れみりゃは俺が一番最初に飼い始めたゆっくりである。
今思えば、れみりゃは俺にいろんな切っ掛けをくれた。
そう、今の自分を形作っている中には、確実にれみりゃの影響があるのだ……



   ◇ ◇ ◇
「うっうー♪ぷっでぃんもってきてー」
「ほら、何バカなこと言ってるんだ。ちゃんと給仕ができなかったんだから、約束通り指結びだな」

俺はそう言いつつれみりゃの手を掴むと、ぶよぶよした指を本来曲がらない方向に曲げながら片結びをした。
親指結びではない。その柔らかすぎる指を利用して、同じ手の人差し指と中指を結んでいるのだ。

「うわぁぁぁ!!! ざぐやぁぁぁ!?!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり。それじゃ、次こそ溢さずに運んでこいよ?」
「いだいど!! いだいどぉぉぉ!!!」
「…………」
「ぼういや!!! ぼういやだぁぁぁ!!! ごーまがんにがえるぅぅぅ!!!」

床を転がりながら子供のようにだだをこねつづけるれみりゃを静かに見るが、特にこれといった感情は湧き上がってこない。
こんなの、ここ数日では当然の光景だからだ。
でも駄々をこねられて不満であることをれみりゃに伝えるため、とりあえず形だけでも大きな溜息を吐いておく。

「……はぁ、次は頭に針でも埋め込んでみるか。少しは頭が良くなるだろ」
「――――ッ! わ、わがりまじだぁ……。ゆっぐりはごんでくるどぉ……」

急に泣きわめくのをやめたかと思うと、青い顔をしながら台所へゆっくりと移動していった。
れみりゃの記憶力でも、一応は昨日の出来事を覚えているらしい。
片手の指を結んだらそれだけコップが運びにくくなることは、どうやらまだ理解して無いようだったが。


このれみりゃは、俺が見つけた初めてのれみりゃだった。
もちろん胴無しはそこそこ見かけていたけれど、この前運良くこの胴つきを捕まえたのだ。

れみりゃは自己再生能力が強い。
腕をもぎ取っても一晩経てば生えてくるし、栄養状態が良ければ毎日もぎ取っても死ぬことはない。
しかしれみりゃは、腕が生えてくるごとに腕をもぎ取ったことを忘れてしまう。それを覚えさせたければ、相当に長い期間が必要だろう。
そこで俺はこうして羽や指を結んだり、異物を埋め込んで痛みを持続させる方が向いていると思ったのだが、どうやら正解だったようだ。
今ではそこそこ素直に言うことを聞いてくれる。


俺はある計画を始めていた。
同士ならば、先ほどれみりゃに給仕をさせようとしたことで解るだろう。

―――『れみりゃはメイド長計画』である。

元々は『普段さくやとか言ってるれみりゃなんだから、メイドにされるのは屈辱なんじゃないか?』というのが始まりだ。
だが、思いのほかそれは良いことに気が付いた。気がついてしまった。
……新たなるジャスティスの誕生である。

無謀かと思うかもしれない。
しかし、俺はやり遂げてみせるっ!
幸いにも他に趣味は持ってないし、今は大学の夏休みだ。時間もたっぷりある。



え? メイドならさくやを探せって?
ドジっ子アホメイドの良さがわからんとは哀れな奴め。



   ◇ ◇ ◇



れみりゃはこの日、新しくこの家にやって来たゆっくりを見て驚いた。
こうしてゆっくりをおにーさんが連れてくることは何度もあったが、今回はゆっくりできないことをするためのゆっくりじゃない。
あたらしい家族なのだ。

「会社から帰ってくる時に山を通っていたら、偶然見つけたんだ。ほら、挨拶しろ」

おにーさんにそう言われても、れみりゃはじっとして動かないままだった。
だってそこにいたのは―――

「ぎゃおー!!! たーべちゃうぞぉー♪」

―――れみりゃ、それもれみりゃザウルスである。


れみりゃザウルスはゆっくりしている。
そこにあるのは、飼いゆっくりとか野生のゆっくりとか、そんなのとは別次元のゆっくりだ。

「うー!? あそこにれみりゃがいるどぉー!?」
「ああ、あれは我が家のメイド長だ。何か困ったらあのれみりゃに訊け」
「うぅ~♪ ゆっくりりかいしたどぉー♪」

そう言いつつ、よちよちとこっちにやってきた。

緑色のその姿は凛凛しく、かっこよく、とても強そう。
"たーべちゃうぞー!" がこれほど似合うゆっくりは、他には存在しない。
ふりふりしている尻尾のゆっくりしている様子も、 "かりしゅま☆" すぎてとても言葉にできないほど。
つまるところ、れみりゃザウルスはとっても "えれがんと" で "ごーじゃす" で―――ゆっくりできるゆっくりだった。

「すごいどー!? すごくゆっくりしたおぜうさまなんだどぉー!」
「う~♪ れみりゃもすごくゆっくりしたザウルスなんだどぉ~♪ ゆっくりしていってねぇ~!!!」

そう言いながら、れみりゃはこのれみりゃがゆっくり家族に馴染んでくれることを願った。
野生だから最初は時間がかかるけれど、一度家族になれればとてもゆっくりできる。
だからせめて、死ぬまでに一度は馴染んで欲しかった。

「れみりゃはうれしいんだどぉ~♪ はじめてのおともだちだどぉ~♪」
「うっうー☆ てれるどぉ~♪」

れみりゃはこれまで、何度もゆっくりが殺されるのを見てきた。
この前はえーきさまが殺された気がする。
とにかく、飼いゆっくりになっても安全ではない。

おにーさんは怖いにんげんさん。
でも、それと同時にやさしいにんげんさんなのだ。
ゆっくりできないことをしなければ、やさしいのだ。

だから友達になったこのれみりゃには、何も悪いことをしてほしくなかった。



「おい、れみりゃ。明日は当然だが仕事がある。だから明日『しつけ』をするまでの間、ゆっくりがんばってくれ」

何も悪いことを、してほしくなかった。



   ◇ ◇ ◇



「ごじゅじんざま、こーびーをもっできまじだ……」
「いや、コーヒーじゃなくてジュースなんだが……まあいいか。ちゃんと運べているし」

『れみりゃはメイド長計画』を始めてから二週間後。
てっきり夏休みいっぱいかかるかと思ったのだが、たったそれだけの期間でれみりゃは給仕の仕方を覚えてくれた。
もうジュースをこぼして指結びをすることはほとんどない。
ただプライドだけは無駄に頑固なのか、屈辱の涙を溢しながらの給仕だが。

「れみりゃ、もう行っていいぞ」
「わがりまじた。しづれいじまじた」

ちゃんと一礼をしてから出ていくれみりゃ。
服装もメイドの格好ではないし、主人に忠誠も誓ってないのだが、その姿はメイドといえないこともなかった。
あとは俺に懐いてくれてたら最高なのにな……
もっとも、さすがにそれは望みすぎだと思う。


「……しかし、どうしたものか」

俺は今現在、ゆっくり虐待の大きな岐路に立たされていた。
今までのような肉体的なものではなく、ちょっとしたぬるいじめも好きになってきたのだ。
もちろん、その原因はあのれみりゃである。
決まった時刻に給仕で来るように言っているのだが、その時にからかうだけでも俺の心は満ち足りてしまう。

これは―――恋!?

いや、違うか。ゆっくりに恋するほど落ちぶれてはいない。



「そういやあいつ、この時間の後はどこかに遊びに行ってるが……友達でもいるのかね?」

一応あのれみりゃには、シルバーバッチをつけている。もしかしたら同じ飼いれみりゃの友達でもいるのかもしれない。
ちなみに最初は外に出すたびに逃げないの疑っていたが、何度も家に帰ってくるうちに信用することにしたのだ。
甘いかもしれない。だが、こういうのも悪くない気がする。

「うわぁぁぁーーー!!!」

そのとき、突然外かられみりゃの叫び声が響いた。
犬にでも襲われたのだろうか? だったらちょっと眺めた後に助けよう。

「おい、うるさいぞっ……って、なんだそのぱちゅりー?」



   ◇ ◇ ◇



「むきゅ、ぱちゅりぃはぱちゅりぃよ。ゆっくりしていってね!!!」
「うー! ゆっくりしていくどぉー!!!」

次の日、おにーさんがお仕事に出かけてしばらくしたころ。
メイド長のれみりゃは、れみりゃザウルスに親友であるぱちゅりぃを紹介していた
ぱちゅりぃはこの家で、二番目の古参である。
れみりゃよりも頭がいい "まじょ" なので、その知識はれみりゃとは比べ物にならない。
実質、この家のゆっくり全ての司令塔だった。

「いい、れみりゃ? おにーさんのいうことをよくきいておきなさい。そうすればゆっくりできるから」
「うぅ~♪ れみりゃはザウルスだから、いつもゆっくりしているどぉ~☆」
「…………」
「うっうーうぁうぁ☆」

ぱちゅりぃがじっとこっちを見つめている。なんか、すごい目だ。
もちろんれみりゃもわかってる。このれみりゃは何もわかってないって、わかってる。
それを教えるのが自分の役目だ。



「れみりゃ、よくきくんだど。このいえでは、おにーさんがおぜうさまなんだどぉ!」



「うぅ? おぜうさまは、れみりゃだど? おにーさんはさくやだどぉー♪」
「う~~! ちがうの! おにーさんがおぜうさまで、れみりゃはさくやなんだどぉー!!!」
「うぅ~???」

れみりゃは目の前のれみりゃがどうして不思議がっているのか、ゆっくりりかいしていた。
れみりゃも初めてここに来た時は、ここは "こーまかん" でおにーさんは "さくや" だと思っていたのだから。
だけど、おにーさんは強かった。
強くてかりしゅまを持っている、本当のおぜうさまだったのだ。

ちなみにそれはおにーさんがれみりゃをメイド化しようとした時に、れみりゃの立場をわかりやすく説明したものである。
命令できる人=おぜうさま。
命令される人=さくや。
これほどれみりゃにわかりやすい説明もないとおにーさんは思っているが、実は受け入れにくさはまったく変わっていない。
むしろ突然『おまえ、こんどから俺の専属メイドな』と言われてるのに等しいのだ。人間だって理解できない。

「れみりゃはゆっくりした "ぼでぃー" をもってるど。でも、おにーさんはもっとゆっくりしたおぜうさまなんだどぉー!」
「うー! ぢがうもん!! でみりゃばおぜうざまだもん!!」
「むきゅっ! そんなことをいってはだめよ! おにーさんにきかれたらたいへんじゃない!」
「ばぢゅりぃばでぇぇぇ!?!」
「うー……ゆっくりりかいしてほしいんだどぉ……」

れみりゃはゆっくりと説明したが、このれみりゃザウルスはわがままだった。
いや、もしかしたらこのれみりゃの反応が普通で、れみりゃはここでの生活が長くてそう思ってるだけかもしれない。

「……うー? そうだど! れみりゃは "めーどちょう" っていわれてたどぉー! だかられみりゃはさくやだどぉー!!!」
「う、うぅ~!?」

そう言われて、れみりゃは困る。
れみりゃはさくやだ。それは間違いない。
でも、友達のれみりゃの命令を聞く必要はないはずだ。
だから、れみりゃはさくやだけど、さくやじゃない……?
でもれみりゃはさくやで、さくやで、さくやじゃなくて……???

れみりゃの頭が熱くなってきた。
さくやだけどさくやじゃないなんて、本来れみりゃは考えることもない疑問だったであろう。
だが、このれみりゃもだてに長生きしているわけではない。
その疑問をゆっくり十分間考え続けた結果―――正しい答えを導き出すことができた。



「れみりゃはさくやだどぉ! でも、れみりゃはれみりゃのさくやじゃないどぉ!!!」



しかし、その十分間にれみりゃザウルスは開き直っていた。

「さくやははやくぷっでぃ~んをもってくるんだど☆」
「うーー!! ちがうどぉ! だかられみりゃはさくやだけど、れみりゃのさくやじゃないどぉ!!」
「ニパー☆ そういえばれみぃ、おぜうさまだったど♪ れみりゃのめいれいをきくなんて、おかしいとおもってたんだどぉ~♪」
「あぁー!? それはだめだどぉ! おにーさんに『おしおき』されるんだどぉ!?!」
「さっそくこーまかんを "ぽぉーい♪" しておそうじするどぉ♪」
「―――ッ! そこまでよ! れみりゃ、やめなさい!」
「ぼうやべてほじいどぉ! やべるんだどぉ!!」
「ぎゃおー! たーべちゃうぞぉー♪」


「ううぅぅぅ……うわぁぁぁ!!! ざぐやぁぁぁ!!!」
「あなたがさくやをよんでどうするのよ……むきゅん……」



   ◇ ◇ ◇



数日後、そこには俺とれみりゃと一緒にゆっくりするぱちゅりーの姿があった。

「むきゅー! すっかりげんきになったわ!!!」

あの時、れみりゃはボロボロになってた野生のぱちゅりーを抱えて泣いていた。
なんでも、このあたりに俺が連れてきたときから唯一の友達だったらしい。
それを聞いて俺は最初に『どうして友達なんだ? あまあまじゃないか』と言うと、
『あまあまだけどおどもだぢなの!!!』と返された。
ぱちゅりー種とれみりゃ種がたまに仲良くなるということは知っていたが、喰う喰われるの関係なのによくわからん。
とりあえず俺は気まぐれで助けてやることにした。

「れみりゃはぱちゅりーのおんじんよ! ゆっくりかんしゃしているわ!!!」
「うー♪ それほどでもないどぉ~☆」

後でこのぱちゅりーに聞いたところ、元いた群れでれみりゃと仲良く話しているところを見られたらしい。
それだけなら問題はなかったのだが、この前れみりゃが襲ってきたことで状況が変わった。
内通者としてリンチにあい、群れを追い出されたそうだ。
ゆっくりの世間も世知辛いものである。

「れみりゃのくせに謙虚にも『それほどでもない』と言うとはな……。よし、今度ケーキを買うか!」
「うぅー! やったどぉー!!!」
「……なんでれみりゃが喜んでんだ? ぱちゅりーの全快祝いだぞ?」
「うううー!?」

まあでも、一応買ってやらないこともないかな、と俺は心の中でこっそり思う。
ここ最近、俺は本当に丸くなった。まるで子供ができた時みたいだ。
……あ、俺には子供はいないからな? あくまでもたとえ話だ、たとえ話。

「むきゅっ! あんしんしてれみぃ。ぱちゅりーのケーキさんを分けてあげるわ」
「うぅ~☆ ぱちゅりーはやさしーんだどぉー♪ おれいに、いっしょにかりしゅま☆ダンスをおどるんだどー♪」
「いいわよ。いっしょにおどりましょう」
「うっうーうぁうぁ♪」
「むっきゅーむきゅむきゅ♪」

部屋の中で不思議な踊りを踊る饅頭二匹。
れみりゃを始めて捕まえた時は殺意がわきあがったその踊りも、なんだか微笑ましく見える。
……うざく思えないなんて、れみりゃいじめはできないな、こりゃ。

「でもMPが吸い取られてるから、優しくなんてしてやんない。してやらないんだからねっ!」
「むきゅ? おにーさんがとつぜんなにかいいだしたわね」
「いまはじゆうじかんだからむししていいんだどぉ☆ うっうーうぁうぁ♪」


さすがにそんな風に言われるのは……と思ったが、これが信頼かなと自然に思えた。
つまりそれは、今はその程度のことで『おしおき』しないと、信用してもらっているということ。
そう思った時に俺は何かを感じたが、まあそんなに悪い気分じゃなかった。
信用されるというのは悪くない。……悪くない、のだ。

結局この時はそれがなんだかよく解らないまま、俺は本当に楽しそうに踊りを続ける二匹を見続けた。


―――うっうーうぁうぁ♪
―――むっきゅーむきゅむきゅ♪



   ◇ ◇ ◇



「あぁ……ああぁぁぁ……」
「う~♪ み~んな "ぽぉーい♪" してすっきりしたどぉー☆」
「……あきらめましょう、れみぃ」

れみりゃザウルスが完全に開き直ってからどれくらいたったのか。
れみりゃとぱちゅりぃはその "ぽぉーい♪" されたものを必死に片付けて行ったのだが、
それを見かけたれみりゃザウルスがまた放り投げることの繰り返し。
おかげで部屋はすさまじい状況になっていた。
……なんというか、もう収拾がつかないくらいに。

「……ぱちゅりぃ、おにーさんがかえってくるまでどれくらいだどぉ?」
「……あとながいはりがふたつぶんね。おやつをたべるじかんよりみじかいわ」

絶望的だった。
このれみりゃはこのままだと、確実に『おしおき』される。
それどころか、れみりゃも『おしおき』されるかもしれない。


悪いことをやったのだ、仕方ないだろう。
だが、それでもれみりゃは考えた。
どうすればいいか、一生懸命考えた。
だってれみりゃはさくやなのだ。
かんぜんでしょーしゃなめいどなのだ。
友達ぐらい、救えるはずだ。


さくやならなんでもできる。
なぜなら、自分がおぜうさまだった時からそう信じているから。
今は、自分が―――れみりゃが、さくやなのだ。


しかし根本的に、れみりゃに良い案が思いつけるわけがない。


「ただいまー……って、おかしいな?
いつもならここでれみりゃが『う~♪ おかえりだどぉ~☆』とか言ってくるはずなのに」


玄関からそんな声が聞こえてくる。それはつまり……時間切れ。

「う~? さくやがかえってきたどぉ~☆」
「だ、だめだどぉ! おにーさんをさくやってよんだらだめなんだどぉ!! もっと『おしおき』されるんだどぉ!」
「うぅ? なられみりゃの "かりしゅま☆ぼでぃー" でぎったんぎったんにしてやるんだど♪」
「……おにーさんがかえってきたら、すぐにゆうしょく。もうむりよ」
「……こんやはゆっくりできない "でぃなー" になるんだどぉ……おにーさん、おこりそうだどぉ……」


「おーい、夕食の時間だぞー! れみりゃー! どこだー?」





おにーさんがくれる食事は、基本的にゆっくりフードである。
いつも同じ味というわけではなく毎回違う味のゆっくりフードなので、食事はとてもゆっくりとしていた。
台所にはすでに何匹かのゆっくりがいて、自分の皿にゆっくりフードが配られるのを今か今かと待っている。

「おっ、ぱちゅりぃといっしょか。れみりゃザウルスの様子はどうだ?」
「うー……それは……」
「むきゅー……」

れみりゃは何か言わなければいけないが、何も言えなくなってしまった。
ぱちゅりぃもフォローにしようがないのか、同じように黙っている。

だが、件のゆっくりはそんな空気などお構いなしだ。

「うぅ~☆ さくやすごいどぉ~♪ ゆっくりとした "でぃなー" なんだどぉ~♪」



それを聞いて周りのゆっくりたちはぎょっとし、いっせいにれみりゃ達の方を向く。
ゆっくりだけではない。今ではおにーさんも無言になってれみりゃザウルスを見ている。
先ほどまでうるさかった台所は、気味が悪いくらいに静まり返ってしまった。

「うぅっ……」

たくさんの視線と無言の圧力に押されたのか、能天気なれみりゃザウルスもたじろいでしまう。
しかし、みんなは別にれみりゃを怖がらせるために黙ったわけではなかった。
その目には各々が『やめてね!』とか『それいじょういっちゃだめだよ!!』という警告を含ませていた。

だけども、れみりゃとしてのプライドがそれを許さない。

「……ぶっ、ぶれぇーだどぉ! さくや……さくやははやくれみりゃをたすけるんだどぉー!!!」
「いや、助けるって言われても……どうやって?」
「う、うー!?」
「いや、だってみんな何もしてないし、助けようがないって。――ところで、さくやって俺のことだよね?」
「うっう~☆ さくやはさくやなんだどぉ♪ そんなこともわからないのかだどぉ~♪」

おにーさんは一瞬だけこっちを……メイド長のれみりゃを見た。
でも、本当にそれだけだった。それが何を意味するのか、れみりゃには解らない。

「いいかい、れみりゃ。ここでは俺が "おぜうさま" だ。少なくとも俺のことを "さくや" と言ってはいけない」
「そんなのしらないんだどぉ♪ おぜうさまはうまれたときからおぜうさまで、れみりゃはザウルスなんだどぉ♪」
「……お前、この家のルールは聞いてたか?」
「う~?」
「……連れてくる時によく言っておいたはずなんだけれどな。まあ、こうなるか」

このとき、れみりゃは予感に近いものを感じ取った。
おにーさんの顔は笑顔だったけれど、怖かった。
このままあのれみりゃは殺される。

「いいかい、俺を "さくや" と言ってはいけない。これは命令だ」
「それよりはやくぷっでぃ~んをたべるどぉ♪ まったく、さくやはだ―――」










その瞬間、れみりゃザウルスは頭部の中枢餡を棒によって貫かれた。
結果、断末魔を上げるより早く死んだ。

誰に? おにーさんではない。





「うー! ゆっくりしね!!!」

ふらんだった。
この家で一番強い、れみりゃの大先輩であるふらんだった。



   ◇ ◇ ◇



ある日のこと、ぱちゅりーはちょっとした事件を起こしてしまった。
"ごほん" と称して読んでいた広辞苑の一部を破ってしまったのだ。

「むきゅー……ごめんなさい、おにーさん」
「れみりゃもあやまるんだどぉ! ごめんなざいだどぉ!!」

目の前で土下座(?)みたいなことをする二匹。
特にれみりゃは俺の怖さを知っているためか、ものすごい勢いで謝っている。

「ほらほら、そんなに謝らなくてもいいって。ぱちゅりーもわざとじゃないんだろ?」
「……でも、ぱちゅりーがごほんをやぶったのには、かわりないわ」
「そうだな、だから簡単な『おしおき』しようかと思う。ぱちゅりーはそれでいいね?」

『おしおき』と聞いて、れみりゃはびくりと震える。
それはそうだろう、前にも実際に何回か受けたことがあるはずだしな。
まあ、今回のお仕置きは本当に、まったく時間をかけない簡単な奴だ。

「むきゅっ! わるいのはぱちゅりーだもの、あたりまえよ!」
「そうだな、聞くまでもなかったか」










俺はぱちゅりーを一撃で潰した。





その時のれみりゃの顔は、一生忘れられないだろう。
そして、その表情こそ……俺が求めていたものだと確信する。



「うわあああぁぁぁぁぁ!?!?!」

少し時間をおいて、れみりゃは今まで聞いたこともないような大声で叫び出した。
そのまま俺に掴みかかってきたため、簡単に足払いで転がしてから背中を踏みつける。

「どうじで!!! どうじでばぢゅりーが!?! どうじでぇぇぇ!!!」
「おいおい、聞いてなかったのか? 俺は『おしおき』をしただけさ」
「『おじおぎ』は……! 『おじおぎ』はゆっぐりでぎないげど! あどでまだゆっぐりでぎだもん!!!」





「―――何を勘違いしてるんだ? これはれみりゃの『おしおき』だよ」





そう、これはぱちゅりーの『おしおき』ではない。
れみりゃが拾って来たぱちゅりーだから、れみりゃへの『おしおき』だ。

大切な友達を殺せば、さぞかし苦しむだろうと思ったからこその『おしおき』だ。



一瞬の静寂の後、れみりゃは顔をぐちゃぐちゃにしながら叫び出す。

「ぶざげるな!!! ばがぁぁぁ!!! うらぎりぼの! じねっ!! じねぇぇぇ!!!」
「おいおい、これは『おしおき』なんだ。……後でゆっくりできるんだろ?」
「ぐがぁぁぁ!!! じねぇぇぇ!!! じねっ! じねっ! じぬんだぁぁぁ!!!」

れみりゃは呪いの言葉を叫び続けるだけの肉まんになった。
もうこのれみりゃは、俺の言うことなど聞かないだろう。

「裏切り……ねぇ」


『信じている』ものを裏返す、最低の行為。
それこそが、俺の求めていた虐待だったのかもしれない。


信用してた相手に裏切られるというのは、とても苦しいのだろう。
友達を失うというのは、とても悲しいのだろう。

指を結んだ時よりも、
羽を結んだ時よりも、
頭に針を刺した時よりも、
今のれみりゃの顔はそれらを軽く凌駕していた。

「じねぇぇぇ!!! ばじゅりーをごろじだにんげんはじねぇぇぇ!!!!!」
「はいはい、ゆっくりゆっくり。……ちょっとうるさいな」
「じねぇっ―――ぐげっ! ぐげげっ! ぐげげげげっ!」

俺は背中を踏んでいた足を後頭部に移動させたが、まだ怨嗟の言葉を吐き足りないらしい。
満足な音になってないのに、それでも口を動かしているのがわかる。



「さて、俺をゆっくりさせてくれたお礼だ。このまま一撃で頭を潰し、殺してやる。―――これからやることも、決まったしな」



   ◇ ◇ ◇



「おいおい、そんなにあっさり殺しちゃダメだろう? 『おしおき』ができないじゃないか」
「うぅー……ごめんなさい」
「まあいいか、緊急時だったしな。そんなに落ち込むんじゃない」

みんなはおにーさんとふらんのやり取りから、ずっと目をそらしている。
殺さなくてもいいと思っていた。
ゆっくり反省すれば、みんなのように生活できると思っていた。

だってここにいるみんなは、ほとんどが野生で生きていたことがある。
みんながすぐに家族として馴染めるわけじゃない。誰でも一度はおにーさんに刃向かったことがある。
それで生きていられるのは、その時は『おしおき』だけで済んだからだ。


おにーさんは優しい。
ゆっくりできないことをされることはあっても、殺されることはない。
悪いことをしなければとてもゆっくりできる。

少なくとも、みんなそう『信じている』。


でもこの家にいる限り、とあるルールがあった。
ルールを守らないとゆっくりできないから、ルールは存在する。
そして、れみりゃはそのルールを犯してしまった。

1、おにーさんの命令は絶対
2、家にいるゆっくりを殺してはいけない
3、どちらかを破ったらふらんに殺される

さっきのれみりゃザウルスは1番のルールをやぶってしまった。
だからふらんに殺された。

―――この家で最古参の、ふらんに殺された。


「れみりゃ、その死体を冷凍庫に運んでくれ」
「……れみぃ? おにーさんが呼んでいるわよ?」
「……! わ、わかったど!! ゆっくりりかいしたどぉー!!!」





「ひぐっ……ひぐっ……」

こうしてれみりゃは、友達になったばかりのゆっくりの死体を運んでいた。
たった一日だけだったけれど、友達だった。助けたかった。

死体は的確に横から頭を貫かれただけだったから、目を閉じさせてやれば眠っているようにも見える。
手を使って表情を整えれば、とてもゆっくりとした寝顔の出来上がり。
もう目を覚ますことはないのだろうけれど、少しでもゆっくりしてほしかった。


そういえば、おにーさんの顔はずっと笑顔のままだった。
新しい家族になったばかりのれみりゃが死んだのに、笑顔だった。

もしかしたらおにーさんは、最初からあきらめていたのかもしれない。
……最初からご飯として、れみりゃザウルスを連れて来たのかもしれない。
家族になってくれるチャンスがあっただけ、ましだったのだろうか。



"れいとうこ" ということは、明日の夕食になるのだろう。
ゆっくりフード以外の夕食は、みんな同じものなのがお約束。

大丈夫、れみぃならできる。がんばれる。
泣いてなんかいない。このゆっくりは、悪いゆっくりだったんだ。
だから、明日の夕食に出ても食べてやる。れいむやまりさのように、おいしく食べてやる。



だってれみりゃが駄々をこねれば、おにーさんは笑顔で命令して―――










そう、れみりゃはメイド長。
どんな仕事もこなす、かんぜんでしょーしゃなめいど。
今日もおにーさんのどんな命令にも従っていく。

そうすればゆっくりできると、おにーさんを『信じている』から。



―――だから殺されるとも知らないで。











あとがき

れみりゃもおだてりゃ木に登る。
前回はゆっくりできなかったようですみません……

というか、やっぱり数日ぐらい修行してから書いたほうがいいのだろうか……
ゆっくりパートが苦手すぎる……なんというか、微妙に賢い。

このお話は今飼っているれみりゃと一番最初に飼っていたれみりゃの話を、時系列を交互にして出しています。
解りにくかったでしょうか? 解りにくければごめんなさい。

れみりゃザウルスの設定をうまく生かせなかった……
でも、友達になりそうな希少種って、これしか思いつかなかったんです。

この後にお部屋が散らかってることに対しての『おしおき』でれみりゃが殺されるかどうかは、
皆さんのご想像にお任せします。

今までの作品を読まなくても楽しめ……るかな?
とりあえず大量にゆっくりを飼っている家だと理解してくれれば、楽しめるはずです。

ついでに、家にいるゆっくり全員に死亡フラグが立ちました。


あと黙ってましたが、自分はれみりゃが好きです。こんなの書きましたが嫌いではありません。


前に書いたもの

ゆっくりいじめ系2744 B級ホラーとひと夏の恋
ゆっくりいじめ系2754 ゆっくりできないおみずさん
ゆっくりいじめ系2756 ゆっくり障害物競走?

ゆっくりいじめ小ネタ517 見えない恐怖

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最終更新:2022年05月19日 13:18