「ごめんね、私なんかの背中じゃ居心地悪いでしょ」
背中でうな垂れる彼女に言葉をかけるも、返答はない。
重たい。背中の彼女が、二度と動かない彼女が、彼女から流れていた熱い血が、いやに重たく感じる。
けれど投げ出すわけにはいかない。投げ出したくなんてない。
これは、私が犯した罪の証だから。彼女のくれた優しさに報いなくちゃいけないから。
「ねえ、あいつは言ってたわよね。引き金を引いた以上は代償を払うべきだって」
DIOと相対したとき、私はあいつへと敵意を向けた。
それはあの蟻もHSIさんも同じで、本能的にあいつへと身を委ねてはいけないことを感じていたのだろう。
言い訳にしかならないが、あの時の私たちの判断は間違ってはいないと思う。
「けど、あの時引き金を引いたのは間違いなく私。私なのよ」
どこかで自惚れがあったのかもしれない。
自分が曲がりなりにもLEVEL5なことに。なにより、自分より格上であるはずの赤首輪のありくんを見て。
自分でもなんとかできるかもしれないと心の片隅で思ってしまったのかもしれない。
本能が警鐘を鳴らしているのなら、きっとあそこで二人を連れて逃げるべきだったのだろう。
ありくんにもHSIさんにも力を借りれば逃げ出すこともできたはずだ。
けれど私は撃ってしまった。引き金を引いてしまったんだ。
「なのにさ、なんであなたは最期に負けないでって応援してくれたのかな」
HSIさんがわたしを恨む余地は山ほどあった。
けれど、あの子は最期まで私を庇い背負い続けてくれた。
泣き言ひとつ言わず、私を励ますために微笑み続けてくれた。
まるであいつのように。かつて私の悪夢を打ち殺してくれたあの<<ヒーロー>>のように。
「本当は、私みたいなのじゃなくて、あなたみたいな子が生き残るべきなのにね」
HSIさんのことを除いても、私にはやはり罰せられるべき罪がある。
私のDNAを使って生み出され実験のために消費された一万人の妹達(シスターズ)。
あいつは、上条当麻は「実験は確かに間違っていたが、妹達が生まれてきたことだけは誇るべきだ」と言ってくれた。
その言葉には大いに救われたけれど、だからといって罪自体が消えた訳じゃない。
罰せられるのならば、やはり彼女よりも自分のほうである。
「でも、だからって止まる訳にはいかないわよね」
それでも逃げるわけにはいかない。彼女に負けないでと託されたのだから。
「負けないで、か。...うん、まずはあなたの姉妹?でいいのかな。写真の子を探さないと」
ありくんや偽HSIさんの探していた写真のHSIさんにそっくりな女の子の探索。
私は彼女の保護を第一とした。
DIOを倒し仇をとるのはその後だ。彼女達の無念は必ず晴らしてみせる。
(...私に、出来るのかな)
胸に不安が過ぎる。
それはDIOが強いから、だとかそんな次元の話じゃなくて。
そもそも私に人を殺せるか、という問題だ。
この会場からDIOがリタイアすれば、仇をとれるだけではなく上条(あいつ)と黒子の負担もかなり少なくなる。
この会場での『リタイア』は命を落とすか、赤い首輪の参加者を殺すことだ。
後者は絶対にだめだ。DIOを止めるために他の参加者を犠牲にしていいなんてまかり通らない。
ならば必然的に前者を選ばざるをえない。
電磁砲を、再び血に染めなければならない。
「...やらなくちゃ、ね」
恐怖はある。嫌悪感もある。
けれど、こんなことをあの二人に押し付ける訳にはいかない。
汚れ仕事は、私のようなヤツがやればいい。
「あっ、あそこに町が...もうすぐゆっくりできるからもう少し待っててね」
あの町ならば安全な場所も多いだろう。
私は、覚束ない足取りをどうにか整え、町へと向かうのだった。
【Fー6/下北沢近辺/一日目/早朝】
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)、顔面にダメージ(中~大)、腹部にダメージ(中~大)、鼻血(中)、歯が数本欠けている、混乱 、精神的疲労(絶大)、ありくんを殺してしまった罪悪感、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:首輪レーダー コイン×5(集落で拾った)。
[思考・行動]
基本方針:生きる(脱出も検討)。 まだ膝は折らない
0:偽HSIさんを安全な場所で埋葬する。
1:偽HSIさんとありくんの望みを叶えるため、本物のHSIさんを探し出す
2:当麻と黒子を探したい。
3:DIOは必ず倒す。でも、私に殺人ができるのかな...?
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交わることなき道しるべ
最終更新:2018年06月13日 21:55