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//>>854 投稿日:2011/02/15(火) 01:42:28 放課後、部室に行くと澪の姿がなかった。 あぁ、そりゃあ澪は忙しいか。 何たって今日はバレンタインだ。 好きな人に、チョコとか渡す日…我ながら漠然とした解釈である。 澪にはファンクラブなるものがあるわけで。 多分今頃どこかでもみくちゃにされているんだろう。 「澪は?」 けど一応確認。 「連れてかれちゃった」 とムギが答える。 ふむ、やっぱり。 「結構な人数でしたね…」 「私もチョコ欲しいなー」 「ちゃんと用意してるわよーチョコケーキ!」 「んぇへへへ流石ムギちゃーん」 「澪先輩来るまで待ちましょうよ」 「…んーでも澪食べるかなー」 「あぁ…今いっぱい貰ってるでしょうしね」 そう、そんなに人がいたんなら嫌と言うほど貰ってるはず。 果たして食べるだろうか。 実は、私もチョコを作ったりしてんだよなー。 もちろん、澪の。 …んー、だけど必要ないかも。 寂しいけど、帰って自分で食べよ。 「それにしても澪ちゃん凄い人気だよねー」 「はは、私なんか一個も貰ってないってのに」 「澪先輩は特殊なんですよ」 「…そんなこと言ってるりっちゃんにお客さんよ」 と、一人の女子生徒が部室に入ってきた。 「…どーやって食えっていうんだ…」 さっきまでファンクラブの人からチョコ貰ってたんだけど…量が多過ぎる。 多分軽音部からも何かしら貰うだろうから…うーん、体重計が踊りそうだ。 …あいつは、貰ったんだろうか。 まぁどうせ貰えてないだろうから、一応用意してきたんだけどな。 泣きつかれても面倒だからな…うん、そう、それだけ。深い意味はないぞ。 毎年あげてるから、惰性だ。うん。 なんて心の中で言い訳して、音楽室の扉を開く。 そこには律の姿が無かった。 「…律は?」 私が問い掛けるとムギは少し苦笑する。 ん?なにかおかしいか? 「連れてかれちゃった」 …連れてかれた…? 「わー澪ちゃんすごい量…ちょっとくれたりは」 「連れてかれたって、誰に?」 「うわぁいスルーだぁ」 「黙ってましょうね、唯先輩」 「さぁ…私は知らない人だったけど」 「綺麗な人だったよー」 「多分三年生の人でしたよ」 上級生…?そんな人が律に何の用があるんだ…? そこに律が帰ってきた。 「お、澪来てたんだ」 「あ、あぁ」 「りっちゃん何だったのー?」 「えっ、いや、その…」 モゴモゴと言う律の手には、綺麗に包装された箱があった。 何だか、言葉が出なかった。 「あっそれチョコじゃない?」 「…ん、貰ったん、だ」 と顔を赤くさせ律は言う。 …何だよ、それ。 「もしかして本命かしら?」 「………らしい」 「うへぇ!凄いねりっちゃん」 「先輩から告白されるとは…」 「う、うるせーよ!」 バタバタと暴れる律を見ながら、私の頭は曇る。 律が、本命を貰った。 律の手には、綺麗に包装された箱と、その箱のリボンに挟まっている手紙。 それを見ると、今鞄にある私の手作りチョコが酷くちっぽけに思えた。 それから家に帰って。 貰ったチョコやらクッキーやらを全部食べた。 美味しいんだけど、何度か吐き気がした。 胸やけハンパない… 結局律にチョコは渡さなかった。 …渡せなかった。 あれから部活はしたんだけど、律の様子はいつもと違った。 端から見たらそうでも無いんだけど、私には分かる。 …律からも貰えなかった。 あぁ、もう私にあげる必要もないのか。 ひいては、私があげる必要も。 本命貰えたんだから。 きっとホワイトデーの時とかにも、お返しするのかな。 私としてたように。 バレンタインもホワイトデーも、クリスマスとか初詣なんかも。 今まで私だったものが、これからはその人になるのかな。 私の惰性も終わる。 私の代わりに、その人が埋まるのかな。 しかも、それは私みたく仮じゃなく、本命。 …あぁ、それは嫌だな。 本当に、嫌だな。 まだ律とやりたいこといっぱあるのに。 律のチョコが食べたい。 小学生のときの、チロルでもいいから。 中学生のときの、しょぼい市販のチョコでもいいから。 …高校一年のときの、手作りチョコでもいいから。 ずっと、私とバレンタインしてよ。律。 そしたら私も、手作りのチョコ作るから。 あんまり上手くないけど、私頑張るよ。 美味しくなるように、練習するから。 本命、作るよ。 だから… 自然と涙がこぼれる。 拭っても溢れる。 「…チョコ…ひぐっ…食べたいよぉ…」 「お前がそんなに大食いだとは思わなかったぞ」 「……り、つ?」 「なーに泣いてんだよ」 そう言って私の隣に座る律。 …律だ。律、りつ、りつ… 「すげーな全部食ってやんの…」 「…りつ…りつぅ…!」 「あー?そーかそーかまだチョコが欲しいんだな?」といって、律はガサガサとポケットを漁る。 それから、手には少し小さな包みが。 「私の手作りチョコだぞ」 それを聞いてまた涙が出てきて。 一つ口に入れるんだけど全然味が解らなくて。 せっかく律が作ってくれたのに。もったいない。 「明日、断ろうかなーって」 不意に律がそんなことを言う。 もちろん、その人との事だろう。 「…なんで?」 「私にはまだそういうのよくわかんねーし」 「………」 「それに、澪に構わなくなったら、お前寂しがるだろ?」 「…私を理由にするなよ」 「うはは、まだまだ澪と色んなことしたいからさ」 「……あのね、りつ」 「おう」 「…私もチョコ作ったんだけど…」 「へぇー」 「…余ってるから、食べる?」 「しゃーねぇ、食べてやるよ」 どうやら、私の惰性は続くみたい。 嫌じゃないよ。 できれば、来年も、再来年も。 律に私の代わりができるまで。 …そんな日、来なくていいのにな。 END #comment

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