黄色い高草が、吹き渡る風に揉まれて散ってゆく。見渡す限り――地平線までの草原。
低木がまばらに立ち、小川の流れる、そこは、何者も存在しない土地だった。
無尽庭園
実際には、北の方角から南西までを、大きく湾曲して流れる広い川で、それ以外の方角を森で仕切られている。出入り口となる境界上には俺の庵があり、その円状の範囲が俺の所有となる。
それでも、小さな村ひとつ分ほどの広さをもつ広大な土地だ。一介の虐待お兄さんに過ぎないこの俺が所有するには本来不釣合いなほどの。
俺は、ゆっくりれいむとまりさのつがいを放った。まだ若く、生気に満ち満ちている。
「さあ、ゆっくりしておいで」
「ゆゆっ!!」
「だぜ!!」
二匹のゆっくりは籠を揺らして飛び出すと、俺の事など振り返りもせずに駆け出した。
黄色い草の中に、ゆっくりたちの踏み荒らした路ができていく。
俺は庵の近くに立てた高見台から、ゆっくり達の後姿を見送った。
「ゆっくりしていってね!!」
* * * *
本能のままに駆け出した二匹は低木の根本で一息つくと、そこに身を落ち着けた。眼前に広がる大自然に向かい、まずまりさが自分のお家宣言をする。
「ここは、まりさたちがみつけたまりさたちのおうちだぜ!!」
ばばーん。決まった。
「こーんなひろーいおうちだなんて、まりさすてきー!!」
「それほどでもあるぜ!ここがまりささまとれいむのゆっくりぷれいすだぜ!!」
「「ゆっくりしていってね!!」」
二匹は身を寄せ合い、”おうた”を歌い始める。
「ゆゆ~ゆゆゆゆゆ~ゆ~ゆ~ゆっゆ~」
「ゆっ!ゆっ!ゆゆゆ~ゆ~ゆ~ゆゆゆーゆゆ~」
何しろ基本的に身勝手なゆっくり二匹。音程も調子も、全く合っていなかった。しかし、お互い気にすることもなく歌い終える。
「すごくゆっくりした!!」
「こんなひろいおうちをもってるゆっくりなんて、このまりさとれいむだけなんだぜ!!」
「まりささいこう~!!」
「あたりまえだぜ!まりさはやりてなんだぜ!!」
満足し、次はごはんたいむだ。虫や小動物がまったく通りかからなかったので、二匹は手近な草に飛びかかった。
しかし、二匹は異変に気づかされることになった。
「ゆゆっ!?」
ぱらぱらぱら。
「むーしゃ、むー……?」
ぱらぱらぱらぱら…
黄色くひょろ長い草は、口に含もうとするとかさかさと崩れ、風に飛ばされていってしまい、ほとんど口には入らない。おかしいと思いながらも悪戦苦闘していた二匹だったが、音を上げるのは時間の問題だった。
「ゆっぐりできないいい~~~!!!」
「おかしいぜー!なんでゆっぐりできないんだぜええーー!?」
次に目をつけたのは、今までもたれかかっていた低木。しかしこれも、恐ろしいほど硬い皮に阻まれ、うまく食することができない。
「ゆぐっ……ゆぐっ……」
「うえええ………」
これでは埒が明かない。他ならぬ食料の問題、結論はすぐに出た。れいむはまりさを振り返り、今までの尊敬のまなざしなど忘れたかのように鋭く睨む。
「こんなたべものじゃぜんぜんゆっくりできないよ!!まりさのやりてはくちばっかりなの?しぬの?
そうじゃないなら、れいむのためにはやくおいしいたべものとってきてね!」
「ゆぐぐぐぐ!!ゆぐううう~!!」
先ほどの大言が仇となり、満足に言い返すこともできないまりさ。ぴょんぴょんとその場で跳ね、身をよじる。
「さっさとしてよ!!れいむがぜんぜんゆっくりできないのはまりさのせいなんだよ!!ぴょんぴょんやめて、ゆっくりなんとかしてよね!!」
「あ、ああ…そうだな…れいむ……ここにいてもしょうがないんだぜ、れいむもいっしょに、ほかのばしょにごはんをさがしにいくんだぜ」
まりさが不機嫌のれいむをなだめすかして移動をはじめる。
しかし、どこまでも続く草、草、草……
「むしさん、どうぶつさん、どこぉ……」
「だぜ、だぜ、だぜ……」
日が傾き、夕暮れの刻限となっても二匹は移動し続けていた。しかし、辺りにあるのはいつも変わらない、黄色の高草ばかりだった。
「んもおおおおお!!!!これというのもみんなまりさのせいだよ!!ゆっぐりじだいよおおおお!!!!!!」
「まりさはわるくないぜ!!!いけないのはこのゆっくりぷれいすのほうだぜ!!」
奇しくもまりさの言葉は正しい。ここは人間達が農作を放棄した、比類なく痩せた土地。虐待お兄さんが手に入れることができたのもそのためだ。
ゆっくり達にできるのは、味気のない高草をもそもそと長い時間をかけて食することと、硬くて噛み下せない木の枝を舐めることしかないのだ。
「ゆぬぐうううう!!!!」
「いくらたべてもはらいっぱいにならないぜ!!こんなのいやだぜ!!」
「おみずのみたい!!まりさ!!ゆっくりおみずもってきてね!!!」
「そんなのどこにもないんだぜえええ……」
ここは川までは遠い。二匹が水にありつくには、朝露を待たねばならない。
やがて、夜が下りてくる。
まりさが今まで忘れていた、ある事に気づいた。
「れいむ、おうちをつくるんだぜ。そうしないとゆっくりできないんだぜ」
「ゆゆっ!!そうだね!おうちをつくってゆっくりしようね!!」
飢えと乾きにさいなまれながらも、見えた一抹の光明。
おうちさえあれば、いまよりはゆっくりできるのではないか。それどころか、食料や水も手に入るような気がする。
「ゆぅ……さっきはひどいこといってごめんね……まりさはやっぱりすてきな、れいむのまりさだよ……」
「きにすることないぜ!さ、ゆっくりおうちをつくるんだぜ!!」
二匹は元気を取り戻し、おうちづくりの作業を開始する。
しかしそれが完了することのない徒労であることに、餡子頭の二匹はいまだ気づかずにいた。
止んでいた風が、また吹き始めていた。それはすぐに勢いを増し、草の海に波を立てていく。
ざああああああ………
「ゆゆっ!ゆぐううううう~~~!?」
ほんのちょっとの風が、たった今運んできた一束の草を吹き散らしてしまう。
「まって!まっでえええええええーーーー!!」
必死の形相で、ぴょんこぴょんこと草を追いかける二匹。それが完全にばらばらになってしまっても、跳ねることをやめなかった。餡子頭の考えでは、追いかけていればそのうちつかまえられるはずなのだ。しかしついに力尽き、息が切れてその場にぺしゃんと座り込む。
「やっばりまりざのぜいだよぉ……!!まりざなんがどいっじょになるんじゃながったよぉぉぉぉ……」
「うっさい!!れいむがへたくそだから、くさがとんでっちゃったんだぜ!!こんどはもっとうまくやるんだぜ!!」
仕方なく気を取り直し、ふたたび草をちぎってくわえ、先ほど家と定めたの木の下まで戻る。すでに疲労しきっている二匹は無意識に草を口に含むため、草は少しずつ目減りしていく。さらに、ゆへゆへと息を切らしただらしない口の端からもこぼれてゆく。
そうして苦労の末に集めたほんの少しの草も、
びょおおおおうううう――
「まっで!!まあっでええええ!!なんでまだな゛い゛の゛お゛っ゛た゛ら゛あ゛あ゛!!!!!ゆ゛う゛う゛う゛う゛お゛お゛!!!!ま゛でっ゛!!ま゛でっ゛ま゛でっ!!ゆ゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!!」
「ま゛つ゛ん゛だぜえ゛え゛え゛え゛え゛!!!???」
並の知能しか持たない二匹が家作りを諦めるのは、まだまだ先のことである。
びゅおおおおおおおお………
「か゛ぜさ゛ん゛!!!じゃ゛ま゛じな゛い゛でゆ゛っ゛ぐり゛さ゛せ゛て゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!!ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「のどかわいた……おなかすいたんだぜぇぇ……」
「も゛う゛や゛た゛あ゛あ゛あ!!!゛お゛う゛ち゛か゛え゛る゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!!!!」
ひゅううううううう――――
* * * *
がたがたと簡素な庵が揺れる。強まってきた風のせいだ。この土地特有の、いつまでも止むことなく吹き続ける、木枯らしのような風だ。
俺は待っている。
「遅い……」
「れみりゃのあかちゃん、かっわいいどぅ~☆」
「うあ♪うあ♪」
「さすがれみりゃのあかちゃん!!さいこうにぷりってぃ~だどぅ~~!!う~♪」
「(……うぜ)」
暖かく快適な庵の中で、俺はゆっくりれみりゃの親子とともに待機している。
「早くゆっくり達、来ないかなあ……」
いったんおしまい。
つづくんだぜ
□ ■ □ ■
あとがき
一区切り。とりあえずはこんなところだけれど、最終的にはみんなまとめてゆっくりできなくしてやるぜ!!ヒャア!!虐待だあ!!
読了下さり、ありがとうございました。
虐待BGM:ビリー・ジョエル『NO MAN'S LAND』
過去に書いたSS
豚小屋とぷっでぃーん
豚小屋とぷっでぃーん2
エターナル冷やし饅頭
れみりゃ拘束虐待
最終更新:2008年09月28日 17:20