「ゆっゆ~♪ ありす、そっちはどう?」
「ゆっくりいっぱいよ、まりさ♪」

人も滅多に立ち入らぬ、山の奥深く。
二匹のゆっくり、ゆっくりまりさとゆっくりありすの番が楽しそうに、豊潤な山の恵みの恩恵を受けていた。
木の実や草花など、野生のゆっくりのエサを集めているのだ。

口の中やまりさの帽子の中など、入れられるだけ入れて持ち帰ろうとしている。
それもすべて、巣で待つ子供達のため。

この二匹はゆっくりの中では賢明な者達だった。
幼い頃、家族を人間に皆殺しにされたという共通した過去を持つまりさとありすは、生涯の間人間と関わらないように人の生活圏名から遠く離れた場所で暮らしていた。

互いを伴侶とした後も、決して強きに歯向かわずゆっくりと、幸せに生きてきた。
今では九匹の子宝にも恵まれている。
天敵となる動物も少なく、いたとしてもそれから逃げたり隠れたりする方法を知りえている二匹は、
その子供達を一匹も失うことなくこれまで守ってきた。

まさに、願っても容易には叶えられぬ幸せなゆっくり一家の理想像を体現していた。

「ゆゆ~、やまさんがいっぱいゆっくりしたからまりさたちもゆっくりできるね!」
「ゆっ! これでおちびちゃんたちもゆっくりできるわ!」

互いの収穫の成果を見せ合い、幸せに笑いあうまりさとありす。
体を近寄せ、お互いの頬をすり合わせ「す~りす~り」と声を揃える。
順番に相手の頬を甘噛みしてじゃれ合う。
成体になっても無邪気なゆっくりそのものであった。

「ゆっ、くっすぐたいよありすぅ」
「ゆっくりおかえしよっ」

普通の成体ゆっくりの狩りならば一日中狩りをしている事も少なくない。
だがこの二匹が住んでる場所は他のゆっくりもおらずエサは豊富。
それに二匹がかりで集めているので限界まで採っても遊べるだけの時間の余裕はあるのだ。

「ゆっ~、そろそろゆっくりかえるよ」
「そうねまりさ。おおきいおちびちゃんにこもりまかせっきりだもんね」

一番最初に胎生出産で産んだ子まりさが小さい姉妹達を巣で子守している。
巣に残した子供達のためにもそろそろ帰ろう、と二匹が揃って向きを変えた時だった。

「「ゆっ!?」」

まりさとありすの視界から光が奪われた。
体を圧迫する感覚も得る。まるで自由に動けなくなる。

「ゆっ! くらいよ、せまいよ!」
「ゆっくりできないわ!」

まるで今の状況が分からず混乱するまりさとありす。
二匹は今、上から籠を被せられている。
つまり捕獲されたのだ。何者かに。

いや、人間に。

成体ゆっくり一匹分の大きさの籠二つでまりさとありすを捕まえた青年は、逃げ出せぬよう籠に蓋をし縄で縛った。
そうして、籠を持ってその場を立ち去っていった。

「だれなの? ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってよ~!」

籠がガタガタ揺れ、まりさとありすの声が尾をひくように山に僅かに響いた。











「ゆべっ!」
「ゆぶっ!」

籠から出されたまりさとありすが固い床に叩き落される。
顔面から落下し呻き声と共に体が僅かに潰れた。
起き上がり体勢を整えたまりさとありすは即座に後ろに振り向いた。
思ったとおり、そこには自分達を攫った何者か、つまり人間が居た。

「ゆゆっ! にんげんさん!?」
「ゆっ、ゆっくりしていってね!!!」

過去のトラウマから体が恐怖に竦むが、ならばこそ今は怯まずに毅然としてなければならない。
その一心でキッ、と睨みつけるようにまりさとありすは青年を見た。
それでも、人間を怒らせてはならない。人間は簡単にこちらの命を奪えるのだから。

「は、はじめましておにぃさん! まりさはまりさだよ!」
「あ、ありすはありすよ!」

ありすの挨拶にまるで無反応だった青年を何か起こらせたのかと思い、咄嗟に自己紹介をした二匹。
だが青年は足元に籠を置いたまま無表情でジッとまりさとありすを見ているだけだった。

一人と二匹がいるのは十メートル四方の部屋だった。
扉は一つだけ。床と壁は全てむき出しのコンクリートという灰色の部屋。
部屋に備え付けのものは何も無いが、ただ一つ部屋の隅に置かれた収納箱が、得体の知れぬ恐怖を呼び起こした。

二匹はビクビクしながらも青年の反応を窺う。
青年は何もしてこない。こちらにご飯をくれることもないが、暴行を加えることもない。
このまま何も起こらず帰れるかも。
まりさがそんな淡い期待を懐いた時、青年が口を開いた。

「お前達、家族はいるか?」

「「ゆっ!?」」

突然の問いだったために思わず跳ね上がってしまう二匹。
青年はそんなまりさとありすに重ねて問う。

「家族はいるかと聞いている」

「ゆっ、い、いるよ!」

人間を怒らせてはならない。
その一心で怪しみながらもまりさは答えた。ありすもまりさに何も言わなかった。

「子供か?」

「そうよ! ありすとまりさのとってもゆっくりしたかわいいあかちゃんよ!」

今度はありすが胸をはって答えた。
青年はふむ、と手を顎にあててしばらく考え込むと

「ではあの山に他のゆっくりはいるか?」

更に問いを発した。

「いないよ! だれにもあったことないよ!」

嫌な予感を感じながらもまりさは答える。

「嘘じゃないな?」

「嘘じゃないわ!」

まりさの不安を感じつつもありすも答えた。
青年はまりさとありすの答えに満足したのか、再び手を顎にあてるとこう言い放った。


「そうか、ではお前達の巣に俺を連れていけ」

「ゆっ! それはいやだよ!」

キッパリ、と。
頑としてまりさは即座にそれを拒んだ。
それだけは、いけない。してはならない。

今こそまりさは何もされていないが、人間は危険な存在だ。巣に連れて行けば子供達を危険な目にあわせてしまう。
かつて自分の家族もそうやって殺されたのだ。

「どうしてもか?」

「ゆっくりできないからだめよ!」

ありすもまりさと同意見。頬を膨らませてぷりぷり威嚇しながら断固拒否を示す。

「今のうちに言っておいた方が身のためだぞ?」

「だめだよ! おにぃさんをおうちにつれていったらゆっくりできないよ!」
「そうよ、ゆっくりできないわ!」

いつの間にか人間への恐れが消えたのか、まりさとありすは揃って頬を膨らませながら怒っていた。

「ぷんぷん、ゆっくりできないおにぃさんはまりさをおうちにかえしてね!」
「ありすたちはゆっくりおうちにかえるわ!」

興奮したのか徐々に饒舌になっていくまりさとありす。そう、普通のゆっくりのように。
悲しいかな、これがゆっくりの餡子脳か。人間が危ない存在だとは頭では分かっている。
だが、興奮したり感情が高ぶればどんなに賢い個体でもゆっくりとしての素が出てしまう。

常のまりさとありすならば人間相手にこんな言動はしない。
そしてまりさとありすは後に、この言動を後悔することになる。

「よろしい、ならば体に聞こう」

青年はそう言い放つと、三メートルの距離をあっという間に詰めてまりさを掴み上げた。
あまりにも咄嗟の出来事でまりさとありすは反応が遅れてしまった。

「ゆっ、ゆっ!? おにぃさん、ゆっくりしていってね!」
「まっ、まりさぁぁぁぁぁ!!」

青年は掴んだまりさを部屋の隅の収納箱から取り出した透明の箱に一旦閉じ込めると、今度はありすに向かう。
ありすは近づく青年から必死で逃げた。背を向けぽよんぽよん跳ねて逃げた。
しかし、この狭い部屋の中で逃げられる道理もなく、あっという間に青年に捕まった。

「いっ、いやっ、はなして! ゆっくりできないわ!」

髪を乱暴に掴まれてジタバタ暴れるが抵抗むなしく、黒い布で目隠しをされて透明の箱に閉じ込められてしまった。
だが、ありすの透明の箱は天井に小さな穴が複数開いているという、防音仕様ではない透明の箱だった。

「いやぁぁ!! くらいわっ! まりさどこっ!? ゆっくりできないわ!」

目隠しをされたことで失った視界に脅えてありすが箱の中でガタガタと喚く。
青年はそんなありすには気を向けず、透明の箱からまりさを取り出した。

「やめてね! ありすにひどいことしないでね!」
「もう一度聞くが、お前達の巣の場所を教えてくれないか?」
「ゆっ! おにぃさんにはゆっくりおしえないよ!」

交渉決裂。
青年はまりさを床に置くと、収納箱からとある物を持ち出した。
ガスバーナーである。

青年はガスバーナーを持ってまりさに近づいていく。
事ここに至ってようやく、まりさは青年を怒らせたのではないかという思いを持つ。
興奮した感情が冷め、取り返しのつかない事をしたという考えが浮かんできた。

「ゆっ、おにぃさん、おこらせたのならゆっくりあやまるね! だから────」

聞く耳は持たず。
青年は喋るまりさの髪を掴んで宙に浮かせると、ガスバーナーから火を噴射させ、その火をまりさの底部〝あし〟に押し当てた。

「ゆぎゃびぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

激痛。
自分の底部が焼かれるというこれまで味わったことのない感覚に、まりさは出したことのない大声を張り上げた。

「ま、まりざぁぁぁぁぁ!?」

目隠しをされたありすがまりさの叫び後を聞き、激しく箱の中で震えた。

「まりざ、どうしたのぉぉぉぉ!?」
「ゆぎっ、ゆびっ、あづい゛っ、あづい゛よ゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

涙を流し、部屋中に響き渡る叫びをあげながら底部をジリジリと焼かれるまりさを、青年は微笑を浮かべて黙って見守っていた。
やがて、まりさの足の焼入れが完了した。
焦げ焦げのカチカチ。
ゆっくりの底部の柔らかさと弾力を完全に失い、歩行機能を奪いつくしたのだ。

「ゆびっ、ゆぶっ……ばりざのあじがぁ……」
「まりざぁぁぁぁ、どぼじだのぉ……?」

床に放り出されてゆぐゆぐ泣くまりさを箱の中からありすが心配した。
ありすはずっと、箱の中でまりさの叫び声を聞き続けたのだ。ありすの目からも雫がこぼれ目隠しを湿らせていた。
だが、これはまだ序の口。
これから行なうことへの準備段階にしかすぎなかった。

「さて、まりさよ」

青年は倒れているまりさを起こす。底部を下にした正常の体勢だ。
まりさは未だに底部にある痛みを堪えながら、青年と向き合った。

「これから、巣の場所を言いたくなったら何時でも言えよ?」
「…………ゆっ? どういうこ──」

バチィン
乾いた音が部屋に響いた。
それは青年がムチでまりさを叩いた音だった。

「ゆぎぃぃ!!」
「まりざっ!?」

呻くまりさに構わず、青年は構わずムチをふるい振るい続ける。
一発、二発、三発、四発、五発。
右頬を、左頬を、右目を、左目を、頭部を。
次々とまりさに振るわれるムチは、これまでゆっくりや他の生物を争ったことのないまりさに、未体験の痛みを与えていた。

「ゆぎぃ! いぢゃい、いぢゃいぃぃぃぃぃ!! やべでっ、おにぃざんゆっぐりやべでぇぇぇぇ!!」
「やめて欲しかったら巣の場所を言いな」
「ゆびぃぃ!! ぞれはゆっぐりだめだよぉぉぉぉ!!!」

まりさは、屈しなかった。
痛みをもって巣の場所を吐かせようとする拷問に。
まりさは痛みを耐えた。愛する我が子のために。
やはり青年は危険な人物だった。こんな者を巣に連れて行くわけにはいかないと。
だから、なんとしても言う気はなかった。

青年はそんなまりさの覚悟を試すかのように、一発ずつ力を込めていった。
都合百八発。
人間ならば皮膚中真っ赤になっているだろうムチ叩きの刑にまりさは耐え切った。

「ゆふっ、ゆぐっ、ゆはっ……」
「まりざぁ……どぼじだのぉぉぉ……なにがあっだのぉぉ……」

皮もボロボロ、ところどころ餡子が浮き出て黒ずんでいる有様のまりさは白目を向いて荒く息をするだけで精一杯。
ありすはムチ叩きの間、まりさの痛みに泣く声だけを聞いていた。
愛する伴侶が苦しむ声だけを。それはありすを精神的にいたぶっていた。

青年はムチを仕舞う。
これで終わりかとまりさが安堵した次の瞬間には新たな道具を取り出していた。
それは一見透明の箱と同じように思われたが、違う。
一面がレバー付きの鉄板になっているのだ。

「ゆふっ、おにぃさん……?」

不思議がるまりさを青年はその中に入れた。
透明な箱と同じように身動きがとれなくなるまりさ。
青年はまりさの入れた箱の天井部分を閉めて、完全に閉じ込める。
そして、箱の外側天井についているハンドル型レバーを、ゆっくりと回し始めた。

「ゆゆっ?」

途端、天井の鉄板がゆっくりと下がり、帽子を圧迫しまりさの頭につく。
青年がハンドルを回すごとに、その鉄板は更に下に下がってまりさを押しつぶしていく。
これこそゆっくり版『リッサの鉄柩』だった。

「ゆぐっ!? おにぃざん、せまいよ! ゆっくりできないよ!」

まりさは喚くが青年は変わらず、ゆっくりと天井を降ろしていく。
ネジ式の鉄板蓋が徐々にまりさを押しつぶし、体を変形させていく。

「ぐっ、ぐるじいよ! いだいよ゛っ! ゆっぐじじでいってねおにぃざん!」

声が痛みと恐怖に震える。震えは徐々に大きくなっていった。

「やべでっ、あだまがいだいよ! ゆぐぐっ、いじゃいよぉぉぉ! まりざつぶれぢゃうよ゛ぉぉぉ!! ゆびぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」
「痛いのが嫌なら巣の場所を言うんだぁ」
「そ、それはいやだよ゛っ!」

ミチミチミチミチ
箱の天井はゆっくりと、だが確実に降りて行きまりさを押し潰していく。
皮にミチミチと圧迫された餡子で細い裂傷が走る。
既にまりさの体高は当初の半分程になっていた。
これ以上は死んでしまう。青年は一度そこで止めた。

「どうだ? 言う気になったか?」
「ゆぶぅぅぅぅぅぅ!! いぢゃい゛っでばぁぁぁぁぁ!! もうやべでよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」

まりさは涙まみれになっていた。さっきとはゆっくりと体全体に襲い掛かる痛みに耐えられていないのだ。
だが、それでもまだ巣の場所を言わないまりさの精神はまだ屈していなかった。

「おにぃざんありずもおねがいじまずぅぅぅぅぅ!! ばりざをゆっぐじざぜでぇぇぇぇ!!!」

目隠しをされたありすは拷問もされていないのに既にまりさと同じぐらい涙を溢れさせていた。
まりさの悲痛な叫び声だけで胸が張り裂けそうなのだ。
青年はまりさを閉じ込めていた箱の蓋を開けると、まりさを床に叩きつけるように取り出した。

ようやく諦めてくれたか。
まりさが安堵したが、当然間違い。
青年は保温性高い水筒を取り出していた。

「まりさ、これを飲むんだ」

まりさは不思議がりながらも口を開けた。きっと痛みに耐えたまりさへのご褒美に甘いものをくれるんだ。
そう思って口を開いたまりさだったが、ガシと上顎を掴まれたことでそれが間違いだと悟った。

熱湯。
沸騰直前にまで熱せられた熱い湯がまりさの口に流し込まれた。

「ゅぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

上顎を掴まれているため声は出ない。
だが音は出る。まりさの口の奥底から、体内を焼きつくす熱さからの苦しみによって地獄の底から這い出たような声が引きずり出された。

「ばっ、ばりざぁぁぁぁぁぁ!!!」

ありすが更に体を揺らして慟哭する。
その間にもまりさの口には熱湯が容赦なく注ぎ込まれていく。
熱い。もう嫌だ。今すぐ口を閉じたい。そう願うも叶わず。
結局、水筒の全ての熱湯をまりさはその体に取り込むことになった。

「ッぁ……ゆぁ……」

口内を焼き尽くされて声も出ない。ただ意味の為さない呻き声だけが漏れた。
その時、ふとまりさの体が震えた。
それはゆっくりの排泄の兆しだった。水分を過剰に摂取したゆっくりは、体の餡子が溶けてしまわぬようにその水分を体外に排出するのだ。

「ゆ゛っ……ばりざ、ちーちーするよ……」

まりさの下顎に小さな穴が出来た。産道とは違うそれは、水を体外に排出する器官だ。
本来ならば、そこから先ほど過剰に摂取した熱湯を出す。
それを、青年が穴に親指ほどの太さの鉄棒を差し込むことで阻止した。

「ゆぼべぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ばりざぁぁぁぁぁぁぁ!!」

文字通り、身を裂く激痛。
男性器の尿道に太い異物が入り込むも同然の痛みをその身に受けたまりさは、あまりの激痛に全身を振るわせた。

「いぢゃい゛ぃぃぃぃぃ!! ゆぎゃぁぁぁぁぁ!! ごでどっでぇぇぇぇぇ!!! ちーちーざぜぢぇぇぇぇぇぇ!!」

出来ることならばのたうちまわりたい。だが底部を焼かれたまりさにはそれも出来ない。
体を動かして痛みを紛らわすこともできず、ただその痛みを味わうのみ。その上排泄も出来ない苦しみまで併せてだ。
人間ならば気を失ったり精神が狂ったりといった痛みも、ゆっくりにはそれがない。
気絶すればただでさえ弱いゆっくりは弱みを晒すことになる。狂うほどの精神などゆっくりは持ち合わせていない。

青年はガムテープで鉄棒が飛び出さないように固定すると、次の道具を収納箱から取り出した。
今度は鉄製のペンチ。挟む部分にトゲがついているそれを、ガスバーナーで炙って熱を持たせていく。

「さぁ、言いたくなったら言えよ」

赤熱したペンチをもって、まりさににじり寄る青年。
まだまだ、聞き込みは始まったばかりだた。








三日が経った。
驚くべきことに、まりさはまだ口を割っていなかった。ゆっくりにあるまじき精神力である。
もちろんこれまでの間まりさもありすも食事は一切とってないし、まりさに至っては一日目から排泄も行なっていない。

火責め、水責め、拘束、引き伸ばし、万力締め、折り畳み、押し潰し、締め付け、殴打、刺突、切り裂き、目潰し、エトセトラ。
食事も排泄も禁止されたまりさは、青年の繰り出すあらゆる拷問に耐え切った。
だが、既にまりさは控えめに言っても虫の息という有様だった。

「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」

両目と髪を失い、皮はところどころ黒ずんでいたり裂けていたり穴が開いていたり補修した跡が目立つ。
ピクピクと痙攣し呻くだけの饅頭となっていた。もちろん、まだ生きている。精神もまだ負けてはいない。
ただ、体が壊れたのだ。
その気になれば喋ることも出来るだろう。だが青年はこれ以上の拷問は耐え切れないだろうと判断し、最後に聞いた。

「まりさ、まだ言う気は無いか?」
「な゛っいよ゛……」

体をピクピクと震わせながらそうまりさは答えた。
まりさは、地獄の如き苦しみにも負けず巣の場所は言わなかった。
全ては子供達のため。子供達が助かるのならば、自分はどうなってもいいという親の思いが、青年に勝ったのだ。

青年は嘆息した。まりさへの負けを認めたのだ。
青年はありすをの目隠しをとった。既に涙でベチョベチョでふやけて目から外れかけていたそれをとったありすは、三日ぶりに会うまりさの変わり果てた姿に絶句した。

「ま、まりさ……?」
「あ゛っ、ありず……ま゛り゛ざ…………いわ゛ながっだよ゛……」
「まりざっ、まりざっ! もうしゃべらなくていいよ! ゆっくりしていってね!!」

まりさは泣くのを堪えながら、必死にまりさに呼びかける。
ありすはこの三日間、ずっとまりさの叫び声を聞き続けた。青年が寝る間も自動的に拷問する装置により、まりさへの責め苦は五分と途切れたことはない。
ありすも、眠らずそれをずっと聞き続けていたのだ。たとえ見えてなくても、まりさがどんな大変な目にあったかは分かる。

だから、安心させてあげよう。
自分の声を聞かせ、まりさの心だけでも安らぎをあげよう。
痛みに打ち勝ったまりさへのご褒美だ!






「あ゛っ、あ゛りずぅ……」
「ばりざぁ……」
「ゆっ、ゆっぐ────」









グチャリ
まりさは潰れた餡子になった。

「ま、まりざ……?」

ありすは呆然と声を漏らす。
青年はまりさを叩き潰した玄翁をゆっくりと持ち上げる。
さっきまで会話していたまりさの、成れの果てがそこにあった。
原型を留めない、潰れた餡子と皮。その上にのった帽子が、かつてそれがまりさだったことを表していた。

「まりさ……、まりさ……? まりさ、まりざ、そんなっ、まりさゆっくりしていってね! ゆっくり、できてるよね? 
 まりさ、まりさ、まりりざっ、ばりざぁぁぁぁぁぁ!!! ぞんな゛ぁぁぁぁぁぁ!! どぼじでぇぇぇぇぇ!?」

泣き、叫ぶ。
三日ぶりに会ったまりさは、わずか三十秒でグチャグチャになって死んでしまった。
どうして、どうしてこんな事になるのか。
自分たちは、決して人間と関わらずに生きてきたのに。なんで、優しいまりさにこんな事するのか。

「どぼじでごんなごどずるのぉぉぉぉぉぉ!!!」
「嫌なら巣の場所を言えばいい」

青年はありすの疑問にそう事も無げに答えながら、ありすを透明の箱から出した。

「さぁ、次はお前に聞こう」

ありすは、光の無い目で青年の顔を見る。
その後一日半の拷問の末、ありすは青年に屈してしまった。









「ゆぐっ、おにぃざん、ほんとうにありすゆっくりさせてくれるの……?」
「あぁ、逆らわなかったらな」

ありすを抱えた青年は、まりさとありすを誘拐した山を歩いていた。
ありすに巣の場所へと案内させていた。

ありすから巣の場所を教える約束を取り付ける際、青年はありすを約束をした。
『ありすをおうちにつれていってゆっくりさせる』と。
青年はありすへの拷問の際、『まりさの分まで生きないとな』『可愛い子供達とゆっくりしたいよな?』『子供達心配しているぞ』などと言いいつつ先の約束を取り出して希望をちらつかせた。
その結果がこれである。

一時間ほどし、巣に辿り着いた。
自然に出来た洞穴に住み着いていたゆっくり一家。巣の中では九匹の子供達が元気よく跳ね回っていた。
子供達はこれまでの三日、まりさとありすが溜めておいた備蓄食料で生き延びていたのだ。

「ほら、子供達に挨拶をするんだ」

青年はありすを地面に降ろした。ありすは青年の手を逃れると巣へと一目散。
全力で駆けていったありすは巣の中に入ると、拷問で弱った体に鞭打って子供達に声を放つ。

「ゆっくりしていってね!」

親であるありすの声に、子供達が全員振り返り「ゆっくり(ち)し(ち)ていってね!」の合唱が響いた。
そしてわっ、とありす達に群がる子ゆっくり達。

「ありすおかぁさんおかえりなさい!」
「いままでどうちてたの?」
「まりしゃおかぁしゃんは?」
「ゆっくちちてるの?」

やいのやいの、と子供達が五月蝿く喚きたてるが、ありすはただ嬉しかった。
まだ生きて子供達に会えて、良かったと。嬉しさから、涙が零れた。

「ゆっ? おかぁしゃんないてるの?」

一匹の子ありすは心配そうにありすの顔を覗き込んだ。ありすは「なんでもないわ」と気丈に微笑んだ。
ありすの微笑みに子ゆっくり達が皆笑顔になる。
一匹欠けてはいるものの、幸せな家族団欒の復活である。


その団欒は、十秒で崩れ去る。

ひょい、ひょいと青年が子ゆっくり達を摘み上げていく。
あまりにも自然ですばやい行動だったため、五匹以上攫われてからようやくありすは青年の行動を認知した。

「ゆゆっ!? おにぃさんなにしてるの!」
「何って、お前の子供達貰ってるんだけど。俺を巣に連れてきたんだからこれぐらい予想できただろ?」
「ゆゆゆっ!? なにいってるの! ありすをゆっくりさせてくれるんでしょ!?」
「あぁ、お前だけな」

青年とありすの会話が終わる頃には、子ゆっくりは全て青年の持つ麻袋の中に入れられていた。
中から「ゆっー!」だの「おきゃぁぁしゃぁぁぁん!」などといった声が僅かに漏れる。

「どぼじでぇぇぇぇ!? おにぃさんありすをおちびちゃんたちとゆっくりさせてくれるんじゃなかったのぉぉぉぉ!?」

そう、青年は言ったはずだ。子供達とゆっくりしたいよな、と。

「バカか。そんな約束してないだろうが。俺はただお前の希望を聞いただけだ」

そう、確かに青年が約束したのはありすの身柄の保証だけだった。

「ゆぐっ! やべでっ! ありずのおぢびぢゃんがえじでよぉぉぉぉ!!」

そして、身柄の保証は青年に逆らわない事が条件だった。
ありすが子供を取り返そうと青年に飛び掛った瞬間、顔面に青年の膝がめり込んだ。
吹っ飛ぶありす。洞窟の壁に叩きつけられ、カスタードクリームを僅かに吐き出した。

その後青年は地面に落ちるありすを蹴り飛ばし、蹴り飛ばし、殴りつけ、叩きつけ、踏み潰し、蹴り上げ、掴み、洞窟の壁にたたきつけた。
一撃ごとに呻き声を上げ、泣き声を発する暇も無い連続攻撃。
その後地面にずり落ちたありすに、青年は辺りから拾った木の枝を無数に突き刺した。全て底部に。

絶叫。
白目を向いて口から泡を出して呻く。
何十本もの木の枝がありすの底部に奥深く突き刺さり、ありすの底部を使い物にならなくする。

そこまでして青年はようやくありすへの暴行をやめ、巣から立ち去った。
さっさと家に帰って子ゆっくり達への虐待をしたかったからだ。

巣に一匹残されたありすは、まだ生きていた。
生きて、もう長くは生きられない体になっていた。
もはや言葉にすらなってない呻き声をもらしながら、ありすは家族が誰もいなくなった巣の中で死ぬまでゆっくりしていった。




おわり




────────────

SS書きを休止するといいましたが、事情によりこの一本だけ書きました
以降しばらく休止します


byキノコ馬



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最終更新:2022年05月03日 20:20