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投稿日:2010/10/22(金) 21:59:10  なんだか最近の私はちょっとだけおかしい。  律を見てると、妙にイライラするんだ。  教室の端で笑っている姿、体育ではしゃいでいる姿、部室で遊んでいる姿。  全部ぜんぶ。 「なんか澪しゃん、最近機嫌悪くない?」  夕焼け空の下。  学校からの帰り道を律とふたりで歩いていると、律がそんなことを尋ねてきた。 「別にそんなことないだろ。ほら暗くなる前に帰るぞ」  そんな私の答えに、律は「納得がいかない」とでも言いたげな顔をして、 「あたし、なんかした?」 「別にしてないよ」 「じゃあ、なんで」 「だから怒ってないって言ってるだろ」 「……」  なんだよ、と小さく呟いて、それきり律は何も言わなかった。 ---  家に着いて部屋のドアを開けるやいなや、私はベッドに転がって大きなため息をついた。  制服が皺になってしまう、と思ったけれど起き上がって着替える気力もない。 「……最低」  誰がって、私が、だ。  律、怒ってたな。そりゃそうだ、自分は何もしてないのにあんな態度取られて。 (私は、何が気に入らないんだろう……)  天井を見上げて自分に問いかける。  律を見てるとイライラする。  つまり律が嫌いになったってこと? いや、そんなことあるはずがない。  だって律と一緒に話してると楽しいし、嬉しい。  今日だって部室でふたりで話しているときはすごく楽しかったし、もっと一緒にいたいって思ったくらいだ。  ……もっとも、途中から唯がやってきてふたりしてじゃれあい始めてしまったので、その願いは叶わなかったんだけれど。 「…………うん?」  ふいに思い出した。  唯がやってきて、「りっちゃん」って呼びかけて、そしたら律がすぐに私の隣から離れて唯の元に走っていってしまって。  それが、私はなんだかすごく嫌で……遠くで楽しそうに笑う律を見たら、無性に腹が立った。  そういえは、帰り道もそうだ。  ふたりきりだな、なんて思ってたら、今度はクラスメイトとの馬鹿話を楽しそうに始めた律。  そしたらまた、同じ気持ちになって……。 「…………」  まさかね、と思う。  でもそう考えれば辻褄が合う。恐ろしいくらいに合う。  つまり……私は、律が、私以外の誰かと楽しそうにしてるのを見るのが……、 「なんだそりゃ!」  思わず自分でツッコミを入れた。  自分の思考があり得なさすぎて嫌になる。  律が他の人と一緒にいるのが嫌だってことか?  律は別に私の持ち物でも飼い犬でもないんだぞ。  自己嫌悪の気持ちがどんどん膨れ上がって、やがてそれは怒りという名の開き直りにすり替わる。  だって、しょうがないじゃないか!  どうしたって嫌だって思ってしまうんだから、どうにもならないいじゃないか!  大体律は昔から私の周りをちょろちょろしてて、いつだってちょっかいかけてきたくせに!  それなのに!  律が悪い! 律が悪いんだからな! 「ばか! ばかりつ!」 「やっぱ怒ってんじゃねーか」 「へっ!?」  独り言のつもりがいつの間にか会話になっていた。  顔を横に向けると、ドアを開けた律が呆れたような顔で立っている。 「ななな、なにしにきたんだよ」 「なんか、ちょっと喧嘩したっぽい空気になった気がしたから」 「喧嘩なんてしてないだろ」  私がそう答えると、律は苦笑しながらベッドの端に腰を下ろした。  家に帰ってからすぐに来たのだろうか、まだ制服姿のままだ。 「まあ、喧嘩じゃないかもな。でも澪が拗ねてたから」 「すっ、拗ね……そんなことない!」 「分かるよ。へそ曲げたときの澪はすぐ分かる」  何年の付き合いだと思ってんだよ、と付け足して律は左手を伸ばして私の前髪を撫でつける。 「よく分かんないけど、ごめんな」 「分かんないなら、謝らないでよ」 「……それもそっか。ごめん」 「ていうか、謝んなくていい。律は何も悪くないもん」  突き放すような口調になってしまう。  それでも頭を撫でる律の手を振り払うことはできなかった。 「なあ、澪」 「……なに」 「あたし、分かんないよ」  私の前髪に触れる律の手が止まった。 「言ってくんなきゃ、分かんない。でも澪がそんな顔してるの、あたしやだな」  いやなんだよ、と律は寂しそうに繰り返した。  その声色にちくりと心が痛む。  ……なにやってんだろう、私は。  律のこと、困らせてばっかりだ。子供のころから、ずっとずっと。 「……律」 「なに」 「ごめん」 「謝んなくていいよ、別に」 「正直言って、私もよく分かんないんだ」  なんでこんな気持ちになってしまうのか。  なんで律が私の方を見ていないだけで、こんな寂しい気持ちになってしまうのか。  説明できるほどに、自分で自分のことが分かってないんだ、私は。 「……だから、ちゃんと自分で自分のこと分かったら、話す」 「……そっか。んじゃ、そうして」  そこまで言って、「あ、でも」と律が付け足した。 「なんか嫌だなって思うことがあったら言ってよ。んで、澪がなんでそう思ったのか、  一緒に考えればいいじゃん。ふたりで考えた方が絶対すぐ解決するって!」  名案だ、と手を叩く律を見ていたら、思わず笑ってしまう。  そして、それと同時に、涙がこぼれてしまった。  やっぱり私は変だ。  律を見てるとイライラする。律と話してると楽しい。律と一緒にいると涙が出る。  どんな名医でも匙を投げてしまうんじゃないかって思うくらいに、私の症状はややこしい。  ……でも、律とふたりなら、解決できるかもしれない。  根拠もないのに、私はそう思ってしまった。 「ねえ、律」 「なんだー?」 「今日、泊まっていかない?」 「なんだよ、急に」 「なんか、律と話したい気分だったから」 「うふん、オオカミ澪ちゃんに襲わちゃったらどうしましょうね!」 「ばーか」  言いながら、まあそれも悪くないかもね、なんて思った自分にびっくりした。  やっぱり最近の私はどうかしている。
投稿日:2010/10/22(金) 21:59:10  なんだか最近の私はちょっとだけおかしい。  律を見てると、妙にイライラするんだ。  教室の端で笑っている姿、体育ではしゃいでいる姿、部室で遊んでいる姿。  全部ぜんぶ。 「なんか澪しゃん、最近機嫌悪くない?」  夕焼け空の下。  学校からの帰り道を律とふたりで歩いていると、律がそんなことを尋ねてきた。 「別にそんなことないだろ。ほら暗くなる前に帰るぞ」  そんな私の答えに、律は「納得がいかない」とでも言いたげな顔をして、 「あたし、なんかした?」 「別にしてないよ」 「じゃあ、なんで」 「だから怒ってないって言ってるだろ」 「……」  なんだよ、と小さく呟いて、それきり律は何も言わなかった。 ---  家に着いて部屋のドアを開けるやいなや、私はベッドに転がって大きなため息をついた。  制服が皺になってしまう、と思ったけれど起き上がって着替える気力もない。 「……最低」  誰がって、私が、だ。  律、怒ってたな。そりゃそうだ、自分は何もしてないのにあんな態度取られて。 (私は、何が気に入らないんだろう……)  天井を見上げて自分に問いかける。  律を見てるとイライラする。  つまり律が嫌いになったってこと? いや、そんなことあるはずがない。  だって律と一緒に話してると楽しいし、嬉しい。  今日だって部室でふたりで話しているときはすごく楽しかったし、もっと一緒にいたいって思ったくらいだ。  ……もっとも、途中から唯がやってきてふたりしてじゃれあい始めてしまったので、その願いは叶わなかったんだけれど。 「…………うん?」  ふいに思い出した。  唯がやってきて、「りっちゃん」って呼びかけて、そしたら律がすぐに私の隣から離れて唯の元に走っていってしまって。  それが、私はなんだかすごく嫌で……遠くで楽しそうに笑う律を見たら、無性に腹が立った。  そういえは、帰り道もそうだ。  ふたりきりだな、なんて思ってたら、今度はクラスメイトとの馬鹿話を楽しそうに始めた律。  そしたらまた、同じ気持ちになって……。 「…………」  まさかね、と思う。  でもそう考えれば辻褄が合う。恐ろしいくらいに合う。  つまり……私は、律が、私以外の誰かと楽しそうにしてるのを見るのが……、 「なんだそりゃ!」  思わず自分でツッコミを入れた。  自分の思考があり得なさすぎて嫌になる。  律が他の人と一緒にいるのが嫌だってことか?  律は別に私の持ち物でも飼い犬でもないんだぞ。  自己嫌悪の気持ちがどんどん膨れ上がって、やがてそれは怒りという名の開き直りにすり替わる。  だって、しょうがないじゃないか!  どうしたって嫌だって思ってしまうんだから、どうにもならないいじゃないか!  大体律は昔から私の周りをちょろちょろしてて、いつだってちょっかいかけてきたくせに!  それなのに!  律が悪い! 律が悪いんだからな! 「ばか! ばかりつ!」 「やっぱ怒ってんじゃねーか」 「へっ!?」  独り言のつもりがいつの間にか会話になっていた。  顔を横に向けると、ドアを開けた律が呆れたような顔で立っている。 「ななな、なにしにきたんだよ」 「なんか、ちょっと喧嘩したっぽい空気になった気がしたから」 「喧嘩なんてしてないだろ」  私がそう答えると、律は苦笑しながらベッドの端に腰を下ろした。  家に帰ってからすぐに来たのだろうか、まだ制服姿のままだ。 「まあ、喧嘩じゃないかもな。でも澪が拗ねてたから」 「すっ、拗ね……そんなことない!」 「分かるよ。へそ曲げたときの澪はすぐ分かる」  何年の付き合いだと思ってんだよ、と付け足して律は左手を伸ばして私の前髪を撫でつける。 「よく分かんないけど、ごめんな」 「分かんないなら、謝らないでよ」 「……それもそっか。ごめん」 「ていうか、謝んなくていい。律は何も悪くないもん」  突き放すような口調になってしまう。  それでも頭を撫でる律の手を振り払うことはできなかった。 「なあ、澪」 「……なに」 「あたし、分かんないよ」  私の前髪に触れる律の手が止まった。 「言ってくんなきゃ、分かんない。でも澪がそんな顔してるの、あたしやだな」  いやなんだよ、と律は寂しそうに繰り返した。  その声色にちくりと心が痛む。  ……なにやってんだろう、私は。  律のこと、困らせてばっかりだ。子供のころから、ずっとずっと。 「……律」 「なに」 「ごめん」 「謝んなくていいよ、別に」 「正直言って、私もよく分かんないんだ」  なんでこんな気持ちになってしまうのか。  なんで律が私の方を見ていないだけで、こんな寂しい気持ちになってしまうのか。  説明できるほどに、自分で自分のことが分かってないんだ、私は。 「……だから、ちゃんと自分で自分のこと分かったら、話す」 「……そっか。んじゃ、そうして」  そこまで言って、「あ、でも」と律が付け足した。 「なんか嫌だなって思うことがあったら言ってよ。んで、澪がなんでそう思ったのか、  一緒に考えればいいじゃん。ふたりで考えた方が絶対すぐ解決するって!」  名案だ、と手を叩く律を見ていたら、思わず笑ってしまう。  そして、それと同時に、涙がこぼれてしまった。  やっぱり私は変だ。  律を見てるとイライラする。律と話してると楽しい。律と一緒にいると涙が出る。  どんな名医でも匙を投げてしまうんじゃないかって思うくらいに、私の症状はややこしい。  ……でも、律とふたりなら、解決できるかもしれない。  根拠もないのに、私はそう思ってしまった。 「ねえ、律」 「なんだー?」 「今日、泊まっていかない?」 「なんだよ、急に」 「なんか、律と話したい気分だったから」 「うふん、オオカミ澪ちゃんに襲わちゃったらどうしましょうね!」 「ばーか」  言いながら、まあそれも悪くないかもね、なんて思った自分にびっくりした。  やっぱり最近の私はどうかしている。 #comment

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