(ゆっくりあるいていってね!)
どーん、どーん、どーん、どーん。人里離れた静かな山奥に、一際大きく響く太鼓と男の怒声。
ここはゆっくり牧場。食用のゆっくりを繁殖させる為の施設。
牧場主の「歩け!歩けーーー!」の号令の下、ゆっくり達がゆっくりと行進している。

世は空前の甘味ブーム。老若男女、あらゆる人々が珍しい甘味を欲していた。
そんなブームに乗っかってできたのがこのゆっくり牧場。ゆっくりを繁殖させ、加工し、出荷している。
この牧場で生産されるゆっくり菓は、他と違う一手間を加える事により、市場で絶大な人気を博していた。

その手間とは、ゆっくり達を一切ゆっくりさせない事。ゆっくりさせない事によって味に深みが出て、
その辺にいる野生のゆっくりを食べ飽きた、食通達をも唸らせる菓子ができる。
この牧場の主力商品『泣きゆっくり』を作るため、今日もゆっくり達は歩かされるのであった。


「歩け!歩け!止まるな!ゆっくりするな!」

「止まった奴は繁殖部屋行きだ!死ぬまで強制的に生ませ続ける!生む機械だ!」

「死にたくなかったら歩け!歩けえええええ!」

ゆっくり達は行進を続ける。太鼓の音に合わせ、二列縦隊で一周400mのトラックを歩き続ける。
その間隔は正確に一秒につき一歩。ゆっくり達の周りには鞭を持った男達が目を光らせている。
リズムを乱したものや、落伍したものには容赦ない制裁が加えられた。

「ゆぅ・・・もう・・・もういや・・・」

「ゆゆっ!だめだよ!とまったらおしおきされるよ!」

「もういやだあああああああ!れいむはゆっくりしたいのおおおおおお!!!」

一匹のれいむが叫びながら逃げだした。ここのゆっくり達は全て、生まれ落ちてすぐに
この行進に加えられる。生まれてから今まで一度もゆっくりなどした事が無い。
しかし、親から受け継いだ餡子に刻まれたゆっくりとしての存在意義、ゆっくりとする事。
死の恐怖で縛られていても本能には逆らえず、しばしばこの様な個体が出てくる。

このれいむの末路も今迄にいた逃亡を企てたものと同じ。見せしめの体罰の後、繁殖部屋送り。
ほどなく職員に捕まえられたれいむはゆっくり達の前に連れてこられる。
ゆっくり達はぴょんぴょんとその歩みを止める事無く、れいむへの虐待を見せつけられる。

「このゆっくりは今、列を抜け出しゆっくりしようとした!」

「いつも言っているはずだ!そういう行為は一切認めていないと!」

「繰り返す!ゆっくりしようとしたものは、無条件で繁殖部屋行きだ!」

ぴょんぴょんと行進を続けるゆっくり達の横で牧場長が怒鳴る。
その手には髪を抜かれ、片目を抉られ、底面に焼きを入れられぐったりとしたれいむの姿が。
ゆっくり達にはどうする事もできない。ただただ、泣きながら行進を続けるだけ。

「ゆぅぅぅ・・・」

「れいむぅ・・・れいむぅぅぅ・・・」

「ゆっくりしたいよぅ・・・」


ゆっくり達の行進は続く。疲れた、お腹すいた、ゆっくりしたい、などと泣きながら歩き続ける。
そんなゆっくり達の周りに、背にタンクを背負った職員達が集まる。食事の時間だ。
食事と言っても野生のゆっくりの様に「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪」とできる訳では無い。

職員達はタンクから延びたホースを手に取り、ゆっくり達にシャワーを浴びせる。時間にして十秒ほど。
タンクの中身は成長促進剤と強力な栄養剤。皮から栄養を摂取したゆっくり達は歩き続ける。
十秒チャージ、二時間キープ。このサイクルが出荷されるまで続くのだ。
Sサイズとして出荷されるものは三か月、Mサイズは半年。贈答用のLサイズともなると一年も苦行が続く。

「さあ歩け!歩け!ゆっくりするな!ゆっくりするな!」

「お前達に許されているのは歩く事と泣く事だけだ!」

「ゆえええええん!ゆえええええん!」

「どうじでこんなめにあうのおおおおおお!」

「だれかゆっくりさせてよおおおおお!」


(ゆっくりうんでいってね!)
ゆっくりの繁殖部屋。近隣で捕まえたゆっくりや、列から逃げ出したゆっくりが集められている。
身動きも取れない程にギッシリと詰め込まれたゆっくり達。天井からは霧状になった薬品が降っている。
ゆっくり用の媚薬と栄養剤が混ぜられたそれを浴びたゆっくりは、朦朧とした意識の中
ひたすらに隣にいるゆっくりと頬を擦り合わせすっきりし続ける。

「ゆうううう・・・すっきり・・・しよう・・・ねえ・・・」

「すっきりー・・・」

「あああ・・・また・・・すっきりしちゃう・・・」

「まりさぁ・・・すっきり・・・しよう・・・」

「れいむは・・・れいむだよ・・・まりさじゃ・・・ない・・・」

「どうして・・・もう・・・すっきりしたくないのに・・・ゆっくりしたいよ・・・」

「すっきり・・・すっきり・・・すっきり・・・」

やがてゆっくりから蔓が延び小さな赤ゆっくりができると、
職員達が部屋の窓から網と高枝切り鋏を使って慎重に取り出す。
蔓がついたままの赤ゆっくりが運ばれる先は栽培室。

栽培室には赤ゆっくりが付いた蔓が並べられている。蔓の先には液体の入ったビーカー。
その様はまるで水耕栽培の様。蔓を伝って栄養と睡眠薬を吸収した赤ゆっくりは、
行進に耐える大きさに成長するまでこの部屋で眠り続ける。

「ゆっ!ゆっくりしていってね!」

「ゆっぴいいいいいいいい!!!!!」

数日たって十分に成長し、自身の重みで蔓から落ちた赤ゆっくりは、床に落ちた衝撃で目を覚ます。
そこへすかさず職員が針を使って痛みを与え、一瞬たりともゆっくりさせない。
痛みでわんわん泣く赤ゆっくりが次に運ばれて行くのは育児室。

育児室ではこの牧場内でのゆっくりの生活について教育される。
ゆっくりは人間に逆らってはいけない。
ゆっくりは常に歩き続けなければいけない。
ゆっくりはゆっくりしてはいけない。

赤ゆっくり達は職員の振るう鞭に追い立てられながら、この三点の命令を体に刻みこまれる。
スピーカーから大音量で流れ続けるこの命令を、鞭から逃げながら72時間聞き続けた赤ゆっくりは、
晴れて外で行進する仲間達に加えられ、泣きながら歩き続ける事になる。

「さあ、今日からは外でお前の仲間達と一緒に歩き続けるんだ!」

「止まるな!ゆっくりするな!止まったものには死あるのみ!」

「繁殖部屋送りになりたくなかったら歩き続けろ!」


(よるもゆっくりしないでね!)
夜。日は完全に落ち、ゆっくり達が行進するトラックには照明が点けられる。
辺りが真っ暗になってもゆっくり達は休めない。夜勤の職員達がゆっくりを追いたてる。

「ゆぅぅぅ・・・ねむいよぉぉぉ・・・」

「ゆっくりしたい・・・ゆっくりねたいよぅ・・・」

「ゆぅ・・・ゆぅ・・・」

「こらああああ!そこ!寝るんじゃない!」

「ゆぅぅぅぅぅぅ・・・」

もし眠ってしまったら、歩みを止めてしまったら、即座に繁殖部屋送り。
ゆっくり達は疲れた体に鞭打って、重い瞼と戦いながら歩き続ける。
そこへ一人の職員がタンクを背負ってやって来る。ただし中身は栄養剤では無い。

「ほら!お前らもっとシャキッとしろ!カラシ入りの水だ!これで目を覚ませ!」

「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!!!!」

カラシ入りのシャワーを浴びたゆっくり達は悲鳴を上げる。
致死量では無いものの、ゆっくりにとって辛い刺激物は毒。体中に痛みが走る。
目を真っ赤に充血させ、舌をだしたゆっくり達は口々に職員に哀願する。

「いだいよおおおおおお!!!」

「おねがいじまず!ちゃんどあるぐがら、おみずぐださいいいいい!!!」

「ゆっぐりでぎないいいいいいい!!!」

「ようし!丁度いい感じに目が覚めたな!それじゃ、更に目を覚まさせてやる!」

「テンポアップだ!走れ!走れ!」

どん、どん、どん、どん。太鼓の音がペースアップする。それに合わせてゆっくり達が走り出す。

「走れ!走れ!遅れたものは繁殖部屋送りだぞ!」

「死にたくなかったらとっとと走れ!」

「ゆ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」

「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「まだまだあああああああ!テンポアップだ!全力疾走!」

どどどどどど。太鼓の音が連打に変わる。ゆっくり達は体の痛みも忘れ、泣きながら走り続ける。

「ようし!いいぞ!走れ!走れ!」

「そのまま三周だ!全力で走れ!一番遅かったものはその場でぶっ殺す!」

「走れ!走れえええええええええええ!!!」

「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」

「まだじにだぐないよおおおおお!!!」

「だれがだずげでえええええええ!!!」

ゆっくり達の長い夜はまだ続く・・・


(あめのひでもゆっくりあるいていってね!)
翌日は雨。ゆっくり達は体育館に入れられていた。しかし、当然ゆっくりできる訳では無い。
体育館の床は動く歩道の様になっていて、歩き続けないと壁に押しやられてしまう。
後ろの壁には無数の針。ゆっくり達は死に物狂いで泣きながら歩き続ける。

「ようし、注目!これから映画を見せるぞ!その前にお前達に確認する事がある!」

「おい、お前!お前だ!一番手前のゆっくり!きったねえリボンを付けたお前だ!名は!」

「ゆっ!れいむはきたなくないよ!きれいなゆっくりだよ!」

「なんだとっ!貴様!人間様の言った事に異を唱えるつもりか!」

「ゆゆっ!」

「こいつを連れて行け!繁殖部屋送りだ!」

「ゆううううう!ごめんなさいいいいいいい!」

「うるさいっ!もう遅いわっ!」

「いやあああああああああ!!!」

「おい!そこのお前!くっさい帽子を被ったお前だ!名は何だ!」

「ゆっ!まりさのなまえはまりさだよ!」

「ようし!ではまりさ!貴様らの種族は何だ!答えてみろ!」

「まりさたちはゆっくりだよ!」

「ゆっくりにとっての生きる意味とは何だ!」

「ゆっくりにいちばんだいじなのは、ゆっくりすることだよ!ゆっくりするのがいいゆっくりだよ!」

「ほう!ゆっくりするとはこういう事か!」

牧場長はプロジェクターのスイッチを入れ、スクリーンに映像を映す。映し出されたのは野生のゆっくり。
生まれたばかりの赤ゆっくりに、少し成長した子ゆっくり。れいむとまりさの若いつがい。
皮に張りの無い老いたゆっくりもいる。親子三世代のゆっくりの様だ。

スクリーンに映し出されるのは、ゆっくり家族の実にゆっくりとした生活の様子。
母に甘える子ゆっくり。姉に舐めてもらい、くすぐったそうに笑う赤ゆっくり。
子供達に歌を教える母ゆっくり。その様子を嬉しそうに眺める老ゆっくり。

食事の風景。ゆっくり家族が美味しそうに果物を食べている。
まだ小さい赤ゆっくりには母親が口移しで食べ物を与える。

食後の散歩。母親を先頭に、歌いながら野原を歩く子供達。
蝶やバッタを追いかけて走りまわり、遊びに疲れると老ゆっくりの周りに集まり昔話を聞く。

睡眠の時間。母親を中心に、子供達が体を寄せ合い眠りにつく。
母の温もりを感じながら夢の世界へ。まだ寝たくないと駄々をこねる子に子守唄を歌って聞かせる母。

何もかも自分達とは違う理想的なゆっくり生活。その映像を見たゆっくり達は歩きながら涙を流す。
どうして自分にはお母さんがいないのだろう。家族一緒にゆっくりしたい。
同じゆっくりなのに・・・どうして・・・どうして・・・

「どうだ!これがお前達の言うゆっくりか!」

「ゆぅぅぅ・・・ゆえええええん!おかあさああああん!」

「まりさもゆっくりしたいよおおおおおおお!!!」

「お前達もゆっくりしたいか!」

「ゆうううう!!!ゆっくりしたいよおおおおおお!!!」

「ようし!ならば聞け!お前達にもゆっくりとした生活を与えてやる!」

「ゆゆっ!」

「ただし、今すぐじゃない!三ヶ月か、半年か、一年か!」

「この牧場で毎日ちゃんと歩き続けたもの、一時もゆっくりしなかったものは後でちゃんとゆっくりさせてやる!」

「ゆーーーーーーーーーっ!!!」

「どうだ!嬉しいか!ゆっくりしたいか!」

「ならば歩け!止まるな!ゆっくりするな!我々に逆らわず歩き続けたものだけゆっくりさせてやる!」

「歩け!止まるな!振り返るな!後れを取るな!列を乱すな!前に進め!」

「お前達はまだゆっくりじゃない。ただの糞饅頭だ!ボロボロの汚いクズだ!」

「ゆっくりになりたいか!ゆっくりしたいか!ゆっくりしたかったら我々に従え!」

「歩け!歩け!止まるな!決して止まるな!ゆっくりするな!」



地獄とも言える様な長くゆっくりできない生活を終えた牧場のゆっくり。
その最期に連れて行かれる先は加工室。そこで彼女達の一生は終わりを告げる。
そこでゆっくりと各種拷問を加えて殺され、生まれてから一切ゆっくりしなかったゆっくりの完成。
後は体を綺麗に拭いて髪型を整え、箱詰めすれば銘菓『泣きゆっくり』のできあがり。


どーん、どーん、どーん、どーん。人里離れた静かな山奥に、一際大きく響く太鼓と男の怒声。
ここはゆっくり牧場。食用のゆっくりを繁殖させる為の施設。
牧場主の「歩け!歩けーーー!」の号令の下、ゆっくり達がゆっくりと行進している。
ゆっくり達は在りもしないバラ色のゆっくり生活を夢見て、今日も泣きながらゆっくり歩き続ける。

end



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最終更新:2022年05月19日 11:27