巨大な瓦礫に腰をかけ、傷ついた身体の再生を待ちつつ思いを馳せる。
あの加藤という男の話では、ワイアルドのように一度死んだ者が参加者として選ばれている可能性があるそうだ。

それ自体はかまわない。
でなければ、死んだはずのあの男がなぜここにいるのかが説明がつかないからだ。

問題は―――

「なぜ俺がここにいるか、だ」

ここまで数多の戦場を渡り歩いてきた。
時には重傷を負ったこともある。
そのいずれでも死した覚えはないが、ワイアルドの話を信じれば、ヤツもまた死んだ覚えはないという。

ならば、俺はどうだ。
俺もまた、何者かに屠られたというのか。
充足した戦いの中で力尽きたというのか。

ならば知りたい。
自分を斃した者は何者か。如何な強者なのか。

それを知るにはやはり闘争を重ねる他ない。

望むところだ。

我の求めしものはただひとつ―――



バサリ



立ち上がろうとした俺の耳に、羽ばたきの音が届く。

このような時間に鴉か、となんとなく空を見上げ―――目を疑った。

あたりを照らすのは朝日ではなく燃えるような夕焼け。
使途であるこの俺ですら目を奪われるほどの淀みの中を、鴉は鳴きながら旋回する。

馬鹿な。いま、なにが起きているのというのか。

困惑を隠せない俺の前に鴉が群がり、なにかを包み込むように巨大な塊を象る。

何故か、俺はその塊を除けることができず、ただそれがもたらすなにかを見つめていた。

やがて、鴉たちが飛び発ち内包物が露になる。

現れたのは俺と同じほどの巨大な白い鷹だった。

「こ...これは!?」

俺は思わずそう零していた。
その輝きに、圧迫感に、戸惑わずにはいられなかった。



―――これはお前のまどろみの中。夢と現の溶け合う領域。

頭の中に声が響く。何故か、俺にはこの声が眼前の鷹のものだと確信していた。

「お前は...!まさか...!何故!?」

そう、自然に口を突いて出た言葉自体に俺の困惑はさらに深まる。
俺はこの鷹を知っているのか?ならばこの鷹は何者だ?

―――お前が求めたものは言葉ではない、不死者よ
「!」

鷹の言葉に、ふと我に帰る。

「...確かに」

そうだ。俺の相手が何者かなどはすべて二の次。

「我の求めしはただひとつ、強者!絶対の強者のみ!!」

強者との闘争。それこそが、俺のすべてである。
俺は使途本来の姿に戻り、鷹へと踊りかかり、咆哮とともに、腕を振りかぶる。

十全の殺意と闘気を込め、鷹めがけて振り下ろす。

鷹は微動だにしない。

俺の爪がその頭部に触れようとしたその瞬間、鷹は飛び立つ。

腕を、脇をかすめ、俺が触れることなく奴は通り抜けていった。

瞬間。

俺の腕が、残った角が、頭部が裂け―――意識は、途絶えた。


【ゾッド@ベルセルク 死亡】




「ッ!?」

気づけば、辺りには明るみがさしつつあり、鴉など一匹たりとも痕跡すらなかった。
いま見たものは全て虚像...そう判断する他ない。

馬鹿な。アレが夢だというのか。

キョロキョロと見回す俺の頭部から、熱いなにかが垂れる。
血だ。皮膚が裂け、詰まったものが流れてきたのだ。

「やはり現実...否」

血の出処は、あの人形遣いの打撃により刻まれた箇所と一致している。
やはりあの鷹との闘いが現実か虚像かは断定できない。

「いずれにせよ、あの鷹こそが、俺を死に至らしめた要因―――ということか?」

わからない。わからないが...

「面白い」

自然と頬が緩む。

「鷹よ。貴様は魔に身を落として漸く俺を葬ることができたが...あの男は己の力だけでこの俺をあそこまで追い詰めたぞ」

あの鷹は、確かにこの不死のゾッドを容易く葬った。
だが、この宴にて女子供を救うために立ちはだかった男は、魔に関する者ではないにも関わらず、この身に消えぬ傷跡を打ち込み生き延びてみせた。

「貴様が俺になにを望むかは知らん。だが、いま俺の魂を震わすのは貴様ではなくあの男よ」

俺へと死を齎すほどの魔に縋った強者よりも、己の力ひとつで戦うあの男の闘いの方が自分を充足させてくれた。
もしも小娘の妨害がなければ戦い果てたのは俺かもしれないと思わせるほどにだ。
きっと、この宴にはあの男以外にも素晴らしき猛者は居るはずだ。
それらを全て食らい、より高みに上ったところで―――再び貴様と相対しよう。

傷は癒えてきた。
完治にはほど遠いが、この傷が齎す喜びすらも消えぬうちに新たな闘争へと馳せ参じよう。

我、戦う故に我あり。

新たな闘いの火種はどこぞある!



不死者は強大な力を持つ鷹に忠誠を誓う。それが彼の本来の運命だった。

だが、彼は敗北を悟ってもなお鷹への忠誠は浮かばず。

彼もまた変わりつつあるのかもしれない。

この宴に呼ばれ、なにより空条承太郎という、己の運命を切り開き巨悪に勝利を収めた男と拳を交えて。

意気揚々と歩き出す不死者の背をジッと見つめていた鷹は、その存在を知られることなく静かに飛び去った。


【I-4/街/一日目/早朝】

【ゾッド@ベルセルク】
[状態]:全身にダメージ(中~大)、疲労(小)、右角破損、頭部にダメージ(小)
[装備]:日本刀@現実
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:闘争を繰り広げる。
0:とにかく戦う。
1:行動を始める。
2:空条承太郎には強い興味。春花の持つベヘリットにも少し興味。
3:ガッツと出会えれば再び戦う。

※参戦時期はグリフィスに忠誠を誓う前。
※加藤が二度死んでいることを聞きました。




038:ノスフェラトゥゾッド ゾッド
最終更新:2018年06月13日 21:53