あまりいじめていないので、ハードないじめが見たい方は読むとがっかりするかもしれませんのでご注意を
プロローグ
まりさは、色々あった末に出合ったれいむとつがいになりました。
完
「「ゆっくりしていってね!」」
昇る朝日をバックに、元気のいい二匹の声が響きます。
「きょうかられいむたちはふうふなんだね!」
「そうなんだぜ! ここからまりさたちのみらいへとつづくえいこうのろーどがはじまるんだぜ!」
警戒心という概念を知らない二匹の野生動物は、見通しのいい野原の真ん中で大声を上げながらもち肌ほっぺを擦り合わせます。野生動物に見つかるとか、そういう危険は全く考えていないようです。
しばらくすると、擦り合わせていたほっぺを名残惜しそうに話して、まりさはこう言いました。
「そろそろごはんをあつめにいこうだぜ!」
「ゆっ! そうだね!」
れいむは頷くと、ぽよーんぽよーんと跳ねて狩場に向かっていくまりさの背中を追って跳ねだしました。
しばらくすると狩場に着きました。そこはまりさがれいむと出会う前から知っていた虫やお花がたくさんあるステキなゆっくりプレイスです。
「ゆ、ゆわー!」
そのあまりのゆっくりっぷりに、れいむは瞳を輝かせて辺りを跳ね回ります。そんなれいむを見て、まりさは「ゆっへん!」と誇らしげに胸を張りました。でもれいむはゆっくりプレイスに夢中で気付きませんでした。
「じゃあまりさはかりにいってくるんだぜ! まりさはかりがとくいなんだぜ!」
「ゆ! れいむもてつだうよ! れいむはまりさみたいにとくいなことはないけどまりさのやくにたちたいんだよ!」
「ゆーん! れいむはやさしくてかわいくてまさにりそうのつまなんだぜ! じゃああっちのおひさまがこっちのあのへんにきたらまたここにもどってくるんだぜ!」
「あっちのおひさまがそっちのあのへんのそれっぽいところにきたらだね! ゆっくりりかいしたよ!」
通じてるんだか通じてないんだかよくわからない表現で集合時間を決めた二匹は、お互いに背を向けてぽよーんと軽快な音を立てて跳ねていきました。
「ゆっくりたいりょうだよ!」
虫さんやお花さん、キノコさんや木の実さんをたくさんお帽子に詰め込んだまりさは、れいむの驚く顔を想像して鼻歌など歌いながら先程の集合場所へと戻っていきます。
しばらくすると、れいむの後姿がまりさの視界に入りました。まりさはれいむに向かって大きく跳ね上がり、声を上げました。
「ゆっくりもどってきたよ!」
そして、れいむの横に詰まれているたくさんの食べ物を見ると同時に、まりさの誇らしげな表情が曇ります。
そんなまりさの様子には気付かずにれいむは戻ってきたまりさに笑顔でお返事をします。
「ゆっくりおかえりなさい! ゆゆ! ごはんがいっぱいだね! さすがまりさだよ!」
れいむは笑顔でそう言いながら、まりさのほっぺにすりすりをします。
しかし、まりさはすりすりを返しませんでした。何故なら、まりさの集めてきたごはんと、れいむの集めてきたごはんはほとんど量が変わらなかったからです。差は大体、木の実が2つか3つ分程度でしょうか。
それは狩りが得意なまりさのプライドを少しばかり傷つけました。
「れいむこそ、こんなにたくさんのごはんをあつめるなんてすごいんだぜ!」
が、そんな事で露骨に顔色を変えるほど器のゆっくりしてないまりさではありません。そう言いながら、笑顔でれいむに向き直ります。
「ゆぅ~、そんなことないよ! まりさにはかなわないよ! やっぱりまりさはれいむのじまんのおっとだよ!」
れいむは純粋にそう思ってまりさを褒め称えます。だからこそまりさの胸のうちにはもやもやした物が溜まるのです。
「きょうはもうこのへんにしておいてやるんだぜ! でもあしたはまりさのほんきをみせてあげるからかくごしておくんだぜ!」
「ゆゆ?! もっとすごいの?! まりさかっこいい!!」
だからつい、そんな正義の味方にやられた悪役みたいな事を口走ってしまったのです。
そして、次の日。
「これがまりさのぜんりょくぜんかい!」
ごはんを詰め込みすぎて被って移動する事ができなくなったお帽子を口に咥えてずるずると引き摺りながら、まりさは器用に叫びました。ご飯がたくさんなこのゆっくりプレイスにおいても、このごはんの取得量は異常といってもいいでしょう。伊達に狩りが得意と公言しているわけではないのです。
「こんどこそまりさのかっこいいとこみせてやるんだぜ!」
れいむは昨日で既にまりさをかっこいいと思っているのですが、一晩たったまりさの頭の中では傷ついたプライドが作用してれいむのあの言葉を情けと解釈してしまっていました。
今度こそれいむに心の底からの賞賛の声を。それだけを思ってまりさはここまで頑張ったのです。
『まりさすごいよ! ゆっくりしすぎだよ!』
瞳を輝かせてまりさを褒めちぎるれいむの姿を想像して、まりさは気分を昂揚させます。
しばらくして、まりさはれいむの姿を見つけました。れいむもまりさに気付いたようで、瞳を輝かせながらスタコラサッサと走りよってきます。
「ゆっくりおかえりなさい! ゆぁー! すごいよ! ごはんがいっぱい! まりさゆっくりしすぎだよ!」
れいむはまさにまりさの望んでいたセリフをまりさに向けて発しました。
まりさは、口に咥えたお帽子のつばを離します。
返事をするためではありません。れいむの背後にあるごはんの山を見つけてしまったからです。
「すーり、すーり、しあわせー!」
まりさのほっぺにれいむのもち肌がこすり付けられます。しかし、まりさはそれに気付かないほどショックを受けていました。
れいむが集めたごはんと、まりさが集めたごはんの差はほとんどありません。せいぜいが木の実2つ分かそれ以下です。まりさが本気を出す前よりも、差が詰められています。
まりさは本気じゃなかったけど、れいむも本気じゃなかった。
この事実は、まりさの心に重くのし掛かります。
「れいむ、まりさはたびにでるのぜ」
「ゆ?! どうして?! まだふうふになったばっかりだよ?!」
「がまんしてほしいんだぜ。まりさはれいむにふさわしいゆっくりになりたいんだぜ。だからすこしのあいだしゅぎょうのたびにでるんだぜ」
「まりさ……」
れいむが寂しそうな顔でまりさの顔を見つめますが、まりさの決意は固く、そのような目で見られた程度では揺らぎはしませんでした。
「ゆっくりりかいしたよ……」
やがてれいむは諦めたのか、しかし哀しみは隠し切れずに涙を滲ませながらぽつりと呟くように言いました。まりさは、すぐ戻ってくると一言だけ告げると振り返らずにそのままぽよんぽよんと走り去りました。
狩りがうまくて格好いい自分を取り戻し、れいむに相応しいゆっくりになると心に決めて。
それからまりさの厳しい修行の日々が始まりました。
ゆっくりできない虫さんと戦ったり、
蜂の巣を抱えたまま蜂さんから逃げたり、
ひゃっはーと叫ぶ変な人間さんから逃げたり、
意味も無く滝に打たれてみたり。
修行は熾烈を極めました。
しかし、その甲斐あってまりさは、全盛期の自分を越えるほどの狩りの実力を手に入れる事ができたのです。
「げきりゅうにみをまかせどうかするのぜ」
まりさが開眼した狩りの真髄です。意味はわからないけど、とにかく凄い自信を纏っています。まりさはれいむの待つ自分のおうちへと足を向けました。
これならいける。格好いい自分をれいむに誇れる。
そう思っていました。
この時までは。
「どうぢでれいむよりぎのみざんがいっごおおいだげなんだぜー?!」
「こんなにごはんをあつめられるなんてやっぱりまりさはすごいね!」
確かにまりさの修行の成果は凄まじいものでした。修行以前のまりさと比べて量だけでも三割増し、さらにごはんの質もおいしくて栄養の高いものが揃っています。しかしそれはれいむの集めたごはんも同じ事。むしろ質ではれいむの方が上回っているかもしれません。
納得がいかないまりさは涙目でれいむを問い詰めます。
「なんでれいむはこんなにがりがじょうずになっでるんだぜー?!」
「わずかなじかんをみつけてれんしゅうしたけっかがこれだよ!」
褒められたと思ったのか、れいむはやけに誇らしげな顔をしています。
しかし、あの過酷な修行の日々よりも、れいむの『わずかなじかん』の方が意味があるという事実はまりさの心を深く抉ってしまいました。まりさはもうこの先何を信じて生きていけばいいのかわかりません。
茫然自失とするまりさ。れいむは不思議そうな表情を浮かべながらまりさの周りをぐるぐるとまわります。
と、その時です。急に近くの茂みががさがさと蠢いて、そこから何かが飛び出してきました。
「「「「んほぉー! ありすをすっきりさせてねぇー!」」」」
なんという事でしょう。飛び出してきたのはれいぱーありすでした。このSSはれいぱーオチだったのです。
「「「ありずはゆっぐりでぎないー!!」」」
茫然自失としていたまりさもこれには驚き怯え、れいむと一緒に必死に飛び跳ねます。
「「「ありまりもいいけどありれいもいいわぁー!!」」」
「ゆ゛あー!」
が、駄目。まりさの背後にいたれいむは、ありすのうちの三匹にあっさりと捕まってしまいました
こうなってはまりさも逃げてはいられません。色々思うところはありましたが、まりさは結局れいむが大好きなのです。
「れ、れいむー!!」
意を決して踵を返すまりさ。が、その行く手をもう一匹のありすが阻みました。
「ありまりがじゃすてぃすなのよぉー!」
ありすはそう叫びながらまりさに向かって飛びかかってきました。まりさはマジ怖いですと思いましたが、まりさはかつていた群れでは一番の武闘派で対ゆっくり戦闘では右に出る物はいなかったほどのツワモノ。
れいむへの愛と武闘派としてプライドでなんとか恐怖心を振り切り、目の前のありすに立ち向かいました。
それからなんか色々あって、なんやかんやでまりさはありすに勝利しました。
「ごべんなざいー! もうじまぜんがらゆるじでぐだざいー!」
ぼろぼろになったありすは泣きながらずりずりと這って逃げていきました。
「ゆ、ゆっぐりれいむをだすけるんだぜ……!」
息を切らしながらもなんとかれいむが襲われている現場に到着します。
と、そこにはぼろぼろと涙を流すれいむと、ボロボロになった金髪のザコが三匹転がっていました。
周りに他のゆっくりの姿はありません。つまり、れいむがこのありすを倒したという事でしょう。まりさがありす一匹を追い払う間に。
「ま、ま゛りざー! ごわがっだよー!」
滝のような勢いで涙を流しながら、れいむはまりさの胸に飛び込みました。
しかしまりさはれいむを慰められません。武闘派としてのプライドが粉々に砕け散ったショックで茫然自失としています。
まりさは考えます。
どうしてれいむはまりさよりも楽して狩りが上手になれるのだろう。
どうしてれいむはまりさよりも強いのだろう。
まりさは狩りが得意なのに。
まりさは戦うのが得意なのに。
れいむは得意な事なんか何も無いのに。
狩りが得意じゃないれいむが、戦うのが得意じゃないれいむが。
狩りが得意なまりさよりも、戦うのが得意なまりさよりも。
もっと上手に狩りができるなら、戦うことができるなら。
ひょっとして狩りが得意なまりさは、戦うのが得意なまりさは。
ここにいる意味が無いんじゃないだろうか?
そんな考えがぐるぐると頭の中を巡っていき、次第にまりさはどんよりした重く暗い、ゆっくりできない気分になってきました。
そんなまりさの背中を、何かが優しく叩きました。まりさはなんだろうと思って振り替えります。
そこには二匹のゆっくりがいました。
その片方の、金色の髪で黒い帽子を被った線目で元気の無さそうなゆっくりがまりさに言いました。
「うっつりしてるね」
そして、もう片方の緑色の髪で赤いリボンをつけたぐるぐる回ってるゆっくりがまりさに言いました。
「やっくりしてるね!」
二匹はゆっくりるなさとゆっくりひな。それぞれ鬱い心と不幸な生き物が大好きなゆっくりです。
「ゆ? まりさのおともだち? まりさはゆっくりしたおともだちがたくさんいてすごいね!」
「「「ゆっくり(うっつり)(やっくり)していってね!」」」
五秒ほどで仲良しになった三匹は、ゆーゆーと鼻歌を歌いながら楽しそうにまりさの周りをぐるぐると回り始めました。
その輪の中心で、まりさは叫びました。
「どうぢでゆっぐりでぎないんぜー?!」
あとがき
「得意なものが何も無いれいむは無能」という意見が多いのを見て、「長所が無いって事は全部の能力が均一って事であって別に無能ってわけじゃないんでは?」等と思い、初めてSSを書いてみました。しかしwikiに置いてある作者の人たちのようにうまくはいかないものですね。
とりあえず自分で読んでいて恥ずかしくないくらいまで腕を上げてから出直してきます。ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました!
最終更新:2009年05月02日 00:14