(6)

「すーぱーちゅうにびょうたいむ、はーじまーるよーっ!!?」

貝殻まりさの声が高らかに加工所に響き渡る!
この意味不明の台詞、そこに至るまでの経緯を少し時を遡って説明しよう。



「おにいさんはかえってこないし、おねえさんはじっけんばっかり…。
おしごとねっしんなのもいいけど、たまにはまりさとあそんでほしいよ…」

未だに水槽の中で水に浸かりっ放しの貝殻まりさ。
日々たっぷりと吸水し、先日まで水槽内の4割を占めていた体は、
遂に半分を超えるか超えないかの辺りにまで達していた。

「ずっとおうちのなかにいるから、まりさふとちゃったよ!」

本ゆん(人)の中では運動不足による肥満と考えている様だ。
その特殊な身体構造のおかげで、水に溶ける事も無ければ、
ふやけて破れる事も無いが、最終的にどこまで膨らむのだろうか?
お姉さんは興味本位で観察し、密かに記録を残していたりする。

「ゆ?」

研究室の扉が開きお姉さんが入って来た。

「おねえさん、おかえりなさい!
けんきゅうばっかりしているとつかれちゃうから、
ここでまりさとゆっくりしていってね!」
「ありがとう。 でも、あまりゆっくりしていられないのよ。
準備が出来たらすぐ戻らないといけないの、これから面白い実験が始まるからね」
「ゆ! なにそれ、おもしろいの?
なんだかゆっくりできそうだから、まりさにもみせてほしいよ!」
「う~ん…。 そうね、見せてあげるわ。
ゆっくりの視点で見た場合の感想も参考になるかも知れないしね」
「ゆっくりありがとう! まりさもいまからたのしみだよ!」



貝殻まりさの入った水槽を載せた台車を押して、
お姉さんは野外演習場にやって来ました。
そこには、まりさの知らないお姉さんと、見た事も無い不思議なゆっくりがいました。

「ゆ? おねーさんはだーれ?」
「あなたが噂のまりさつむりちゃんね? 私は春っていうの、よろしくね」
「おねーさんははるっていうなまえなんだね?
まりさはまりさだよ! よろしくね!」
「まりさ、人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗りなさい」
「ゆぅ…。 おねえさん、ごめんなさい…」
「さすが、主任…! とても良くしつけられていますね」
「特に何もしていないわよ? 私が育てると自然に皆こうなるのよね…」
「おねえさんとおねーさん! あっちのこはなんていうこなの?」

「ぴーぴー、がががー!」

まりさは口から青く光る液体を漏らしているゆっくりを見て言いました。

「ゆっくりうつほ…、だったものよ」
「あの子はゆっくりギアっていうの」
「ゆ! なんだかとってもゆっくりできなさそうな“ふいんき”をかもしだしてるよ!」
「あの青い液体…、何とかならなかったの?」
「あれはゆっくりうつほ固有の特徴みたいでして…。
口部を密閉して栄養を管で直接注入する事も考えたんですが、
内部に溜まった液体を排出する機構も同時に必要になるのでそのままにしました。
生物兵器である以上、避けては通れない問題点の一つです…」
「その点については、後々改良を加えていく事にしましょうか…。
それより、演習用のゆっくりは用意出来ているの?」
「はい、いつでも演習を開始出来ます!」

春お姉さんは、小さめのコンテナの様な檻の鍵を開けました。
今まで中の様子は分かりませんでしたが、何かが沢山いる気配がしていました。
その気配の主達は、鍵が開いた途端に中からワラワラと跳び出てきました。

「ゆ! まりさやれいむがいっぱいだよ!」
「これだけいるとかなり不気味ね…」

檻の中から飛び出してきたのはゆっくりれいむとゆっくりまりさの大群。
狭い所から開放された喜びで、各々思うがままにゆっくりしています。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆ・ゆ・ゆ・ゆっくりしていってね!!!」

貝殻まりさの呼び掛けに応じて一斉に挨拶を返します。
その音量たるや、遥か彼方の野山にまで響き渡り、
それに釣られて多くのゆっくりが一斉に返事を返したとか返さなかったとか…。

「ああもう、近所迷惑にも程があるわよっ!
ゆっくりしてないでさっさと演習を開始するわよ!!」
「はい、操作方法はマニュアルに纏めておきましたので、
確認しながら順に操作を試して下さい」

お姉さんは春お姉さんから、どこにも線のつながっていない操作機器を受け取りました。

「操作機器中央左のボタンでマニュアルを表示します」
「えーと…、中央の左側のレバーで移動するのね…」

“ガション、ガション、ガション!”

「ゆ!? うごいたよ! かっこいいよ!」
「前後左右に傾ける事で、その方向に移動…。 方向転換は出来ないの?」
「話しの展開上必要無いので、ついうっかりプログラミングを忘れていました…。
操作機器左上部の側面の奥側にあるボタンを押しながら、
左のレバーを操作する事で、その場を中心に回転するよう急遽追加しました。
マニュアルには未掲載ですのでご注意下さい」

マニュアルに載っている順に操作を確認していきます。

「中央右のレバーは何に使うの?」
「モニターの視点変更に使います。 モニターはギアの主観視点ですので、
ギアの向きを変えずに周囲を観察する時に使って下さい。
その他、武器の照準を移動する時に使用します」
「武器の選択及び変更は?」
「操作機器右上部側面の奥側にあるボタンを押して下さい。
押し続けている間、モニターに武装リストが表示され、
中央左のレバーや左端の十字に配置したキーで武器を選択出来ます。
使いたい武器を選んだら、最初のボタンを離して下さい。
武装リストが消え、選択した武器が現在使用する武器に変更されます」
「左上側面の手前のボタンで武器を構えて、
押し続けながら右上側面の手前のボタンで武器の使用ね?」
「はい、武器を構えていない時に右上側面手前のボタンだけを押すと、
蹴りを放つ事も出来ます」

“ウィーン…、ガシャン…! ウィーン…、ガシャン…!”

「とってもゆっくりしてるよ!」
「ゆっくりだけあって移動が遅いわね…」
「右端の四つのボタンの内、下のボタンを押す事で一定距離跳ねて高速移動します。
左のレバーと組み合わせる事でその方向に高速移動を、
蹴りの動作と組み合わせると、高速移動しながら蹴ります。
高速移動中は無防備ですのでご注意下さい」

お姉さんは、マニュアルに気になる表記を見つけました。

「この“特殊アクション”って、何の事?」
「気になります?」
「何よ? もったいぶってないで早く教えなさいよ」
「普段はギアが雄叫びを上げます」
「それに何の効果があるというの?」
「何パターンかありますので、暇だったら何度か試して下さい」
「たったそれだけ?」
「まさか! 本当に凄いのはここからですよ?」
「期待しないでおくわ」
「何と、ギアの周囲の状況に応じて様々なアクションを取る事が出来ます!
接近戦に於いて何か出来ないかと思って試験的に実装しました!」
「具体的には?」
「実際に試して欲しいのですが、怯んだ相手に接近状態で格闘攻撃が出来ます!」
「微妙ね…」
「コンボですよ!? 連続ヒットですよ!? “ずっと俺のターン!”ですよ!?」
「ゆゆっ!? すごいよ! “おとこのろまん”ってかんじがするよ!」
「あいつ(お兄さんの事)だったら喜ぶかもね…?」

「更に、秘密のコマンドもこっそり実装しておきました!」
「じゃあ、それも教えてよ」
「それは出来ません! 何せ秘密ですから!」
「だったら何でそんな物作ったのよ!?」
「秘密ですので!」
「まりさはゆっくりりかいしたよ!
さいごまでよんでくれたひとへのとくべつなおまけだね!?」
「皆さん、楽しみにしていて下さいね!」
「何それ!? 一体誰に話し掛けているのっ!!?」



「ゆっくりギア、発進!」
「うにゅうううううっ!!」

一通りの操作を確認し、ついにお姉さんはゆっくりギアを動かした。
この演習のデータが今後のゆっくりギア開発に大きく関わってくるのだ。

「ゆ!? なんだかへんなこがきたよ!?」
「とってもおっきいよ!」
「ゆっくりできないから、こっちにこないでね!」

通常のゆっくりに比べてかなり大きく、近づくだけで恐怖を与える様だ。

「まずは雄叫びから試してみるわよ! ポチッとな!」
「ゆっくりしていってねぇええええっ!!!」

「ゆっ!? ゆっくりしてるよっ!?」
「ゆっくりするからゆるしてねっ!?」
「ゆっくりごめんなさぁああああいっ!!」

何という事か、お決まりの挨拶をしただけなのに、
返事をしないばかりか、怯えて理由も無く謝罪までしてくるとは!?

「ゆっくりしていってね!」

貝殻まりさだけが元気に返事をしている。
お姉さんの教育の賜物だろう…。

「まずは小手調べよ! キックを受けなさい!」
「ちぇりやびんすくぅうううっ!!」

ゆっくりギアが右足を引いたかと思うと、
次の瞬間には前方のゆっくり達は吹き飛んでいた。

「ゆべ…っ!?」
「まりさのおかおがぁあああっ!!?」
「れいむはどこいったのぉおおおっ!?」

吹き飛んで壁に当たり、餡子を飛び散らせてはじける奴。
ギアの足に顔を抉られて悶える奴。
ゆっくりの群の一角は一瞬で削り取られてしまった。
唯の蹴り一つでこれほどの威力を誇るのだ。

「れいむくん、吹っ飛ばされた!!」

その爽快さにテンションの上がってくるお姉さん。
その様子を春お姉さんは少し引きながら離れて見ています。

「主任…、何だか凄く楽しそうですね…?」
「いつものおねえさんだよ?」
「ボールは友達よーっ!!」
「……………」

「ゆっくりできないぃいいいい!!」
「あ、こら! 逃げるな!!」
「ついてこないでね!? そこでずっとゆっくりしててね!?」

仲間の死を目撃し、一斉に逃げ出すゆっくり達。
ギアのいる方向とは逆の方向へと、皆一様に逃げ出していく。
足の襲い奴を踏み潰しながら追いかけるが、
反応の遅れたギアは先頭集団には中々追い付けない。

「こういう時は高速移動で先回りよ!」
「うぃんずけぇええええるっ!!」

「ゆぎゃっ!?」

ギアの巨体が宙に舞ったかと思うと、先頭のゆっくりを踏み潰して着地した。
それに驚いて二番目が引き返そうとするが、後続に押し返されてしまう。

「あっはっはっはっは! どこへ行こうというのかね!?」

ギアは二番目を踏み潰しながら反転して群の方に向き直る。

「なんでおいこされるのぉおおおおっ!!?」
「こっちはあぶないよ! ゆっくりしないでもどるよ!!」

勢いで一箇所に固まっているゆっくりの群を、機関砲が襲います。

「ほらほら! 蜂の巣にしちゃうわよ!?」
「あいだほふぃいいいるずっ!!」

「ゆぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃあっ!!」
「ゆべっ! ゆぼっ! ゆびっ!」
「まりざぁあああ! はやぐにげてぇえええ!!」
「むりだよぉおお! あじざんがいだぐでうごげないぃいいいっ!!」

体中に風穴が開いて息絶えた奴。
足を打ちぬかれて這いずる事も出来ない奴。
掃射を受けた範囲のゆっくりは一匹として無事な奴はいなかった。

「一箇所に集まっていたら狙い撃ちにされるわよ!
色んな方向に散らばって逃げる事ね!」
「ゆっくりにげるよぉおおおっ!!」
「みんなはついてこないでねぇえええっ!?」

蜘蛛の子を散らす様に、ゆっくり達は別々の方向に逃げ出していく。
敵の助言を鵜呑みにするとは流石の餡子脳だが、
これでは機関砲でも狙いを合わせ難い。

「あははっ、でも無駄なのよね!!
対地ミサイル用意! 目標捕捉開始…!」

モニターに映し出された無数の標的を、自動照準が捕捉していく。
そして、複数のゆっくりを捕捉し終えた直後…!

「全弾、発射っ!!」
「でっとろぉおおおいとっ!!」

ゆっくりギアから射ち出された数多のミサイルが、
それぞれの標的を目指して正確に追尾し、着弾、そして炸裂した。

「ゆぎゃああああああっ!!」
「ばりざぁあああっ!!?」
「でいぶぅうううううっ!!?」

「見てっ! 何て汚い花火なの!?」

周囲のゆっくりをも巻き込んで爆発し、あれだけいた群は2匹だけを残して全滅した。

「ゆっ、ゆわっ、ゆひぃいいいい…っ!!?」
「ゆぅ、ゆぅうううう…っ!!」

仲間の凄惨な死を見続けた為、最早恐怖の余り動く事さえ出来ない様だ。

「あら、もう逃げないの?」
「ご、ごめんなざいぃいいい!」
「あやまりまずがらゆるじでぐだざいぃいいい!!」
「許す? 何を? あなた達、何か悪い事でもしたの?」
「なんにもじでないでずぅううう! おもいあだりまぜぇえええんっ!!」
「でも、でいぶだちはあんごのうでずがら!
じぶんでもわがらないうぢになにがわるいごどじだがもじれないんでずうぅうう!!」
「あらあら、卑屈ねぇ…」
「だがらごべんなざぃいいいい!」
「ばりざだぢをゆるじでぼじいんでずぅううう!!」
「安心しなさい、あなた達は何も悪い事はしていないわ。 私が保証するわよ」
「ぼんどでずがぁああああ!!?」
「でも、自分で自分の事も分からない様な餡子脳じゃあ、
生きていても皆の迷惑になるだけよねぇ…?」
「ぞんなぁああああああっ!!?」
「けどね、私だって鬼じゃないのよ? 自ら悔い改めるのはとても立派な事だわ。
そんな自分自身の事をよく理解しているお利巧さん達に、最後のチャンスをあげる。
今からあそこにいるお姉さんにここの柵を一部開けてもらうわ。
そこから外に出られれば、あなた達の勝ち。 あなた達は、晴れて自由の身よ。
加工所でいつ訪れるのかも分からない死に怯えながら生きる事も無いわ。
そして私は柵を越えて追いかけないし、その時点から攻撃もしない。
更に30秒間、この場所から全く動かず、攻撃もしないわ。
一度に言い過ぎたけど、この条件、理解できるかしら?」
「ゆっぐりりがいじまじだぁああああっ!!!」
「ありがどぅございまずぅうううう!!」
「良かった。 実はあなた達、結構賢いゆっくりなんじゃない?」
「びじんでうづぐじぐでがれいでうるわじいおねぇざまぁああああ!!」
「あなだはゆっぐりだぢのぎゅうぜいじゅでずぅううう!!!」
「ほらほら、見え透いたお世辞なんて言ってないで、早く逃げたら?
優しいお姉さんが柵を開けてくれたわよ? あんまりゆっくりしてると殺すわよ?」
「ばりざぁ、ゆっぐりじないでにげるよぉおおおおお!?」
「でいぶぅ、ゆっぐりじないでづいでぎでねぇえええ!!」

春お姉さんの開けてくれた柵の外目指して、己の未来のゆっくりを掴む為に、
ゆっくりの精神から程遠い勢いで逃げ出していく2匹。

「最初で最後のチャンスだけどね…?」

お姉さんは約束通り、その場から一歩もギアを動かさず、
攻撃もせずにじっと待ち、遠ざかる二匹を見つめています。

「30秒…、30秒間だけ待ってやる…!」

例えゆっくりの逃げ足と言えど、必死に逃げ続ければかなりの距離を移動出来ます。
見る見る二匹の姿は小さくなっていきます。

「ばりざ! でぐぢがみえでぎだよっ!!」
「でいぶ! ごごまでぐれば、あのごわいごうげぎもどどがないよ!!」
「10…、⑨…、8…!」

そして、柵まで後少しの所で、止せば良いのに2匹は振り返ったのです。
自分達を虐めたお姉さんに最後に一言言ってやりたかったのでしょう。

「ゆっぐりでぎないおねえざんは、ぞごでずっどゆっぐりじでいっでね!!」
「みんなをごろじだべんなゆっぐりは、ゆっぐりじないでじんでねっ!!」
「5…、4…、3…!」

それが、最期の言葉になるとも知らずに…。

「確かに、流石のギアでもこれだけ離れていたら、
機関砲やミサイルが届く前に外へ出られるでしょうね」
「ゆうっ!?」
「ざぐをあげでぐれだおねえざんっ!?」

「2…!」
(1秒でこんなに話せる訳無いって? それは気のせいだよ!)

「でも、一つだけあるのよ。 あなた達の脱出を阻む事が出来る武器が…」
「なにぞれっ!!?」
「ぞんなごどぎいでないよっ!!?」

「1…」
(だから気のせいだって! それに、やってみたら案外出来るかもしれないよ!?)

「あらそう? でも主任はきっとこう言うわよ、“聞かなかったじゃない?”ってね」
「ぞ、ぞんなのずるいよぉおおおおおっ!!?」
「ゆわぁあああああああああああああっ!!?」

「0…!」
(ほら、きっとアレだよ! 死の直前、時間がゆっくり過ぎていく様に感じるアレ!)

「エネルギーフルチャージ! 照射っ!!」
「すりぃいいいいまいるぅううううっ!!」

直後、一筋の光がれいむを貫いていった…。

「ばりざぁあああああっ!!?」
「でいぶぅうううううっ!!?」
「それは光…。 弾よりも速く、音よりも速く、光は届くの」

春お姉さんは、真っ二つになったれいむを見て、ポツリと呟いた…。

「次はまりさだ! 跪け! 命乞いをしろ! 小僧(お兄さん)から愛を取り戻せ!」
「おねえさんは、まさに“せいきまつきゅうせいしゅ”だね!」

こうして、お姉さんの伝説にまた新たな1ページが書き加えられた!
但し、誰もが“世紀末覇者”の間違いだとツッコミを入れた事だろう!

「ゆわぁー! しょーっく!!?」

ギアは、足が竦んで一歩も動けなくなったまりさに、
ゆっくりと、実にゆっくりと近づき、その脚で踏みつけた。
まりさの断末魔は、愛で空が落ちてきたかの様だった…。





(7)

「許せない!」

お姉さんはイラついていた。
原因は至極単純、お兄さんの浮気疑惑である。
前回、お兄さんの行動(門番に弟子入りし、紅魔館で修行)と、
貝殻まりさの証言により、完全な誤解を抱いているのだ。

「態々休暇をとってまで女の園に行くとは…!
一体どれほどの女がいると言うのよ!!?」

幻想郷に存在する名所の殆どが、選り取り見取りのパラダイスなのは、
皆さんは十分にご承知の事と思われるが、
それはともかく、妖怪の根城に人間が出入りする事など自殺行為である。
そんな所へ自分から行くと言うからには、よっぽど魅力的な何か…、
つまるところ、新しい女の存在を疑ったのである。

「はっ!? まさか妖怪の毒牙に掛かり、心を操られている…!?
いや、でもそんな筈は…!!?」

妖怪に彼氏を奪われるくらいなら、いっその事この手で始末してしまおうか?
紅魔館にゆっくりギアの“虐弾頭”を撃ち込んで全て吹き飛ばしてしまおうか…?
いくら妖怪と言えど、この悪夢の兵器に太刀打ちする事など出来はしないだろう…!
そんな、多方面から批難の嵐が飛び交いそうな危険思想に至るほど、
今のお姉さんは正気ではなかった。

「いや、待て、落ち着け…。 まずは情報を整理してみるのよ…」

アレを使えば幻想郷は滅ぶ…。
“方”の東西を問わず、全ては破滅へと向かうだろう…。
それだけは避けなくては…!

「仮に、あいつに新しい女が出来たとして、その相手は誰か…?
そもそも、紅魔館とはどんな場所なのか…?」

お姉さんはこれまでに聞いた、紅魔館に関する情報を記憶から引き摺り出す。

「紅魔館…。 コウマカン…。 こうまかん…。
“紅魔館:紅魔館は、幻想郷の妖怪の山の麓、霧の湖にある島の畔に建つ洋館。
全体的に紅い色調をしていて、館の前の道も一面の紅になっている。
時計台もあり、夜中12時にのみ鐘がなる。
この館の主人は吸血鬼のレミリア・スカーレットであるが、
主人が子供なので、館を実質取り仕切っているのはメイド長の十六夜咲夜である。
門番として紅美鈴がおり、
湖側から館の敷地に進入しようとしてくる妖精などに対して積極的に迎撃を加えている。
レミリアの妹であるフランドール・スカーレットも館内に軟禁されており、
他にも多数の妖精がメイドとして在住している。
館内は咲夜が空間をいじって見た目以上に広くなっている
『紅魔郷』ステージ3以降、およびExtraは、紅魔館が舞台になっている”…」

※『wikipedia』より一部抜粋及び改変しています。

「あと、何か足りない…。 中に何かあった様な…?」

更に深く思い出す。

「図書館…。 そう、大きな図書館があった様な…?
“大図書館:紅魔館の地下にある大きな図書館。
パチュリー・ノーレッジの書斎になっていて、パチュリーが本を読んで暮らしている。
風通しが悪く日当たりもないので、かび臭い。
蔵書には大量の魔導書があり、パチュリーが書いた魔導書もある。
魔導書以外の本もたまに混じっていて、その多くは外の世界の本。
『紅魔郷』ステージ4の舞台になっている”…」

※『wikipedia』より一部抜粋及び改変しています。

「何か変な事まで思い出したけど…、これで大体は把握できたわ」

その執念から、どこぞの龍伝説3の勇者もびっくりの記憶力を発揮する。
今の彼女にとって、バックログを辿る事など造作も無いのだ!

「さて、この中で候補となるのは一体誰かしら…?」

またしても記憶を辿り、噂を通じて伝え聞く住人の特徴を思い出す…。

「あいつが荷物を持って行った時に出合うであろう順番に考えてみようかしら…」

お姉さんは頭の中でシミュレートしていく。

「まずは門に着くわね。 そこで門番に出会うはず。
門番の噂は…、“無能”…、“最萌”…、“巨乳”…。
…巨乳!? 重くて肩は凝るわ、動く時に邪魔になるわの悪い事尽くめの!?」

「…それは無いわね、あいつの部屋にそんな本は無かったわ」

<注意!> 決して巨乳が悪いと行っている訳ではありません!
重要なのは、お兄さんにプライベートなどというものは存在しないという事です。

「中に入れば多くのメイドに迎えられるわね…。 …メイド!?
掃除・洗濯・料理に裁縫、数多の奉仕で癒してあげる、御主人様の愛しい僕、
さり気無い気配りに、いつの間にか心の底から虜にされる魔の職業!?」

「でも以前、仮想大会で衣装を着てみた時、あいつドン引きしていたわね…。
趣味じゃないのかしら?」

真相は、お姉さんの家事力によって巻き起こる惨劇を想像したからです。
ドジっ娘で済む様な被害ではなかったそうな…。

「依頼主であるメイド長に荷物を引き渡すわね。
メイド長に関する噂…、“完全”…、“瀟洒”…、“PAD”…。
最後がよく分からないけど、よく出来た人物の様だわ。
でも、メイド長は自分の主人にしか興味が無い様だし、問題はなさそうね…」

ナイフが飛んできたかどうかは定かではない。

「あいつの事だから、館内で迷いそうだわ…。
偶々図書館に辿り着いて、そこであいつの好きな本のファンに出会うかも知れない…。
話が合う事から意気投合し、二人はいつしか親密な中に…!
これはちょっと考えすぎかしらね…?」

ほぼ正解である。
但し、そんな偶然が起こる確率は、登校中に朝食のパンを加えて遅刻と叫びながら走り、
曲がり角でぶつかった相手が転校生で隣の席に座るというのと同じ位だろう。

「…となると、残るは館主ね。
聞くところによると、館主はとんでもなく強い妖怪らしいわね…。
何でも、ルックス・強さ・カリスマを兼ね備えた存在だとか…。
でも、残念ながら誰よりもちびっ子だと聞いた事も…」

そこまで言って、お姉さんは自分の言っている事の恐ろしさに気付く!

「ち…、ちびっ子ですって…!?
そ、そんな!? 嘘よ、信じられない! 信じたくない!!
現にあいつには私という彼女が…!!?」

「ま、まさか、私は世間を欺く為のカモフラージュで、
本当は小さい子にしか興味が無いとか!?」

「そ、そう言えばあいつ、紅魔館からゆっくりれみりゃを持って帰って来てたっけ…!
あいつは紛れ込んだだけだと言っていたけど、本当はそうじゃなかったんじゃ!?
本人は無理でもゆっくりならと、倉庫で如何わしい事をしようとしていたんじゃ!?
本当は正真正銘、本物のHENTAIだったの!!?」

「あいつ、本当はロリコンなの!? ペドフィリアなの!?
○才以上はお断りなの!? 僕は危ないお兄さんだったの!?」
(↑好きな数字を入れてね!)

「あいつは変態なの!? 変態じゃないの!?
仮に変態だとしても、それは変態と言うな紳士なの!?」

「法律が改正されて、ある日制服の人達が家にやって来て、
家中捜索されて、PCや本が押収されて、手が後ろに回る人間なの!?」

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
誰か教えてぇええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!」



暫しの沈黙…。

「ふ、うふふふふふふ…」

「決めたわ…。
あいつは世間の恥…、誰かに迷惑を掛ける前に私が始末しなくては…」

「知るが良いわ…! 女の嫉妬ほど怖いものは無いという事を…!!」

過ぎる愛情は憎悪へと変わるという…。
心なしかお姉さんの目が緑色に見えたのは気のせいなのだろうか…?

「最終兵器…、承認…!」

お姉さんは取り出した鍵をギアの操作機器の上部側面に差し込んだ。
鍵を捻ると、警告音が鳴り、中央のボタンが点滅を始める。
そのボタンへと、お姉さんの指がゆっくりと迫っていった…!





こうして、お兄さんの全く与り知らぬ所で、
着々と世界は崩壊への道を歩んでいくのであった…。
新たな力と装備を手に、お兄さんはドスの下へと向かう!
誰の為に、何の為に戦う…?
お兄さんに決断が迫られる日は近い…!
お姉さんに始末される的な意味で…!





【おまけ】

「みんな! ゆっくり“またせたな!”だよ!」
「待望の、ゆっくりギアに隠された秘密のコマンドを紹介しますね!」
「わくわく! もうまちきれないよ! はやくおしえてほしいよ!」
「ではつむりちゃん、コントローラーの準備は良いですか?」
「ゆっくりじゅんびかんりょうだよ!」
「では、まずセレクトボタンを押して、マニュアルを開いてね!」
「ぽちっとな! おしたよ!?」
「次に間違えない様に今から言うコマンドを入力してね!
“↑↑↓↓←→←→○×”だよ! 間違えずに押せたかな?」
「へんなこうかおんがきこえたよ!?」
「はい、それで成功です! セレクトボタンを押して、マニュアルを閉じてね!」
「これでいったいなにがおこるの!?」
「L1ボタンを押しながら、△ボタンを押してみてね!」
「ゆっ!? まりさにはなかなかむずかしいよっ! う~ん、ぽちっ!」

「ちぇっるのぶいりぃいいいいいいっ!!!」

“カ………………………ッ!!!”



199X年…、幻想郷は“虐”の炎に包まれた…。
あらゆる生命体が死滅したかに思えた…。
だが…、ゆっくりは生き残っていた!
…あと、人間や妖怪も。

過酷な環境に耐え切れず、精神に異常をきたしたお兄さんは“鬼威惨”となった…。
“虐”の目に見えぬ影響で、頭髪が鶏の鶏冠の様になる等、
肉体的にも大きな変異を起こしていた…。

荒廃した世界では、ゆっくりの求めるゆっくりなぞ、どこにも存在しない…。
だが、ゆっくり達はありもしないゆっくりプレイスに希望を託し、
日々繰り返される虐待に耐え続けるのであった…。

そんなある日の事、いつもの様に鬼威惨がゆっくりを虐めているいつもの風景…。

「ひゃっはー! 汚物は消毒だぁ~!!」
「ゆぎゃあああああっ!」
「ん~、まちがったかな…?」
「やめてねっ! れいむのいもうと、いたがってるよ!」
「何するの!? あたしのお菓子よっ!!?」
「なんでこうげきがきかないんだぜぇええええっ!!?」

そんな日常に変化が訪れる…。

「ゆっ!?」
「なんだぁ、お前はぁ!?」

突然現れた若者は、怯え震えている一匹のゆっくりを拾い上げると…。

「い、いじめないでくださぃいいいいっ!!」

その指で優しく頬を突付いてやった…。

「ゆっ!?」
「お前、人が折角甘くした饅頭に何しやがるんだ!?」
「ゆ~っ! ゆっくり~!!」
「甘くした、だと…?」

手にしたゆっくりを見つめる若者…。
しかし、突然ゆっくりの様子がおかしくなった!

「お前はもう、ゆっくりしている…!」
「ゆっ!? ゆぶぶぶぶぶっ!!?」
「なっ、何だっ!?」
「ゆわらばっ!!?」

ゆっくりの体が歪に膨らんだかと思うと、次の瞬間には爆発して四散してしまった!

「こ、こりゃあ一体!!?」
「秘孔を突いた…」

そう言うと、若者は鬼威惨の方に向き直った。

「おい、貴様…」
「ひっ、ひぃいっ!? わ、分かった!
もう虐待は止める! だから兄ちゃん、どうか命ばかりは…っ!!」
「違うっ!」
「へ…っ!?」
「生温いっ! 虐待の仕方が甘いのだっ!!
後、私は女だぁあああああああああっ!!!」
「そっ、そんあぁあああああっ!!?」

鬼威惨をも超える恐怖、“悪音威惨”現る!
ゆっくりにとっての地獄は、まだ始まってすらいなかったのだ!!





【やったぜ!(色んな意味で)
某ステルスゲーム1も3も4もごちゃ混ぜですが、
自分が勝手に作った設定も多いので信じないで下さい。

ある事に関して改正するのしないの各所で騒がれておりますが、
この先どうなってしまうのでしょうね?

そして、読んで下さった方、収録して下さる方、ありがとうございます】

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最終更新:2022年05月19日 14:52