ここはゆっくり実験室。
 月の頭脳、八意永琳のゆっくり実験が、今日もゆっくりと行われるのだ。



 と言いたいところだが、今日はちょっと事情が違った。
 昼過ぎ、永遠亭の永琳の元へ訪れたのは、里の守護者上白沢慧音と、台車に載せられ縄で縛り付けられたやたらでかいゆっくりまりさだった。
 でかい。
 とにかくでかい。
 直径は2メートルを優に超えている。内包する餡子の総量はいかほどであろうか。男五人で台車を引いてきたことから、並大抵のものではないだろう。
「ゆっ、ゆぐっ、ゆぐっりざぜでぇえええ」
 声もでかかった。縛られているせいか上手く喋れないようだが、それでもびりびりと空気が振動するほどだった。
「これはまた、巨大ゆっくりとは珍しい。今日の用向きは、つまりこれのことで?」
「うむ。実は──」
 神妙な面持ちで慧音は話し始めた。
 最近、里の近くに巨大なゆっくりが近づいてきているらしい。
 ごくまれに見かける巨大ゆっくりだが、その巨体さゆえあまり動くことはできず、しかも大量の餌を必要とする。
 そのため普段は人が立ち入らず、餌が豊富な山奥に住んでいるのだが、昨日の早朝、この巨大まりさが発見された。
 もしやと思って村の男衆が辺りを調べてみると、その他にも四匹の巨大ゆっくりまりさが見つかったのだという。
 恐らく食料を求めて山を降りてきているのだろう。一週間前の土砂崩れで、餌場を喪ったものと推測された。
 進路上には里の畑があり、このまま放っておけば甚大な被害が出ることは火を見るより明らかである。
 おそらくは明日の夜にでも里まで到達するだろう。
 その前にどうにか駆除なり撃退なりしたい──というのが慧音の願いであった。
「あなたがやればいいじゃない。別に巨大ゆっくり如き、空から弾幕でも張れば」
「うぅむ、そこが悩みどころなのだが」
 どうにも、その巨大まりさの群れには、取り巻きのゆっくりがたくさんいるらしい。
 また、山奥にあとどれほどの巨大ゆっくりがいるのかも分からない。
 慧音がゆっくりを駆除したところで、取り巻きに顔を覚えられ、それが里に住む自分であると知られれば、一族総出で復讐に来ることも考えられた。
「つまり後腐れなく、しかも村が恨まれるようなこともない方法を考えて欲しい、と」
「その通りだ。無茶な頼みとは分かっているが、どうにかならないものだろうか」
 うむむ、と永琳は思考を巡らせた。
「思いついたわ」
「早っ」
 だがそこは天才、ものの五秒で妙案を打ち出した。
 早速、弟子の鈴仙を呼び寄せて巨大まりさを地下研究所に運び込むと、作業を開始した。



 その作業には慧音も付き合うことになった。といっても見ているだけだが。
「ゆっ! ゆっぐりはなじでね! まりざごはんたべにいぎだいんだがらね!」
 地面に固定されながらも、ぶよんぶよんと身体を揺らしながら主張する巨大まりさ。自分の立場がわかっていないようである。
「うーん、予想以上にたるんでるわね。大きくなるとみんなこうなのかしら」
「まりざはたるんでなんがいないよ! びゅーぢふるぼでぃーだよ!」
「はいはいゆっくりゆっくり」
「師匠、どうぞ」
 まともに取り合っても疲れるだけだ。永琳は適当に返しつつ、鈴仙から渡された巨大な注射器をまりさに打ち込んだ。
「ゆべっ!?」
 まりさは、自分の身に起きた異常にすぐさま気づいたらしい。大きいものほど鈍感だというがあれは嘘だったのか。
 嘘なのだろう。現に永琳の胸についているけしからんものも、輝夜や鈴仙の手にかかれば……
「……何かすごくピンク色の気配を感じたけど、無視することにするわ」
 永琳が打ち込んだのは餡硬化剤である。ゆっくりの餡子から水分を奪い、ほとんど砂糖同然の固形物にしてしまう代物だ。
 今回はそれを薄めて使用している。今回投与した量だと、ゆっくりの餡子には程よい弾力が出来る程度だ。
 そしてそれが今回は極めて重要であった。
「うっ、うごけないよ! おねぇさんなにしたのぉ!?」
 まりさが喚くが当然無視。そこに、いつの間にか部屋を出ていた鈴仙が普通のゆっくりまりさを連れてきた。
 全部成体であり、そして、全部口が縫い付けられていた。その数九匹。
「よろしい。では次のものを」
「はい」
 指令を受け、鈴仙が再び部屋を出る。
 永琳は何かを訴えてくるようなまりさを持ち上げると、台の上にうつぶせに寝かせ、後頭部の皮をすっぱりと切り取ってしまった。
「やべでぇぇぇぇぇ!!! まりざのながばになにずるのぉぉぉぉぉ!??!」
「ああうるさい。施術中は静かになさい」
 永琳がさっと腕を振ると途端、巨大まりさは静かになった。口がぱくぱく動いているが、声は全く聞こえない。防音の結界を張ったのだ。
「ふむ、してどうする気だ? この普通のゆっくり達は」
 ずっと経過を見守っていた慧音が疑問を口にした。
「うーん、まぁおまけみたいなものなんだけど、盾くらいにはなるかなって」
 と、永琳はそのゆっくりの餡子に直接餡硬化剤(濃い目)を投与し、巨大ゆっくりに近づいた。
「おっと」
 しっかり耳栓をする。防音結界も、その結界の中に入ってしまえば意味はない。
 結界に入った途端、すさまじい怒声が永琳を出迎えた。
「ゆ゛ぅぅぅぅぅぅっ!!! じねっ!!! まりざだぢをいじめるわるいおばざんはじねっ!!!」
「あら酷い。私永遠の十七歳なのに」
 十七歳かはさておき、見た目的に若い永琳に対して失礼甚だしいことである。そう、僕らの永琳はいつだって少女臭。どこかのスキマと一緒にしな
「……何かすごくピンク色の気配をまた感じたけど、すぐに消えちゃったわね」
 ぼやきつつ、永琳はすぱっとナイフを閃かせた。
「ゆ?」
 その手並みが鮮やかすぎて、巨大まりさは、一瞬自分の身に何が起きたかわからなかった。
 だが目の前に垂れ下がってきたモノと、そして額に感じる冷たさから、ようやく事態を飲み込んだ。
「ゆ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅ!?!?!?」
 まりさの額にはぽっかりと穴が開き、中の餡子を覗かせていた。
 その穴に、永琳は後頭部の皮を切り取ったまりさを突っ込む。
「ぶぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
 巨大まりさが叫ぶ。口を縫われた普通のゆっくりは何も言えず、ただがくがくと身を痙攣させていた。
 そんな様子にも構わず、永琳は慣れた手つきで普通のゆっくりと巨大ゆっくりの接合面を縫い付けていった。
 それを繰り返すこと八度。
 巨大まりさの額の円周上には、見事、普通のゆっくりの顔が埋め込まれていた。
 埋め込まれたゆっくり達はどれも苦悶の表情を浮かべ、しかし、それぞれがちゃんと生きている。
 九回も頭をくり貫かれた巨大まりさは息も絶え絶えだが、こちらも死ぬような様子はない。
「これは……まさか……」
 慧音は何かに気づいたようだった。永琳はその様子にニヤリと笑みを浮かべた。
「師匠、連れてきました」
「うー?」
 戻ってきた鈴仙が伴っていたのは、ゆっくりふらんだった。それも成体──胴付きである。
 ふらんは興味深そうに巨大まりさを見ている。
 普段ならすぐにかぶりついてもおかしくないところだが、さっき食事をしたばかりのため、食欲は沸かないらしい。
 慧音が驚く。
「ここではふらんまで飼育しているのか」
「れみりゃもいるわよ。まぁそっちはもう研究し尽くしちゃったし、どうでもいいのだけれども。
 その点ふらんはまだ分かってないことも多くてね、興味深い研究対象だわ」
 答えつつ、永琳はふわりと浮き上がる。
 巨大まりさの頭上に立つと、その帽子を蹴り飛ばし、まりさが抗議をあげる前に、その頭頂部に包丁をつきたてた。
「ゆっ! ぎっ! ぶべっ!」
「流石に厚いわねぇ。しかもマズそう」
 そのまま、鋸でも引くように、円形に頭の皮を切り取った。出来た穴は、ちょうど子供一人がすっぽり納まる程度の大きさである。
「鈴仙、頼むわ」
「はーい。それじゃあふらん、今から一緒に面白いことしようねー」
 鈴仙はふらんの脇に手を入れて持ち上げると、そのまま浮かび上がった。
 そして巨大まりさの真上まで来ると、よく狙いを定めて、

「「パイルダァァァァァァァァオォォォォォォォォォン!!!!」」

 師と弟子の声が重なった。
 ずぼんっ、と気持ちのいい音を立てて、巨大まりさの餡子の中に、ふらんが腰まで突っ込まれた。
「ゆっぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
 当然、絶叫したのは巨大まりさである。人間なら脳に直接腕を突っ込まれたようなものだ。
 一方、慧音は言葉を喪っていた。永琳と鈴仙の残酷合体に慄いたからではない。もっと別の何かに、心動かされていた。
「これは……これは! 十面鬼ゴル○ス・人面岩形態!!!」
「イグザクトリィィィィ─────ッ!!!!」
 ビシャアァァァン!!!と雷鳴を轟かせながら、慧音と永琳はお互いを指差した。
 ここに二人の心は、かけがえのない絆で結ばれたのである。
 幻想郷の住人が何故ゴル○スを知っているのか、という疑問はあるが、些細である。テンプレ的に全てスキマ妖怪のせいにしてしまえば良い。
「……! う゛ー! きもぢわるい! だせ、だせぇーぇぇぇ!!!」
 ふらんはようやく事態を理解すると、途端に騒ぎ出した。腰から下が餡子風呂に使っているのだから当然か。
 しかしふらんがもがけば、苦しむのは当然巨大まりさである。
「ゆびぃっ! やげっ、べっ、まりざのなががぎまじぇなぎでっべぇぇぇぇぇぇええ!!!」
 餡子脳をぐちゃぐちゃにかき回され、まりさは声にならない叫びを上げた。しかし餡子が飛び出るわけではないので、死にはしない。
「ほらほらふらんー、暴れないでねー、今から面白い遊び教えてあげるからねー」
「……う゛ー」
 普段から世話をしている鈴仙になだめられ、ようやくふらんは少し大人しくなった。
 鈴仙はふらんの手に、魔理沙の髪の毛を握らせる。そして、右のほうを引っ張るようジェスチャーした。
「う?」
 ぐいっ。
「ゆべっ!」
 びぐん、とまりさの巨体が震え、身体がやや右を向いた。既に固定は解除されている。
「…………」
 ぐいっ、と今度は左。
「べひっ!」
 するとやはり、まりさは左を向く。
 幾度かの試行を経て、ふらんは理解した。
 このおおきなまりさは、じぶんのおもいどおりにうごかせる。
「い゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!! まりざをおぼぢゃにじないでぇぇぇぇ!!!!」
 痛みと混乱から今まで静かだったまりさが、とうとう根を上げた。
 だがそれを許すふらんではない。既にもう、これは自分のものなのだ。
「うー! しねっ!」
 ボグシャア、と握り固めた(ゆっくりにとっては)硬い拳を振り下ろす。
「べびぎっ!」
 頭部の中心を勢いよく殴られ、まりさは呻く。
「しねっ! しねっ! ふらんのゆーこときかないまりさはしねっ!」
「ばびゅっ! おぶっ! ぶぎゃ! ……あ゛あぁぁぁぁん!! もうみんなのどごがえるぅぅぅぅぅ!!!!」
 泣き言をあげるたびにふらんの拳が飛ぶ。
 だがやがてふらんは、わざわざ殴らなくていいことに気づいた。ちょっと足を動かしてやれば、すぐにこのまりさは大人しくなる。
「わがりまじだぁぁぁああ!!! ゆーごどぎぎまずぅぅぅぅ!!!」
 二十分後、とうとう、まりさはふらんに完全に屈した。でかい瞳から滝のように涙を流し、ふらんのものになることを受け入れた。
 感覚が繋がっているのか、それとも恐怖からなのか、巨大まりさに埋め込まれた普通のまりさ達も泣いていた。
「ホラーですね」
 鈴仙の呟きに、まったくそのとおりだと永琳と慧音は頷いた。同じ顔が並んで涙を流している光景は、結構引く。
「よし、じゃあふらん、次は前に動く練習よ。足を前に踏ん張って」
「う? ……こう?」
「ゆぼぇっ!?」
 ぐりっ、と餡子を踏んづけられたまりさの巨体が跳ねた。
「そうそう! それを連続して!」
 言われたとおりにふらんが足を前に蹴りだすと、それに合わせてまりさが跳ねる。
 それが楽しくてしょうがなく、ふらんはすぐにコツを掴んだ。
「止まるときは足を後ろに踏ん張って、右に曲がりたいときは右の髪、左に曲がりたいなら左の髪!」
「うっ、うっ、う~う~♪」
 終始ご機嫌な様子で、ふらんはまりさを『操縦』している。
「ふぅむ、中々覚えがいいんだな」
「他のゆっくりに比べればだけどね。語彙は足りないけど、知能レベルはそこそこよ。
 これまでの研究結果だと、特に『楽しいこと』『狩りのこと』に関しての覚えは特に良いわ。
 まぁそれでも、曲りなりにも『手』を持ってる生物としては、当然といったレベルかしら」
 そこで、はぁ、と永琳は溜息をついた。
「……むしろ、何故ゆっくりれみりゃがあそこまで知能が低いのか理解できないわ。
 どこをどうしたら、あそこまで愚鈍になれるのか……しかも幼体のほうが強いって」
「まぁゆっくり自体わけのわからん生き物だからなぁ」
「ぶっちゃけないでよ。自分のしてきたことが無意味に思えちゃう」
 憮然とする永琳の前で、鈴仙は熱心にふらんの指導に取り組んでいる。
「足を後ろに踏ん張って止まる!」
「うー!」「うぎぃ!」
「すかさず髪の毛を両方引っ張って、足を前にやってばんざーい!」
「ばんじゃーい!」「うべぇぇえええ!!」
 鈴仙の的確な指示に従って、ふらんが両手を挙げると、まりさの巨体が大きくジャンプした。
 そして見事に着地する。
「良しっ! ディ・モールト! ディ・モールトいいぞっ! よく学習してるぞ!」
 そろそろ鈴仙にどこかの子作り野郎の霊が降り始めたところで、永琳は慧音に持ちかけた。
「あなたをここに連れ込んだのは、あのフランを教育してほしいからなの」
「あの月兎がいれば充分に思えるが……」
「あの子はアメばかりでムチの使い方がいまいちでねぇ。その点、あなたなら安心だわ。学校の先生だもの」
「まぁいいが……それで、どの程度まで教育すればいいんだ?」
 その言葉に、永琳は了承が取れたものと理解した。永琳は告げた。
「一日で、木馬を操る子供が、いっぱしの走り屋に至るまで」
「──心得た。引き受けよう」
 慧音の瞳には、教育者の熱い炎が灯っていた。



 昔慧音は走り屋だった。
 妹紅と一緒に峠を攻めては、四季映姫機動パトロール隊によく追いかけられたものである。
 それを撒いて仲間と共に、ゆっくりを肴に呑む酒は最高だった。
 だがそんな慧音を走りから遠ざける事件が起こった。
 走り仲間だった阿八が、ある日事故って死んでしまったのである。
 最もゆっくりを愛し、最も走りを愛した少女だった。
 その日も道路上に敷き詰めたゆっくりを、愛車(リヤカー)でひき潰す遊びをしていたところだった。
 危ないからやめろと慧音と妹紅はいつも止めたが、しかし彼女は若かった。
 その挙句が、餡子に滑って転んだ上に崖の下まで転げ落ち、そこで見つけたゆっくりの群れを、大量出血状態のまま破壊したが故の死である。
 慧音と妹紅と走り仲間達が出席した葬儀には、あの四季映姫も参列していた。
 ぶるぶると拳を握り固め、嗚咽を洩らすその姿は、自らが救えなかった若人の命を嘆いているかのようだった。
 それを見た途端、慧音の心にあれほど燻っていた走り屋の火が、小さくなっていった。
「阿八よぉ……お前、本当に風になっちまったンだなぁ……」
 それ以来慧音は走りをやめ、やがて教師を志し今に至るというのは勿論全部ウソである。



 翌日。
「──今だっ! カットバックドロップターン!」
 ズァギャギャギャギャギャッ、っと凄まじい音をさせながら巨大まりさが床をドリフトする。
 心地よいエキゾーストノート(=巨大まりさの叫び声)が見るものの心を震わせる。
 慧音の教えのお陰で、今や完全にふらんは巨大まりさを我が物としていた。
 慧音は満足そうな顔で車体を止めたふらんの高さまで飛ぶと、その頭をすごい勢いで撫で始めた。
「良ぉお~~~~~~~しッ!
 よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし
 よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし。
 りっぱにできたぞ! フラン」
「うっう~☆ にぱ~」
 撫でられるふらんもまんざらではなさそうである。
 時には厳しく、時には優しく慧音はふらんを教育した。そしてふらんはそれに答えた。教育者としてそれに勝る喜びはない。
「頑張ったご褒美をやらんとな! ゆっくりれいむ二個でいいか?」
「うぁ~! うっうっう~」
「三個か!? 甘いの三個ほしいのか!? 三個……イヤしんぼめ!!」
 言いながら、慧音はふらんに三匹の赤ちゃんれいむを与えた。
「おがぁぁぁぁざぁぁぁぁぁぁああ!」
「ゆっぐりでぎないぃぃぃぃ!」
「やべべべべべべべ!」
 ちなみに他の姉妹や母親は、今は巨大まりさの腹の中だ。
 ふらんが望めば、最早まりさの口の動きさえ思いのままなのだった。
 操られる巨大まりさの顔からは色というものが消えうせ、ただ虚ろだった。
 その感情を代弁するかのように、九個の埋め込まれたまりさが涙を流す。
 ふらんとまりさの仕上がりに満足した永琳は、腕を組んで頷き、計画を実行段階に移すことを決定した。



 そしてその日の夕方。



「まりさおそいねー」
「ねー」
 森の一角で、七匹の巨大まりさが和んでいた。周囲には百匹は下らない、普通のゆっくりが控えている。
 まりさ達は、先日斥候として里の様子を見に行ったまりさのことを話していた。
 今まで住んでいたところの食べ物が少なくなって、こうして山のふもとまで降りてきたのである。
 どうにか食料を調達できないかと悩んでいたところ、先のまりさが里を襲って食べ物を奪うことを提案したのである。
 他のまりさ達は人間の危険性を良く知っていたので止めたが、幼い頃うまく出し抜いた記憶のあったまりさは頑なに主張を譲らなかった。
 だが、食料がなければ最終的に餓死してしまうことに変わりはない。
 結局、他のまりさは折れ、言いだしっぺのまりさが斥候として里の偵察に行ったのだった。
 協議の結果、三日経って戻ってこなかったら全員で突撃する、という約束で。
 ……斥候が戻ってこないということは、つまり重大な危険が迫っているということだが、しかしそんなことまりさ達も承知である。
 要するに口減らしをするつもりであったのだ。
 飢えたゆっくり、強欲なゆっくりほど、我先に里へと飛び込んでいく。
 するとそこには、きっと人間達の罠が待ち構えているだろう。馬鹿なゆっくりほどそれにかかって死んでいく。
 後に残るのは、見識ある大人達と、未来ある子供達と、それを率いる自分達だけだ。
 実際にはそこまで深く考えていたわけではないが、馬鹿なやつほど早く死ぬということは、巨大ゆっくり達がそれまでの経験で学んだことだった。
 だから別に、あのまりさが戻ってきてくれなくても困らない。いやむしろ戻ってこないほうが都合が良いのだ。
 だが、その希望は容易く打ち砕かれた。
 遠くの木陰に、見慣れた丸い影を発見したからである。
「ゆっ! まりさだっ!」
 他の小さなゆっくり達も気づいた。そして口々にまりさまりさと呼び始める。
 まりさはのっしのっしと木の隙間を器用に縫って跳ねてくる。
 巨大まりさ達は、ほっと息を吐いた。安堵が半分、残念が半分である。
 まぁ見たところ怪我もないようだし、良しとしよう。好んで仲間を死なせたいわけでは、必ずしもない。
 それに無事に帰ってきたということは、里は襲い易いのかもしれない。それを期待した。
「まりさっ! おかえりっ! にんげんのさとはどうだったの?」
 巨大まりさの一匹が近寄って出迎えた。
「まりさ?」
 だが帰ってきたまりさは、ぷるぷると身を震わせるだけで、動かなかった。
「どうしたのまりさ? けがしたのー?」
 周りの小さなゆっくり達も声をかけるが、それでもまりさは答えない。
「みっ……みんなっ……」
 そしてようやく、掠れるように声を出し、

「みんな゛っ、ごべんね゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!!」

 まりさの帽子が吹き飛ぶ。それは風などではなく、内側からの力によって。
 そしてその下から──帽子と、めくれ上がった前髪の下から現れたのは──
「うー!! たーべちゃーうぞぉぉぉぉぉお!!!!」
 自らの身体に九匹のゆっくりを埋め込んだ巨大まりさと、その頭上に埋まったゆっくりふらん。
「「「「「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?」」」」」
 あまりに理解の範疇を超えた出来事に、その場にいた全員が固まった。
 そしてふらんは、慧音に教えられたとおりの言葉を発した。
「いっただぁきまぁーーーーーーーーーーすぅ!!!」
 ふらんがまりさの髪を掴んだ両手を持ち上げ、足を後ろに踏ん張る。
 するとガパッとまりさの口が開き、
「ゆっ?」
 ふらんが手足の力を抜くと同時、まりさを心配して駆け寄った巨大まりさの顔面を、一口で削り取ってしまった。
 それが地獄の始まりだった。



「七匹か……報告より多いわね」
「どこかに隠れていたのか。少々厄介だな」
「取り巻きも多いですね。これは襲撃されたら危なかった……」
「まぁでも問題ないんじゃないッスかね」
 木陰から、永琳、慧音、鈴仙、てゐがその様子を覗いていた。
 いつの間にか加わっているてゐは、ここまでの道の案内役という名目の、ただの野次馬である。
 実際、てゐの言うとおり、ふらんの操縦する巨大まりさ──コードネーム・十面まりさは圧倒的だった。
 巨体であるがゆえに、まりさ自身は生かしきれなかった自らの性能を、ふらんは完全に引き出している。
 加えて餡硬化剤を注入したことにより、十面まりさ自身の頑丈さもアップしている。そこらのゆっくりには殺せない。
「おっと、二匹目が喰われたな」
 恐慌状態に陥り、三々五々に逃げ回るゆっくり達を、ふらんは的確に追い詰めた。
 今も逃げ出そうとした巨大まりさを木の陰から追い詰め、その側面を十面まりさに齧らせたのだ。
 さすが捕食者に回るだけあって、狩りにおけるその本能は並々ならぬものがある。
「……どうしてふらんはあそこまでやれるのに、れみりゃがあんなに駄目なのか理解しかねるわ」
 天才ゆえの性か、永琳は本気で頭を悩ませていた。
 さておき、いよいよ現場は凄惨を極めてきた。
 十面まりさが跳ねるだけで、近くにいた小さなゆっくり達は餡ペーストになる。
 そこに逃げ回る五匹の巨大が加わるのだから、もう大変なことになっていた。
「どうじでながまをごろずの! まりざぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
 いち早く混乱から復帰した巨大まりさが、十面まりさに真意を問うた。
「ぢがうのっ! まりざのぜいじゃないっ! まりざがごろじだんじゃないいいいいい!!!!
 ふらんがまりざをおもぢゃにじでるのぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 必死に抗議しながらも、身体は止まることを赦してはくれない。
「ゆっ!」
 間一髪避けた巨大まりさの横で、がちん!と十面まりさの歯が鳴った。
 命の危機に瀕したそのまりさは、とうとう、認識を改めた。
 最早殺すより他に無し。
 このまりさは、もう、自分達とは違うものだ。
 ふらんに下り、その手先となってゆっくりをゆっくりさせぬ全てのゆっくりの敵だ。
「……わかったよ、まりさ」
「ゆっ!?」
 ぱっと十面まりさの顔に喜色が灯る。助けてくれる。そう思った。
 だが無論、そんなことはありえなかった。
「まりさはそこで、ゆっくりしんでね!」
「「「「ゆっくりしね!!!!」」」」
 他の四匹の巨大まりさも同調し、一斉に飛び掛ってきた。
「ゆ゛ぅぅぅぅぅぅぅ!!! どうじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉ!?!?!?」
 十面まりさの全ての顔が、絶望の色に染まった。
「しねっ!」
「そんなきしょくわるいまりさ、もうまりさのしってるまりさじゃない!」
「よくもまりさたちのなかまをころしたな!」
「まりさたちのなかまをよくも!」
「まりさたちのともだちをよくも!」
「よくも! よくも! よくも!」
「ころしたなぁああああああああああああ!!!!!」
「ころせっ! まりさをころせっ! あのまりさをころせっ!」
「ころせっ! ころせっ! ころせっ!」
「ころせッ! ころせッ! ころせッ!」

「 あ の ま り さ を 殺 せ ッ ! ! ! ! ! 」

 最早すべてのゆっくりが、十面ゆっくりの敵だった。
「ああああああ……どうじで……どうじでええええええええ……」
 捕まったときは、きっと助けに来てくれると思った。
 辛い仕打ちを受けても、きっと助けに来てくれると信じていた。
 だから、自分がふらんに操られ、みんなを襲うことになったのがとてもイヤでイヤでしょうがなかった。
 許してほしいわけじゃなかった。
 自分が無謀を働いたから、こんな結果になったのは分かっている。
 分かっているけれど。
 せめて、そう、せめて。
『仲間』のまま、死んでいきたかったのに──



「……! うー! うごけ! いうこときけっ!」
 ふらんは、突然動かなくなった十面まりさに戸惑った。
 髪を引っ張っても足で蹴っても、びくびくと痙攣するだけで言うことを聞かない。
 目の前からはゆっくりの大軍が迫ってくる。空を飛べるふらんは、このまま十面ゆっくりを見捨てて逃げればどうということはない。
 だがそれよりも、さっきまで自分に従っていたものが動かなくなったことが気に入らない。
 ふらんは、このまりさとあのまりさ達の間にどんな関係があったのかは知らない。
 無論、あまりの絶望から、この十面まりさがゆるやかな精神の死を迎えつつあることも。
 知らないからこそ、許せない。
 玩具風情が、自分の意に沿わないことが。
「うぅー! うぅー! うぅぅぅぅうううううううううううううううううううううう!!!!!!!」
 ──思い通りに動かなくて癇癪を起こすという点では、ふらんもれみりゃと同じと言えるだろう。
 だがふらんのそれは、れみりゃのそれよりもっと強く、もっと的確で、そして、敵意によって成り立っていた。
「動けえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
「ゆぶぐぇっ!?」
 ずぶぎゅっ、とふらんは両手をまりさの頭の中に突っ込んだ。
 新たな衝撃に、刹那、まりさの意識が覚醒する。
 ふらんはさらに、餡子を握り締めると、それを狂ったように滅茶苦茶にかき回した。

「あいづら、ぜんいんっ、
 喰゛い゛殺゛せ゛え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「ブガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
 その瞬間、十面まりさの自我は完全に死んだ。




「あら、これは──」
「暴走したか。精神的にも肉体的にも限界だったようだな」
 永琳達の視界の先で、十面まりさは暴れ狂っていた。
 白目を剥き、口から餡子を迸らせ、全身を木や地面に打ちつけながら。
 その過程で数多のゆっくりをひき潰しながら。
 全員で襲い掛かろうとしたのがまずかった。近くにいた小さなゆっくり達はほとんど潰れてしまっている。
「ぎぇばあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 巨大ゆっくりの一匹が凄まじい悲鳴を上げた。後ろから噛みつかれたのだ。
 その一撃で死ねたならいっそ幸運だっただろうが、運動中枢すらおかしくなりかけている十面まりさは、がちがちと歯を鳴らすように少しずつ削り喰っていた。
「じねぇっ!」
 その隙を突くように別の巨大まりさが襲い掛かるが──そのまりさは忘れている。十面まりさの肉体の主導権は、ふらんの手にあることに。
 まりさの中で、ふらんの手足が蠢いた。
「ゆぅっ!?」
 すると十面まりさは、それまでの動きをまるで無視して真上に高く飛び上がり、そのまま、真下の二匹を踏み潰した。
「残り三匹ですね……って、危ない!」
 着地の隙を狙って、残った三匹が一斉に躍りかかった。三方向同時攻撃。避けられない。
「! うー!」
 戦いの中で、ゆっくり狩人としての闘争本能が完全覚醒を迎えたのか、ふらんの決断は早かった。
 十面ゆっくりに、正面の一匹に噛み付くよう操作してから、自身は餡子から手足を抜いて飛び出した。
「「「じねッ! ゆっぐりじ」」がぁああああああ!!!」
 三匹のうち、噛み付かれた一匹が叫ぶ。その隙をふらんは見逃さない。
 落下の勢いそのままにまりさの皮を食い破ると、餡子の中に足をじたばたさせながらもぐりこんだ。
「てゐ何撮ってるのよ」
「ふらんのおふぁんつ」
「……売れるの?」
「好事家ってどこにでもいるもんだよねー」
 ふらんはそのまままりさの中にすっぽりと身を埋めてしまった。
「あぽぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!! ながっ、ながにいぎゅぅぅううううう!!!」
 残り二人は十面ゆっくりの始末をつけるのが最優先で、助けようとはしなかった。
 いや、助けようとしても最早手遅れだ。
 ふらんは散々まりさの中を引っかき回したあと、まりさの頭頂部を突き破って現れた。
「うううううううううううううううううううう!!!」
 母の胎を引き裂き生まれる鬼子のように。
「ストナー○ンシャイン」
「レ○エルを中から破壊したエ○ァ」
「ええっと、マ○ターテリオンですか?」
「これだから! これだからエロゲ世代は!」
「散々ウドン○インネタで引っ張られておきながら今更それを持ってくるとは!」
「ちょ、酷くないですかその反応!」
「……とんだオタク揃いウサ」
 永琳たちが口々に感想を述べている中で、ようやく残った巨大まりさ二匹は、ふらんの姿を認めた。
 そして気づく。
 これが自分達の敵だと。
 自分達の大事な友を貶めた真の敵だと。
「……って思ってるならまぁ都合のいい考え方よねぇ。いつも思うけどゆっくりって自己正当化にかけては天才よね」
「仕向けた張本人がよく言う。おっと、そろそろ佳境だな」
 慧音の言うとおり、ふらんとまりさ二匹は総力戦に突入した。
 一匹を自ら仕留めたふらんだが、敵もさるもの、ここまで大きくなるまで生き延びてきたのは伊達ではない。
「ゆっくりしんでね!」
「つぶれてしんでね!」
「うー、ゆっくりしねっ!」
 まりさ達は、ぼてんぼてんと跳ね回っているようでいて、しかしお互いを守りあうように動いていた。
 ふらんはイライラした。でかいだけのただのゆっくりのくせになんて生意気だ。
「う゛ぅー!」
 ふらんは手近なゆっくりの屍体を手に取ると、まりさの一方に向かって投げつけた。
 偶然、それが目に当たる。
「ゆ゛ぁー!」
「まりさぁっ!?」
 片方に起きた突然の事態に、もう一方も思わず足を止めてしまう。それこそがまりさ達にできた隙だった。
 ふらんは目潰しを喰らったほう──ではなく、それを心配して無防備な横腹を晒しているほうに飛びかかる。
「じねっ! じねっ!」
「ゆぎゃぁっ! やべでぇええ!」
「じねぇえええええええええええええええええ!!!!」
 噛み付き、引っかき、抉り出し、中の餡子を掻き出していく。
 まるで削岩機のように、ものの数秒で大量の餡子が流れ出していった。
 だが、それに夢中になっていたのがいけなかった。
「──ゆっくり死ねぇぇぇえええええ!!!」
 いまだ目の見えないもう一匹が、音だけを頼りにボディプレスをしかけてきたのだ。
 慌てて逃げようとするふらんだが、あまりにも餡子の奥深くにまで手を突っ込んでいたため、それも叶わない。
 このままでは潰される──そう永琳達が息を止めた瞬間。
 それは起こった。
「う゛ぅ゛ー!!」
 ふらんの首だけがすぽんと抜けて、空中に飛び出したのだ。その後部から小さな翼を伸ばし広げる姿はまさに、
「「ジオング!!!」」
 永琳と慧音の声が重なった。
 着地した巨大まりさは、ふらんの胴体のみを潰すだけに終わる。いや、着地の衝撃で虫の息だった仲間に止めを刺してしまった。
 その事実に戸惑うまりさに、すかさず、首だけとなったふらんはとどめの一撃を放つ。
「おお、あれは!」
「自らの回転力によって敵を屠る必殺の!」
 永琳と慧音は、ふらんの突撃に合わせて声を張った。

「超○覇王電影弾んんんんん!!!」
「ギガド○ルブレイクぅ────!!!」

 ふらんの牙が、まりさの後頭部から進入した。
「ぶげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 そしてそのまま頭の表面をまっすぐに削っていく。
 ふらんが通り抜けたあとには、哀れ、逆モヒカンとなった巨大まりさが残った。
 頭頂部がごっそり抉り取られたことで左右に負荷がかかり、まりさの顔は真ん中から裂け始めた。絶命も時間の問題だろう。
 そしてこちらでも、ある一つの絆が引き裂かれようとしていた。
「──ちょっと! なんでそこでグレ○ラガンなのよ! あなた何考えてるの!?」
「そっちこそ! 何故そこでGガ○なんだ! 阿呆か!」
「あなたにマスター○ジアとド○ンの何が分かるのよ!」
「貴様こそカ○ナとシ○ンの何が分かるって言うんだ!」
「あの……師匠も慧音さんもそろそろですね……」
「メタネタも大概にしようよー。きっと読者引いてるからさー」
 永琳と慧音が昨日築いた絆は脆くも崩れ去った。
 言い争いを続ける後ろでは、首だけになったふらんが、虫の息となった巨大まりさの餡子をむしゃむしゃ食べている。
「慧音さまぁー! 永琳どのぉー!」
 と、そこに遠くから男の声が聞こえてくる。皆が声がしたほうを見ると、手に手に鍬や鋤を持った男衆が、こちらに走ってきていた。
「おお田吾作、どうしたこんなところまで」
「いやはや……慧音様は任せてくれとおっしゃいましたが、我らいてもたってもいられず馳せ参じた次第でありまして。
 して、巨大ゆっくりはどこに?」
「ん、ああ、折角のところすまんな。もう片付いた」
「なんと! それはまことにございまするか!」
「うむ。まぁ功績は私ではなく、この永琳殿と、あそこのゆっくりふらんに与えられるものだがな」
 おお、と男達がどよめいた。
 永琳には以前から世話になっていたことから、尊敬の念を新たにすれど、それほど驚くことはなかった。
 だがまさか、捕食種といえども、ゆっくりふらんがあの巨大なゆっくり達を倒すとは……
「う?」
 自分を見つめる数多の視線に気づいてか、ふらんが振り返った。
 まりさの餡子を大量摂取したせいか、既に身体は復元している。
「英雄じゃあ……」
「我らの守り主じゃあ!」
 感極まった男達は、一斉にふらんへ駆け寄った。
 その際、まだ生きていた十面まりさの顔の一つが踏み潰されたが、口が縫われていたため叫びも上げず誰も気づかなかった。
「ゆっくりふらんばんざーい! わーっしょい! わーっしょい!」
「う゛ー!?」
 円陣を組んでゆっくりふらんを胴上げする男衆。それを身ながら、慧音はうむと頷いた。
「これにて一件落着だな」
「そのようね。里の危機は回避されたわ」
 趣味の相違によって崩れかけた絆だったが、仕事を一つやり遂げた達成感から、それは修復されつつあった。
「それでは永琳殿、今日はこれにて。また何かあったら、そのときは」
「ええ、是非力にならせてもらうわ」
 がっちりと握手を交わす半獣と薬師。そこにはお互いへの信頼があった。
「……それはともかく、あのふらんはどうしましょうか」
 胴上げされ続けているふらんを見ながら、鈴仙は言った。
「うーん、まぁあのままで良いんじゃないかしら。強いし、里で飼ってあげれば良い守り役になると思うけど」
「そういうことならばありがたい。是非そうしてくれ」
「ではそういうことで」
「うむ、恩に着る」

 頷き合う二人の後ろで、ふらんが泣き喚いている。
「う゛ー! あぜぐざいー! ずっばいにおいがずるー! みんなじねぇぇぇぇぇ!!!」
「わーっしょい! わーっしょい!」
 胴上げは、いつまでも続いていた。



 それから。
 里には永琳の手によって、ふらん専用十面れいむが配備された。一つの家族から作った一級品である。
 加えて二十数対のふらんの幼体が卸され、里の守りをより強固なものとした。
 ふらんはそれらの幼体を従え、十面れいむを駆り、慧音と共に里の平和を守り続けることだろう。
 汗臭い男達に囲まれながら。

「う゛ー! もうおうぢがえるー!」

 どっとはらい。





あとがき
 正直メタネタとかロボネタが多すぎたと思う。でも謝らない。

 なお、タイトルが十面鬼編となっているのは、以前書いたゆっくり実験室の続編の構想があるからです。
 そっちのタイトルをゆっくり実験室2とする予定だったので、こちらは番外編のような扱いに……
 一つしか出してなくて何が番外編かって話ですよね。

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最終更新:2022年05月03日 17:16