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投稿日:2010/03/23(火) 17:41:50 夕暮れが影を落とす、校舎裏。風に揺れて木々がざわめく。 下駄箱に入っていた手紙に応えて、わたしはここへ来た。 朝手紙を読んでから、ずっと頭がいっぱいだった。 でも誰にも言えなかった。 だってきっとすごく勇気がいっただろうから。 それがわたしには、とてもよく分かるから。 授業もろくに耳に入ってこなかった。いや、それはいつものことなんだけどさ。 唯やムギの話も上の空だったし。 ここに来る前、部活に少し遅れると澪に告げたとき。 澪の顔、まともに見れなかったな…。 なぜだか後ろめたかった。 色んな気持ちがないまぜになって、どんどんわたしの鼓動を早めていく。 「あの…田井中先輩」 あぁ、くるぞ。 「す、好きですっ!先輩、今付き合ってる人とかいますか…?」 ドキっとして、すぐさま頭の中をよぎる、端整な顔と澄んだ声。 「付き合ってる人は…いない、けど…」 けど、思い浮かぶのは、 「じゃあわたしと付き合ってください…」 いつも、この心を離さないのは、 「いや、でも…」 好きな人がいる、そう言おうとしたとき。 胸に受けた衝撃に、言葉が詰まる。 「好きなんです…ほんとに…っ……」 肩に埋められた顔。くぐもった嗚咽が聞こえてきた。 どうしたらいい。突き放すことも出来ない。 傷つけるのは可哀想だ…でも、気持ちには、応えられない。 だってわたしは、澪のことが、 「律…」 すっと頭に入ってくる声。わたしの大好きな声。 わたしの名前を呼ぶ、澪の声だ。 一瞬、世界が止まったように思えた。 そしてその途端に跳ね上がる心臓。わたしは弾かれるように澪を見る。 「澪…!」 澪は大きな目をさらに見開いて、わたしたちを見つめていた。 「澪っ、これは…!」 言いかけたわたしに背を向け、澪は走り出す。 「待っ…」 追いかけようと動き出したわたしの体を引き止める、か細い腕。 「先輩…」 すがるような目でわたしを見つめてくる。 でもごめん、もう、構っていられない。 零れる涙を拭うこともしない彼女を、ぐっと引き離す。 「わたし、澪が好きなんだ。ごめん」 さっき言えなかった言葉を今度ははっきりと口にする。 自分でも確認するかのように頷いて、わたしは澪の後を追った。 背後から聞こえてくる悲嘆に胸を刺されながらも、足を止めることはできない。 飛び出したときにはもう澪の姿はなかったから、少々手間取るかと思った。 でも澪は案外すぐに見つかった。 さっきとは打って変わってゆっくりとした足取りで、澪は講堂の影に消えていった。 わたしはそのあとを力の限り追いかける。 気持ちを伝えることは出来なくても、澪に誤解されたままでいたくない。 「澪っ…!」 追いついたわたしが見たものは、小さくしゃがみこんでいる澪。 顔を腕に埋め、表情は伺えない。 訳が分からないけど声をかけないと、と思い近づこうとした。 「くるなっ!」 突然の叫びに驚き足が止まる。 「み、お…?」 息切れのせいか、うまく声が出ない。 「なんで来たんだよ…なんで…くっ……」 澪の声に嗚咽が混じることで、どんな顔をしているのか想像がついた。 どうして泣いているんだ? わからない。わからないよ、澪。 「澪、泣いてるのか…?」 じり、と足を動き出させる。 「泣いて、なんか……っ…」 精一杯の強がりさえ、うまく口に出せていない。 「澪…」 わたしは澪との距離を縮め、その横にそっと跪く。 「う…っ…ぐす……」 わたしのことで澪が泣いている。 それが嬉しく思える、澪が愛しくて愛しくてたまらない自分がいた。 「澪、黙っててごめん。あの子は…」 「っ…ほんと、だよ…わたしに黙って恋人なんてっ!」 「なっ…わぁっ!」 澪が急にわたしに掴みかかって、わたしはバランスを崩し、結果地面に押し倒される形になる。 「ってぇ……澪…」 馬乗りになった澪を見上げると、そこには涙をぽろぽろ零しながらまっすぐわたしを見つめる瞳があった。 「わたしは、ずっと律の一番でいれると思ってた!」 澪が涙を流しながら、顔を真っ赤にして叫ぶ。 「ずっとずっと一緒にいるって思ってたのに!それは…そう思ってたのはわたしだけだったのか!?」 「澪、ちが…」 「ばかりつ!ばかりつばかりつ!……ずっと、ずっと好きだったのにっ…うぅ…うわぁあん!」 「ちょ、ちょっと澪っお、落ち着けって!」 衝撃の一言と、大声をあげて泣き出す澪に、慌てるしかなかった。 でもこのまま泣いていては、きっと話も聞いてくれないだろう。 わたしは意を決する。 「ていっ!」 「ぅひゃぁっ」 ばっと起き上がり、形勢逆転、今度は私が澪を押し倒す。 「り、りつ…?」 びっくりして涙が引っ込んだのか、澪は泣き止んでわたしを見上げた。 「あのなぁ、あの子はなんでもないの!」 「へ…?」 「告白はされたけど、断るところだったんだよ。それを澪が勘違いしてだな」 わたしがひとつひとつ説明し始めた途端、澪の顔がさっきよりも赤くなっていく。 「じゃじゃじゃあ、わ、わたしは、さっき、ななななんてことっ」 顔から火が出んばかりに赤面する。 「ぷっ…くくっ…あはははは」 その様子に思わず噴き出してしまった。 「うぅ、り、りつのばかぁ!紛らわしいことしてるからだろ!」 「澪ちゅわんってば早とちり~」 「知らない知らない!」 「えー…さっきの、なかったことにしちゃうのか?」 意地の悪い質問に、澪はまた赤面する。 このくらいにしておいてあげようかな。 恥ずかしがり屋の澪の、一大告白を受けたわたしはとても気分がいいし。 「律は…どうなんだよっ」 さっきまでの恥ずかしさを振り切ったのか、澪が問いを返す。 「んー?そうだなぁ」 今まで焦らしていた分、なんだかすっと言葉に出すのがもったいなく思えた。 「りーつー?」 澪が口を尖らせて急かす。 可愛いやつ。 「だーい好きだよ、みーお」 自分で聞いておきながらまた真っ赤になる澪が愛しくて、わたしはすっと澪に口付けた。 ちゅっと触れるだけの短いキス。 「り、りりりりつ!」 もはや爆発してしまうんじゃないかと言うほど真っ赤になって慌てふためく澪。 キスするたびにこうなるのかなと想像すると笑えてくる。 「澪しゃん真っ赤~うぶですな~」 なんて茶化しているわたしも、実は耳が熱い。 好きな人とキスするってこんなにドキドキするもんなんだと実感する。 「~~~!もぉっ!ばかりつー!!」 「へへっ」 夕焼け空に、わたしの大好きな澪の声が大きく響いた。 #comment
投稿日:2010/03/23(火) 17:41:50 夕暮れが影を落とす、校舎裏。風に揺れて木々がざわめく。 下駄箱に入っていた手紙に応えて、わたしはここへ来た。 朝手紙を読んでから、ずっと頭がいっぱいだった。 でも誰にも言えなかった。 だってきっとすごく勇気がいっただろうから。 それがわたしには、とてもよく分かるから。 授業もろくに耳に入ってこなかった。いや、それはいつものことなんだけどさ。 唯やムギの話も上の空だったし。 ここに来る前、部活に少し遅れると澪に告げたとき。 澪の顔、まともに見れなかったな…。 なぜだか後ろめたかった。 色んな気持ちがないまぜになって、どんどんわたしの鼓動を早めていく。 「あの…田井中先輩」 あぁ、くるぞ。 「す、好きですっ!先輩、今付き合ってる人とかいますか…?」 ドキっとして、すぐさま頭の中をよぎる、端整な顔と澄んだ声。 「付き合ってる人は…いない、けど…」 けど、思い浮かぶのは、 「じゃあわたしと付き合ってください…」 いつも、この心を離さないのは、 「いや、でも…」 好きな人がいる、そう言おうとしたとき。 胸に受けた衝撃に、言葉が詰まる。 「好きなんです…ほんとに…っ……」 肩に埋められた顔。くぐもった嗚咽が聞こえてきた。 どうしたらいい。突き放すことも出来ない。 傷つけるのは可哀想だ…でも、気持ちには、応えられない。 だってわたしは、澪のことが、 「律…」 すっと頭に入ってくる声。わたしの大好きな声。 わたしの名前を呼ぶ、澪の声だ。 一瞬、世界が止まったように思えた。 そしてその途端に跳ね上がる心臓。わたしは弾かれるように澪を見る。 「澪…!」 澪は大きな目をさらに見開いて、わたしたちを見つめていた。 「澪っ、これは…!」 言いかけたわたしに背を向け、澪は走り出す。 「待っ…」 追いかけようと動き出したわたしの体を引き止める、か細い腕。 「先輩…」 すがるような目でわたしを見つめてくる。 でもごめん、もう、構っていられない。 零れる涙を拭うこともしない彼女を、ぐっと引き離す。 「わたし、澪が好きなんだ。ごめん」 さっき言えなかった言葉を今度ははっきりと口にする。 自分でも確認するかのように頷いて、わたしは澪の後を追った。 背後から聞こえてくる悲嘆に胸を刺されながらも、足を止めることはできない。 飛び出したときにはもう澪の姿はなかったから、少々手間取るかと思った。 でも澪は案外すぐに見つかった。 さっきとは打って変わってゆっくりとした足取りで、澪は講堂の影に消えていった。 わたしはそのあとを力の限り追いかける。 気持ちを伝えることは出来なくても、澪に誤解されたままでいたくない。 「澪っ…!」 追いついたわたしが見たものは、小さくしゃがみこんでいる澪。 顔を腕に埋め、表情は伺えない。 訳が分からないけど声をかけないと、と思い近づこうとした。 「くるなっ!」 突然の叫びに驚き足が止まる。 「み、お…?」 息切れのせいか、うまく声が出ない。 「なんで来たんだよ…なんで…くっ……」 澪の声に嗚咽が混じることで、どんな顔をしているのか想像がついた。 どうして泣いているんだ? わからない。わからないよ、澪。 「澪、泣いてるのか…?」 じり、と足を動き出させる。 「泣いて、なんか……っ…」 精一杯の強がりさえ、うまく口に出せていない。 「澪…」 わたしは澪との距離を縮め、その横にそっと跪く。 「う…っ…ぐす……」 わたしのことで澪が泣いている。 それが嬉しく思える、澪が愛しくて愛しくてたまらない自分がいた。 「澪、黙っててごめん。あの子は…」 「っ…ほんと、だよ…わたしに黙って恋人なんてっ!」 「なっ…わぁっ!」 澪が急にわたしに掴みかかって、わたしはバランスを崩し、結果地面に押し倒される形になる。 「ってぇ……澪…」 馬乗りになった澪を見上げると、そこには涙をぽろぽろ零しながらまっすぐわたしを見つめる瞳があった。 「わたしは、ずっと律の一番でいれると思ってた!」 澪が涙を流しながら、顔を真っ赤にして叫ぶ。 「ずっとずっと一緒にいるって思ってたのに!それは…そう思ってたのはわたしだけだったのか!?」 「澪、ちが…」 「ばかりつ!ばかりつばかりつ!……ずっと、ずっと好きだったのにっ…うぅ…うわぁあん!」 「ちょ、ちょっと澪っお、落ち着けって!」 衝撃の一言と、大声をあげて泣き出す澪に、慌てるしかなかった。 でもこのまま泣いていては、きっと話も聞いてくれないだろう。 わたしは意を決する。 「ていっ!」 「ぅひゃぁっ」 ばっと起き上がり、形勢逆転、今度は私が澪を押し倒す。 「り、りつ…?」 びっくりして涙が引っ込んだのか、澪は泣き止んでわたしを見上げた。 「あのなぁ、あの子はなんでもないの!」 「へ…?」 「告白はされたけど、断るところだったんだよ。それを澪が勘違いしてだな」 わたしがひとつひとつ説明し始めた途端、澪の顔がさっきよりも赤くなっていく。 「じゃじゃじゃあ、わ、わたしは、さっき、ななななんてことっ」 顔から火が出んばかりに赤面する。 「ぷっ…くくっ…あはははは」 その様子に思わず噴き出してしまった。 「うぅ、り、りつのばかぁ!紛らわしいことしてるからだろ!」 「澪ちゅわんってば早とちり~」 「知らない知らない!」 「えー…さっきの、なかったことにしちゃうのか?」 意地の悪い質問に、澪はまた赤面する。 このくらいにしておいてあげようかな。 恥ずかしがり屋の澪の、一大告白を受けたわたしはとても気分がいいし。 「律は…どうなんだよっ」 さっきまでの恥ずかしさを振り切ったのか、澪が問いを返す。 「んー?そうだなぁ」 今まで焦らしていた分、なんだかすっと言葉に出すのがもったいなく思えた。 「りーつー?」 澪が口を尖らせて急かす。 可愛いやつ。 「だーい好きだよ、みーお」 自分で聞いておきながらまた真っ赤になる澪が愛しくて、わたしはすっと澪に口付けた。 ちゅっと触れるだけの短いキス。 「り、りりりりつ!」 もはや爆発してしまうんじゃないかと言うほど真っ赤になって慌てふためく澪。 キスするたびにこうなるのかなと想像すると笑えてくる。 「澪しゃん真っ赤~うぶですな~」 なんて茶化しているわたしも、実は耳が熱い。 好きな人とキスするってこんなにドキドキするもんなんだと実感する。 「~~~!もぉっ!ばかりつー!!」 「へへっ」 夕焼け空に、わたしの大好きな澪の声が大きく響いた。 - いつまでも一緒に…! -- 名無しさん (2014-01-21 07:56:27) #comment

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