「短編134」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

短編134」(2010/11/19 (金) 13:04:33) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

投稿日:2010/09/02(木) 20:56:45 「転校、することになったんだ」 小石を蹴りながら、何とでもないようにそいつは言った。  それは中学二年の少し肌寒い日だった。あと二、三日すれば春休みで、 ついさっきまで「春休みは一緒にあそこ行こう」「あれやらない?」と話していたところなのに。 「てん、こう?」 私は律の突然の告白に頭がついていけず、その場に足を止めた。動けなかった。 律も少し先で立ち止まり、振り向いた。 冗談だと思った。 いつもみたいに私をからかってるんだと思った。 だって、さっき三年生も一緒のクラスになれたらいいなって。 だから私は笑い飛ばそうとした。けど、振り向いた律の顔は今まで見たことないくらいに真剣で。 「……、嘘、でしょ?」 ねえ律、嘘だって。 「んなわけないだろ」って笑ってよ。 「……、嘘、だったらいいのに」 律は小さな声でそう言うと俯いた。 「……っ。いつ、なの?どこ?」 「多分春休みくらいには引っ越すらしい。……場所は」 「遠いとこ?」 律は無言で頷いた。 私はそれ以上何も言えずにただ律に近付くと、手を握った。律の手は少し冷たくて、そして震えていた。 「澪……、私、嫌だ、転校なんてしたくないよ……」 律は震える声で言うと、私の胸に顔を押し付け咽び泣いた。 私も泣きたかった。大声で泣きたかった。けど一番辛いのは律だから。 だから私は必死に涙を止めようとした。けど後から後からやってくる心の洪水に耐え切れず 私も少し涙を流した。 「……あのな、澪」 「何?」 やがてお互い泣き病むと、律は私の胸に顔を押し付けたままくぐもった声で言った。 「澪、高校、桜高受けるんだよな?」 「まだちゃんと決めてないけど……多分」 「私もな、高校そこ行くから。ちゃんと勉強して澪と一緒に桜高行くから」     約束な。 私たちは小指を絡め、一年後、笑って会おうと誓った。 それからその日、私たちは手を繋ぎあったまま家に帰った。 別れるとき、律は大きく手を振って叫んだ。 「澪!私たち、離れてても親友だからな!」 「桜高一緒に行けなかったら絶交だからな!」 私がそう叫び返すと律は「えぇ!?」と困惑したような声を上げた。 それがおかしくて私が笑うと律もつられて笑った。 「澪、大好き」 「知ってる」 「澪は?」 「大好きだよ、律」 普段言えないようなことも今日は言えた。けどやっぱり照れ臭くて、 目が合うとお互い照れ隠しに笑いあった。 律が曲がり角で見えなくなるまで私は手を振り続けた。律もずっと手を振り続けてくれた。 律が見えなくなると、途端にまた涙が溢れてきて、もう一度私は空に向かって大きく叫んだ。 「律、大好き!」 知ってる! そう聞こえた気がした。
投稿日:2010/09/02(木) 20:56:45 「転校、することになったんだ」 小石を蹴りながら、何とでもないようにそいつは言った。  それは中学二年の少し肌寒い日だった。あと二、三日すれば春休みで、 ついさっきまで「春休みは一緒にあそこ行こう」「あれやらない?」と話していたところなのに。 「てん、こう?」 私は律の突然の告白に頭がついていけず、その場に足を止めた。動けなかった。 律も少し先で立ち止まり、振り向いた。 冗談だと思った。 いつもみたいに私をからかってるんだと思った。 だって、さっき三年生も一緒のクラスになれたらいいなって。 だから私は笑い飛ばそうとした。けど、振り向いた律の顔は今まで見たことないくらいに真剣で。 「……、嘘、でしょ?」 ねえ律、嘘だって。 「んなわけないだろ」って笑ってよ。 「……、嘘、だったらいいのに」 律は小さな声でそう言うと俯いた。 「……っ。いつ、なの?どこ?」 「多分春休みくらいには引っ越すらしい。……場所は」 「遠いとこ?」 律は無言で頷いた。 私はそれ以上何も言えずにただ律に近付くと、手を握った。律の手は少し冷たくて、そして震えていた。 「澪……、私、嫌だ、転校なんてしたくないよ……」 律は震える声で言うと、私の胸に顔を押し付け咽び泣いた。 私も泣きたかった。大声で泣きたかった。けど一番辛いのは律だから。 だから私は必死に涙を止めようとした。けど後から後からやってくる心の洪水に耐え切れず 私も少し涙を流した。 「……あのな、澪」 「何?」 やがてお互い泣き病むと、律は私の胸に顔を押し付けたままくぐもった声で言った。 「澪、高校、桜高受けるんだよな?」 「まだちゃんと決めてないけど……多分」 「私もな、高校そこ行くから。ちゃんと勉強して澪と一緒に桜高行くから」     約束な。 私たちは小指を絡め、一年後、笑って会おうと誓った。 それからその日、私たちは手を繋ぎあったまま家に帰った。 別れるとき、律は大きく手を振って叫んだ。 「澪!私たち、離れてても親友だからな!」 「桜高一緒に行けなかったら絶交だからな!」 私がそう叫び返すと律は「えぇ!?」と困惑したような声を上げた。 それがおかしくて私が笑うと律もつられて笑った。 「澪、大好き」 「知ってる」 「澪は?」 「大好きだよ、律」 普段言えないようなことも今日は言えた。けどやっぱり照れ臭くて、 目が合うとお互い照れ隠しに笑いあった。 律が曲がり角で見えなくなるまで私は手を振り続けた。律もずっと手を振り続けてくれた。 律が見えなくなると、途端にまた涙が溢れてきて、もう一度私は空に向かって大きく叫んだ。 「律、大好き!」 知ってる! そう聞こえた気がした。 #comment

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
記事メニュー
目安箱バナー