「ゆっきゅちちていっちぇね!」
「「「「「ゆっきゅちちていっちぇね!」」」」」

薄暗くて狭いケージの中でれいむは産声をあげた。
どうやら彼女が一番最後に産まれた個体らしく、先に産まれた姉たちが笑顔で返事をしてくれた。
しかし、いつまで経っても本来真っ先に返事をするべき両親の声がしない。
それ以前に、両親の姿が見当たらなかった。

「ゆぅ、おきゃーしゃんは?」
「れーみゅ、ゆっくちきいちぇね!」
「おきゃーしゃんはいにゃいんだよ!」

最初、れいむはその言葉の意味が理解できなかった。
お母さんが居ない? ゆっくりにとっては別に珍しくも無いことである。
しかし、ゆっくりとはゆっくりすることを夢見ながら生まれてくる。
ゆえにお母さんが居ないなどと言うゆっくり出来ない状況はまず想定していないのだ。

「ゆー・・・どうちておきゃーしゃんいにゃいの?」
「わきゃらないよ!でみょ、いにゃいんだよ!」
「ゆっきゅちりかいちてにぇ!」

れいむは蔦にぶら下がって揺れながら、ずっとゆっくり出来ることを夢見ていた。
お母さんに「ゆっくりしていってね!」って言ってもらおう。
お母さんと一緒に「す〜りす〜り」して沢山ゆっくりしよう。
お母さんに美味しいご飯を食べて「しあわせー」になろう。
お母さんと一緒にお歌を歌ったり、踊ったりしてゆっくり遊ぼう。

「ゆ、ゆぐっ・・・ど、どうちちぇ・・・?」
「どうちちぇ、おきゃ・・・しゃん、いにゃいの・・・ゆっ・・・!?」
「れーみゅ・・・おきゃ、しゃんに・・・あいちゃいよぉ・・・!」

れいむはその言葉を、残酷な現実を信じたくなかった。
けれど、狭い部屋の何処を見ても両親の姿はないし、両親が隠れられるような場所も無かった。
その事実があまりに悲しくて、れいむは堪えることもせずに大粒の涙を零し始めた。

「ま、まりしゃだって・・・おきゃーしゃんにあいちゃい、よぉ・・・」
「「ゆ、ゆぴぇ・・・ぇん・・・おきゃーしゃあん・・・!」」
「ゆえーん、ゆえーん・・・!」

そんなれいむにつられて姉妹たちも泣き出してしまい、小さなケージは赤ゆっくりの泣き声で満たされた。



ポトッ
泣きじゃくるれいむ達の真ん中にそんな音を立てて落ちたのは先ほどまでれいむ達がぶら下がっていた緑色の蔦。
赤ゆっくり達は濡れた双眸でその鮮やかな緑を見て、本能的に何をするべきかを理解し、泣き止んだ。

「ゆゆっ!おいちそうなつたしゃんだよ!」
「ゆっくちできしょうだよ!」
「おにゃかしゅいたよ!」
「ゆっきゅちたべりゅよ!」

赤ゆっくり達は涙を拭うと、満面の笑みを浮かべてその蔦に飛びついた。

「むーちゃむーちゃ、ちあわちぇー」
「「とってもゆっくちできりゅよ!」」
「ゆっくちー」

がつがつと小さな身体と口を使って勢い良く蔦を食べるれいむ達。
6匹の赤ゆっくり達の旺盛な食欲によって、蔦はものの数分で消えてなくなった。
満腹感によってゆっくりした気分になり、やがて頬をくっつけて眠りについた6匹の安らかな寝顔だけがケージに残っていた。



「ゆぅ・・・ゆっくりおきるよぉ〜・・・」

数時間後、寝ぼけ眼を床でこすりながられいむが目を覚ますとケージの中から姉妹の姿が消えていた。
右を見ても左を見てもれいむ種の姿もまりさ種の姿もなく、心なしかケージ内も眠る前より狭く、暗くなっているように思えた。
そんな狭いケージの中を必死に跳ね回りながら「おねーしゃん、どきょー?」と叫び、姉妹を探し回るれいむ。
しかし、返事はなく、代わりに頭上から「かっぱー」という奇妙な声が聞こえてきた。

「ゆゆっ、だれきゃいりゅの?」
「かっぱー」

声の主の顔を伺うために上を向いたれいむの視線の先にいたものは、黄色いくちばしと頭上の皿が特徴的な緑色の生き物だった。
本能に刻み込まれているれみりゃと呼ばれる生き物と同じように二本の足で立っている。
そして、自由に物を掴むことのできる手を、しかも水かきのついた手を持っている。

「ゆぅ・・・れーみゅはれーみゅだよ!おじしゃんはだありぇ?」
「かっぱー」
「ゆゆっ!かっぱしゃんだね!ゆっくちちていっちぇね!」

無知であるがゆえに異形を前にしても恐れることを知らないれいむは、無邪気に笑みを浮かべてゆっくりにとって一番大事な言葉を口にした。
が、カッパは身じろき一つすることなく、ただ「かっぱー」という返事するばかり。
れいむが何度「ゆっくちちていっちぇね!」と言っても「かっぱー」という返事が帰ってくるだけだった。

「かっぱしゃんはしゃべれにゃいの?ばきゃにゃの?」

業を煮やしたれいむが思わずカッパを罵倒したその瞬間、全く動かなかったカッパが突然動きを見せた。
もっとも、ケージの傍に備え付けられていたボタンを押すという僅かな動作だったが、その動作はれいむにとっては大きな意味を持っていた。
その動作によって、カッパに言葉が通じることと、彼が怒っていることを身をもって理解させられたのだ。

「ゆゆっ!?にゃんあかあちゅいよ!」
「かっぱっぱー」

カッパがボタンを押した瞬間に決して快適とは言いがたかった室内の温度が徐々に高くなり始める。
正確に言えば床に備え付けられた暖房器具が熱源で、まだ部屋全体が熱くなっている訳ではない。
しかし、野生で生きていくうえで最も重要な足はゆっくりにとって最も敏感な場所。
そこに接触する部分の温度が急に、それも必要以上に高くなってしまうのは想像以上に苦痛を伴うようだ。

「あち゛ゅい!あち゛ゅいよ!」
「かっぱっぱー」
「どうぢであぢゅいのー!?」
「かっぱっぱー」
「あぢゅいのはやだよー!ゆっくぢでぎにゃいよー!?」

黙って床から離れようと跳ね回っていたれいむを観察していたカッパはボタンを押して1分ほど経過したところで再びボタンを押した。
すると、すぐに床の温度は下がり、あっという間に25度ほど上がっていたケージの中の温度も数分ほどで元に戻る。

「ゆぅぅ・・・ゆぇ・・・いぢゃいょぉ・・・」
「かっぱー」

床や室内の温度が下がっても、れいむはしばらくの間、底部を熱された痛みのために泣きじゃくる。
カッパはただそれをじっと観察し続けていた。
やがて、痛みから立ち直ったれいむが、自分をここから出して欲しいと要求するまで。
そして、その要求を無視し続ける彼に怒りを覚えて、再び暴言を吐くその瞬間まで。

「かっぱっぱー」
「ゆゆっ!まちゃあちゅくなっちぇきたよ!?」
「かっぱっぱー」
「ゆぅぅぅぅうう・・・かっぱしゃんがあちゅいあちゅいしてりゅんだね!」
「かっぱっぱー」
「やめちぇね!ゆっくちやめちぇね!あちゅいのはゆっきゅちできにゃいよ!?」

れいむはまたしても暴言を吐いた瞬間にカッパはボタンを押した。
2回目でようやくれいむはカッパがボタンを押すことと室内温度の上昇に因果関係があることを理解した。
2度目の「あちゅいあちゅい」はれいむはカッパが怒っていることを理解して謝るまで終らなかった。



翌朝、目を覚ましたれいむはとても恐ろしいものを目の当たりにすることになった。

「れーみゅ!ゆっくちたしゅけちぇ!?」
「「いちゃい!いぢゃいよ!やめちぇね!やめぢぇね!?」」
「「ゆっくぢできにゃいいいいいいい!?」」
「かっぱー」

ケージを隔てた視界の先で繰り広げられるのは昨日別れた姉妹の虐殺ショーだった。
あるれいむは全身に何本も何本も細い針を刺されて、ハリセンボンのような有様になっていた。
あるまりさは全身を火で執拗に炙られ、真っ黒になってなしぬことができずに呻いていた。
またあるれいむはカッパの緑色の手でこねくり回されて丸々とした原型の面影すら残らないほど細長く伸ばされてしまった。
残りの2匹のまりさは身体を癒着させられ、餡子が混合した影響で精神が破綻してしまっていた。

「「ゆひっ・・・ゆふぃ・・・」」
「ゆぎぃ・・・あぢゅい、あぢゅいよぉ・・・」
「ぢにゅ・・・ぢんぢゃうぅうぅぅ・・・」
「もーやだ、おうちかえりゅ!」
「かっぱー」

餡子が漏れなければ大抵は大丈夫という中途半端な丈夫さのせいで死ぬこともかなわず嬲られ続ける姉妹たち。
れいむは小さな身体で力を振り絞って思いっきり「やめちぇあげちぇね!いちゃがっちぇるよ!」と叫ぶがカッパはまるで取り合おうとしない。
クリクリとした何処か愛嬌のある瞳でじっとれいむの顔を見つめながらも、淡々と姉妹を痛めつけている。

「やめちぇね!やめちぇあげちぇね!」
「かっぱー」
「いぢゃいよ!やべぢぇ!ぢぬ゛、ぢんぢゃう゛ー!?」
「「ゆっ・・・ゆひぃひぃ・・・ゆっくりー」」

身体を癒着させられ餡子が混ざってしまった2匹は幸せそうに笑っていた。

「・・・ゅ・・・ぃ・・・ょ」
「かっぱー」

無数の針を針を突き立てられたれいむはいつの間にか死んでいた。
彼女の「もっとゆっくりしたかったよ」という断末魔は誰の耳にも届かなかった。

「やべ、やべで・・・ごれぢゃゆっぐぢ・・・でぎっ!?」
「あっ・・・・・・・・・かっぱー」

身体を細長く伸ばされたれいむはカッパの不注意で胴体が両断され、動かなくなった。

「・・・ゅ・・・・・・ゅ・・・」
「かっぱー」

まりさは全身を、髪や帽子まで火あぶりにされ、目のついた饅頭も同然の姿になってしまっていた。
僅かに漏れる呻き声や眼球の動きが彼女の生存を教えてくれるが、こんな有様では死んだほうがましかもしれない。

「おにぇがいだよ!やべぢぇね!やべぢぇあげでね!?」
「かっぱっぱー」

れいむがもう何度目になるかも分からないその言葉を口にしたとき、ようやくカッパの手が止まった。
ようやくお願いを聞いてくれた。そう思ってれいむは安堵のため息をついた。
そして、1日ぶりに再会を果たした姉たちに、もはや生きているとはいえない状態であっても・・・

「ゆっくちしていっちぇね!」

そう声をかけてあげようとした瞬間、カッパが虫の息の姉たちに拳を振り下ろし、止めを刺した。
そして、呆然とするれいむを一瞥すると姉たちだったものをつまんで去っていってしまった。

「ゆっ・・・お、にぇーちゃぁん・・・ゆっ、うくっ・・・ひっ・・・」



翌日以降の生活は非常に単調で、無味乾燥で、全然ゆっくり出来ない辛いものだった。
朝はカッパがケージを乱暴に叩く音によってたたき起こされる。
そして、目を覚ますと目の前には全く味のしないぱさぱさしていて何処にあるのかも分からない喉につっかえる餌が置かれていた。

「むーしゃむーしゃ・・・ふしあわせー・・・」

初めてその餌を食べた時、れいむは昨日に姉妹の虐殺ショーを魅せられているのも忘れて抗議した。
しかし、返ってきたのは「かっぱっぱー」という意味不明の言葉とボタン操作による室内温度上昇の責め苦だけだった。
そしてれいむは理解した。自分は彼らに抗議するとゆっくり出来ない目に合わされるのだと。

「ゆぅ・・・にょどがかわいちゃよ・・・」

だが、赤ゆっくりにとっても狭いケージの中には水なんて置かれていない。
ここでは1日に2回、食事と一緒に僅かな量の液体が与えられるだけだった。
その液体は何故か濁っていて、とてもゆっくり出来ない味のするものだったが、渇きを潤すにはそれを飲むしかなかった。
もっとも、れいむはそれを飲むことによって渇きが癒えるのを実感したことは一度もないけれど。

「ごーきゅごーきゅ・・・ゆぺぇ、ゆっきゅちできにゃいぃぃ・・・」

しかも、飲むたびに微妙に味が変わるのでその味に慣れることすらかなわない。
味のしない餌と精神的には毒にも等しい飲み物・・・食事は、味わうという行為はいつの間にか労働、あるいは拷問に変わり果てていた。
勿論、残すことは許されない。

「ゆぺぇ・・・・・・ゆゆっ!たべりゅよ!れーみゅちゃんとたべりゅよ!だきゃらあちゅいあちゅいはやめちぇね!?」

必死の懇願もむなしく、カッパはボタンのスイッチを押した。
急激に上昇する室内温度が、何処よりも真っ先に熱を帯びた床がじりじりとれいむを痛めつける。
その温度が一定以上になることはないが、その間れいむは全然ゆっくり出来ない気持ちにさせられる。
しかも、そんなゆっくり出来ない状況の中であの喉に優しくない餌を食べねばならなかった。

「ゆぅ・・・ゆひぃ・・・やめ、やめちぇね・・・れーみゅ、じぇんぶたべちゃよ」

れいむが食べ終えたのを確認したカッパはボタンを押してケージ内の温度を下げると、れいむが食事をしている間に用意していたあるもののスイッチを入れた。
あるものとはプロジェクターという装置で、それによってれいむの目の前の壁にある映像が映し出される。

『れいむ、始めまして。ゆっくりしていってね!』
『ゆゆっ!ゆっきゅちちていっちぇね!おにーしゃんはゆっきゅちできりひちょ?』
『ああ、そうだよ。とってもゆっくり出来る人だよ』

れいむではないれいむ種のゆっくりの赤ちゃんがカッパと同じように二本の足で立ち、手を自由に操る生き物を不安げに、そして何処か期待に満ちた眼差しで見つめている。
そんな小さなれいむにカッパと似ているけどくちばしがなくて肌の色が全然違う生き物は、とてもゆっくり出来そうな表情で微笑みかける。

「ゆぅ〜・・・とってもゆっくりできそうだよぉ・・・」

もう何度目になるかも分からないそのシーンを羨望の眼差しで凝視しつつ、ため息をつくれいむ。
そこから数分間は今までに見た映像のダイジェストのようなものだった。
しかし、何度見ても飽きることのない素敵な、とてもゆっくり出来るシーン。

映像の中に映し出される赤れいむに自分自身を重ね合わせてかりそめの幸せに浸ること。
それだけが狭いケージと、不味い食べ物とカッパしか知らないれいむにとって唯一の楽しみだった。



『さあ、れいむ。今日のご飯はれいむの大好きなゆっくりフードだよ』
『ゆゆっ!ゆっきゅちたべりゅよ!』

映像の中の赤れいむは飼い主のお兄さんが用意してくれたゆっくりフードを勢いよく食べる。
そして、「しあわせー!」と声を張り上げて、満面の笑みを浮かべた。
幸福のあまりに感極まったのか、頬には涙が伝っている。

『美味しかったかい、れいむ?』
『うん!とってみょおいちかっちゃよ!』

「ゆぅ・・・ゆっきゅちふーどしゃんたべちゃいよぉ・・・」

ほんの数十センチ先の光景が映像であり、今そこにあるもでないことをれいむがどれだけ理解しているのかは定かではない。
最初の頃はケージがあることすら忘れて「れいみゅも!れいみゅも!」と叫びながら勢い良く飛び跳ねて天井に頭をぶつけていた。
ケージから出られないことを学習したあとのずっと「おにーしゃん!きゃわいいれいみゅにむちょーだい!」などと叫んでいたし、今でもうっかり叫んでしまうことがある。

『さあ、れいむ。ご飯を食べたあとは楽しい玩具で遊ぼうな』
『れーみゅたんばりんしゃんであしょびちゃいよ!』
『そうか、れいむはほんとうにおんがくがすきなんだな』
『あちゃりまえだよ!れーみゅはみゅーじちゃんななんだよ!』

そんなやり取りの後、映像の中のれいむはタンバリンを振ったり、その上で飛び跳ねたりして遊び始めた。
お兄さんはその様子を穏やかな表情で見守り、時々タンバリンの音に合わせて手拍子をしてれいむの相手をしている。
それに飽きたらお歌を歌って、それからお兄さんに高い高いしてもらって、遊び疲れたらお兄さんの膝の上でゆっくりする。

『ゆぅ・・・れーみゅおねみゅだよ・・・』
『そうか、じゃあゆっくりお休み』

「ゆゆ〜ん・・・とってみょゆっきゅちちてりゅよぉ〜・・・」

その幸せそうな寝顔を見ていると、れいむも徐々に眠たくなってきて、ついうとうとと舟を漕いでしまう。
が、れいむには孤独と、退屈から逃げるために眠りにつくことは許されていない。
れいむの様子を観察していたカッパは即座に例のボタンを押してケージ内の温度を上げてみせた。

「ゆうっ!?やめちぇね!れーみゅねにゃいよ!ゆっくちおきりゅよ!?」

余談だがれいむに与えられた睡眠時間は6時間程度。
日が沈めば眠るゆっくりにとってはかなり短く、1日の半分以上を寝て過ごすといっても過言ではない赤ゆっくりにとっては相当の苦行だろう。
その上、熱されていない時のケージ内の温度は10度程度にしかならず、本当に何も無いために寒さを凌ぐ術のないれいむは眠っている時さえもゆっくり出来ない。
もっとも、それでも起きているよりは幾分かましなのかもしれないが。

僅か数十センチ先の映像の赤れいむは『もうたべれにゃいよ・・・』と眠りながら呟いていた。



勿論、映像のれいむだっていつでもどこでもゆっくりしていたわけではない。
例えば、お兄さんが大事にしていたCDを壊してしまった時はこっぴどく叱られていた。
あまり好きでないご飯を残してしまった時にも少しだけ怒られていた。
そんな時、お兄さんは決まってこんな言葉を口にした。

『良い子にしていないとカッパが来るぞ?』

その言葉を聞くと、映像の赤れいむはすぐに大粒の涙を零しながらお兄さんに謝った。

『ゆえーん!れーみゅかっぱしゃんきょわいよぉ!おにーしゃんごめんなしゃい!』
『もうお兄さんのものを壊したりしない?』
『きょわしゃないよ!れーみゅいいこだもん!かっぴゃしゃんきょわいよー!』

泣きじゃくる赤れいむを苦笑交じりに見つめるお兄さん。
やがて、彼女を手のひらに乗せると、人差し指で頭を優しく撫で始めた。

『よしよし、れいむは良い子だ。だから大丈夫だよ』
『ゆぅ・・・ほんちょ?』
『本当だよ。それに、もしカッパが来てもお兄さんがやっつけてあげるさ』
『ゆゆっ!でみょ・・・かっぴゃしゃんきょわいよ?』
『忘れたのか?れいむをカッパから助けてあげたのは俺なんだぞ?』

お兄さんが胸を張りながらそう言うと、映像の赤れいむはすぐに微笑み、お兄さんの手のひらの上で元気良く飛び跳ねる。
そして、お兄さんの手にすりすりと頬を摺り寄せてから・・・

『おにーしゃん、だいしゅきだよ!』

そんな言葉を口にした。

「ゆゆっ!しゅごいよ・・・かっぴゃしゃんをやっちゅけちゃうなんちぇ・・・」

れいむは映像の中のお兄さんの言葉が信じられなかった。
確かに人間さんはれいむ達よりずっと大きいのかもしれない。
けれど、あの強くて怖いカッパさんに勝ってしまうなんて。

「ゆっ・・・れーみゅもいいこになりゅよ!」

そして、れいむは映像の中のやり取りを思い出し、ゆっくりマインドをフル稼働させてある結論にたどり着いた。
悪い子のところにカッパさんが来るのなら、良い子のところにはお兄さんが来るはずだ、と。
だから、映像の中でお兄さんが赤れいむを褒めた行動や、叱った行動をしっかりと観察し、良いことを積極的に行い、悪いことはしないように努めた。



れいむが生まれてから十分な餌を与えられていればとっくに子ゆっくりになっていてもおかしくないの日にちが過ぎたある日。
彼女の前に二本の足で歩き、二本の腕を動かし、クチバシのない口でれいむと同じ言葉を話す生き物が現れた。
その生き物は瞬く間にカッパをやっつけて、お菓子の入った箱の中へとれいむを誘った。

「おにーしゃん、れーみゅいいこだよ!いっちょにゆっきゅちちようね!」

箱に入る前にれいむは男性に向かって満面の笑みを浮かべて、映像の中でお兄さんが喜んでいた言葉を口にした。
すると、映像の中のお兄さんとは少し顔立ちの違うお兄さんも最高の笑顔をれいむに返してくれた。

「やっちゃあ・・・こりぇでゆっくちできりゅよ・・・」

箱に入り、甘味のあるお菓子を食べ、今までに感じたことのない浮遊感に驚いたりしているうちに眠たくなってきたれいむはゆっくりと眠りについた。
彼女が目を覚ました頃にはきっと、優しいお兄さんのおうちに着いていて、そこで心行くまでゆっくり出来ることだろう。

「・・・お菓子の中の睡眠薬がもう効いたみたいだ」
「かっぱー・・・って、もうやらなくていいのか」

れいむが夢の中でゆっくりしているその頃、箱の外ではお兄さんとカッパが、正確にはカッパの中から出てきたもう一人のお兄さんが話をしていた。
やれ巣材がどうの、やれ餌がどうのと取り止めのない会話の後でお兄さんはカッパの中の人に質問をした。

「ところで、何でカッパなんですか?」
「別に鬼でも宇宙人でも何でもいいんですよ。怖がる対象が人間以外の何かであれば良い訳で」

そう言ってカッパの中の人は苦笑する。

「まあ、強いて言うなら手に水かきがついているから人間の手と差別化を図れるからじゃないでしょうかね?」
「ああ、手に対してトラウマを持つと撫でようとした時に噛み付いたりするかも知れない・・・ってことですね」

カッパの意図を理解したお兄さんはれいむの入った箱をカウンターの上に置くとなるほど、と手を叩いた。
そんなやり取りの後、お兄さんは会計を済ませて、カッパの住処から立ち去っていった。
少々値は張ったが、赤ゆっくりでありながらシルバーバッジ並にしつけが行き届いていて、飼い主を無条件に信頼するという利点があることを考えればそれでも安いくらいだ。

カッパの住処。質の高い赤ゆっくりを安く提供することで有名な店の名前である。



目を覚ますとれいむは以前よりずっと大きな、そして暖かいケージの中にいた。
きょろきょろと辺りを見回すと、お兄さんが見たこともない赤い食べ物を準備している。
準備が終ったのだろうか、こちらを振り向いたお兄さんはれいむと目があったことに気付くと柔和な笑みを浮かべて自己紹介をした。

「やあ、僕は虐待お兄さんだよ」






‐‐‐あとがき‐‐‐
久し振りの作品だから5KB程度の小ネタにしようとした結果がこれだよ!

byゆっくりボールマン

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最終更新:2022年04月11日 00:13