恐怖の都市伝説

 個人的にこれは酷いので消します。というか他のも酷いんですが。
 とはいえ、ただ消すのもあれですので、ものっっっっっそい久しぶり投下。
 多分、作者の何かが吹っ切れてます。ではれっつらどん。




 題名未定。適当に付けるとすれば――――

 『欠片』









 何が怖かったといえば、何もかもが怖かったと答えるだろう。

 水原友良はそう思う。

 何もかもが怖いから誰かの真似をしなければ生きていけなかったであろうことは容易に推測できるし、少し考えてみれば理解できる事でもある。
 しかし、その生き方に是非を問うならば否であろう。なまじ魄啓――――己の誇るべき力が前提となってしまった世界で、彼の生き方を是としてしまえば、それは彼以外に対する侮辱に他ならない。

 いや、そういうことではないだろう。

 水原友良は自問する。

 彼の何が間違っているのか。

 模倣という最大の才能を持つ三雲武司の在り方の何が間違っているのか。

 この世に生まれ落ちたときから間違っている――――いや、これも正しいといえば正しい。が、友良が求めているのはそういう幼稚な答えではなく、かといって高尚なものでもない、単純でありながら的を射た答え。

 誇りを穢すのが間違いであるという答え。
 これはどうなのだろう、全体的な物差しで見ればこれは正しいのかもしれないが、単一的に――――三雲武司の視点からしてみればこれは否かもしれない。
 何故って、彼はそうして生きてきて、そうすることでしか生を謳歌する事ができなかったのだから。

 彼の生き方を正しいと認めてしまった大人たちがいて、そうすることでしか呼吸を許されなかった子供の行き方を否定するとすればそれは独善的な考え方でしかない。

 例えば、三雲武司が世界で最も嫌悪し殺意を抱いている彼女を例に挙げよう。

 彼女の言うことは間違っていない。正しい、酷く正しいのであろう。確かに、自分が最も憧れるものを穢す存在を目の前にすればそう思ってしまうのだろう。

 だが、彼女の生き方が正しいかと聞かれれば極一部を除いた人間が嫌悪するだろう。それは殺意とかそういう物騒なものではないが、彼女に対して負の感情を抱くことは間違いな――――。

「…………ん?」

 脳裏を何かが掠めて消える。
 彼女の事を例に出して頭の中を整理しようとした友良は、答えに近付いているのか遠ざかっているのかがわからなくなり混乱した。
 頭の中を整理して整理して乱雑とした脳内を整えて、だけどその掠めた答えには近づかなくなってしまって苛立つ。

「ヤメた……なんでボクが三雲のことで悩まなきゃいけないんだか。……奈々子姉、コーヒー入れて」

 他人の為になんで自分が悩まなくてはいけないのかがわからなくなって、友良は傍にいる姉――――水原奈々子に頼む。

「仕上げという名の修羅場を終えた姉の布団に潜り込んでおいて一緒に寝るのまでは勘弁してあげよう。私が眠くて眠くて溜まらないのにも関わらず独り言で私の睡眠を妨げた事も……まあ許してあげよう」

 友良は自他共に認める自己本位な思考の持ち主である。
 さもなければ、人のプライバシーをやたらめったらに心器で覗くような真似はできないし、しないであろう。

「さっきから私の太ももを左手で撫でてるのも本当ならカタログ撲殺の計に処すところだけど、手伝ってくれたんだから勘弁してあげよう……。
 だけどね、今私が述べたのを我慢しているのをわかってるのにも関わらずそういうことを言うのは勘弁できねぇーーーっ!!!」

 水原友良。
 身内しか知らない事だが、彼はシスコンなのである。

「実は感じて濡れてる癖に」
「悪質なデマを流すなっ! 私はエロマンガ作家でもあるが、そんなんで■■■が濡れるような性癖は持ってねぇわっ!」
「じゃあこの左手にくっついた湿った液体は」
「描写されなきゃ私がツンデレになってしまうような言葉を放つなこのバカ弟!」

 場面よ変われ。



























 さて、場面は変わって牧内家。

「落ち着いたか?」

 磯城英一郎が“何者”かに敗れ地に伏せて暫く、翔也は渚を宥めていた。彼女は外聞したイメージを払拭するかのごとく泣き喚いた。
 翔也の制止も厭わず倒れた磯城を揺さぶり、そうする事で彼の存在を確かめようとしていた。力付くで渚を振り払おうとする翔也の頬を叩き、最終的には翔也が渚の感情の暴発を受け止め、結果今に至る。

「…………」

 その間、約10分といったところか。実際に計ったわけではないので分かる筈もないが、翔也の服は一言で纏めてしまえば汚れていた。原因は述べるまでもなく、渚の涙やら鼻水やらそういったものである。更にいえば翔也の顔やら腕やらも渚に叩かれたり引っ掛かれたりしているのだが、それはまあ些細な事であった。

(……俺も、こんなんだったのかね)

 些細な事、といってしまえばそれまでであったが、些細と描写したのには、翔也が渚を通して過去の自分を見ていたからである。だからこそ渚が自分に何をしてきていようが些細な事でしかなかったのだ。
 正直に言えばどうでも良かった、と表現すればいいのだが。

 今の渚の表情は、とても人様に見れるようなものではなかった。
 恐らく軽く化粧していたのであろう――――化粧するまでもなく美しいのだが、その化粧が涙で剥がれ落ち、更には涙と鼻水の流れた後で人前に出せるようなものではなかった。醜悪とまではいかないが、それに限りなく近い表情が今の渚であったのだから。
 ともすれば、彼女の評判も下がってしまうのだろうが、勿論この時の顔を周囲に言いふらすような翔也ではない。むしろ、そういった感情に懐かしさを見出していたぐらいなのだから、彼女の外見に対する評判が落ちることはないだろう。

「もう一度言うが、応急処置はした。救急車も呼んだ、後はよほどのことが無けりゃ助かるだろ。そのときはお前の“力”でそのヤブ医者を“殺して”やればいい」

 腰に縋る渚のボサボサになった髪を、梳くような仕草で撫でる。慰めの言葉は似合わないのはわかっていたから、慰めの言葉を知らない翔也にはそれしか出来なかった。妹が、鶯が好んでしてくれと頼んだそれしかすることが出来なかったのだ。

「……っ、先輩。少し寝てろ」

 気配を感じ、今の渚では足手まといにしかならないので渚に当身を放ち気絶させる。

「あんたか……」

 まさか他にも、兵器級の曲者がいるのかと心を引き締め、近付いてくる気配がこの屋敷の住人である事に気付き、安堵の息を漏らす。

「お嬢さまは?」
「化粧が崩れただけで身体に傷一つねぇよ」

 姿を現したのは、牧内家のもう一人の住人である坂口真実であった。
 彼女の姿を簡潔に述べるとすれば、悲惨の一言であった。
 彼女のメイド……給仕服は肌が晒されていない部位の方が少なくなっていた。だが、それ以上に酷かったのは彼女の怪我であった。傷と呼べるものは一つも見えなかったが、しかし右足と右腕が見事に折れていた。

「訊くまでもないと思うが、大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えるようなら、貴方の目は腐っていますね。ですが、お嬢様の受けた心の傷に比べるまでもないのは言うまでもありません」
「それだけ喋れりゃ無事でしかないな。一応訊いておくが、誰に?」
「純粋たる悪意の星に」
「頭、大丈夫か?」

 一瞬。
 ほんの一瞬だが、この場の空気が和んだ。

「貴方に比べればどんな人でも正常だとは思いますが」
「…………想像は付くがそれでも聞いておくが、そういう事が好きなのか」
「ええ、所謂厨ニ病とでも言うのでしょうか。お嬢様が購入するマンガを一緒に読んでるうちにそういうのが好きに」
「俺は?」

 勿論これは些細な冗談だ。
 翔也が自分を冷静に保つために行われている会話に過ぎない。

「……………………一見で言うのなら青空の民の守護者とでもするべきなのでしょうが」
「が?」
「少なくとも、貴方には青空という言葉は似合いません」
「なんでだ、あ――――」

 「青空は大好きなんだが」と続けようとした翔也を遮り、真実が問うた。
 小康状態に近付いてきた翔也の感情を無視して。

「佐倉つばめ様を取り戻そうと思わないのですか?」
「――――」
「私にとっては大問題でもあり無理でもありますが、この場に辿り付いた時点ではすぐさま追う事も可能だったのでしょう。私では不可能かもしれませんが――――アンタなら追い付けただろうがっ!!」








 沈黙。









 冷静を保とうとしていたのは翔也だけではなかった。
 少しの間、本当に少しの間だけ共に過ごしただけではあったが、坂口真実という女性は佐倉つばめという少女を好いていた。

 ――――自分の義理の兄は捻くれものだけど、本当に優しい人なんだっ。
 ――――あの人に出来ない事なんか、きっとないんだ。

 澄み切った空のように笑うつばめの言葉を聞いていただけだが、その言葉には翔也に対する純粋な思いが伝わってきていた。
 いや、単純に坂口真実という女性は佐倉つばめを同姓として好いていたのだろう。

 だからこそ、こうして落ち着き払っている翔也が気に食わない。
 確かに自分は彼、彼女の境遇も状況も知らない。

 が、それがどうした。

 彼女があそこまで好いているのだから、彼が彼女の事を好いていない筈がないのだ!
 それで、どうして、赤の他人に、構っていられるのだ!

「――――」
「確かにコレは仕事だ、アンタの仕事はお嬢様を守ることだ。
だけど所詮仕事だろう!?
目の前で大切な人がいなくなって、それをどうにかする実力を持っている癖にどうして追わない、どうして助けようと思わねェんだ!
答えろよっ、何でこうして此処にいられる理由を、どうしてつばめちゃんの行方を探そうしないのか!
返答によっちゃその不細工なツラぁ思いっきりぶん殴ってやんぞっ!?」
「……俺に――――」
「自分に用があるだろうと思って、つばめちゃんには危害が及ぶ可能性が低いとか言ってみろ?
 私は今怒ってるんだ。私が言う筋合いでもなければ、私が立ち入るところでもないのも理解して――――だからどうした!
 幾ら成長しようが自制しようが、ムカつくんだよ、アンタの事が。だからこうして言ってンだ!」

 息を荒くして翔也を非難する真実だが、正しく彼女には人の事を言える筋合いはない。
 それを説明するのは彼女の事を説明しなくてはいけないのだが、今それを語る意味はない。

「言えよ、少なくとも私が納得できる理由を――――」
黙れ
「ア?」
「黙れ、と言ったんだよ。言われなくともわかってんだよ、テメェ如きに言われずともわかってんだよ!」
「ならっ!」
「言われなくとも殺す。つばめを攫った奴らは殺す。今すぐに駆けつけないのは偏に今の俺じゃあ無理だからだ。つばめを攫ったのが本当にあのクソガキだけなら磯城さんの事なんぞ無視して追いかけて殺してるよ」
「は?」

 真実の呆けた顔を見て、翔也は笑う。
 それは人間のする笑みでは、ない。

「一人じゃあ、足りない。殺すだけなら俺だけで充分だが、殺し尽くすには人が足りねぇ。それだけの理由だ。理解できるわけもねぇから、罵り炊きゃ罵れ、今の俺はそれどころじゃねぇんだ。優先順位が、ちょっとズレただけなんだよ」
「何を――――」

 翔也が何を言っているのかがわからないのだろう。荒げた息も憤怒の表情も治まる事なく胸元を掴む真実の力は弱まることない。
 だが、これに関してはわからなくていいものなのだ。これから言い放つ内容は翔也と夢を抱く医者の卵だけが理解していればいいのだから。

「坂口真実、テメェにとっての頂点が牧内渚でその次が磯城英一郎であるように、俺にとっての頂点は残りの一人を殺す事なんだよ」

 佐倉翔也にとっての頂点は佐倉鶯を殺した相手への復讐だ。
 過去の自分を悔やんでItと呼ばれた少年を助け、自分の妹を連想して水代燕という少女を拾ったが、それはあくまでおまけだ。勿論、今となっては二人の存在は翔也の中で大切なものになってはいるが、一番かと言われれば否である。

「下種が……っ!」

 軽蔑するような眼差しでこちらを見る真実に、翔也は笑う。
 少ししか会話をしていないような他人に、こんなことを話しているのかと。
 思えば井口正輝に話したときも笑っていたような気がして、忘れた。
 もう、関係の無い事だ。

 だけど、これだけは言っておく。

「愚物とでも下種とでも畜生とでも外道とでも鬼畜とでも呼べ。ただ、頂点は殺すことだが、頂点に負けないだけであって、水代燕が、佐倉つばめがどうでもいいってわけじゃねぇ」
「…………」

 それを言わねば、佐倉翔也は佐倉翔也足り得ないのだから。

「これは、あんたの望みに応える為に言うわけじゃねぇが」

 そこで、翔也は一息入れる。
 己に戒めるように。
 揺るがないように。

「――――俺がどうなろうとも、つばめは助ける」























「…………ふふっ、ふはははは」
「武司さん?」
「ふははははははははははは!」

 翔也との電話を終えた武司は、笑っていた。
 これ程嬉しい事はないと。これ程願っていた事はないと。

 怪訝な顔を向ける弥生を他所にダーツボードからダーツを引き抜き、スローイングラインに立った。その間にも笑いは治まることなく、二人きりの室内に武司の笑い声だけが響き渡っていた。
 この場に葉月がいたら「ついに狂ったか……」とでも言うのだろうが、正しく今の武司は狂い悶えていた。

「ははははははははは!!!」
「……っ」

 弥生を省みることなく大声で笑う武司の表情は歪んでいた。それは翔也の浮かべる狂った笑みに似ていた。
 それを知るわけもない弥生が恐怖するのはある種必然の事であったが、ここで引いてしまえば三雲武司という前提を知る事は出来ない。
 この時弥生がここで物怖じすることなく何かを言えば、武司の傍に立っていたのは弥生だったのかもしれなかったのかもしれない。

(…………どうして)

 その言葉の後には何が続くのだろうか。それは武司の笑みを受け止められなかった彼女にはわからなくなってしまった。

 二人きりでいるのに、自分を見てくれない?
 私という存在を除け者にしていられるの?

 何でもいい、兎に角彼女は何か続けるべきなのだ。言葉にする必要はない、思うだけで彼女は強くなれた。
 思考すら止めてしまったのも、憐れむような眼差しで武司を見つめてしまうのも間違ってない。それは正常な人間であるならそうすべき行動であっただろうし、優秀であるからこその結論である。
何度も言うが、間違ってはいないのだ。

 三雲武司を想っていないのであれば。

 だが、彼女は少なくとも武司を想っている。傍に立ちたいと願っている、共に歩みたいと望んでいる。
 ならばここで武司の根幹に踏み込むべきだった。自分の想いに正直になるべきだった。
 武司が嘘を嘘と思わないことを、真実を真実と思わない事に気付いていれば、或いは――――
















「――――黙れアホっ!」
「ぷげらっ!?」
「葉月っ!?」

 思考の沼に両足を浸らせてしまった弥生を他所に、部屋の中から漏れてきた声を不審に思った葉月は棒(ルビ:棒=キュー)で武司の腹を容赦なく突いた。余りの容赦のなさに睦月が葉月を咎めたぐらいだ。
 普通なら咎めるか。

「姉さんを無視して何一人で笑ってんのよ!」
「げほっげふっげふぇっ!?」
「質問してるんだから答えろバカ!」
「おえっ、どふぇっ、かふっ!?」

 突く突く突く。部屋に残っている歪んだ空気を払拭するかの如く、葉月は武司のおなかとかおなかとかおなかとかをつっついた。可愛く描写しているのは、凄惨さを和らげる為である。厳密には突くというよりは刺すに近いのだがさもあらん。
 そんな可愛い葉月(?)の行動をどうやって収めようとする睦月は暫くあたふたして、初めての異性の友人である彼に染まったのか、己の魂魄を研ぎ澄ませ始めようとする。

「げはっ、げはっ。……睦月まで加わるとなるとオレちょっと真面目に死にそうにげほげほっ!?」
「はっ!?」

 思わず二人を巻き込みつつ室内をメチャクチャにするところで、涙目の武司の言葉に睦月はその行為を研ぎ澄ませていた力を霧散させた。

「あー、いやお腹とか描写するのはいいけど、実際は鳩尾三連って。死ぬぞ実際」
「死ねばいいのに」
「あっかんべー」
「……コイツ、本当に年上なのかしら?」

 呆れる葉月を傍目に武司は呼吸を整えていた。
 深呼吸のお手本をこちらに見せつける武司の姿に葉月はバカらしくなったようで、小さく溜息をしてキューをビリヤード台の上に置いた。
 その際、柄の部分に皹が入ったのを見つけてしまって少し反省しようと思った葉月であったが、葉月の事を知っている人ならばそんな反省はすぐ水面へと沈んでしまう事は確かな事である。
 というか、葉月の事を良く知っている睦月はそう思っていた。
 次は壊す前に止められるといいなあ。

「……ゴメンね、武司君。葉月ってば、武司君のこととなるとやりすぎちゃうみたいで」
「お姉ちゃんっ!?」
「いーけどねー。やられなれてるからー」

 その言葉に同意していいものか睦月は判別に惑い、最終的には苦笑を浮かべることにした。やられなれている、という言葉の意味だけを受け取るだけなら確かに素直に頷くべきではあるのだが、睦月はそう容易く頷けるような性格をしていないのである。
 これが葉月やら翔也やら友良、はたまた城埼燈霞やら宮原沙希――――極端な言い方をすれば変人である彼らならば即座に頷いたであろうが、あくまで睦月は性癖が若干ズレているだけで、思考自体は平凡なのである。悪評に頷けるような度胸は持っていない。

(さて……と)

 再び葉月と武司の痴話喧嘩(葉月は認めないだろうが、誰もが認めるであろう)が始まったのを他所に、睦月は酷く沈んだ様子の姉の傍に歩み寄り、その顔を伺い見る。

「……睦月?」

 その自分の行動でようやく自分と妹がこの部屋に入ってきたことに気付いたのか、弥生は先ほどまでの表情を振り払った。勿論、身内である睦月がそれに気付かないわけがなかった。

「『アイツの、傍にいてくれないか?』」
「……誰の物真似かは知らないけど、その真似には無理があるでしょう?」
「ぅう……やっぱり私じゃ無理があるよね」

 言っておいて後悔するも、睦月は弥生の質問に対して答えはしない。これがわからないのであるのなら、姉は武司の上辺だけを見ていただけで、それなら武司は姉を認めはしない。

 睦月の思う弥生の短所は、短慮なところである。
 姉妹の中では一番の冷静さを持っていると称されている弥生だが、それは弥生の外面でしかない。
 逆に、一番冷静であるのは今しがた武司を襲っている葉月なのだが…………?

「はーちゃん、そこらへんで止めないと節分の刑にするよ!」

 葉月を脅迫に近い諫め方で止める。どうにも武司がいると冷静になれないのは、睦月も同じであった。

「……貴女の真似が誰のものかはわかりませんが、貴女の言葉の意味はなんとなくわかりました」
「へぁっ!?」
「何ですかその声は」
「わからなかったら良かったのにっていう意味じゃダメ……?」
「……変わりましたね、貴女は」

 懐かしむものを見るかのように自分を見る弥生に、睦月は同じ気持ちを抱く。
 変わった、と言われてしまえば姉もそうだ。
 恐らく、いや、確実に三雲武司という彼は白銀弥生の嫌悪するタイプなのだから。何故って彼はあらゆることをこなすものの、それを行う事によるリスクを、対価というものを知らない愚かものなのだから。

 武司も気付いていないのだろうが、武司の行う事は賞賛される事はあっても尊敬される事はないだろう。何故ってそれは、彼自身が努力した上での結果ではなく、何の苦労もせずに行ったものなのだから。それが尊敬される事かといえば否でしかない、最初こそ憧憬を抱かれることはあっても、その感情の辿り着く先は嫌悪の二文字になる。

 模倣。

 その能力がどれだけ有用なものであり、危険なものであると武司は気付いていない。ならばそれを誰かが――――佐倉翔也がそれを教えるべきではないのか、と思った事がある。そして、何故それをしないのかとも考えた事もある。

 その答えは未だに導けない、導くには幾つも足りない事がある。佐倉翔也という人物を計りきれていないのだから、それも仕方の無い事だろうと自身を納得させ、その疑問の解決を先送りにしている。

 本当は先送りにしてはいけない疑問なのだろう。その疑問は早く解決し、その答えを否定して武司に“それ”を教えるべきなのだろう。

(私が教えればいいんだけど……ダメだろうなあ、きっと)

 いや、確実に無理だろうと睦月は過去を懐かしむ事を忘れ、そう心の裡で嘆く。

 まだ、足りない。

 三雲武司は自分たちをクラスメイトとしてしか認識していないだろうし、それだけでこの問題に、教えられる事に納得はしないであろう。彼は頑固という言葉から掛け離れた人間だけども、しかし根底の部分では譲れないものが一つあるのだろう。それを氷解し違うモノに凝結させるには彼がこちらの事を想っていてくれないとダメだ。

 その想いが友愛であっても構わないのが、少し寂しくあるのは仕方のないことだが。
















 ――――白銀睦月は一つを除けば正しく白銀の血を継ぐものである。
 彼女に足りないものは唯一つしかなく、唯一がないからこそまだその片鱗を見せることはない。
 彼女に足りないものは何か。
 それは三雲武司には在り、白銀睦月には足りないものである。

 ――――三雲武司は一つを除いて間違っても人間と呼べるものではない。
 彼に足りているものは唯一しかなく、唯一つしかないからこそまだ憧憬するものに近づけない。
 彼に足りないものは何か。
 それは白銀睦月には在り、三雲武司には足りないものである。

















  静寂とは、脆弱に近いものがあり。          信念とは、深淵の底にあるものだ。










 ※※※

 薄暗い。
 意識を覚醒させて最初に思った事は、なんてことは無い感想だった。

(…………あーあ、負けたのか)

 そして、心の裡でそう呟く。敗北という事実に全くの悔しさが浮かばない自分は、未熟以前の問題なのだろう。所詮、魄啓という力だけに頼ってきた自分には舞台に立つのは早すぎたのだろう。自分なりに力を磨こうと四苦八苦してきた自負はあるが、演者になるには不足で、役者を目指すには経験が圧倒的に不足していた。

(なーにが、足りなかったのかな)

 と、考えてみたものの。それを考える経験すら足りないのだろう。仮の答えすら導けない自分の頭の悪さを嘆くしかなかった。

(――――さて、ここは何処かな?)

 反省も後悔もするが、しているだけでは状況は進まない。なのですぐさま頭を切り替えて、状況の把握をしようと試みる。

 が、何も出来ない。
 何も、起きない。

 不審に思い、目を細めながら自分の体を見回してみれば、両手に手錠が繋がれていた。

(……あれ、誘拐されたの?)

 ただ負けただけではなく、攫われている自分。
 何故と思うよりもこの手錠に疑問を抱き、良く目を凝らしてみれば、その手錠のようなものは位階を抑える、もしくは封じるような紋章が刻まれており、それが自分の能力が発動しない理由なのだと理解出来た。

(っつーか、手錠だけして放置されてんの? これ)

 能力を使えないので正確なことはわからないが、少なくとも自分がいる場所には誰かの気配がなかった。

(???)

 疑問符を大量に浮かべながら、両手が封じられた状態で立ち上がる。自慢にもならないが、両手が塞がれながら立ち上がる事は朝飯前だ。昔取った杵柄とでも言うのだろうか、こんな下らない特技よりももう少し日常生活で役に立つ特技が欲しかったものだと、昔の自分を嘆こうとして、止めた。過去を嘆いたところで、今が変わるわけでもないし、そうした過去を過ごしたからこそ、”家族”と出会えたのだから。

 立ち上がり、両手を繋ぐ手錠をじゃらじゃらと鳴らしながら部屋の中を歩いてみる。途中、柱のようなものに頭をぶつけ、言葉にならない声を漏らしたものの、それ以外は概ね順調に散策を終える事が出来た。

 わかったことは二つ。ここは自分の部屋と同じぐらいの大きさの部屋である事と、自分の馬鹿さ加減だった。

(そりゃ、本当の意味での真っ暗じゃないんだから、目も慣れるよねー)

 散策を終えた頃には、暗さに目が順応して、辺りの様子がわかるようになっていたのだ。それに気付かず適当に歩き回り、終いには頭をぶつけているのだから、馬鹿でしかなかった。この場に友人がいたら、皆が皆で指を差し自分を馬鹿にしていただろう。

 ちなみに、先ほど頭をぶつけたのは正しく柱であった。

(……あれ、脱出してくださいと言わんばかりの扉だなあ)

 もう一度気分を切り替えて、唯一の出口である扉の前に立つ。

(っていうか、施錠出来ないような部屋に誘拐されてるって、相当馬鹿にされてない?)

 怒りよりも呆れが多分に含まれた溜息を吐き、壊れたドアノブを見る。相当な衝撃を与えたのだろう、そのドアノブは斜めに捻じ曲がり、施錠など出来たものではなかった。

「……こんな簡単に脱出出来る……わけないよねー」

 考えるよりも行動に移す自分の癖を長所と見るべきか短所と見るべきかは別として、簡単に開いた扉の先には屋敷で出会ったばかりの少女と瓜二つの少女と目が合った。



 ※眠くなったので一旦中断します。誰も見てないでしょうけども。
 草凪。


 ※一時間ほど書きます。もれなくぶっつけ本番なので文章の下手さに笑うといいと思います。
 ※三つは次の話に移ったものと思ってください。すいません。
 ※ついでにこれより上の文章をちょびちょび修正。ではれっつらどん。


「……」
「……」
「簡単なゲームをしない?」
「……は?」

 目が合って、数秒。少女の言葉に呆けた声を上げると、少女は無邪気な笑みを浮かべた。

「別に難しいゲームでもいいんだけど、それだと私がつまらないんだもの」

 そういう意味ではない、と返そうとして止める。少女の目が常人のソレではなかったと言う事が一つと、単純にどうでも良かったのが一つ。

「ちなみに、難しいゲームの内容は?」
「両手縛られて魄啓も使えないお姉ちゃんが、兵器級偽身能力者の私と戦う事。勝利条件は私の撃破でもなくて、お姉ちゃんの脱出だけどね」
「…………ひっで」
「出来ないとは、言わないんだね?」
「やらないとも、言ってないけどね」

 そう返したものの、実際は実現不可能なものだ。これで、相手が武器級程度ならば幾分楽かもしれないが、相手は正真正銘の化物だ。今の、ただの一般人――――否、一般人以下の自分に出来る事など、ただ無残に敗れ去るだけだ。

「……まあいいや、で、ゲームやらない?」
「暇……なんだろうね? することなさそうだし」
「それもあるけど、単純にゲーム好きなだけだよ」
「……ま、いいけど。で、何をするの? しりとり…………しりとり?」
「それでもいいんだけどね、単純な事だよ」
「?」
「どうして、お姉ちゃんが攫われたかを――――」
「下らねー」
「え?」

 少女の言葉を遮るように、言葉を吐き出す。
 何を言っているのかわからない、と言ったように少女は表情を凍らせるが、構わず続ける。

「下らねー、って言ったんだよ。ゲームでもなんでもないじゃん」
「いや……クイズもゲームなんだけど」
「ああ……そういう事じゃなくて。答えが分かりきってるクイズなんて、ゲームでもなんでもないし」
「……わかるの?」
「わかるに決まってんじゃん。わたしをただの義理の妹だと思ってるんだったら大間違いだっての。お兄ちゃん、佐倉翔也の行為を理解して納得して受諾してるんだから。それが一般的に間違いでも、法律的に違反していても、人道から外れていようとも、わたしはあの人の家族になりたいから、家族になったんだ。それじゃなきゃ、あの人の弟なんか、やってらんねーよ。と、ここまで踏まえた上で答えてあげるよ、佐倉翔也……空色死銘の所為で、わたしは誘拐されたんでしょ?」
「…………なんで?」
「主語を頂戴」
「……なんで、それをわかっててあんな男の家族に……。あの人は、わたしたちのお父さんと、お母さんを……っ!」
「ご愁傷様。因果応報だざまぁみろ」
「――――っ!」

 少女の表情が鬼面と称すに相応しいものに変化する。右手が固く握り締められているところを見ると、今にでも自分を殴り付けたい衝動に駆られているのだろう。行動に移さない辺り、自分はどうやら暫くの間無事なのだろうとアタリをつけ、続ける。

「ねぇ、君。名前は?」
「…………愛沢……月…………」
「月ちゃん。キミの怒りは至極真っ当なものだよ」
「……」
「じゃあ、一つ。ゲームをしようか。出題者はわたし、回答者は月ちゃん。問題は、どうしてキミの両親が殺されたか? 多分、キミはそれをわかってないんじゃないかな?」
「なんで、わたしのお父さんとお母さんが、殺されなきゃいけないんですかっ!」
「ゲームだって言ったじゃん。わたしが言ったら意味ないしね」


 ※中断。一時間じゃ、これしか進まないorz。
 では。

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最終更新:2009年07月04日 04:53
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