『いいつけてやる!』



昼もすぎて、太陽が傾きかけた頃。
人通りの少ない道を行く、4匹のゆっくりれみりゃがいた。

「う~う~♪ ぱたぱた~♪」
「「「うぁっうぁっ♪ ぷっでぃ~ん♪」」」

楽しげに口ずさんでは、えっちらおっちら体を揺らす、れみりゃ達。
この4匹は、森で暮らす家族だった。

先頭を行くのは身長1mほどの親れみりゃ。
そのすぐ後ろに、身長60cmほどの3匹の子れみりゃ達がついて歩く。

「おぜうさまのおとおりだっどぉー♪」
「うー♪ わんわんもにゃーにゃーも、ずがたかいどぉー♪」
「したにぃ~したにぃ~だどぉ♪ ぶれぇーものはたーべちゃうぞぉー♪」
「おぜうさまのかりしゅま☆にみんなびびってるどぉー♪ うつくしさはつみだどぉー♪」

れみりゃ達は楽しげに「ぱたぱた~♪ う~♪」と小さな黒い羽を動かすが、
言葉とは裏腹に、ずんぐりむっくりした体はフワフワ浮いてはすぐに高度を下げ、
結局よたよただばだば歩くことになる。

それは端からみれば滑稽にも思える光景であったが、当のれみりゃ達は幸福感でいっぱいだ。
それぞれが手に持って広げる、ボロボロの日傘とあいまって、
実にエレガントでカリスマな様だと得意満面だった。

そんなれみりゃ達が、ふと足を止める。
その眼前には、ひなびた神社があった。

「「「「れみ☆りゃ☆う~♪ にっぱぁ~♪」」」」

到着を喜んでか、それとも自分達の存在をその場にいるものに知らしめるためか、
れみりゃ達は境内の中央で愉快に踊り合い、可愛さを讃え合うように周囲に笑顔を振りまいた。

「ついたどぉー♪ きょうはここででぃなーにするどぉー♪」
「れみぃー、もうおまんじゅうはあきちゃったどぉ♪ ぷっでぃ~ん☆たべたいどぉ~♪」

ニコニコ笑顔は崩さぬまま、親へ文句をつける子れみりゃ達。
親れみりゃは、そんな子れみりゃ達に腹をたてることもなく、変わらぬ下ぶくれスマイルを浮かべている。

親れみりゃは、子ども達に"おぜうさまのつとめ"を教えるためにここに来ていた。

おぜうさまたるもの、森の中で"あまあま"を食べるだけで満足してはならない。
自然とあふれでるカリスマで従者を増やし、高貴なるスイーツ"ぷっでぃ~ん♪"を得てこそ一人前といえる。
また、それこそが"かりすま☆"たる自分に与えられた権利であり責務であり"でっす☆てぃにぃ~"なのだと、
れみりゃは本気で信じていた。

故に、毎日"おうた"や"だんす"といった、エレガントなレディーになるためのレッスンを、
親れみりゃは愛する子れみりゃ達に課してきた。

そして、今日はそのさらに先のレッスン、"ぷっでぃ~んもってきて~♪"を教えようと、
親れみりゃは家族総出で人間達のところへ遊説に来たのだ。

「うー♪ あがじゃん、だいじょーぶだどぉ♪ まんまぁーのいうとおりにやってみてねぇーん♪」
「「「ゆっくりりかいしたどぉー♪」」」

親れみりゃは、最後の復習とばかりに、
子れみりゃ達に"ぷっでぃ~ん"を得るための手順を教えていく。

身振り手振り、実演をまじえて始まる、親れみりゃのレッスン。
親れみりゃは、足下の石をヌイグルミのような手で掴みあげると、ぽーんと放り投げた。

「まずはー♪ ぽーい☆するんだどぉ♪」

"ぽーい♪ぽーい♪"と、踊りながら物を投げ捨てるジェスチャーを繰り返す親れみりゃ。
子れみりゃ達もそれに倣って、お尻をぷりぷり揺らしながら、物を投げる仕草を始める。

「まじゅいおやさい、ぽぉーい♪」
「くちゃいおさかな、ぽぉーい♪」
「きょうはきぶんじゃないから、くっきぃーもぽぉーい♪」
「「「ゆっくりできないものは、みんなぽぉーい♪ ぽいするのぉー☆ぽぉーい♪」」」

子れみりゃ達が歌うように口ずさむフレーズが揃ったのを聞いて、親れみりゃは満足気だ。
自らの両頬をたたんだ両手で押さえながら、大きな頭を左右に揺らす。

「う~~♪ れみりゃのあがじゃん☆かわいいどぉ~~♪ それにおりこーさんだどぉー♪」

可愛くて自分そっくりの、自慢の子ども達に惚れ惚れする親れみりゃ。

親れみりゃに褒められた嬉しさに、子れみりゃ達はふてぶてしい下ぶくれ笑顔を一層広げる。
そして、両手を物をせびるように前にへつきだし、尻を左右に振りながら、教わった通りの台詞を口にした。

「「「ぽーい♪のおれいにぷっでぃ~ん☆もってくるんだどぉ~♪」」」
「かんぺきだっどぉー♪ かわいいれみりゃたちに、みんなメロメロになっちゃうどぉー♪」

ゆっくりできないものを"ぽーい♪"してあげれば、
その偉大な所行に人間達は平伏し、お礼に"ぷっでぃ~ん"を持ってくる。
もし、"ぷっでぃ~ん"のことを"プリン"などと言う人間に対しては、
「ぶぁ~か☆ぶぁ~か♪ これはぷりんじゃなくて、ぷっでぃ~ん☆だどぉ~♪」
と優しく丁寧に、おぜうさま自らが教えてあげるのだ。
そうすれば、その人間は、寛大でお優しくてとっても賢いれみりゃの召使いになりたがるはずだ。
……それが、れみりゃの思い描く、かりすまおぜうさまと庶民の関係だった。

同時に、れみりゃは思う。
優しい自分達は、貧乏人相手であろうと分け隔て無くきちんとお礼をするのだと。

その点においても、子れみりゃ達は親れみりゃの期待を裏切らなかった。

「「「ぷでぃ~ん☆のおれぇーにぃー♪ とくべつに"のうさつ☆だんす"みせてあげるどぉー♪」」」

子れみりゃ達は、覚えたての"のうさつ☆だんす"を境内で踊り出す。
その光景に、親れみりゃは確かに悩殺されて、興奮を露わにした。

「うぁー☆うぁー♪ ほんとに、ほんとにかわいいどぉーー♪」

親れみりゃは、3匹の子ども達を抱き寄せて、抱きしめては顔をすりすり擦りつけた。
子ども達も、親れみりゃの温かい肉まんボディに「ぽかぽかだどぉー♪」と実にゆっくりした表情を浮かべる。

親れみりゃは思う。
この可愛い子れみりゃ達なら、きっと自分と同じ、
もしかしたらそれ以上の、立派な"おぜうさま"になるんだろうなーと。

それに、もし何か困難があっても、自分たちには"さくや"がついている。
何があっても、さくやを呼べば、さくやに"いいつければ"大丈夫、だから安心だ。
親れみりゃは誰に言うとでもなく、心の中で呟いた。

"しゃくやぁ~♪ かわいい~れみりゃたちを~♪ おまもりしてねぇ~ん♪"

幸せで、微笑ましい親子の団らん。
そのひとときをゆっくりすませて、れみりゃ達は境内の先にある神社へと体を向けた。

「それじゃー、みんないっくどぉー♪」
「「「うっうー♪ すべてのゆっくりはれみりゃたちにみちをあけるがいいどぉー♪」」」

どったどった、だっばだっば。
れみりゃ達は両手をバンザイに広げ、"ぎゃおー♪"と叫びながら走っていった……。



   *   *   *



「……なにこれ?」

神社の主たる、紅白の巫女は、目の前の光景を見て軽く頭痛を感じた。
一休みしようと台所へ来たところ、4匹のゆっくりれみりゃが泣きわめいていたのだ。

すっかり散らかりきった台所の真ん中で、
一際大きい親れみりゃが、仰向けに倒れながら痛がっている。
天に向かって突き上げ振り回すその手の先には、ガッチリとネズミ取りが噛みついていた。

「うぁぁーー! れみりゃのがわいいおででがぁーー! さくやぁーー! さくやきてぇぇーーー!!」

むぎゅーとネズミ取りに挟まれた柔らかな手。
それを取り巻く3匹の子れみりゃ達は、いずれも心配そうだ。

「まんまぁー! しっかりするどぉー!」
「さくやはなにしてるんだどぉー! れみぃーのまんまぁーがおこまりだどぉー!」
「う~~! こんなのれみぃーが"ぽーい"してやるどぉー! はやくまんまぁーをはなすんだどぉー!」

ある者は親れみりゃを励まし、
ある者は助けが来ないことに文句を言い、
ある者はネズミ取りへ向かって息巻いて、親れみりゃを助けようとしている。

だが、3匹の子れみりゃ達の前に、勝手口から1匹の丸い物体が現れ、状況は一変する。
それは、紅白の巫女が、番犬代わりに居候を許している1匹のゆっくりれいむだった。

「うー♪ おまんじゅーがいるどぉー♪」
「ほんとだどぉー♪ あいかわらずぶちゃいくなかおだどぉー♪」
「うぁうぁ☆うっうー♪ おまんじゅうたべて、まんまぁーにげんきになってもらうどぉー♪」

普段捕食しているゆっくりの出現に、一様に笑顔になる子れみりゃ達。
だが、泣きわめいていた当事者たる親れみりゃだけが、ゆっくりれいむを見て違和感を感じていた。

「う、うぁ? な、なんかへんだどぅ?」

親れみりゃの違和感は正しかった。
そのゆっくりれいむは、番犬用のゆっくりとして育てられており、通常よりもはるかに巨大な体を誇っていた。

「ぎゃおー♪ たーべちゃうぞぉー♪」

だが、経験値の少ない子れみりゃは、その危険性に気づけない。
1匹の子れみりゃが、自分よりも大きい、ゆっくりれいむの下へ駆け寄り、
そのまま弾力ある体に弾かれて尻餅をつく。

「う、う~?」

何が起こったかわからず、子れみりゃは首を傾げる。
そんな子れみりゃへ向かって、ゆっくりれいむは不適な笑みを浮かべたまま跳躍した。

「ゆっくりー♪」
「ぷんぎゃぁぁーー!!?」
「「う、うぁ!?」」

親れみりゃの嫌な予感は、現実となって的中する。
果敢にも巨大ゆっくりれいむに挑んだ子れみりゃは、あっさりゆっくりれいむの下敷きになってしまった。

「まんまぁー! たすけてだどぉーー!!」
「うぁぁー! れみりゃのあがじゃんがぁー!?」

辛うじて下敷きを免れた顔を、涙でぐしゃぐしゃにして叫ぶ、子れみりゃ。
それを見て、親れみりゃが"ぎゃー!"と目を見開く。

「う~~! れみぃーのおねぇーさまをはなすんだどぉー!」
「おまんじゅーのくせになまいきだどぉー! れみぃーのかりしゅま☆におそれおののくがいいどぉー!」

下敷きになった子れみりゃを助けようと、他の2匹が腕をぐるぐる振り回してポカポカゆっくりれいむの体を叩くが、
圧倒的質量差の前に、その攻撃は無力だった。

「おお、おろかおろか」

ゆっくりれいむは鼻で笑って、他の子れみりゃ達を弾き飛ばす。
吹き飛ばされた子れみりゃ達はすぐに戦意を喪失し、その場で蹲って泣き出してしまった。

「うっびぃぃーー!! れみぃーのえれがんとなおがおがぁぁーー!!」
「もうやだどぉーー!! おうぢがえりたいどぉーーー!!」

だが、それを見て一番ショックだったのは親れみりゃだった。
可愛い我が子達に命の危険が及ぶなと、危害を加えられるものがいるなど、
親れみりゃは想像したこともなかった。

「ああぁぁーー!! れみりゃのあがじゃんーー!! どぉーじでだどぉーー!?」

目の前の現実が、親れみりゃには理解できなかった。
しかし、とにかく自分の子ども達に危険が迫っていることだけは、いやがおうにも察せられた。

親れみりゃは、ネズミ取りに挟まれた痛みをこらえつつ、
ゆっくりれいむへ向かって"へこーへこー"と土下座を繰り返し始めた。

「ごべんなざいぃーー!! れみりゃだぢをゆるじでくだざいぃーー!!」
「おお、みのほどしらず、みのほどしらず」
「は、はいぃーー! あなたのほうがずっとえれがんどなおぜうさまなんでずぅーー!!」
「れみりゃはゆっくりできてないね! ここはれいむとれいむのおうちなんだよ! ゆっくりりかいしてね?」
「はいぃぃー! ゆるじでぐだざいぃーー! れみりゃはおまんじゅうざまのめしづがいになりまずぅーー!!」

親れみりゃは、生き残るために必死だ。
顔を涙と鼻水とヨダレでぐしゃぐしゃにしながら、卑屈な態度で許しを請うている。

その様子を眺めていた紅白の巫女は、溜息をつきつつ、
ゆっくりれいむに退席を命じた。

「……ゆっくり、もういいわよ」
「ゆゆ! れいむだよ! れいむはゆっくりりかいしたよ!」

ゆっくりれいむは、下敷きにしていた子れみりゃを解放し、ゆっくり跳ねながら勝手口から外へ出て行く。
生きながらえたれみりゃ達はといえば、一カ所に固まって、"うーうー!"と泣きながら抱き合った。

「やれやれ……あんた達もこれにこりて、もう来るんじゃないわよ」

隠してあった煎餅を手に取りつつ、れみりゃ達へ向かって告げる紅白の巫女。
しかし、ようやく紅白の巫女の存在に気付いたれみりゃ達は、頬を膨らませて抗議を始めた。

「う~! おぜうさまにむかって、なんてぶれぇーものなんだどぉー!」
「そうだどぉー! れみぃーたちとってもこわかったんだどぉー!」
「れみぃーたちをこわがらせたつみはじゅうざいだどぉー!」
「でもでもぉー、れみぃーたちはかんだいだからー……」

「「「「ぷっでぃ~ん☆もってきたらゆるしてあげるどぉ~♪」」」」

さっきまでの涙はどこへやら。
声を揃えて、両手を前へ出して"ぷっでぃ~ん"を要求する、れみりゃ達。

れみりゃ達は、さきほどの巨大ゆっくりれいむの無礼な態度は何かの手違いであり、
目の前の人間がその手違いに気付いて慌てて自分たちを助けたのだと考えていた。
そして、怖い目にあわされたぶん、相応のお詫びを受けられて当然だと信じて疑わなかった。

「いやよ。だいたいそんなものウチにはないし」
「「「「どぉーしそんなこというんだどぉーー!?」」」」

紅白の巫女のドライな対応に、れみりゃ達は不満を露わにする。

「うー! おはなしにならないどぉー!」
「おねぇーさんは、おばかさんだどぉー♪」
「のうさつ☆だんすみれなくて、こうかいしてもしらないどぅ?」
「ゆっくりしてないおねぇーさんは、れみぃーのめしつかいにさせてあげないんだどぉー!」

口々に紅白の巫女を罵るれみりゃ達。
一方の巫女はといえば、そんなれみりゃ達を無視して急須を探していた。

「うぁ!」

無視されたことに腹を立てたのか、親れみりゃは何かを決意したように立ち上がる。
その顔には、余裕と自信が満ちあふれていた。

「そうだどぉー♪ こうなったられみぃーをこわがらせたぶんもいぢめてもらうことにするどぉー♪」
「「「うー?」」」

親れみりゃの頼もしい下ぶくれスマイルに、子れみりゃ達は不思議そうに首を傾げる。
親れみりゃは、子れみりゃ達の頭を優しく撫でてから、紅白の巫女へ向かって高らかに宣言した。

「ぷっでぃ~ん☆くれないと、さくやにいいつけちゃうぞぉ~♪」

さくや。
それは、れみりゃを守り、無償の愛を注いでくれる存在の名前。
れみりゃ種にとって、本能レベルで刻み込まれた、切り札の名前だ。

何があろうと、さくやを呼べば大丈夫。
どんなこわいことがあっても、さくやさえいればもう安心。
強くて優しいれみりゃだけのさくや……その名前を聞けばどんな人間でも言うことを聞く。

親れみりゃは、そう確信していた。
だが。

「……いいわよ。さっさと咲夜のやつを呼んで来なさい」
「う~~!?」

その紅白の巫女の返事は、親れみりゃにとって全く予想していないものだった。

「ほ、ほんとに、いいつけちゃうんだどぉー?」
「だから、さっさと連れてきなさいよ。これの文句言ってやるから」

そう語る紅白の巫女の手には、割れた急須の柄が握られていた。



   *   *   *



紅白の巫女から"咲夜を連れてこい!"と言われた親れみりゃは、
べそをかきながら暗い夜の森を彷徨っていた。

「う~~! さくやぁ~~! さくやどこぉ~~!?」

さくやの名前を呼び続けるが、親れみりゃの期待とは裏腹に
肝心のさくやが姿を現すことはなかった。

おぜうさまたる自分がこんなに呼んでいるのに、さくやは何をしてるんだ!
親れみりゃはぷんすか腹をたてて下ぶくれた頬をさらに膨らませる。

「おぜうさまがおこまりなんだどぉー! さっさとくるんだどぉー!」

けれど、親れみりゃがどんなに癇癪を起こそうと、
涙声になろうと、機嫌を取ろうと猫撫で声をあげようと、
特別サービスで"のうさつ☆だんす"を踊ってあげても、
それに応えてくる"さくや"はどこにもいなかった。

どぉーして? なんでさくやは来てくれないの? れみりゃのさくやはどこにいるの?
親れみりゃは頭上に「?」マークをいくつも浮かび上がらせて、獣道を歩いていく。

「う~♪ さくやったらだめいどさんだどぉ~♪ これだからにんげんってつかえないんだどぉ~♪」

解決できない疑問に、とりあえず相手のせいという答を出して、
親れみりゃはふてぶてしい下ぶくれスマイルを取り戻す。

しかし、親れみりゃにはどうしても"さくや"を見つけなければならない理由があった。
頑張って下ぶくれスマイルを維持しようとしても、それが不安となって親れみりゃの顔を曇らせる。

「……うー、さくやぁー、はやくきてほしいどぉー」

呟き、とぼとぼ歩く親れみりゃのお尻、ピンク色の大事なおべべには、大きな足跡がついていた。

それは、いつまでたっても"さくや"を連れてこようとしない親れみりゃを、
紅白の巫女が蹴飛ばして神社から追い出した時についたものだ。

可愛い子れみりゃ達は、"こぁいおねぇーさんと、こぁいおまんじゅー"に人質に取られてしまっている。
自分が頑張って、さくやを連れて行かなければ……親れみりゃはそれを肉まんの胸に刻んで、森を奥へ奥へと進んでいった。

太陽は既に沈み、空には満月が浮かんでいる。
いつもなら月明かりの下、子ども達と"こーまかん"で優雅かつご機嫌なステージを満喫している頃だ。

けれど、今日に限って言えば、ちっともゆっくりできはしない。

あてもなく森を彷徨い、どこからか獣の声が聞こえるたびに、ビクっと体を強ばらせる親れみりゃ。
怖さをまぎらわせるため、さくやーさくやーと空元気で呼ぶことしか、親れみりゃには出来なかった。

「うー、れみりゃのかぼそいあんよが、じんじんするどぉー……あそこできゅーけいするどぉー」

呟く親れみりゃの視線の先には、大木の根本にぽっかり開いた洞があった。
洞は端から見ても大きく、入り口だけでも2m近い広さがある。

「うー♪ あそこならゆっくりできそうだどぉー♪」

親れみりゃは元気を振り絞って、パタパタ羽を動かしながら洞へ向かう。
そして、洞の前まで来て、その中にいる存在を見て目を輝かせるのだった。

「うっうー☆さくやだどぉー!!」

喜色満面。
疲れも忘れて、親れみりゃは興奮を露わに叫んだ。

「さっくやぁー☆さっくやぁー♪ れみ☆りゃ☆うー♪」

洞に中にいたのは、親れみりゃが助けを呼び続け、探し求めていた存在。
そして、自分たち"おぜうさま"に尽くし無償の愛を捧げ続けてくれると信じている存在。
すなわち、"さくや"だった。

ただし、それは紅魔館にいる咲夜ではなく、約50cmほどの胴無し"ゆっくりさくや"であった。

「お、おぜう……さま?」

さくやは親れみりゃを見て、嬉しそうな、
それでいてどこか不思議そうなはにかみ笑顔を浮かべた。

一方の親れみりゃは、疲れと興奮、緊張からの解放でテンションが上がりきっている。
そんな状態の親れみりゃが、さくやの微妙な表情の機微を読み取ることが出来るはずもなく、
警戒することもなくどった☆どった☆と洞の中へ入り込み、さくやに抱きついた。

「うー♪ さくやったらこんなとろにいたんだどぉー♪ はやくれみりゃをたすけにこなきゃだめなんだどぉー♪」

文句を言いながらも、さくやをぎゅっと抱きしめ離さない親れみりゃ。
頬をすりすり、おぐしをなでなで、頭をはむはむ、ちょっぴり中身をちぅちぅ……。
親れみりゃは、あらん限りのスキンシップで、さくやへの思いを爆発させる。

と、その時。
洞の奥から、ずんぐりむっくりした影がぬぼーっと現れた。

「うー? れみりゃがいるどぉー?」

その影の正体は、この洞の主たる、胴体有りゆっくりれみりゃだった。
れみりゃは、自分の従者たるさくやに抱きつく、自分以外のれみりゃを見て、首を傾げた。

「うー?」
「うぁ?」

状況がわからず、きょとんとするれみりゃ。
さくやを抱いていた親れみりゃも、やっとその存在に気付き、顔を上げる。

う~っと視線を交差させるれみりゃ達。
数秒後、爽やかな夜風が洞の中に吹き込んだのと同時に、れみりゃ達はにっぱぁーと下ぶくれ顔を輝かせた。

「うー♪ れみりゃだどぉー♪ はじめましてだけど、とってもえれがんとぅだどぉー♪」
「うー♪ れみりゃこそ、さすがもりのおぜうさまだどぉー♪」

互いの可愛さ、えれがんとさを褒め合うれみりゃ達。
親れみりゃは立ち上がり、洞のれみりゃの下へ「うっあ♪ うっあ♪」ステップを踏みながら近づいていく。
それに呼応して、洞のれみりゃも、「うぁうぁ☆」リズムを刻み始める。

いつしかそれは互いの"だんす"の披露会へとなっていく。
自慢の"のうさつ☆だんす"を見せ合い、一緒に歌って踊り合う。
れみりゃ達のゆっくりした楽しいひととき。れみりゃ達の社交界がそこで繰り広げられる。

「「うっうー☆うぁうぁ♪ れみ☆りゃ☆う~♪」」

ダンスの最高潮をともにして、れみりゃ達は笑顔と"かりしゅま☆"を弾けさせた。
こうなれば、れみりゃとれみりゃはもう友達だ。互いにホカホカ上気する体を抱きしめて、親愛を表現する。

「「う~~☆ぽかぽかぁ~~☆」」

柔らかくて温かくて、それでいて少し独特の匂いのする肉まんボディ。
互いのれみりゃは名残惜しそうに、ハグを解いて、体を左右に揺らしながら、笑顔を交換した。

「う~♪ れみりゃってば、とってもゆっくりしたおぜうさまだどぉ~♪ おともだちになれてうれしぃどぉ~♪」
「れみりゃこそとっても"かりしゅま"だどぉ~♪ えれがんとなおともだちに、のぼせちゃうどぉ~♪」

屈託の無いれみりゃ達のコミュニケーション。
しかし、親れみりゃの方のみが、やがて残念そうに微笑んだ。

「うー、せっかくおしりあいになれたけど、れみりゃにはだいじなようがあるんだどぉー♪」
「うー、それはざんねんだどぉー♪ またあそびにきてだどぉー♪」

名残惜しそうな洞のれみりゃに"イェアー☆"とウィンクを返して、
親れみりゃは、てくてくさくやの下まで歩いていくと、よいしょと両手でさくやを持って頭上に掲げた。

「ゆっくりりかいしたどぉー♪ やさしいおともだちができて、れみりゃはしあわせだどぉー♪」

"ばいばいだどぉー♪"と口にして、洞から出ようとする、親れみりゃ。
それを、洞のれみりゃが慌てて呼び止めた。

「う、うぁ? ま、まってだどぉー♪ さくやはれみりゃのだどぉー♪」

笑顔は崩さず、されど一筋の冷たい汗を流す、洞のれみりゃ。
親れみりゃはといえば、洞のれみりゃの言葉を理解できず、こちらも悪意の無い笑顔のまま、首を傾げた。

「うー? ちがうどぉー♪ さくやはれみりゃのさくやだどぉー♪」

きょとんとしたまま、動きを止めるれみりゃ達。
何度か「さくやはれみりゃのさくやだどぉー♪」という主張をしあっても、それはいつまでたっても平行線のまま交わらない。

「「う、う~~~!?」」
「お、おぜうさまがおふたりも……ああ、さくやはしあわせものですぅーー」

流石に困惑を始めるれみりゃ達。
当のさくやはといえば、本来ならば洞のれみりゃに加勢すべきなのは理解しつつも、
親れみりゃに持ち上げられたまま、愛しのおぜうさま達に取られあう喜びに恍惚としていた。

いつしか、うっすら涙を浮かべてべそをかきだすれみりゃ達。
そんないつ終わるともしれないやり取りを終わらせたのは、洞の外に舞い降りた"ゆっくりフラン"だった。

「ぷぅー?」

エサを集めて帰ってきたフランは、洞の中に見慣れぬれみりゃがいることに気づき、「?」マークを浮かべる。
このフランもまた、この洞で暮らすゆっくりであり、"おぜうさま"の"いもうとさま"であった。

「おねぇーさま、どーかしたの?」

がさがさ落ち葉を踏みしめる音を立てながら、洞へ入ってゆくフラン。
そのフランを見て、れみりゃ達の平行線は、急速に別々の方向へ向かっていった。

「うー♪ ふらんちゃーん♪」
「う、うぁぁぁーー! ふりゃんだどぉーーー!!」

可愛い妹の帰宅に喜ぶ洞のれみりゃとは対称的に、
親れみりゃの方は恐怖で顔をひきつらせて「ぎゃー!」と叫んだ。

親れみりゃは、これまで何度となくフランに虐められながら生きてきていた。
親れみりゃにとって、よそさまのフランは可愛い妹などではなく、恐怖の象徴でしかない。

「さくやぁぁーー!! たずげでぇぇぇーーー!!」

親れみりゃは涙を飛び散らせながら絶叫し、持ち上げていたさくやを投げ捨てると、
全力疾走でだっばだっばと夜の森をかけて、逃げていった。

「「うー?」」

残されたれみりゃとフランは、そんな親れみりゃの急変を不思議に思ったが、
やがてそんな疑問は忘れ、フランのとってきたエサを前にヨダレを垂らして、ゆっくり食事を始めた。

夜の森、どこか遠くで、親れみりゃの絶叫が響いていたが、それがもはや洞の中に届くことはなかった……。

「ふりゃんいやだどぉーー! こぁいどぉーー!さくやぁぁーーー!!」



   *   *   *



「遅い……ゆっくりしすぎよ……」

神社の縁側を掃除しながら、紅白の巫女は顔を上げ毒づいた。
その傍ら、障子の向こうの居間では、預かり物たちがひっきりなしにぐずっている。

「うー、まんまぁーおそいどぉー……」
「れみぃー、おなかがぐるぐるきゅーきゅーだどぉー……」
「うっぐひっぐ、のうざづだんすみぜであげだのに、なんでぷっでぃんくれないんだどぉー……」

当初こそ暴れていた3匹の子れみりゃ達だったが、
その勢いもとうに失われ、今はただ畳の上でえっぐえっぐとベソをかくだけだ。

紅白の巫女が"咲夜を呼んでこーい!"と親れみりゃを追い出してから、既に丸一日近くが立っていた。
たとえゆっくりれみりゃとはいえ、それだけのあいだ子どものベソを聞かされ続ければ、さすがに気が滅入る。

と、同時に、時間とともに巫女の頭を不安がよぎりはじめていた。
もしかしてあの親は逃げたのではないか? そもそもこのれみりゃ達は紅魔館のれみりゃなのか?

最悪の場合、自分が3匹の子れみりゃ達の面倒見なければならないのかと思うと、
紅白の巫女は自分のやっかいな客人と居候を寄せ付けてしまうタチに溜息をつかずにはいられなかった。

そんな矢先のこと。
玄関から聞き覚えのある歓声が聞こえてきた。

"うっう~♪ おまたせしたどぉ~~♪"

その声を聞き、ぱぁーと顔を輝かせたのは、子れみりゃ達だった。
立ち上がって羽をパタパタ、腕をぐるぐる、体をよたよた、昨日までの喧噪を取り戻す。

「うぁ♪ あのおこえはまんまぁーだどぉー♪」
「う~! これでやっとおうちにかえれるどぉー♪」
「はやく、ごーまがんでまんまぁーとだんすおどりたいどぉー♪」

その様子に苦笑しながら、紅白の巫女は一人玄関へと向かう。
けれど、玄関で待っていたものを見て、彼女は言葉を詰まらせた。

「やれやれ、ちょっと咲夜おそかったじゃ……」
「おまたせしましたですわ、だどぉー♪」

そこに、少なくとも巫女の知っている咲夜はいなかった。
それどころか、もしやと脳内で想定していた"ゆっくりさくや"もいなかった。

そこにいたのは、あの親れみりゃだった。

ただし、親れみりゃは、どこからか拾ってきただろうボロボロのエプロンを纏い、
普段かぶっている帽子の代わりにくしゃくしゃの紙切れで作ったヘッドドレスらしきものをつけていた。

「……何してるの?」
「おぜうさまのごめいれいで、あがじゃん……おぜうさまたちをおむかえにきた……きましたわ、だどぉー♪」

唖然としつつも冷たい視線を送る紅白の巫女。
それに対して、親れみりゃはくねくね体を揺らしつつ、紅白の巫女へ向かって頭を下げた。

親れみりゃは、自分自身がさくやに扮装して、子れみりゃを助けようとしていた。
ぼろぼろよれよれになった肉まんボディーを眺めれば、そこに相当の苦労と苦渋の決断があったことが見受けられる。

「……はぁ、もういいわ。子ども達つれてさっさと帰んなさい」

紅白の巫女は、怒りをどこかへ忘れて脱力し、れみりゃ一家を解放することに決めた。
これ以上関わると、こちらが疲れるだけだ……巫女はそう感じはじめていた。

「ありがとうですわ、だどぉー♪ よかったらぷっでぃ~ん☆をよこす……くれるとうれしいですわ、だどぉー♪」
「……そろそろ、ゆっくりのエサの時間ね」

自分の扮装が上手くいったのだと勘違いしたれみりゃが顔に希望を灯らせて余計なことをいいかけたが、
それも巫女の一言と、巨大なゆっくりれいむの影を見た瞬間に、消え去った。

「ゆ、ゆっくりりかいしましただどぉー!」

へへーと地面にはいつくばり、頭を下げる親れみりゃ。
かくして、子れみりゃ達は解放され、一家は"こーまかん"への帰路につくこととなった……。



   *   *   *



ぱたぱた跳ぶ元気も、うぁうぁ☆ステップを踏む余裕も無く、
4匹のれみりゃ達はとぼとぼ森へ向かって歩いていた。

「「「う~~、れみぃ~こあかったどぉ~~!」」」

3匹の子れみりゃ達は、先頭をゆく親れみりゃに連れられて、その後をついていく。
その顔は、3匹ともが涙で濡れて、ぐずぐずになっていた。

そんな子れみりゃ達を可哀相に思い、親れみりゃは足を止めて、子れみりゃ達へ向き直る。
可愛い我が子達を優しく"はぐはぐ☆"してあげようと親れみりゃは考えていた。

「うー、あがじゃん、もぉーだいじょーぶだどぉー♪」

親れみりゃは両手を広げ、子れみりゃ達を抱き寄せようとする。
……だが。

「う、うぁ!?」

3匹の子れみりゃ達は、抱き寄せようとする親れみりゃに抵抗し、暴れ出した。
その顔はぐずりながらも、目の前の親れみりゃに体しる不満で溢れている。

「うー、あがじゃんどーしたどぉー? いっしょに"はぐはぐ☆ぎゅー"して"うー☆"するどぉー♪」

困惑しつつも、笑顔を絶やさないように努める親れみりゃ。
しかし、親れみりゃが愛想を振りまけば振りまくほど、子れみりゃ達は気分を損ねていった。

「うー、れみぃーはさくやのあかちゃんじゃないどぉー!」
「めしつかいのくせにとんだぶれぇーだどぉー!」
「それより、まんまぁーにあいたいどぉー!」

「う、うー!?」

子れみりゃ達のクレームに、戸惑う親れみりゃ。
わけもわからず、親れみりゃは子ども達へアピールを繰り返す。

「なにいってるんだどぉー♪ まんまぁーが、まんまぁーだどぉー♪」

ニコニコ下ぶくれスマイルを浮かべる親れみりゃとは対称的に、
子れみりゃ達は不機嫌から下ぶくれをぷくぅーと膨らませて叫んだ。

「うー! さくやはだまってるどぉー!」
「れみぃーのまんまぁーがそんなきちゃいないわけないんだどぉー♪」
「それより、れみぃーたちがこぁいめにあってるのに、さくやのくせになんですぐたすけてくれないんだどぉー!」

「「「さくやってば、だめいどだどぉー♪」」」

親れみりゃへ向かって、"さくや"に対する不満と文句をぶちまける子れみりゃ達。
子れみりゃ達は、扮装した親れみりゃを"まんまぁーが迎えによこしたさくや"だと、すっかり信じこんでしまっていた。

「う、うー♪ まんまぁーはさくやじゃないどぉー♪ あがじゃんたちのまんまぁーだどぉー♪」

親れみりゃもそのことに薄々気づき、エプロンとヘッドドレスを脱ぎ捨て、
"ぎゃおー♪"と両手をバンザイに上げてポーズととった。

しかし、子れみりゃ達の対応は冷ややかだった。
親れみりゃに気付くどころか、"さくや"が分をわきまえないおかしな言動を繰り返している……そう認識していた。

そもそも、子れみりゃ達は親れみりゃから話を聞いていただけで、実際に"さくや"に会ったことはなかった。

また、現在の親れみりゃは全身ぼろぼろでおべべや帽子も一部欠損しており、
子れみりゃ達の中で美化されていたイメージとはあまりにもかけ離れていた。

故に紅白の巫女が自分たちを解放し、また先ほどまでは自分でも"さくや"だと名乗っていた目の前の存在が、
今更"さくや"ではなく"まんまぁー"なのだと言い出しても、到底信じられなかった。

「ほ、ほら、これをみるがいいどぉー♪ のうさつ☆だんすでめろめろになるんだどぉー♪」

子ども達の視線に耐えきれなくなった親れみりゃは、汗を飛び散らせながら"のうさつ☆だんす"を踊った。
自慢の、そして子れみりゃ達も憧れてくれていた"のうさつ☆だんす"……にも関わらず、
親れみりゃの期待するような反応は返ってこない。

「れみりゃうー! れみりゃうー! うっうーのうー!!」

不安。焦り。混乱。恐怖。
それらを払拭したい一念で、必死になって踊る親れみりゃ。

だが、皮肉なことに。
その必死な様は、普段のよたよだだばだばした"のうさつ☆だんす"とはまるで趣が違っていた。
子れみりゃ達は親れみりゃのことを信じるどころか、やはり目の前の存在は嘘をついているのだと確信してしまう。

結果、子れみりゃ達が出した解答は、ステップ中の親れみりゃめがけての体当たりだった。

「だっどぉぉーー!?」

片足立ちになっているところに体当たりをくらい、
親れみりゃはバランスを崩して尻餅をついていしまう。

「あ、あがじゃん?」

目の前に立つ子れみりゃを見上げる形になる、親れみりゃ。
子れみりゃ達の顔には、明らかな怒りが見て取れた。

「そんなのぜんぜんえれがんとじゃないどぉー♪」
「さくやのくせに、のうさつ☆だんすなんてなまいきなんだどぉー♪」
「のうさつ☆だんすは、れみぃーたちとまんまぁーしかおどれないんだどぉー♪」

親れみりゃはわけがわからなかった。
自分は昨日までのように一緒に踊りたいだけなのに、こーまかんでまた一緒にゆっくりしたいだけなのに……。
すれ違う想いと、目の前にあるのに手の届かない願望に、親れみりゃは切なくなって、涙を流し始める。

「ち、ちがうどぉー! れみりゃが、あがじゃんだぢのえれがんどなまんまぁなんだどぉー……」
「「「うー! いいかげんにするどぉー!」」」

うっぐひっぐと泣き出す親れみりゃ。
その情けない姿に辟易とし、子れみりゃ達は顔を揃えて結論を出した。

「う~♪ れみぃーいいことおもいついたどぉ♪」
「れみぃーもだどぉー♪ こんなだめいどはいじめてもらうにかぎるどぉー♪」
「れみぃーもどうかんだどぉー♪ みんなでいっせぇーのぉー、だっどぉー♪」

「「「だめいどさくやは、まんまぁーにいいつけてやるどぉー♪」」」

これでわからずやな"さくや"も身の程を知るだろう……そう考えて"にぱぁー☆"と笑う子れみりゃ達。
子れみりゃ達もまた、早く"こーまかん"に帰って親れみりゃとゆっくりしたいと切望していた。
そのためにも、子れみりゃ達は目の前の"さくや"をどうにかしたかった。

……切望する親れみりゃが、目の前の"さくや"なのだとも知らずに。

「ひ、ひどいどぉー……どぉーじでわがっでぐれないんだどぉー……」

子れみりゃ達からの扱いに、落ち込む親れみりゃ。
親れみりゃは、まるで呪文のように"まんまぁー"であることを主張し続けるしかなかった。

「ほんとにしつこいどぉー……」
「これじゃゆっくりできないどぉー……」
「ゆっくりできないものは……」

その時。
ピッカーンと、3つの電球が子れみりゃ達の頭上で輝いた。
そうだ、こういう時はどうすべきか、自分たちはちゃんと教わっていたじゃないかと。

「「「やっぱりれみりゃたちってば☆おりこーさんだどぉー♪」」」

子れみりゃ達は互いに同じことを思いついたこと察して、

「「「ゆっくりできないものはー♪」」」

下ぶくれスマイルを全開にして叫んだ。

「「「ぽぉーい☆するどぉー♪」」」



   *   *   *



「う、うあぁぁぁぁーーーー!!!」

親れみりゃは叫んでいた。
3匹の子れみりゃ達に胴上げのような形で持ち上げられ、斜面に放り投げられて。

ごろごろごろ。
もはや崖に近い急斜面を転がっていく親れみりゃ。

ようやく勢いが止まった時、親れみりゃは湖の湖畔にいた。
全身が痛くて、何より心が苦しくて、親れみりゃはなかなか起きあがることが出来ない。

「なんでだどぉ……れみりゃのあがじゃん……ひどいどぉ……」

どうすることも出来ない心と体の痛み。
こんな時、親れみりゃに残された最後の手段は一つだけだった。

だから、べそをかいて、涙をながして、
親れみりゃはその最後の手段をとることにする。

「い、いたいどぉ……さくやはなにしてるんだどぉ……さくやぁ……」

しぼりだす声とともに顔をあげると、湖畔の先に大きな洋館が見えた。
親れみりゃは何故かその洋館に心を奪われながら……いいつけてやった。

「……はやくこないと……さくやに……いいつけちゃう、ぞぉ♪」

そのまま体を丸め込むようにうつぶせになり、目を瞑る親れみりゃ。
昨日から殆ど飲まず食わずでろくに眠らずに奔走した、その心身の疲労はすさまじい。
周囲への警戒を行う余力も無く、親れみりゃはあっという間に深い眠りへと落ちていった。

「うー、うぁー、さくやぁー……」

悪夢にうなされながら、うびぃーうびぃーと荒い寝息をたてる親れみりゃ。
寝汗とも涙ともしれぬものが、下膨れ顔を埋める柔らかい手を濡らすのだった……。



そして、それから数刻後。
その傍らには、銀髪のメイドが立っていた。

「……どうしてこんなところに、れみりゃお嬢様が?」

銀髪のメイドの疑問に答える者は、湖畔にはいない。
その代わりに、親れみりゃがごろんと寝返りをうって寝言を呟いた。

「……うー、うびぃー、もうゆるさないどぉー、さくやにいいつけてやるどぉー♪」




おしまい




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そうえいば「さくやにいいつけてやる!」って台詞を
あんまり使ってないなーと思い、書きはじめて早2ヶ月余。
まさか、こんなに難産になってしまうとは……。

ちなみに私は、件の台詞も、おならも、のうさつ☆ダンスも、ぽーい♪も、
すべて悶絶するくらい可愛くて辛抱たまらなくなってしまうのです。

ぶっちゃけ虐めたいとかの他意は関係無く、ほんとに可愛くて悶絶しかけます。
かといって、それらは一般的には共感されにくい部類でしょうし、
そうじゃないれみりゃも勿論好きですし……我ながら難儀だなと。

まぁ、たぶん病気なんだと思います(笑)
ああ、れみりゃが可愛すぎて生きるのが辛い……。

by ティガれみりゃの人
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最終更新:2022年05月03日 23:58