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投稿日:2010/06/26(土) 12:55:43 学校帰り、律はフラッと私の家に立ち寄ると部屋に入るなりカバンの中からあるものを取り出した。 「なあ、これどう思った?」 それは今日ムギから渡された学園祭で演じる劇『ロミオとジュリエット』の脚本だった。 「うん、ほぼ原作どおりだったし、全体的にみてもいいと思うよ。ただ、クライマックスのジュリエットがロミオの後を追う、その直前の……」 「キスシーン、だよな。最初目を通したときはさすがにびっくりしたな」 どうやら律も同じ箇所が気になっていたようだ。 しかし、この脚本を一読した私は律とは少し違うことを考えていた。 「さすがにキスするフリでいいとは言ってたけど、……なあ律」 「ん、何?」 「あのシーン、本当に私にキスしてくれないか?」 「へ?」 突然何を言われたのか理解しきれずに、律はキョトンとした表情を見せている。 「あ、いや、ええと、だな……」 自分で言っておきながら慌てふためく私もどうかと思うけど。 「と、とりあえず落ち着け。ホラ、深呼吸して。……どうだ、落ち着いたか?」 「……うん」 言いだしっぺが言われた側に落ち着かせられるという奇妙な展開の後、律が当然浮かんだであろう疑問を私にぶつけてきた。 「で、みんなフリでいいって言ってるのに、実際にキスしてくれって言う理由は?」 その問いを受けて私は胸中を正直に吐露する。 「うん、せっかくみんなが私を主人公に選んでくれたんだから、正直恥ずかしいけど、どうせなら精一杯演じきりたいと思ってるんだ」 「うんうん」 「なのに、一番大事なクライマックスシーンでキスをするフリなんかじゃ、ダメな気がして」 「うん」 「よく聞くだろ、体当たりの演技って。見てくれる人がいる以上、私もそうしたいんだ」 「なるほど」 「だから、こうやって相手役である律にお願いしてるんだ。……もちろん、律がダメって言うならしてもらわなくても構わないから」 私が思いを伝え終えると、律はしばし黙り込んだ。 そんな簡単に答えが出せないことは私自身がよくわかっていたけど、この沈黙の時間がやたらもどかしかった。 「……よし、わかった。澪がそこまで覚悟してるなら私も覚悟きめてやろうじゃないか」 そう言うと律はニカッと白い歯を見せてくれた。 「あ、ありがとう。律じゃないと頼めないからな、こんなこと」 「にしても澪も変わったなあ」 ぽつりとつぶやくと律は感慨深げな表情を浮かべた。 「何で?」 「だってまさか澪のほうから『キスしてくれ』なんて」 「そ、それは、私もライブとかで見られる側を経験して、せっかく見てくれる人には完璧なものを見せたいって思うようになったから……」 「へえ、澪も言うようになったなあ。それじゃ、それ含めてしっかり練習しないとな。あ、そうだ、ちょっと耳貸して」 「何だ?」 私は何か伝えようとする律の口元へと耳を近付ける。 しかし、私の予想に反して律の顔は何故か耳元ではなく目の前に現れた。 そしてその不可解な行動の意味を考える暇を私に与えることなく、律はいきなり唇を重ねてきた。 時間にするとほんの数秒、そんな一瞬の出来事で私の思考回路はすっかり運転を停止してしまった。 「おーい、みおー?」 声を出すことすら忘れてしまった私を心配して、律は私の目の前で手をひらひらさせながら名前を呼んでいる。 「おい、律! いきなり何すんだ!?」 ようやく我を取り戻した私は、恥ずかしさを隠さんとばかりに突拍子もない行動をしてきた律に詰め寄った。 なのに律はあっけらかんとした表情で私の動揺っぷりを皮肉ってきた。 「アハハ、こんなんじゃ本番でできるのか? でもまあ、澪はされる側だから演じる上ではさほど緊張しないか」 そうしたかと思うと律はその顔つきを一変させ、真面目な表情で私と向かい合った。 「今ので田井中律から秋山澪へのキスはしばらくおあずけ。それじゃ次はジュリエットからのキスをしてあげる。さあおいで、ロミオ」 腕を広げ、優しいまなざしを私に投げかける律。 ――ああ、こんな表情を見せるジュリエットにロミオは恋に落ちたのか。 そんなことを考えながら私は素直にその腕に抱かれ、ジュリエットからの口づけを待つことにした。 おわり!
投稿日:2010/06/26(土) 12:55:43 学校帰り、律はフラッと私の家に立ち寄ると部屋に入るなりカバンの中からあるものを取り出した。 「なあ、これどう思った?」 それは今日ムギから渡された学園祭で演じる劇『ロミオとジュリエット』の脚本だった。 「うん、ほぼ原作どおりだったし、全体的にみてもいいと思うよ。ただ、クライマックスのジュリエットがロミオの後を追う、その直前の……」 「キスシーン、だよな。最初目を通したときはさすがにびっくりしたな」 どうやら律も同じ箇所が気になっていたようだ。 しかし、この脚本を一読した私は律とは少し違うことを考えていた。 「さすがにキスするフリでいいとは言ってたけど、……なあ律」 「ん、何?」 「あのシーン、本当に私にキスしてくれないか?」 「へ?」 突然何を言われたのか理解しきれずに、律はキョトンとした表情を見せている。 「あ、いや、ええと、だな……」 自分で言っておきながら慌てふためく私もどうかと思うけど。 「と、とりあえず落ち着け。ホラ、深呼吸して。……どうだ、落ち着いたか?」 「……うん」 言いだしっぺが言われた側に落ち着かせられるという奇妙な展開の後、律が当然浮かんだであろう疑問を私にぶつけてきた。 「で、みんなフリでいいって言ってるのに、実際にキスしてくれって言う理由は?」 その問いを受けて私は胸中を正直に吐露する。 「うん、せっかくみんなが私を主人公に選んでくれたんだから、正直恥ずかしいけど、どうせなら精一杯演じきりたいと思ってるんだ」 「うんうん」 「なのに、一番大事なクライマックスシーンでキスをするフリなんかじゃ、ダメな気がして」 「うん」 「よく聞くだろ、体当たりの演技って。見てくれる人がいる以上、私もそうしたいんだ」 「なるほど」 「だから、こうやって相手役である律にお願いしてるんだ。……もちろん、律がダメって言うならしてもらわなくても構わないから」 私が思いを伝え終えると、律はしばし黙り込んだ。 そんな簡単に答えが出せないことは私自身がよくわかっていたけど、この沈黙の時間がやたらもどかしかった。 「……よし、わかった。澪がそこまで覚悟してるなら私も覚悟きめてやろうじゃないか」 そう言うと律はニカッと白い歯を見せてくれた。 「あ、ありがとう。律じゃないと頼めないからな、こんなこと」 「にしても澪も変わったなあ」 ぽつりとつぶやくと律は感慨深げな表情を浮かべた。 「何で?」 「だってまさか澪のほうから『キスしてくれ』なんて」 「そ、それは、私もライブとかで見られる側を経験して、せっかく見てくれる人には完璧なものを見せたいって思うようになったから……」 「へえ、澪も言うようになったなあ。それじゃ、それ含めてしっかり練習しないとな。あ、そうだ、ちょっと耳貸して」 「何だ?」 私は何か伝えようとする律の口元へと耳を近付ける。 しかし、私の予想に反して律の顔は何故か耳元ではなく目の前に現れた。 そしてその不可解な行動の意味を考える暇を私に与えることなく、律はいきなり唇を重ねてきた。 時間にするとほんの数秒、そんな一瞬の出来事で私の思考回路はすっかり運転を停止してしまった。 「おーい、みおー?」 声を出すことすら忘れてしまった私を心配して、律は私の目の前で手をひらひらさせながら名前を呼んでいる。 「おい、律! いきなり何すんだ!?」 ようやく我を取り戻した私は、恥ずかしさを隠さんとばかりに突拍子もない行動をしてきた律に詰め寄った。 なのに律はあっけらかんとした表情で私の動揺っぷりを皮肉ってきた。 「アハハ、こんなんじゃ本番でできるのか? でもまあ、澪はされる側だから演じる上ではさほど緊張しないか」 そうしたかと思うと律はその顔つきを一変させ、真面目な表情で私と向かい合った。 「今ので田井中律から秋山澪へのキスはしばらくおあずけ。それじゃ次はジュリエットからのキスをしてあげる。さあおいで、ロミオ」 腕を広げ、優しいまなざしを私に投げかける律。 ――ああ、こんな表情を見せるジュリエットにロミオは恋に落ちたのか。 そんなことを考えながら私は素直にその腕に抱かれ、ジュリエットからの口づけを待つことにした。 おわり! #comment

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