ゆっくりいじめ系355 ゆっくりハンターの生活2

  • 前回のfuku1364.txt『ゆっくりハンターの生活』の続きです。
  • こっちだけでも読めないこともないですが、出来たら前作を見てからご覧になってください。



ゆっくりハンターの生活2

朝よりも多少雲が出てきた昼下がりの午後。
阿求ちゃんとの楽しい昼食を終えた私は、ハンターとしての仕事を再開する。

「ハンターさん、午後はどうするのですか?私は狩りに行きたいです!」

阿求ちゃんが、メイスを高々と構えてそう意気込む。
朝は比較的穏やかな作業だったから、彼女には刺激が足りなかったのかもしれない。
私は、仕事用の手提げカバンを持って彼女に笑いかける。

「ええ、今日の午後は狩りに行くわ。一緒に依頼主のところまで行きましょうね」
「了解です。私のモルゲンで叩き潰して見せます」
「……ずっと気になっていたんだけど、モルゲンってそのメイスのことかな?」

柄の先端に歪な突起を生やした鉄の塊がついているだけという、か細い少女には似合わない無骨なメイス。
鈍い光を輝かせているそれはいかにも禍々しく、今まで殺されたゆっくりたちの怨念がこめられているようだった。
彼女はそのメイスを誇らしげに構えて、うっとりした目でそれを見ている。

「ええ!数々のゆっくりのあんこを吸ってきた、私の自慢のメイスです。
モルゲンステルン(トゲ付きメイス)タイプのものだったので、モルゲンと名づけました」
「阿求ちゃん、張り切るのはいいけど室内でそれ振り回さないでね」
「すみません。でも私の内から出るパッションが止まりません」

無闇に逸る阿求ちゃんをなんとかなだめて、私達は依頼主のところへ向かった。
そこまで行く途中の道で、私の隣を歩きながら持っているメイスをぶんぶんと振り回す少女はひどく危なっかしい。
怪我させないよにしっかりと見ておく必要があるだろう。

「えーっと、……ここかしらね」

私は手に持った依頼書を見て、目的地が目の前にある家で正しいか確認する。
前に何度か依頼が来たので間違いないと思うが、念のためだ。

「おじゃまします。依頼を受けたゆっくりハンターの者ですが、誰かいませんか?」

呼び鈴を鳴らし、入り口でそう言ってから待っていると、すぐに中から男が出てきた。
小太りのおじさんで、顔が油でてかてかと光っていた。
男はしかめっ面のままこちらを見て、そして黙って部屋の奥に目を遣る。
中に入れという合図だ。
私は一度彼にお辞儀をしてから中に入り、阿求ちゃんも私に続いた。

私達は、男によって客間の一角に案内され、用意された席に座った。
案内された部屋は、なにやら賞状やらトロフィーやらが目のつきやすいところに並べてある。
ゆっくり関連のグッズもそこかしこに置かれており、私の口からは素直にかわいいなぁと言う言葉が漏れた。
一方、阿求ちゃんは手をプルプル震わせてそのゆっくりたちを見ていた。

男は終始無言で、こちらと目をあわせようとすらしない。
阿求ちゃんはそんな男の様子を訝しんでいたが、私にとってはもう慣れたものだ。
懐から依頼書を取り出し、仕事の話を始める。

「では、依頼内容の確認をしますね。
私が依頼された仕事は、昼の間にこの畑を荒らしに来るゆっくりたちから作物を防衛すること。
その際に注意することは、絶対にゆっくりたちを殺さない。
ゆっくりに怪我を与えてしまうとしても、必ず最小限にとどめること。
成功報酬は依頼書に明記されている通り、ということで。
以上でよろしいですか?」

阿求ちゃんが私の言葉に驚いたような顔をこちらを見た。
狩りに来た、といっているのにこれだから仕方ないか。
事情を先に説明しとけばよかったな、といまさらながら悔やむ。
まあいまさら悔やんでも後の祭りだ。男が黙ってうなずくのを見て、私は阿求ちゃんをつれて席を立った。

「待て」

部屋の扉に手をかけたとき、男が始めて声を上げた。
やっとか、と私がほっとして男の方に向き直る。

「なんでしょうか?」
「いいか。絶対にゆっくりちゃんたちを虐めたり、殺したりするんじゃないぞ。
彼女達を透明の箱に入れて、無闇に苦しめるるのもいかんからな。
もし私の周りでそんなことをすれば、お前にも彼女らと同じ苦しみを味わわせてやるから覚悟しておけよ」
「ええ、彼女達は、かわいいですからね」

男は私の答えにふん、と鼻を鳴らし、そして特大ゆっくり人形を抱きかかえながらまた目をそらした。

「わかったならそれでいい。私はこの子と戯れているからさっさと出ていけ」

私はそれ以上男に話しかけることは無く、阿求ちゃんを連れて男の家から出た。
阿求ちゃんはずっと怒りを抑えていたらしく、表に出るなり真っ赤な顔をしてブンブンとメイスを振り回した。

「もう!どういうことですかハンターさん!ゆっくりたちを殺すななんて、私がモルゲンを持ってきた意味ないじゃないですか!
それになんですかあのジジイの態度は!そんなにゆっくりが好きなら畑ごとゆっくりに上げればいいじゃないですか!」
「落ち着いて、阿求ちゃん。これには深くないけど事情があるの。それにゆっくりを狩ることに変わりは無いから」

私の言葉に、ようやく彼女の動きが止まる。

「え?今回は追い払うだけじゃないんですか?それに殺害はNGだとあのジジイが………」
「そんな対処の仕方をしても、ゆっくりに効果は無いのは阿求ちゃんも知ってるんじゃないかな?
翌日には忘れてまた来るだろうし。それに、殺害がNGなのはあの人の近場だけよ。
追い払った後追跡して、森の中で殺しても何も言われないわ。むしろ先方もそれを望んでるわ」
「……じゃあなんであのジジイはあんなことを言ったんですか?素直に退治してくれ、と言えばいいじゃないですか」

阿求ちゃんは納得行かないような顔で私にそういった。
正直私もそう思うが、人には事情があるんだから仕方ない。

「実はねぇ……あの人、ゆっくりんピースの会員なのよ。それも結構上の方の」
「はぁ!?あの基地外集団のですか?じゃあなんでゆっくりを殺せなんていうんですか?
あいつらはゆっくりを保護する団体でしょう?」
「ええ、普通の会員さんだったらブリーダーさんに頼むところでしょうけどねぇ。
でもあの人、ゆっくりにお金かけすぎてそんな余裕ないのよ。ブリーダーさんって結構お金かかるから。
かといってそれなりに上のほうの人だから、自分で殺すのも加工所にうっぱらうのも周りの目が許さないし。
ましてやゆっくりに畑を明け渡したりなんかしたら、破産しちゃうわ」
「はぁ……だからお姉さんのところに話がまわってきたと」
「ええ。ハンターは割と安めで仕事を引き受けるものだから、こういう人たちの依頼は良く来るの。
こちらとしても、そういう人種の人たちはほかの人より多くお金出してくれるから万々歳よ」

彼女は私の言葉に心底呆れた様子で、深いため息を吐いていた。
子どもにとっては、こういう大人の複雑な理由は理解できないのだろう。
まあ、私も彼らのことを理解できることなんて一生無いだろうけど。
仕事だからと折り合いを付けているだけだ。

「だったらゆっくりんピース抜ければいいと思うのは私だけでしょうか……」
「私もそう思うけどねぇ。でも、今抜けたらこれまでゆっくりたちに使ってきたお金は無駄だった、と認めるようなものだから出来ないんでしょうけど。
まったく、もっと単純に自分の思うまま生きればいいのにねぇ」

阿求ちゃんはうんうん、と頷きメイスの先で家の壁を小突く。
大きな音は出ないものの、家の壁の塗装が少し削れた。

「ゆっくりを見つけたら何も考えず叩き潰すくらいでいいと思うんですよ私は。
それなのにゆっくりがかわいそうだの保護しようだのとぐちぐちと……やっぱりゆっくりんピースは害悪ですね!」
「こらこら、人の思想に口を出しちゃあ駄目よ?向こうは向こうで考えた末の結果なんだから。
そういうのは心の中だけで考えて、口には出さないものよ?あと壁突くのやめなさい」

阿求ちゃんはまだ納得いっていないようだったが、素直に私の言葉に従ってくれた。
妹がいたらこんな風なのかもしれない、と密かに思った。

「それじゃあ、畑に行こうね。いつゆっくりたちが来るともわからないし」
「そうですね。こんなやつのことは忘れてさっさとゆっくりで遊びましょう!」

彼女はそういうと、私の手を引っ張って畑の方に歩いていく。
彼女はもう待ちきれないと言った様子で、顔は興奮しているせいか少し赤い。
私は転ばないように気をつけながら、そのまま彼女についていった。

「ここが畑ですか……なんとも無防備ですね」

男の家の裏側に回ると、一面に畑が広がっている。
それなりに耕地面積は広く、作物もよく育っているのが見て取れたが、
外側の蔓ごと抜かれていたり、ほんの少しだけかじられた野菜が捨ててあったりとひどく荒らされていた。
ゆっくり対策に作られたのだろうか、木製の柵が畑の周囲に立てられていたが、ところどころ壊されておりもう柵としては機能していなさそうだ。
ゆっくりのことを少しでも調べた農家ならあんなもの役に立たないことぐらいはわかるだろうに。
もしかしたら、ゆっくりんピースには間違った知識が蔓延しているのかもしれない。

「無駄に広いから、ここを守るのは大変ですね……。ハンターさん、どうするんですか?
柵を張りなおしたりしとかないと、危ないのでは」
「そんなめんどくさいことしなくても大丈夫よぉ。一緒に座ってゆっくり待ちましょう?」
「……え?何もしなくていいんですか?」
「別にいいわよ。どうせ今からやったってたいした柵なんか作れないし。
あ、あの雲なんかむくむくしててかわいいわよ?ゆっくりみたいで」

私は地面の上に腰をおろし、柵にもたれながら空に浮かんでいる雲を指差してそういった。
阿求ちゃんはまだなにか言いたそうだったが、私の様子を見てあきらめたのか結局は隣に座って一緒に空を眺めていた。
そこにはやわらかそうな雲が数個浮かんでいて、あそこで寝たら気持ちよさそうだ。
いかにもゆっくりたちが好みそうな場所で、もしかしたらあそこにはゆっくりたちが住んでいるのかもしれない。

そんなことを彼女に言うと、彼女は笑ってそれを否定した。
彼女が言うことには、
崖の上でゆっくりをロープに括り付けたまま降ろしたところ、そのゆっくりはショック死してしまった、という実験結果があるらしい。
だからゆっくりたちは高いところは苦手だと思われ、よってあんな高いところにある雲でゆっくりすることは無理とのこと。

「へぇ~、ゆっくりたちが高いところ苦手だなんて知らなかったなぁ。
阿求ちゃん物知りだね」
「いや、物知りだなんてそんな。ゆっくりに関してはまだ未知な部分が多くて、私にも知らないことなんてたくさんあります」

彼女は俯いて、照れたかのように頬を掻いた。
子どもなのに謙遜までするなんて、将来は大物になるかもじれない。

「……ゆっくりと言えば、ハンターさんはゆっくりが好きなんですよね?」

彼女は再び顔をあげ、思い出したようにそういった。

「うん、そうよ。あのゆっくりの笑顔を見ていると、なんだか心がホンワカしてくるのよねぇ」
「じゃあなんでまたハンターなんかに?農家になれないのわかりましたが、だからってそれじゃなくてもいいじゃないですか。
ブリーダーとか、保護委員になるとか、他にもいろいろあるでしょう」
「それも考えたんだけどねぇ。でも私、殴ってしつけるのはちょっと苦手だし。
一時期頑張ってやってみたこともあったんだけど、私がゆっくりに餌をやったら何故か死んじゃうのよ」
「ああ、あの殺人野菜のことですか……うう、思い出したら気持ち悪くなってしまいました」
「おいしいのにねぇ。だから基本的に保護系は無理だったわ。保護した片っ端から死ぬんだもの。
でもどうしても私はゆっくりにかかわる仕事をしたかったから、ハンターの職に就くことを決めたの」
「……なるほど、納得しました。お姉さんも大変なんですね……あ!」

ちょうど話に区切りがついた時、向こうから小さくて丸い塊が飛び跳ねながらこっちに向かってくるのが見えた。
言わずもがな、ゆっくりだ。
見たところ全部まりさ種のようである。

「まりさたちのゆっくりごはんをとろうね!あそこのおやさいはとってもおいしいよ!」
「ゆゆ!?にんげんたちがいるよ!だいじょうぶなの?」
「だいじょうぶだよ!ここのいえのにんげんはまりさのかわいさにめろめろだから、なにもしてこないよ!」

以前来たときに相当甘やかされたのだろう、随分な言い草である。
こうなっては言葉で止めるのはもう無理だ。なにを言ってもここはまりさのものだからさっさと出てけと言われるだけ。
それを知っていたのだろう、阿求ちゃんがメイスを構えて攻撃体制をとる。

「かかって来なさい!みんなまとめて叩き潰してあげますよ!」

メイス片手に突撃しようとする阿求ちゃんの襟を、私は慌てて掴んだ。

「ぐぇ!な、なにするんですか!?」
「駄目だよ阿求ちゃん。そんなので攻撃したらゆっくりたち死んじゃうよ」
「じゃあどうするんですか!ああもうどんどん迫ってきてます!」

私はふてぶてしくにやりと笑うと、手提げかばんの中から銀色に光る"それ"を取り出した。
太陽の光を反射してまぶしく輝くそれは――

「じゃじゃーん!銀のナイフー!」

それは刃渡り十五センチほどの狩猟用ナイフで、私が狩りのときに良く愛用するものだった。
狩りのとき以外にも、料理のときに使ったり、収穫のときに使ったりと、私にとっては生活の必需品となっている。

「ってそんなの見ればわかりますよ!ナイフなんて使ったらやっぱりゆっくりは死んじゃないですか!」
「モノは使いようよぉ?ちょっと見てなさい」

私は突撃してくるゆっくりに向かって、思い切りナイフを投げた。
そのナイフはほぼ直線に近い軌道を描き、ゆっくりにの顔に直撃――せずに、ゆっくりのかぶる帽子を射抜いた。

「ゆゆ!?まりさのぼうしが!」

ナイフは帽子に刺さっても勢いをとどめることは無く、そのまま帽子ごと地面に突き刺さる。
慌てて帽子を取られたゆっくりが拾おうとするも、ゆっくりではナイフを抜くなんて器用なことは出来ない。
泣きながら帽子の周りを飛び跳ねるだけだ。

「す、すごい…。こんな方法があったんですね!」
「まあ、リボンとかだと結構大変なんだけどねぇ。今回はまりさ種ばっかりだから楽に済みそうだわー。
エイ、タァ、ドウリャー、トゥー、ワーワー」

私は投げる毎に気合の言葉を発しながら、突撃してくるゆっくりたちの帽子をひとつ残らず地面に縫い付けていく。
前方の惨状を見て逃げようとするゆっくりにも、きっちりナイフを投げておく。逃げられたら厄介だ。
十五匹ほどの帽子を縫い付け、防衛戦は終了した。

「うーん、あんまりいなかったわねぇ」
「結構いるように見えますが…これで少ない方なんですか?」
「これだけ畑が広いと、コミュニティ全体で来ることもあるからねぇ。
違う畑では百匹近くのゆっくりが襲ってきたこともあったっけ。今回みたいに制限は無かったけど、さすがに危なかったわぁ」

あの時は仕事中に周りの農家たちも応援に来て、さながら闘技場のようになっていたっけなぁ。
あんこまみれになった畑の周りを、みんなで仲良く掃除したのはいい思い出だ。
今回は規模が規模だし、ここの住人自体もあまり評判がよろしくないので観客は阿求ちゃんしかいないけれど、
見られることを意識するといつも以上に頑張ろうという意欲がわくものだ。

「で、どうするんですか?あれ」
「そうねぇ。まりさたちにはちょっと聞きたい事があるから、阿求ちゃんはそこでちょっと待っててくれないかしら」

阿求ちゃんが目の前の自分の帽子の前で泣き叫んでいるゆっくりたちに指を向ける。
私は彼女をそこに残し、リーダー格と思われる、一番大きいサイズのゆっくりまりさに近寄った。

「ちょっといいかな?」

呼びかけられたゆっくりまりさが、涙やらよだれやらでぐちょぐちょとなった顔をこちらに向けた。

「お゛ね゛え゛さ゛ぁ゛ぁぁぁん!!ま゛り゛さ゛のぼうし゛と゛って゛ぇ゛ぇぇぇ!!」
「いいよ。はい、これでいいかな?」

私はそのまりさが言うように、地面からナイフを引き抜いて帽子を取ってあげた。
そして私の胸の前でそれを抱えるようにして持つ。

「おねえさんありがとう!それはまりさのぼうしだから、さっさとかえしてね!」

先ほどまでの泣き顔はどこへやら、まりさはいつものふてぶてしい顔をして私から帽子をとろうと飛び跳ねている。
たぶんさっきのは嘘泣きだったのだろう。
泣けばここの住人は馬鹿だから助けてくれる、なんて計略があったに違いない。
確かにそれは有効である。昨日までならば。
あのゆっくりんピースのおじさんの金と共に、このゆっくりたちの命運も尽きてしまった。

「じゃあ、私の質問にちょっと答えてくるかな?」

私はなるだけやさしい口調でそういった。
本当はもっと厳しく言った方がいいのだろうけど、やはりいきなりそんなことをするのも気がひける。
ゆっくりまりさは私が下手に出ている様子にこいつも自分に優しい人間だと思ったのだろう、
体を一回り大きくして見下すようにこちらを見ている。

「そんなことよりまりさのぼうしさっさとかえしてね!のろまはきらいだよ!」

案の定付け上がってしまった。
仕方がない、気は進まないけどこちらも少しだけ強硬姿勢を見せなければいけないか。
私は帽子をしっかりと抱え、ゆっくりまりさに取られないように注意しつつ、ナイフでほんの少しだけ帽子に切れ目を入れた。
自分の帽子がさらに傷を付けられていく様子を見て、ゆっくりまりさは慌てふためく。

「おねえさんへんなことはよしてね!まりさのだいじなぼうしにきずつけちゃだめだよ!」
「ごめんね?私も仕事だから。本当はこんなことしなくないのだけれど」
「だったらさっさとかえしてね!」
「じゃあ私の質問に答えてくれる?」

言外に答えなかったら帽子を引き裂くぞ、と言う脅しのニュアンスを含みつつ、私はゆっくりまりさに迫る。
ゆっくりまりさは下に見ていた人間に思わぬしっぺ返しをくらって心底悔しそうだったが、
自分の大事な帽子には変えられないのか、観念したかのように動きを止める。

「わかったよ!こたえるからさっさとしつもんしてね!」
「ふふっ。じゃあ聞かせてもらおうかしら。
あなた、ほかに仲間はいる?ここの畑を他のゆっくりに知らせたかしら?」

私が問うたのは相手の戦力の規模。
このゆっくりたちを処分するならばここから離れねばならない。その間、この畑は無防備になってしまう。
もしまだいるならばこのゆっくりたちは、このままここに縫い止めておかねばならない。
まったく、捕獲用の箱くらい使わしてくれてもよかろうに。
だが、私のそんな心配を知ってかしらずか、ゆっくりまりさの答えは私にとって理想的なものだった。

「なかまはいないよ!ここにいるみんなでぜんぶだよ!それにほかのゆっくりにもいってないよ!
ここはまいさたちだけのゆっくりぷれいすだからね!」
「ありがとう。でも嘘はついちゃだめよ?そうしたら私にとってもあなたにとっても悲しいことになるわ」
「うそなんかついてないよ!まりさはしょうじきものだからしんらいしてくれていいよ!」

一応念を入れて探りを入れてみるも、ゆっくりまりさに嘘をついている様子は見受けられない。
まりさ種特有の強欲さから考えても、その話は信憑性に足るものだと思われた。
私の目標は、このゆっくりまりさだけとなった。

「おねえさん、おしえたんだからさっさとぼうしかえしてね!」
「ああ、ごめんなさい。今返すわ。でもその前に、私からもあなた達に教えたいことがあるの。
あなた達がゆっくりできるかどうかに関わる、とても大事なことなんだけど。聞いてくれる?」
「まりさはゆっくりしたいんだぜ!おねえさん、ゆっくりしないではやくおしえてね!」

ゆっくりできない、と言う言葉に本能的に恐怖を覚えたのだろうか、ゆっくりまりさが帽子のことも忘れて私の情報をせがんでいる。
私はまりさを安心させるように微笑むと、畑の方にいる阿求ちゃんを指差した。

「ねぇ、あの女の子って誰だかわかる?」
「ゆ?あんなひょろいやつなんてしらないよ!」

ゆっくりたちから見れば、彼女はそんな風に映るらしい。
私としては、線が細く、そのすらっとした体のラインはうらやましいものであるのだが。
私はこんな職業柄、どうしても少し筋肉質な体になってしまうからだ。
今度、どうやってあんな主そうなメイスを振り回すパワーを持ちながらそんな体型を維持できるのか、じっくりと聞いてみたいものである。
……いけない、思考が脱線した。今は仕事に集中しないと。

「あの子はね、実はあなた達を捕まえに来た加工所の人なの」
「ゆゆ!?おねえさんそれほんとう!?」
「ええ、もちろんよ。彼女の持っているものが見えるでしょう?あれは、あなた達を捕まえるための道具なの」

実際は、あれは捕まえるものではなく殺すためのもの。それでも、ゆっくりたちにとって脅威であるものには変わりないのだが。
ゆっくりまりさはとりあえずあれの危険性についてはわかったのか、私に隠れながら、おびえた表情で向こうを見る。

「でも、心配しなくても大丈夫よ?あの子はあなた達が近づかない限り、何もしないから。
だから、今日はおとなしく森に帰ったほうがいいんじゃないかしら?」
「で、でもそうしたらまりさたちごはんたべられないよ!」
「それは仕方がないわ。たべものより命の方が大事でしょう?
どうしても行きたいっていうんなら止めはしないけど、私はあの子からあなた達を守れるほど強くないわ」

阿求ちゃんのいる畑を見やって、ゆっくりまりさは考え込んでしまった。
お野菜は食べたいが、そこに立ちはだかるのはこわいもの構えて仁王立ちする人間。
この人数でかかればいくらかはあれを抜けられるかもしれない。だが、確実に私達の大半はゆっくりできなくなる。でも私じゃないかもしれない。
運がよくて私だけはおいしい野菜を食べながらゆっくりできるかもしれない。
どうしよう、怖いけど、お野菜は食べたい。あれはとてもおいしい。
おいしいものを食べたいと言う欲求と、死への恐怖と、もしかしたらという希望。
ゆっくりまりさの中で葛藤が渦巻いた。
ゆっくりまりさは考えに考え抜いた末、私に向かってこういった。

「おねえさん!まりさたちきょうはかえるよ!あしたあそこでゆっくりすればいいからね!」

勝ったのは死への恐怖。やはりあのメイスと、何より彼女が怖かったのだろう。
結構離れた私の場所でも、阿求ちゃんのゆっくりへの殺気がありありと感じられる。
ゆっくりまりさもそれを感じ取ったのだろう。
そうでもなければ、本能に従順なゆっくりが簡単に食への欲求を止められるものか。
私は彼女の殺気の波動から守るようにゆっくりまりさの前に屈みこんで、持っていた帽子をかぶせてやる。

「そう。命を大事にしてくれて嬉しいわ。早くみんなを連れてここから逃げてね」
「うん!おねえさんありがとう!みんなにおしえてくるね!」

ゆっくりまりさは勇んで他のゆっくり達に近づいていき――そして泣きそうな顔でまた私のところに戻ってきた。

「おねえさん!ほかのまりさたちのぼうしもとってあげてねぇぇぇぇ!!」

そういえば、まだ刺さったまんまなんだっけ。
私は地面に縫いとめられている帽子を回収し、それぞれのゆっくりまりさに被せてやる。
ゆっくりまりさたちは泣きながら私に礼をし、後ろでさっきを撒き散らす阿求ちゃんをみて恐れおののいて、そして帰っていった。
私はゆっくりたちがこちらを気にしなくなるほど離れてから、後ろにいる阿求ちゃんを呼び寄せる。

「すごいですね。どうやってあのゆっくりたちを説得したんですか?
合い辛そう簡単に畑を諦めるようなやつらじゃないのに」
「ふふっ。阿求ちゃんのおかげよぉ。
じゃあ他のゆっくりたちもいないようだから、後を付けていきましょうか。
待望の狩りの時間よ」

彼女は自分のおかげとはどういうことかと首をひねっていたようだが、
ゆっくりが狩れる聞いて俄然やる気を出したようだ。

「ほんとですか!ついにあいつらをつぶすときが来たのですね!」
「まあ、人目のつかないところまで尾行してからだけどねぇ。
ここで見失ってしまったらことだから、静かに、そして慎重に行きましょう?」

私は興奮する阿求ちゃんの唇に人差し指を押し当て、にこりと笑った。
彼女は了解です、とおでこに手をやって敬礼のポーズを取る。
まあ、ゆっくりたちは鈍感だからばれることは万が一程度しかないだろうが、念には念をだ。

そうして私達はゆっくりまりさたちの尾行を開始し、十数分後、彼女達の巣と思われる森の一角についた。
そこにはそのゆっくりまりさのほかにも、彼女の子ども達と思われる子ゆっくりもいた。

「おおー、いっぱいいますねー。もう我慢しなくてもいいんですよね?」

阿求ちゃんがメイスを構えて、満面の笑みで私の許可を請う。
私もナイフを構え、頷いた。

「いいわよ。ただ、向こうにいるリーダー格のゆっくりまりさは私に預からせてね?」
「わかりました!では行ってきます!」

彼女は弾丸のごとく疾走し、一直線にゆっくりに突撃する。
いきなりの奇襲に驚いたゆっくりは、すばやく反応することが出来ない。

「はぁーーーーっ!滅殺!」
「ゆべっ!?」
「びいっ!」
「ゆぐぅぅぅ!?」
「い゛ぃ゛ぃぃぃ!!」

彼女がメイスを振り回し、その暴風雨のような一撃に巻き込まれたゆっくりたちが内蔵物を撒き散らす。
ほんと、どこにあんな力があるのだろう。そう疑問に思いつつ、私は逃げようとするゆっくりを私がナイフを投げて縫いとめる。
今度は、帽子じゃなく本体を直接狙う。

「いだいよぉぉぉぉ!!」
「ゆぅぅぅ!!にげたいのにうごけないぃぃぃぃ!」

ナイフが刺さったごときでは致命傷には至らないが、それでもゆっくりたちの動きを止めることはできる。
動きさえ止めてしまえば、もう逃げられる心配は無い。後は阿求ちゃんに任せておけば大丈夫だろう。
私はそれを放置して、阿求ちゃんのメイスに当たらないように気を付けつつ、
目の前の惨状に呆然としているリーダー格のまりさに近寄った。
向こうも私を認識したようで、怒ったような顔で私に抗議の声を上げる。

「おねえさん、これどういうこと!!まりさたちをだましたの!!」
「ごめんね?これも仕事なの。あなた達には後で話があるから、とりあえずそこで待っててね?」

私はそのゆっくりまりさと、取り巻きにいた数匹のまりさをナイフで刺して動けないようにしておく。
ゆっくりまりさたちは体中を走る激痛に悲鳴を上げているが、私はそれを無視して阿求ちゃんのほうに向かう。

彼女のほうはあらかた片付いたようで、そこらじゅうにあんこが飛び散っている。
彼女も服をあんこだらけにしながら、恍惚の表情を浮かべてそこに佇んでいた。

「あらあら、もう終わっちゃったの?手伝おうと思ったのに」
「ああ、ハンターさん。本当はもう少しゆっくりいたぶろうかとも思ったんですが、一日中我慢していたせいで制御が利かなくて…」
「早いに越したことはないから私としては別にいいけどねぇ。って、あら?まだあそこに残っているわよ?」

そこには、あんこに埋もれていた一匹の子まりさがいた。
阿求ちゃんがまき散らかしたあんこが体中に飛んできて、運よくそれが擬態として働いたのだろう。

「ゆゆ!もうだれものこってなんかいないよ!ぜんめつしちゃったんだからゆっくりかえってね!」

自分を見つけられて焦ったのか、ゆっくりまりさが声を張り上げてそういった。
そんなことしても逆効果なのだが、ゆっくりだから仕方がない。
阿求ちゃんが頬を吊り上げながら、声のしたほうに近づいていく。

「そうですか、やっと全滅しましたか」
「そうだよ!もうだれもいないからゆっくりさっさとかえってね!」
「でもちょっと疲れましたから、ここで一休みしましょうか」

彼女は近くにあった木の根元に座り込み、隠れている子まりさの上に先端がのしかかるように、自分の持っているメイスを置いた。

「ゆぐっ!?お、おもいよ!とげがささっていたいよ!おねえさんはやくこれをどけてね!」
「おかしいですね~、全滅したはずなのにどこかからゆっくりの声が聞こえます。
幽霊でしょうかねぇ?おお、こわいこわい」

彼女はわざと子まりさと視線が合わないようにしつつ、そううそぶいた。
メイスを乗っけられた子まりさは必死に抗議の声を上げる。

「ゆゆ!ぜんめつなんかしてないよ!まりさがここにいるよ!だからさっさとこれをどけてね!」
「ええ?全滅なのではなかったのですか?でもどこにいるのでしょう。皆目見当もつきません」

彼女は周囲を探すように歩き回り、時折メイスの力を軽く踏んで子まりさの負荷を増加させる。

「いだいぃぃぃ!ふまないでね!これいじょうされたらまりさつぶれちゃうよ!」
「あらごめんなさい。でもあなたがどこにいるのか探さないと・・・ここかしら?」

そういってさっきより強くメイスの柄を踏む。

「ひぎっ!それいじょうはやめでねぇぇぇ!!あんこがでちゃうよぉぉぉぉ!!」
「あは、あはははっ!やっぱり見つからないですねぇ。ここですか?それともここ?ここかもしれませんねぇ」

彼女は興奮で顔を赤く染めながら、何度も、何度もメイスを踏む。
踏まれるたびに子まりさはビクン、ビクンと痙攣し、中のあんこをひねり出して行く。

「ああ、やっぱりたまらない!もっと、もっと聞かせてください!」
「ゆべっ!や、やべっ!!こべっ!もぶっ!だべっ!」

彼女は狂ったように笑いながら、汗が滴り落ちて妖しく光る足を上下に動かす。
子まりさはポンプのように、踏まれるたびに口から悲鳴を上げる。
そしてその声はだんだんと弱くなり、そして中のあんこがすべて飛び出ると同時にその声も聞こえなくなった。

「もう終わりですか?子どもは耐久力がないのが難点ですねー。
悲鳴は成体よりも良いのですけど」
「あらあら、あれだけ愉しんでたのに辛口ねぇ。
でもとりあえずこちらは終わったようだから、ちょっと来てくれるかしら?」

私は彼女を連れて、先ほど動けなくしておいたまりさ達の元へ向かう。
やはりまだ動けないようで、目の前の惨状に震えながらもそこから逃げられないでいた。

「お、おねえさん!まりさをたすけてね!まりさしにたくないよ!
ほかのまりさたちはしなせてもいいから、まりさだけはにがしてね!」

リーダー格のまりさが私を見るなり他のやつらを見捨てて命乞いをする。
他のゆっくりまりさが慌てて自分も、自分もと命乞いを始める。

「自分だけ助かろうとは見下げた根性ですね。ハンターさん、殺しちゃっていいですか?」
「だめよぉ。この子達はみんな逃がしてあげるんだから」

私のその言葉に阿求ちゃん絶句し、ゆっくりたちは歓喜の声を上げる。

「おねえさんありがとう!まりさをゆっくりにがしてね!」
「ああ、でも私も仕事だから、ただで逃がすわけにも行かないのよ。
あなた達もう顔が割れてるから、万が一あのおじさんにあなた達のことを見つけられたら困ることになるわ」
「……ゆっくりなんて見分けつかない気がしますけど」
「あら、ゆっくりんピース舐めちゃだめよ?彼らはゆっくりたちの顔のわずかな違いでその個体を識別できるんだから」

ゆっくりたちは確かに似ているが、個々で微妙に違ってたりする。
目つき、口元、眉毛の凛々しさなど、ゆっくりんピースやブリーダーはそれを見て区別することができる。

「じゃあどうするんですか?やっぱり殺すしかないじゃないですか」
「そんなこともないのよ?ちょっと見ててね…えいっ」

私はナイフを使って、ゆっくりまりさの右目の部分だけを綺麗に刈り取る。

「ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!まりさのめがぁぁぁぁぁぁ!!」
「ごめんね?痛いだろうけど暴れちゃ駄目よ?すぐ済むから我慢してね」

私は隣のまりさも同様に同じ部分を刈り取り、それを最初に切ったゆっくりまりさの目にくっつける。
同様に先に刈り取った右目も、今切ったゆっくりまりさの目に引っ付けて、傷口をふさぐ。
これで、二匹のゆっくりまりさの右目は交換された。

「どう?これならばれなくなるでしょう?」
「はぁ、パーツの交換ですか…良く考えますねこんなの」
「ありがとう、ほめ言葉として受け取っておくわ。
まあさすがにこれだけじゃばれちゃうから、もっと色々やるんだけど」

私は再びナイフをゆっくりたちに向ける。
ゆっくりまりさたちはこれから来る痛みから逃げようとするが、体に刺さるナイフがそれを許さない。
私はそんなゆっくりたちを安心させるために、優しく微笑んであげた。

「ちょっと痛いだけだから、我慢してね?これが終わったらみんな逃がしてあげるから」

ゆっくりまりさたちは悲鳴を上げているが、私は無視してナイフで顔のパーツを切り取っていく。
その悲鳴に罪悪感が心の中でもたげたが、ゆっくりたちを生かすためなのだから、と私はそれを押さえ込んで作業を続けた。

ゆっくりたちの麻酔なしの整形手術は、一時間後にようやく終わった。

「はーい、終わったよー。みんな、良く頑張ったね」

私は痛みに耐えかねて気絶しているゆっくりたちを起こし、ナイフを抜いて野に放ってやる。
ゆっくりまりさたちはまだ痛みが抜け切っていないようだったが、それでも体に鞭打って私の元から離れていった。
そのときに私になにか言おうとしていたが、交換したばかりだったせいか口が動かなかったようで、結局そのまま何も言わず去っていった。
お礼なんて、別にいいのに。

ゆっくりまりさたちを見送りながら、阿求ちゃんが私に質問をした。

「ハンターさん、なんであんなめんどくさい事をしたんですか?やっぱり殺したくないからですか?」
「もちろんそれもあるわ。でも、あの子達明日になったら私達のことなんてすっかり忘れて、いつか群れをなしてまたあのおじさんの畑襲うと思わない?」
「まあ、ゆっくりの習性上そうなってもおかしくは……って、まさか」
「大事な収入源は、できるだけ手放したくないものよねぇ」

私達はその後依頼人の男のところにいき、ゆっくりたちを追い払ったとだけ報告してお金を受け取った。
彼は自分の畑を襲うゆっくりたちが死んだのだと喜びを隠せずにいたが、
阿求ちゃんはそんな彼を哀れむように見ていた。
男は阿求ちゃんの様子に気づくこともなく、上機嫌のまま私達を見送るために玄関まで来ていた。
私は大事な顧客である彼にしっかりとお辞儀をして、そしてこう言った。

「また、何かあったらよろしくお願いしますね」


終わり


読んでくださった人に感謝の念をこめて。
本当に、本当にありがとうございました。


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最終更新:2008年09月14日 06:01
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