れんこん用

 キャラ設定とか

赤面モノ

どうもこういうのをボクが書くとプロファイリングデータっぽくなってしまう。そのつもりで読んでくれるとおk

Schlau(シュラウ)

パーソナルデータ

・3番艦『ソーン』に所属する女性アークス。射撃を特に好み、ガンナーとしての活動が目立つ。

・種族はニューマンであるが出自は不明。

・生年月日及び年齢は不明(外見は17前後)

・身体機能の一部に障害有り。

・端正な顔立ちに、印象的な紫の瞳。

・両の肩に入れ墨があり、これはアークスになってから入れたものである。

・名前はスラム生活期につけられた仲間内でのアダ名であり、本名は本人も知らない為、便宜的に名乗り続けている。「狡賢い」の意。

・アークスとしての技量としては中堅レベル。であるが、対多数の包囲状況において非凡な空間把握適性を見せ、普段以上の実力を見せる。

・しかし、対単独戦闘において幾度か不可解な身体の硬直が見られ、危険な状況に陥ることも。

生い立ち

・幼少期の記憶がなく、気づいた時にはオラクルの中でも治安の悪い半ばスラム化した区画でふらふらと彷徨っていたために、両親の顔も知らずにいる。

・男性的な喋り方をするのはこの時自然と身についてしまったもので、護身の為。生きる意味も目的も見出だせずただ彷徨うだけの生活だったが、死への恐怖感からただ無心で生き続けていた。

・ふとした折に同じ界隈を縄張りとしていた男とトラブルに至り瀕死状態に至るまで暴行を受け生死の境を彷徨う。運良く救助され治療を受ける際にアークス適性が判明、そのままアークスにスカウトされ入隊。

・その経歴故か、貧困に対する恐怖感のようなものを抱いており、金銭等に執着する傾向にある。

 

人柄など

・基本的に気分屋であり、アークスとなってからは高慢な性格が目立つ。好き嫌いがハッキリと態度に表れてしまう為、猫を被るのは苦手。性的倒錯者であり、特に被虐的、嗜虐的情動における不安定さが顕著。

・生い立ち故のかなり歪曲された独特の倫理観を持っており、社会的集団においては問題の原因となりやすい性質。

・毎日のようにエステに通っては、自らの容姿を磨くことを楽しんでいる。過去の自分を忘れたいが為に始めたことではあるが、既にその目的は達せられたと本人も自負しており、現在は純粋な趣味と言っても相違ない。

・自分の容姿については特に自信を持っており、それを磨く為に日々のトレーニングや美容の為の努力を欠かさない。またファッションにも敏感。

・嗜虐的な発言や行動などが目立つが、その本質はマゾヒズムの気が強い。頻繁に見せる嗜虐性(サディズム)も、被虐性(マゾヒズム)が反転した結果、相手に自己を投影することで被虐願望を自己解消させようと試みるがゆえのもの。本人はそれを自覚していない。

・アークスとして活動することをそれなりに楽しんでおり、特に一般市民からの依頼を好んで受ける。戦闘任務については消極的ではあるものの、ダーカーであれ原生生物であれ、自分に敵対するものについては特に躊躇することなく排除する。

・高慢ではあるものの、人助けには比較的積極的であり、中でも少年や少女に対しては非常に面倒見が良い一面を見せる。

・食べることが好きで、食べ歩きをしたり料理が趣味という家庭的な一面を持つ。経歴ゆえの反動か、食べ物を粗末にする人に対しては怒りを露にすることも。好物は酸味の強い物。

・無類の動物好きであり、ナベリウスの原生生物に対しては並々ならぬ好奇心を抱く。時に危険な試みを行うことも。

 

人間関係

・特にこれといった繋がりを持たず、家族などといった繋がりも経験したことがないためかあまりこだわらない。しかしながら同期として行動を共にすることの多いアフィンに対しては、人並みならぬ感情を抱く。

・異性に対して時折過激なスキンシップを取ることも

・基本的には自分の問題性を自覚しており単独行動を好むものの、他人からの誘いや好意などには素直に応じる柔軟さは一応は持っている。   が、やはりトラブルに至る場合が多く、アークス内での評判にはばらつきがある。

・4番艦を所用で訪れた際に、アークス入隊のきっかけになったとも言える男を見つけ、それ以来その男をつけ回すように。つけ回すだけで今のところ何をするわけでもなく、ただ後を追うだけに留まっている。復讐したい為なのか、或いはその逆か、それとも好奇心か・・・本人ですら答えが分からないままに、その男の跡を付けている。

 

ショートストーリー書いちゃった

 

 

 

 

 

一面の灰色、灰色しか見えない。

身体、身体を起こさないと。身体?

いや、それよりも、自分は

「あ…。」

口から漏れた自分の声、酷い違和感。まるで、他人の身体を動かしているような、そんなズレた感覚。

ゆっくりと頭が働き始め、頬の冷たさにようやく自分が横たわっているのだと気付いて、身を起こした。

「…。」

不思議と、思考は明瞭。先ほどのズレた感覚も、すぐに霞むように消えていく。少しすれば、もうこの身体は、自分のものだった。

そうした自己の認識を終え、辺りを見渡してみる。が、見覚えがない場所だ。

薄汚れた建物に囲まれた場所。つまりは路地裏。

勿論ながら、今の当人に路地裏だとかそういうハッキリとした状況の認識はない、ただ漠然と、視界を埋めるように立つ小汚いビルをみて、嫌な場所だと感じる程度の認識しかできないのだが。

ふと目線を下に下げれば、自分の身体が見える。

薄汚れた、大きな布一枚を乱暴に身体に巻きつけただけ。肌の感じは、どうやら本当にそれだけしか身につけていないことを伝えてくる。

恥じるよりも先に、寒いとしか感じられなかった。

そうしてじっとその場に座り込んだまま、しばらくの時間が過ぎる。

座りながら考えていたのは、そもそも自分が誰なのかという事。健常であるならばそれは幾分哲学的な問いかけにもなるのだろう、が、この場合の自分が誰かという問いは、もっと単純なものだった。

「私…?」

生きる方法、自分が人間という生き物であること、女であること。そういった基本的な事は分かる。どうやら赤ん坊のままという訳ではない。

けれども、自分がどこで生まれ、どこで育ち、どういう経緯で今に至るか、そういった事がまるで抜け落ちている。

「名前…は…」

名前も、失くしてしまった。いや、そもそも、名前なんて本当に、あったんだろうか?

と、思考の海に意識を彷徨わせていた時、不意に声が聞こえた。

喧騒、どうやらすぐ近くで、誰かが争っている様な、そんな物騒な音だ。

「離れないと…」

本能とでもいうのか、アレに巻き込まれれば面倒なことになるのは、名前すら分からない自分でも、わかる。

フラつきながら立ち上がり、壁に手を付きながらその場を離れる。ここにいては巻き込まれる。頭が危険から逃走することを、迷うことなく選ぶ。

だが、そううまくはいかなかった。

曲がり道を曲がったその先に、進行方向に立ち塞がったのは、あまり良い身なりとは言えない、粗野という言葉がぴったりとハマる、若い男達。三人、手に棒の様なものを握っている。

皆、曲がり角から飛び出た自分を見てその棒を構えたところで、訝しげにこちらの様子を伺っている。

「なんだこいつ?」

どうやら、向こうで騒ぎを起こしている輩の仲間だろうと漠然と当たりがついた。

身にまとうボロキレで顔と身体を覆い隠しているためか、怪訝そうにこちらを睨みつけてきている。

張り詰める空気。

何もできない、下を俯きながらじっと押し黙るしか。

「っち、ガキの浮浪者か…痛い目見ねぇ内に消えろ。」

どうやら、目的の相手とは違ったようだ。ほっとしつつ小さく頷いて、そのまま横を通り過ぎようとした。

「おい待てよ、お前、女か?」

男の内の一人の声にびくりと、身体が硬直する。本能的とも言える、恐怖。

女か?女だったらどうするのか。いくら記憶がなくとも、その言葉の意味する事は、わかってしまった。

「おい、答えろよ。」

どうする、どうすればいいのか。

咄嗟に口をついて出たのは、

「…ボクは…。」

自分でも驚くほどに、口から出たのは、中性的な、声。

「…ちっ、男かよ。」

「おい、遊んでる場合か!お前がちゃんとやらなかったらな、俺らまでどやしつけられるんだよ、いいから放っとけ。」

「っせぇ!わかってんよ!」

こちらにもう用はないとでも言うように、男たちは剣呑な様子で話し始める。どうやら、助かったらしい。

早鐘のように脈打つ心臓が、痛かった。

足早に、その場を立ち去る。何も考えられず、ただひたすらに足を動かし続け、いつしかたどり着いたのは、並び立つビルの間から抜け出たところに、ビルに囲まれるようにしてポツリとある、公園だった。

 

薄々と感じてはいたが、今いる場所はあまり治安が良くないのだろう。通りにはあまり人相のよろしくない輩ばかり見る上に、こんな公園ですら人の姿は見えない。建物もあまり手入れが行き届いていない様子で、中には自分と同じような出で立ちの人間もそれなりにいる。所謂ここは、スラム街というやつだった。

しかしながら、そんな荒れた区画の中でも、まだ整っていると言える程度に、ここの公園は綺麗だった。

「…はぁ。」

自然と口から漏れる吐息。まだ状況は何も好転していないが、とりあえずは一息つけそうだ。

公園の敷地に入り、手頃なベンチに腰をかける。

布一枚しか身につけていないせいか、やはり身体が冷えるが、それには目を瞑っておく。とりあえず、今の状況を整理すべきだろうか。

といっても、先ほどまでと何ら変わっていない上に、何もわからないという始末だ。

自分が誰で、ここがどこで、そして、

「どうやって、生きていこう…。」

そう、どうやって生きていこうか。それが問題だった。

幸い、街にある看板や標識は読めた。読めるのだから、つまり言葉は問題なく通じるはずだ。というより、先ほど逃げてくるときに既に会話を交わしたからそれは確かだろう。

一つ確かなことはある。

男のフリをしなければならない、ということ。

「ボク…ボク、か…」

当然といえば当然だが、女であることがバレるのは危険である。何をされるか分かったものではない。

どの時代にも、どの世界でも、どの宇宙でも、

持たざる者になれるのは、男だけなのだ。

であれば、男のフリをしたほうが、何かと都合がいい。

そして、何も持っていないというのは、ある種の自衛手段になる。何しろ、襲うメリットがない。

しかしこれも、例えば暴力それ自体が目的になっている者に対しては効果が薄いのだが、最低限できる自衛、という点ではそれなりに意味はある。

「…どうしようかな…」

八方塞がりだった。落ち着いてはいるものの、なにせ生きていくための、知識がないのだ。

どうしようもなく沈み、うずくまるように頭を伏せていたその時、不意に声が降ってきた。

「おぅい、生きとるか?」

しわがれた年季の入った声。ピクリと身体を震わせ、恐る恐る見あげれば、そこには声の印象通りとも言える老人が、優しげな表情を浮かべてこちらを覗き込んでいた。

「おお、生きとったか、こんな所にいるということは新参者じゃな?ここは危ない、ほれ、移動するんじゃ。」

ついて来いと言うように手招きして、老人が急かしてくる。どうせ何もわからないのだし、嫌な気もしない。

迷いは一瞬だった。

こうして、終わりかけていた彼女の運命は変わった。

 

しばらく歩き、また路地裏のような場所へと入ったところで老人は立ち止まった。

「さて、お前さん、ここは初めてじゃな?」

初めてなのかすら分からないが、とりあえず分からないなら初めてだろうと、老人の問いかけに一つ頷いて答えた。

「じゃろうなぁ、ここにいるもんならあの公園がどんな場所か知っておるしな。もしかすると知っててあの場所にいたのかもしれんと思ったが、声かけて正解だったかい。」

どうやら知らない内に危ない場所へ足を踏み入れていたようだ。思えば確かに不自然ではあった。

あんなに綺麗な場所なら他の、自分と似たような浮浪者もあそこに陣取るだろう。にもかかわらず、あの場所だけ綺麗だったのは何故か。

「ま、その理由もおいおい分かるだろうて。」

「…あの、ありがとう。」

助けてもらったら、お礼を言う。そんな当たり前なこと。記憶はないのに、そうやって当たり前の会話をできるというひどい違和感。初めて使う言葉にも感じるし、言いなれた言葉にも感じる、奇妙な感覚だった。

「ん、喋れるんか、良かったよかった。わしも年甲斐も無く人助けなどした甲斐があったわい。」

そうしてほっほと嬉しげに笑う老人。悪い人間には見えなかった。

だからだろうか、思い切って自分の今の状況を話そうと思ったのは。

「実は、ボク…記憶が、」

 

 それからは、生きる術をこの老人から学んでいった。境遇を聞いて、おかしなこともあるものだと笑い、それ以上は聞かずに自身の寝床を分けてくれた老人に、日々の糧を得る術を学んだ。

それはとても、汚かったり、時には盗んだり、決して褒められたものではないが、何にせよ、貪欲に生きるという意志を磨いていった。

生来の才能からか、類まれな狡猾さを武器に、少女は生き抜いていく。そうして生きていく内に、同じような浮浪者仲間に、シュラウという名前をもらった。

その名前の意味するところは、、狡猾。

わかりやすい名前だし、意味を聞いた彼女自身も、自分らしい名前だとその名前を気に入った。

そしてその名前を体現するかのように、彼女はずっとその性別を隠し通していた。

 

そうして1年ほどが過ぎたころ、大きな転機が訪れる。

「ぐ、うぅ…」

うめき声の主は老人。

「ねぇ、爺さん、どうしたの!」

見るからに尋常でない汗と青ざめた顔で呻き続ける老人を、懸命にシュラウは介抱するも、まるで良くなる様子はなかった。

「あぁ…いやそろそろな…お迎えが、来たみたいでな……。」

途切れ途切れに、苦しげにそんなことを言って笑おうとして、再び顔を歪める老人。

それを見て、いてもたってもいられなくなったシュラウは、夜の帳が降りて真っ暗になった外に飛び出して、走りだした。

 

ハッ…ハッ…

未だにボロボロの布一枚に身を包み(何故か、この布を気に入っていた彼女は、他のものを身につけようとしなかった)暗い路地裏を駆け抜けるも、特に助けを呼ぶアテがあるわけでもなかった。

ただ不思議と、直感のような物を感じて、ある場所へと向かっている。

 

最初に老人と出会った、あの公園へ。

 

そして、たどり着いた公園で、佇む一人の男を見つけた。

「あ、あの…」

「あ?」

顔だけをこちらに向けて露骨な苛立つ表情をこちらに向けてくる男。帰ってきた剣呑な声に、一瞬呑まれかけるも、かぶりを振ってどうにか平静を装う。

「助けがいるんです…病院に、連れて行きたいんですけど、ボク一人じゃ無理で…」

それを聞いた男は一瞬怪訝な表情を浮かべたものの、舌打ちして、こちらに向きなおり

「どこだ。」

「こ、こっちです!」

胸を撫で下ろし、ほっとしながら先導を始める。

改めて先を走りながら、後ろをついてくる男をちらりと窺い見る。

男の身なりは、このあたりの人間にしては随分と小綺麗だ。顔つきも整っていて、正直好みともいえる。

そんなことを考えつつも、すぐに老人のことで頭が一杯になっていた。だから、すぐ先の曲がり角の先で待ち構える不穏な気配にも気づけずに、その路地へと、入ってしまった。

「へっへっへ…やっと会えたぜ…こんな場所で会えるなんてよぉ。」

前方を塞ぐように立っていたのは、別の男。

身なりもずっと粗野で、そうそれは、いつか見たあの…

「あぁ!?誰だテメェ!」

応えたのは、背後からついてきていた男だった。

頭の中が混乱する。今のこの状況はなんだ?

混乱に拍車を加えるように、自分と男の前後を塞ぐように、ぞろぞろと現れたのは手に手に凶器を持った男共の姿。

(誰だ、こいつらは、なんでこんな時に、急がないと爺さんが!)

頭の中をグルグルと思考が回る。そうこうしてる内に、状況は悪化していった。

「あの時の礼を返してやれ!やっちまえ!」

前に立った男の号令で、後ろの男へと、周囲の武装した男達が襲いかかった。

自分のことなど眼中にないように、凶器を持って殺到する暴徒。

何故、何故、何故?

全く状況についていけない、ただ後ろの男を窮地に追い込んでしまったことだけは分かった。なんとかしなくては。横を通りすぎていく先ほど啖呵を切った男を視線で追うように、振り返る。

だが、振り返ったシュラウの目に飛び込んだのは、そんな男たちに串刺しにされる男の姿ではなく。

ただ拳の一撃で、一瞬にして無力化されていく暴徒の姿だった。

身体めがけ突き出されるナイフを、少し身を逸らすだけで躱し、次の瞬間にはナイフを持った手は、普通では曲がらぬ方向へ捻じ曲げられ、そしてその顔面に拳が突き刺さって男から離れていく。

後ろから振りかぶられた棒を、無造作にあげた片手で掴み、そのまま棒を持った相手ごと担ぐようにして投げ飛ばし、三人がまとめて壁に叩きつけられ、尽くが地を這う。

たった一人なのに…

それは初めて見る、圧倒的な力だった。

そうしてさほどの時間も要せず、もはや立っている者は、自分と男の二人だけになっていた。

「ちっ、数だけの雑魚が…さて。」

男の、殺意を帯びた視線が、こちらへと向いていた。

何故、何故そんな目でボクを見ているのか?

「テメェは俺を騙したってことだよ、なぁッ!」

否定できる時間はなかった。

身体に走った衝撃。ズグン、と、重苦しいそれは、みぞおちの辺りから、ゆっくりと伝わってくる。

知覚がスローモーションになっている。まず感じたのは、フワっとした浮遊感。自分の身体が地面から少し浮き上がり、そして次に来た痛みとともに再び重力に捕まる。

「…ッ…?!ぉ…」

声が出て来なかった。それ以前に、肺が動かない。

イキができない。頭の中がスパークしたように真っ白になっている。

気づけば、地面へと崩れ落ちていた。

「かっ……ハッ…ぉ…」

必死に息をしようと口を開くが、漏れてくるのは、嗚咽にもならない微かな音だけ。

「テメェはあいつらとグルになって、俺を誘いこみやがったってことだよなぁ!?」

違う、と答えようとしたが、声が出なかった。

間髪いれずに、今度は下腹部への、衝撃と痛みが走る。

踏みつけられたことすら分からない、ボロボロと流れ出てくる涙で前も見えなかった。そしてもう一度の、衝撃。もう一度の下腹部への、蹴撃。

痛みよりも先に、何故だかは分からないが、とてつもない喪失感を、感じた。

「~~~~ッッ…?!?!」

大切な物が無くなった喪失感。それが何かを確かめる間もなく襲ってくる痛みに意識が何度も途切れ、其のたびに再び痛みで意識を呼び戻される。

振るわれる圧倒的な暴力の前に、為す術もなかった。

ただ自分はここで死ぬんだろうか、と思った直後に、大切なことを、思い出した。

幸いにも、目的の場所はすぐそこだ。

「ぉ…じ…ぃさ…」

ようやく息を吸うことを思い出した肺から空気を絞り出しながら、手を、指を、今も自分を待っているはずの老人のいる場所を、指さして

ゆっくりと、意識を手放した。

 

 

 

 そして、目が、覚めた。

 

 一面の白色、白色しか見えない。

身体、身体を起こさないと。身体?

いや、それよりも、自分は

「あ…。」

口から漏れた自分の声、中性的な自分の声。まるで、作り物の身体を動かしているような、そんなズレた感覚。ゆっくりと頭が働き始め、身体の暖かさにようやく自分が、ベッドの上に横たわっているのだと気付いて、身を起こそうと、

「痛ッ…ぐっ?!」

全身を苛む痛みに、身を起こすことを阻まれてしまう。

「ここ、は?」

視線だけで周囲を見渡す。

白い仕切、白い天井、白い照明、どれもすごく綺麗で、真っ白だった。初めてみるその白さに、目を細めていたら、突然仕切が開いた。

入ってきたのは、白衣を来た女性と、白い、ナース服と言うのだろうか?を着た女性。

「あら、目が覚めたのね。どう、身体は…たぶん暫くは動かすのは止めたほうがいいと思うわ。」

横に着て、無造作にこちらの首筋に手を当てながら、何かを手元のボードに入力していく女医が苦笑を浮かべながら言う。

それは試して分かったことだった。首だけを動かして頷いて見せる。それだけでも少し身体に痛みが走ったが。それを見て、ナースがベッドの一部を起こしてくれた。背もたれのようになったそれのお陰で、どうにか上半身を起こした状態になれた。

それを見て女医が頷き、口を開く。

「頭の方も大丈夫みたいね。それじゃ、今の状況、分かってないと思うから、軽く説明しようかしら。」

そう、それは助かる。再び頷いて見せ、先を促す。

それを見て口元に微笑みを浮かべながら女医は、指を鳴らした。と同時に、目の前に何かの画面のようなものが出てきた。ホログラムモニター、確か似たようなものを何度か遠目に見た気がする。

「まず、いまここはアークスシップ三番艦『ソーン』と呼ばれる船の、アークス専用区画にある医療棟よ。」

目の前に映しだされたのは、大きな船の見取り図。其の中の点滅している一角が、今いる場所ということだろうか。

それにしても、アークスシップ?ソーン?どこかで聞いたような気がするが、よく思い出せない。その様子を見て、女医が再び、指を慣らした。

画面が切り替わり、今度は一面に大きなロゴマークが映し出される。

「アークス。選ばれた者だけが所属できる、惑星調査組織。簡単に言えばね、貴女は、選ばれたの。アークスにね。」

再び頭の中を疑問が浮かぶ。そこへ間髪入れずに女医が言葉を続けた。

「貴女がこことは別の病院に運びこまれた時に、まぁ当たり前というか、データを照合しようとしたんだけど、貴女は船団の住民情報ネットワークに全く情報がなかったの、だからまぁ、それについてはたまにあることだから、その登録を済ませるために、色々と寝てる間に検査をしたのよ。」

なるほど。つまり自分は、あの男に殴られてから気を失って…失って?

大切なことを、思い出した。

「えっ?一緒に運びこまれた老人がいなかったか?…それについてはちょっとわからないわね。ただあなたを運び込んだのは、若い色黒の男だったそうよ。」

爺さんはどうなったのだろうか。そして、自分を運んだのは、あの男?何故?

「貴女の質問についてはごめんなさい。で、話を戻すとね、その時の検査で、貴女にはフォトンの適正が見つかったのよ。」

「フォトン…適正…。」

「そう、それこそが、アークスの絶対条件ってわけ。まぁ調べるまでもなく、貴女はニューマンだから、そうではないかっていうのは当たりがついてたのだけどね。」

「ニューマン?」

「そう、貴女はニューマンよ。知らなかった?その尖った耳が、その証明。」

そういって目の前のモニターが、自分の姿を映しだす。

そこに映っていたのは、紫の瞳と金髪、そして、特徴的な、耳。

「正直いえば、ニューマンで全く住民情報が無いっていうのはおかしな話なんだけど、貴女、何者?」

突然のぶしつけな質問にキョトンとしてしまう。

そういえば、この女医は自分のことについて、身体の事以外は分からないのだということに気づいた。

「わ…あ、いや、ボクは、実は、記憶が…ない。」

その言葉に、女医の目が不意に輝いた、きがする。

「記憶が無い?それ本当なの?」

その後の質問攻めは、熾烈の一言に尽きる。根堀り葉掘り、目が覚めてからのことを聞かれ、男に殴られたところまで喋り尽くしたところでやっと女医は満足してくれたようだった。

「なるほど、興味深いケースだわ。」

満足気に頷く女医に対して、少女の表情は少し疲れの色が濃かったが。

 

そうして暫く、身体のデータを取られ、これからどうなるのだろうと思いを巡らしていた所に、女医が切り出した。

「で、貴女にはいま二つの選択肢があるわ。一般市民として、あの場所に再び戻るのか、それとも、アークスに所属して、今までの生活に別れを告げて、新しい人生を歩むのか。」

告げられた選択肢。

迷いは、あまりなかった。

「アークスに、なる。」

おそらく、あの場所に戻っても、もうあの老人はいないだろう。

ひょっとすると、老人の最期を、あの男は看取ってくれたのかもしれない。

そうであればいいと、心のなかで願って、新しい道を歩き出そうと、心を決めた。。

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最終更新:2013年08月10日 04:49