ヘンリー ローソン

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ヘンリー ローソン


定めの元に生まれた男

ヘンリーは、やはり運命的な定めの元に生まれた男であった。年代を正確には書いていないが、CE2120年頃にアメリカ南部の農場で生まれたことになっている。彼はローソン夫婦に拾われ、そして育てられた。また世界を動かすアシュリアン財団から提供された多額の資金提供によって彼は一流の大学で経済学を学び、アメリカで大成功しようと夢を抱く一人の男に過ぎなかった。そう、最初の初恋の女性セシルと一夜を過ごすまでは。

ヘンリーはCE2150年、アシュリアン財団が設立したアンセム・バイオテック・ラボトリーにおいて、自らのX性染色体(非活性化された女性の性染色体)を用い、さらに数百人以上の人間の遺伝子から分離してきたヌクレオチドを再配列して、合成した精子とセシルの卵子を用いて、人工的な受精卵を作り上げた。それが自らの娘と称するミランダである。1度めの受精卵は細胞分裂の時に一度失敗したが、2度目が成功してミランダが生まれた。

ラボトリーのヴィル コーデイ所長は、この成功によってクローン人間を大量に作り出す計画の次の段階に進めると判断し、ヘンリーに多額の謝礼を渡して去るように交渉した。ヘンリーは元からこうなることを予測していたので、既に「ヘンリー ローソン遺伝子研究所」をメキシコに建設していた。だか、そこは市街地から50kmも離れた山の中で、研究所と大きな邸宅とたった2軒あるだけの、研究所の職員と雇われた労働者しかいない、かなり閑散とした寂しい場所だった。

ミランダはそのような山の中で、数人の世話人によって育てられたが、その中でもニケットという男性がMassEffect2に登場するが、彼が後にミランダの逃亡を知っていて見逃した人物。ニケットは雇い主であるヘンリーが、あまりのエゴイスティックなミランダの育て方に耐え兼ねて、オリアナと共に逃げるミランダのために連合士官に保護してくれと依頼までした。

さて、これからは雑誌「MassEffect」(2011年12月)に掲載されたストーリーにうまくまとめて書いた物語を紹介する。MassEffect3の発売前にあったストーリーなので、ゲーム内容にはあまり取り上げられていないが、設定の物語という程度で読んでもらいたい。


雑誌「MassEffect」(2011年12月)より「ヘンリー ローソン」

登場人物

ヘンリー 投資家、遺伝子研究員 主人公
マリア アシュリア アシュリアン財団の会長、地球連合 提督 ヘンリーを助ける女性
セシル 大学時代の友人 ヘンリーの妻
エディ ヘンリーの育ての親 父親
リンダ 母親
ミランダ ヘンリーが人工的に作った女性、サーベラスのエージェント ヘンリーの娘
オリアナ ミランダの次にヘンリーが人工的に作った女性
ニケット ヘンリー家の職員 ミランダとオリアナの世話人
ヴェラ ミランダの通信教育担当
シャリー ミランダの食事係
レイチェル ミランダの看護師
モリス 運転手
リンゼイ博士 アンセム・バイオテック・ラボトリーの博士 遺伝子研究員
ベンジャミン ローランド中尉 元連合士官 サーベラス
コナー エスカス
イルーシヴマン リーパーに洗脳された男 サーベラスの創設者


謎の赤ん坊


時はCE2120年頃、メキシコにあるローソン夫婦の経営する広大な麦畑を、アシュリアン財団が丸ごと買い取ろうとしていた。財団のエージェントであるディック バーガーセンが、信用させるために多額の資金を持ち、買収交渉するためにその農場に向かう3日ほど前のことだった。

農場の家との間を1kmほどの長い道があり、その脇に林がある。その林の中に、古代文明の遺跡と思われる、いびつで意味不明な形状の謎の物体が、ローソン夫婦が産まれる前からあったことは、離れた住民でも知っていた。そして、財団のエージェントが来る3日前、妻のリンダが、農作業の帰りにその遺跡の傍を歩いて通りかかったところ、いつもは暗い物体がなぜか光っているのに気づいた。

リンダは、遺跡に近づいていくと、何やら赤ん坊の鳴き声が聞こえてくる。彼女は、遺跡の周囲をよく探していくと、反対側には地下への入り口を見つけたので、降りていくと地下室らしき場所があり、周囲には見たことがない機械が多数置いてあった。彼女は驚いて座り込んだが、謎の機械をよく見てみると、どうやら透明なガラスの中に産まれたばかりの赤ん坊がいると気づいた。

リンダは急いで家に戻って、夫のエディと共に遺跡に戻ってきて、二人でなんとかして赤ん坊を取り出さなければ、という思いに駆られた。

エディ「どうやらこの機械と関係があるようだな、適当に押してみるか」
リンダ「いつの文明の機械かも分からないのに、下手して大変なことにならなきゃいいけど、あんた、やってみて」

エディは、適当にその辺にあったコンソールのボタンを押していったが、チェンバーが1つ1つ開いていった。赤ん坊の入っているチェンバーが開くのにはしばらくかかったが、20回程度押してやっとチェンバーから赤ん坊を取り出すことができた。リンダは用意していた毛布に赤ん坊を包んで大事そうに抱きかかえ、エディと共にその遺跡を立ち去った。

エディとリンダは、もう40代になるのに子供がいなかった。なぜリンダがこれまで妊娠しなかったか、という理由は何度も考えてきたし、医者も散々身体を検査して診てきたが、その本当の理由を二人が知ることはなかった。

ローソン夫婦は、なぜ赤ん坊が、この古代文明の遺跡の中に置き去りにされたか、という理由などは考えずに、これまで欲しかった赤ん坊を自分らの子とすることに無我夢中だった。やっと手に入れた我が子。夫婦は何があっても手放さないと決めた。


エージェント


ローソン夫婦の元に、アシュリアン財団のエージェント、ディック バーガーセンというその交渉人は、農場を丸ごと買い取りたいと言い出した。ここに地球海軍のための軍艦を製造する工場を作りたいので、ぜひとも買い取らせて欲しいという。持ってきた多額の資金を見せ、ローソン夫婦をここから立ち退かせようと画策した。

ローソン夫婦はしたたかだった。ディックが見せた100万$はほんの見せ金だと思ったのか、もっと出せると踏んだのだった。

リンダ「赤ん坊が産まれたばかりなんだよ。さっきの立ち退き費用に加え、この子の養育費も出してくれるってんなら、立ち退いてもいいよ。あんたらのいうアナハイムってとこにいってやるよ。あんたらの用意したマンションとやらにさ!」

ディックは、世界を動かす会長マリアから金に糸目は付けないとまで言われていたので、800万$を出すといった。もしそれで断るならば、より強硬な手段もスーツケースに用意していたが、ローソン夫婦はそれで手を打ってくれて彼も安心した。

エディ「うちの農場のことだが、1つ言っておくことがある。あんたがさっき通ってきた道の傍には林があるが、あの中には古代文明の遺跡があるんだよ。あれには触れないほうがいいと思うよ。あれはとても危険だと感じる。それだけは忠告しておくよ。」

ディックは、事前調査で農場の中に地球外にしかない金属があることを知っていたが、ローソン夫婦がその場所を教えてくれたことで、彼はすぐに通信で座標を会社に伝えた。

ローソン夫婦は、翌日、荷物をまとめてカリフォルニア州のアナハイムに移り住んだ。エージェントのディックが用意したマンションで、アシュリアン財団の職員が住んでいるマンションだ。周辺のマンションに比べたら相当便利性のいい高級なところだが、ローソン夫婦と赤ん坊はそこで暮らし始める。赤ん坊に名前を付けたのは、偶然ではなく、リンダもエディも、なぜか心の中に「ヘンリー」という言葉が浮かんだからだ。あの古代文明の遺跡の地下に入ったとき、その名前が聞こえた。二人は必然的に、「ヘンリー」という名前をその奇跡の赤ん坊に名付けたのだった。

軍艦製造の足がかかり


アシュリアン財団は、太陽系探査計画を進める地球海軍の要請により、より高い技術の軍艦建造に着手しようとした。だが、宇宙における放射線に耐えて高速に移動するための軍艦を作るには、未知なる重金属が必要だ。その重金属を地球軌道の衛星を使って探していると、ローソン夫婦の農場にその反応があった。アシュリアン財団のエンジニアが大勢投入されて、謎の古代文明の遺跡が調査され始めた。

やがて1か月が経ち、未知なる重金属を調べたところ、数種類の重金属があることが分かり、それらの分析が始まった。パラジウムなどの重金属や、その他の軽金属が発見されたが、これらは地球には天然に存在してないが、金属合成技術によってこれを解決しようとした。

この農場での新しい重金属の発見が、後に地球海軍 開発事業団となるアシュリアン インダストリアルによる軍艦建造に拍車をかけた。これによって、火星やその外側の惑星探査が早まることになり、CE2147年にはエレメント ゼロも発見される、CE2149年にはカロン・マスリレイが発見されることになる。

洗脳の声


アシュリアン インダストリアルのエンジニアは、古代文明の遺跡の周辺には柵を張り巡らして立ち入り禁止にしていたが、謎のいびつな物体には触れず、そのままにしておいた。それらの物体には大して価値はないと思われていたが、エンジニアらは、そのいびつな物体から不可思議な声を聞いた。彼らは、その声は空耳だと思ったようだったが、いつしか、その声のままに彼らは動かされていることに彼らが気づくことはなかったのだった。

ローソン夫婦は、心の中に届いた声について深くは考えなかったが、二人はヘンリーを大事に育てた。もらった多額の資金は無駄に使わず、ただヘンリーのためだけに使った。彼が一流の学校に通い、彼が立派に育つよう、ただそれだけを望んで生きていた。ローソン夫婦は欲がなく無学で、非常に利口で成績優秀な息子だけが生き甲斐だった。いつか息子が大成功し、やがて妻をもらって、息子夫婦二人を見ながら歳を取って老後を過ごす・・・はずだった。

リンダとエディは、農場の古代文明の遺跡で見つけた赤ん坊は、きっと天から授かった頂き物だと思っていた。だから、古代文明の遺跡のことは感謝しつつも、早く忘れたいと思って努力していたが、心の中に届く声を否定することはできなかった。その声は、やがて息子ヘンリーに襲い掛かる不幸を暗示していたことに、夫婦は早くから気づいていたが、息子には言わないことにしていた。だが、言わなくても、事態は進行していた。

ヘンリーの初夜


ヘンリーはやがてアナハイムの大学を卒業し、投資家になろうとしていた。両親が用意してくれていた資金の一部を使って、大儲けしようと計画していた。そして半年後、彼は莫大な利益を上げ、1億$を稼ぐことに成功した。だが、彼にとてそれは足掛かりに過ぎなかった。後に、遺伝子研究を建設するために、まだ3倍の費用を稼ぐ必要に迫られたのだった。

ヘンリーが大学時代、最も親しくした女の子がいた。見た目はそう美人ではないかもしれないが、えくぼがあって、ほほ笑むとチャーミングで可愛い女性で、とても彼の好みのタイプだったが、未来に起こることを予知してしまう能力があったセシルを、ヘンリーは4年の間、最も熱心に大事にして付き合っていた。とても友人の多いセシルは、ヘンリーのことは一人のボーイフレンドとしか思っていなかったが、1億$を稼いだあとも、ほかの美人でセクシーな女子を差し置いて、いつも自分の世話を焼きたがるヘンリーに心を寄せるようになり、やがてもっと親しくなりたいと思うようになった。

ヘンリーは、セシルのつぶやく一言一言を毎日メモしておいたことが、こんなにも役に立つとは思っていなかったので、心の底から彼女に感謝していたし、すっかりセシルに惚れ込んでいた。ヘンリーは、自分の見た目はセシルの他のボーイフレンドに比べたら劣るが、最も親しい男だと自負していた。彼は2月の寒くて雪が舞い降りる夜、ロマンチックで最高だと思い、セシルと親密になるべく、昨年購入した別荘に彼女を招待する。専属のシェフが作る高級な料理を楽しみながら、二人で幸せなひと時を過ごす。

ヘンリーは、食事の後、セシルに結婚を申し込んだ。セシルはOKという変わりに、彼の口にキスで返した。やがて、二人は共にバスルームに入り、そしてベッドで初めての熱い時を過ごした。ヘンリーもセシルも初めてだったので、心の赴くままに無我夢中だった。

ヘンリーは、セシルと共にお互い最初のセックスをしたつもりだったが、ヘンリーは少し自分の身体に異変を感じた。セシルは気づいていないようだったが、自分はとても不安だった。「まさか」という不安は、後に現実のこととなるが、この日の夜は、そんな不安はすぐ拭い去り、ただセシルを大事に重い、妻にしたい、と願うばかりだった。

そして、心の中の声がしてくる。何か強い衝動が襲う。これはどこからくるのか・・・。なぜか自分の心に、「自分の理想とする娘を作りたい」とそんな欲求が芽生えてくるのがとても強く感じられた。

ヘンリーの決意


ヘンリーは、セシルを両親に紹介しても、心の不安を消すことができなかった。やがて、彼はアナハイムにある病院に行って、不妊症かどうかを診てもらうことにした。そして彼はは無精子症であると判明した。どうやら、医師の診断では、ホルモンに異常があるということで、精巣で精子が作られていないと分かった。先天的な異常だというのが医者の見立てだった。

ローソン夫婦は、ヘンリーには、古代文明の遺跡で拾ってきた赤ん坊だったとは一言も言っていないし、あのいびつな物体から声がするとは考えていなかったので、ヘンリーも自分の身体の異常の原因について心当たりがなかった。

それでもヘンリーは、セシルをすぐに妻に迎えたが、はっきりと自分は不妊症だと伝えた。セシルは、それでもヘンリーと結婚を決意したが、ヘンリーが投資家でなく、遺伝子研究所を作ると言い出したときにはドン引きした。彼についていけるだろうか、やや不安になった。

CE2144年、ヘンリーは遺伝子研究について相談するため、既に軍艦を次々建造していたアシュリアン財団本社を訪れた。マリアは、この日はたまたま厳重な警備の本社ロビーにいたが、エージェントからヘンリーが来ると知らせがあり、会長室に戻らずそこで待ち、ヘンリーの会うのを楽しみにしていた。

ヘンリーは、IDカードなどは持っていないが、ゲートに来た彼を警備員は呼び止めて、すぐにロビーに案内した。一般人の立ち入りができないと知らない彼は、ここは親切なところだと感心していたが、まさか待ち構えられているとは知らない。

通常なら、マリアがロビーにいる間は物々しい警備員が何人もいて、彼女をガードしているが、この日は下がって待機していた。

ヘンリーは中央奥にある大きな「アシュリアン財団」と書いてあるロゴを目指して歩いていくと、カウンターにいた一人の幹部らしき40代半ばくらいの女性がこっちを振り向いたので、早速彼女に話しかけることにした。

ヘンリー「あの、こちらの会長さんに会いたいのですが、相談に乗って頂きたいことがありまして」と、彼は名乗るのも忘れ、言いたいことを先に言ってしまった。
マリア「会長なら、私だけど? どんな相談なの?」と、愛想よく言うので、ヘンリーは驚きと親しみを覚えた。

ヘンリーは「私は投資家の・・・」と言いかけると、マリアはすぐに「ローソン、ヘンリー ローソンでしょ? 知ってるわ、さ、そこに座って」とにっこりして言うので、ヘンリーはさらに驚いて言葉が出なかった。

マリアは、ヘンリーのことは赤ん坊の頃から知っていた。ローソン夫婦とその赤ん坊については、エージェントから毎月報告が来ていたので、大変優秀な投資家で、すでに1億$以上稼いでいると知った上で彼の相談を聞くことにした。この若い青年が一体どんな相談があるのか知りたかった。だが、実際、ヘンリーから遺伝子研究所を作りたいという話を聞いてみると、彼女が今現在やろうとしている事業と重なるものだったのでとても驚いた。

マリア「あなたの望むような遺伝子研究所は、実は先月このアナハイムにできたばかりなのよ。あなたの住むマンションから、アベニュー通りより北に1kmほどいった、エンジェルス時計塔の前に。名前はアンセム・バイオテック・ラボトリー。でも、投資家のあなたが遺伝子研究をしたいってどういうことなの? 教えてくれる? 場合によっては、多額の資金も用意するけど?」と、笑顔で話すマリア。

ヘンリーは、自らの病について話した。そして、自分がやろうとしている計画の概要を細かく説明した。

マリア「驚きね、実に驚きだわ。あなた、まだそれほど遺伝子について知識がないのに、自分の遺伝子を使って人工授精による胎児を作る、そう言いたいのね? あなたの病なら自然妊娠は難しいから有効な手段だとはいえるけど・・・。あなたのいう遺伝子操作は、アメリカ政府に多くの許可をもらう必要があるのと、それと、ヌクレオチドの再配列はとても時間のかかる作業なの。分かってる?」

ヘンリー「こちらもいろいろ調べてきたので、十分承知していますが、資金はどのくらいかかりますか?」
マリア「そうね、研究所は既にあって研究員も40人ほどいるから、必要なのは時間と、それと大勢の人の遺伝子ね。大勢の人の遺伝子から、あなたの望むゲノムを抽出してヌクレオチドの再配列し直す作業に、最低でも3年はかかるの。本気でやりたいというのなら、こちらも正式な依頼として受けるわ。資金は、私もどのくらいかは分からないけど、この件に関しては、あなたが資金を出す必要はないわ。こっちもあなたの計画と併用して、別な計画と同時に目的を遂行するから。」と、彼女はそう言って、ソファーに深々と座ったまま、また美しい足を組み直した。

ヘンリーは、マリアのその美しい足に見とれていた。彼女が足を組み直す度びちらっと見える、とても綺麗な肌の太ももを見ていると、自分が何を言いたかったのか忘れそうだった。妻のセシルもまだ若くて細くて綺麗な身体をしていて思い出すが、今、自分は会長に重大な頼みごとをしている。それも可能かどうか分からない相談を。

妻との子供を願う自分もいるのだが、実は、心の中の声「自分の理想とする娘を作りたい」という声のほうに傾いている自分がいる。マリアのいう、大勢の人のゲノムを抽出して、ヌクレオチドを再配列し直すことで、自分の理想とする娘ができるのならば、是非やってみたい、やろう、という決意が顔に出ていた。

マリアは、地球海軍のために大量のクローン人間を作ろうとしているなどとは口が裂けても言えなかったが、アメリカ政府の許可を取るには、ヘンリーの存在は絶好の機会に思えた。大義名分があり、これならばクローン人間を作りたい、という理由を言わずに済む。心の中で、「ヘンリー、あなたがいてくれてありがとう」とそう思った。

自分の足ばかり見ているヘンリーに、マリアは「あなたも男ね。でもそんな彼だから、重い通りになってくれるかも」と、ヘンリーに親近感を覚えた。マリアも、一人目の夫スティーブとの間に産まれた娘、ヴィヴィアンがいる。18歳で75cmと高身長、男を見下ろすような女で「肉ばかり食べさせたせいかしら」と、マリアは娘を思うとため息が出た。

娘のヴィヴィアンは、数年後にベケンスタインで海軍士官のベネディクト アラーズと親しくなり、女の子を産むが、それがダイアナ アラーズである。ダイアナは、マリア アシュリアンの孫にあたるのである。ヴィヴィアンは後にANNの社長となり、ダイアナをシェパード少佐に会うよう命令したのも彼女である。

さて、マリアとヘンリーは、共に警備員に護衛されながら会長室に向かい、そこで様々な書類上の手続きを行い、ヘンリーは多くの誓約書にサインした。この計画における情報は一切口外できず、また、情報はアンセム・バイオテック・ラボトリーが所有するものとし、ヘンリーは自分の理想とする娘をその報酬として受け取る受けるのみである。

もし、人工受精卵から娘が産まれない場合はアンセム・バイオテック・ラボトリーの責任となって多額の賠償金をヘンリーに支払う義務があったが、そうはならなかった。

ヘンリーはこの日から、アンセム・バイオテック・ラボトリーの研究員として登録された。セシルに相談もなく勝手に行ったのだが、いずれセシルの遺伝子も必要になると予感していた。彼は、まだ知らない未来の現実を思い知ることになるのだが、彼は心の中の声に従うことに自分の未来を賭けたのだった。

セシルの失踪


CE2144年、ヘンリーが遺伝子研究所の研究員になってから忙しい毎日を送り、そして3カ月が過ぎようとしていた頃、セシルがアナハイムの家に戻ってこなくなった。両親のマンションにもいない。アナハイムやロスアンゼルスの市内にも、普段通う店にもどこにもいないようだった。ヘンリーはセシルがいなくなったことにとても不安を感じた。彼女がいないと、心に穴が空いたようでとても寂しかった。

突然いきなり、心の声がして「セシルを探すな」と聞こえた。ヘンリーは「なぜなんだ」と思った。「とにかく探すな」とまた聞こえた。

そんなセシルのいない日々が続く中、ヘンリーは、ラボトリーで、まだまだゲノムについて研究していた。自分の理想とする娘を作るには、途方もない作業が必要だった。研究員となってまだ日が浅い彼には、その作業はとても高い山を登っているような感覚に思えたが、優秀な研究員のお陰で、ヘンリーの負担はとても軽いし、研究はスムーズかつスピーディーに行われていた。

ある日、ラボトリーに一人の遺体が運び込まれた。損傷が酷く、女性のようだが、もう顔なども誰か分からなくなていた。だが、ヘンリーは、その遺体に触れると、何か知ってる気がしてならなかった。「もしかして、これはセシルじゃないのか」と思ったが、損傷が酷くて分かりづらかったが、首にほくろがあるのを見て、やはりセシルだとわかった時はショックで息ができなかった。

研究員のリーサ「実は、この遺体は5日前、川に沈んでいたところを釣り人によって発見され、通りかかったラボの研究員が見つけて運んできたのですが、なぜか無性に連れてこなければならなく感じたとその研究員は言っていました。知り合いの方ですか?」とヘンリーに尋ねた。

ヘンリー「あ・・ああ・・・私の妻だ・・・」と、涙ぐんでうなずいた。

リーサは相当驚いたが話を続けた。「あの、辛いことを告げるようですが、近くにいた人の話では、橋の上に立っていた奥さんが突然、何者かに突き落とされた、ということでした。話によれば、その突き落とした人は、何てことをしたんだ、と言って叫んで走り去ったとも・・・。事故なのかそれとも・・・。」リーサはうつむいて、それ以上言わなかったが、今は、ヘンリーがこの遺体を一体どうするのか考えた。

ヘンリーは、さっきの心の声「探すな」という声は、このことだったのかと思った。この時から、自分は何かの運命に突き動かされている。そんな気がしてならなかった。自分の両親は無学なのに多くの金を持っていたこと。なぜか赤の他人のアシュリアン財団の職員が、自分の進路について多くの世話をしてくれたこと。そして未来を予知するセシルと出会い、自分が投資家で成功したことも、世界を牛耳る会長マリアとの出会いも、すべて何かに動かされている気がする・・・。

変貌するヘンリー


ヘンリーは、心の中の声に従うことにした。それがどんな悪い結果になろうとも、それは自分の運命だと思うことにしようとした。彼は、セシルの遺体からなんとかして卵子を取り出すことに成功し、いずれ使う時まで凍結保存しておいた。

ヘンリーは、自分が既に投資家ではなく、遺伝子研究員として何かに突き動かされていると感じながらも、毎日毎日、自分の理想とする娘のために、ゲノム調査とヌクレオチド再配列の作業を延々と続ける。そんな日々が9か月続いた。時々マリアもラボトリーを訪れて、妻を失った彼を慰めたり、食事にも誘っりして、マリアはヘンリーに世話を焼き、ねぎらった。

マリアの一人目の夫のスティーブとは、彼が上院議員選挙に出るため、法律の問題回避のため離婚手続きをした。二人目の夫として、年下だがヘンリーはどうだろうかと思ったが、不妊症の彼にはもう二人目の妻をもらう意思はなく、マリアはヘンリーを友人として見守ることにした。

エネルギー資源開発の企業で、後にエレメント ゼロで社会問題を起こすこととなる、エルドフェル アシュランドエナジー社のCEOで50歳のベルナルド オーエン氏は、マリア アシュリアのことをずっと思い続けてきた一人だったが、会長に結婚を申し込むことは諦め、同社がアシュリアン財団の傘下に入ることに同意した。これでオーエン氏は誰にも咎められることなく、マリアに会えるようになった。しかしこれが切っ掛けとなり、後にヘンリーとも会うことになり、後にサーベラスと関りを持つようになる。

やがて、CE2145年、突然マンションにいたはずの両親も姿がなかった。昨日から世話をする担当になったという、ヨシノ フジワラというアシュリアン財団の職員がそれをヘンリーに告げた。2日前にロスアンジェルスの空港にいたところが最後に確認された場所だという。

ラボトリーで昼食を食べていたヘンリーは、ふとニュースの声に凍り付いた。
ニュース「ロスアンゼルス発、ロンドン行きのKLMオランダ航空452便が、アラスカ沖に墜落したことが分かりました。現在原因は調査中ですが、別の航空機と衝突した可能性があるということで・・・現在、国家運輸安全委員会NTSBが確認を急いでいます。」

ヘンリーは、かなりショックを受けた。妻も、両親も、突然いなくなった。家族はもういない。このままでは、自分は壊れてしまいそうだったが、心の中の声がしてきた。「絶望ではない。これからだ」「娘を作れば幸せになれる」

ヘンリーは、心の中の声の主が、どうやら自分の理想とする娘を作りたいという欲求を抱かせたのだと思った。もうここに至っては後戻りできない。マリアの研究はどうなのか分からないが、いまの研究を続けることで何かが得られるならやってみようではないか、そう思う始めた。

ヘンリーは、もうすっかり投資家であることを忘れて、心の中の声に従って、運命に突き動かされて生きるのみだった。

死んだセシルは、死ぬ前、橋の上でヘンリーの未来を視た。それは、美しい娘が二人いて、家の中に閉じ込めて、二人に何かがみがみと言っているいる様子。そして、娘の二人を必死で探している様子、また、どこか知らない場所で、娘に攻撃されて殺されそうになる未来を、セシルは視ていた。そしてその後、何者かに突き落とされることも予見していたのだった。

ANN発足に向けて


地球海軍は、既にCE2146年には太陽系探査に乗り出すことに成功した。そして、CE2147年に火星でエレメント ゼロを発見し、エルドフェル アシュランドエナジー社がエレメント ゼロ開発事業に参入する。しかし、何度も被爆事件を起こすこととなり、ベルナルド オーエン氏は責任を取らされることとなる。

また、CE2146年、アシュリアン インダストリアルのエンジニアは、ローソン夫婦が教えてくれた古代文明の遺跡から、新たに別の洞窟を発見した。そこで200万年前頃の高度な技術で作られていると見られている多数のコンジットを発見し、ANN本社に持ち帰って分析したところ、大量の情報を高速で送受信することができる技術であることが判明し、エンジニアらはこれをハイパー通信技術と呼んだ。だがしかし、これを通信技術として使えるようになったのは、後に発見されりマスイフェクト技術のお陰で、3年かかった。(稼働しているマスリレイ間で瞬時に通信を行うことができる通信技術として利用できる)

CE2149年、地球海軍は、アシュリアン財団の大きな貢献のため、宇宙進出を早めることができたが、太陽系の外に、ついにカロン・マスリレイを発見することとなり、地球人類はMassEffect 技術を手にすることになった。マスイフェクト・コーデックスは多数の技術の集積で、ハイパー通信技術やエレメント ゼロといった多くの技術革新があり、やがてこれが地球連合の発足へととつながっていく。

アシュリアン財団は、これまで蓄えてきた資産をすべて地球連合にかけることとなり、マリア アシュリアンは地球連合の提督の地位に就いた。また、多くの幹部達も地球連合の要職に就く。アシュリアン インダストリアルは地球連合開発と名前を変え、アークトゥルス・ステーション建設に向けて動き出す。

アライアンス・ニューズ・ネットワーク発足に向けて準備が整うのは3年後で、大勢のANN記者があちこち駆け巡ることになる。ANNの社長には、マリアの娘、ヴィヴィアンの夫であるベネディクト アラーズが就任した。

ミランダ ローソン誕生


CE2150年3月、カリフォルニア州、アナハイムにある遺伝子研究所、アンセム・バイオテック・ラボトリーで、40人あまりの研究員の6年の努力によって、人工受精卵がようやく正常に細胞分裂を始め、そして胎児となることに成功した。ヘンリーの妻であったセシルの卵子を使っているが、1度めは細胞分裂が正常に行われず失敗したので、性染色体の変更に時間を要し、2度めの実験でやっと成功にこぎつけた。

これまで数年の間にかかった費用は3億$以上だったが、ヘンリーも出資したお陰でそれ以上にならずに済んだ。この新生児の名前は、ヘンリーの妻であるセシルが死ぬ前に考えていた名前を名付け「ミランダ」と名付けた。セシルは未来で、夫が娘のことを「ミランダ」と呼んでいたことからその名前にしたと言っていたが、では最初に誰がミランダと名付けたかは誰も分からない。

ヴィル コーデイ所長は、ヘンリーを自室に呼び、手を取って成功を祝い、お互いにワインを飲みながら談笑したが、1通の手紙をヘンリーに渡して「これまでご苦労だった」と最後に言って別れた。手紙には、祝福とねぎらいの言葉が多く綴られていたが、地球人類の貢献に寄与した、ということも書かれていた。ヘンリーは、ヴィル コーデイ所長が何をしようとしていたか察しはついていたので、彼らの記録もデータメモリに入れて保存していた。

ヘンリーはやがて、40人の研究員と別れを告げ、アンセム・バイオテック・ラボトリーを後にした。陰で地球連合のためのクローン人間を作ろうとしていた研究所だったが、ヘンリーはここで自分の娘を得ることができたことを良い成果だと思うことにした。

ヴィル コーデイ所長から、謝礼として1億$を受け取っていたが、彼は亡きローソン夫婦が住んでいたメキシコの農場のさらに東に、ヘンリー ローソン遺伝子研究所を建設し終えていた。彼はここで再び遺伝子研究をスタートさせることになる。アンセム・バイオテック・ラボトリーで得た成果を元にして、また新たな娘を作る計画を持っていた。もちろん、ラボトリーで研究員が調べたゲノムの情報全部をデータメモリに入れて持ち帰ったのだ。この情報だけでも相当な価値がある。

マリア アシュリアは、地球連合の提督だったので、ヘンリーの成功の報告を受けて駆けつけることができなかったが、ハイパー通信技術を利用したコンソールから、ヘンリーに早速お祝いのメールを送った。

「おめでとう、ヘンリー。あなたが本社に来て、自分の理想とする娘を作りたいと言った時は驚いたわ。だって、私たちも似たことを考えていたんですもの。あなたのお陰でクローン技術は大いに進歩したわ。大変感謝します。娘の名前はミランダにしたそうね。私も可愛いミランダの顔を見てみたかった。私は今は地球連合の提督だけど、いつかまたあなたに会えることを楽しみにしています。もし機会があれば、連合本部で私を訪ねてきてみて。ではごきげんよう  マリア アシュリア」

ヘンリーにとって、最も信頼できる人間は、今やマリアくらいしかいなかったが、しかし陰で優勢人類のクローンを作ろうとしていたことはあまり同意し兼ねた。実際に、リーパーとの紛争が始まった時、それらのクローン兵士がいたかどうかは定かではない。

ヘンリーは、アシュリアン財団で世話をしてくれていた職員の中でも親しくしてくれていた一家を、ヘンリー家で雇うことにした。ニケット、モリス、ヴェラ、シャリー、レイチェルら、5人を家族として邸宅に招き、ミランダの世話を頼んだ。とはいえ、5人ともアシュリアン財団の元職員なので、下手なことを彼らに話せば知られたくないことも知られるので、慎重にしなければならなかった。

ヘンリー ローソン遺伝子研究所の研究員には、別の研究所からスカウトした研究員を選んだ。12人集まったが、以前のラボトリーよりももっといい機器を揃えてあるので、それで十分だった。彼はそこで、ミランダのような娘をもう一人作る計画を、CE2150年、既に始めようとしていた。

ミランダとのいさかい


ヘンリーは、娘のミランダのヌクレオチドの再配列について、ゲノムを6年に渡って研究してきたが、大勢の人のヌクレオチドを利用していたため、整合性には問題があることは承知していた。自然な遺伝の法則に従ってDNAが形成されていないことから、ミランダが成長するにつれ、何らかの遺伝子的な拒否反応や細胞異常(がん細胞)が最も懸念されていた。が、ミランダが産まれて12年経っても、彼女の身体にこれといって病になる兆候もなかった。

ヘンリー家では、女性の職員が3人いたが、ヴェラ、シャリー、レイチェル。彼女達は、ミランダの身の回りの世話、食事、通信教育といった様々な世話をしていたので、遺伝子研究に忙しいヘンリーは彼女達に任せっきりだった。

ほぼ、2週間に1度か2度くらいしか父親に会わないミランダは、よく父親がいないと不満を訴えていた。12歳になると、父親への愛情をあまり感じなくなり、職員以外と話す人がいなかった。ヴェラはミランダの通信教育を担当しており、彼女とは仲が良かった。シャリーは食事係で、たまにしか会うことはなかった。レイチェルは、ラボトリーの元研究員で、ミランダの身体を毎日診断する看護師だった。

レイチェルは、ラボトリーにいたリンゼイ博士から、特殊な薬をもらっていて、もしミランダに異変があれば飲ませるようにと言われていたが、ミランダが家出するまでの間、ミランダは至って健康だった。

ニケットは、ミランダの成長を逐一ヘンリーに報告する係で、モリスはミランダが町へ出かける時の運転手をしていた。ヘンリーは、あまりミランダが他人を接触しないようにと言っていたが、理由はミランダが他人との接触によって遺伝子異常にならないか心配していたためだった。だが、ミランダは、父親は自分を鳥籠に入れて育てるつもりなのだろうと言って、時々喧嘩する。

ミランダには、同年齢の友人がいないので、町で若い人を見かけたら話をしてみたかったが、モリスやニケットが早々に家に帰していたので、ミランダには不満だった。まるで、森の中の家で自分は幽閉されている、そんな状態を長年続けてきたために、ミランダは14歳頃には、そろそろ家出をしようと考えるようになった。

15歳の時、家出を実行しようとしたが、誰も頼れる人がいなかったために中止して夜に家に戻ってきた。ずっと森の中に隠れていただけだったが、次はもっと入念に計画しなければ、と思った。次は、ニケットを仲間につけなければ、と。


オリアナの誕生とミランダの失踪


CE2166年、ミランダが16歳の時、遺伝子研究所でオリアナが産まれた。人工受精卵は正常に細胞分裂を開始し、正常に胎児へと成長していった。ミランダ同様、卵子は、セシルの卵子を使っていたが、抽出した他人のヌクレオチドの配列とはミランダとは異なるため、ミランダとは異なるDNA構造を持つ女性になる。

ヘンリーは、オリアナが無事に成長すれば、取り合えずは研究所の枠割も終えるだろうと感じて、オリアナの経過次第では、研究員達は別のラボトリーに返す予定でいた。元々、彼らはアナハイムからやってきており、家族を置いてきていたので、この山の中での生活も終わらせてやろうと思っていた。

だが、ヘンリーには予想外の展開が待っていた。2年後、オリアナが2歳になり、健康上問題がないという診断によって研究員は研究所を離れていったが、ヘンリーが1日オリアナから離れている間に、ミランダとオリアナがいなくなっていた。ニケットに尋ねると、見ていないという。モリスは研究員達を空港へ送っていったという。

ヘンリー「ミランダ・・・一体どこに隠れたんだ!まったく!」と彼はいらいらしつつも、いずれ戻るだろうと思い、夕方までミランダらが戻るのを待っていたが、一向に戻る気配がない。

ヘンリー「ヴェラ! レイチェル! ミランダを見ていないか? オリアナはどこにいるんだ?」と、家の中をあちこち探し回ったが、姿はなかった。夜になっても、ミランダとオリアナは戻ってこない。不安になったヘンリーは、ニケットに命じてミランダとオリアナを捜索するよう命令した。ほかの職員を使ってでも探して連れ戻せと強く言った。

しかしニケットは、自分がミランダとオリアナを逃がしたのだから、探すつもりは毛頭なかった。そして、さらにミランダを逃がすために元連合士官にメールを送信した。しかしそこで思った。「そういえばオリアナは自分が連れていくべきだったな・・・しまった。オリアナだけは連れ戻さないと!」と。彼は再びミランダを追うことになる。

当のミランダは、実は、研究所の研究員らの乗ったシャトルに密かに乗り込んでいた。オリアナを抱き抱えて。シャトルは空港に到着すると、変装していたミランダは研究員にも見られずにこっそりアナハイム行きの飛行機に乗る。現金はニケットからもらっていたので、アナハイムまではなんとかなりそうだったが、その後は、ヘンリーのIDカードが役に立つことを祈るばかりだった。


ミランダの逃亡劇


父親であるヘンリーも、以前はマリア アシュリアを頼っていたと聞いていたので、アシュリアン財団を頼ろうとした。IDカードを持っていたので、アナハイムの市民生活センターでなんとか夜を過ごすことができた。そして翌日、ヘンリーのIDカードを使ったことで、アシュリアン財団の職員はミランダの元にやってきた。もう既にヘンリーから娘の捜索願が出ていたのだった。

職員「ミランダさん、お父様から捜索願が出されています。職員がメキシコまで戻れるよう手配致しますので・・・」

ミランダ「どうかお願い! 私達は家出してきたの! どうか父親の元に帰さないで! もう家には戻りたくないの!」と、ミランダは必死で訴えた。

職員は、困った顔をしていたが、既にシャトルがミランダを迎えに来ようとしている。

ミランダは周囲を見回すと、市民生活センターのシャトルが一台見えた。あれに乗って逃げられないかな、とふと思い「お手洗いにいってくるわ」と告げたまま、彼女はオリアナを抱えたままシャトルへと向かった。

メキシコの家ではヘンリーがずっと連絡を待っていたのに、誰も連絡を寄こさない。彼は普段あまり酒を飲まないが、ウィスキーを手に取って飲み始めた。すると、以前あったような心の中の声が聞こえる。

「サーベラスだ。そこへ向かえ」とそう聞こえる。

ヘンリーは、一瞬驚いたが、サーベラスという言葉を知っているような気がする。「そういえば、ファーストコンタクト戦争(CE2157年)の後、ANNのニュースで聞いたことがある・・・しかし何か問題を起こしたとか・・・でも何だったか思い出せない」

彼はコンソールでサーベラスを検索し始めた。ミランダが生まれた年にエクストラネットは始まって18年経っていたが、今は外部からデータを奪おうとするアクセスを遮断するのに苦労する時代だった。そして、サーベラスという団体について調べたヘンリーは、ミランダとオリアナと関連があるのかどうかは分からないが、取り合えず、接触してみようと思い立ったのである。

当時、サーベラスは、既に多数の研究を始めていて、リーパー技術や独自のAI、独自の武器や軍艦など、既に多くの事件も起こしていた。新たなバイオティクス育成のためにエレメント ゼロの事故まで偽装していたほどだ。

ヘンリーは、そんな怪しい団体と接触しようと試みていた。人を誘拐したりするのは朝飯前の団体だ。もしかすると彼らがミランダとオリアナについて知っているのではないか、と感じた。心の中の声がそう思わせたのだった。

ミランダは、市民生活センターのシャトルを使って、ニケットが教えてくれた住所へと向かった。実は、そこは、アシュリアン財団とは何の関連もないところで、ミランダはそのマンションの中へと入っていった。

最初のサーベラスとの接触


CE2150年にミランダが産まれ、CE2166年にオリアナが産まれたが、それまでの間には様々なことが起こっていた。地球でも、これまでの地球固有の通貨ではなく、クレジットが利用されるようになる。アメリカの1$は1クレジットに相当する。

CE2157年にはマスリレイ314を巡ってトゥーリアンと地球連合が戦闘状態になり、戦争となったが、シタデル評議会の介入によって終息した。しかしこの後すぐに、サーベラスという謎の団体が結成されて問題を起こし始め、人類至上主義派のテラ・ファーマという団体まで出る始末で、銀河系は地球人類の銀河進出によってかなり騒々しくなったのは間違いなかった。

サーベラスは、多くの研究員を集めていたことは知られていたが、CE2157年、幾つかの企業からサーベラスは金で研究員をヘッドハンティングしようとしたが、その中にアシュリアン財団にいた研究員がいて、ヘンリーがいたアンセム・バイオテック・ラボトリーの研究について知っている者がいた。

リンゼイ博士は、ヘンリーに遺伝子工学を教えた博士でもあったが、彼は独自のDNAに関する論文を発表し、やや学会からは異端者扱いされていた。異端者、つまりマージナルと呼ばれていたリンゼイ博士は、人間をより進化させるには、ほかの動物のDNAを取り込むべきだと何度も論文に書いて、世間を呆れさせていた。

そんなリンゼイ博士を、サーベラスは別の企業の研究所にいた彼を誘拐して連れ去った。金の力では動かないリンゼイ博士を無理やり誘拐したわけだが、イルーシヴマンは彼をサーベラスに参加させるには、リンゼイ博士のやりたかった実験をさせてやる他なかったため、リンゼイ博士にそれを提案して、受け入れられた。もちろん、リンゼイ博士が行う実験はリーパー技術に関する恐ろしい実験だが、イルーシヴマンはこれが人類の進歩につながると説得した。

リンゼイ博士は、イルーシヴマンにヘンリーの行ったクローン技術についても話してしまったことで、人工受精卵から産まれた新生児のことも知られてしまった。そこで、イルーシヴマンは、受精卵を人工的に作った人間に会ってみたくなった。そこでヘンリーにエージェントを送って連れてくるよう命令した。

ヘンリーがサーベラスと接触しようとしなくても、リンゼイ博士が居所を話してしまったので、サーベラスのエージェントが直接ヘンリーのいるメキシコを訪れた。

ヘンリー「私のミランダとオリアナをどこへやった! 教えないと銃でお前を撃つぞ!」とエージェントに向かって最初からそう脅したのだった。
エージェントは何のことやらさっぱり分からなかったが、ミランダとオリアナと名前を聞いて、きっとそれが新生児なのだと直感した。

エージェント「あなたの娘さんですね? サーベラスで預かっています。お二人とも」と嘘をついた。

ヘンリーはこのエージェントは信用できないと思い、「居場所を教えたら殺さないでおくが?」と言うと、

エージェント「まあまあ落ち着いて。実はリンゼイ博士から依頼があって来たんですが、あなたを博士が呼んでいます。会ってみてはいかがでしょう? 娘さんに会うにはそれからでも遅くはないでしょう」と苦し紛れにそう言った。

ヘンリー「ああ、そうだな。表にあるシャトル、いいシャトルだな。では早速連れていってもらおうか」と、銃を突きつけたままエージェントのシャトルに乗り込む。

実際には、リンゼイ博士は地球でなく他の惑星にいたため、アナハイム空港にシャトルで向かおうとした。空港に着いた時、エージェントは「リンゼイ博士は地球にはおられません。別の惑星におります」と言った。

ヘンリーは、リンゼイ博士が地球を離れるなんて考えられない、ミランダとオリアナについてもおそらく嘘に決まっている。これは自分を連れ出そうとする罠に違いない、と考えた。

ヘンリーはエージェントに銃を向けたまま「お前の話は実に怪しい。お前はサーベラスのエージェントなのか? リンゼイ博士はいまどこにいる?」と聞くと、エージェントは「行けば分かります。ですから今からサーベラスの艦に乗って・・・と言おうとした時、ヘンリーが彼を撃った。

ヘンリーはメキシコの家に戻ると、早速コンソールでサーベラスにメールを送信した。イルーシヴマン充てに。「リンゼイ博士を誘拐しているなどと嘘を言って俺を連れ出そうとしたな? 娘も誘拐したなんて嘘を言うなどけしからん! お前らの団体など信用せん!」と書いて送った。

イルーシヴマンは、リンゼイ博士からヘンリーについてもっと詳しく聞いた。ヘンリーは相当な資産をもっており、今は7~8億$、現在のクレジットに換算すると7~800億クレジットになると教えられた。そこで、今は無理でもいつか、サーベラスに参加させなければならないとイルーシヴマンは考えた。いかなサーベラスでも、そんな大金はなかった。

ヘンリーは、心の中の声に従って生きていたため、いずれはサーベラスの仲間になるのだが、この時は、まだその時期ではなかった。ヘンリーは遺伝子研究は一時中断し、ミランダとオリアナを探す旅に出ることにした。地球を離れて、どこか別の星系へ。

ヘンリーは投資家のフリをして、娘探しの旅へ。彼は行く先先で、心の中の声を聞いて、また新しい遺伝子研究について考えるようになるのだった。もちろん、それはヘンリー自身ではなく、別の者の意思によって。


ミランダの行きつく先


ミランダは、オリアナを抱き抱えたままマンションに入っていった。「誰かいる いたら返事をして!」と叫ぶが、1階には誰もいないようだ。

ミランダは恐る恐るマンションの1階を歩き回ったが、広いロビーのソファーに一度座って、オリアナに「大丈夫よ、大丈夫」と声をかけた。するとそこに、物音がしたので顔を上げてみると、知らない制服の男性が二人立っていた。

ミランダ「あなた方は誰?」と聞いた。どうやらどこかに所属している士官らしい。どうやら連合士官らしいが、ミランダには分かるはずもない。

ベンジャミン ローランド中尉「私は、地球連合の士官、ベンジャミン ローランド中尉です」と彼は言った。

コナー エスカス「私は少尉のコナー エスカスです」と言った。

ミランダ「あなた方、私を知ってるの? ニケットと知り合い?」と訪ねた。

ベンジャミン ローランド中尉「実は、本当は私達は先日地球連合を除隊した者です。ですから元地球連合士官、というのが本当のところです。」

コナー エスカス「私も同様に除隊になりました。上官の命令に従わなかったからですが、私は正しいと信じていた。よって、私ら二人はこれからサーベラスという組織に加わることになったんです。もちろん、ニケットという方から連絡を受けて、あなた達を保護するように頼まれたもので」と彼は言ったが、ベンジャミンがコナーに待ての合図をした。

二人は、ミランダに少し待って、と言って陰でこそこそと会話する。1分ほど待って、それから再びミランダに向き直る。

二人は、ニケットからは、ミランダとオリアナ見たら安全なところに匿ってほしい、と言われていたのだが、二人はミランダを見た瞬間、一緒にサーベラスに行けばいいと、そう判断したのだった。2歳の子供も抱えている若い女性を除隊した兵士がどうこうできるとは思えなかった。まさか2歳の子供をサーベラスで受け入れてくれるとは思えなかったが、子供は途中で下ろすことも考えた。

ミランダ「私たちを保護してくれるの? どうなの?」と聞くと、

ベンジャミン ローランド中尉「サーベラスという組織があなたを保護してくれます。子供は後で相談を・・・」と彼が言うと、そこに、ニケットが現れた。

ミランダ「ニケット!」現れたニケットに驚いたが、ニケットはすぐ「オリアナを安全な場所に移す!」と言ってミランダからオリアナをさっと奪ってシャトルに乗せた。

ミランダ「本当なの? ニケット!」ニケットのシャトルのほうへ駆け寄るが、ニケットは「心配しなくていい!オリアナの場所は追って知らせるから」と言って彼はシャトルで早々に立ち去った。

ミランダは呆然と去るシャトルを見守ったが、18年の間自分を見てくれていた男だ。きっと妹をどこか安全なところに連れて行ってくれるだろうと信じていた。

ベンジャミン ローランド中尉「どうやら子供の件は片付いたようだ」と安心した様子。

コナー エスカス「さて、私達はこれから地球を出て、他の惑星に向かいます。よかったら、あなたも是非」と彼はほほ笑む。

ベンジャミンはミランダに手を差し伸べた。このベンジャミンの顔がとても誠実そうに見えたのだ。元連合士官であり、説得力があった。

コナー エスカスの方も非常に真面目そうだ。実はこの二人、後にサーベラスのラザラス プロジェクトでミランダと一緒にシェパード少佐の蘇生に共に関わることになる。

実はジェイコブ テイラーとも二人は知り合いで、いずれ、バタリアンのジャスアモン大使の事件で、二人はまたジェイコブと再会することになる。(ゲーム「MassEffectギャラクシー」)

ベンジャミン ローランド中尉とコナー エスカス、そしてミランダの乗ったシャトルは、ロスアンゼルスからサーベラスの軍艦に乗り換えて、サーベラスの本拠地へと向かったのだった。

ミランダはそこでイルーシヴマンと会い、話をするが、父親から逃げるための保護を求めただけで、父ヘンリーについて詳しく喋らなかったのが幸いしたのか、最初は、普通の地球の人間の女性として、受け入れられた。まだ18歳ながらも、イルーシヴマンはこの若くて美しい女性の才能を一目で見破っていた。

ミランダの父親がヘンリーだったと知ったのは、ヘンリーがサンクチュアリで過去のクローン技術について話した時だった。イルーシヴマンは、後にミランダがサーベラスを離れた時、「実に賢い女だ」とつくづく思ったようだ。父親のことは話さずにサーベラスを隠れ蓑とするとは。ミランダは自分をまんまと利用したわけだ、いい女だったが、実に惜しい、と。


サーベラスとしてのミランダ


ミランダは、サーベラスに加入してから実に多くの仕事をしたが、その1つがジェイコブ テイラーとの出会いである。

ゲーム「MassEffect ギャラクシー」の中でミランダとジェイコブ テイラーとの出会いが描かれているが、これは、バタリアンの大使、ジャスアモンがシタデルタワーで評議員達を暗殺しようとした事件の時の物語で、ミランダとジェイコブ テイラーがこれを見事解決する話。

ジェイコブはこの事件の後、連合を辞めてサーベラスに加入する。そしてミランダと共に働くことになり、やがてMassEffect「ファウンデーション」に描かれているように、イルーシヴマンからシェパード少佐を探すように命令される。だが、シャドウブローカーが先にシェパード少佐の遺体を回収したと知らせが入り、イルーシヴマンはミランダとジェイコブにシェパード少佐の遺体回収を命令する。

シャドウブローカーのフェロンの裏切りによってミランダはシェパード少佐の遺体を持ち帰り、蘇生させるラザラス プロジェクトを開始。以後はMassEffect2の通りだ。

オリアナのこともずっと気になっていたオリアナは、シェパード少佐というとても心強い人間と知り合ったことで信頼し、オリアナを一緒に探してもらうように依頼する。ミランダは、ニケットを信用していたからずっとオリアナには連絡を入れていなかったが、父親のヘンリーについては、それまで忘れていたようだ。ほぼ100%。


ヘンリーのその後


この物語の主人公であるヘンリーは、アサリの支配する惑星イリウムに移り住み、投資家として再び利益を上げつつも、ミランダとオリアナを探していた。ニケットはオリアナをイリウムに隠して密かに育てている。

ヘンリーは、娘二人を探している間にも、あの心の中の声がしていた。その声は、一体どこから来るのだろうか。それは、亡きローソン夫婦が知っていた。そう、あれはイルーシヴマンが遭遇したのと同じリーパーのコンジットだった。200万年前、リーパーに滅ぼされた文明の遺跡とともに、リーパーのコンジットもそこにあった。

ヘンリーはリーパーの声をずっと聞いていた。産まれた時から、リーパーは彼を見ていた。そして動かそうとした。そして、今後再びサーベラスと接触して彼らの仲間になることも、リーパーには分かっていたのだった。そして、ヘンリーが自ら、大勢の一般市民たちにリーパー技術を埋め込む実験をすることも。

最後に残った疑問


では、あの古代文明の遺跡に誰が赤ん坊を置いてきたのだろうか。ローソン夫婦が通りかかるまで誰もそれを知らない。一体誰の子供なのだろうか。そこは、最後に残ったミステリーである。

マリア アシュリアの最後

地球連合の提督になっていたマリアは、MassEffect3の冒頭で実は出演している。ほんの少しだが。だが、そこでリーパーのレーザーがビルに打ち込まれて・・・彼女は生きているのか死んでいるのか、それは分からない。



雑誌「MassEffect 2011年12月」より 「ヘンリー ローソン」

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