冬が近づいてきていた。
ゆっくりできない季節の到来を前にして、ゆっくり達は巣作りに腐心する。
「ゆっ!おかーさん!れいむむしさんとったよ!」
「たべちゃだめだよおちびちゃん!ゆっくりすへとはこんでね!」
褒めて貰えると思った子れいむは膨れっ面になる。
「ゆ〜……」
「がまんしてね、おかーさんとゆっくりえさとりしようね」
ゆっくりとふかふか
by ”ゆ虐の友”従業員
ある日、れいむのおうちにお隣のおうちのまりさがやってきた。
「れいむ!これをみるんだぜ!」
「ゆゆっ?どうしたのまりさ?」
まりさは後背部から頬のあたりまでを、何やらふかふかしたもので覆っている。
見るからに暖かそうな、とてもゆっくりしたふかふかだった。
「ゆっ!」
ためしにすーりすーりしてみた。とても暖かい。
なめらかな肌触りに、れいむはすぐにふかふかの虜になった。
「すっごくゆっくりしてるよぉぉぉぉぉ!!」
「ゆっへん!」
「どこでひろったの?れいむもほしいよ!ゆっくりおしえてね!」
自分もふかふかが欲しいと、れいむはまりさに詰め寄る。
しかしまりさは拒否した。
「それはいえないんだぜ」
「どうじてそんないじわるいうのぉぉぉ!!??」
「だめだぜ!ひっぱるなだぜ!
これはまりさにぴったりの、とってもゆっくりしたふかふかなんだぜ!
れいむみたいなゆっくりできないゆっくりのじゃないのぜ!」
結局、ふかふかを見せびらかすだけ見せびらかして、まりさは自分のおうちへ帰っていった。
「ゆぅ……れいむもふかふかほしいよ……」
あんなにゆっくりしたふかふかがあれば、この冬を越すのもとても楽になるに違いないのだ。
その日れいむはずっとふかふかのことを考えて過ごした。
* * * *
背中に当たる風で、れいむは朝の目覚めを迎える。
ここ最近はずっとこうだ。本格的な冬が始まれば、子供達を狩りに伴わせることさえできなくなる。
「ちべたい……かぜさんゆっくりしていってね……」
れいむは岩の隙間に家を持っていた。
これはこれでかなりの”すてーたす”なのだが、
吹き込んでくる木枯らしの寒さ、岩肌のゆっくりできない冷たさを感じるたび不満は募るばかりだ。
思い出すのは、昨日の出来事。
「ゆゆーん……れいむもあのふかふかがほしいよ……」
二匹の子供が目を醒ました。
「おかーしゃん?」
「ゆっくちちていってね!!」
「おはよう、おちびちゃん。ゆっくりしていってね!!」
狩りに行きたくない。
「………」
ふかふかも無しにゆっくりできないおそとに出て行きたくない。
おそとは今日も、寒風荒れる吹きさらし。
どうしていままで、こんなゆっくりできないおそとに出て行くことが出来たのだろう。
「れいむさむいのやだよ……」
ふかふかでゆっくりするまりさを見てしまったことが、れいむの餡子に深い影を落としていた。
「おかーしゃん!おなかすいたよ!」
「ゆっくちごはんとってきてね!!」
「ゆ……いってくるよ……」
れいむは足取りも重く家を出た。
森の広場に着く。この辺りのゆっくりが集まる餌場だ。
「ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
周りのゆっくりと挨拶しながら、餌を探す。
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていっ……」
その時、れいむの目は一匹のぱちゅりぃに釘付けになった。
「むっきゅ、ゆっくりしていってね」
「ぱちゅりぃ!?ぱちゅりぃもふかふかもってるの!?
れいむもふかふかほしいよ!ふかふかのあるところおしえてね!」
しかし、ぱちゅりぃもまた、れいむの頼みを却下する。
「むきゅん、だめよ」
「どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!??れいむもあったかふかふかしたいよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
おうちに帰ると、子れいむが言う。
「ゆっ!ゆっ!おかーさん!れいむもふかふかほしいよ!」
「れいむにも!れいむにもふかふかちょうだい!!」
きっとお隣のまりさを見たか、または聞いたのだろう。
「おかーしゃん、どうしておうちにはふかふかないの?」
「さむくてゆっくりできないよ!ばかなの?しぬの?」
「そん……………っ!」
”そんなこというのはうちのこじゃないよ!ゆっくりでていってね!!”という言葉を
すんでのところで言いとどまる親れいむ。
ぴちっ。
「いだっ!!??」
ゆっくりにとってはかなりの我慢をしたために、側頭部が裂けて餡子がはみ出てしまった。
「ゆゆゆっ!」
「おかーしゃん、あんこがでてるよぉぉぉ!!!」
「だ、だいじょうぶだよおちびちゃん……ふかふかあげられなくてごめんね……
かわりにおかーさんとすーりすーりしようね」
「ごめんねおかーしゃん……」
「あんこぺーろぺーろしてあげゆよ……」
親子は身を寄せ合って、隙間風からお互いをかばうのだった。
* * * *
ゆゆ?れいむもふかふかひろったよ?
「ゆゆっ!これでれいむもゆっくりできるね!ゆっくりあったかいよ!」
かぜさんはゆっくりしてないけど、これさえあればれいむはゆっくりできるよ!
「ゆっ!ゆっ!あったかいよ!!」
おそとをはねまわってふゆごもりのえさをとるのはつらいけど、
れいむにぴったりのこのふかふかがあればぜんぜんへいきだよ!
「ふーか♪ふーか♪しあわしぇぇぇぇ〜〜♪」
「…………」
幸せな気分で目を覚ますと、もちろんふかふかは無かった。
「やっぱりちべたいよ……」
今日も気乗りしないままに餌場へ向かう。
「ゆ?ゆゆゆ!!??」
餌場に着いたれいむは驚愕した。
まりさ、ぱちゅりぃだけでなく、他の全てのゆっくりがあの”ふかふか”を付けて、
暖かそうに餌を漁っているではないか。
「どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!??」
あまりの理不尽。れいむは感情の赴くままに暴れまわる。
「どぼじでれいむだけふかふかないのぉぉぉぉぉ!!!???
まりざ!!」
「いやだぜ!これはまりさのだぜ!!」
「ばぢゅりぃ!!」
「むきゅん!!ひっぱったってとれないわよ!!」
「ちぇぇぇぇんん!!」
「これはちぇんのなんだねー、わかるよー」
「ゆぅ……ゆぅ……どぼじで……?」
息を切らせてその場に倒れるれいむ。
それを遠巻きに見るゆっくり達からは哀れみの視線が突き刺さる。
「れいむ……ことしはあったかいから、そんなにゆっくりできなくないんだぜ?」
「むきゅ、そうよ。しんとうめっきゃくすればひもまたすずしいのよ」
「ゆぅ……」
「れいむがふかふかなくたって、なかまはずれにしたりはしないであげるのぜ」
「そうよ。それにれいむにはりっぱなおうちがあるんだからだいじょうぶだわ」
「ゆゆゆ……」
聞こえはいいが、それらはすべて親身な言葉ではなかった。
周囲のゆっくりの視線が、言葉が、まったく別なものを語っているようにれいむは感じた。
(おお、みじめみじめ)
(ぱちゅりぃがあんなめにあわなくてよかったわ!)
(かわいそうなんだね、わかるよー)
「ゆ……ゆ……ゆぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
れいむはその場から逃げ出した。
「ゆぐっ、ゆぐっ……どぼじで!?どぼじで!?
どぼじででいぶだけぇぇぇぇぇ!!??」
跳ねれば跳ねるほど、風は冷たくれいむを打つ。
「ゆっぐりでぎないよぉぉぉぉぉ!!!」
* * * *
もちろん、この小さな異変の仕掛け人は虐待お兄さんである。
ゆっくりの集落を調べ、獲物と定めた家族以外すべてのゆっくりに、暖かな”ふかふか”を与えたのだ。
その際、「れいむには決してなにも知らせないこと」との条件を与える。
どうしても口を割りそうな愚かなゆっくりは潰した。
「れいむったらいいきみだぜ!ちょっとりっぱなおうちにすんでるからって、
おたかくとまってゆっくりできなかったんだぜ!」
「むきゅん!おにーさんのおかげで、ことしはゆっくりあたたかいわ!」
「れいむだけなかまはずれなんだねー、ちぇんはだいじょうぶなんだねー、わかるよー」
「今年の冬は暖かいからな……」
お兄さんは呟いた。
たとえ自然が慈悲を恵もうとも、俺はお前達をゆっくりさせはしない。
一匹たりともだ。
「とはいえ、あれだけの数の”ふかふか”はちょっと高価かったな……
俺まで冬を越せなくならなきゃいいが」
お兄さんは、ちょっと馬鹿なのだ。
* * * *
「ぷんぷん!おかーしゃん!さむいよ!」
「こんなつめたいおうちじゃゆっくちできにゃいよ!」
「どぼじでぞんなこというのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
きっとおまえだぢがわるいこだから、みんながふかふかのことをおしえてくれないんだよ!!
ゆっくりりかいしてね!!」
「そんなことないよ!れいむはいいこだよ!!おかーしゃんがぐずでのろまなのがわるいんだよ!!!」
「ゆっくちちたいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「うるさいよ!ゆっくりだまってね!!」
仲間はずれにされたれいむ一家は、毎日いがみ合ってばかりいる。
お兄さんは時たまその様子を覗き見てはほくそ笑む。
「ゆぅ……ゆぅ……さむいよ……ゆっくりできないよ……」
嫌々ながら外へ狩りに出ても、れいむの動きは鈍い。
「ゆっ!ゆっ!ゆっ!」
「むっきゅ、むきゅ」
「むしさんゆっくりつかまってねー」
周囲の暖かそうな様子を見て、実際の寒さ以上に身も心も凍えているのだろう。
「みんなずるいよ……」
「ゆっゆー!」
「むっきゅん!」
「わかるよぉーー!」
「れいむもゆっくりじだい……」
れいむは信じて待ち続けた。
「ちびちゃんたちはどうだかしらないけど、れいむはとってもかわいくてゆっくりしたゆっくりだよ…
きっとすぐにれいむにぴったりのふかふかみつかるよ…」
実際には、このれいむがふかふかを身につけるのはずっとずっと後のことだ。
* * * *
「むきゅ!おにいさん!このまえはありがとうね!」
ぱちゅりぃは男を見覚えているようで、男が姿を現すと向こうから擦り寄ってきた。
「みて!おにいさんにもらったりっぱなふかふか、ちゃんと……」
「ああ、それなんだがね、返して貰うことにした」
男はぱちゅりぃの背中に付けた”ふかふか”を留めていた帯を外した。
ふかふかはするりと抜け、地面に落ちる。
「む、むっぎゅん!やめてね!ぱっちぇはからだがよわいのよ!だいじなふかふか、ゆっくりかえしてね!」
一度ふかふかに慣れた体には、冬の風は余計に冷たく感じる。
しかも、ぱちゅりぃはこれからもっともっと寒さが厳しくなることを知っているのだ。
柄にも無く、緩慢ながらも必死な動作で男にとびかかる。
「ふかふかはどうだった?あったかかったかい?」
男は問いかけた。
「むきゅ!さいこうだったわ!
あったかくて、ふかふかしてて、よるもぐっすりねむれたわ!
だからおねがい、ぱっちぇにもういちどふかふかつけてね!」
「と言うことは」
男は確認の言葉を投げかける。
「もうこれからは、最高じゃなくなるわけだな。あったかくもなく、ふかふかもしてなく、
夜は寒さにおびえて仕方なく眠るんだな?
それでいい、ゆっくりってのはそういうものだぜ」
「どうじでぞんなこというのぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
男は地面に落ちたふかふかを拾い上げる。ぱちゅりぃはそれに追いすがる。
「ぱちゅりぃのふかふか!」
ひょい。男はふかふかを急に持ち上げ、くわえて奪い取ろうとするぱちゅりぃの試みは失敗に終わる。
「かえして!」
ひょい。
「むきゅぅぅぅん!!」
ひょい。
「ぱっちぇのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ひとしきり遊んだあとで、男はふかふかを回収して立ち去った。
後には、疲れ切り、寒さに震えるぱちゅりぃだけが残された。
ぱちゅりぃだけに時間をかけるわけにはいかない。これから、まりさからもちぇんからも、
ありすからもれみりゃからもふかふかを剥ぎ取らなくてはならないのだから。
「むっきゅぅぅぅぅん!!ざむいわぁぁぁぁぁ!!!ふかふかがえじてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ゆっくり冬を越していってね!」
その晩のうちに、すべてのふかふかゆっくりはふかふかを剥がれてゆっくりできなくなった。
「ざむいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「ゆっぐりでぎないぃぃぃぃぃ!!!!」
「こーまがんがざむいどぉーーー!!!ざぐやぁぁぁ!ざぐやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
森にはゆっくりの悲鳴がこだまする。
「これだと相対的にれいむが幸せになってしまうな。よし、バールのようなもので……」
「でいぶのおうぢがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
でいぶほーむれすはいやだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
エピローグ -それからずっと後-
「やあ、れいむ」
「ゆゆ?おにーさんはゆっくりできるひと?」
「その通りさ。れいむが前に欲しがってたものをあげよう」
「ゆゆ?よくわかんないけど、ありがとうおにーさん!!」
男はれいむにふかふかを取り付ける。
「ゆゆ!やめてね!ゆっくりできないよ!」
「またまた。れいむはこれが欲しくて冬じゅう泣いてたんじゃないか。
せっかく持って来てあげたんだから、ゆっくり付けて行ってね!」
「あづいよぉぉぉぉぉ!!!!むしむしするよぉぉぉぉぉ!!!
ふかふかさん!!ゆっくりれいむからはなれてね!」
れいむはゆっくりできないふかふかから逃れようと身をよじる。
しかし、帯で体に巻かれたふかふかはれいむの体に密着し、決して離れようとはしない。
「どぼじではなれてくれないのぉぉぉぉぉぉ!!??ばがなの!?じぬの!?
あづいよ!あづいのいやだよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
跳ね回るれいむを、通りすがりの親子がいぶかしんだ。
「おかーしゃん?へんなゆっくちがいるよ?ゆっくちちてないよ?」
「みちゃいけないよ!あれはばかなゆっくりにちがいないよ!」
「みてないでだすげてよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
跳ねれば暑く、動かずに居ても蒸し暑い。その上水浴びをすることもできない。
れいむの長い夏は、始まったばかりだった。
おしまい。
最終更新:2022年05月18日 22:18