二年参りをしようと、神社に来てみると、この寒い中一組のゆっくり親子が境内にいた。
 特に何の変哲もない、れいむとまりさの親に、子供が各四匹ずつ。

「ゆー!! さむいよーー!!!」
「ゆっくりできないよーーー!!!」
 そりゃ、確かに寒い。
 雪が降って無くったって相当寒いことは確かだ。
 でも、何故そこまでしてわざわざ越冬中にもかかわらず外に出てきたのか。
 ただの馬鹿かもしれなかったが、興味を持ったので暫く観察してみる事にした。

「ゆっくりがまんしてね!! もうすこしまっててね!!」
「まりさのこどもなら、とってもりはつだからだいじょーぶだよ!!」

 騒ぐ子供達を何とかなだめながら、親たちは何かを探すように様々な方向を見ては顔をしかめている。

「ゆきゅーー……。ゆっくりしすぎだよ!!」
「のんびりしてちゃだめだよ!!」
 などといっているが、さっぱり訳が分からない。
 寒さで馬鹿に発破をかけて馬鹿になったのかと思い、加えて時間を見ると丁度いい時間だったので、観察はやめてお参りしようと考え本殿へ。

「ゆゆ!! まちくたびれたよ!!」
「ゆきゅ〜〜〜〜♪」
 一家の横を通り抜けようとしたときに、突然両親が俺に話しかけてきた。

「んあ?」
 予想外の展開に、間抜けな返事をしてしまう俺。
 そんなことは動でもいいのか、二匹は言葉を続ける。

「おかねちょうだいね♪」
「ちょ〜〜だいね♪」
 ……?
 いやいや。今時笑顔で言われたって、たとえ子供相手でもやる人は殆どいないだろう。
 ゆっくりならなおさらだ。

「なんでお前らにあげないといけないの?」
 至極もっともな疑問をぶつけると、ゆっへんと偉そうな表情をして懇切丁寧に説明してくれた。

「ゆゆ!! おしょーがつは、ここにおかねをすてて、おねがいするんだよ!!」
「だから、すてるなら、れいむたちにちょーだいね!!」
「れーむたちが、おねがいきいてあげるよ!!」
「あげるよ!!」

 どうやら、物好きなゆっくりか、元飼いゆっくりだったものが広めたらしいが、参拝のシステムはキチンと理解できなかったようだ。
 それがゆっくりらしいと言えば、ゆっくりらしいのだが、生憎ゆっくりにやる金はない。
 文字通り、本当に捨てたほうがマシだ。

「残念だが。お前らにやる金はない」
「ゆがーーん!!!!」
「ぞんあーーーー!!」
「ゆっきゅりできないおにーさんは、まいしゃたちにおかねをすててね!!」
「そうだよ!! かわいいれいむたちにおかねちょーだいね!!」
 くれる気がないと分かったとたん、一家全員で俺の事を非難してきたが、聞く耳持たず。

「ゆえーーん!! まりさのおぼうしがーーー!!!」
「まっじぇーーーーーーー!!!!」
 親まりさの帽子をピュッと投げて、一家全員で仲良く取りに行っている隙にお参りを済ませることが出来た。

「ゆっくりおかねちょうだいね!!!」
「おかねちょうだいね!!」
 境内から出ようとすると、だんだんと増えてきた人ごみを見て元気が出たのか、すでに俺の事は忘れて、せっせと参拝客に声を掛けまくっていた。

 それでも、誰も年末の楽しいときにゆっくりなどと会話をしたくはないのだろう。
 誰一人として耳を貸すものはおらず、一家はより一層目立ったものになっていた。 
「もうっ!! むししないでね!! ぷんぷい!!」
「こんなにかわいいれいむのおちびちゃんが、はなしかけてるのに、なんでむしするの!!」

「じゃまだよ!」

「んべぇ!!!」
「んひょーーーー!!!!」
「ゆべーーーー!!!」
 ちょっとアレ系のお兄さんが、一家を思いっきり蹴飛ばして去っていった。
 素っ頓狂な悲鳴を残して、そのまま長い長い階段を転がっていく一家。

 のんびりと、俺が階段を下りる頃には、すでに子供は一組を残して死に絶えており、比較的怪我の浅い両親が必死にその二匹を舐めている所だった。

「おちびちゃん!! しっかりしてね!! すぐよくなるよ!!」
「いちゃいのいちゃいの、とんでけーーー!! だよ!!!」

「ゆう……ゆう……。いじゃいーーー!!!」
「ゆっぐりじだいーーー!!!」
 懸命の治療の甲斐なく、その二匹も直ぐに息を引き取ったようだ。
 残されたのは、ボロボロになった二匹のゆっくり。
 本当なら、今頃巣の中でゆっくりできていただろうに、なんだってこんな時期に外に出てきたのやら。

「ゆう……。れいむ。おうちにかえろうか」
「そうだね。おちびちゃんたちのぶんまで、ゆっくりしないとね」
 死体から、帽子とリボンを外して、家路に着いた二匹。
 それを追っている俺。
 さっき飲んだ振舞い酒で、体は温まっているのでそれほど苦ではない。
 予想通りに、一家の巣も近くにあったことも幸いだ。

「ゆーー。ただいま」
「ゆっくりしようね」
 なんてことはない、木の中の空洞を利用した巣。
 入り口は申し訳程度に塞がれているだけだ。

 暗い上に、中に入ってしまわれては、観察する事が出来ないが巣に入るときには、既にある程度 気分は回復していたようだ。
 まぁ、ゆっくりだし。

 このまま帰るのもアレなので、取り合えず中を覗いてみる事にした。
「どっがーーん!! 早朝バズーカデース!!!」
 邪魔な入り口をけり破り、ライターで中を照らす。

「ゆぐ!!」
「ゆえ!!」
 いきなりの事態にポカンとした表情を浮かべた二匹は直ぐに見つかった。
 と言うか、予想通りそんなに広くない巣であった。
 食べ物の備蓄も見当たらない、一家で入ったら殆ど場所がないようだ。
 あんな時期に神社に来た事も納得がいった。

「おにいさん!! ここはまりさたちのおうちだよ!!」
「ゆっくりでていってね!!!」
 漸く、お決まりの文句を言ってきた二匹がキリットした顔で俺の事を見つめている。
 しかし、プクゥッとした頬の所為でまったく迫力がない。
 しょうがないな。
「お前達。冬を越すほどの食べ物がないんだろ。だったら、人間の家に来たらどうだ?」
「ゆゆ!! にんげんのおうち!!」
「いいの? いいの!!」
 俺の提案に、二匹は顔を近寄せてくる。
 正直気持ち悪い。

「ああ。俺は全然構わないぞ」
「ほんとに!!」
「やったぁ!!!」
「こんなおうち、もういらないね!!!」
「そうだね!! ゆっくりできないおうちはゆっくりしんでね!!」
 二匹は、いままっでの鬱憤をぶつけるように、巣の中をめちゃめちゃにし、雪を投げ入れ、それはもう好き勝手に暴れていた。
 おいおい。巣は悪くないだろう。
 一匹だったらゆっくり冬は越せそうだし。

 なんて思ってる間に、気は済んだようで、口々に人間のお家に行ったらやりたいことなどを喋っていた。

「よし。それじゃあ俺が連れて行ってやろう」
「ゆんゆん♪」
「ゆっくりしないで、はやくつれていってね!!」
 本当に厚かましいやつらだ。


 うるさいほど喋り捲る二匹を連れて、戻ってきた。
 そのまま、俺の家の玄関まで連れて来る。
 直ぐ帰ると思ってエアコンはそのままにしてあったので、狭い我が家の中は暖かかった。
「ゆゆゆ!! ゆごくあったかいよ!!」
「ほんとだね!! ここならゆっくりできるぶぇ!!!」
 そのまま家の中に入ってこようとするので、とっさに回しゲリを放つ。
 ちょっと痛い。筋肉痛になるなこれは。

「ゆべべ!! おにーーざんどうじだの!!」
「れいむたちをはやくいれてね!!」
「何言ってんだ? 俺は人間のお家に来たらと言っただけで、誰も住まわせると入ってないぞ」

「ゆゆゆ?」
「なにいっでるのぉーーー!!!」
 その後も、しつこく食い下がってくる二匹に、俺は、街で住まわせてくれる人間の家を探したらどうかと提案しただけの事、来る来ないと決めたのはお前達だということを二三回説明し、ゆゆ〜んと納得しかけたのでそのままバタンとドアを閉めて二匹を見送った。

「おにいざん!! ここをあげでねーー!!」
「ゆっくりしでないで、あげでーーーー!!!」
 暫く騒いでいたが、風呂からあがってみると静かになっていたので、他の場所に行ったのだろう。
 そんなことを思いながら、俺は寝正月を満喫すべく、酒を煽った。


 元旦、お金ちょうだいとうるさい二匹のゆっくりが道端で潰されたと聞いたが、午後に起きた俺には関係が無かった。

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最終更新:2022年05月18日 22:43