魔法少女たちの戦場から逃げおおせた流美は、激しく波打つ鼓動を抑えるために左胸に手を当てた。
そこで初めて気付く。
思ったよりも自分が疲れていないことに。

(始めはダサイと思ってたけど、結構使えるじゃん)

流美の身を包むガンツスーツ。
これは瞬間的な筋力だけでなく、身体能力自体が向上するものでもある。
着用している間は常に効果を発揮するため、普段ならとうにバテきっている距離を走っても短時間且つ疲労も軽減されているのだ。

少し前なら、これさえあれば勝ったも同然だとハシャいだだろう。
だが、先のクラムベリーとの戦いを思い返せばとてもそんな気分にはなれない。

こんな強力な道具があってもあの化け物には勝ち目がない。万が一もなくゼロの勝機しかないのなら、上機嫌になれないのは当然である。

故に、このスーツは戦闘用ではなくあくまでも逃走手段のひとつ。その程度の認識にしておくべきだ。

だが、激しく波打つ鼓動の正体が疲労ではないとしたらなんなのか。
それが罪悪感という十字架であることを、いまの流美が知る由もない。

「あら?あなた...」

自分を呼ぶ声がした。
見つかった。誰に。わからない。
なら誰だ。
いや、まて。自分はこの声に覚えがある。
少なくともクラムベリーではない。マミさんはもっとありえない。
なら、誰が―――

呼びかけられた方へと顔を向ける。
その正体を見た時、流美は思わずポカンと口を空けてしまった。

「や、やっぱり佐山さんだ。私よ、担任の南よ」

半身を削られある筈の無い肉をのぞかせる仏像が、教師の声を借りて呼びかけていたのだから。




「なんなんだ...なんなんだよ、あんた」

流美は狼狽した。
赤い首輪の参加者とは既に二人も遭遇している。
だが、巴マミもクラムベリーも目が覚めるような美人であり、首輪とその強ささえなければなんら人と遜色ない者たちだった。
眼前の仏像は彼女たちとは違う。
一目で怪物だとわかるほどに異様な風貌である。

「待って、佐山さん!」

すぐに逃げ出そうとする流美を、しかし千手観音は呼び止めた。

「信じられないかもしれないけれど...私は本当に南京子なのよ、佐山さん」

クラスの担任、南京子。
千手観音から発される声質は、間違いなく彼女のものだ。
クラスの担任とは決して遠い存在ではない。
学校に通えば必ず顔を突き合わせるし、この会場内では数少ない知り合いの一人だ。

そんなものは佐山流美の足かせにもなりはしない。
例えあの怪物の言う通り、アレが本物の南先生だとしても、もしくはあの怪物に先生が捉われているとしても。
クラス中から虐められてた自分を助けようともしてくれなかった彼女を助ける義理はないし、助けたいとも思わない。
仮にあの怪物の中で苦しんでいたとしても介錯しようとも思わない。
苦しむのなら勝手に苦しめばいいし、死ぬのなら勝手に死ねばいい。
あの人が今さらなにを言おうが、元の世界での腐った繋がりなどすべてクソ喰らえだ。
いま必要なのは、生き残るために全力で逃げる。ただそれだけだ


「あ~あ、逃げちゃった。...虐めを見過ごしてたからしょうがないか」

千手観音は小さくなっていく流美の背中を見つめつつ、ポツリとひとりごちる。
彼は、南京子を殺害した後、その頭部を割りその脳を食し、彼女の記憶と知識を手に入れた。
この会場に連れてこられる前の宮藤清と南京子。
いまの千手観音は二人の人格と知識を有しているのである。

「それにしても佐山さんってば...まさか、あなたがあの黒服を着てるなんてねェ」

佐山はあの『加藤くん』率いる一派にはいなかったはずだ。

となると、あのスーツは支給品のものか。

なんだっていい。
どの道彼女を殺すことには変わりはないのだから。

だが、逃げに専念するあのスーツを相手にただ追いかけるのは骨が折れそうだ。
『加藤くん』のように反撃してくるのならすぐにでも殺せるのだが。

彼女は酷く憔悴した様子だったが、何者かから逃げてきたのだろうか。
だとしたら、彼女を追わずとも彼女の逆の方角へ向かえば別の参加者に遭えるかもしれない。
そいつを殺しに行くのもいいだろう。



――――『南京子』は中学時代、ずっと虐められ続けてきた。

泣いても吐いても、彼らは決して虐めをやめなかった。
もう吐くものが無くなれば、母がせっかく作ってくれた弁当をぐしゃぐしゃにして無理やり詰め込まれ、最初は見えないようにと服の上から殴られできた痣は、次第に顔まで昇ってきた。
それでも味方をしてくれるクラスメイトなど存在せず、一方的にレッテルを張られて虐げられてきた。
理由はわからない。だが、もしもあの時のクラスメイトから建前抜きで理由を聞きだせれば、一様に『虐めやすいから』と答えるだろう。
そんなものは一過性のものであり、仮に京子がいなくなっても新たなターゲットを見つけ、虐げ、優越感に浸っていたことだろう。
中学時代の反抗期にありがちなちょっとした背伸び。
そんな身勝手でクソのような成長のために、彼女の中学時代は犠牲にされた。

上っ面の文体でコピーされた卒業証書と自分の写真がほとんどない卒業アルバムを捨て、あの学校で過ごしたことを無かったことにしても、その傷が癒えることはなかった。

だから、そんな忌まわしい過去を塗り替えるべく、彼女は教師になった。
たとえ教師と生徒という立場の違いがあれど、友達を作り、今度こそちゃんと大津馬中学を卒業したかった。

けれど、蓋をあけて見れば結局はあの頃と変わらなかった。
転校生や弱者の立場にある仲間を対象に、クラスカーストの上位にある者の愉悦のためだけに横行するイジメ。
そんな子供たちを正当化し誇りに思い存分に甘やかし、子供の素行の悪さを全て教師にぶつけてくる、他人の痛みを気にしない毒虫のような親。
教え導く者の立場でありながら、子供にごますって顔色を窺わなければならないイカれた教育システム。

結局、学校とはそういうものだと諦めさせるには充分すぎるほど腐りきった世界だった。

「それにしても、ねえ。まさかあなた達までここに来ていたなんて」

連れてこられた直後は混乱して持ち物もロクに確認できなかったが、この仏像になってからはだいぶ落ち着きを取り戻し、情報を整理できるほどにまでは冷静になれた。
名簿に記載されていた中で知り合いは自分を除いた四人。野崎春花、相場晄、小黒妙子、佐山流美の四人だ。
野崎春花は、転校生であるが故に『クラスの輪を乱す者』として虐められていた。彼女もだいぶ酷いイジメを受けていたのは可哀想だとは思ったが、下手に触れて生徒からイジメられるのは嫌だったので見過ごしてきた。
ただ、彼女には相場晄がいてくれただけでも救いがあったのかもしれない。彼は、いつだって春花の味方でいたし、相手が教師でも春花の敵にまわれば厳しい言葉を投げかけた。
それを言われた時は生意気な口を聞くヤツだと苛立ちもしたが、同時にもしあんな人が昔の自分の傍にいてくれたら少しは救われたかもしれないと思ったかもしれない。

小黒妙子は、非常に扱いづらい生徒だった。
最初はそうでもなかったが、ある日をきっかけに、突如春花を虐げ始め、悪態はもちろん暴力すらも平気で行使するようになった。
キレるタイミングを計るのも難しく、敵対しないように導火線に火が点いたダイナマイトよろしく丁寧に扱ってきたつもりだ。
友達として扱ったのもそのタメであり、イジメの中心核だった彼女を好きになる理由などどこにもなかった。

佐山流美。彼女もまたイジメられっこであり、春花のようなイジメられる理由や救いも無い点を見れば、彼女には既視感を覚えていたかもしれない。

「けど、さっきのあなたの目はそうじゃなかったわよねェ」

先程遭遇した流美は、京子のような虐げられる者の目をしていなかった。
生きるためなら、なんだって利用してやる。そんなイジメられっ子に近い目をしていた。
なにがあったかは知らないが、ただ虐げられてきた自分よりは上等に感じてしまう。

結局、生徒を含めても自分は一番不様な女なのだと思えてしかたなかった。

「ほんっと嫌になるわ、あの学校」

生徒の時も教師の時も、イイ思い出などなにひとつない。
あったかもしれないが、そんなものは空気中の塵に等しいちっぽけなものだろう。

けれど、いまの彼女にとってそんなことはどうでもよかった。

彼女はとても清々しい気分だった。
流美を見つける前に色々と試してみたが、新たに手に入れた肉体は、南京子だったころのものと比べて強靭で人間ではできない動きも平然とやってのけた。
もしもまたイジメられるようなことがあっても、この身体ならあっさりと返り討ちにできるだろう。
この身体であの田舎に帰り、あのクソのような生徒や親を殺す様を想像しただけで胸のトキメキが治まらない。

そもそも、これだけ異様な風貌であれば、恐れられることはあってもイジメにあうことはない。
虐げようとするのならその都度殺してしまえばいいだけだ。

そしてなにより、この身体の特性が彼女の気分を更にハイにした。

『それにしてもあなたみたいな美人をイジメるなんて信じられないよ』
『あ、ありがとう宮藤くん』

身体に同居する『宮藤清』と脳内で会話する。
この青年は、自分の前に殺され脳を食われた人間だ。
この千手観音は、他者の脳を食らうことで知識と記憶、言語を手に入れることができるらしく、それは上書きされるのではなくこの身体の中に残るらしい。
つまりは、千手観音が脳を食らえば食らうほど、同居人が増えるということだ。

彼女にはそれが嬉しかった。
この身体なら殺せば殺すほど同居人が増え、今度こそ友達が出来るとふんだのだ。
実際、身体が同じであればイジメなどできるはずもなく、精神的にイジメようとしたところで自分という意識が消耗するだけだ。
否が応でも友好的な関係を築かざるをえないのだ。

この身体では中学校は卒業できないが、それはもういい。
文字通り心を繋ぎ合わせられる友達ができればそれで充分だ。

「すごいっ!サイッコウにイイ気分よ!これが私の求めていたものなんだわ!」

『南京子』は真の繋がりを求めて動き出す。
例え歪なものでも、虐げられ続けてきた彼女にはそれに縋るほかなかった。




【B-5/一日目/早朝】

【千手観音(宮藤清)@GANTZ】
[状態]:健康、人間に対する激しい殺意
[装備]:(燈籠レーザー)
[道具]:基本支給品×2、不明支給品1~3 、銃剣@とある魔術の禁書目録(南京子の支給品)
[思考・行動]
基本方針:黒服を含めた全参加者を皆殺しにする。元の世界(ミスミソウの方)に戻ったら全員殺す。
0:最高に気分がいい。もっと殺したい。
1:同胞を殺した黒服(ガンツメンバー)は優先的に殺害。
2:友達を増やす(参加者を殺して脳を食べる)。
3:佐山を追うか、彼女を追っていた者を探しに行くか


※参戦時期は宮藤吸収後で加藤勝の腕を切断する直前です
※南京子の知識と記憶を手に入れました。
※南京子と宮藤清の記憶が同居しています。



(ちくしょうちくしょうちくしょう!)

流美は、赤首輪との立て続けの遭遇に毒を吐く。
もしも自分がもっと強ければ、または準備が整っていれば、この遭遇はツイていることになるだろう。
だが、味方がいない・頼みのスーツでも勝ち目が薄い・相手の能力及び力量が計り知れないの三拍子が揃っている状況での遭遇は、ツイていないとしか言いようがない。

ひとまずは化け物以外と接触したい。
利用しやすい参加者であれば尚更いい。

いまはとにかく、クラムベリーや仏像のいる危険な地帯から遠ざかるべきだ。

そんな焦燥が思わず足に余計な力を入れ、必要以上の跳躍を生んでしまう。
しまった、とは思うが時既に遅し。
如何にガンツスーツといえど空中では身動きはとれない。
着地の衝撃はほとんどないが、これでは嫌でも目立ってしまう。
せめて周囲に誰もいないといいのだが。

そんな流美の願いも空しく。
落下地点に大柄な人影がひとつ。

「いっ!?」

あちらは流美を見上げているようだが、物珍しさからか動こうとしない。

どけ、と叫びたくなる衝動に駆られるが、両手で口を塞ぐことでどうにか留まる。
利用しやすい参加者とはどういう者か。
お人好しなのは前提だが、少なくとも高速で動くものがぶつかりそうなこの状況で呑気に空を見上げる阿呆ではないだろう。
ならば、衝突しダメージを与え、相手が死ぬにせよ死なないにせよ支給品でも奪ってやればこれから先が楽になるのではないか。

そう考えた流美は衝突に備え身体を丸める。
既に殺人に近いことをやってしまったのだ。今さらこの程度はものの数ではないだろう。

が、流美の目論見はあっさりと外れることになる。

ガシリ、と彼女の身体は掴まれ身動きが取れなくなってしまったからだ。

あれほどの高速で動く質量のある物体を両手で掴まえるのは非情に困難な技である。
それを成功させたのは、T-800。
彼のサイボーグボディの強靭さと正確無比な機械的な器用さの賜物だ。

「......」

T-800は、突如飛来した少女をセンサーで解析する。
動悸が激しく、お世辞にも小康状態とはいえない。
それが興奮によるものか恐怖によるものかはわからないが、事情を聞くためにはとにかく落ち着かせるべきだろう。
だが、機械であり人間の感情を知らない自分にはその適切な手段がわからない。


『聞きたいことがあっても挨拶は大事。コレ常識よ』

先程の女との会話を思い返す。
彼女は、自分との会話を挨拶から始め、自分にもそうするように促した。
人間は挨拶を重視するというのなら、自分もそれに倣うべきではないだろうか。試してみる価値はある。

「ハァイ」

頭上より野太い声でかけられた言葉に、流美は思わず固まった。
おそるおそる顔を上げてみると、視界に広がるのはワイルドな男のぎこちなく不気味な作り笑顔と赤首輪。

マミ達との件といい、今回といい、なにもかもがうまくいかない。自分の望みとは逆の結果ばかりついてくる。

己の運の無さを実感した流美は、つい苦笑いを浮かべるしかなかった。



【D-5/一日目/早朝】

【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:疲労(中)、野崎春花と祥子への不安と敵意。 マミを刺したことへの罪悪感、クラムベリーへの恐怖。
[装備]:ガンツスーツ@GANTZ(ダメージ60%)、DIOのナイフセット×9@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0~1、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
1:クラムベリーから逃げる。
2:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
3:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。
4:あの先生の声の仏像キモイ、怖い。
5:また赤首輪かよ...

※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。
※本来のガンツスーツは支給者専用となっていますが、このガンツスーツは着用者に合うようにサイズが変わるので誰でも着ることができます。


【T-800@ターミネーター2】
[状態]:異常なし
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:ジョン・コナーを守る
0:ジョンを探す。
1:T-1000は破壊する。
2;流美から色々と聞き出す。

※参戦時期はサラ・コナーを病棟から救出した後です。



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Magia Record -真魔法少女大戦- (1) 佐山流美
無題(2) 千手観音
運のいい時に限って中々気付けない T-800
最終更新:2018年01月26日 17:19