そんなことがあってからあっという間に数日の時が流れた。
俺はゆっくりがうちに来て鶏に食われたことなど忘れて、里の雑貨店に日用品を買出しに行った帰りだった。
「ふー、重いな」
割と我が家は里の中心からは離れているので買出しは毎回えらい歩く羽目になるので大変だ。

俺が腕に疲労を感じ始めた時、ガサリと茂みが動いたかと思うと
大量のゆっくりが飛び出し、俺を取り囲んだ。
「ん?何事?」
俺はキョロキョロと周りを見回した。
古今東西の色々な種類のゆっくりがずらりと居てこちらを睨みつけている。
一体何事だろうか。
疑問が頭の中を駆け巡る。
「時間かかるのこれ?長いんだったらもう荷物おきたいんだけど」
が、それはそれとしてかなり腕が疲れていた。
いらないものを買いすぎたかもしれないと舌打ちする。
「うるさいよこのゆっくりごろし!」
「はんざいしゃはゆっくりだんざいされてね!」
「ごくあくにん!あくま!ひゆっくり!」
弾けたかのようにこちらに向かって罵声が飛び交い始めた。
いわれの無い非難にマイグラスハートがブロークン。
「ふぅ…」
そうは言うものの肉体的疲労には逆らえない。
とりあえず荷物を下に置いてそこに腰掛けた。
「せいしゅくにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
野太い声と共に上からみょんな音がしたので見上げると巨大な岩が落下してきていた。
余りの出来事に唖然としているとぼよよんという音と共に岩が着地した。
落下の際に起きた風で髪がなびく。
それはよくみると岩ではなくゆっくりだった、かなり巨大な。

「「「「「「ドスまりさだーー!」」」」」」」

ゆっくり達が声をそろえて一斉にそのゆっくりの名を呼んだ。
「これよりゆっくりさいばんをかいていするよ!!」
どうやらもう少し呆然とせざるを得ない事態が続くようだった。
「ひこくにん!まえへ!」
「……」
「ゆっくりしてないではやくきてね!」
一体誰が裁かれるのだろうとぼーっと眺めてると突然よこのゆっくりに怒られた。
どうやら被告は俺のようだった。
渋々立ち上がって三歩前に出るとでかいゆっくりがこちらをみて厳粛そうな顔で言った。
「ひこくにんはげんこくにんのゆっくりすてでぃをさつがいし
あまつさえあかちゃんまでてにかけたことをみとめますか?」
「何の話?」
俺は首をかしげて聞き返した。

「しらばっくれないでね!!!!!」
法廷?代わりの道端の静寂を鋭い声が突き抜けた。
「ん?どこかでお会いしたかな?」
右目に葉っぱの眼帯をしたゆっくりまりさがそこに居た。
残る左目には強い憎しみを渦巻かせてこちらを睨んでいる。
「まりさのれいむをころして、そのうえふたりのかわいいあがぢゃんを…あがぢゃんがあああああああ!!!」
ゆっくりまりさは片目で両目分はあるのではないかという量の涙を流し始めた。
「むきゅ、まりさおちついてね」
「わかるよーかなしいよー」
両側に控えるゆっくりちぇんとゆっくりぱちゅりーが泣き喚く眼帯ゆっくりをなだめた。
「まりさのいっていることをみとめますか?」
再び、巨大ゆっくりが俺に問いかけた。
ここまで来ると流石に事情も飲み込めてくる。
俺は場の空気を乱さぬよう落ち着いて答えた。

「とりあえず人間の弁護士を」

「ぎゃくたいちゅうにはべんごしなんていらないよ!」
「ごみくずのぶんざいでちょうしにのらないでね!」
すかさず飛ぶ罵声。
なんたる完全アウェイ。
「ゆっくりこたえてね!」
巨大なゆっくりが俺に詰め掛けてくる。
その重圧に俺は汗を流した。
「うーん、そこの眼帯の友達とやらは確かに食べたけど…」
「ゆ!ばきゃくをあらわしたね!」
「やっぱりわるいやつだったよ!とっととドスまりさにやられてね!」

「「「「「ゆうざい!ぎるてぃ!ゆうざい!ぎるてぃ!ゆうざい!ぎるてぃ!」」」」
巻き起こる有罪コール。
ゆっくりの群れが一つの言葉の波となって襲い掛かってくるかのようだった。
「傍聴は静かに行うべきでは…」
「ゆ!!!まりさのいったことがじじいつならもうゆるさないよ!」
「いやでも…」
抗議は再びかき消された。
とりあえずえらい剣幕で怒り出した巨大ゆっくりに引いた。
「なにかもうしびらきがあるならいってね!!!!」
とりあえず俺は色々理不尽に感じつつも一つだけこちらの言い分を話した。
「だって食べてっていわれたから食べただけだし」




「どおいうことおおおおおおおおおおおおお!?」

一瞬の沈黙の後、巨大ゆっくりの大声と共に法廷は混乱の坩堝に飲み込まれた。
「うぞでじょおおおおおおおお!?」
「はなしがちがううううううううう!!」
「わからない!わからないよおおおお!!」
何事かと混乱して辺りを見ると俺以上に困惑しているゆっくりが一匹居た。
眼帯ゆっくりである。
「ど、どうしたのみんな?
ゆっくりしてないではやくあのおにいさんをじゃっじしゆっぐぅぅぅう!?」
おろおろと周りに呼びかける眼帯ゆっくりに突如両側に控えていたゆっくりちぇんが体当たりした。
「わからないよ!まりさがどれだけばかなのかわからないよ!!」
ゆっくりちぇんはかなり憤っているようだった。
それは反対側にいたゆっくりぱちゅりーも同様のようであった。
「むきゅうううう!れいむがじぶんからたべられることをのぞんでいたならつみにはとえないのよ!!」
そういえば聞いたことがある。
ゆっくり以外の生き物を好きになったゆっくりはその生き物に食べられることを望むようになるらしい。
あのゆっくりれいむもその類だったのだろうか。

「ゆ!?で、でもまりさのあかちゃんを…」
「いやそれ喰ったの鶏じゃん」
さっきは言いそびれて色々と大変だったので今度はすぐに指摘して訂正する。
「むきゅうううううううううん!?」
「わかるよおおおお!まりさのせいでたいへんなことになったよおおおおおお!!」
事実を言っただけなのだがゆっくり達はさらなる混乱が訪れた。
「むぎゅうううううう!むざいよ!かんぜんむざいよ!!!」
「み、みごろしにしたんだからおなじことだよ!」
「ぜんっぜんちがうよー!ばかでもわかるよー!!」
「どおぢでぢゃんどはなぢでぐれながっだのおおおおお!?」
「ゆ、ゆー…!?」
思いがけず周りのゆっくり達に詰め寄られ眼帯ゆっくりは狼狽していた。

「むきゅうううううううう!むじつのにんげんをごにんそーさでこーそくしてしまったわ!
さととのせいじもんだいよ!せいさいされてしまうわ!!!」
政治問題にまでハッテンするとは流石の俺も思わなかった。
しかし正当な理由で裁判を行ったところでど
ちらにせよ危険な饅頭として駆除されそうだがそういう考えはないのだろうか。
俺は饅頭の考えはわからんと首を傾げた。

「わかるよー!かこうじょうがくるよー!!」
「ゆっぐりでぎなぐなるううううううううう!!」
「しね!まりさはゆっくりせずにしね!!!」
「ゆ、ゆうううう…」
眼帯ゆっくりは完全ホームのはずがあっという間に針のムシロである。
さっきまで完全アウェイを体験した身としては親近感が沸いた。
思わず生暖かい視線を眼帯に向けてしまう。

「ところで立ってるの疲れたから座っていい?」

群集の沈静化に右往左往していた巨大ゆっくりが慌ててこちらに向き直ると
ぺこぺこと頭を下げながらこちらに近づいてきた。
「どうぞゆっくりしていってね!
それでおねがいだからおんびんにことをすませてね!」
「えー…」
自分勝手だなと俺は眉をひそめていやな顔をした。
「ま、まりさたちでできることならなんでもしますから!」
巨大ゆっくりは慌ててこちらのご機嫌取りに走った。
しかしそんなこと言われてもゆっくりに望むことというと正直余り無い。
食べ物辺りが妥当だろうが木の実とか虫とか持ってこられても困る。
しかしせっかくなんでもするというのだから何か頼まないともったいないお化けが出そうだ。
俺は頭を悩ませてこう答えた。
「一匹食わせてくれとかそんなのしか思い浮かばないなぁ」
「「「「「「!?」」」」」」

ゆっくりの間に電撃が走る。
何も本気にしなくてもいいのにと俺は思った。
でももらえそうな空気なら結構歩いてお腹がすいていたので貰っておくことにしようと心に決めた。

「ゆ…じゃあこのげんこくのまりさをあげるよ!」
巨大ゆっくりはぱぁっ…明るく笑って眼帯ゆっくりを押し出した。
「な゛に゛を゛いっでるのおおおおおお!?」
いつの間にか針のムシロ通り越して生贄にされそうになって涙を流して抵抗する眼帯ゆっくり。
しかし体格の差はいかんともしがたい。
ずりずりと俺のほうへと眼帯ゆっくりは押し出されていった。
「あ、傷物はちょっと」
しかし俺は容赦なく両手のひらを突き出してお断りしますの意を示した。
「ゆ!?」
「たすかったよ!べ、べつにうれしくなんかないよ!
れいむとあかちゃんのかたきはわすれてないんだよ!」
眼帯の方がなんだか変なツンデレッ気をだしているがそれはどうでもいい。
ゆっくり陣営の方は元凶を生贄にして丸く治めるという手を封じられ、困惑していたようだった。

「ゆ…どうしよう…」
不安そうな巨大ゆっくりと共にざわざわと話し合いをし始める。
話は一向にまとまりそうにはなかった。
当然だろう、仲間を犠牲にするのは誰だって嫌なはずだ。
やはり断ろうかなと思ったとき、一匹のゆっくりれいむが前に出た。
「わたしをたべてね!」

「な゛に゛を゛い゛っでるのおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?」
巨大ゆっくりが大地を揺るがしそうなほど大きな声を響かせた。
耳がびりびりした。
ゆっくり達も衝撃でブルブルと震えている。
「だれかがぎせいにならないとにんげんにせいさいされてさとはれいむたちのむれをせいさいするよ!
だから…だからわたしがたべられればみんなゆっくりできるよ!」
「だべだよおおおおお!!ま゛り゛ざれ゛い゛む゛どいっぢょじゃないどゆっぐりでぎないいいい!!」
巨大ゆっくりが泣きながらゆっくりれいむに縋り付いた。
他のゆっくり達もうんうんとうなずく。
「そうだよ!れいむがいくことないよ!」
「ドスまりさがいればにんげんだってこわくないよ!」
「れいむいっちゃだめええええええええええ!!!」

どうやら人望のあるゆっくりのようだ。
そんなゆっくり達を見てゆっくりれいむは嬉しそうに、だがそれでいて悲しそうな複雑な表情をした後
きっ、と表情を強張らせて言った。
「みんなにんげんのこわさをわすれたの!?
みょんのいたむれはたったひとりのにんげんのおんなのこにやられたんだよ!
みょんのむれにだってドスまりさはいたのに…
そのドスまりさはむれをぜんめつさせられてずーっとわらうだけになっちゃったんだよ!!」
「ぢんぼおおおおおおおおおおおおお!!!げんのうごわいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
トラウマを刺激されたのかゆっくりようむは突如白目を剥いて絶叫し始めた。
どうやら俺の要望を聞かないと何らかの報復が行われると思っているようだ。
しかし一体何があったのだろうか、ゲンノウというと大工道具のだろうか。

ゆっくりれいむの言葉にゆっくり達は黙りこくった。
そしてただただ俯き震えながら泣き始めた。
特に巨大ゆっくりは唇を千切れそうなほど強く噛み、ぶるぶると震えながらゆっくりれいむを見ていた。
暗い雰囲気が辺りを包み込む。

ソレを見てゆっくりれいむは悲しそうに笑うとこちらを向いて満面の笑顔で言った。
「ゆっくりたべていってね!」
俺はデジャヴを感じつつゆっくりはゆっくり食べるのが礼儀なのだろうかと思った。
しかしわざわざそう断られたならゆっくり食べざるを得ない。
俺はまずはリボンを口で千切って頬張った。
甘いようなそうでもないような微妙な味がした。
「ゆ゛…!」
ゆっくりれいむの押し殺したような声が聞こえた。
「れいむのりぼんがぁぁぁ…!」
「あんなにきれいだったのに…」
「ゆううううううう…!」

ゆっくり達がボソボソ言っているのを聞きながら今度は髪の部分を少し齧った。
どうにも食べづらくてイライラした。
「れいむ…れいむのきれいなかみが…!」
「あ゛ん゛なのも゛うれい゛む゛じゃないよお…!」
ゆっくりれいむがぶるぶると震えだして食べ辛くなった。
そろそろ本体を頂こうと思って今度は頬の辺りを少し齧った。
「ゅ――っっぎぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!」
押し殺しているのだろうが頬に穴が開いたのだからそこからとめどなく悲鳴がこぼれた。
「やべでえええええええええ!!!」
「でいぶうううううううううう!!」
「ああああ!あんなにゆっぐりぢでだのにいいいいいい!!!」
ついにゆっくり達からボソボソ声ではなく悲鳴が上がり始めた。
あまり長引かせたくなかったがゆっくり食べていってねといわれていたので渋々同じように少しずつ齧っていった。
「ゅっごぅぇれぇおおおおおおおおおおお!?」
なんだかよくわからないゆっくりれいむの悲鳴が辺りに響き渡る。
もはや痛みを耐えるどころの話ではないようだった。

「もうやめでよぉぉ…」
「もっどいっじょにゆっぐりぢだがっだ…」
さっきまで悲鳴を上げていたゆっくり達はもはやどんよりとしたお葬式ムード全開だった。
特に巨大ゆっくりが酷い。
「れいむがれいむがれいむがれいむがれいむがれいむがれいむれいむれいむ
れいむれいむがまりさのれいむれいむれいむれいむれいむ…」
さっきからずっとれいむれいむとぶつぶつ言っているだけである。
よほど仲がよかったのだろうか。
なんだか目もうつろで焦点が合わなくなっているようだ。

そんなこんなで遂にゆっくりれいむを完食した俺は立ち上がり、言い放った。

「それじゃ俺帰るわ」
大分休んだおかげで荷物は軽く感じた。







それから数日後
「ゆ…ゆ…」
その辺をぶらついていると眼帯ゆっくりがぼろぼろになってどこかへと走り去ろうとしているのを見かけた。
恐らくこの前のゆっくりまりさと同一個体だろう。
何をしているのだろうかと少し見ていると、こちらに気付いて突進してきた。
「れ、れいむのかたきゆっくりしねええええ!!!」
俺はひょい、とそれを避けて問いかけた。
「えらいボロボロになってるな、何かあったのか?」
それに答えて眼帯が何かを言おうとしたその時、両サイドからゆっくりが現れ、眼帯に圧し掛かった。
「この…!ごみくず!ゆっくりしね!」
「どおしてれいむがいきてるのにおまえみたいなごみくずがいきてるのおおおおおおお!?」
「ゆぎいいいい!ま、まりさはわるくないよ!わるいのはそこのおにいっぎゃあああああああ!?」
「いいわけするなゆっくりしね!!」
なるほど、と俺はうなずいた。
この前の裁判のことで元凶としてリンチを受けていたのか。
ゆっくり達による眼帯への罵倒は続く。
「まりさのせいでゆっくりしててやさしいれいむがしんじゃったんだあああああ!!」
「まりさがれいむとはくらべものにならないきずもののグズゆっくりのことでぐだぐだいうからこんなことになったんだよ!」
「れ、れいむはグズなんかじゃないよ!!!」
「グズにれいむのなまえをかたらせないでね!!」
口論の合間に体当たりが行われる。
眼帯はボロボロ具合をさらにましていった。
「だ、だれかたすけて…おにいさん!たすけて!たすけてえええええええ!!」
眼帯がこちらを見て助けを求めた。
俺はどうしようかと少し考えて答を出した。

「今日部屋片付ける予定だったから帰るわ」
「ま、まっでよおおおおお!!!!」
背中からどすんどすんと饅頭同士がぶつかる音だけが聞こえた。





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最終更新:2022年05月19日 15:22