終わった世界で何もかも終わる ◆auiI.USnCE










だから、私は世界に、縋り続けた/だから、私は世界に、お別れをした







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






走る、走る。
一目散に、何かから逃げるように。
嫌だった、何も見たくなかった、何も信じたくなかった。
こんなにも、哀しいのは、嫌だった。
私――古河渚は、逃げていた。

お母さんは、私を見捨ててしまったのか。
最悪な事をした私だから、こんなにも弱い私だから。
だからこそ、お母さんは私を否定するのか。

私は悪くない、悪くなんか、無い。

そう、思うしかなかった。

嫌いだ、嫌いだ、本当、大嫌いだ。


私は悪くないんだ、なのにお母さんは私を否定した。
だから、もう、嫌だ、大嫌いだ。
お父さんもそうだ、何で助けに来ないんだ。
こんなにも苦しいのに、こんなにも辛いのに。
誰も、誰も、助けてくれない。


嫌だ、嫌いだ、嫌だ、嫌いだ。


思えば、生まれたから、碌な事なんて無い人生だ。
お父さんもお母さんも私のせいで、人生を棒に振った。
私は、治る見込みが病気のせいで、楽しい事なんて全然無かった。
友達だって出来やしない人生で。

全然、誇れる人生じゃない。


なんで、こんな目に私を合わせるんだろう。
なんで、こんな辛い人生を送らないといけないんだ。


嫌いだ、嫌いだ、こんな目にあわせる世界なんて、だいきらい。
終われ、終わってしまえ。



でも、私は、私は悪くない。


生まれてきた事を悪いと思いたくない。
この世界に生まれた事を、私は否定したくない。
皆、皆、私を否定するけど、私は生まれたんだ。



だから、私は死にたくない。


こんなにも嫌いで終わった世界だけど、私は死にたくない。


そうだ、私は生きている。
私は悪くない。
だから、私を受け入れてくれる人だってきっと居る。

朋也君みたいな人が、きっときっと。
竹山君だって、私の事を。


そうだ、こんな醜い終わった世界にだって、私を必要としてくれる人が居るんだろう。

だから、ねぇ、


「わたしを、みすてないで」


わたしは、



「まだ、いきていたい」










     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








月が真っ白でした。
驚くくらい綺麗で、ずっとずっと眺めていました。
私は地面に磔になったように、寝転がったままでした。

まるで、世界の一部になったように、私――能美クドリャフカは、世界に、埋没しそうでした。
先程聴こえた放送。そして死んでしまった、真人さん。
私は目蓋を閉じて、そのままでした。
雫が流れたのは、私にとっても幸いで。
まだ、涙を流せるんだと思いました。

そして、そのまま、月を眺めていました。


隣には、終わってしまった命が二つあって。
それは、私が終わらしてしまったと一緒なのでしょう。
これが、私の罪と言うなら、そうなのでしょうか?

解かりません。
解かりっこありませんでした。
そんな事を理解できるすべはもう失ったのですから。

だから、そんな私は空虚で。
あのヒトは、壊れたと私に言いました。

そうなのでしょう。
きらきらと輝いていた世界がもう靄がかかったように見えないのです。
穢れたように、黒く、汚れてるように。

私の世界は、醜く、終わりそうでした。

それでいいのかという声と。
それでいいのよという声が。

両方とも、聴こえて、もうよく解からなくて。

それとも、もう終わっていたのかもしれない。

あの時、引き金を引いた瞬間から、何もかも。


ううん……もしかしたら、最初から、そう、何もかも。


何もかも失って、狂いに狂った、こんな終わった世界で。


そんな終わった世界で、私は終わるのでしょうか。


こんなにも、穢れてしまった(美しい)世界だというならば。


もう、何もかも、失った方がいいかもしれません。
もう、何もかも、捨てた方がいいかもしれません。


夜空が、綺麗でした。


遥か彼方の月と星はとてもとても綺麗で。


そんな、綺麗な(醜い)世界を。




―――私は捨てることにしました。









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








だから、

何もかもから、逃げて、それでも世界に縋り続けようとした少女と。
穢れに穢れて、何もかも失い、世界を捨てようとした、少女が。


白い月の下、出会った。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「ひぃ…………二人も……し、死んでいる……なんで」
「…………なんで、なんででしょうか?」
「……あ、貴方がやったんですか!」
「……どう……なのでしょうか……もう、解からないです」


「解からないって……なんで、殺したんでしょう!? 自分が生きるために!」
「……かもしれません」
「ほら、皆そうやって殺していくんだ……私だけじゃない!」


「そうだ、私だけじゃない……私だけじゃないんです!
 みんなみんな……そうやって自分の事ばかり考えて……だいっきらい……だいっきらい
 弱いから……生きたいから、仕方ないんだ」


「本当にそうなのですか?」
「……え?」


「そうやって、目を背ける事は簡単です。べーりーいーじーです。
 それに、それはとても優しいです。温かいぐらい優しいです。
 けれど、だからって何も変わらない、罪から逃げてるだけなんです。
 全てを嫌う事は、きっと救いなんて、ならないです」


「……何が、何が解かるんです! 貴方に私の何が!
 いつもいつも、誰も誰も救ってくれなかった! 一生懸命生きようとしたって、皆それを邪魔をする!
 私は弱かったけど、どうしようもないぐらいに弱かったけど、それでも生きてたかった、生きたかったんです!
 でも、皆、皆、それを許してくれない。母も父も、友達も、世界も! 
 だから、だいっきらい! こんなにも醜い終わった世界がだいっきらい!」


「……じゃあ、一緒に終わってしまえばいいのに」


「それでもっ……それでもっ、私は世界に縋るしかないんです! 終わってしまったら、私の生すら、否定してしまう!」


「そうなのですか……私は、こんな終わった世界がもう、よく解からないんです。
 穢れ狂った、世界で、私はどう生きるんでしょう? 何を見ていくんでしょう?
 何もかも失って、もう何も無いんです。きらきらと輝いていたものはもう、見えない。いや、見たくないのかもしれません
 真っ白いものを真っ黒で汚れ穢されて、何も無いなら、何もなくしたのなら」


「私は、世界をお別れして、捨てればいいのかもしれません。
 あんなにも綺麗なものを思い出せないなら、忘れて。
 何もかも、終わった中で、そして、わたしも終わるのかもしれません」


「じゃあ、終わってしまえ! 終わってしまえばいいじゃないですか!」
「そうかもしれません。でも、それは貴方も一緒かもしれませんよ?」
「違う! 私はそうじゃない!」
「そんなの誰にもわからない。あいどんとのー。ゆーどんとのー」


「壊れて、狂って、そして、終わった世界で」



「私達は何もかも終わるしかないんですよ」











     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










そして、醜くも、美しい、終わった世界で銃声が鳴った。











 【時間:1日目 20:00】
 【場所:C-2】


  能美クドリャフカ
 【持ち物:CZ75(?/15)、不明支給品、水・食料一日分】
 【状況:?????????????????】



  古河渚
 【持ち物:S&W M36 "チーフス スペシャル"(?/5)、.38Spl弾×?、ステアーTMP スコープサプレッサー付き(32/32)、予備弾層(9mm)×7、水・食料二日分】
 【状況:??????????????????】



122:二人だけの楽園 時系列順 140:ワールド・イズ・エネミー
135:泣けない貴方の為に、私が出来る事 投下順 137:My Beats, Your soul.
109:Monochrome-モノクローム- 能美クドリャフカ 144:くずれるせかい
132:嘆きの種子 古河渚

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最終更新:2015年03月15日 09:11