西丈一郎と相場晄。
獲物を求める二人の男子中学生は、今後の方針について話し合っていた。

「お前の言ってた青い髪の女って奴、特徴教えろよ」
「は?さっき言っただろ」
「あんな偽善者用の表面的なことじゃねーよ。どうして狩れなかったのか、ソイツが解ればカモ同然だろ」

高圧的というべきか、馴れ馴れしいというべきか。
兼ねてよりの知り合いらしい加藤ならいざ知らず、初対面の相手によくもまあこんな態度で話せるものだと相場は思う。
少なくとも、仲良くはできないなと思わざるをえなかった。

「...あの女は、ボウガンで頭を貫かれても生きていた」
「ソイツは正面からか?」
「いや、姿を隠して背後から」

相場の証言を聞き、西は考え込む素振りを見せる。
これだけの情報でなにかわかるのだろうか。だとしたら頼もしいが...

「...お前、ソイツを撃つ前に余計なことはしなかったか?」

ふと、なにか思い当たったような表情を垣間見せ、相場へと向き直る。
余計なこと、と問われても相場には心当たりはない。
あの時はさやかとは会話すらロクにしていないし、特筆すべきことは...

「...そういえば、最初は背後から撃ったけど、仁美ってやつのせいで躱されて、あいつが隙だらけになってからようやく頭を撃てたっけ」

その相場の漏らした呟きに、西は「それだ」と即座に返答する。
西の心当たりと相場のミスが合致したのだ。

「お前のその最初のミスで、その女に存在を気づかれた。完全な不意打ちだったら殺せてたはずだ」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「俺の狙ってる獲物にも似たような奴がいるからだよ」

西は、そのまま名簿を取り出し、記された名前を指でなぞっていく。


「確かこのあたりに...あった」

西の指した名はぬらりひょん。
ぬらりひょんといえば、相場の知る限りでは妖怪の一種だが、まさかそんなものまで巻き込まれているというのか。

「コイツは再生能力が半端なくてな。正面からいくら削ろうがすぐに元通りになっちまう。おまけに姿も自由自在ときた。
けどな、コイツにもひとつ弱点がある。不意打ちだ。完全な意識外からの攻撃を浴びせれば、それだけでしばらく再生できなくなる」

西の口から出てくるぬらりひょんについてのワードは、再生能力だの変幻自在だのと、およそ人智を超えるモノだったが、西の言いたいことはなんとなくわかる。
あの青い髪の女もそのぬらりひょんとかいう奴と似たような性質を持っていると推測したのだろう。
実際には、ぬらりひょんの下位互換なのだろうが、西の推測通りなら、あれだけやっても死ななかったのも理解できる。

不可思議なのは西の素性だ。
何故そんな化け物についての知識を有しているのか、何故そんな化け物が参加者として殺し合いに招かれているのか。
純粋に興味が湧いてきてしまう。

「なんでお前はそんなに化け物に詳しいんだ?この殺し合いになにか関わっているのか?」
「...さあな」

含みを持たすような笑みを浮かべる西に、相場の疑念と興味はますます膨らんでいく。
もしもこいつが主催に関する者なら、うまく使えば一足先に野崎を脱出させることが出来るかもしれない。
仮に不可能でも、こいつと組むメリットは非常に高い。
こいつはこの殺し合いについてのノウハウを熟知していることになる。ならば、殺し合いの展開を有利に運ぶのにはもってこいの筈だ。
主催となんの繋がりが無くとも、化け物についての知識は役に立つ。
厳密まで同じではなくとも、似たタイプの化け物を相手にするのに際し参考になるからだ。

性格に難があるとはいえ、あの時、加藤についていかずこちらに残ったのは正解だったかもしれない。
相場は、ツキが廻ってきていると実感し、一刻も早く野崎春花の唯一の拠り所になりたいと内心で胸を躍らせた。



(俺が主催に繋がってる?んなわけねーだろバーカ)

そんな相場には気の毒と言えよう。西は、内心で舌を出し相場を嘲笑った。

自分が主催と関わりがあるように振る舞ったのは完全にフェイクである。
もし本当に主催と関わっているのなら、こんなショボイ武器ではなくガンツで配られるような超兵器を自分に支給しているし、参加者にも加藤なんかではなく和泉あたりを連れてきている。
では、何故彼は己の素性を偽るような真似をしたのか。

彼は相場を制御したかったのだ。

西は相場を評価している。
冷静沈着な振る舞いだけではない。
超常的な現象も受け入れられる柔軟さを有しており、相場は東京のチームのような偽善者ではないし、自分と似ている部分があると思っていた玄野よりも更にこちらに近い側の人間だ。そんなタイプの人間こそ、西が利用価値があると見いだせる人間なのだ。
だが、近いからこそわかってしまうこともある。
相場は必ず西を裏切る。そして裏切れば、その時点で役立たずと判断し口封じも兼ねて処分する。
どういう形かまではわからないが、必ずそうするであろうという確信があった。少なくとも自分ならば、己の利のためにそうするからだ。

それを防ぐための偽の情報である。

西が主催側の人間であれば、相場は自分を如何に利用するかを必ず考える。
利用価値があると判断する以上、相場は下手に西の命を危険に晒すような行動には移れない。
可能な限りこちらの補助をせずにはいられないだろう。

どれほどチープな素材でも、使いこなせばマリオネットを操る糸になり得るのだ。

(まあ、あながち無関係って訳じゃねえかもしれないけどな)

西は、名簿に刻まれたぬらりひょんと岡八郎の名前を思い返す。
岡八郎はハンターとして、ぬらりひょんはミッションのターゲットとして確実に死んだ。
だが、この名簿にその名前が連ねられている以上、生きて殺し合いに参加していると考えるしかないだろう。

それだけではない。

玄野、加藤、西。この三人もまた一度は死にガンツに呼ばれた者たちだ。
だが、いつの間にやらこんな荒唐無稽な催しに招かれている。
死者を生き返らせ、ガンツの干渉を排し参加者として強制的に呼び出す。
そんなことが出来るのは、ガンツ自身に他ならないだろう。
なにが目的かは知らないが、主催にガンツが関与しているとなれば、よりガンツの真相に近い自分は関わりがあると言えよう。

(もしガンツが関与してるなら、大方、カタストロフィに向けての選別ってところか)

カタストロフィ。
それは、多くの人類が体験する最大の戦争。
弱者は惨めに死に絶え、強者も残るのは一握り。そんな規模の大戦争だ。
この殺し合いがカタストロフィに向けて最強の戦士を作り上げる為のプログラムだとしたら、武器が貧相なものだったのも頷ける。

(関係ねぇ。どんなゲームだろうが、最後に勝つのは俺だ)

西には、相場のように守りたいものなどない。
世界を手中に収め、手に入れたいものは、偽善染みた法律や道徳が意味を為さない混沌とした世界。
群れなければなにもできない愚図ではなく、優れた者が全てを支配するあるべき世界。


世界の全てを手に入れるため、西丈一郎は独りゲームへと臨む。
これまでも、そしてこれからも。



【G-2/一日目/早朝】



【西丈一郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ポンの兄の拳銃@彼岸島
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:赤首輪の参加者を狙い景品を稼ぐ。装備が充実したら赤首輪の参加者を殺すなり優勝なりして脱出する。
0:邪魔する者には容赦しない。
1:相場は利用できるだけ利用したい。
2:いまは準備を整える。
3:ぬらりひょんは弱点を知ってるので優先的に狙いたい。
4:岡は戦力になるので赤首輪が手におえなければ利用したい。

※参戦時期は大阪篇終了後。


【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
1:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
2:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
3:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
4:カメラがあれば欲しい。
5:西はなにかこの殺し合いについて関与しているのか?

※参戦時期は18話付近です。


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変わらない世界 西丈一郎 Sign
相場晄
最終更新:2018年12月03日 17:51