≪像≫
【銘】 |
鳴子一颯(なるこ いっさ) |
【性】 |
男 |
【齢】 |
十七 |
【種】 |
半妖 |
【職】 |
レイリスフィード学園高等部三年生 |
【躯】 |
身長百六十八/体重五十七 |
【人】 |
見た目こそ何だかチャラそうな印象があるが、実際は明るく礼儀正しい性格。どんな人とも仲良くなれる非常に高いコミュニケーション能力を持っており、交友関係も広い。 普段は、ごく普通の学生なのだが……その性格には、思考の"切り替え"が異常なまでに早いという奇妙な特徴がある。 "仕方ない"という口癖と同時、それまで信じていた全てを切り捨てて心を切り替える能力が、彼には備わっている。 悩むことも迷うことも一切無く切り替わる思考は、時折彼の中にいやに大人びた陰を覗かせる……。 とはいえ基本的には、学校では生徒会の手伝いなんかもやって、放課後はバイトで学費を稼ぎ、家に帰れば家事や勉強に勤しんで、たまには友達と遊びに行ったりなんかもする、健全すぎるぐらい健全な高校生である。要するにリア充。 |
≪姿≫
【黒い地毛を染料で茶色に染め、ワックスを使って前髪を上げた髪型をした男子】
【黒いブレザーに赤いネクタイという学生服に身を包んでいて、高校生だと一目でわかるだろう】
【適度に着崩されている制服は、その見た目も相まって、いかにも"今時の高校生"といった印象を与えるだろうか】
【流行りもののシャツの上に青系のカーディガンを合わせ、胸にはブランド品のドックタグ、下は深緑色のカーゴパンツを履いている】
【服装自体はあまり高価なものでもないが、それを感じさせない上手なコーディネートだ。茶髪の髪型も、この格好には良く似合っていて】
【派手っ気な外見は一見近寄りがたく感じるかもしれないが、彼の黒色の瞳には、人を威圧するような気配は一切感じられない】
【背丈も平均身長より少し低め程度で、顔つきもやや幼い。そして何より、その表情は明るく人懐っこそうなものだ】
【そんな彼を一言で表すなら、おそらく『少年』という言葉が一番的確であろうか】
≪力≫
◆妖気と能力
つむじ風と共に現れ、鎌のように鋭い爪で切り付けてくるとされる妖怪・「鎌鼬」の妖気を使った、「空気を回転させる」ことを主幹とする風操作能力。
ひとことで表せば『竜巻を作る能力』である。操作された空気には常に妖気の影響が付きまとい、強力な斬撃属性と妖気の色である銀色が付与される。
これによって操る風は銀色に可視化されて避けられやすくはなっているが、それを差し引いてもこの斬撃効果はかなり強力なもの。
生み出される"斬撃の竜巻"は近寄るものを微塵に引き裂き、全力で放てば建造物すら吹き飛ばす巨大竜巻も生成できる、威力・範囲共に申し分ない能力である。
また、発生させられる竜巻はかなりバリエーション豊富。
回転の要素一つとっても、通常の左右回転から上昇・下降する螺旋状回転、回転の速度や強弱、回転の角度(竜巻の伸びる方向)などを自由に設定できる他、
離れた場所の空気を中心に向かって吸い寄せながら回転する「吸い込む風」、中心付近の風を外側へ押し出すように回転する「吹き飛ばす風」なども発生させられる。
反面、明確な攻撃力を持つレベルまで回転速度を上げるのに時間が掛かってしまうため、「出が遅い」というのが大きな欠点として挙げられる。
既にある竜巻を移動させたり回転方法を編集する場合も同様に遅さが欠点となり、ゆっくりとした動作しかできない。
基本的に、作り出す竜巻が大きければ大きいほど、またその発動場所が一颯本人から離れれば離れるほど、竜巻の発生は遅くなってしまうようだ。
上記のような建物を破壊するレベルの竜巻となると数十分単位の時間が必要となるため、そのような使い方が通常戦闘において不可能なのは言うまでもない。
その他、竜巻という性質上、回転の中心にはいわゆる「台風の目」が必ず出来上がる。小さな竜巻であれば関係ないが、巨大なものになるとこれが安全地帯になってしまうことも。
なお、元となっている妖気を吸収してしまえるため、風の斬撃効果は自分自身には効果が無い。
しかし妖気によって操る風の方はその限りではなく、自分の起こした暴風で自分自身が吹っ飛ぶということもあり得る。
これを利用すれば空を飛ぶことも可能だが、人一人浮遊させるレベルの風となるとやはり発生速度は遅くなり、結果上昇と落下を交互に繰り返す形の飛行に。
数メートル吹っ飛んでは数メートル墜落し、また数メートル吹っ飛んでは……という空中をぴょんぴょん跳ね回る飛び方は、ぶっちゃけちょっと格好悪い。
◇体質・身体能力
一颯はただ半妖というだけでなく、一般的な半妖と比べてもかなり特殊な、人間状態と妖怪状態との境界が非常にはっきりとした体質を持っている。
平常時はうっすらとしか妖気を感知できず、その体はまったく人間と変わらない。この状態では退魔の力も一切効果が無いほどである。
だが一度妖気を使い始めると、感情の昂ぶりや妖気の使用量によって見た目を妖怪のそれへと変化させていく。当然、退魔の力も通るように。
……そして何より異様なのは、例えそれまでにどれだけ化物じみた姿に変貌を遂げていたとしても、
ただ妖気の使用をやめるだけで、力に呑まれることも何かの障害を残すことも一切無く、普通に人間へ戻ることができることである。
彼の中での人間と妖怪との関係は、いわば水と油のようなもの。掻き回せば一時は混ざるが、放っておくとまた乖離する。
人間と妖怪、日常と非日常をを一瞬で"切り替える"ことのできるその体質は、やはり彼の性格を由来とするものなのか……。
またこれのせいで、身体能力の方も平常時と戦闘時で大きな隔たりがある。
普段の状態ではちょっと運動神経のいい男子高校生レベルだが、妖気使用時は体の変化に伴って少しずつ身体能力も人間離れしていく。
≪装≫
◆短刀・華 / 短刀・雀
一颯の使用する二振りの匕首。まず外観は、前者は白鞘に無骨な刀身を備えたシンプルな小太刀。
後者は細やかな〝金の翼〟が描かれた美しい漆塗りの鞘に、艶めくような刃が特徴の一振りとなっている。
また、〝華〟の方は切れ味などよりも耐久性や硬さを重視して作られていて防御力が高い。
逆に〝雀〟はそこまで頑丈ではないものの〝切れ味〟に秀でていて攻撃性能が高い……と、見た目だけでなく性能も対極的な二振りとなっている。
以前は〝華〟しか持っていなかったためこれ一本で戦っていたが、最近〝雀〟を手に入れたことで二本を逆手で持った二刀流の構えを使うことが多いようだ。
◆名刀・正櫻
櫻の国でとある依頼を受けた際、報酬として受け取った刀。
斬っても斬っても切れ味が落ちない驚異的な頑強さに加えて〝破魔〟の力さえ宿した、名刀の中の名刀である。
使いこなせれば当然強力で、時と場合によって上記の二本と使い分けていくものの……まだ刀を使い始めて日が浅いため、短刀の扱いに比べると未熟な面も。
一颯はこれを扱うためだけに剣道部に入部し、
幼馴染にも付き合ってもらって目下修行中である。
≪概≫
幸徳井佳乃の友人にして、彼女と同じ
辰羽山の小さな村落
「白座村」の出身。
この村の住民の血を引くものは、多かれ少なかれ
"神気"を操る退魔の力を受け継いで生まれるのだが、一颯は突然変異的に
何の力も持たず生まれ落ちる。
その為、妖怪からすると"食べてもまずい"村の人々の中で、彼は唯一"食べると美味しい"普通の人間であり、周囲と比べて格段に妖怪に狙われやすかった。
元々妖怪の集まりやすい土地柄に、その体質はとても危険なもの。危惧はやがて現実となり、
彼は十一歳の冬、ついに妖怪「鎌鼬」に取り憑かれてしまう。
そんな彼を
"処分"するか否かを巡って、村の中央で
とても小さな論争が巻き起こって…………。
一颯は、傷心して大泣きする佳乃に付いていく形で、村を出て行くことを選んだのだった。
――――彼が時々、故郷である辰羽山や白座村のことをあまり好いていないような素振りを見せるのは、この辺りに原因があるのかもしれない。
山を下りた現在は、かつて村を捨てて都会に下りた祖母を頼り、佳乃共々居候中。祖母のツテもあって
レイリスフィード学園という学校に通わせて貰っている。
その祖母も最初こそいい顔をしなかったが、人懐っこい笑顔でバリバリ働く彼の姿を見て心を開き、今ではそんな孫の事をたいそう可愛がっているようだ。
祖母に少しでも恩を返すべく、
万年コミュ障の同居人を差し置いて家事手伝いから生活費の調達まで何でもこなし、健気に孝行しているらしい。
ちなみに学校では非常に友達が多く、かなり人望もある様子。そのお陰か、まだ一年生の身ながらも生徒会役員に就任している。
また、最近はとある人物との出会いの影響か、積極的に見識を広めるため、学校生活に程よく折り合いをつけて旅へ出かける事が多くなった模様。
水の国のみならず、異国の地で情報収集に勤しむ一颯の姿を見かけることがあるかもしれない。
……あとこちらはそれほど重要ではないが、最近剣道部に入部したようである。
≪録≫
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二千十三年 三~四月 |
三月十九日
「結局、カエルの妖怪さんだったのかな…………?」
バイトを終えて帰宅中、友人からのメールに返信していると、画面に集中するあまり通行人とぶつかるというありがちなミスを犯す。
一颯に迷惑を掛けられた通行人こと 雨読川カエロウの冷たい迫力に謝罪しつつも、その雰囲気に"妖怪"のそれを感じ取る。
それは、昔取り憑かれた「鎌鼬」以来人生二度目となる本物の"妖怪"との出会いだった。彼女と色々な話をし、再会を願いながら別れる。
三月二十日
「未成年だし本当はダメだけど…………あのお酒、また飲みたいなぁ」
家族との別離によって村の事を考えないようにしている 佳乃に代わり、白座村の様子を見にひそかに櫻の国へと帰省。
その帰り道、白座村とよく似た廃村を発見して中に入ってみると、無人の神社を切り盛りする神職の男 黒妙と出会う。
彼の式紙である"カナメ"が作ったお酒を飲ませてもらったり、故郷に関する相談に乗ってもらったりと、初対面ながら彼の寛容で柔らかい物腰に甘える形になった。
最後は彼のちょっとした頼みごとを聞き、その際彼の神使の一人である鬼の男・ ヨスガと知り合う。
彼とも少し話をした後、何故かコンビニの菓子パンを貰い、それを頬張りながら帰路に着いた。
三月二十三日
「面白い人たちと会えてよかったよ。まあ、ちょっとばかし死に掛けたけど」
学校帰りに偶然広場の前を通りかかったところ、 ヘケメトという男とアウという女性に遭遇。
ヘケメトは戦いたい衝動に任せて無差別に一般人を襲い、アウは冷静に彼の被害者たちを治療していくという奇妙なコンビだった。
そして本当に偶然、一颯もそんな彼らと目が合って、暴れまわるヘケメトの次の標的として運悪く選定されてしまう。
どれだけ一颯の能力の脅威をちらつかせてもまったく怯まないヘケメトに圧倒され、一颯はやむを得ず、撃退ではなく撃滅へと思考を"切り替える"。
お互いに容赦の無い攻撃をぶつけ合って大量の鮮血を散らし、最後はほぼ相討ちの形で決着を見た。
巨大竜巻による広範囲攻撃で広場ごとヘケメトを吹き飛ばそうとした一颯の大胆すぎる思考に、自身を治療してくれたアウには呆れられてしまったようだ。
四月十三日
「烏天狗ってみんな女好きなのかな? いや、さすがに神威だけだよね…………」
また櫻の国へ帰省し、帰りに偶然小さな村の民宿に泊まった一颯だが、その村へ烏天狗の少年・ 神威の率いる妖怪の軍団が襲来。
神威の目的はあくまで住民を村の外へ追い出すことだけで、命まではとっていなかったのだが…………。
そんな事を知る由も無い一颯は、妖怪たちを凶暴だと信じ込んで慌てるあまり、自身が半妖であることを神威に悟られてしまう。
が、神威は半端者の自分にも害意を向けることは無く。そんな彼に、一颯は追い出される住民たちをあっさり見捨て、酒を酌み交わしながら神威と語り合った。
妖怪を怖がって排斥しようとする人間たちを嫌い、居場所を取り戻さんとする神威。一颯は半妖として、人間にも妖怪にもつかない中立の立場で彼に接する。
そうして出来た奇妙な友人と再会の約束を交わし、人間と敵対する道を選ぶ彼の前途を案じながら、ゆっくりと岐路に着くのだった。
また酒かよ未青年コラ
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二千十三年 八~十二月 |
八月三十一日(イベント)
「『超強ェ』か…………あの自信過剰さ、やっぱ似てるなぁ。言ったら殺されそうだけど」
GIFTという名の新たな脅威がフルーソを襲ったこの日、学校帰りの一颯もまた、 佳乃ともども事件に巻き込まれる。
本当はとっとと逃げ出してしまいたかったが、佳乃がいる手前それもできず。GIFTの戦闘員を蹴散らす彼女と別れて、一颯は市街地へ。
そこで逃げ遅れた人々の避難誘導を行っていると、蜘蛛の魔物と融合して暴れ回る 自称「超強ェ」悪魔に遭遇してしまう。
一颯はよりにもよって〝悪魔〟に佳乃を会わせる訳には行かないと、これも仕方なしに悪魔の足止めを買って出る。
同じくその場に居合わせた土の魔術師 シーナ、一颯曰く「怖いおばあちゃん」な アーデルハイトと共同戦線を張り、悪魔と激闘を繰り広げた。
最終的に悪魔の撃退には成功するものの、自身は重傷を負って気絶。その後、シーナの好意で病院に運んでもらった。
九月五日~
「次はどこに遊びに行こう? でもシュリと一緒なら、きっとどこでも楽しいんだろうな」
学校帰り、遠くの森から煙が上がっているのを見つけた一颯。山火事なら通報しなければならないと、様子を見に森の中へ入っていく。
そこで燃えていたのは…………木でも草でもなく、人間。燃やしていたのは、自らの名も知らずに生きる精霊の女の子。
精霊という上位の存在が人間という下位の存在を、大した意味もなく殺めた。その構図に、一颯の中で何かしらが切り替わって――――。
お互いの内心を拙い言葉でぶつけ合いながら、互いの命を奪うべく、切り裂く風と燃える炎が激突する。
最後の瞬間、一颯が少女に止めを刺せる決定的なその機会。しかし苛烈な戦闘の中で交わされた言葉に、一颯は少女のことを気に入ってしまっていた。
草木も眠る丑三つ時の森の中、そこで少年はひとつの掛け替えのない友情を得る。そして同時に、名前のない少女へ シュリという名を贈った。
一緒に夜を明かした、その翌日。街中では、ぼろぼろの制服を着た高校生がぼろ布を纏った少女と楽しそうに歩く光景があったとか。
新しい、小さな友達――――シュリとの楽しい時間を、一颯は今でも時々思い出しては、再会の時を待ちわびている。
十月十七日
「天鬼家、か…………次会うときは、もっと話を聞いてみたいな…………」
深夜の山奥、森の中で日課となっている妖気使用の練習を行っていたところ、一颯はふと遠くで立ち上る湯気に気づく。
そちらに向かってみると、そこには何とも雅やかな秘湯が。それに驚くのも束の間……偶然にも、入浴中の 天鬼桔梗に遭遇してしまう。
彼女が妖怪であることに気づいた一颯は、一通り詫びを入れた後で彼女から話を聞くことに。
天鬼家――――妖怪と人間の仲を取り持つ家系。かつて村で噂を聞き、ただの夢物語だと思っていたそれが実在することを知り、一颯は衝撃を受ける。
彼女の姉が大会出場者であることを教え、桔梗に手作りのお弁当を分けてもらったところで、その日は別れる運びに。
どこまでも優しい彼女は、次会うときには自分の為に肉じゃがを作ってくれると約束してくれたのだった。
十一月十七日(イベント)
「…………さて、〝どっち〟へ進もうかな…………」
この日、鉄の国の〝M.N.U国境要塞〟に保管された長距離弾道兵器の奪取を目的に、〝GIFT〟の一軍がその場所を襲撃する事件が発生した。
重大な事件ではあるが、しかし遠い異国で起きたテロ組織と自警団組織の大規模な武力衝突、とても一介の学生に縁のあるものではない。
――――そのはずが、一颯は身元を偽装してまで自警団側の勢力へ潜り込み、基地内へ侵入。そこで彼は、 アイケ・シュタウフェンベルクと遭遇する。
最近とある縁でGIFTへの勧誘を受けていた一颯は、構成員と直接会って話すことで組織の内情を見極めようとしていたのだ。
残念ながら、アイケはGIFT内でも異端な存在に近い存在であり、その目的が十分に果たされたとは言えなかったが…………。
自身の理想の為には手段を選ばない彼との会話と、相打ちとなるまで続いた激闘を通じて、一颯は何らかの〝結論〟を得られたようだ。
人生経験も身を置く地位も、自分の遥か先を行くアイケとの出会いが、果たしてこの少年の今後に何を齎すのか…………それはまだ、定かではない。
十二月二十二日
「…………また会うのが楽しみだよ、いろんな意味で」
バイト先のカフェからの帰宅途中、果たして偶然だったのか否か。一颯は再び、 アイケ・シュタウフェンベルクと再会することとなった。
彼と雑談を交わしつつ、互いの近況を伝え合う。そしてアイケに、前回の彼との邂逅を通じて ついにGIFTと関係を持つに至ったことを伝えた。
とは言ってもGIFTへ入るのではなく、 外部協力者という形での中途半端な立ち位置。それがどれだけ危険かを指摘されても、一颯の決意は揺らがない。
その後――――これから互いに生き残っていくため、同じく自身の目的の為に危険な立場を貫こうとするアイケと、一颯はある種の 〝同盟〟を結ぶ。
アイケはあと一人、この派閥に加えられそうな人物が居ると言い残して去っていく。一颯はその人物の事に思いを馳せつつ――――今後の展望を、孤独な闇の中に描く。
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二千十四年 一~二月 |
一月二十六日
「ラッシュさん…………もっと、話してみたかったな」
より見識を広めるために 夜の国へと小旅行に訪れていた一颯だが、観光のために偶然訪れた連邦タワーの屋上で、異形の男と出会う。
何か大きな激闘を潜り抜けてそのような姿になってしまったと思しき彼の話を、一颯は不思議な説得力を感じながら静かに聞き届ける。
そんな姿になってまで戦って幸せだったのか。生まれてきて、良かったと思えるのか。一颯のそんな問いに、男は幸せだったと躊躇いなく答える。
――――そんな彼に、一颯がどんな感情を覚えたかはさておいて。もっと話を聞いてみたいと思う一颯だったが…………男はふと、跡形もなく姿を消す。
一颯は、その男―――― ラッシュ・ワンスドッグから最後に手渡されたひとつの〝力〟の意味を、今でもずっと考えている。
一月三十日
「ああいう形態の妖怪もいるんだね。……耳とか、ちょっと障ってみたかったなぁ」
久々に櫻の国へ旅行に出かけていた一颯だが、帰り道の林道にて謎の轟音が響き渡る。
発信源では猫の妖怪(?)である 銀猫が修行中であった。先日の宝玉のこともあり、一颯は彼女と模擬戦をすることに。
大木も一撃で薙ぎ倒す程の身体能力を武器に襲ってくる銀猫と、斬撃の風を用いた鋭い遠隔攻撃が持ち味の一颯。両者は拮抗するが……。
切り札として使用した〝紅獣の宝玉〟が予想以上の力を発揮し、最後は一颯が勝利を掴み取ることとなった。
その後は逗留先の宿屋付近まで銀猫を負ぶって連れて行く運びとなり、その間は他愛ない雑談で親交を深めたようだ。
二月二十六日
「また、新しい友達が出来た……あ、あの外見はちょっと調子狂うけどね……?」
学校帰り。生徒会の業務を終えて公園に涼みに来たところ、ベンチで寂しそうに子供達を眺めていた 岸織詩織と出会う。
ちょうど暇になっていたこともあり、一颯は彼女に話しかけるのだが……その見た目に反して詩織は男で、しかも一颯より年上であった。
そんな一幕に調子を狂わされつつも、そこは持ち前の会話能力で誤魔化して。一颯は「友達と遊んだ記憶がない」という詩織を気軽に遊びに誘う。
その後は一緒にゲームセンターまで連れ立って様々な遊びに興じ、互いを友達と認め合って再会を誓うのだった。
……余談だが、男相手だというのにクレーンゲームに大量の小銭を投入してぬいぐるみをプレゼントしたりと、やっぱり調子は狂っていた模様。
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二千十四年 三~四月 |
三月七日(イベント)
「いやぁ――――なかなか、有意義な時間だったよ」
過去数度、正義陣営に協力して GIFTのテロ阻止に貢献した実績が買われたか。申請が通り、一颯は 雷の国・セードムシティでの任務へ参加することに。
かの UTリーダー、 セリーナ・ザ・"キッド"と共に、 RAGNAROK LABORATORYの占領下にあるセードムシティへ陽動を兼ねた威力偵察を掛ける一颯。
そこで二人が相対したのは、 ≪No.6≫グラトン=ブルーガー=ウルバヌスと、彼の部下である ネバーランドの面々だった。
グラトンの魔手から ブラックハートを救出すべく戦うセリーナのため、一颯は彼が繰り出した『ウェンカムイ』なる熊の生物兵器を引き付けて戦う。
……最後に拮抗した戦況を動かしたのは、国軍からの援護であった。セリーナとブラックハートを伴い、一颯は素早く仮設プラントから脱出。
結果として威力偵察は成功となったが――――セードムシティの戦況には、些か不安なものが残り。一颯もまた、グラトンの思想に何かしら思うところがあったようである。
三月二十一日(イベント)
「約束、守ってもらわなきゃね。………次が、楽しみだ」
櫻の国の『剣ヶ里』にて暴れる〝翁〟という太妖を討伐せよ、との依頼を聞きつけた一颯。依頼主に 天鬼桔梗が居たこともあって即座に現地へ飛ぶ。
同じく依頼を受けた中には、見知った 銀猫と、さるゼン=カイマ第三近衛騎士団団長である フレデリック・シャリエールの姿があった。
一颯は、二人と共に翁の前へ立ち塞がり――――ひとりの 子供も助けつつ、どうにか彼の者を撃破することに成功した。
……のだが。真の敵は翁ではなく、〝空狐〟としての本性を表した桔梗その人であった。一颯はそれに、何を思ったのか……。
事態は結局、『剣ヶ里』の人々と依頼のために集まった自警団の面々を皆殺しにされるという最悪の結果に。……子供が助かったのが唯一の成果か。
一颯は銀猫とフレデリックと共に桔梗へ立ち向かうが、その常軌を逸した力は一撃入れるどころか触れることさえ許されず。
――――誰ぞかの〝転移〟の術によって命からがらその場を逃れるまで。一颯は桔梗に、ずっと笑顔を見せていたという。
四月十三日(イベント)
「………ここから先は、いっそう気を引き締めていかないとね」
鉄の国において、GIFTによる幾度目かの侵攻が発生。依頼を受けた一颯は〝エルル鉄鋼山〟へと向かう。
同じく依頼を受けてやってきた ゼリシュ・フェーブスと共に立ち向かう相手は、 GIFT Lab・第五研究室所属の ヘル・ベアトリックス。
その狂気でもって〝地獄門〟と呼ばれる謎の門を開かんとする彼女。……その先の〝何か〟には興味があったが、黙って見ていることも出来ない。
門の奥の虚無より召還された〝影の悪魔・エウゴアトラス〟と連携した怒涛の攻めに苦戦を強いられるも、最後はどうにかベアトリックスを撃破。
影も門も虚無も、全ては灰燼と帰した。――――筈であったが、ベアトリックスは最期に意味深な言葉を残し、息絶える。
任務自体は成功となったものの……同時刻、 アビス平原が謎の 『紅い人型兵器』によって焼き払われるなど、全体の被害は甚大であった。
……一颯がベアトリックスの狂気とその死に様、そして映像の中に佇む巨人の姿に何を思ったかは、定かではない。
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一颯がとあるGIFT構成員の外部協力者としてその下につく事を契約した際、その男から受け取ったもの。
GIFT本来の紋章である金十字に対し、それより劣るという意味合いで鉄十字という事らしいが、無論GIFT内にこのようなシステムが存在するわけではない。
恐らくは自身の部下であるということを強調するため、その男が独断で配っているものだろう。
ラッシュ・ワンスドッグから受け取った、彼が有していた能力がそのまま凝結したかのような紅色の宝玉。
彼は、自分の意志を貫いて自由に生きるための足しにしろ、と一颯にこれを渡したが――――。
〝翁〟との戦い、そして天鬼桔梗との戦いの果てに手に入れた報酬のひとつ。
特別力が込められた物でも無いが、それ故に扱いやすい。また剣ヶ里で作られただけあって大抵の物は容易く斬れてしまう切れ味も持つ。
更に術式さえ施せば儀式等にも用いる事が出来、九十九神となる可能性すら秘めているという。十分に性能の高い刀といえよう。
……ちなみにこの刀は、桔梗が無辜の子供を串刺しにしたものであるのだが。一颯は特に気にせず使っているようだ。
〝翁〟との戦い、そして天鬼桔梗との戦いの果てに手に入れた報酬のひとつ。
嘗て〝翁〟を封じた名将が愛用していたという刀である。刃こぼれする事も無く、手入れをせずとも長い間切れ味が落ちる事がない。
更に刀自体にも〝破魔〟の力が宿っていて、並の妖怪や結界程度ならば突破する事が出来る性能も併せ持つ。まさしく櫻の名に恥じぬ一振り。
しかしその力を存分に発揮するにはやはり、それなりの技量と知識を要する。一颯も当然まだ使いこなせておらず、目下修行中。
そもそも半分は妖怪である一颯がこの刀を持っている自体、矛盾に満ち溢れているのだが――――ある意味、一颯らしいともいえるか。
今まで - 回もぼくの事が見られてるんだね。何だか照れくさいなぁ……。
最終更新:2014年06月01日 19:12