[甘い話には裏がある] 

fuku3055の続きで最終話。

1.ドスまりさに出てもらいました
2.人間は直接手を下しません
3.制裁でも、虐待でもないと思います
4.行間を読まないとすっきりできないかもしれません


 それでもよろしければ、読んでください。





 「バカなにんげんさん、ゆっくり出てきてね!!」
 「ゆっくりでてきてね!!」
 「いなかものははやくあまあまをだしてね!」


 群れの全戦力を結集して一軒家に向かった。踏み閉めた足は地を揺らし、勇ましい歌は静寂な山を揺らしていった。

 「やぁ、ゆっくり達。みんな集まって何の用かな?」
 「じじい、ゆ……」
 「ゆっくり黙ってね!まりさが話をつけるよ!!」

 そう言うと、ドスまりさは一歩前に出た。
 途端に、男は一歩下がる。ゆっくり光線とやらでゆっくりさせれられてはたまらない。射程距離に入らないように後ずさる。
 今はドスまりさの気持ちを反映してか、くっきりとドスまりさが見える。 



 「なんのようだい?」
 「とぼけないでね!!嘘つきな人間め!!」
 「おいおい、おだやかじゃあないな。僕がいつ嘘をついたんだい?」
 「あのあまあまだよ!みんなに毒を盛ったね!!」
 「ああ、あれ?毒でも何でもないよ。おい!れいむ、アレ持ってこい!!」

 奥にいた美れいむは瓶を転がしながら出てきた。
 ああ、やっぱりれいむはきれいだな~。(ポッ)……いや、そんな場合じゃない。



 「嘘言わないでね!!それのせいでみんながゆっくりできないよ!!」
 「嘘はついてないさ。僕は何て言った?」



 “もう野生の餌じゃあ満足できなくなるくらいにね”



 「ゆぐぐ、でも毒を盛ったのは条約違反だよ!!」
 「毒じゃないさ。その証拠に、ほら。君の仲間達は健康だろ?」

 そういえば、異変があったときに何度確かめてもみんなつやつやもちもちしていた。群れの栄養状況は新しい山に移ってからかなり良かったのに、さらにつやもちになってる。あの人間の言うとおりだ。

 「アレが何かを教えるけどね、アレは水飴なんだよ。麦芽やもちごめが原料で、体に良いんだ。何なら農家でも加工場でも持って検証すれば良いさ。人間にも、ゆっくりにも害はなく、依存症もない。むしろ、笑われて帰ってくるだけだね。アレは、大匙二杯くらいで君達の一週間の食事に相当するんだよ?」

 男は嘘はついていない。
 ただし、ただの水飴ではない。普通の水飴を10倍に濃縮した水飴だ。
 別に聞かれなかったので、そこまで詳しく教えてやらない。
 餡子が中身のゆっくりたちは甘いものを摂取するだけで生きていける。男が与えたビンは適切に使えば一つで群れの一週間の食事を賄える。
 加えて、もち米は消化を助ける。麦芽は砂糖の結晶化を阻害する性質があり、糖分濃度が高いゆっくりの砂糖が人間の吹き出物のようになることを防いで体調を整えるとともに、滑らかな口当たりと濃厚な糖分を提供する。

 食事事情が担保されれば、睡眠欲と性欲が満たされているだけにゆっくりたちはとってもゆっくりできる。自分が極限までゆっくり出来る以上、ほかのことなぞどうでも良い。ドスまりさの「ゆっくりしていってね!!」に反応しなかったわけである。

 水飴の原料は麦芽やもち米であり、水飴による依存症もあり得ない。
 食べれば食べるだけ栄養になるが、かなり濃縮な糖分だけにすぐに満腹になってそれ以上詰め込めないからだ。
 適切に使いこなせれば、群れの越冬も容易になり、人里へ危険を冒していく必要もなくなるはずだ。

 苛酷な環境を生き延びて、今も群れの頭首として気苦労が耐えないドスまりさは「生気がしない」と評価したが、それこそがゆっくりたちが目指すゆっくりだった。
 むしろ、普通のゆっくりたちにとって見れば、食料が有り余ってるのに無意味な越冬準備に励むドスまりさはさぞゆっくり出来ない存在だろう。

 ただ、どんなにおいしいものでも食べ続ければ飽きてくる。段々と舌が慣れ、体が馴染んでくる。
 結果として、同じ量を摂取したとしても同じ効用が得られるとは限らなくなる。食べる量が変わらなくとも、特別でなくなったものを意識的に管理するようなことはしない。気付いていたらもう食べてしまった後だったということだってあるだろう。
 食欲がかつてないほど満たされるようになった結果、ゆっくりたちの欲望は自然と睡眠欲と性欲に向かう。
 とはいえ、この二つの質を上げることは容易なことではない。性欲を満たすためには相手のゆっくりが必要だし、より快眠するためには快適な巣が必要となる。
 水飴は全員に行き渡ったかもしれないが、すっきり相手と巣に関しては人間は関与していない。そのため、限りある上質なものを求めてゆっくり達は競い合うことになった。ゆっくりたちが努力や競争といった言葉を知った瞬間かもしれない。




 男が欲したものは高額で売れる山の幸。人間が山に分け入って収穫をすることは大きな危険を伴う。例え、ゆっくり達が今住んでいる山が比較的安全だとしてもなお慎重に慎重を重ねる必要がある。
 その点、ゆっくりたちは男にとって別に死のうが何ら関係はないし、特注の水飴は値段が多少張るもののノーリスクだ。 

 ゆっくり達にとり栄養価の高い水飴と男が欲する山の幸。図らずも両者の利害は一致していた。

 ただし、男にとり群れの頭首であるドスまりさは厄介だった。人里に行って「条約」などを結ぼうという奴だ。人間に対して保守的な奴が山の幸を人間と交換するとも思えないし、変に知恵をつけてほかの人間と貿易を結ばれても困る。山の幸を取り尽した後にドスまりさを殲滅する……そのために男は山の幸がなくなってからあのような条件で交換に応じ続けた。
 水飴の効用を知らずに、旧体制を維持することで群れを管理するドスまりさの神経を逆撫でる為に……ドスまりさからすればさぞや悔しかったことだろう。実際にはどちらもいい思いをしているはずなのに。

 「ゆぎぃ、で、でも人間が山に入ってゆっくりに干渉することは「条約」違反だよ!!」

 とてつもなく、苦しい詭弁だ。大体、ドスまりさは自分で男と美れいむ(ポッ)に対して群れに歓迎するといった。いまさらそんなことを言ってもどうにもならない。

 「ふ~ん、いちお言っとくね。僕は君達が「条約」とやらを結んだ村の一員じゃないよ?おかしいと思わないかい、僕の家は町からだいぶ離れているはずだ」

 確かにその通りだ。ドスまりさが「条約」を結びに言った村長がいるところからここまで、ゆっくりには分からないが1里も離れていた。

 「さて、どうする?」
 「ゆがアアアア嗚呼ああああああ!!もういい!お前は死ね!ゆっくり死ね!!」


 「ほう?暴力に訴えるか……成る程、うん。悪くない手だと思うよ。僕一人でこれだけゆっくりを相手にするのは流石に骨が折れる。家もめちゃくちゃにされるだろうしね。それに、“僕じゃ”君には勝てそうもないしね。」
 「ふん、今更命乞いしてももう遅いよ!!ゆっくり死ね!!!!みんな!かかれぇ!!!」
 「ゆっくりりかいしたよ!」
 「あまあま~!!」
 「おじさんがかくしてるんだよーわかるよー」

 「ああ、ちょっと待って。最後に一つ言っとこうか。」
 「ゆ?“じせいのく”なら早くしてね!!」なかなか高尚なお言葉をお知りで……。

 「君達は不思議に思わかったかい?君達がゆっくりプレイスと呼んでいる山、どうして君達は争いもなく手に入れることができた?」

 言われてみればおかしい。餌が豊富で、捕食種も少ない。人間に襲われたこともない。こんな絶好のポイントが空いていることなんてまずない。普通ならば、先住ゆっくりと話し合いか、血を血で洗う戦争で勝ち取るものだ。


 「関係ないでしょ!!もういいよね!!!!」
 「ああ、これで終わりにするよ。待たせたね。ところで、君は妙だと思わないかい?君の言いがかりが仮に正しいとしたら、君達が僕に報復することは間違いない。なのに、僕は一人で丸腰だ。」

 確かにそうだ。人間は賢い。詭弁を振りかざして言い逃れをしているが、それでもドスまりさよりは遥かに賢い。自分は人間との全面戦争も止むを得ない覚悟できたのだ。相手が警戒していると思って。なのに、こいつは悠然としている。こいつ、まさか自分は死なないとでも思っているのか?

 いや、それはない。現にこいつも言っているのではないか。自分では私に勝てないって。

 「うん。じゃあかかってきなよ。え~と、君達の群れは……おお凄いね。
 200は下らないんじゃないかな。」

 そうだ、こいつの戯言などどうでもいい。はやくコイツをこ……。














 「でも僕の軍隊のほうが多いね。」



 何を言っているだ。一人しかいないくせに。


 「一人で何言ってるの?ばかなの?しぬの?」



 ああ、それにしてもやかましい。群れ総出では流石にこの音量と振動は仕方がないが、集中できない。
 少し注意しようと思って仲間を振り返って……。



 え?みんな静かにしている?というより、最初と同じ無気力に近くなっている。あの甘いのがきれたのだろうか。


 実は全くの逆で、出陣前にこっそりと摂取した糖分が体に行き渡ったため、興奮が鎮まったのだ。怒ったときは甘いものだよね。



 まずい。これでは戦いにならない。

 いや、ならこの音と振動はどこから来ている?


 「ゆっくりしていってね!!」
 「ゆっくりしていってね!!」
 「ゆっくりしていってね!!」
 「ゆっくりしていってね!!」
 「ゆっくりしていってね!!」
 「ゆっくりしていってね!!」
 「ゆっくりしていってね!!」


 気づいたら、四方を囲まれていた。…………自分と同じ大きいまりさが数匹とその周りに数え切れない数のゆっくり。


 「ざっと、5つの群れはいるはずだ。“僕じゃ”君達に数でも質でも勝てないけど、ドスまりさ同士ならどうかな?同じ戦闘力なら最後に勝負を決めるのは物量だ。」

 何を言っている。ゆっくりがお前のようなにンゲんにみ方すルわけなイ。
 マリさ達は負けナい。

 「クカカカカカカ。滑稽だ、実に滑稽だ。これがさっき君に投げた二つの答えだよ。山にゆっくりがいないのは僕が群れをてなづけたからだよ。君の言う「毒」でね。だって依存症があるんだろ?クカカカッカカ
 そしてもう一つの答え、彼等は僕の用心棒だよ。だって僕がいないと「毒」は手に入らないからね。あれは特注品なんだよ。
 ああ、ドスまりさの後ろにいる君達にも教えとくよ。ここにはあまあまはないよ。僕が毎回独自のルートで仕入れている。僕を殺せば永遠にその作り方はわからない。クカカカカカカ
 でもまぁ、君達にも機会を与えよう。
 そのドスまりさを倒せば君達にもここにいるほかのゆっくりたちのようにあまあまを上げよう。たっぷりとね。」

自分達だけでゆっくり出来る今、ゆっくり達がわざわざドスまりさなどに従う道理などなかった。



「さてと、れいむ。僕達は避難しようか。危ないからね。

 ああ、ドスまりさ。“一人で”戦うつもりなのか?止めはしないけど、勝ち目はないと思うよ。


 まぁ、  ゆ っ く り し て い っ て ね 」




 男は微笑を絶やさなかった。
 そう、男は何も嘘をついていない。虐待をするつもりも、制裁をするつもりもない。
 げに恐ろしきは、人間の狡猾さなり。



 あとがき

 「水飴」と「ドスまりさ同士の戦闘」。

 結局この二つのネタを使いたかっただけ。


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最終更新:2022年05月18日 21:52