「どーんがん、どんがらがった」
 楽しげにおうたを歌っている。
 足元は覚束ない。目は焦点が合っていない。頬は赤い。
「ゆっ、あれはよっぱらいなんだぜ」
 ゆっくりまりさは、電信柱の影からその人間を見て、呟いた。
 まりさの言った通りで、その人間――スーツ姿の青年は、只今絶賛泥酔中であった。
 今日は、連休を控えた仕事帰りに、会社の人間ではなく学生時代の友人たちと落ち合っ
て飲みに行った。
 それぞれの近況や苦労話を肴に飲みに飲んで、なんとか終電で自宅最寄の駅まで帰って
きた。
 気兼ねない友人と酒を飲んで馬鹿笑い、そして明日から連休。青年はすこぶる御機嫌で
あった。
「ゆっへっへ、あのおにいさんはゆっくりしてるんだぜ、あれならいけるんだぜ」
 まりさは、青年が駅を出てすぐのところにあるコンビニから出て来たのを見てゆっくり
狙いを定めた。
 経験上、まりさはよっぱらった人間はゆっくりしていることが多く、食べ物をくれるも
のだと認識していた。そして、あのコンビニというところでその食べ物を調達しているこ
とが多い。
 まりさの観測は正しくはある。実際、酔って気が大きくなっている人間はゆっくりの言
動にいちいち腹を立てずにそれを面白がることも多い。そして、酔っていると、甘いもの
やさっぱりしたものが食べたくなるもので、青年もコンビニでアイスやチョコレートを買
い込んでいた。
「ゆっへっへ、おにいさん、まりさにあまあまをよこすんだぜ」
「あーん? ゆっくりかあ」
「まりさだぜ! おにいさん、あまあまよこすんだぜ、まりさあまあまがほしいんだぜ」
「あまあまぁ? ……チョコがあるなあ」
「チョコはあまあまでゆっくりできるんだぜ! それほしいんだぜ! おねがいなんだぜ」
 こんな調子でまりさは三回ほど、酔っ払った人間からあまあまをせしめていた。ゆっく
りにとっては三回も成功すれば、その方法は絶対確実な方法なのだ。
「おーし、もってけー!」
 青年は鷹揚に板チョコを半分に割り、片方の包装を解いて地面に投げた。
「ゆゆっ!」
 思わぬ大盤振る舞いにまりさの目は輝く。これはとってもゆっくりできる人間なんだぜ、
と思いつつ、チョコレートに飛びつく。
「むーしゃむーしゃ、しあわせぇ~」
「おおう、しあわせーか、そらーよかったー」
「おにいさんはゆっくりしてるんだぜ、おれいにまりさのゆっくりぶりを見ていいんだぜ」
 それのどこがお礼なのか、シラフならば思ったのだろうが、青年はニコニコしている。
 しかし、まりさは酔っ払いの真の恐ろしさを知らなかった。これまでの三回はたまたま
上手くいっただけだ。
「んー、お礼ならそのイカした帽子が欲しいなあ」
「ゆ? お帽子は駄目なんだぜ、ゆっくりできなくな」
「そういうなよー、チョコあげたじゃんかー」
 ひょい、とあまりにも呆気なく、青年はまりさの帽子を摘み上げた。酔っ払いは悪意無
くこういうことをするのだ、という認識がまりさには欠けていた。
「ゆ゛わあああああ! な、なにずるんだぜええええ!」
 まりさは物凄い僅差で命の次に大切な帽子を取られて怒り心頭である。それだけで、板
チョコ半分というゆっくりした贈り物の効果も帳消しして余りある。
「がえずんだぜ! まりざのおぼうじがえずんだぜえええええ!」
「やだ」
「やだじゃないんだぜええええ、かえざないと、ゆっぐりでぎなくするんだぜえええ!」
「じゃ、ほら、こっちもやるよ」
 青年は板チョコのもう半分も地面に投げ落とした。
「ゆっ!」
 その誘惑には勝てずにまりさは即座に飛びつく。
「むーしゃむーしゃ、しあわ」
「たらっら、らったららったうどんげのダンスぅ」
 しかし、その間に青年がまりさの帽子を持ったまま背を向けて歩き出すのに気付いて、
チョコを口の中に入れて後を追った。
 酔っ払いの千鳥足と、成体サイズのゆっくりまりさの全力疾走はほぼ同じ速度であった。
最初に空けられた距離を詰められぬまま、青年の住んでいるアパートに到着してしまった。
「えーっと、鍵、鍵、鍵ぃ」
 部屋の前で立ち止まり鍵を探してポケットをまさぐる青年。まりさは、そこでようやく
追いつくことができた。
「ああ、あったあった」
「ぜぇ……ぜぇ……まりざの……おぼーじ、がえぜ」
 息を整えつつそう言った次の瞬間、衝撃を受けてまりさは飛んだ。青年が開けたドアに
弾かれたのだ。
「ゆべ! な゛にずるんだぜえ! はやくおぼうじがえずんだぜえ!」
 怒りの声を上げたまりさの目の前で、ドアが閉まった。
「ゆぎぎぎぎ! 開けるんだぜ! おぼうじがえずんだぜえ!」
 どん、どん、とドアに体当たりをするまりさ。しかしそのドアが開くことはない。それ
もそのはず、青年は既に床に大の字になって、フローリングのひんやりとした感触を感じ
た後、すぐに熟睡してしまっていた。
「あげるんだぜぇ……おぼうじがえぜぇ……」
 一時間も叫び体当たりを続けているうちに疲労困憊したまりさは、いつしかドアの前で
眠ってしまっていた。

「うっ……」
 目覚めた瞬間、不快だった。
 自然の目覚めではなかった。せり上がる嘔吐感に叩き起こされたようなものだ。
 吐く。
 トイレに――いや、無理。
 袋――コンビニかスーパーのビニール袋。
 その辺に置いてあるはず――うぷ。
 吐く。
 しかし、床にぶちまけるわけにはいかない。
 以前にやってしまったことがあり、掃除と何よりも中々消えない悪臭に苦しめられた記
憶が蘇る。
 なんとか、上半身を起こす。
 袋を探す。あった、けど、遠い。
 今にも、吐きそう。
「ん?」
 なんか、持ってる。なんだ、これ。袋?……ではないようだが、袋みたいな形だ。上か
ら見ると向こう側が見えない。塞がっている。つまり、袋ではないが、袋として使える形
をしている。
 よし、これでいこう。
「げええ、えれえれえれ」
 青年は思い切りゲロをぶちまけた。
「はー、はー、はひー」
 ある程度吐くと、段々と気持ちも体も落ち着いてきた。
「うっ」
 立ち上る吐瀉物の臭いに顔をしかめ、床にやらないで本当によかったと思った。
 のたのたと這いずるようにトイレに行き、手に持っていた袋みたいな何かを傾けて中身
を便器に注ぐ。水を流して、おさらばだ。
「で、これなんだ?」
 青年はじいっとそれを見る。なんだかわからない。ただ言えるのは、これは絶対に部屋
にあったものではない。それならば、昨日酔っ払って帰ってくる途中にどこかから持って
きてしまったものに違いない。
「あ、これ、帽子か?」
 眺めているうちに、とんがった部分を下に向けていたのでよくわからなかったが、これ
はとんがり帽子ではないかと気付いた。
「……まさか、干してあった洗濯物を持ってきちゃったのか」
 酒が抜けると小心で生真面目な青年から血の気が引いた。こういうものの値段はよくわ
からないが、いくらぐらいなのだろう。弁償して済むようなものだったらいいが、そうで
なかった場合、持ち主にどう詫びればよいのか。
 沈んだ顔で考え込んでいた青年だが、やがて、ドアが叩かれているのに気付いた。
「ん? 誰だ?」
 咄嗟に時計を見ると、まだ朝の七時だ。それに、インターホンを押さずにドアを叩くの
もちょっとおかしいな、と思った。叩き方もコンコンという音ではなく、どん、どんとい
う乱暴に叩いているような音だ。位置も下から聞こえてくる。
 蹴ってる?
 まさか、この帽子の持ち主が怒って取り返しに来た?
 一瞬、青年はこのまま寝たフリで居留守を決め込もうかとも思ったが、家がバレている
以上、逃げ切ることはできないだろう。
「……はぁ」
 憂鬱なため息を吐いて、ドアに向かい、のぞき穴から外を見る。
「あれ?」
 そこには何も見えなかった。しかし、ドアを叩く音は続いている。
 ドアに耳を押し付けてみると、
「あげろ! がえぜえ! まりざのおぼうじ、がえぜえええ!」
 微かにそんな声がした。
 薄れ掛けていた昨晩の記憶が少しずつ蘇って来る。
 そうしてから帽子を見ると……そうだ、これはゆっくりまりさの帽子だ。
「ああ、昨日のまりさか」
 青年は、幾分安堵しつつドアを開けた。
「ゆべ!」
「あ、ごめん」
 ドアに弾き飛ばされたまりさを見て、青年は謝った。
「ゆ゛ぎががが! がえぜええええ! おぼうじぃぃぃ、がえぜえええ!」
「うわ、怖っ!」
 思わず後ずさって足を突き出してしまう。その足の裏に思い切りまりさが突っ込んでき
てカウンターになった。
「ゆべぇ!」
「あ、大丈夫か」
「お、おぼうじぃぃぃぃ!」
「いや、返す! 返す! 返すよ!」
 青年は慌てて言った。
「ゆゆ!?」
「ほら、お帽子は返す。でもね」
「がえぜ! がえぜ! おぼうじ、がえぜえ!」
「いや、待った待った、ストップ」
「ゆぅぅぅぅ、がえずっでいっだんだぜ!」
「返すけど、その、まあー、いやー、ちょっと汚しちゃってさあ」
「ゆ゛びっ! ま、まりざのおぼうじぃぃぃぃ!」
「まあ、上がって飯でも食ってけよ」
「ゆ゛?」
「もちろん、洗って返すから。洗って乾かす間に、お詫びに御馳走するから」
 まりさは……疑惑に凝り固まった視線で青年を見た。昨日までのまりさなら遠慮せずに
上がり込み。
「おわびのごちそうをはやくもってくるんだぜ!」
 と、言ったであろう。
 しかし、帽子を取られたゆっくりできない状態で一晩を明かすという経験をしたまりさ
は、人間への疑心が膨らんでおり、それを罠ではないかと疑った。
 昨日だって、美味しいあまあまなチョコレートをくれたのでゆっくりできる人間だと信
じ込んだところへあの仕打ちである。まりさがそう疑うのは当然であろう。
「くずなおにいさんはしんようできないんだぜ! おぼうしはまりさがじぶんであらうか
ら、すぐかえすんだぜ!」
「え、でも、洗っても臭いはすぐには……消臭剤とか使わないと」
「いいがらがえぜええええ! がえぜええええ! がえぜええええええええ!」
「いや、でも、ほら、こんな有様で」
 と、青年は帽子の裏側……つまりゲロの付着した部分を見せるために屈んで帽子をまり
さに近づけた。この惨状を見れば、まりさも仕方なく自分に洗濯を任せるであろうと思っ
てのことだった。
「ゆっ!」
「あっ!」
 だが、まりさは届く位置へと帽子がやってきたのを見逃さずに素早い動きで帽子のツバ
をくわえて青年の手から奪い取った。
「ゆっ! にげるんだぜ! ゆっくりしね! くずにんげん!」
「あ、待てってば! おい!」
 青年は呼び止めたが、まりさはぽよんぽよんと跳ねていく。いざ追おうとしても、体調
は最悪だ。無理に体を動かしたら、また嘔吐しかねない。
「うーん、しょうがないか……悪いことしたなあ」
 まあ、しっかりしてそうなまりさだったし、自分で洗ってなんとかするだろう。しゃざ
いとばいしょーを求めるんだぜ、とか言ってきたら謝って甘いものを食べさせてあげよう
と思いつつ、青年は部屋の中に戻り、畳んで隅に置いてあった布団を広げてから、二度寝
した。

「ゆっ!」
 ようやく取り返した帽子を被ってまりさはゆっくりと一息ついた。
 だが、そのゆっくりを邪魔するものがある。
「ゆぅぅぅ、くさいんだぜ」
 帽子が放つ、酸っぱい悪臭である。
「はやくお帽子を洗ってぴーかぴーかにするんだぜ、そうしないとゆっくりできないんだ
ぜ!」
 ぽよんぽよんと跳ねていくまりさだが、周りの風景に見覚えが無い。昨晩はとにかく青
年の後を追ってきたので駅前への帰り道がよくわからない。
「とにかく、おみずなんだぜ、お帽子を洗うんだぜ」
 しかし、このまりさは元々定住しないで頻繁に移動していたので、それはそれほど深刻
な問題ではなかった。それよりも、水だ。
「ゆゆっ!」
 やがて、まりさは立ち止まる。少し離れた所に、ゆっくりありすを二匹見つけたからだ。
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっくりしていってね!」
 跳ねて近付いて行ってお決まりの挨拶をする。
「ゆ? あら、見かけないまりさね?」
「おねーしゃん」
 少し大きなありすの後ろに小さなありすが隠れる。どうやらこの二匹は姉妹らしい。
「ゆっくりしていってね!」
 もう一度、まりさは挨拶した。挨拶しつつ、ありすを観察している。飼いゆっくりでは
なく野良のようだが、髪の毛も肌も綺麗だ。これはきっと頻繁に体を洗っているに違いな
い。つまりこの辺に水場があるということだ。それを教えてもらおうとまりさは思った。
「ゆっくりしていっ」
 最初の挨拶に挨拶を返していないのに気付いた姉ありすは早速そう言おうとして、言葉
を止めた。
「おねーしゃん、にゃんかあのまりしゃ、くちゃいよ」
 妹ありすは小さな声で姉に耳打ちした。姉もその臭いを嗅ぎ取って、挨拶を途中で止め
てしまったのだ。
「ゆっくりしていってね!」
 二度目の挨拶にも返事が無いのに幾分苛立ってまりさは三度目のそれをするが、その時、
ありす姉妹に自分を胡散臭げに見ている様子があるのを見て取った。
「ゆぅ、なんなんだぜ」
 ぽよん、と前に跳ねると、ありすたちがずりずりずりと後ろに下がる。あからさまに避
けられている。
「なんでにげるんだぜ、まりさはおみずのばしょを教えてもらいたいだけなんだぜ」
「……あなた、あそこの路地のゆっくりでしょう」
「ゆゆ? ろじ?」
 突然そう言われても、なんのことだかわからない。
「そのとかいはじゃないくさい臭いは、あそこのゆっくりに決まってるわ」
「ゆゆっ」
 なにやらありすたちの態度がおかしいのは、自らが放つ悪臭のせいなのだと悟ったまり
さは、ますますこんな臭いは早急に洗って落としてしまわねばならぬと決意する。そのた
めにも、なんとしても水のある場所を教えてもらわねばならない。
「ゆぅ、ありす」
 まりさは、悪い人間によって帽子を汚されてしまい、この臭いはそのせいであること。
自分はこのへんに来るのは初めてで、ろじのゆっくり、と言うのとは関係ないこと、帽子
を洗うための水場を教えて欲しいこと、等を説明し尋ねようとした。
「ゆゆゆゆっ! ありすのおちびちゃんたちが、しらないまりさにからまれてるよ!」
 しかし、突如、一匹のれいむが大声で叫ぶと、辺りの物陰からわらわらとゆっくりが現
れてやってきた。
「ゆゆっ!?」
 成体サイズのゆっくりが十匹はいるのに、まりさは怯んだ。
「どうしたの? ありす?」
 ぱちゅりーが、ありす姉妹に事情を聞いている。
 やがて、その説明を聞き終えたぱちゅりーはまりさの近くに跳ねてきて、くんくん、と
臭いを嗅いだ。鼻がないのにあるかのように臭いを嗅ぐのはゆっくりの数多い謎の一つで
あるが、あまりに数多い中の一つなので研究者以外は誰も気にしていない。
「むきゅ、そのまりさは、路地のゆっくりよ。あいつらと同じ臭いがするわ」
 ぱちゅりーは、断言した。もちろん違うのだが、他のゆっくりたちも、まりさから漂っ
てくる臭いを嗅いで、ぱちゅりーに同意した。
「ゆ! ちがうよ! そもそもろじのゆっくりってなんなんだぜ!?」
 もちろんまりさは否定するが、どうもこのゆっくりたちにとって「路地のゆっくり」と
いうのは相当ゆっくりできない存在らしい。一度そうと認識されてしまったまりさの言葉
になど誰も聞く耳持たなかった。
「路地のクズでも一応同じゆっくりだから、えいえんにゆっくりさせるのは許してあげる
よ、さっさとかえってね!」
「ゆっくりしないではやくかえってね!」
「くちゃいまりしゃはあっちいっちぇね!」
「ゆっくりできない臭いがうつっちゃうよ!」
「ゆぅ……」
 まりさは身体能力には自信があったが、数が数である。しょうがなく、この場を立ち去
ろうとした。
「ゆっ! どこにいくの! まりさのおうちはあっちでしょ!」
 しかし、一匹のまりさに行く手を塞がれてしまう。おうちはあっち、と言われてもなん
のことだかさっぱりわからない。止む無く別の方向へ行こうとすると、そちらにも別のれ
いむが立ちふさがる。
 そうやって、行く手を阻まれる度に方向転換しているうちに、誰にも邪魔されない道が
あった。
 ちらちらと探るようにゆっくりたちを見ながらそちらへぽよんぽよんと進んで行くと、
やはり、誰も邪魔しに来ない。
「そうだよ、そっちだよ!」
「もうこないでね! ゆっくりできないよ!」
「うちのおちびちゃんたちに話しかけたりしないでね! こんどやったらゆっくりできな
くするよ!」
 まりさは、仕方なく、そちらへと進む。その先には、ビルとビルの間のいわゆる路地が
あった。なんだかゆっくりできない場所だなとは思ったものの、それ以外の方向には行か
せてもらえないので、しょうがない。
 狭い路地へと入っていくまりさ。後ろからはゆっくりたちのあらん限りの罵声が浴びせ
られる。
「ゆ……ゆぐ、ゆぐぅぅぅ」
 まりさは、悔し涙に頬を塗らした。人間の庇護を受けた飼いゆっくりに見下ろされたこ
とはあった。でも、同じ野良にああまで無下に扱われたことはない。
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……」
 全ては、この帽子が放つ悪臭のせい、すなわちあの人間のせいである。
「ゆ゛っぐり、ゆるざな゛いんだぜ!」
 帽子を洗って、体を休めたら、あの人間に仕返ししてやると心に決めて、まりさは路地
を跳ねていく。
「むしゃむしゃむしゃむしゃ」
「むちゃむちゃむちゃむちゃ」
「ゆゆ?」
 前方に、凄くゆっくりしていない様子で何かを食べている大小のれいむが二匹いた。
 むーしゃむーしゃ、しあわせー、が正しい食事風景であるという意識のあるまりさとし
ては、もう見ているだけでゆっくりできなくなるような光景だ。
「ゆっくりしてないれいむたちがいるんだぜ……」
 近付くにつれて、れいむたちが何を食べているのかがわかるようになってきた。何やら
どろどろしている粘液上のものが地面に散っていて、れいむたちは、それを舌ですくって
食べているのだ。
「ゆへえ」
 さらに近付くと、それが放つ酸っぱい悪臭がやってくる。まりさはそれがなんのかを知
っていた。酔っ払って人間があれを吐いているのを見たことがある。
 一度人間が口に入れて食べたものなのだから、決して毒物ではないだろうが、よほど切
羽詰らない限り、野良ゆっくりといえど食べられるものではない。このれいむたちは、よ
ほど空腹なのだろう。
 ――あんなの食べるなんてゆっくりしてないぜ。
 そんなのが帽子に付着して、それを被ったせいで髪の毛にもついているのだが、まりさ
は、帽子の汚れがそれのせいだとは気付いていない。
 回れ右、と行きたいところだが、そうしたらまたさっきの野良ゆっくりたちに追い立て
られてしまうだろう。あんなゆっくりしていないれいむには関わりたくないが、食事に夢
中で気付かないようにと祈りながら、脇を通り抜けるしかない。
「そろーりそろーり」
「ゆ?」
 精一杯音を立てぬように移動したつもりだったが、れいむに気付かれた。
「みたことないまりさだよ……」
 警戒しているようだ。
「まりさは、すぐ行くからほうっておいていいんだぜ」
 それをむしろ幸いとばかりにまりさはさっさと通り抜けようとする。
「ゆゆ? おきゃーしゃん、このおねーしゃん、おんにゃじにおいがすりゅよ」
 しかし、横を通ろうとした時に、子れいむがそんなことを言い、
「ゆゆ? くんくん……ほんとうだね!」
 親れいむも、それに同意した。
「ゆっ、まりさもなかまになりにきたんだね! ゆっくり……はあまりできないかもしれ
ないけど、ゆっくりしていってね!」
「ゆっきゅちちていっちぇね!」
 近くに寄ると、そのれいむ親子自体が薄汚れて悪臭を放っているのがわかる。子供を産
んでいる成体にしては体のサイズも小さめだ。
「ゆゆ? なかま?」
 まりさは、れいむの言っている意味が全くわからない。ただ、瞬間的に思ったことは、
こんな汚くてあんなものを食べているようなゆっくりしていない奴らの仲間になんか死ん
でもなりたくはない、ということだ。
「まりさはいそいでるから……」
 しかし、とにかく今は一刻も早く帽子を洗いたい。
「しょんなこといわないで、ゆっきゅちちていっちえね!」
 おそらくは完全な善意からなのだろう。子れいむがまりさにすーりすーりと体を掏り合
わせてくる。
「ゆゆっ!」
 その瞬間、怖気がした。普通ならば、子ゆっくりにすーりすーりをされたらとってもゆ
っくりした気分になれるが、いくらなんでもこの子れいむは汚すぎる。
「やべろ! きたないんだぜ!」
 まりさとて、殊更事を起こすつもりはなかったが、反射的に叫んで子れいむを体当たり
で弾き飛ばしてしまった。
「ゆびゅ! ……ゆ゛ええええん、いぢゃいよぉ~」
 地面に転がり、大声で泣き始める子れいむ。
「ゆ゛ぎぃ! れいむのあがぢゃんになにずるのっ!」
 当然、親れいむは激怒して向かってくる。
「うるさいんだぜ!」
 まりさは親れいむにも体当たりを喰らわせた。れいむの方が一回り小さいので、飛ばさ
れてしまった。
「汚くてくさいれいむたちはまりさにさわるなぁ!」
「ゆ゛ええええん、いぢゃいぃぃぃ」
「ゆ゛ぅぅぅぅ、まりざだっでおんなじにおいでじょおおお!」
「ゆゆっ!」
 まりさは、そのれいむの言葉で、先ほどの仲間という言葉の意味を理解した。自分たち
と同じような臭いを発するまりさを、仲間になりにきたのだと誤解しているのだ。
「ゆっ! いっしょにするななんだぜ! まりさは、わるいにんげんにおぼうしを汚され
ただけで、おぼうしを洗えば、こんなゆっくりしてないくさい臭いとはおさらばなんだぜ」
 まりさは言っているうちにむかむかとしてきた。昨晩帽子を取られてからというものい
いこと無しだ。せっかく取り返した帽子は汚れて悪臭がついており、そのせいで他のゆっ
くりに悪し様に罵られ追い払われ、こんなきたない連中に仲間呼ばわりされてすーりすー
りされる。もちろん一番悪いのはあのクズな人間だというのはゆっくりりかいしていたが、
このクズれいむたちにも腹が立つ。大体、さっきのありすやれいむたちがやたらと敵意を
見せたのも、こいつらの仲間だと思われたからに違いない。
「おまえらみたいなクズのせいでまりさはひどいめにあったんだぜ! もう少し痛めつけ
てやるんだぜ!」
 昨晩からの溜まりに溜まった鬱憤を晴らすのは今しかない。
「待つんだよ!」
 そこへ、別の声が割り込んできた。
「ゆゆ? ……ゆ゛っ!」
 まりさが周囲に視線をやると、れいむ、まりさ、ありす、みょん、ちぇん、ぱちゅりー
といわゆる通常種と人間が呼んでいるゆっくりたちが何時の間にやら現れていた。どうや
ら、子れいむの泣き声を聞きつけてやってきたらしい。
 どれも、れいむ親子と同じように体は汚れ悪臭を放ち、サイズも小さめだった。しかし、
数は十匹以上はいて、さすがに自分が不利だとまりさも悟らざるを得なかった。
「それ以上れいむたちを泣かすなら、ゆるさないよ!」
「そうだよ! このゲスまりさめ!」
「れいむたちにゆっくりあやまってね!」
「ゆ゛ぅぅぅ、うるさいんだぜ!」
 不利だとはわかっていたが、まりさも一度爆発した鬱憤がそうそう簡単におさまるもの
ではない。
「おまえらみたいに汚いゆっくりにあやまるひつよーは無いんだぜ!」
 言ってから、少し後悔はした。これで激昂して襲い掛かってくれば、さすがにこの数の
差はきつい。
「ゆゆぅ……このまりさゆるせないよ……」
「やっちゃおうよ! この数ならまけないよ!」
「ゆぅ……でも、あいつらの仲間なんじゃないの? しかえしされるよ」
「ゆゆぅ……それは」
 路地のゆっくりたちはぼそぼそと小声で話しているばかりで、まりさに向かってくるも
のはいない。
 彼らは、まりさが路地の外に住んでいる野良ゆっくりたちの仲間だと思っているので、
それを害して報復を招くことを恐れているのであった。
「ゆふん、こんじょーなしばっかりなんだぜ」
 しかし、まりさはそれを純粋に自分一人だけに恐れをなしているのだと勘違いした。
 そう思うとまりさは落ち着いてきた。路地ゆっくりたちを観察する余裕も出てくる。そ
して、見れば見るほど汚くて臭くて小さくてゆっくりしていない奴らだと思った。
「わかったんだぜ。おまえらはおちこぼれなんだぜ!」
「「「「ゆ゛ゆ゛っっっ」」」」
 まりさの一言に、路地ゆっくりたちは一様に悲鳴のようなうめきをもらした。
「狩りもまともにできない駄目な奴らがこんなせまくてくさいところに逃げ込んで、他の
ゆっくりが食べないようなものを食べて生きてるんだぜ」
「「「「ゆ゛ぅ……」」」」
 図星を突かれて、路地ゆっくりは悔しげに下を向く。歯を食いしばり、悔し涙を流して
いるものもいた。
「おお、ぶざまぶざま、落ちこぼれゆっくりは道をあけるんだぜ、まりささまのお通りな
んだぜ」
 もう、こいつらは恐れるに足らずと確信したまりさは自信満々だ。
「ゆぎぎぎぎ、ころじだいぃぃぃぃぃ」
「も、もうがまんでぎないよ、やっぢゃおうよ!」
「むきゅ、だ、だめよ、がまんして、おちびちゃんたちもいるのよ」
「ゆぎゅぅぅぅ」
 もう路地ゆっくりたちのまりさへの敵意はとっくに殺意に達している。それでも、そも
そもが自信などとうに失ってしまったゆっくりたちだ。あのまりさをやれば自分たちがと
ても適わない強い強い路地の外のゆっくりたちに仕返しされると思うと最後の一線を踏み
越えられない。
「ゆっゆっ、みんなあつまってどうしたの?」
 そこへ、一匹のちぇんがやってきた。外に出ていて、今帰ってきたらしい。
 ぱちゅりーが手短に説明すると、ちぇんはまりさをじーっと見てから、にやっ、と笑っ
た。
「わかってるよー、ちぇん、わかってるよー」
「むきゅ? なにがわかっているの?」
「ちぇんはあのまりさがそとのゆっくりたちに追い払われてここに入ったのを見てたよー、
わかってるよー、あのまりさはそとの奴らの仲間じゃないよー」
「「「「ゆゆゆゆっ!?」」」」
 路地ゆっくりたちは、ちぇんの言葉に一斉に顔を上げる。
「ゆゆっ、それじゃあ」
「しかえしされないってことだよ!」
「ゆっゆっ、それならがまんすることないよ! ぱちゅりー!」
「……そうね、そういうことなら、みんながまんすることはないわ」
「ゆっゆっゆっ」
「ゆっへっへっ」
 しょぼくれていた路地ゆっくりたちが急に怯む色を無くして攻撃的な表情を向けたのに
まりさは不安を覚えた。
「まりさはいそいでるんだぜ! 早くみちをあけるんだぜ!」
 その不安を振り払うように、大声を出した。
 しかし、もう路地ゆっくりたちはまりさのことを恐れてはいないし、散々自分たちでも
気にしていることを罵倒したまりさを、憎悪している。
「ゆゆーっ! やっちゃえ!」
「ゆっくりしねえ!」
「しねええええ!」
 一斉に路地ゆっくりが向かってくるのに、まりさはようやく状況のまずさを痛感した。
「ゆっ!」
 体当たりで、ありすを弾き飛ばした。
「ゆっ! おまえらなんがに!」
 れいむも、まりさも、弾く。やっぱりこいつらは弱い。落ちこぼれてこんなところに追
いやられただけのことはある。
 一対一ならば、もちろんまりさの方が強いだろう。二対一でも、なんとかなるだろうし、
三対一でも互角に渡り合えただろう。
 しかし、相手は十匹以上。
 そして、地形は最悪であった。狭い路地は容易に逃げ道を塞げたし、標準的な成体ゆっ
くりよりも少し小さめの路地ゆっくりたちは一匹ずつではなく、二匹ずつ同時にかかるこ
とができた。前後で四匹。
 さすがに、その攻撃を全てかわせはしない。
「ゆっ!」
 それでも、まりさは善戦していたが、敵は絶えず入れ替わって向かってくる。見事な連
携だ。個々の能力に劣るゆえに追いやられた路地ゆっくりたちが、生き延びるために結束
しているので、チームワークはなかなかのものだ。
「いまだよ、わかるよー」
 そして、ずっと機会を狙っていたちぇんが、ちぇん種特有のゆっくりらしからぬ素早さ
で動いた。まりさが体当たりのために跳ねて着地しようとしたところへ突っ込んだ。
「ゆべ!」
 まりさに踏まれる形になって、むろんのことちぇんも痛手を負ったが、その代わりにま
りさを大きく転倒させることに成功した。
「いまだよ!」
「ゆっくりしないでかかれーっ!」
「ゆゆゆゆゆっ!」
「ゆっぐりじねええええ!」
「ゆ゛わわわわ! や、やべるんだぜえ!」
 一度劣勢になると、数の差がものを言い始める。まりさは、踏まれ齧られて段々と動き
が鈍くなっていった。
「みんな、はなれるんだみょん」
「ゆゆっ」
 その声に、路地ゆっくりたちがぱっと散る。
「ちーんぽ!」
 口に棒をくわえたみょんが突進してきて、まりさの右目にそれを突き立てた。
「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
 激痛に喚き跳ね回るまりさだが、もう体力が残っていない。
「みょん! もういっぽんとかいはなぼうがあるわよ!」
 ありすが、口に棒をくわえて、みょんへと近付く。
 みょんは、それを自分の口にくわえた。
「や、やべるんだぜえええええ! やべるんだぜえええええ!」
 何をしようとしてるのかを悟ったまりさが最後の力を振り絞って暴れるが、押さえつけ
られてしまう。
「ちぃぃぃんぽ!」
「やべ……ゆぎゃあああああああ!」
 左目に、ずぶりと激痛を伴って侵入してきた異物感を感じた瞬間、まりさは光を失った。
「いだいんだぜえええ! だれか、だれがだずげるんだぜえええ!」
「しぶといまりさだよ、もっといためつけるよ!」
「ゆっくりしないではやくしんでね!」
「ゆっくりしないでね!」
 目に突き刺さった棒をくわえたれいむがぽよんぽよんと垂直に跳ねる。体の中身を傷つ
けられてまりさは絶叫する。
「ゆっくりうごかなくなったよ!」
「ゆっくりしているね!」
「それじゃあ、そろそろいいわよね」
 何も見えないまりさに、路地ゆっくりたちの声が聞こえてくる。先ほどまでのような憎
しみは、その声からは感じられなかった。それにまりさは希望を抱く。これで解放される
のではないか。
「ひさしぶりのあまあまだよ」
「みんなよくあじわってむーしゃむーしゃしようね」
「あじわうんだねー、わかるよー」
 その言葉が意味することを、まりさは体中に生じた痛みで知った。
「「「「むーしゃむーしゃ……し、し、し、しあわせぇぇぇ!」」」」
 生ゴミやゲロが主食の路地ゆっくりたちにとっては、ゆっくりの中身の餡子は御馳走で
あった。
「や、やべでぐだざいいいい!」
 とうとう、まりさは敬語でお願いする。何も見えない暗黒の世界でじわじわと食われて
いく恐怖は、まりさにプライドを捨てさせるに十分であった。
「だべないでぐだざいぃぃぃ、あやばりまず! あやまりまずがら、ゆるじでぐだざいぃ
ぃぃぃ!」
 まりさの懇願は無視された。悪意からではない。路地ゆっくりたちは久方ぶりのあまあ
まに感動して、そのあまあまが発している声など全く気に留めていなかったのである。
「おちびちゃんたちもたべなよ!」
「ゆゆっ、あまあまたべちゃいよ!」
「れいみゅもあまあまたべりゅよ!」
「ありしゅ、あまあまたべりゅのはじめちぇだよ!」
「「「「むーちゃむーちゃ……ち、ち、ち、ちあわちぇぇぇぇ!」
「やべ……で……だべ……ないで……」
 まりさは暗黒の世界で懇願し続けていたが、それが聞き入れられるはずもなく、やがて
自分が暗闇の中にいると感じることすらできなくなった。
 何も、感じることはなくなった。

「……いないか」
 駅前のコンビニの前で、青年は呟く。
 あの日から、カバンの中には板チョコが入れてある。
 酔っ払って酷い目にあわせてしまったまりさにはあれから会っていない。てっきり、す
ぐに「ほーふくしにきたよ! ゆっくりしね!」とか言って殴りこんでくるかと思ってい
たのだが、来る気配もない。
 一週間が過ぎた休日の昼、青年は辺りをぶらりと回った。どうにも忘れられない。酔っ
ていて記憶はおぼろげだったが、口は悪いのにどこか愛嬌のあるまりさだった。
「たぢゅげでええええ!」
「やべでね! ゆっぐりでぎないよ!」
「な、なんでどがいはのありずをくじょするのおおお!」
「そうだよ、れいむたちはあの路地のゆっくりとは違ってきたなくないよ!」
 歩いていると、ゆっくりの悲鳴らしきものが聞こえてきた。慌てて行って見ると、どう
やら野良ゆっくりが駆除されているらしい。駆除業者らしき作業着姿の人間たちが仕事で
やっている人間特有の淡々とした手つきでゆっくりをトングで摘んで袋に入れている。
 仕事中の彼らに声をかけて邪魔するのは憚られたので、青年はそれを見物している近所
の人間らしき男に事情を尋ねた。
 その男の話によると、とある路地に住み着いていたゆっくりと、それ以外のゆっくりた
ちが争いを起こしたために、保健所が動いて駆除業者が呼ばれたらしい。
「野良同士の喧嘩ですか」
「おとなしい連中だったんだがなあ、特に路地のゆっくりたちは」
 青年は、男に礼を言って去った。まだ袋に入れられていないまりさ種をざっと見たが、
人間の目から見ると全部同じに見える。こちらで判別しないでも、あっちから「ほーふく」
しにやってくるだろうと思っていたのだが、この状況ではそれどころではないだろう。
 少し名残はあったが、正直、駆除業者に掛け合って仕事を中断させ、一度閉じた袋を開
けて中身を確認までするつもりにはなれなかった。
 カバンに入れた板チョコは、念のためにずっと入れておこうと思いながら、青年は家路
についた。

「むきゅ……」
 駆除業者の袋の中で、ぱちゅりーはゆっくり考えていた。
 やはり、あの時、まりさを食べたのが破滅のはじまりだった。
 子供たちを中心に、あの味が忘れられずに他のゆっくりを齧るものが現れたのだ。仲間
を食べてはいけない、と大人たちが強く言い聞かせたが、言い方が悪かった。
 仲間でなければ食べていい、と都合よく解釈した子供たちは、路地の外のゆっくりを狙
ったのだ。路地の外のゆっくりたちとは関わってはいけない、とは以前から言っていたの
で、それでよしと大人たちは思っていたが、あまあまの味に我を忘れるほどに執着してい
た子供たちは、目前の一つの課題、すなわち「仲間を食べてはいけない」ということ以外
に頭を回す余裕が無かった。
 子供たちは、外のゆっくりの子供、生まれたばかりの赤ゆっくりを狙った。一応子供た
ちなりにバレないように行動したつもりだったようだが、それはあっさりと露見した。
 日頃から蔑んでいる路地ゆっくりに、愛する赤ちゃんが食い殺されたとあってその報復
は凄惨を極め、路地の子ゆっくりたちは泣き叫んでも決して許されず、じわじわと時間を
かけてなぶり殺しにされた。
 むろん、それだけでは済まず、彼らは「とーばつ」と称して路地に攻め込んできた。
 路地ゆっくりたちも、自分たちの子供があちらの子供を食い殺してしまったと聞かされ
て、罪悪感を感じないでもなかったが、その報復に子供たちが殺され、そして今まさに自
分たちも殺されるとなって死に物狂いで抵抗した。
 そもそも能力的に劣るゆえに路地に追いやられた路地ゆっくりとはいってもそうなると
頑強な抵抗を示して、外のゆっくりたちもこれを攻めあぐねた。
 そして、路地の中と外で睨み合いが続き――ライトバンで乗りつけた駆除業者の人間た
ちにあっさりと捕獲された、というわけである。
 袋の外の声が聞こえてくる。
「やべで! どがいはなありずになにずるの!」
「きだなぐないよ! れいぶはぎだなぐないよ!」
 必死に叫ぶありすとれいむであったが、
「うるせえ」
「ゆべ!」
「ゆび!」
 どうやら、その言動行動にむかっとした人間に思い切り叩かれたらしい。
 ――いい気味だ。
 所詮、あいつらが自分たちを汚くて臭いゆっくりできない奴ら、と蔑んだところで人間
から見たらどっちも野良ゆっくりであり、駆除の対象なのだ。
「むきゅきゅ、ざまーみろだわ」
 ぱちゅりーは嬉しそうに笑う。駆除業者の袋に入れられているのにも関わらずだ。既に
諦め達観している……のではなく、ただ単に嫌いなゆっくりたちが酷い目に遭っているの
を喜んでいるのだ。
 その程度の頭だから、路地ゆっくりになったのだ。と言ってやったらその笑顔は一瞬で
凍りついてさぞや見物であっただろうが、誰もそれを言うものはいない。
「ゆっゆっ、ざまーみろだね」
「とかいはだってさ。にんげんさんから見たら、あいつらもありすたちとおんなじ野良な
のにね」
「ゆぷぷぷ、ばかな奴らだね」
 同じ袋の中には、ぱちゅりーと一緒に嫌いなものの不幸を喜んでいるゆっくりばかりだ。
 その顔は袋にぎゅうぎゅう詰めにされているにも関わらず、ゆっくりしていた。

                              終わり

 ゆっ!(挨拶)
 悪意無き酔っ払いによってゆっくりできなくなる話。
 ってのが今回のコンセプト。でも、ただのきっかけで終わってる。
 全編、酔っ払いの行動でゆっくりが酷い目に遭う話も書けそうだったけどできたらこん
なの。まあ、できちゃったもんはしょうがないよ!

 で、名を名乗れとのことなので、ゆ虐デビュー作からとって
 はがくれみりゃの人
 と名乗ります。
 でもふらんの方が好き。

今まで書いたもの
2704~2708 死ぬことと見つけたり
2727 人間様の都合
2853・2854 捕食種まりさ
2908 信仰は儚きゆっくりのために
2942~2944 ぎゃくたいプレイス

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最終更新:2022年05月19日 13:52