敗してしまうもの、殺されてしまう罠などが存在する。
    • 撃退アイテムが使い捨てなのに加え、今作では同じ隠れポイントに二度隠れると発見されてしまう。従って、従来のような何度も利用可能な回避ポイントは無い。
  • 今作ではスマートフォンの使用が可能であり、電話を掛けたりSNSを覗いたり電灯としても使える。
    • 暗所ではスマホの灯りが無いとクリックポイントが表示されず探索不可になる場所がある。電話やSNSは進行する上で必要となる。
    • ライトを使用するとバッテリーが減っていく。随所にある充電器を使うと充電とセーブを同時に行ってくれる。
  • 本作のシナリオは『クロックタワー2』や『ゴーストヘッド』のように3つのチャプターに分かれ、最終チャプターが最も長いメインシナリオとなる。
    • チャプター1の主人公はモニカ。午後7:26。豪華客船の中をシザーウォーカーから逃げ回る。本作のプロローグ的な章。
    • チャプター2の主人公はレナード。午後9:44。惨劇の中、近くの島で怪げな儀式を行う集団を探る。あるシーンを除いてシザーウォーカーが登場せず、逃走モードも無いが、敵から身を隠しながら進む必要がある。
    • チャプター3の主人公はルーニー。舞台は再び船へ。午後6:12に遡り、そこから事件の顛末までを描く。
  • 『クロックタワー』同様、プレイヤーの行動でエンディングが分岐するマルチエンド方式。
    • 今作ではフローチャートが用意されており、分岐となる行動が判別可能な他、特定のポイントからゲームを開始する事も出来る。

評価点

  • 何はともあれ、『クロックタワー』のコンセプトを受け継いでいること。
    • 『3』でゲームとしても作風に関しても全くの別ゲームと化してしまった『クロックタワー』のテーマを初期に引き戻し、原点への回帰を果たしているのは確かである。
  • 豪華声優陣
    • 有名声優を多数起用しており、演技は申し分ない。通常は台詞はもちろん、殺される際の悲鳴も迫真の演技である。
    • 英語ボイスも導入されており、そちらも有名声優が参加している。ある重要キャラは『2』に出演していた声優が演じている。
  • クロックタワー譲りの演出
    • クロックタワーシリーズ譲りの即死トラップが各所に仕掛けられ、様々な最期を遂げてはプレイヤーを震撼(時に苦笑い)させる。トラップの理不尽さも正に『クロックタワー』と言った所。
      • 今回は特殊なゲームオーバーがリスト化されており、コンプリートの楽しみもある。
    • 見せしめのように吊るされた死体、死体に驚く主人公に追い討ちをかけるように出現するシザーウォーカー、動き出して主人公を襲う人形など、『クロックタワー』を彷彿とさせる演出が多数。
    • 主人公がデッドエンドで殺される際はどれも凄惨で、こう言った点も手は抜かれていない。本作はカットシーンで描かれるので凄惨さも段違いである。
      • ハサミで「突く」のが基本だったシザーマンに対し、シザーウォーカーは文字通り「ちょん切る」殺害方法も取る。人体切断の描写こそ無いが、揉み合いに失敗した際には主人公がハサミで切られる姿が克明に描かれる。
    • 一方、シザーウォーカーは主人公の捜索をあっさり諦めたり、不死身のはずなのに消火器や防犯スプレーであっさり撃退されたりなど、やはりシザーマン譲りのコミカルさを併せ持っている。
  • 初代のように黒魔術や呪術的な儀式の関わるオカルト的なストーリーだが、発売時期に合わせてスマートフォンやSNSを活用した謎解きがあるのも面白い試みである。
    • SNSは実写の写真も用いられ、雰囲気が出ている。ただし、後述する問題も。
  • 逃走モードは従来と違ってプレイヤーも殺人鬼に背を向ける形になり、追われる恐怖が体感できる。
    • ゆっくり迫るシザーマンや才堂に比べてシザーウォーカーは移動速度が早めで、真面目に逃げないと追い付かれてしまう。後ろを振り返るというシステムも相俟って本当に身の危険が迫っている感覚が味わえる。
  • フローチャートの導入
    • エンディング分岐のフラグの複雑さもまた『クロックタワー』譲りながら、今作ではフローチャートによって全体図が把握し易くなっている。
    • チェックポイントからの再開も可能であり、「フラグのために初めからやり直さなければならない」という旧作の問題点が大きく軽減されている。

問題点

  • 悪過ぎる操作性
    • ポイントクリック形式のゲーム性と視点が常に移動する3Dゲーム相性が悪く、思うように進め辛い。
      旧作『2』もマップが3D描写だが、こちらの場合は2Dグラフィックであった初代のマップ表現(断面図のように常に真横視点で固定)を忠実に立体化した箱庭的なスケールの表現になっていることに加え、カメラも常に外から内側に向かって主人公とその周囲を客観視点で映し出すようになっているため、移動時も含めて位置や周囲の状況を把握し易かった。
      • 対する本作ではリアル調の3Dグラフィックゆえにフルスケールで空間が描写されるため、ポイントクリック形式との相性の悪さが如実に表れてしまっているのである。
    • 逃走モードの視点も雰囲気は出るのだが操作はしにくく、操作ミスでシザーウォーカーに自分から突っ込んでしまう事もよくある。全力疾走が「マウスホイールを回す」なのもやりにくさの一因に。
    • また、旧作はクリックできるポイントにカーソルを近づけるとスッと吸い寄せられるのだが、本作ではそれがない。
      • 当該オブジェクトに重なるとポインタの形が変わるだけなので、ゆっくり念入りに探さないと本当に分からない。しかも中には背景に溶け込んでいたりアングル的に死角に配置されている事も。
      • この仕様により、どう謎を解くか以前にどこがクリックできるのか分からないという事態が多発する。これが前述の点と合わせて本作をプレイし辛くしている。
      • しかも、使用するべきアイテムを選択した状態でなければ出現しないクリックポイントも存在する*4
    • こうした点が制作側にも問題視されたためか、PSV版では操作方法が別物になっている。
  • 長いロード
    • データロード時にかなり待たされる他、イベント発生時にすらも長めのロードが入る。
    • オブジェクトを調べた際やシザーウォーカー撃退時もカットシーン扱いになっており、一旦暗転が入るのでテンポが悪い。また、シーン前とキャラの立ち位置などが噛み合わない場合も。
  • 理解し難いストーリー
    • 本作は舞台とは裏腹に『1』に近いオカルト寄りのストーリーになっており、その点でも原点回帰を目指した事は分かるのだが、その出来は粗い。『クロックタワー』シリーズも敢えて全ては語らずプレイヤーの考察や解釈に委ねる部分はあったものの、今作は説明不足のみならず理解に苦しむ描写が多く、『御神楽少女探偵団』や『無限航路』と同じ人物が書いたとは思えないほど完成度が低い。
    • 事件の真相については本当に断片的な情報を繋ぎ合わせた上で考察しなくてはならないが、考察を確証として裏付けるだけの材料もほとんどないため、プレイヤーの想像に委ねているというより、完全に投げっ放しと言っていい状態である。
      • その断片的な情報も、終盤も終盤のクライマックス直前に集中しているのでプレイヤーの考察も追い付かない。
    • 主要キャラの「ジェローム」は初登場時に理由も語られず島に閉じ込められており、その前の時間軸では主人公の味方として行動していたのにクライマックスでいきなり裏切り、あっさり殴り倒されて挙句は去就も不明など明らかに描写不足。
      • 黒幕との関連性は(遠回しに)語られるがそれにしても突拍子も無く、重大な設定を背負ったキャラにしては扱いがぞんざいと言わざるを得ない。
      • 追加資金が達成されればもう一つチャプターを追加する予定だったともされており、それが実はジェローム編で、そこで掘り下げや謎の究明を行う予定だったのではないかと推測されている。
      • もっとも、仮にそうだった場合、物語の必要な部分をストレッチゴールとするのはその時点で論外という別の問題が発生するのだが。
    • アイテムとして「カードキーA」が登場するが、B以降は存在しない。こう言った点もシナリオカットを匂わせる。
    • 謎めいた乗組員「エリック」については本当に何も明かされず、考察のしようも無い。
      • 冒頭からいきなり怪しい雰囲気を漂わせ、敵としか思えない振る舞いを連発するが、後半では主人公を複数回アシストしたりなど立ち位置がはっきりしない。しかもあるエンディングでは主人公達が殺された中でただ一人救助されるなど、最後まで謎のオーラを放ち続ける。
    • チャプター2のレナード編で、一度客船を離れ謎の小島を探索するシナリオが挟まれるが、本筋とほとんど関係ない
      • 最後の最後で「敵の狙いはオシアネス号だった。船にいる人々が危ない」という然程驚くべきでもない事実が明かされる事と、ある人物を救出する程度。そしてこれらの行動は本筋に大した影響を与えていないことがチャプター3で分かり、後述する通りレナード自身がただ悲惨な扱いを受けただけで終わる。
      • 道中、黒幕の手掛かりを入手するのだがそもそも何故そこに置かれているのかがツッコミ所になっており、結び付け方もやや強引。
    • ルーニーの死にたがりという設定や、彼女に付き纏う「コニー」は当初から重大な秘密を匂わせながら、実はルーニーに何の非も無く自業自得のコニーの逆恨みでしかなかったというオチで、しかも本筋には何の関係も無い。
      • 2種類ほどのバッドエンドで意味深に登場するが、どちらもほぼ同じ内容でしかもそこに至る経緯にコニーは一切関係無い。カットシーンを無理矢理当てはめて使い回したようにしか見えない。
    • ホラー部分も勢いとノリに任せて奇を衒ったようなものも見受けられ、『3』ほどではないにしても滑稽さが否めない。
      • かなり距離のある銅鑼に野球ボールを命中させて敵の注意を引くなど、謎解き部分もまた然り。
    • 黒幕に関してもこれと言った意外性も無いベタな人選。しかも中盤で怪しまれた人物が本当に黒幕だったという捻りの無い展開であり、動機も上述の通りなので感慨も湧き辛い。
    • 終盤、あまりにもショッキングな展開がある。
+ ネタバレ
  • チャプター2の主人公のレナードだが、チャプター2のラストで敵に捕まってしまう。
    • そしてチャプター3にて首から下が骨と臓器だけにされ、培養液漬けで無理矢理生かされている状態で発見されるというトラウマ級の末路を辿る。チャプター2での苦労がまるで報われないばかりか、あまりにも悲惨な扱いとなっている。
    • レナードはモニカやルーニーよりも遥かに冷静で茶目っ気もあり、渋い声も相俟ってプレイヤーの愛着の湧きやすいキャラである。それだけにショックは大きい。
  • ここで彼を苦痛から解放するべく生命維持装置を切るという展開になるのだが、何故このような凄惨な仕打ちを受けなければなかったのかは明かされない。
    • なお、選択を誤ると「そんな状態のレナードが蛇のごとく襲ってきて(気色悪く囁きかけながら)バッドエンド」。やはり意味が分からない。
  • エンディング自体、ほとんどがちょっと豪華になったゲームオーバーというレベルの尻切れ。
    • 旧作(特に『1』と『ゴーストヘッド』)にもそう言った面はあったが、本作は分岐条件も因果関係が見え辛いものばかりで、何故そうなったのかという最低限の理解さえも難しい。
  • 旧作のように、主人公の行動によって生死が分かれる人物も一応居るのだが、一人しかいない上に生死はゲームそのものに全く影響が無い。旧作ではエンディングへの影響などがあったのだが、今作では本当に何も無く、そもそも生存させた所でベストエンドのタイトルからして生還できているのかも怪しい。
    • また、死亡条件というのが「シザーウォーカーから逃走中にその人物が居る部屋に逃げ込む」であり、自分の行動が原因で殺される形になるためプレイヤーに罪悪感を与える。
  • ベストエンド直前、ルーニーは思い切った行動に出るのだがこれもまた突拍子もないトンデモ行為。海外のファンWikiでも「Perhaps the most ridiculous part(恐らく最もばかげた部分)」と書かれる始末である。
    • 簡単に説明すると「急に強気な様子になり、自傷行為と共にあるアイテムを使い、シザーウォーカーに命令を下す」。一応言っておくと、そのような話の流れはここに至るまで一切出てきていない
  • シザーウォーカー
    • シザーウォーカーは時間経過では出現せず、特定のポイントやストーリー上のイベントでのみ出現する。要するに『1』の方式に逆戻りしている。
      • 本作は無限に使える回避ポイントが存在しない為、回避ポイント数を上回る回数も出現されては手詰まりになるからという事情もあると思われる。
      • 『2』のような探索中に敵が徐々に迫ってくる恐怖感は無くなってしまったが、逆に探索を中断させられる歯痒さが減ったという事でもある。
      • しかしその一方、回避ポイントは散発的でしかも船は長い廊下が多いので、一度遭遇してしまうとかなり移動を強いられる。結局、逃走モードが億劫になりがちという点は変わりない。
    • アイテムによる撃退のみならず、隠れる演出もカットシーン扱いなので、シザーウォーカーの目の前で隠れようが成否には関係ない。逃走モードのシステム上、仕方なくもあるのだろうがリアリティは減ってしまった。
  • 何故か粗が多い日本語版
    • 元より日本製で、英語版を加えて海外展開を行なったゲームのはずなのだが、日本語版の方には洋ゲーの中途半端なローカライズのようなテキストのぎこちなさが目に付く。
    • 動く人形が発した「キュウッ」など変な所に字幕が入ったり、謎の少女の声に「幽霊少女」という名前表示が出たりなど、海外スタッフに任せたのかと言いたくなるような箇所がある。
    • あるキャラは「兄者を見なかったか?」などと聞いてくる。
      • これは出資者である某有名実況プレイヤーのカメオ出演*5なのだが何の脈絡も無く、そうと知らないプレイヤーからしたらただ時代錯誤な言い回しに思えても仕方ない。
    • エレベーター内で謎の老婆に殺されるトラップの説明文が「ババアに襲われ死亡」。ババアって…。
    • 「ただ静かに静止している」「話を話している」などの重言も見受けられる。
      • 無論、全てのテキストがこうと言う訳ではなく、通常の台詞回しは過去の河野作品同様にしっかりしている。それだけにこうした拙さは目立ってしまう。
    • SNSは謎解きにも活用するのだが、何故か英語オンリー。そこまで高い英語力が求められる訳ではないにしても、大半の人には分かり難いだけである。
      • この点は早々に改善要望が出されていたのだが、事務的な返事が返されただけで結局改善されなかった。
      • 他にもある英単語が読めないと解けない仕掛けもある。多くの人には馴染みの薄い単語なのでここで詰まる可能性も。
  • ボイス関連
    • 豪華声優陣を起用しているが残念ながらフルボイスではないどころか声のあるイベントが少ない。
      • 最初の部屋でのモニカとエリックのやり取りは細かい会話まで声が付いているのだが、そこを過ぎると途端の無声になる。恐らく本来はこれぐらいのボイス量で全編を作りたかったのだろう。
      • それだけならまだしも、声が無いのにメッセージ送り不可というイベントもある。「もしフルボイスならこれぐらい掛かるだろう」という時間を無音のまま待たされるという苦痛なイベントが少なくない。
      • しかもキャラも普通に身振り手振りのジェスチャーをする。声を付ける予定が頓挫し、ボイス有りを想定した仕様のまま組み込んでしまったのだろうか。
    • 序盤でモニカに電話を掛けてくる友人の喋り方に熱がこもり過ぎており、「モニカ?モォォニカなの!?」「人をこぉぉろしてるの!」と言った具合なので逆に笑い所になってしまっている。
  • クリア特典が皆無
    • 『2』『ゴーストヘッド』にはコスチュームチェンジ、サウンドテスト、設定資料、BUYOBUYO、スコアアタックなど多数の特典があったのだが、本作のおまけ要素はエンディングリスト、ゲームオーバーリスト、怪奇現象リストのみであり、従来のようなクリア特典の類は皆無。無論、これらリストをコンプリートしても何も無い。つまりSFCの『1』と大差ない。
    • 『3』や『DEMENTO』のようなシアターモードも無い。一応、エンディングの閲覧は可能だがそれだけである。
      • 閲覧可能なのはエンディングだけで、せっかく追加されたゲームオーバーリストも怪奇現象リストも再生不可のただの一覧表に過ぎない。
    • 監督によると「純粋に本編を作り込むことに精一杯で隠し要素を入れる余裕もなかった」とのことだが、本編の完成度も決して褒められたものではないので納得は難しい。
  • グラフィック面
    • 元より携帯機用を想定していた関係もあり、当初のグラフィックはPS2後期レベル。資金獲得により、強化が行われたのだがそれでも同時期のゲームには見劣りする。
      • それだけならまだしも、モーションや物理演算も全体的にぎこちなさが否めない。リップシンクせず腹話術化している箇所もある。
      • そのくせ、モニカの乳揺れはしっかり作り込んである。サービス精神旺盛なのは結構だが、その前に他をしっかり作って欲しいところ。
    • 序盤に挿入されるエリックの謎の流血(と思われる)描写*6もスライムの様な物が流れているように見える。
    • モニカは強化前と後でかなり顔が違うが、却って不細工になったように見える。(BeforeAfter
    • 設定面でも、ルーニーがモニカのネックレスを拾ったはずなのに、その後で再会したモニカはネックレスを付けていたりなど、整合性の取れていない部分も。
  • システムの不便さ
    • 旧作は死亡しても直前から再開可能だったが、今作でコンティニューするとチェックポイントに戻される。
      • チェックポイントの場所が表示されないのでどこから再開するのか分からず、相当戻されてまたフラグ立てやイベント消化をさせられる可能性も高い。
      • 旧作ではどこでもセーブ可能だったのだが、本作では充電器を使わなければ任意でセーブが出来ず、大抵は前述の不安定なチェックポイントを頼らざるを得ない。
      • 細かい点だがこの仕様のため、数十年前のものばかりが置かれた山小屋にポツンと最新のスマホ充電器が置かれているシュールな光景も。
    • フローチャートが追加されたのは良いのだが、チェックポイントの位置がまばらで思うように再開できないのに加え、再開時の細かいフラグ状況も分からないので混乱しがち。
    • また、チェックポイントの弊害か、セーブが1箇所にしか出来ない。いくらフローチャートがあるとは言え、上記のようにチェックポイントもまばらで分かりにくい。
      • そもそもまばらとは言えチェックポイントは相応にあるので、充電器による手動セーブの意義が薄い。
    • 同じオブジェクトや人を複数回クリックしないと進まない箇所が多い。『2』のプロローグもそのような仕様だったが、本作は量が段違い。各チャプターの冒頭は毎回だし、シナリオ中にもそう言った箇所が散見される。
      • しかも上述の通りそういった小イベントもカットシーン扱いなので余計にテンポが悪い。
      • イベントスキップは可能だが、妙にゆっくりとフェードアウトする。『ゴーストヘッド』は瞬時に暗転していたのだが。
  • バグ
    • 再プレイ時、何の操作もしていないのにイベントがスキップされる事がある。
    • 現在は修正されているが、部屋に閉じ込められたりキーアイテムが入手できないなどの詰みバグも多数存在していた。
    • ゲーム自体もよく落ちる。
  • キャラの格好が一部ツッコミ所。
    • ルーニーはシャツとジーンズという格好で平然とパーティーに参加している。フランクなカクテルパーティーとは言え、周囲が正装している中で明らかに浮いている。
    • 最初の犠牲者のハリーは上半身こそ正装なのだが、下半身は何故か短パンという謎のファッション。パっと見はズボンを履かせ忘れたようにすら見える。御蔭で殺害された後は彼の太ももが映し出される。
    • モニカが殺人鬼に追われてもドレスを破かなかったりヒールを脱がないと言ったツッコミも無くもないが、その辺りはまだゲームの都合として納得できる範囲である。

総評

かの名作の魂を受け継いだ新作ということで注目度は高く、クラウドファンディングの際にも各所からメッセージやイラストが多数寄せられており、期待されていたことが分かる。
監督自身、「クロックタワーのファンがプレイした時に、良くも悪くもクロックタワーらしいと思ってもらいたい」と語っている通り、それは果たせていると言える。
また、スマホやSNSを使わせるという現代要素を入れつつも、『3』で失われてしまった『クロックタワー』本来の作風を甦らせようとした心意気は評価されて然るべきだろう。
しかしいざ形になると、現代の3Dゲームと従来のクリック方式の食い合わせの悪さが浮き彫りになり、インディーズであることを言い訳にしたような作りの浅さも相俟って評価はあまり芳しくないものになってしまった。
余談に後述する通り予算と時間の都合もあったのだろうが、それでも新たな『クロックタワー』を待ち望んでいたファンの期待に応えられるゲームとは言い難い。
『クロックタワー4』や『DEMENTO2』を期待するのではなく、古き良き『クロックタワー』らしい雰囲気だけを楽しむゲームとして受け止めるべきと言った所か。


移植

  • PC版から3年後の2019年、PSV版が発売された。
    • 操作方法はクリック&ポイント制が廃した全くの別物に変わっている。
      • 主人公は『3』同様に直接操作し、画面上にあるクリックポイントをLRで選択する方式になり、操作性は格段に向上。難易度も下がった。
    • 一方、処理落ちが多い、PC版よりも長いロード時間(各オブジェクトの調査時にもわずかにロードが挟まれる)など、無視できない問題も散見される。
    • 発売まで3年も掛かったが、これはUnityのコンバート作業に手こずっていたためとのことである。
      • 内容についても操作方法の変更を除いて実質的なベタ移植(追加要素無し)こともあり、話題にはならなかった。

余談

  • 監督によると、やはり予算や時間の都合上、妥協せざるを得なかった点も少なくなく、カットしたシーンは数知れずと言う。
    • しかしインディー界隈だけで見ても、本作を大きく下回る予算や個人製作で生まれた名作も少なくなく、ましてや実績のあるメーカーだった事もあり、「定番の言い訳」といった厳しい指摘もされている。
  • 本作のコンセプトアートは『クロックタワー』のインスパイア作品『Remothered』シリーズのChris Darrilが担当している。
    • 元々、同作は2000年代から『クロックタワー』の非公式リメイク的な作品としていくつかの企画が立ち上がっては消えていき、本作の翌年にオリジナル作品として発売に至った。最終的には3Dの探索モノになったが、個人制作として作られていたプロトタイプは正に初期の『クロックタワー』風の2Dゲームだった。
    • 『Remothered』は三部作とされ、一作目『Remothered: Tormented Fathers』は好評を博したが二作目『Remothered: Broken Porcelain』は評判が悪く、Chris Darrilも降板した事で三作目は未だ発表されていない。
    • その後、Chris Darrilは新作『Bye Sweet Carole』を手掛ける。こちらは『Remothered』の初期構想をベースとした、即ち初代『クロックタワー』風のホラーゲームになるとされる。
  • 本作は有名実況者も公に支援しており、その関係で案件配信も行っている。
    • とあるコンビ配信者は相方の誕生日企画も兼ねて本作の配信を行ったが、その出来に終始コメントに困り妙な空気を醸し出す状況になってしまい視聴者も本気で心配し始める事態となった。
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最終更新:2024年02月19日 19:35

*1 同シリーズの看板的クリーチャー「三角頭」の生みの親でもある。

*2 クリック&ポイント制のゲームは現在のパブリッシャーの多くが見向きもしないという事情もあり、作りたいものを作るべくインディーゲームとなった。

*3 完成版では全くの別人だが、コンセプトアートにはジェニファーに似たイラストもあった。当初はモチーフにしていたと思われる。

*4 旧作では『1』の番犬を欺くシーンを除けば、クリックポイントはアイテム選択に関わらず全てクリック可能だった。

*5 本人も出演している事は知らず、実際にプレイして「これ俺だよね!?」と驚いていた。

*6 ここも意味のわからない演出の一つ。