暗い、暗い闇の中。
誰もいない闇の中で、私は一人ぼっちになっている。
ここはどこだろう。
わからない。わからないからこそとても恐い。
私は叫んだ。お父さんの、お母さんの、お姉ちゃんの、●●●の名前を。
けれど誰も答えてくれなかった。私の声だけが空しく響いていた。
立ち止まっていても心細いだけなので、とにかく足だけでも動かした。

前に進んでいるのかもわからないけれど、とにかく歩き続けた。

ずっと、ずっと、ずっと。

どれくらい歩いたかもわからない。

でも、ようやく見つけた。お父さんとお母さんだ。
二人とも笑顔で手を振ってくれてる。
あんまりにも嬉しくなって、思わず駆け出した。飛びついた。
お父さんたちは抱きしめてくれた。暖かかった。
もしかしたらお姉ちゃんもここにいるかもしれない。
探しに行こうよ、と顔をあげたら暖かいのが熱くなった。

お父さんとお母さんの身体が燃えていた。

逃げて。熱い。助けて。早く離れて。早く!

お父さん達から色んな言葉が漏れ出して。
私は必死に火の中からお父さん達を引っ張りだそうとしたけれど、どうやっても炎は離れてくれない。
叩いて、被さって、どれだけ頑張っても火は消えてくれない。
やがてお父さんもお母さんも真っ黒になって、動かなくなった。

あんまりにもあんまりすぎたせいで、どれだけ悲しくても言葉も涙も出なかった。
違う。私も真っ黒けになってたからなにもできないんだ。
そして『私』が倒れて動かなくなるのを私は見届けていた。

五体満足な私は、うう、とか、ああ、とか嗚咽を漏らすのが精一杯だった。

燃え尽きた『私』たちの向こう側がぼんやりと光った。

映し出されたのは、真っ白な雪景色の山の中。
そこにいるのはお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんは真っ赤な身体になっていた。色んなところが痣だらけだった。私が作った首飾りを握り締めて泣いていた。
今にも散ってしまいそうなほど、フラフラとした足取りで、山の奥へと歩いていく。
お姉ちゃんは謝っていた。
自分のことなんか無視して、ずっと色んな人に謝り続けていた。

謝らなくてもいい。だから、一緒に帰ろう。帰って、一緒に頑張って生きよう。
そう手を引こうとしても、お姉ちゃんは変わらなかった。
お姉ちゃんは私に気づいていなかった。
もう、苦しみすぎて、どうしようもできなかったんだ。

そして、やがてお姉ちゃんも倒れて、動かなくなって、その身体も雪に埋もれていった。

なにもできない。
お父さんも。お母さんも。お姉ちゃんも。
大好きな人たちになにもできないまま、私は立ち尽くすことしかできない。



―――あーあ、死んじまったよあいつら。


声がした。あまり聞きなれない、でも聞きたくない声が。
恐る恐る振り返ると、そこには多くの人がいた。
全員同じ年くらいの、男の子と女の子のグル-プだ。


―――人ってあんな風に死ぬんだ。やだなーこわいなー


女の子の一人が、そんな風にケラケラと笑い出すと、他の人たちもつられてゲラゲラ笑い出す。

わたしのお腹の奥のほうから頭まで、言葉に出来ないものがぐつぐつと湧き上がってくる。
なにがそんなにおかしい。殺したお前たちが、なにがおかしくて笑うんだ。
私は叫び、飛び掛る。
許せない。許してたまるものか!その一念が身体を動かした。

けれど。

集団の中から伸びた腕がひとつ、私の喉元を掴み、締め上げ、止められた。

憎い。苦しい。届かない、悔しい。

色んなものが混ざって、涙が頬を伝ったそのときだ。


「        」

なにか声が聞こえた。
苦しい中でも、その声は私を冷静にさせて。締め付けてくる腕の手触りに覚えがあることに気がついて。

「全部、しょーちゃんが役立たずなせいだよ」

お姉ちゃんの恨めしげな目を見た瞬間、私の意識は落ちていった。




「―――――――ッ!!」

がばり、と勢いよく起き上がる。
思わず思い切り吸い込んでしまった空気を苦し紛れに吐き出した。 

「駄目よ、ジッとしてなくちゃ」

祥子の顔を覗き込む奈々と雫と視線が交わる。

「あ...えっと」
「どういう状況かわからないわよね。いいわ、説明してあげる。雫もついでにね」
「頼むよ」

奈々は、祥子たちが気絶した後のことをおおまかに語った。
雅たちから逃げ切れたこと、見つけた空き家で身を潜め身体を休めていたところで放送があったこと。
その放送で、新たな追加ルールや死者の発表があったこと。
その情報を聞いた祥子の頭を真っ先に占めたのは春花のことだった。

「お、お姉ちゃんは?お姉ちゃんは大丈夫!?」
「ええ。呼ばれなかったわ」

祥子は春花の無事にホッと胸をなでおろす。

「ただ...私達と一緒にいた岡さんは...」

その奈々の一言で、祥子の安堵は瞬く間に冷え切り全身に怖気が走る。
さっきまで一緒にいた人が死んだ。それも、チームの中でも強者の部類にいたものがだ。
この事実は、春花の安否を不安視させるには充分すぎた。

「...すまない、肝心なところで気を失ってしまっていた」
「仕方ないわ。彼らは、人の手におえる者たちじゃない」
「だが、危険なのはあいつらだけじゃない」

この数時間で9人死んでいるということは、それだけ殺し合いに乗った者の数も多いということ。
無論、雅やぬらりひょんのような好戦的な者とは限らないし、正当防衛で殺してしまった者もいるかもしれない。

しかし、だ。

新たに設けられた時間制限や死者は否が応にも不安と焦燥を掻き立て疑念を蔓延させる。
少なくとも、どの参加者にもこの数時間以上の困難が待ち受けているには違いないだろう。

そして、その不安は、幼子には充分に当てはまることで。

「ガッツは?ガッツは、どこ?」

祥子は思わず彼の名を呼ぶ。
性格は全然違うけれど、どこかお姉ちゃんに似た男の名を。

「ガッツさんならロックさんと一緒に入り口に」

聞き終える前に、祥子は入り口へと駆け出す。
会いたい。会わなくちゃいけない。
だって、そうしないとあの人もお姉ちゃんみたいに独りになってしまうから。

扉を開けた。彼はそこにいた。

彼は、座ったままの姿勢で壁に背を預け、穏やかな表情で眠っていた。

「さっき眠ったんだ」

ガッツの向かい側に座りながら、ロックはぼんやりとした表情で言った。

「あいつとの戦いでよっぽど疲れてたんだろう。放送を聞く前に眠ってしまったよ」

祥子は、ガッツの顔を覗き込み、その様子を伺う。
昔のものも今のものもぜんぶひっくるめて全身が傷だらけで、汗や血の異臭もほんのりと漂ってきて。

彼の傷に触れようとして手を伸ばしたけれど、ようやく訪れた束の間の平穏を崩してはいけないと思い引っ込める。

はじめにガッツと出会ったとき、祥子は彼を春花のように独りぼっちにさせたくなくて側についてまわった。
けれど、自分は彼になにが出来た。ただこうして徒に力を震わせて、護られていただけじゃないのか。
ガッツも春花も、自分なんて必要としていないんじゃないのか。

(...私は、なにができるんだろう)

本当に、このまま側にいるだけでなにか出来るのか。
あるいは。
春花やガッツが傷つくのは、自分の無力さが原因ではないのか。

(どうすればいいんだろう、私は...)

少女の内なる問いかけに答えることが出来るのは誰もいない。
答えは、彼女自身が示すしかないのだから。



「......」

ロックは虚空を見つめ黄昏ていた。

レヴィと岡八郎が死んだ。
放送で名前を呼ばれただけで、まだ死が確定したわけじゃない...なんて希望はもてなかった。
殺し合いが始まってまだ数時間。こんな初歩的な段階で、死者の誤認なんて肝心なポカをするはずが無い。
二人は間違いなく死んでしまったのだと理解するしかなかった。

岡とはまだ知り合ったばかりであまり思い入れはないものの、先ほどまで共に行動していた者が死んだと聞かされればクるものはある。
だが、それ以上に彼の頭を占めていたのは、レヴィのことだった。

レヴィ。
彼女とのファーストコンタクトはロクなものではなかった。
上からの指示で重要機密を運んでたらそれを強奪されて。
彼女の上司はそれで終わりにしてくれる筈だったのに、独断で身代金用の人質にされて。
しかも、その件で上司と彼女がモメた時には「捨てればいいんだろうが」と逆ギレして本当に殺されかけた。

最初はコイツは本当に女なのかと疑うような破天荒ぶりに面を食らっていた。

けれど。ラグーン商会の一員になって、彼女と共に行動するようになってからは、なんとなく彼女という人間がわかってきた。

確かに彼女は下品で、戦いぶりはアクション映画みたいに豪快で、ガサツで、短気で、暴力的で、金にもがめつい狂犬という名がお似合いな女だ。
かと思えば、子供に混じって遊ぶような純粋さや、自分の過去に触れられると激怒する繊細さや、ロックが理不尽に殴られた時には静かに怒るような面も持ち合わせていて。

そんな彼女の色んな面を見られるほど、ロックにとってレヴィは生活のひとつになっていた。

恋人だとか、仕事の同僚とかで単純に括れるようなものではなく。
レヴィはロックの側にいて当たり前な存在になっていた。

そんな彼女ともう会えないのだから、当然、大きな悲しみや寂しさを味わっている。

なのに、ロックは涙を流せない。嗚咽すら漏れださない。

悪党の町ロアナプラで過ごすうちに、悲しみ方を忘れてしまったとでもいうのだろうか。

「......」

もしも、ガッツのように放送を聞く前に眠りにつければ、こんなモヤモヤとした気持ちに苛まれることはなく、いまこの時も何も知らないままレヴィを探しにいけただろうか。

わからない。自分は、どうするつもりでここに腰を落ち着けていたのだろうか。

ズボンのポケットから煙草を取り出そうと探り、この会場につれてこられた時にはもうなかったことを思い出して、代わりにそばにあった木の枝を咥える。
代わりにもなりはしない。ただ木材特有の匂いを感じられただけだ。

「...ああ、クソッ。俺はどうしたいんだよ。どうすれば、納得できるんだよ」




【E-4/一日目/朝】

【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:疲労(大) 、出血(中)、失禁、身体に痺れ(多少の行動には問題ない程度には取れている) 、睡眠中
[装備]:ゴドーの甲冑@ベルセルク、青山龍之介の丸太@彼岸島
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:使徒共を殺し脱出する。
0:(睡眠中)
1:化け物を殺す
2:ドラゴン殺しが欲しい
3:己の邪魔をする者には容赦しない。
4:あの女(ほむら)は次にあったらとりあえずシめておくか。


※参戦時期はロスト・チルドレン終了後です。
※トロールをいつもの悪霊の類だと思っています。





【野崎祥子@ミスミソウ】
[状態]:擦り傷、疲労(中~大)、頬に痣
[装備]:
[道具]:不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:今度こそお姉ちゃん(春花)を独りぼっちにしない。
0:お姉ちゃんと合流する。
1:ガッツとお姉ちゃんに、なにが出来るだろう。


※参戦時期は18話以降です。



【岡島緑郎(ロック)@ブラックラグーン】
[状態]:健康、不安、レヴィと岡の喪失による精神的ショック(中~大)
[装備]:
[道具]:不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針: ゲームから脱出する。
0:レヴィ...
1:バラライカやシェンホアと合流できればしたいが...暴れてないといいけど
2:煙草が欲しい


※参戦時期は原作九巻以降です。




【羽二重奈々@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、不安(大)
[装備]:魔法の端末(シスターナナ)@魔法少女育成計画
[思考・行動]
基本方針:雫と共に生き残る。



【亜柊雫@魔法少女育成計画】
[状態]:疲労(大)、右腕粉砕骨折
[装備]:魔法の端末(ヴェス・ウィンタープリズン)
[思考・行動] 
基本方針:奈々と共に生き残る


時系列順で読む
Back:SignNext:未知との遭遇

投下順で読む
Back:Sign Next:未知との遭遇

TOP OF THE WORLD(後編) ガッツ [[]]
野崎祥子 [[]]
岡島緑郎
最終更新:2019年04月16日 18:40