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//>>766 投稿日:2011/02/13(日) 00:32:17  指定された空き教室で、澪は一人時計を見上げた。 指定の時刻まではまだ10分程の時間がある。 本当なら、散々待たせて悶々とした焦燥を味わわせてやりたかった。 だが、痺れを切らしたAが律に電話をしてしまう事は不都合だった。 律はこの約束を知らないのだから。 だから澪は、不本意ながらも時間的余裕を持ってこの教室を訪れていた。  昨日の着信履歴からAの番号を見つけ、律が不審に思う事も無いだろう。 律の携帯電話の着信履歴の保存件数限界まで、澪はリダイヤルしたのだから。 その行為に付いては「いつも悪戯されてるお返し」の一言で律は納得していた。 「本当なら、律と一緒に過ごしていたかったんだけどな」  思わず独り言が漏れた。 本来なら、律に浸っているはずの時間だった。 それを思うと、Aという少女に対する憎しみは更に募った。  その時、教室のドアが遠慮がちに開いて一人の少女が顔を覗かせた。 その少女は澪を見るなり、一瞬ではあるものの迷惑そうな顔をした。 その一瞬を、澪は見逃さない。 (この女か)  律と内密の話があるからこそ、 他人である澪の顔を見て不快を顔に浮かべたのだろう。 澪はそう推理して、少女に問いかけた。 「Aさん、かな?」 「あ……はい。そうですけど」  少女は顔に怪訝を浮かべながら肯定を返してきた。 澪は内心滾る憎悪を押し隠して、静かに言った。 「入ってきなよ。 どうして律が居ないのかも、 どうして貴女の名前を私が知っているのかも教えてあげるから」  途端、Aの顔には警戒が浮かぶ。 そのまま数秒程躊躇していたが、結局入ってきた。 Aはドアを閉めると、不安の篭った眼差しで澪を見つめてくる。 「私の声、聞き覚えないかな? 例えば、昨日とか。もっと具体的に言えば、電話とかでさ」 「あっ」  Aは小さく叫ぶと、言葉を続けた。 「昨日の電話、秋山先輩だったんですか?それで田井中先輩は……」 「私の事、知ってるんだ?」  澪はAの問いには答えずに、問いを返す。 「ええ、そりゃ。軽音部は有名ですから。 その軽音部のベース兼ボーカルの人ですよね」 「間違ってはいない。でもそれは、Aさんにとってはどうでもいい情報だね。 だから一つ付け加えさせてもらうよ。 Aさんが知らなきゃいけない情報をね」 「何ですか?」  再び表情に怪訝を浮かべたAに、澪は嘲りを頬に浮かべて言葉を突きつける。 「律の最も近くに居る存在」  Aは怪訝から不快へと表情を変え、澪を睨んできた。 「だから何ですか?それがどうかしましたか? 大体、私は貴女なんて呼んでません。田井中先輩を呼んだはずですっ」 「会いたくないってさ」  咆哮にも似たAの言葉を、澪はにべもなく切って捨てた。 「嘘を吐かないで下さいっ。 大体、貴女は昨日ちゃんと田井中先輩に伝えたんですか?」 「伝えたよ」 「嘘ですっ。田井中先輩が、そんな冷たい人なわけ……」  実際、嘘だった。 だが澪は後ろめたさを微塵も感じずに、架空の話に筋を通す。 「嘘じゃないよ。考えてみな? どうして律の携帯に電話したのに、私が出たのか。 それはAさんみたいに迷惑な人が多いから。 律はいい加減怖がってるんだ。毎度毎度掛けられる、そのテの電話に。 それで昨日、律が怯えちゃってさ。 私に代わりに出てくれるよう頼んだってワケ」  澪はそこで一旦言葉を切ると、 Aの心に刻み込むようにゆっくりと続けた。 渾身の、言葉を。 「最も近くに居る存在である私に」  Aは拒絶するように頭を振ると、言葉を放ってきた。 「嘘です……。 本当ならどうして、貴女は田井中先輩に伝えるなんて言ったんですか。 その場であしらえば済む話なのに……」 「それ試した事あるよ。納得した子も居たけど、しない子も居てね。 律を出せって煩かったんだよ。 今のAさんみたいに、嘘だと決め付けて現実受け入れないタイプがね。 だから今回は、直接断る方向へと話を進めたってワケ」  澪は当初文芸部への入部を考えていただけあり、 即興で話を作る事には自信があった。 事実、Aは澪の話を全て嘘だと看破できていない。 それは血の気の失せた青い顔が告げている。 半ば以上信じているからこそ、 精神が深刻な衝撃に見舞われて顔色にも表れたのだ。 「そんな……」 「ちなみにさ。唯から訊いたんだ、Aさんの情報。 どんな感じの子だったかって。 その時に律がAさんの事をどう評していたか、教えてあげるよ。 本当はさ、この教室に律も一緒に来るはずだったんだよ。 でもその時の唯の話訊いて、すっかり怯えちゃってさ。 私一人で話を付けてくれって泣きついてきたんだ。 その時、律がAさんをどう評していたのか。聴かせてあげるよ」  澪の話の展開から酷烈な内容であると察したのか、  Aは耳を塞いで叫んだ。 「嫌っ。聞きたくないっ」 「聞け。どういう思いを律にさせたのか、刻み込め」  澪はAの両腕を掴んで耳から放すと、告げた。 「気持ち悪いって」  Aの瞳の端に涙が浮かんだ。 「怖いって」  Aの瞳から涙が零れた。 「タイプじゃないって」  Aの顔が歪んだ。 「生理的に受け付けないって」 「止めて下さいっ」  Aは叫ぶと、半狂乱に暴れて澪の腕を振り解いた。 「まだまだあるんだけどね。 律は胸の大きい方が好みなんだって」  Aの胸を見ながら言った。 「背が高い方が好みなんだって」  Aを見下ろしながら言った。 自身の身体的欠陥を抉られたAは、憎悪の篭った瞳で澪を見上げてくる。 澪はその睥睨に怯む事無く、Aの耳元で囁いた。 「私が好きなんだって」 「だからっ、止めろって言ってるじゃないですかっ」  Aは両手を澪の首に添えて吠えた。 それでも澪は怯まない。 「止めなかったらどうする?私を絞め殺してみるか? 構わないよ?それで、律はAさんをどう思うかな? 一番近しい存在である私を殺されて、律はAさんにどんな感情を向けるかな? その感情の暗さが強いほどに、翻って私に対する恋情の深さになる。 つまりね、律がAさんを恨んで蔑んだ分だけ、 私は律から愛されてるって事になるんだよ。 一体律がどれ程までに私を愛しているのか、 Aさんが律から蛇蝎の如く嫌われる事と引き換えに量ってみるか?」  Aの両腕は首を絞める事無く下ろされた。 同時に、Aは絶望したように床へと膝を付いた。 「嘘です……。貴女の話は全部出鱈目です……。 田井中先輩がそんな残酷な事言うワケないんです……。 田井中先輩は優しい人なんです……そんな事……言うわけが……」  Aは自分に言い聞かせるように言葉を繰り返した。 その満身創痍の姿に向けて、澪は容赦せずに言葉を放つ。 「あのさ、よく知りもしないくせに律の事言うの止めてくれないか? 律が優しいだとか、そんな事言うワケないだとか、 Aさんには分からないだろ? 律については幼い頃からずっと一緒だった私の方が良く知ってるよ。 田井中先輩という呼称と律という呼称、これにさえ距離感が表れているよね」 「わ、私だって見てきました。ずっとずっと……。 高校入学した頃から、ずっと律先輩を」 「馴れ馴れしいね」  みなまで言わせず、澪はAの言葉を途中で遮った。 「Aさんみたいな無関係な部外者が、律の事を名前で呼ぶのは止めてくれ。 不愉快なんだ。大体、律からどう思われてるのか教えただろ? その直後なのに、よくもそんな馴れ馴れしい呼称使えるな」 「あ……う……」 「そんな顔するなよ。 絶望に満ちた視線向けられると、私も困っちゃうな。 まるで虐めてるみたいだし。 そうだ、いいもの見せてあげるよ。せめてものお詫びってやつ」  澪は携帯電話を取り出すと、画像を呼び出してAに見せ付けた。 勿論、その行為に謝意など欠片も込められていない。 満遍の無い敵意で満たされた行為だ。 「律を膝枕してあげた時、眠っちゃってさ。 その時の寝顔」 「嫌っ」  Aは床に伏せった。何も見ない、その意思表示だろう。 だが澪から見れば、それは屈服の仕草として映った。 それでも澪は容赦しない。屈服しようが、念入に痛めつけるように言葉で炙る。 「おいおい。Aさんの大好きな律のスライドショー展開しようってのに。 他にもあるよ?律が私の指をしゃぶってる画像、 律が私の胸に顔を埋めてる画像、律の髪の毛を弄った時の画像。 ああ、勿論濡れ場の画像もあるよ? それは見せないけどさ。赤の他人であるAさんに見せるものでも無いしね? ほら、それは私と律だけの世界だからさ」 「止めて下さいっ。もう……嫌っ……えぐっうぇぇぇっ……」  限界を訴えるような嗚咽が、伏せったAから漏れていた。 それは純な恋心を徹底的に嬲られて壊滅した姿だった。 澪はその瀕死の心へ向けて、トドメとなる言葉を叩きつけてやった。 「泣くなよ。お前は律を気味悪がらせて怯えさせて嘔吐させたんだ。 可哀想なのは律であってお前じゃない。 泣きたいのは律の方だ。なのにお前が泣くな。悪魔」 「いやあああぁっ」  悲鳴のように叫ぶと、Aは伏せったまま自身の髪の毛を掻き毟った。 狂ったように、壊れたように。  澪はその哀れな姿を鼻で嘲笑うと、身を翻して教室の出口へと歩みを進める。 教室を出る前に一瞥すると、 未だ狂ったようにAは自身の髪の毛を掻き毟っていた。 (あの様子なら、もう律に近づく事は無いだろうな)  澪は安堵を胸に浮かべて、教室を後にする。 この後で一番恐れる事は、Aが律へと電話する事だった。 今日の話が狂言であると知られる事は避けたかった。 だが、Aの様子から推すにもう律へと連絡を取る気力は残っていないだろう。  尤も、連絡される事を防ぐ目的でAを徹底的に壊したわけでは無かった。 澪は保身目当てで人を崩壊させるような人間では無い。 罪悪感が芽生えて、そこまでの行為を躊躇させるからだ。 単純に、律に近づく存在を排除したかっただけだった。 律を掌中に収める為ならば、人を崩壊させる事に躊躇は無い。 保身よりも律の方が、遥かに強い執念を澪に芽吹かせる。  事実、澪はAに対する同情など欠片も無い。罪悪感も無い。 あるのは達成感だけだった。 「害虫の駆除、完了」  澪は満足気に呟くと、校舎を一人歩いた。 <FIN> //深夜に失礼しました。 - すげぇ…この澪さんゾクゾくするほど恐くてカッコイイ… -- 通りすがりの百合スキー (2011-02-14 00:45:29) - koeeeeeeeeeeee -- 名無しさん (2011-02-23 01:57:04) - 澪様あああああ -- 名無しさん (2011-03-09 21:58:44) - 恐ろしい!! -- 名無しさん (2011-03-29 15:28:57) - 勝てる気がしねぇwww -- 名無しさん (2011-07-25 21:03:40) #comment
//>>766 投稿日:2011/02/13(日) 00:32:17  指定された空き教室で、澪は一人時計を見上げた。 指定の時刻まではまだ10分程の時間がある。 本当なら、散々待たせて悶々とした焦燥を味わわせてやりたかった。 だが、痺れを切らしたAが律に電話をしてしまう事は不都合だった。 律はこの約束を知らないのだから。 だから澪は、不本意ながらも時間的余裕を持ってこの教室を訪れていた。  昨日の着信履歴からAの番号を見つけ、律が不審に思う事も無いだろう。 律の携帯電話の着信履歴の保存件数限界まで、澪はリダイヤルしたのだから。 その行為に付いては「いつも悪戯されてるお返し」の一言で律は納得していた。 「本当なら、律と一緒に過ごしていたかったんだけどな」  思わず独り言が漏れた。 本来なら、律に浸っているはずの時間だった。 それを思うと、Aという少女に対する憎しみは更に募った。  その時、教室のドアが遠慮がちに開いて一人の少女が顔を覗かせた。 その少女は澪を見るなり、一瞬ではあるものの迷惑そうな顔をした。 その一瞬を、澪は見逃さない。 (この女か)  律と内密の話があるからこそ、 他人である澪の顔を見て不快を顔に浮かべたのだろう。 澪はそう推理して、少女に問いかけた。 「Aさん、かな?」 「あ……はい。そうですけど」  少女は顔に怪訝を浮かべながら肯定を返してきた。 澪は内心滾る憎悪を押し隠して、静かに言った。 「入ってきなよ。 どうして律が居ないのかも、 どうして貴女の名前を私が知っているのかも教えてあげるから」  途端、Aの顔には警戒が浮かぶ。 そのまま数秒程躊躇していたが、結局入ってきた。 Aはドアを閉めると、不安の篭った眼差しで澪を見つめてくる。 「私の声、聞き覚えないかな? 例えば、昨日とか。もっと具体的に言えば、電話とかでさ」 「あっ」  Aは小さく叫ぶと、言葉を続けた。 「昨日の電話、秋山先輩だったんですか?それで田井中先輩は……」 「私の事、知ってるんだ?」  澪はAの問いには答えずに、問いを返す。 「ええ、そりゃ。軽音部は有名ですから。 その軽音部のベース兼ボーカルの人ですよね」 「間違ってはいない。でもそれは、Aさんにとってはどうでもいい情報だね。 だから一つ付け加えさせてもらうよ。 Aさんが知らなきゃいけない情報をね」 「何ですか?」  再び表情に怪訝を浮かべたAに、澪は嘲りを頬に浮かべて言葉を突きつける。 「律の最も近くに居る存在」  Aは怪訝から不快へと表情を変え、澪を睨んできた。 「だから何ですか?それがどうかしましたか? 大体、私は貴女なんて呼んでません。田井中先輩を呼んだはずですっ」 「会いたくないってさ」  咆哮にも似たAの言葉を、澪はにべもなく切って捨てた。 「嘘を吐かないで下さいっ。 大体、貴女は昨日ちゃんと田井中先輩に伝えたんですか?」 「伝えたよ」 「嘘ですっ。田井中先輩が、そんな冷たい人なわけ……」  実際、嘘だった。 だが澪は後ろめたさを微塵も感じずに、架空の話に筋を通す。 「嘘じゃないよ。考えてみな? どうして律の携帯に電話したのに、私が出たのか。 それはAさんみたいに迷惑な人が多いから。 律はいい加減怖がってるんだ。毎度毎度掛けられる、そのテの電話に。 それで昨日、律が怯えちゃってさ。 私に代わりに出てくれるよう頼んだってワケ」  澪はそこで一旦言葉を切ると、 Aの心に刻み込むようにゆっくりと続けた。 渾身の、言葉を。 「最も近くに居る存在である私に」  Aは拒絶するように頭を振ると、言葉を放ってきた。 「嘘です……。 本当ならどうして、貴女は田井中先輩に伝えるなんて言ったんですか。 その場であしらえば済む話なのに……」 「それ試した事あるよ。納得した子も居たけど、しない子も居てね。 律を出せって煩かったんだよ。 今のAさんみたいに、嘘だと決め付けて現実受け入れないタイプがね。 だから今回は、直接断る方向へと話を進めたってワケ」  澪は当初文芸部への入部を考えていただけあり、 即興で話を作る事には自信があった。 事実、Aは澪の話を全て嘘だと看破できていない。 それは血の気の失せた青い顔が告げている。 半ば以上信じているからこそ、 精神が深刻な衝撃に見舞われて顔色にも表れたのだ。 「そんな……」 「ちなみにさ。唯から訊いたんだ、Aさんの情報。 どんな感じの子だったかって。 その時に律がAさんの事をどう評していたか、教えてあげるよ。 本当はさ、この教室に律も一緒に来るはずだったんだよ。 でもその時の唯の話訊いて、すっかり怯えちゃってさ。 私一人で話を付けてくれって泣きついてきたんだ。 その時、律がAさんをどう評していたのか。聴かせてあげるよ」  澪の話の展開から酷烈な内容であると察したのか、  Aは耳を塞いで叫んだ。 「嫌っ。聞きたくないっ」 「聞け。どういう思いを律にさせたのか、刻み込め」  澪はAの両腕を掴んで耳から放すと、告げた。 「気持ち悪いって」  Aの瞳の端に涙が浮かんだ。 「怖いって」  Aの瞳から涙が零れた。 「タイプじゃないって」  Aの顔が歪んだ。 「生理的に受け付けないって」 「止めて下さいっ」  Aは叫ぶと、半狂乱に暴れて澪の腕を振り解いた。 「まだまだあるんだけどね。 律は胸の大きい方が好みなんだって」  Aの胸を見ながら言った。 「背が高い方が好みなんだって」  Aを見下ろしながら言った。 自身の身体的欠陥を抉られたAは、憎悪の篭った瞳で澪を見上げてくる。 澪はその睥睨に怯む事無く、Aの耳元で囁いた。 「私が好きなんだって」 「だからっ、止めろって言ってるじゃないですかっ」  Aは両手を澪の首に添えて吠えた。 それでも澪は怯まない。 「止めなかったらどうする?私を絞め殺してみるか? 構わないよ?それで、律はAさんをどう思うかな? 一番近しい存在である私を殺されて、律はAさんにどんな感情を向けるかな? その感情の暗さが強いほどに、翻って私に対する恋情の深さになる。 つまりね、律がAさんを恨んで蔑んだ分だけ、 私は律から愛されてるって事になるんだよ。 一体律がどれ程までに私を愛しているのか、 Aさんが律から蛇蝎の如く嫌われる事と引き換えに量ってみるか?」  Aの両腕は首を絞める事無く下ろされた。 同時に、Aは絶望したように床へと膝を付いた。 「嘘です……。貴女の話は全部出鱈目です……。 田井中先輩がそんな残酷な事言うワケないんです……。 田井中先輩は優しい人なんです……そんな事……言うわけが……」  Aは自分に言い聞かせるように言葉を繰り返した。 その満身創痍の姿に向けて、澪は容赦せずに言葉を放つ。 「あのさ、よく知りもしないくせに律の事言うの止めてくれないか? 律が優しいだとか、そんな事言うワケないだとか、 Aさんには分からないだろ? 律については幼い頃からずっと一緒だった私の方が良く知ってるよ。 田井中先輩という呼称と律という呼称、これにさえ距離感が表れているよね」 「わ、私だって見てきました。ずっとずっと……。 高校入学した頃から、ずっと律先輩を」 「馴れ馴れしいね」  みなまで言わせず、澪はAの言葉を途中で遮った。 「Aさんみたいな無関係な部外者が、律の事を名前で呼ぶのは止めてくれ。 不愉快なんだ。大体、律からどう思われてるのか教えただろ? その直後なのに、よくもそんな馴れ馴れしい呼称使えるな」 「あ……う……」 「そんな顔するなよ。 絶望に満ちた視線向けられると、私も困っちゃうな。 まるで虐めてるみたいだし。 そうだ、いいもの見せてあげるよ。せめてものお詫びってやつ」  澪は携帯電話を取り出すと、画像を呼び出してAに見せ付けた。 勿論、その行為に謝意など欠片も込められていない。 満遍の無い敵意で満たされた行為だ。 「律を膝枕してあげた時、眠っちゃってさ。 その時の寝顔」 「嫌っ」  Aは床に伏せった。何も見ない、その意思表示だろう。 だが澪から見れば、それは屈服の仕草として映った。 それでも澪は容赦しない。屈服しようが、念入に痛めつけるように言葉で炙る。 「おいおい。Aさんの大好きな律のスライドショー展開しようってのに。 他にもあるよ?律が私の指をしゃぶってる画像、 律が私の胸に顔を埋めてる画像、律の髪の毛を弄った時の画像。 ああ、勿論濡れ場の画像もあるよ? それは見せないけどさ。赤の他人であるAさんに見せるものでも無いしね? ほら、それは私と律だけの世界だからさ」 「止めて下さいっ。もう……嫌っ……えぐっうぇぇぇっ……」  限界を訴えるような嗚咽が、伏せったAから漏れていた。 それは純な恋心を徹底的に嬲られて壊滅した姿だった。 澪はその瀕死の心へ向けて、トドメとなる言葉を叩きつけてやった。 「泣くなよ。お前は律を気味悪がらせて怯えさせて嘔吐させたんだ。 可哀想なのは律であってお前じゃない。 泣きたいのは律の方だ。なのにお前が泣くな。悪魔」 「いやあああぁっ」  悲鳴のように叫ぶと、Aは伏せったまま自身の髪の毛を掻き毟った。 狂ったように、壊れたように。  澪はその哀れな姿を鼻で嘲笑うと、身を翻して教室の出口へと歩みを進める。 教室を出る前に一瞥すると、 未だ狂ったようにAは自身の髪の毛を掻き毟っていた。 (あの様子なら、もう律に近づく事は無いだろうな)  澪は安堵を胸に浮かべて、教室を後にする。 この後で一番恐れる事は、Aが律へと電話する事だった。 今日の話が狂言であると知られる事は避けたかった。 だが、Aの様子から推すにもう律へと連絡を取る気力は残っていないだろう。  尤も、連絡される事を防ぐ目的でAを徹底的に壊したわけでは無かった。 澪は保身目当てで人を崩壊させるような人間では無い。 罪悪感が芽生えて、そこまでの行為を躊躇させるからだ。 単純に、律に近づく存在を排除したかっただけだった。 律を掌中に収める為ならば、人を崩壊させる事に躊躇は無い。 保身よりも律の方が、遥かに強い執念を澪に芽吹かせる。  事実、澪はAに対する同情など欠片も無い。罪悪感も無い。 あるのは達成感だけだった。 「害虫の駆除、完了」  澪は満足気に呟くと、校舎を一人歩いた。 <FIN> //深夜に失礼しました。 - すげぇ…この澪さんゾクゾくするほど恐くてカッコイイ… -- 通りすがりの百合スキー (2011-02-14 00:45:29) - koeeeeeeeeeeee -- 名無しさん (2011-02-23 01:57:04) - 澪様あああああ -- 名無しさん (2011-03-09 21:58:44) - 恐ろしい!! -- 名無しさん (2011-03-29 15:28:57) - 勝てる気がしねぇwww -- 名無しさん (2011-07-25 21:03:40) - おそらくこの澪に一番合う言葉は「爆撃」だろうw -- 名無しさん (2012-02-18 02:37:53) #comment

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