「ゆっくりしていってね!!!」
写生にでも行こうとし、準備を終えて玄関を出ると
家の軒先に一匹のゆっくりまりさが居た。
両手で簡単に抱えられる大きさだ。まだ子ゆっくりなのだろう。
こんな人の住むところに居るのは非常に珍しい。おそらくは遊びか狩りに夢中になって
ここいらまで来たのだろう。
「ゆっくりしていってね。」
「ゆぅー!」
こちらの挨拶に対して、顔をあげ返事を返す。
こちらをニコニコと見上げ、実に楽しそうな顔をしている。
もしかして私と一緒にゆっくりしたいのだろうか?
「とってもあついね!」
「ああ、そうだね。」
よくみればまりさの体からはじんわりと汗のようなものが流れていた。
試しに手にとって舐めてみると砂糖水だった。ゆっくりはやはりよくわからない。
ただ、まりさもこの蒸し暑い熱気に参っているのだけはわかった。もしかしたら涼を求めて
ここまで来たのかもしれない。山の方が涼しいと思うのだが。
そうなると、まりさに冷たくてゆっくりできる場所を与えるのもいいのかもしれない。
「なあまりさ? 私の家でゆっくりしようか?とってもひんやりできるぞ?」
「ゆっ、ゆっくりー♪」
反応は上々と言ったところか。
まりさは私の言葉に何度も垂直に飛び跳ねて嬉しさをアピールしている。
ぴょこんぴょこんと何度も跳ねる姿は可愛らしい。
「それじゃあ、一緒に行こうか。」
「ゆっくりついてくよ!」
私はなるべくまりさの速度に合わせるように家へ向けて進み始めた。
「それじゃあ、まずは何か食べようか。」
そういって、私は台所の棚から来客用のクッキーを皿に分けてまりさの前に置いた。
テーブルの上に置かれたまりさは、そのクッキーを目をキラキラさせながら見ている。
「たべていいの?」
「ああいいとも。」
「ゆっくりー♪」
大きく口をあけてクッキーを頬張るまりさ。
むしゃむしゃと喋りながら、不思議とあまりクッキーをまき散らさないのはゆっくり特有の何かなのだろうか?
そんな事を考えていると、まりさはどうやらクッキーを食べ終わったらしい。
「しあわせー♪」
と実に幸せそうな笑顔でそんなことを言った。
「おにいさんありがとう! いっしょにゆっくりしようね!!!」
お礼まで言われてしまった。
さて、まりさがゆっくりと食事を楽しんでる間に、私はある物を用意した。
とても冷たいものだ。
「まりさ?ちょっとこの中に入ってくれないか?今日はこれでゆっくりしよう。」
まりさを手招きする。まりさはお腹がいっぱいなのか、先ほどよりスローな動きでこちらに近づいてくる。
何分テーブルの上なので落ちやしないかとひやひやしたが、そんなこともなくまりさはこちらにやってきた。
「ゆっくり! ゆっくり!」
「さあ、どうぞ。」
私はまりさを両手で優しく掴むと、そのまま"それ"の中に入れた。
大きさに不安があったが、どうやら丁度いいようだ。
「どうだいまりさ?」
「ひんやりー! とってもゆっくりしてるよ!」
評判は上々のようだ。安心した。
まりさが入った場所は、何の変哲もない小さめのクーラーボックスである。
クーラーボックスであるということは、ここには氷を入れるべきだ。
無論入れるつもりである。
「まりさ、ひんやりして気持ちいいかい?」
「ゆっくりー!」
「そうか。それじゃあもっとひんやりしようか。」
そういって私は冷凍室にあった氷を大量にクーラーボックスに入れ始めた。
がつがつと角ばった氷が入っていく。まりさが暴れないように頭を押さえるのを忘れない。
「ゆ! やめでね! いだいよ! ゆっくりできないよぉー!」
氷は勢いよく入っていく。まりさに直接当たらないように周りに入れているので
まりさが怪我をする心配はない。
そろそろまりさの口の部分にまで氷が入ってきたようだ。
「や゛じゃ゛! や゛べでぇ゛! づべだびぃ゛!」
喋るたびに氷が口の中に入るせいで上手く喋れないのだろう。
構わず氷を投下する。まりさの帽子の中に入れるのも忘れない。
「ゆ゛う゛ぅ゛う゛ぅ゛!!!」
ははは、もう目もとが完全に氷で埋まってしまった。
これじゃあ、目も開けられないだろう。
このまま放置すればどうなるか考えるまでもない。
だが、私の目的はまりさにゆっくりしてもらうことだ。
「お野菜さんも冷やしておくから、むしゃむしゃしてゆっくりしようね?」
そういって野菜をまりさの目の前の氷の山の中に仕込んでいく。
「ゆ゛ぐぅ゛……ゆ゛っぐじじよ゛う゛よ゛ぉ゛……」
さて、これくらいでいいだろうか。
ついでだ。缶ジュースでも入れておこう。
そして、私はクーラーボックスの蓋をゆっくりとしめた。
「ゆ゛ぅ゛ー! ゆ゛う゛ー!」
最早何を言ってるのかわからない。
まあゆっくりしてるからいいか。
このクーラーボックスには車輪が付いている。持ち運びがとても楽だ。
キャリーバックのように引っ張ると、私は近くの丘に向けて歩きだした。
この丘は私のお気に入りだ。
絵が趣味の私はここで暇な時に絵に興じている。
四季折々で変化する街並みが見れるここは昔から通い詰めているが未だに飽きた事がない。
それにしても流石に夏だ。喉が渇く。
かれこれ5時間ほどここにいるせいか、汗も服に沁みべったりとしている。暑さ対策はしたつもりなのだが。
今私はとてもゆっくりしている。
隣のまりさも今はとてもゆっくりしている。
来た時はあれほど揺れたクーラーボックスが今は静かだ。
ああ、それにしても喉が乾いた。何か飲もうか。
お茶請けもあるのだし。
【あとがき】
改行減らすべきかどうか……
どうしよう。
最終更新:2019年11月20日 16:11