ゆっくりいじめ系2285 花とゆうか



あれから一年ほどが経った。
べろ無しで花を育てるのは本当に多くの困難が立ちはだかった。
それどころか、火傷の後遺症でゆうかが生きていくだけでも大変だった。
それでもゆうかは歯を食いしばって土を掘り
火傷が多少治まり、逆に傷口に気が狂うほど滲みるようになった水を
たっぷり含んで川から種のところまで往復することを毎日繰り返し
雑草を土ごと抜き、自分の餌を探す暇も無いくらいに必死に育てた。

やがてその甲斐もあってかゆうかの拾ってきた種はすくすくと育ち再び花を咲かせた。
(また、またあえたねおはなさん……)
ゆうかはもはや言葉を発すことも出来ない口を微笑ませ、目から涙を零した。

それからも、少しずつだがゆうかは花の数を増やしていった。
やがてゆうかはささやかで、小さな小さな花畑を手に入れることが出来た。

毎日が苦しかったがそれでもゆうかはこのささやかな幸せに満足していた。
ただ、一緒に花を愛してくれたお兄さんがもういないことが少し残念だった。


そんなある日、ゆうかの花畑に一匹のゆっくりまりさが訪れた。
ゆうかはそのまりさを歓迎しようと近寄ったが、どうにも様子がおかしい。

「おねがい……たべものを……たべものをゆずってねぇ……!」
そのまりさは頬はやせこけて、全身カラカラで今にも死にそうな様相をしていた。
ゆうかは喋れないながらも快く頷いた。
そしてまりさを横にして、自分は険しい道のりを超えて川へと水を汲みに往復すると
口にたっぷり含んだ水を口移しでまりさに与えてやった。
まりさに口付けをすると、まりさは虚ろな目を気持ちよさそうに細めてごくごくと飲み干していった。
そしてゆうかは花畑の花を一つ抜いてそのまりさに分け与えた。
まりさは夢中になってその花をむしゃむしゃ食べると、今度はぐっすりと眠ってしまった。

ゆうかはその上にそっと葉っぱを一枚かけてやると
まりさに食べられて助けてくれた花にお礼を言って花の世話に戻った。

次の日、まりさは目を覚ますとゆうかに駆け寄りこう言った。
「ありがとうねゆうか!おれいにできることがあったらなんでもいってね!」
ゆうかは別に大丈夫だと身振りと表情で示してまた花の世話を始めた。
「えんりょしないでどしどしいってね!」
それでもまりさはゆうかに喰らいついて手伝わせるように言った。
仕方なくゆうかはたっぷり時間をかけて身振り手振りだけで水を汲んでくるようにまりさに言った。

「ただいま!」
夕方ごろ、まりさはやっと帰ってきた。
そしてべろをだしてその上のすずめの涙ほどのしずくを見せた。
結局暗くて危険な中をゆうかは水汲みに行く羽目になった。
それからもまりさはゆうかのことを手伝おうとして、ゆうかは倍の手間をかけるような目に合い続けた。
それでもゆうかはそれほど悪い気はしなかった。
まりさは花の成長を心から喜んでくれたから。
言葉は交わせないが、まりさはゆうかへの恩義を忘れずまりさなりに本当によくしてくれた。
まりさは言葉の喋れないゆうかの言いたいことを一生懸命わかろうとしてくれたし
ゆうかの醜い怪我の跡のことも気にせずに本当に友達として接してくれた。
それに花の栽培はともかく、餌を集めるのはまりさのほうがずっとうまかったのでそれは助かった。
おかげでゆうかの血色も大分よくなっていた。
まりさはたまにお花を食べたいと言ったが、そのお礼だとおもってゆうかはいつも快く花を与えた。

最後にたった一つだけ欲しかったものも満たされて、ゆうかは本当に幸せだった。


何度か春を越え、まりさも大分花を育てるのが上手になってきた頃。
まりさは真面目な面持ちでゆうかに切り出した。
「ねえゆうか、まりさのむれはいっつもたべものがたりなくてこまってるの
だからまりさね、まりさのむれにかえっておはなばたけをつくろうとおもうよ
そしたらきっとみんなおなかいっぱいでゆっくりできるとおもうの
おはなのそだてかたをみんなにおしえるのはたいへんだけど
ゆうかにおそわったとおりにやればきっとまりさでもできるとおもうの
だからゆうか……」
そうしてまりさは押し黙った。
ゆうかを置いてこの花畑から出て行くことが辛いのだろう。
ゆうかはにっこりと笑って持っていた花の種をいくつかまりさに与えた。
「……いいのゆうか?」
ゆうかはこくりと頷いた。

次の日、まりさは旅立っていった。
「ぜったいぜったいゆうかにまけないくらいおっきなおはなばたけつくるからねえええええええ!!
そしたらきっとゆうかもみにきてねえええええええええええええええ!!」
ゆうかは涙を堪えて花たちと一緒に笑顔でまりさのことを見送った。
まりさならきっと大きな花畑を作ることが出来ると信じて。



それから一月ほど経っただろうか。
人手が減って多少大変だが、それでも問題なくゆうかの花畑は今日も綺麗に咲き誇っていた。


「あなた、あなたがゆうかなの?」
「……?」
森の奥のほうからゆっくりぱちゅりーと何匹かのゆっくり達が訪れた。
ゆうかは何だろうと首をかしげてから一応首を縦に振った。
「それじゃあまりさにたねをあげたのもあなた?」
ああそうか、まりさの群のゆっくりたちが遊びに来たんだとわかりゆうかは笑顔でまた頷いた。
「そう、わかったわ……むきゅー!ひっとらえるのよー!」
「ゆー!!」
そして木立の合間からたくさんのゆっくり達がゆうかに襲い掛かった。
「…………!?」
ゆうかは訳が分からないまま取り押えられた。
何故だかお兄さんが連れて行かれた時のことがフラッシュバックする。
「やっぱりあなただったのね!まりさにあくまのかじつをわたしたのは!!」
ゆうかを見下ろすぱちゅりーの言うことがよくわからずゆうかは目を白黒させた。

そんなゆうかの前にドサリ、と汚れくすんだ何かが放り投げられた。
ゆうかはそれをじっと見て、気付き、息を呑んだ。
「~~~~~~~!?」
それはボロボロになって変わり果てたまりさの成れの果てだった。
帽子は泥にまみれ所々千切れ顔中が傷と痣だらけで右の目玉は飛び出て眼窩から垂れてしまっている。
「こいつはあくまのかじつをむれにもちこんだつみでしょけいしたよ!」
「まったく、とんでもないゆっくりだよ!」
「むれをほろぼすきにちがいないわ!」
「おまえらゆっくりしんでとうぜんだよ!」
何も理解できない、したくない。
まりさはお花を育てようとしただけなのにどうしてこんな。
ブチリ、と鈍い音を立ててゆうかの髪が引き千切られた。

「あくまめ!」
「しょけいだ!」
「なんびきのゆっくりのゆーせいをだいなしにしたの!?」
「みためどおりこころもみにくいまじょなんだね!」
「しんじゃえ!」
「おおこわいこわい」
「おまえなんかいなくなれ!」
一斉に周りのゆっくり達がゆうかに体当たりを始めた。
花の前にまずゆうかを始末する手はずらしい。
だがもうそんなことはゆうかには関係ない。

(どうして……)
もうしゃべることも出来ないが、ゆうかはこれだけは叫ばずにはいられなかった。
地べたに頬を押し付けられながら花畑の方を見てゆうかは胸の内でぶちまけた。
(どうしてたすけてくれないのおはなさん!?
ゆうかはこんなにおはなさんのためにがんばったのに!!)
今まで一度たりとも思ったことの無い花への不満が胸の内で爆発する。
生まれてからずっと花を育てて生きてきた。
ずっと花のために生きてきた。
花のことを一番に考えてきた。
なのにゆうかが本当に苦しい時、花たちは一度だって助けてはくれなかった。


(おはなさん!おはなさん!たすけて!いたいよ!くるしいよ!
おはなさん!おはなさん!ゆうかをたすけて!おはなさん!おはなさん!)

白い白い花々はゆうかの呼びかけには応えずすまなそうに風にゆれるばかり。

「ぅごぅ゛がぁ゛ぁああ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁあ゛ああ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁああ゛あ゛あ゛ぁ゛!!」

言葉にならない想いが醜い断末魔となって花畑に響き渡った。

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最終更新:2009年03月09日 02:33
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