けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

ROCK!!23

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mioritsu

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 午後三時。ムギが帰ってもう二時間だ。
 ドラムセットを屋根裏の倉庫にしまうことにする。
 先日取り出したけど結局叩かないままもう一度しまうのは、申し訳ない。
 でもやる気にもならないし、どうせ叩くことなんかないのだからこれでいい。
 それに見るだけでいちいち感傷に浸されるのは、こっちとしても心苦しいんだ。
 屋根裏の一番手前に元々置いてあったので、入れて行く。
「っ……」
 元々置いてあった位置なのだから普通にすっぽりと収まると思ったけど、なぜか最後の一箱が綺麗に収まらない。
 なんでだ? 取り出したときに、どこかが動いたのかな。
 私は一度全部の箱を出して、奥を少し整理することにした。
 ただでさえ澪の事が頭に残ってて苦しいのに、それにムギを怒鳴って追い返した罪悪感みたいなのも加わっている。
 少しでも思考に空白があると、気が滅入るくらいにそっちの方向に考えがいってしまう。
 度々胸が軋む。
 ……さっさと片付けて寝るか。
 どうせ聡は明後日まで帰ってこないんだ。晩御飯だって作る必要もない。もうずっと寝てればいいんだ。
 その方が楽だから。考えることもない方が楽だから。
 意識のないままの方が、澪の顔が頭に浮かんでくることもないんだから。
 屋根裏の倉庫は、やたらとごちゃごちゃしていた。
(何年も掃除してないからな……まあする気もないけど)
 中学の時の教科書やノートがしまってあるダンボール。
 いろんなものが詰まったものもある。
 埃臭さの中に、懐かしさもあった。
 指先が乾燥してきて、煙たくて、咳き込む。
 ダンボールを動かしたときに、上から降ってきた埃。
「っ……痛っ」
 目にゴミが入ったのか、刺激が目に走った。
 擦ってはいけないとわかってはいつつも、指で軽く擦ってしまう。
 痛みに耐えながら、一度ここから出ようと考えた。
 ゆっくり足を進める。
 だけど指で擦りながらだったからか、足が床に置いてあった一つのダンボールに引っかかってしまった。
「う、うわっ!」
 勢いよく前に倒れ込み、かろうじて受け身を取る。
 だがその勢いで横に積んであったダンボールが崩れ落ちてきた。
「うわっとと! 痛って!」
 腕に激突したり腰にぶつかったりで、痛い。
「痛ぅ……なんなんだよ」
 目にゴミ入ったり、足ぶつけてダンボールの下敷きとは。
 運がねえな……。
 痛みはジンジン来るけど、なんだか切なくて笑えてきた。
 ざまあねえな田井中律。

 崩れ落ちてきたダンボール。
 倒れて中身が乱雑に広がって、ノートやら本が散らばった。
 その中に――。


「――……アルバム……」


 手を伸ばして、パラパラと捲った。


 元気な笑顔の女の子と、長い髪の女の子。
 二人が一緒に写ってる写真ばかりだった。












 午後四時。
 本当なら予備校に通っている時間だ。
 私はベッドに倒れて、天井を見つめていた。
 寝ているのか起きているのかわからない。
 ただ脱力。
 気付けば天井を見つめていて、時計の針がときたま一気に加速する。
 つまり寝たり起きたりしているのだろう。
 いつまでも眠いのは、逃げようとしてるからだ。
 わかるけど、わかろうとしていないだけだ。

(……私、これからどうすればいいんだろう)

 律とは会えない。律と会わないのなら、勉強もする気にならない。
 律がいないんならベースもしない。バンドとして演奏もしたくない。
 律と一緒じゃないなら、何かをしたいと思わない。
 律じゃなきゃ――。

 律――……。


 その時だ。

 甲高い音色が、私のすぐ横から流れ始めた。
 携帯のアラームだ。
 私の携帯にはスケジュール機能がついていて、『○月○日の○時にお知らせ』という設定ができる。
 だからもし予定を忘れていても、その時間になれば知らせてくれる。
 しかも予定の内容まで設定できて、『テスト』とかの計画を立てるのに便利だった。
 ……何か、予定立ててたっけ。
 私は、何の疑いも持たずに携帯を開いた。
 画面下部に、予定の内容が小さく表示される。

 私は、硬直した。










『誕生日プレゼントを買いに行く』













 ――たん、じょうび。




 そうだ――。


 そうだ……。







 明日、律の誕生日だ……。








 なんで忘れてたんだ。




 大事な――私にとって一番大切な人の、誕生日なのに。





 それを悟った瞬間、思い出が胸になだれ込んできた。


 去年は、歌詞。

 一昨年は、ドラムスティック。

 その前は、カチューシャ。

 その前は――。
 その前――。
 あの時――。







 覚えてる。
 全部全部覚えてる。

 ぶっきら棒に、素直になれずに、ちょっと目を逸らせて。
 おめでとうって、私は言う。
 律は、とっても嬉しそうに、顔を赤らめて、言うんだ。

 ――ありがとうって。






 覚えてるんだ。




 律がこんなにも大好きなこと。

 落ち込んでた私を、励ましてくれたこと。
 恥ずかしがってる私を、励ましてくれたあの時から。
 律が――りっちゃんが、私を笑わせたあの時から。






 律の事が、大好きなことを。







「律――……りつ……っ……つっ……」




 張り詰めていた糸が切れた。
 ダムが決壊したみたいに、涙が溢れだした。
 例えば心に涙が溜まっていたのなら、それがどんどん流れだして。
 代わりに、胸がいっぱいになった。


 律への想いと、思い出が。

 心を隙間なく埋めていく。



 律。
 私は、律が大好きだ。


 会いたい。
 会いたいよ――……。







 泣いていると、また携帯が鳴り響いた。
 携帯を開きっぱなしだったので、すぐに画面に送信者の名前が表示される。
 そこに書かれていた名前に、私は目を疑った。




「り……つ……?」


 律だ。



 律からメールだ!
 私は服の袖で涙を拭きながら、メールを開く。
 簡潔な文章だった。












『澪――


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