「ヒィィィ!」

朧の悲鳴に、春花は慌てて振り返る。
彼女の身になにかあったのか、その不安は、ウィーンという機械の音にかき消される。

「う、腕が潰され...!」

涙目でばたばたと暴れる朧の腕は、血圧計に飲み込まれていた

「......」

春花は、その様子を見てなんとなく事情を察した
手分け...といっても、向かい合わせの棚だが、少し目を離した際に、朧が血圧計を見つけた。
彼女の生きた時代にはこのようなものはなかった。
それで、好奇心から手を入れてボタンを押してしまい、パニックを引き起こしてしまったのだろう

悲鳴を聞きつけ、バァン、と勢いよく戸を開けた承太郎も、その光景を見て察し、溜め息をついた

「春花殿、空条殿、私の腕が、腕が物の怪に!」
「...止めてやれ、野崎」

春花がコクリと頷き停止ボタンを押すと、朧の腕の圧力は瞬く間に引いてゆき、穴から腕を引き抜くと、腰が抜けたのかヘタヘタと座り込んでしまった

「な、なんでございますかこれは」
「これは血圧計っていうの」
「け、けつあつけい?」
「健康を見るために使うものだよ」

春花の説明に、食いつくように朧は聞き入る。
そんな二人の様子を見て、承太郎はここは春花に任せてもいいだろうと判断し、静かに部屋を後にする。

「ここに腕をこうして...」
「ほ、本当に大丈夫なのですか?」
「ちゃんと安全に計れるように作られてるから」

春花がボタンを押すと、血圧計は、通された腕を締め付け始める。
朧は奇妙な圧迫感にあわあわと戸惑うも、空いた手に重ねられた春花の掌の温もりに心を落ち着かせる。

数十秒の締め付けの後、解れていく圧迫感に朧ははふぅと大きなため息をついた。

「こ、これでよろしいので?」
「うん。あとはここの数値を見て...」
「えっと、百二十五と七十六...これはよい結果なのでございますか?」
「え?えっと...ごめんなさい、私もよくわからない」
「左様でございますか。...しかし、なんともまあ...」

朧の眼がキラキラと輝き始める。
彼女の生きる時代においては、未だ電気すら通っていない。
そんな彼女にとって、この病院に溢れる機器は未知の世界そのものであり、否が応にも興を惹かれざるをえない。

「こ、これはどうやって使うのですか?」
「体重計だね。ここに乗れば...」
「!針が動きました」

それからも、新しいものを見つけては子供のように目を輝かせ、ハシャぐ朧を見て、春花の口元がおぼろげに緩む。

(しょーちゃんも、昔はこんな感じだったっけ)

春花の妹、祥子。彼女はああ見えてよく周りに気を配り、イジめられていても毅然として振る舞っていることが多かった。
都会から田舎に引っ越してからは、今度は春花がイジメられ始め、祥子に元気づけられていたので、こうして純粋に楽しいと思える時間が随分久しぶりだった。

「春花殿。未来の世界とは、こんなに素晴らしいもので溢れているのですか?」

朧の何気ない一言に、春花の胸がズキリと痛んだ。
朧は純粋に文化と技術を楽しんでいるだけで、他意などない。朧の指す素晴らしいものとは、文字通りモノであり、春花の背景にはなんら関係のないことだ。
けれど、春花は自分の世界を『素晴らしいもの』とは決して言えなかった。「うん、そうだよ」と朧を満足させる嘘すらつけなかった。
それを口にするには、彼女は汚れ、汚されすぎた。

頬を伝う汗に気が付いた朧は、自分がなにか失言してしまったと悟り、慌てて頭をさげる。

「もう、申し訳ございませぬ。私は、なにか触れてはならぬことに...」
「ううん、違うの。朧さんは、なにも悪くないから」

首を横に振り、朧を慰めようとする彼女の微笑みは、決して負担を与えまいとする作り物の笑みだった。

「野崎、朧」

不意にかけられた声に二人が振り返ると、承太郎が部屋の入り口に立っていた。

「ガキが二人向かってきている。お前たちの知り合いかどうか確認しな」

承太郎に促され、廊下から外の様子を伺う。
その姿を確かめた時、春花の目は大きく見開かれた。

「相場くん...!」





「野崎!」

入り口から駆けつけてきた春花を見つけるなり、相場は満面の笑みを浮かべて駆け出す。
二人の距離はあっという間に縮まり、抱きしめあう。

「無事でよかった...」
「おまえこそ。ずっと心配してたんだ」

互いに目じりに涙を浮かべながら言葉を掛け合う二人。
そんな二人の姿を、朧は目元を拭いながら微笑み祝福し、承太郎はなにかを探るように鋭い目つきで観察し、西丈一郎は退屈そうに眺めていた。

「野崎、その耳は...」
「たいしたことはないから大丈夫。...相場くんこそ、大丈夫なの?」
「こんなのはかすり傷みたいなものさ」

相場と春花が互いに労わりあう脇で、承太郎は西との情報交換にとりかかっていた。

「オメーたちも誰かに襲われたのか」
「さあね。俺も後からコイツと合流したから、なにがあったのか詳しくは知らねえ」
「......」

承太郎の目付きが訝しげなものになる。

その対象は、西ともう一人―――相場晄。

「空条殿?」
「相場、野崎。再会を喜んでるところ悪いが―――」
『あー、ごきげんようおめーら』

承太郎が抱き合う二人に声をかけようとした瞬間、どこからかノイズがはしり少年の声が流れ出す。
一同が一斉に空を見上げる中、ただ一人、春花だけは「ぇ」、と小さく漏らした。

嬉々として語る少年の声が鳴りやむと、一同の間にしばしの静寂が訪れた。

「空条殿、いまのは...」

おどおどと問いかける朧を皮切りに、承太郎と西、各自考察していた者たちも口を開いていく。

「いまの奴が、この殺し合いの主催...最初のセレモニーで首輪を爆破した男ってとこだろう」
「ですが、声が違っておりましたが」
「声を変える方法なんざいくらでもある。セレモニーの奴ではなくとも、関係者であることは確かだ」
「あの煽りっぷりからして、脅されて協力させられてるっつーわけでもなさそうだな」
「ああ。あれはどう聞いても交流のある参加者に向けての挑発だ。ソイツがわかれば主催のこともわかりそうだが...どうした野崎。顔色が悪いんじゃあねえか?」

承太郎からかけられた言葉に、春花の身体がドキリと跳ね上がる。
青ざめ、震えているその様は誰が見ても異常だった。

「あの放送の声、ちょうどお前達の年齢に近く聞こえたがお前達はどう思う?」
「そんなもの偶然だ」

震えの止まらない春花に代わり、相場が割って入り承太郎を睨みつける。

「参加者が60人近くいるんだぞ。同じ年くらいの奴なんていっぱいいるさ。震えてるのだって、南先生が死んじまったからだ」
「そうか。俺はその先生とやらと親しい仲だとは聞いちゃいねえが」
「身近な人が死んだんだぞ。親しくなくても恐くなるのは当たり前だ」
「...かもな。その割には、お前は野崎と比べてずいぶん冷静な気もするが」
「...あんたなにがいいたいんだ。まさか、あんな放送で野崎を疑ってるんじゃないだろうな」

承太郎と相場、二人の睨み合いは空気を張り詰めさせ、緊張感を漂わせる。
朧などは、二人を諌めることすらできず、ただおろおろと戸惑うことしかできないほどだ。

「ま、疑われるのは仕方ねーだろ」

そんな空気もお構いなしに、西はサラリと割って入る。

「あの放送の後にその怯えようだ。なにか知ってると思わない奴が馬鹿だろ」
「西、お前...!」
「おいおい、俺は当然のことを言っただけだぜ。なにもやましいことがないならそいつがそうと言えばいいだけじゃねえか」

西の軽い調子の反論に、相場はぐっと黙り込む。
実際、承太郎や西の疑惑は間違っていない。
あの放送の後にこんな反応をされて疑うなというほうが無茶というものだ。
かくいう自分も、春花の境遇を知っていれば、復讐をしていてもおかしくはないと思う。
放送の間宮の言うとおりに殺してはいないにせよ、春花が奴らに手を挙げたのはおそらく事実だ。
しかし、だからといって、春花が責められるのを黙って見ていられるはずもない。
隠蔽でもなんでもいい。今は矛先を変えなければ。

「...ん」

そんな相場の思案は、春花の震える声で無に帰した。

「放送の声は、間宮くんで、間違いないと思う」
「ッ、野崎、おまえ...?」
「ごめんね、相場くん。でも、伝えなくちゃいけないから。みんなにも、相場君にも」
「野崎...やめろ。そんなことしたら、おまえ...!」
「あーウゼェ。話してくれんならそれでいいじゃん。イチイチ水さしてんじゃねえよ」
「西ィ!」

相も変わらず薄ら笑いを浮かべつつ煽る西に激昂する相場。

「...話しな、野崎」

騒ぐ二人を他所に、承太郎は春花に話を続けるように促した。
春花は小さくうなずくと、重々しくその口を開いた。

「間宮君は、私が殺したクラスメイトです」



春花は全てを語った。
相場以外のクラスメイトに度の過ぎた迫害をされていたこと。
そのクラスメイト達に家に放火され、家族を焼き殺されたこと。
そのクラスメイト達を、次々に殺していったこと。
漏れ出しそうになる感情を噛み潰しながら、その全てを。

春花が語り終えた時、室内はシンとした静寂に包まれた。

「野崎...お前は悪くない。悪くないんだよ」

最初に口を開いたのは相場だった。
春花を抱きしめ、目を瞑り、そう囁いた。

(違う)

けれど、春花に湧きあがるのはどうしようもない罪悪感で。

「前にも言っただろ。俺がついてる。なにがあっても一緒に耐えるって」

心から心配してくれる相場の言葉も嬉しい反面、それを受け入れてはいけない気持ちも湧き上がってくる。
元凶は自分であり、復讐に手を染め穢れていったのも自分の責任だ。
それでも手を差し伸べてくれる相場の姿はひどく輝いて見えて。
だからこそ彼を巻き込んではいけない―――そんな自己否定に陥りつつあった。

「野崎」

承太郎は春花を真っ直ぐに見据えて言う。
春花は、浴びせられるであろう糾弾を覚悟し、俯き、ぎゅっと口元を噤んだ。

「確認しておくが、お前の周囲じゃ、『スタンド能力』や『怪物』の影はなかったんだな?」
「...うん」
「なら、これ以上聞くことはねえ。この殺し合いに関してはお前がシロで、ヤツの背後でなにかが手を引いているのがわかったからな」

えっ、と小さくもらし、春花は思わず顔を上げる。

「お前がヤツを殺したのが悪だとか正義だとかは、お前自身が納得していればいいことだ。俺が口を出す問題じゃあねえ」
「でも、私のせいで」
「俺がお前について知っているのは、身を挺しても朧を助けたことだけだ。それまでの過程は知ったことじゃない。
...あの放送で、どう動くかはお前が決めればいい。俺の敵にまわるなら容赦はできねえがな」

承太郎の言葉は、受け取りようによっては厳しいものだった。
春花の復讐を肯定するでもなく否定するでもなく、また、放送を聞かされてからの行動も突き放しもつき合わせもせず。
解を与えられるのではなく、全てを己で決めろと言ってのけたのだ。

かくいう承太郎の仲間にも、復讐を遂行した者がいた。
J・P・ポルナレフ。彼は、最愛の妹を殺され、己の人生を『犯人に死の報いを与える』という復讐に費やし、完遂した。
彼も犯人もスタンド使い同士とはいえ、殺人は殺人。仮にスタンド能力を法廷において裁けるのなら、犯人もそうだがポルナレフも間違いなく有罪だろう。

だが、承太郎も他の仲間たちも、彼の行動はともかく復讐心自体を否定したことはなかった。
それは、ポルナレフが自身で選び『納得』していたからだ。
いくら犯人を殺しても、妹が蘇るわけではない。そんなことはわかっている。
だからといって、妹の、己の無念に全て折り合いをつけ、忘れ去り生きていくことはできなかった。
自己満足でもいい。全ての因縁に決着を着ける覚悟で、彼は自ら復讐に望んだのだ。

だから、承太郎も春花を責めるようなことはしなかった。
謂れのない迫害を受け、家族を殺され。それを全て耐え続けて生きることができるかできないか。
春花は後者だった。それだけのことであり、ただでさえ部外者である承太郎が口を挟むことではない。
後は彼女の問題。ただ、それだけのことだ。

承太郎は踵を返し歩を進めることで、一同に改めて棟内で情報の共有をするように無言で促した。

(部外者だからそうやって大口叩けるんだ)

相場は、承太郎の背を睨みながら、内心で毒を零した。
あの学校でのことをその身で体験すればそんなことは言えなくなる。

あの学校での虐めは、完全に度を越していた。
放火の件がなくとも、証拠を揃えた上で警察にでも告発すれば、すぐにでも学校自体が閉鎖するほどのものだ。
相場も、常に野崎の味方をして、クラスメイト達に止めろと直接訴えたことがあるが、それでも虐めはとまらなかった。

力が強ければいいだとか、あいつらを殴ればいいだとか、そんな単純な問題ではなくあの村そのものがどこか狂っていたのだ。

「野崎、あの人の言うことなんか...」

承太郎の言葉に揺らいでいるであろう春花を気にかけ、振り向いた時だった。

「野崎...?」

彼は見た。見てしまった。

今まで黒く濁っていた彼女の目に、微かに光が宿っていたことに

(なんで、そんな目をしてるんだよ)

そう。それは、この殺し合いにおいて、相場が取り戻せなかったもの。
家族が殺される前まで、相場に見せていたものと酷似した目だった。

「...ごめん、どうかした?」

ようやく相場の呼びかけに気がついた春花は、小首を傾げて相場を見つめる。

そんな彼女に、相場は。

「いや、なんでもない。少しは元気になれたみたいでよかったよ」

微かな微笑みで答えた。




「コイツはウォータークーラーって言ってな。ボタンを押せば飲み水が出てくる」

棟内での情報交換を終えた後、朧と春花は西と共に施設の散策を再開していた。

「んっ...冷たくて美味しゅうございます。後世にはこのような物があるとは...朱絹に教えればさぞ喜ぶことでしょう」
「...あんた、マジで江戸時代の人間なのか」

西は、情報交換の場でそう聞かされてはいたものの、やはり半信半疑であったため、こうして散策にかこつけて確かめようとしていた。
結果、この純粋なリアクションだ。仮に演技派の女優といえど、こうまで時代知らずの言動がとれるとは思えない。
西の中で、朧への疑念はほとんど晴れていた。

「どーりで思ったよりも平静でいられるわけだ...なあ野崎」

突如、話を振られた春花は、つい、えっ、と声を漏らす。

「江戸時代ならそりゃ今よりも殺人も多いだろうし、オメーの話くらいじゃ動じねえのも納得だよな」
「......」
「そんな目で見るなよ。俺はむしろお前とは仲良くなれると思ってるんだぜ」

西は、春花の話を聞いたとき、親近感を抱いていた。
彼も元の世界において、虐めにあっていた。堂々と陰口を叩かれたり、頭上から机を落とされたりなんてのも日常茶飯事だ。
...尤も、彼の場合は環境以上に、普段からの高慢ちきな態度や猫を殺すような言動のせいであるが。

ともかく、彼からしてみれば、虐めなんてものは、無能な弱者が理解できぬ才能を恐れての自己防衛にすぎない。
春花の話も、その弱者が自分達を強者だと勘違いして、イキがって、返り討ちにあっただけの話だ。
とりたてて騒ぐようなことでもない。

「あいつらを殺したとき、どうだった?スカッとしたか?自分はあいつらよりも優れてるって優越感に浸れたか?」
「...どうだろうね」
「あっそ、つまんねーの」

西は、春花の反応が思ったよりも薄いことに、つまらなさそうに口を尖らせ思考を切り替えた。

(過去からの人間か。面白そうなことをしてくれるじゃねえか)

西は、朧という過去からの人物の存在を知ったとき、胸を高鳴らせた。
過去の人間の複製。それ自体は、ガンツのおいても可能だった。
しかし、それはあくまでもあの黒球が干渉し始めてからのこと。
数年、数十年前ならまだしも、何百年前の人間に干渉するのは不可能だった。

(ガンツでさえできない過去への干渉...最高じゃねーの)

過去を支配する―――都合の悪い、つまらない筋書きの歴史を改変し、己の求める結果へと導く。
そんなゲームにおけるチート技を手に入れるのだから、いうなればそれは、ひとつの世界を手中に収めるのに等しい。

それだけではない。

(この殺し合いってヤツに少し興味がわいてきたぜ。...この力を手に入れ、俺がこのくだらねえ世界を支配してやる)

西は、くつくつと静かに笑みを零した。


(天膳...)

朧は、放送で呼ばれた天膳のことを気にかけていた。
というのも、彼が呼ばれて悲しいという感情よりも、そもそも彼が本当に死んでいるかどうかへの疑問故だ。

(天膳は不死の忍び...また、いつものようにひょっこりと顔を出す気がしてなりませぬ)

天膳は今まで幾度も死んできた。
時には身内の勘違いで刺され、時には熊に襲われ、時には情事に溺れた隙を付かれ。
だが、その度に彼はあの不適な笑みを携え姿を現した。
だから、この殺し合いにおいてもまた現れるだろうという安心感故か、そこまで悲しみを感じず、涙も流せなかった。

そんな天膳のことはさておき、朧が気にかけるのはやはり弦之介のことだった。

(弦之介様がこのびょういんの道具を見たらなんと思うのやら)

普段は落ち着き払っている彼も、自分と同じような反応をするのだろうか。
そんな様子を思い浮かべたら、ちょっぴりおかしくなり、つい笑みがこぼれてしまった。


「私が、納得していればいい...」

春花は、ポツリとつぶやく。承太郎の言葉を、『納得』を理解するために。

たとえば、自分が復讐に踏み切らず、あの雪の中で殺されていたら。
きっと、相場以外のクラスメイト達は、あの事件を笑い話にでもして、反省することもなくヘラヘラと過ごすだろう。
そして、春花達のことなどすっかり忘れ、下手をすればまた同じように誰かを迫害し、殺すのを繰り返すのは想像に難くない。
自分や家族達は、果たしてそれを納得できるだろうか。

(納得なんて、できない)

思い返せば返すほど、あの燃え盛る家が怒りと無念を訴えかけてくる。
あの惨劇を引き起こした連中がなんの罰もなく幸せになる姿を考えると、それだけで気が狂いそうになる。
自分の復讐が正しかったとはまだ思えない。
それでも、己の復讐心が否定されるものではなかったことは、ほんのちょっぴりだけ、春花の気持ちを軽くした。




「聞きたいことがあります」

窓際で見張りを兼ねた休養をとっていた承太郎に相場が呼びかけた。

「間宮の背後で誰かが意図を引いてるって話...なんでそう思ったんですか?」
「推測する根拠ならいくらでもある。第一に、ヤツはお前たちと同じ環境の人間だ。そんな奴が時系列さえ無視して参加者を集められるはずがねえし、そんな能力を持っていながら野崎に殺されるのも解せねえ」

承太郎は、相場へと振り向かず、窓から外の様子を伺ったまま話を続ける。

「第二にこの殺し合いの補足についてだ。地図の更新、参加者の記載漏れ、参加者外の存在、まともに殺し合いに乗った際のメリット...多すぎだ。
ひとつならいざ知らず、ルールを決めた本人がこれだけの重要な情報を幾つも話し忘れるのは考えにくい。
なら、あのガキがなにかの力を使ったと考えるよりも誰かがその力を与えたと考えるのが妥当だ」

相場の靴がコツ、コツ、と床を叩きながら承太郎へと近づいていく。

「...すごいな、あんたは。俺なんかそこまで冷静に分析できなかったし、野崎に気を配ることもできなかった」
「ソイツは見込み違いだ。俺はあいつに気を配ったつもりはねえ。必要だったから聞いただけだ」

承太郎は迫る音にも反応はしない。
相場へ視線すら向けずじっと外を眺めていた。

「空条さんから見て、野崎はどう思いますか?」
「なにが言いたい」
「女の子としてですよ。数時間を共にしたんです。少しは下心とかあったりして」
「くだらねえ。この状況でそんなことを気にしている場合か」
「...そうですよね」
「そんなことより、オメーに聞きたいことがある」


コツ、コツ、コツ。

手を伸ばせば届く距離にまで近づいても、承太郎はやはり振り向かない。
じれったくなる感情を抑えつつ、相場は手のひらに力を込めた。

「相場」

突如呼ばれた名前に、振り上げかけた腕はピタリと止まった。

「話をする時は刃物を仕舞えと習わなかったか」

承太郎は一度たりとて相場の方を向いてはいない。
だが、確かに相場の手にはボウガンの矢が握り締められていた。

「...ちょっと手入れをしようとしたけど、落としたら危ないよな」

相場は苦笑を交えつつ、矢をそっとバッグに仕舞った。

「それで、俺に聞きたいことってなんですか?」

承太郎の隣に並び、外を眺めながら微笑みを貼り付ける。
その様は、端から見れば友好的な関係を作ろうとする好青年に相違ない。

「オメーは赤首輪に襲われたと言っていたな」
「ええ。仁美さんがいなかったらきっと俺も」
「その割には野崎の姿を見るまで急いだ様子も見られなかったが」

この時、承太郎は初めて相場へと視線を向けた。
疑念をふんだんに含んだ敵意の証明として。

「...俺の言ったことが嘘だとでも?」
「さあな。ただ、二人がかりで、人一人に手負いを逃がせる時間稼ぎをされる程度の奴らが赤首輪なのかと思ってな」
「...もしかしたら、支給品にイイものが入ってたのかもしれない」
「かもしれねえな」

同意の言葉とは裏腹に、承太郎の視線は一切揺らいでいない。
実際、彼の中では、上記の推測から、既に『先に赤首輪に手を出したのは相場だ』とほとんど確定していた。
現状、承太郎が相場に手を出していないのは、春花の身内だという点が大きい。
あとは精精、赤首輪の二人が、触れずとも参加者を狩ろうとしていた連中かどうかという点くらいのものだ。

―――尤も、その一線も、最大の証人である美樹さやかと隊長から話を聞き、彼が納得すれば消えうせてしまうのだが。


そしてそれは相場も理解している。
睨みさえ利かせずとも、承太郎の言葉は言外に訴えていたからだ。
次はない、と。

(やっぱり、『邪魔』だなコイツは)

相場は好青年の仮面を被りつつも、承太郎への嫉妬と憎悪を滾らせていた。

春花はこの殺し合いにおいて、自分と再会してもその顔に明るみがさすことはなかった。
だが、承太郎の『自分が納得すればいい』という言葉を聞いてからは、幾分かは表情も柔らかくなった。
きっと、彼女の目には承太郎はヒーローかなにかに見えたことだろう。
そう。自分でもできなかったことを、この男はやってのけたのだ。
春花に恋心すら持たない癖に、彼女の気を惹きつけ、自分から離そうとする。
これを邪魔者と言わずなんと言うべきか。

(ただ、強さやスタンドとかいう超能力は必要だ)

人柄はともかくとして、戦力としては間違いなく一級品。あの青髪の女と上半身だけの老人にも負けやしない。
どこか知らない場所であの女たちと共倒れ、或いは彼がさっさと脱出しこの会場から消え去ってくれるのが理想だろう。

(殺さなくてもいい...とにかく、こいつを春花から離さないと...!)

相場は心中で、そう密かに決意する。

春花にとっての家族も交際相手もヒーローも、全てこの相場晄だけでいいのだから。





【H-3/一日目/早朝/病院】



【西丈一郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ポンの兄の拳銃@彼岸島
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:赤首輪の参加者を狙い景品を稼ぐ。装備が充実したら赤首輪の参加者を殺すなり優勝なりして脱出する。
0:邪魔する者には容赦しない。
1:相場は利用できるだけ利用したいが、戦力にあてができれば捨てる。
2:いまは準備を整える。
3:岡が死んだので使えそうな手ごまを探したい。現状の有力候補は承太郎。

※参戦時期は大阪篇終了後。
※承太郎、春花、朧と情報交換をしました。

【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ、承太郎への嫉妬と春花がなびく可能性への不安
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動] 
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
1:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
2:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
3:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
4:カメラがあれば欲しい。
5:西はなにかこの殺し合いについて関与しているのか?
6:空条承太郎は始末したい。最低でも、春花とは切り離したい。

※参戦時期は18話付近です。
※承太郎、春花、朧と情報交換をしました。




【朧@バジリスク~甲賀忍法帳~】
[状態]:腹部にダメージ(中)、疲労(中~大)
[装備]:リアカー(現地調達品)
[道具]: 不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と会いたい
0:春花の手当てをする。どうにかして共に行動して欲しいが...
1:脱出の協力者を探す。
2:陽炎には要注意。天膳にも心は許さない。
3:天膳が呼ばれたが...正直信じられない。

※参戦時期は原作三巻、霞刑部死亡付近。
※春花、承太郎と情報を交換しました。
※天膳はまた蘇るのだろうと思っています。
※西、相場と情報交換をしました。


【野崎春花@ミスミソウ】
[状態]:右頬に切り傷・右耳損傷・出血(中)、頭部から消毒の匂い
[装備]:ベヘリット@ベルセルク
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:祥子を救い、佐山流美を殺す。その後に自分も死ぬ。
0:できれば一人で動きたいけど...
1:祥子、相葉の安全を確保する。
2:小黒さんは保留。


※参戦時期は原作14話で相場と口付けを交わした後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※朧、承太郎と情報を交換しました。
※西、相場と情報交換をしました。

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ、出血(止血処置済み)、帽子から消毒の匂い
[装備]:
[道具]: 不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。
0:主催者の言いなりにならない。
1:ある程度休憩をとったら行動を開始する。
2:DIO・先程の化け物(ゾッド)・ホル・ホースには要警戒。
3:相場には警戒。西にも要注意。

※参戦時期は三部終了後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※春花、朧と情報を交換しました。
※西、相場と情報交換をしました。



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小休止 知らぬが仏
野崎春花
空条承太郎
泥の船 西丈一郎
相場晄
最終更新:2019年04月16日 18:36