「ちょっと人が多すぎるわね。こっち来て」

小さな私と隆は、先を行く女の子に黙ってついていく。

「ここにあらかじめ結界を張っておいたの」
「ケッカイ?」
「秘密基地みたいなものよ。さ、入って」

公園の一角、木々が茂った死角がある。
そこは木漏れ日が芝生に影を落としていた。

「……その、あなたは私の味方なんだよね」
「そうよ」
「こんな所に連れてきて、私と隆くんをどうするの?」

小さな私はオドオドと隆に隠れながら言った。

「お前、まさか愛菜ちゃんをいじめるんじゃないだろうな」
「違うわよ」
「もしかしてあのドロドロの仲間か」
「まさか」
「じゃあ、大人に言われたのか」
「細かい事はいいでしょ。それより私、ランドセル買ってもらったの。一体何色だと思う?」

女の子は突然質問を投げかけてくる。

「あなた、私と同じ年なの? 次は一年生?」

小さな私はすごく親近感を覚えたようだ。
無理もない。
話し方からいけば、もっと年上だと想像していたんだろう。

「そうよ。買ってもらったのは先週。さぁ、色を当ててみて」
「うーん。水色かな……」
「オレは紫だと思うぜ」
「二人ともハズレ。正解は赤でした」

いつの間には三人はランドセルの話で打ち溶け合っている。

(この女の子。警戒心を解くためにわざと共通の話題を振ったんだ)

まるで大人のような会話術。
やっぱり普通の子供ではない。

「へぇ。愛菜はピンクにしたんだ、きっと似合うわね」
「えへへ、ありがとう」
「オレは紺なんだ。カッコイイだろ」
「別に……普通」

(なんだか……隆に冷たい。この感じ。誰かに似てる……)

ちびっ子三人は木陰に座り込んでいた。
いつの間にか別の話題を話し始めている。

「私はね。少しだけ未来が見えるときがあるんだ」
「そう……さっきはなんだか良くない雰囲気だったけど、それが原因?」
「うん」

小さな私はコクンとうなずく。
すると隆がイライラしながら口を挟む。

「愛菜ちゃんはもっと隠せよ。黒い塊も未来も大人には気持ち悪い事なんだろうからさ」
「そうなのかな」
「何度も言ってるだろ」
「でも……」
「愛菜ちゃんの馬鹿」
「ごめん……」

小さな私は隆に謝ったまま、言葉に詰まってしまった。
すると、女の子が私の手をしっかりにぎる。

「愛菜は良くない未来を変えたくて、つい口出ししてしまうのね」
「うん」
「とっても優しいのね。私はすばらしい事だと思うわよ」

私は自分の行いが肯定されたのが嬉しかったのか顔を歪める。
そしてしくしくと泣き出してしまった。

「愛菜ちゃんってホント泣き虫」

隆は突き放すように言う。

「そうだよ……ね。すぐに…泣き止むよ」

小さな私は腕で目をこする。
なんとか涙を乾かそうとゴシゴシと何度も往復させる。

「泣いた友達にどう向き合えばいいか分からないからって……攻撃するなんて本当に子供なのね」
「なっ……」
「当たってるんでしょ」
「う、うるさいっ」

図星を指されたのか、小さな隆はそっぽを向いてしまう。

「まぁ大体分かったわ。もう無くしてしまいましょうか、その力」
「そんな事できるの?」
「封じ込める……平たく言えば、出ないように蓋をするだけだけれど私なら出来るわ」
「本当に?」
「もちろん。この私にドンと任せなさい」

女の子は胸を張り、拳で心臓を叩いてみせる。
この癖を見て、私の疑心が確信に変わる。

一方、女の子は小さな私に向かって正面を向き、真剣に問いかけていた。

「愛菜は封印……力に蓋をすることを望む?」

小さな私はしばらく考えて「うん」と頷いた。

「わかったわ」

そういうと、女の子は私の手を取ったまま立ち上がらせる。
そして芝生の中央に立つように指示した。

「ここでいい?」
「ばっちりオッケーよ」

女の子は深呼吸する。
と、横で見ていた隆が口を挟んだ。

「お前、蓋するって本当に大丈夫なのか?」
「黙ってて気が散るから」
「……わかったよ」
「あと、ここでの記憶は愛菜も隆も全部消すから、よろしくね」
「……何でだよ」
「身元がバレたくないだけよ。さぁ、どいたどいた」

隆は一歩下がって黙って様子を見守っている。

すると女の子は指を器用に動かして、次々と印を結んでいく。
そして印を結び終わると、手のひらで地面に触った。
突然、私を中心に青白い円陣がフワっと浮き上がった。

「我は望む。彼の者の力を封印せしめ給え!」

(まずい……もう私の姿が消えかかってる……)

手を見ると、透けて地面が見えている。
一刻の猶予も無い。

「香織ちゃん!」

思わず大声で叫んでいた。
すると不思議な女の子は振り向き、キョロキョロと辺りを見回す。

(よかった。そういう事だったんだ)

また一つ、胸のつかえが取れた気がする。
私は眼を閉じ、浮遊感に身を任せた。

|