※俺設定注意










ドスまりさの目の前でゆっくり達は全滅した。

泣き喚くもの、状況を理解せずに脅しつけるもの、命乞いをするもの。
人間はそんなゆっくり達を差別しない。
全て平等に、踏み潰し、切り裂き、引き千切り、殺す。
親ゆっくりも子ゆっくりも赤ゆっくりも老ゆっくりもすべてみんな殺されてゆく。

もちろん、ドスまりさもその殺戮の範疇にいた。
体は切り裂かれ、脳天に杭を打ち込まれているドスまりさの意識はない。

やがて処刑は終わる。
里の広場という処刑場にあるのは餡子。餡子。餡子の海。
気付けば日も暮れ始め、人間達はそれぞれの家に帰る。満身創痍のドスまりさを置いて。

だが、ここで奇跡が起こる。
ドスまりさの意識が目覚める。
本来ならば有り得えない。いくらドスとて、これほどの傷を負えばそのまま死ぬはずだった。

やがてドスまりさは地面にうち捨てられた帽子を拾い、ゆっくりと這い出す。

まただ。また、やってしまった。
ドスまりさはゆっくりと這う。おうちへと帰るのだ。

今回で何度目だ?一体、いくら死なせれば気が済むのだ?
ドスまりさの胸中に浮かぶものは後悔。

ドスまりさは今まで何度も群れの全滅を見てきた。
ある時は突然の大雨。ある時はれみりゃの大群。そして、今回は人間の里に手を出してしまった。
他にも例をあげればきりが無い。
それほどまでにゆっくりは死にやすい。

今度こそ。今度こそこの群れは、立派にゆっくりさせてみせる。
そんな想いを何度も抱き、何度も打ち砕かれた。

この世はゆっくりできないものが多すぎる。そうだ。そうなのだ。
人間もれみりゃもふらんも山犬も雨も風も自然も何もかも、すべてがゆっくりできない。

もう解った。ゆっくりできないものには近づかない。近づきたくない。
だから次の群れは。次の群れこそはゆっくりさせてみせる。
ドスまりさは傷を庇うようにゆっくり這っていく。

その脳天には、いまだに杭が打ち込まれたままになっていた。










人間が立ち入ろうともしないような森の奥。
ここはゆっくりの理想郷。
ここのゆっくりは皆ゆっくりと、しあわせに暮らしている。
ゆっくりできないものなど無い。すべてがゆっくりしている。
ドスまりさは全てのゆっくりがしあわせー!になれるように、この理想郷を「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」と名づけた。









ゆっくりぱらのいあ










日の光が射しこむ朝。木の下に掘ったおうちの中で、まりさはゆっくり目覚める。
遂にこの日がやってきてしまった。
朝日の下、憂鬱な気分を紛らわすように溜息を吐く。

まりさの属する群れには、あるひとつの掟があった。
成人を迎えたゆっくりは、定期的に”お仕事”に就かねばならない。
まりさはこの春大人の仲間入りをした。今日初めて”お仕事”に就く。

これが普通の狩りや家事ならば、喜んでやろう。
まりさは本来そういう仕事に憧れていたし、その能力もあった。
だが違う。これからやる”お仕事”はどう考えても喜べるものではない。

”お仕事”を放棄することは出来ない。
そんなことをすれば群れの長が黙っては居ない。
良くて追放、悪ければ・・・・・・まりさは考えるのを止める。

こんなことを考えても仕方が無い。
今日”お仕事”を済ませれば、当分の間は大丈夫。この群れに大人のゆっくりは数多くいる。
ゆっくり特有の前向き思考で、まりさは現状の問題を棚上げする。

こんな時はお兄さんと遊んだときのことを思い出そう。
まりさの話を聞いてくれて、まりさにいろんなことを教えてくれたとってもいい人。
今度はいつ会えるのだろう?また会って遊んでほしい。

楽しいことを思い浮かべるけれどもやっぱり憂鬱。
まりさはそんな気分で、森の広場へと向かっていった。





森の広場。
そこだけ木が切り取られたような広い空間に、巨大な饅頭が鎮座している。
この群れの長、ドスまりさだ。

「まりさ。まりさはゆっくりしてる?」
「もちろんだよドス。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』だよ」

嘘だ。本当はゆっくりなどしていない。
だが嘘をつく。そうでなければ殺されてしまうから。

このドスまりさは狂っていた。
ドスまりさはこの群れ、「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」をゆっくりにとっての理想郷だと信じ込んでいる。

ドスまりさは森の外は、ゆっくりできないものがうようよしていると信じている。
彼らは「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」の破壊を目的にしているのだ。
そのためドスまりさは、こんな森の奥に引っ込み、手出しができないようにした。

さらにドスまりさは、群れのゆっくりの中にも反逆者が混じっている、と信じている。
彼らはゆっくりできないもの、例えば人間と通じており、「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」の破壊を目論んでいる。
彼らは忠実な群れのゆっくりに化けている。探し出し、処刑しなくてはならない。

ここのゆっくりは、皆ゆっくりしている。何故ならば、ドスが皆にゆっくりを提供しているから。
ドスはみんなの友達であり、ドスはみんなのことを常に考えている、ドスまりさは自分でそう信じている。
従って、群れのゆっくりは皆ゆっくりとしていなければならない。
もしゆっくりとしていないならば、それこそ反逆者である証拠だ。

「れいむ。れいむはゆっくりしてる?」
「もちろんだよドス。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』だよ」

「ありす。ありすはゆっくりしてる?」
「もちろんよドス。ゆっくりしてるのはとかいはの『ぎむ』だわ」

「ぱちゅりー。ぱちゅりーはゆっくりしてる?」
「むきゅ、もちろんよドス。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』よ」

「ちぇん。ちぇんはゆっくりしてる?」
「もちろんだよー。ゆっくりしてるのはゆっくりの『ぎむ』なんだねー」

今日集められたゆっくりは5匹。
れいむ、ありす、ぱちゅりー、ちぇん、そしてまりさ。
この中で”お仕事”が初めてなのはまりさとぱちゅりー。
2匹は幼馴染みだった。

「今日はあつまってくれてありがとう。さっそく”お仕事”の説明をするよ」

一通り挨拶し終えたドスは話を切り出す。

「この前、ゆっくりできないれみりゃを見かけたという報告があったよ」
「れみりゃはゆっくりできない。ゆっくりできないものはこの森にいてはいけない」
「ドスはそう考えたよ。だからみんなに集まってもらった」
「みんなの”お仕事”は、そのれみりゃを永遠にゆっくりさせること」
「もちろん、反逆者がいたら報告してね。場合によってはその場で処刑してもいいよ」

きた。これだ。まったくゆっくりできない。
両親から聞いた話の通り過ぎて、まりさはさらに憂鬱になる。

「全てのれみりゃ・ふらん・その他捕食種はゆっくりできないよ」
「この森に住むゆっくりたちは全てゆっくりしており、この「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」は
 そうした完璧なゆっくりのみに許されたゆーとぴあだよ」
「ゆっくりしていない外見、中身、その他もろもろを持ったゆっくりは見つけ出され、根絶しなければならないよ」

知っている。
この森には飾りを無くしたゆっくりなんて者は居ない。
この森にはドスに逆らうゆっくりなんて居ない。
なぜなら飾りを無くせばドスに殺されるから。ドスに歯向かえば殺されるから。
最低のディストピアだ。

「ドスに内緒のお話・行動をしているゆっくりは反逆者だよ」
「ドスが知らない、認めていない組織に参加しているゆっくり。ドスが知らないということはその組織は秘密組織であり、
 それに参加する者はドスや、「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」に危害を加えようとしているものと判断するよ」
「そんな反逆者は、狩りだして処刑されねばならないよ」

それも知っている。
秘密の狩りに出かけたもの。隠れてすっきりをしたもの。
彼らは全てドスに殺された。

この群れには密告というルールがある。
不穏な行動を取るゆっくりをドスに密告し、その報酬として安全を約束される。
自分の保身のために他のゆっくりを売る。
お陰でこの森から逃げる算段をつけることすらも難しい。

「ドスは君達の力量を考え、十分な装備を提供し、適切な任務を与えるよ」
「つまり、君達の任務成功率は100%だとドスは確信しているよ」

嘘だ。
ただのゆっくりがたった五人で、れみりゃに敵うと思っているのか。
それにこの森にれみりゃなんて居ない。
とっくの昔にドスまりさが狩りつくしてしまった。

報告というのもどうせ誰かの口から出任せ。
居ないものをどうやって捜せというのか。
つまり、まりさ達の任務成功率は0%だ。

ドスまりさの傍からゆっくりにとりが顔を出す。
このにとりも狂っていた。
まりさ達に手渡されるのは複雑に変形した棒のような何か。
おそらくはドスまりさの話を聞いて作った何かの模造品。これが「十分な装備」とは、恐れ入る。

「もし任務が失敗してしまうようならば、ドスはそれを反逆者の陰謀だと判断するよ」

まりさ達は任務の失敗を言い繕うために、反逆者を捜し出す。
別に反逆者である必要はない。誰かをそう仕立て上げれば良いだけのこと。
これからまりさたちが行うのは、自分達の命をかけた騙し合いだった。

「それからもう一つ!もし人間さんを見つけたら、必ず報告してね!」
「人間さんはゆっくりできないよ!人間さんはゆっくりできないよ!人間さんはゆっくりできないよ!」

壊れたようにドスまりさは繰り返す。
過去に何かあっただろう。それほどまでにドスまりさは人間を恐れている。

だがまりさは報告しない。
そんなことをすれば殺されてしまう。
ドスからすれば人間と会っているゆっくり=反逆者だからだ。
馬鹿正直に話をして、ドスまりさに反逆者と思われたら元も子もない。

「それじゃあみんな、頑張ってきてね!ドスはここで皆のことを応援してるよ!」

まりさ達5匹は、れみりゃが居たと報告された場所へ向かって歩き出す。
これから居もしないれみりゃを捜し出して、5匹の中の誰かを反逆者にするのだ。
まったくもって非生産的な”お仕事”。
楽しすぎて涙が出る。

そういえば、まりさは本当に反逆者なんだっけ。
ドスに内緒で人間さんと出会い、遊んだ。殺されるには十分な理由。
それだけのことで死んでたまるか。誰を犠牲にしてでも、絶対に生き延びてやる。
まりさはそう決意し、森の中を跳ねていった。





広場から遠く離れた森の何処か。
今まりさはひとり、森の中をぶらついていた。

当然のように、れみりゃはいなかった。
報告があったという洞穴。どこを探そうとれみりゃの影も形も見当たらない。
それでも一応、どこかに居るかもしれないという理由でまりさ達は分散して捜索を続けることにした。

死体は自分の無実を証明できない。
だから、まず先に殺してから相手に罪を被せることのほうが楽だ。
五人全員一緒に居ていつ誰から襲われるともわからない状況より、ひとりの方が気が楽だった。

このままでは任務は失敗に終わる。
その前に誰かに反逆者になってもらわねば。誰がいいだろうか?れいむあたりがいいかもしれない。
当然、相手も同じ事を考えている。殺るか殺られるか。
そう考えながら、まりさは周囲を捜索する振りを続ける。

突如。
目の前の茂みから、がさがさと音が鳴る。

まりさは驚愕する。
誰だ。れいむかありすかちぇんか。誰がまりさを殺しに来た。
いや、まさか。もしかしたられみりゃかもしれない。
もし本当にれみりゃが居たとしたら、今まりさはひとり。殺される。
あらゆる可能性が頭の中を駆け抜け、まりさを青褪めさせる。

しまった。いくら危険でも、全員で固まっていた方が良かったのかもしれない。
ここでまりさは殺され、後の4匹はまりさを反逆者ということにして生き延びる。
嫌だ。絶対に嫌だ。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……

もうまりさが何を後悔しても遅い。茂みをかき分け、出てきたのは―――

「お、いたいた。まりさ、ゆっくりしていってね」

まりさの不安は外れた。茂みから出てきたのは、人間さん。
そう、まりさと一緒に遊んでくれたお兄さんだ。
安心とともに地面にふにゃりとへたれ込むまりさ。

「ゆ、ゆぅぅ……。びっくりさせないでね、おにいさん」
「?」

お兄さんが首をかしげている。一体何のことかわからないのだろう。
お兄さんに説明してあげなきゃ。まりさはゆっくりと、今の状況を説明し始めた。





「ふーん……成る程ね。難儀だな、お前も」
「ゆぅ……ゆっくりりかいしてくれて、うれしいよ……」

大体の説明を終え、お兄さんはまりさを励ましている。
こんな異常な話に理解を示してくれたお兄さんに、まりさはさらに好感を持った。

「お前んとこの長が狂ってて、今お前は誰に殺されるかわからない状況だと……すごい話だな」
「ゆ……そうなんだよ」

普通ならばこんな話は信じられない。少なくとも、まりさは信じない。
でもお兄さんは信じてくれている。人間さんはとってもゆっくりできるとまりさは思った。

「俺にはどうすることも出来ないけど……とりあえずこれ、食べるか?」
「ゆゆっ?それ、なぁに?」

懐から真っ赤な丸いものを取り出すお兄さん。
初めて見るそれに、まりさは疑問を呈する。

「見たこと無いのか?トマトっていうんだ。美味しいぞ」
「ゆっ……?」

日の光を浴びて輝くトマト。言われてみればとても美味しそうに見える。
まりさはふらふらとお兄さんに近寄り、トマトを一口かじる。

「おっ……おいしぃ~!!しあわせぇ~!!!」

思わず涙が出てしまう。
それくらいに美味しい。ほんのりとした酸味と甘さのコラボレーション。まるで太陽の味。
まりさは脇目も振らず、トマトを平らげる。

「おにいさん!ありがとう!おいしかったよ!」
「どういたしまして。傷物でよかったらまだまだあるよ」

更に懐からトマトを取り出すお兄さん。まりさはトマトにかぶりつく。
ああ、こんなに美味しいものをくれるだなんて。やっぱりお兄さんは良い人だ。人間さんはゆっくりできる。
ドスは何であそこまで人間さんを恐れるのだろう?こんなに人間さんはゆっくりできるのに。
赤い果実を食みながら、まりさはそんなことを思った。





もう日が高く昇っている。
お兄さんと別れ、まりさは歩き出す。
トマトのお陰でおなかは満腹。気力も充実。
今ならば誰にも負ける気がしない。生き残るには最高のコンディションだ。

そろそろ洞穴の前に戻るべきか。
このまま一人で居続けたならば、いつの間にか反逆者に仕立て上げられ、逃亡したということになりかねない。
そうなればドスまりさの山狩りが始まる。逃げ切れるとは思えない。
まりさは急いで元来た道へと引き返す。

「ゆっくり!ゆっくりいそぐよ!……ゆっ!?」

何か声がする。
ゆっくりしていない罵声。何か争うような音。洞穴の前で誰かが戦っている。
まりさは木の陰に隠れ、様子を伺う。

「まっででねおぢびぢゃん!!今がらままがおぢびぢゃんのがだぎをうづがらね!!」
「ゆあ゛っ、ぐるな゛、ぐるな゛ああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

ゆっくりありすとゆっくりれいむ。
恐怖を顔に貼り付けながら逃げるれいむを、修羅もかくやという表情のありすが追っている。

「までっ、までえええええぇぇぇぁぁぁああああ!!!!おぢびぢゃんのがだぎいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!」
「ゆひいいいぃぃぃぃ!!!!ごなっ、ごないでえええぇぇぇぇぇぇぁぁぁああ!!!!」

すでに両者はぼろぼろだ。まりさが到着する前からふたりは戦っていたのだろう。

「じねえええええええええええええぇぇぇぇえええ!!!!!」
「ゆびゅぇっ!!!」

ありすの体当たりが炸裂する。吹っ飛ぶれいむ。

「じねっ!じね、じねえええええぇぇぇ!!!」
「ゆびゅっ!!!ぶっ、ぼぉっ!!!」

すかさずれいむに圧し掛かるありす。
そのままれいむを踏みつけだした。

「おまえのっ、ぜいでっ!!まりざがっ、おぢびぢゃんがっ、じんだっ、んだっ!!」
「げびゅっ!!ぶびょっ!!びょぶっ!!ぼびっ!!ぶぽっ!!」

ありすの踏みつけは終わらない。
どんどん餡子を吐き出し小さくなっていくれいむ。

「おばえざえっ、おばえざえいながっだら、ありずはっ!!」
「びょっ!ぶっ!ぼぇっ!」

おそらく、ありすの家族はれいむの密告によって反逆者として処刑された。
偶然にもれいむと”お仕事”をすることになったありすは、仇を討とうとしたのだ。
こんな光景は珍しくない。密告によって家族を失うゆっくりは大勢いた。

「までぃざどっ!!!おぢびぢゃんどっ!!!いっじょにっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ありすは止まらない。
れいむが皮だけになっても、まだ跳ね続けている。

「ありずは・・・・・・じあわぜに・・・・・・」

ようやくありすは止まる。
れいむだった饅頭皮に顔をうずめ、泣き始めた。

まりさは隠れるのをやめた。
そっとありすの傍に近寄る。

「ありす・・・・・・」
「ゆ・・・・・・?ま、まりさ・・・・・・?」

ありすは顔を上げる。涙と泥と餡子でぐちゃぐちゃの顔。

「まりさだ・・・・・・まりさ・・・・・・まりさ・・・・・・」

何度もまりさの名前を呼ぶありす。様子がおかしい。

「ゆふ、ゆふふ・・・・・・!あのれいむをやっつけたから、まりさがかえってきた!」

何を言ってる・・・・・・そう言おうとして、まりさはやめた。
このありすは狂った。長年の仇を討ち、復讐という精神の拠り所を失ったのだ。

「まりさが、まりさがかえってきた!」

れいむを殺しても、まりさとおちびちゃんは帰ってこない。
わかっていたはずの現実から逃避し、ありすは楽しい夢の世界へといった。

「あれ?まりさはかえってきたけど、おちびちゃんがいないわね?」

きょろきょろと周囲を振り返るありす。
その瞳に正気の色は無い。

「おちびちゃんったらいったいどこにいったのかしら・・・・・・まりさ、しってる?」

まりさに子供の居場所を尋ねるありす。
まりさは首を振り、わからないと言った。
まりさにあの世の場所などわかるはずも無い。

「もう、おちびちゃんったら!ままにこんなしんぱいさせて、いけないこね!」

言葉では怒りつつも、その顔は満面の笑顔で満たされている。
きっとおちびちゃんがいた頃のありすはこんな感じだったのだろう。
慈愛に満ちた、優しいママ。

「まりさはそこにいてね!ありすはおちびちゃんをさがしてくるわ!」

まりさを洞穴に残し、ふらふらとありすは歩いていく。
見つかるはずの無いおちびちゃんを捜しに行くのだ。

「おちびちゃん~♪かくれてないででておいで~♪」

少しずつありすの姿は遠く、小さくなっていく。
おちびちゃんを呼ぶ声は、本当に楽しそうだった。

やがて、ありすの姿は見えなくなった。
でも、あの声は。
楽しそうにおちびちゃんを呼ぶ声はいつまでも消えずに、まりさに届いていた。





それからすぐに、ちぇんとぱちゅりーは戻ってきた。
まりさはれいむが反逆者であったこと、自分がそれを倒したことを伝えた。

ありすはれいむに食われたことにした。
生きていると知られるよりも、死んでいると思われたほうがあのありすにとって幸せだと思えたのだ。

結局、任務は失敗に終わった。
邪悪なる反逆者・れいむがその命を以ってまりさたちを阻んだのだ、ということにした。

森の広場で、ドスまりさに報告を行う。

「―――というわけで、にんむはしっぱいしちゃったよ、ドス」
「ゆうう!!反逆者がいたなら、仕方ないね!!」

まりさの言い訳に納得するドス。
任務は失敗だが、反逆者を見つけたことで満足したようだ。

「それじゃあ皆、お疲れ様。今回の任務はおしまい―――」

任務の終了を言い渡そうとするドス。
れいむという犠牲を払って生き延びられたというまりさの安心を―――

「まってねドス!はんぎゃくしゃはまだこのなかにいるんだよ!わかってねー!」

―――ちぇんの叫びが、阻んだ。

「ゆ?どういうこと、ちぇん?」
「わかるよー!まりさははんぎゃくしゃだったんだよー!」

まりさの息が詰まる。
一体どういうことだ。このまま行けば任務は完了するはずだったのに。

「ちぇんはみたんだよー!まりさがにんげんさんといっしょにいるところを!
 まりさはにんげんさんからなにかあかいたべものをもらっていたよー!
 たのしそうにおしゃべりしてたよー!きっとまえからにんげんさんをしっていたんだねー!」

ちぇんは見ていたのだ。まりさが人間さんと出会った一部始終を。
それだけならばまだ良かったかもしれない。その後ちぇんはまりさを見失った。
そして洞穴に戻ってみればまりさと、れいむの死体があった。

きっとまりさは人間さんの手下として、れいむを殺したに違いない。
ありすがれいむに喰われたというのも嘘だ。きっとまりさがありすを殺して、食ったんだ。
なにも知らぬちぇんが、そう思ったのも不思議ではない。
本当の反逆者を告発するのに一片の躊躇もない。

「まりさのいってたことはうそだよー!きっとれいむとありすはまりさにころされたんだよー!」
「・・・・・・本当なの?まりさ」

能面のような無表情でドスまりさが問う。
やばい。やばいやばいやばい。殺される。何とかしてこの場を切り抜けなければ―――!

「ちっ、ちがうよ!ドス!そのちぇんのいってることはうそだよ!」

咄嗟にそんな言葉が口から出る。
こうなったら、ちぇんを反逆者にしてしまおう。そうでなければ、自分がそうなる。
まりさは覚悟を決め、嘘を並べる。

「まりさはそんなことしらないよ!きっとちぇんがにんげんさんのてしたなんだよ!
 まりさをはんぎゃくしゃにして、ころそうとしているにちがないよ!
 どす!だまされちゃだめだよ!このちぇんのほうこそはんぎゃくしゃだよ!」
「ちがうよー!まりさがはんぎゃくしゃだよー!わかってねー!」
「・・・・・・ゆうううぅぅぅぅ・・・・・・」

ドスまりさは悩む。
両者の言っていることは正反対。どちらかが反逆者だという明らかな証拠が無い。
はたして本当のことを言っているのはちぇんか。まりさか。

「まりさはしょうにんがいるよ!まりさはぱちゅりーといっしょにいたよ!」
「むきゅっ!?」

突然話を振られ、うろたえるぱちゅりー。
ドスまりさがパチュリーの方を向き、訊ねる。

「本当なの、ぱちゅりー?」
「む、むきゅううううううう・・・・・・」

おろおろしているぱちゅりーを見ながら、ちぇんは哂う。
何を言っているんだ、あのまりさは。
あの時まりさはひとりで、ぱちゅりーなどいなかった。まりさは自分の首を絞めたようなものだ。
虚偽の告発は、それも反逆だ。あの反逆者まりさは、処刑されるのだ。

「・・・・・・ほ、ほんとうよ。ぱちゅはまりさとずっといっしょにいたわ!」
「にゃあ!?」

ぱちゅりーの言葉に驚くちぇん。
そんな。どうして。何故そんな嘘を。
ちぇんはぱちゅりーの言っていることがわからない。

「ぱちゅはまりさといっしょにいたけど、にんげんさんなんてみなかったわ!ちぇんのいってることはうそよ!
 きっとちぇんがにんげんさんにあって、まりさをはんぎゃくしゃにするよういわれたにちがいないわ!」

ちぇんは知らなかった。
このぱちゅりーはまりさの幼馴染みだということを。
日々互いが密告をする群れの中で、2匹は信頼しあっていたということを。

ぱちゅりーは何も知らない。
まりさが人間さんと出会っていたことなど知らない。
まりさの言っていたことは嘘だということも知らない。
ただ、まりさのため。そのためだけに今こうして口裏を合わせている。

「いだいなちせいをもったドスならわかるでしょう!ちぇんははんぎゃくしゃよ!」
「ちっちがうよおおおおおおおお!!!わがっでねえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

今度はちぇんがうろたえる番だった。
まりさは反逆者だったはずなのに、いつのまにか自分が反逆者ということになっている。
しかも相手には証人が居る。2対1。絶体絶命。

「・・・・・・ドスは判断したよ」

ゆっくりと口を開くドスまりさ。

「ドスはちぇんを反逆者だと判断し、これを処刑するよ!」
「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あああ!!!ぢがうよおおおおお!!!ドズぅ、わがっでよおおおおおお!!!!」

泣きながら自身の潔白を訴えるちぇん。
だが無駄だ。もうドスまりさはちぇんを反逆者と決めている。反逆者の言うことなど聞かない。

ゆっくりと開かれる口。
そこにはちぇんを消し去るための光が満ちる。ドススパークだ。

「反逆者はゆっくりしないで死んでね!!」

閃光。
まりさは見た。ドスの口から放たれる、灼熱の焔を。
小さく引き絞られた口径により、威力を高められた光の槍がちぇんを穿つ。
スパークと言うよりはまるでレーザーのよう。

ドスまりさは少なくとも勤勉だった。
己の身を守るため、群れを人間やれみりゃから救うために研鑽し続けた。
その結果がこのレーザー。このドスまりさだけが編み出した、新たなる武器。

ちぇんの額に穴が開く。
びくびくと痙攣し、白目を剥くちぇん。穴は深く、ちぇんの後頭部まで貫通している。

だがドスまりさはまだ止めない。
二度三度、レーザーを撃つ。次々にちぇんの穴が増えていく。
発射時間を抑え、その代わりに連射を可能にしたこのレーザーに隙は無い。

危なかった。まりさはそう思う。
一歩間違えば、自分がこうなっていたのだ。ドスの恐ろしさを改めて再認識する。

ドスまりさは止まらない。
ドスまりさがレーザーを撃つたび、森にレーザーの発射音が木霊する。

最早ちぇんが蜂の巣と見分けが付かなくなった頃。
ようやくドスまりさはちぇんを撃つのをやめた。

「―――ふぅ。反逆者はゆっくり死んだよ!」

元ちぇんだった穴だらけの何かの前で、ドスまりさは笑顔でそう言った。
最初の一発で死んでいたのに、何故ここまでやる必要があるのか。
やはりドスまりさは狂っているのだ。どうしようもない偏執狂。

「ごめんね、まりさ。ドスはまりさのことを疑ってしまうところだったよ」

まりさに謝るドスまりさ。
疑ってしまうところだった?思い切り疑っていたではないか。今は謝罪より、さっさと開放してくれ。
まりさは心の中で毒突く。

「さぁ、まりさ、ぱちゅりー、ご苦労だったね!"お仕事"は終了だよ!」

今度こそ任務の完了を告げるドス。
ようやく終わった。まりさは安堵する。
このふざけた茶番も終わり。次の"お仕事"がいつかは解らないが、とりあえずそれまではゆっくりできる・・・・・・。

「まりさとぱちゅりーにはご褒美をあげなくっちゃね!」

突然、ドスまりさがそんなことを言い出した。
ご褒美?なんだそれは?
両親の話にも出てこなかったご褒美とやらに、まりさは興味を持つ。

もしかしてまりさ達が優秀だったからご褒美をくれるのかもしれない。
5人の内、2人も反逆者がいたのだ。普通だったら全滅していてもおかしくはない。
生き残った2人は、それだけ優秀だった。ならば一体どんなご褒美が出るのだろう。

もしかして綺麗なたからものかもしれない。
ドスまりさが持っていると言われていたキラキラと輝く石。
そんなものがあれば、まりさは一生他のゆっくりに自慢ができるだろう。

もしかして沢山の食べ物かもしれない。
ドスまりさは群れの食料を管理している。そこからご褒美としてまりさに融通してくれるのでは。
自分の身体が埋まるほどの量の食べ物。一体どれほど幸せだろう。

もしかして。もしかして。もしかして。
まりさの期待は際限なく高まる。

「まりさたちには・・・・・・あの・・・・・・えーと・・・・・・なんだっけ・・・・・・
 あの赤くて丸い、とってもおいしいもの。あのほっぺが落ちそうになるあれの名前は・・・・・・」

ああ。それはトマトだ。赤くて丸くて美味しいもの。
あの太陽のような輝きを持った食べ物は、まりさの心の中に刻まれていた。

「ゆっ!ドス、それはとまとさんだよ!」

まりさは指摘する。ドスのご褒美はトマトだったのか。
トマトならばご褒美として申し分ない。さぁ。早くトマトを。トマトをくれ。
まりさがドスに向かってそう言おうとした時。

「・・・・・・まりさ、トマトさんって一体何?トマトさんは人間さんの食べ物だよ」

冷たく重い、ドスまりさの言葉が返ってきた。

「まりさ、まりさは人間さんのことをよく知らないはずなのに、なんでトマトさんのことを知っているの?」

まりさは凍りつく。
やばい。しまった。迂闊だった。何とかしなければ―――。

「まりさは人間さんと出会ったことがないんでしょ?それなのになんでトマトさんのことを知ってるの?
 人間さんを知らないのに、トマトさんは知ってる。
 もしかして、まりさは人間さんと出会ってるんじゃないの?」

ドスまりさはまりさを騙したのだ。
ちぇんを処刑したとき、ドスまりさはまりさのことも疑っていた。ちぇんの証言は具体的過ぎる。
赤い食べ物とは一体何か。恐らくだが、トマトのことか、苺のことだろう。
ドスまりさはまりさにカマをかけてみたのだ。知らないならば良し、もし知っているならば反逆者。

「まりさはドスに嘘をつき、人間さんと出会っていた。これは立派な反逆行為となるよ!
 よってドスはまりさを反逆者と見なし、これを処刑するよ!」

まりさの目の前が真っ暗になる。もう駄目だ。まりさは死ぬ。
絶望の涙を流すまりさ。

「それからぱちゅりー!ぱちゅりーはドスに嘘をついていたね!
 ぱちゅりーはまりさと一緒にいたと言ったけど、それなら人間さんと出会っていることになるよ!」
「む、むきゅ!ドス、じつは、ぱちゅりーは・・・・・・」
「もしぱちゅりーがまりさと一緒じゃなかったなら、それもドスに嘘をついたことになるよ!
 ぱちゅりーはドスに嘘をついた!これは立派な反逆行為であり、ドスはぱちゅりーを反逆者だと判断するよ!」
「む゛、む゛ぎゅううううううううううう!!!」

ぱちゅりーも反逆者となった。
もうまりさたちに逃げる手段はない。

「ドスはまりさ、ぱちゅりーの両名を反逆者として認め、刑の執行を開始するよ!」

またも口を開くドス。その中には滅びの光。
今度その照準が向けられるのはちぇんではない。狙うのは、まりさ達。
最早まりさたちに希望はない。絶望し、涙を流しながら寄り添う二匹。

一体何のために生まれてきたのか。
自分達はゆっくりするために生まれ、生きてきたはずだ。それが何故、こんなことに。何故こんなことで死ななければならない。
もっとゆっくりしたかった。まりさ達はそう叫ぼうとして。

その叫びは光の中に呑み込まれていった。

「・・・・・・ゆぅ。まさか全員死んでしまうとは思わなかったよ」
「でも次のまりさ達なら。今度のゆっくり達なら、もっとうまくやってくれるよね」










「―――もしもし、○○さんですか?ええ、はい。私です。いつもお世話になってます」

今俺は電話をかけていた。相手は少し離れた里の重役さん。

「はい。いました。きめえ丸が巡回中に見つけたんです。
 ・・・・・・ええ、うちのゆっくり園の中に逃げ込んでました。もう群れを作っていますね」

少し前、とあるドスまりさが群れを率いて里にちょっかいを出したらしい。
勿論その群れは潰され、ドスも殺されたはず・・・・・・だった。

「ええ、いえ、いいんですよ。別にうちの商品の価値が下がるというわけでもないし。
 こちらとしても貴重なドスがゆっくり園にいるというのは好ましいことですから」

ところがそのドスは満身創痍ながらも逃げ仰せ、今は俺が所有する食用ゆっくりの繁殖地―――「ゆっくり園」に逃げ込んだ。
ここと向こうの里ではかなりの距離があるというのに、大した奴だと思う。

「はい。それに、結構面白い個体ですよ、奴は。どうもそちらでお灸を据え過ぎたようでしてね。
 どうやら人間を恐れているようなんです。それも異常なくらいに」

今のドスまりさはとても変わったルールというか、指導方法を群れに課している。
いや、指導方法とは言い方が悪かった。あれではまるで粛清と、独裁だ。本当に変わっている。

「それに他にも面白いところがありまして。"ドススパーク"ってご存知でしょう?
 あれが少し変わってましてね。まるでレーザーみたいに連射してるんですよ」

毎日毎日誰かを疑っては、殺す。その日々をドスまりさは送っている。
きっとあのレーザーはそんな中で生み出されたものかも。実に興味深い。

「ああ、大丈夫です。連射が効くといっても、相手は人間を恐れているし、危険はありませんよ。
 それに、あのレーザー程度じゃ問題にはなりません。駆除しようと思えばいつでもできます」

それに何より面白いのは、ドスがそんな暴君だというのに意外と群れの安定は保たれているということだ。
心優しい名君より、狂った無慈悲な暴君。そっちの方がゆっくりには合っているのかもしれない。

「しばらくは様子を見ようと思っています。あのドスが一体どういう群れを作っていくのかが興味あるので。
 ・・・・・・ええ、どうも。ありがとうございます。それでは、また」

受話器を置く。傍らにはゆうかと、きめえ丸が立っていた。

「よし、きめえ丸。お前はもう一度監視に言ってこい」
「おお、了解了解。まったくゆっくり使いの荒いことで」
「ゆうかは俺についてこい。ちょっとあの群れのゆっくりに接触するぞ」
「わかったわ、お兄さん」

はてさてドス。お前は一体、その狂った頭でどんな理想郷を作ろうとしているんだ。










人間が立ち入ろうともしないような森の奥。
いや、正確にはここは私有地。だから誰も立ち入ろうとしない。

ここはゆっくりの理想郷。
ここのゆっくりは皆ゆっくりと、しあわせに暮らしている。
ゆっくりできないものなど無い。すべてがゆっくりしている。
それは嘘だ。全てはドスの妄想。ただドスがそう思っているだけ。

ドスまりさの頭にはいまだ杭が刺さっている。その杭のせいか、はたまたこの世の現実か。そのどちらかが、ドスまりさの心を狂わせた。
ここには幸せなゆっくりなど一匹もいない。ドスまりさは繰り返し滑稽な茶番を行う。
ドスまりさは全てのゆっくりがしあわせー!になれるように、この地獄を「ゆっくり・あるふぁ・こんぷれっくす」と名づけた。









――――ゆっくり、あなたはゆっくりしてる?



――――ZAP!

――――ZAP!

――――ZAP!










おわり









―――――
元ネタはボードゲームの「パラノイア」です。
閉ざされたディストピア。狂った管理者。敵はモンスターではなく、他のプレイヤー。
いかに生き延びるか、あるいは滑稽に死ぬか。
そんな設定に心惹かれました。

といっても元ネタの設定の良さの10分の1すら伝わってないとおもうんだねー、わかるよー!
て言うかボードゲームやったことないくせにこんなSS書くなんて身の程知らずだったんだね、わかるよー!!


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最終更新:2022年05月19日 12:38