シロクロイルカSS@ ウィキ

第13話

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13話

あれから、真実が俺達を監禁したあの事件から一年が経ち、俺達は高校三年生になった。
世間はクリスマスが近付いているせいか、浮かれた気分になっている人が多いが、俺達受験生は例外だ。
今日も日課のように放課後の教室で参考書と睨めっこをしている。
「司くぅーん、まだぁ?早くラーメン食べに行きましょ」
「…………」
「無視なんて……酷いっ!こうなったら嫁に電話してやるわっ!」
「うるせぇ!!黙って待てねぇのかこのエロゲ野郎が!」
目の前で俺をおちょくってくる晃と口喧嘩をしながら、俺は目の前の参考書と格闘する。
「……くそ、分からん」
「ああ、それx=6だよ」
「適当なこと言ってんじゃ…………合ってる」
呆然とする俺に晃はピースをしてくる。悔しいがコイツはかなり頭が良い。
俺が今目指している大学も、推薦で合格してしまった強者なのだ。
なので一般受験で同じ大学を目指す俺に晃が勉強を教えてくれる、もといおちょくってくれている毎日である。
まあ何だかんだ言って丁寧に教えてくれる晃には結構感謝しているのだが。
「あ、晃君っ!」
「おっ、大内さん」
夕日に染まるポニーテールを揺らしながら大内さんが教室に入って来る。
「も、もしよかったら……そ、その一緒に帰らない!?」
若干裏声になりながらも大内さんは晃に話し掛ける。
以前と比べるとだいぶマシになったようだ。一年くらい前は『晃君に会わせる顔がない!』とか言ってずっと遠くから見つめていただけだった。
それが最近、やっとこうしてまともに話し掛けられるようになったのだから。
「別に良いけど?あ、司も――」
「俺はいいや。まだ勉強したいからさ。二人で帰れよ」
晃に被せて俺はやんわりと断りを入れる。
大内さんの恋路を邪魔するとどうなるか、何となく想像出来てしまうから。
それに俺も待たなければならない人がいる。
「そっか。じゃあラーメンはまた明日だな。行こうか、大内さん」
「う、うん!じゃ、じゃあね、藤塚君!」
晃は少し残念そうにしながらも大内と一緒に教室を出て行った。
夕日が差し込む教室に取り残され、ほっと一息ついた。
「……大内さん、か」
大内さんは学校に復帰していた。
真実を刺したあの出来事は、普通ならば裁判沙汰になるような事件だったが、裁判どころかニュースにさえならなかった。
理由は分からないが、そのおかげで大内さんは年明けには学校に復帰した。
……これは俺の推測でしかないが、真実が大事にしないよう両親に掛け合ったのではないだろうか。
でなければ刺された側が何もしないなんて、考えられない気がする。
とにかく、大内さんは無事学校に戻ってきた。
勿論、戻ってきた直後、俺たちはかなり謝られた。雪の自転車のことも含めて。
雪は最初は驚いていたがすぐに大内さんを許した。別に気にしていない、と。
「晃もよくやるよな……」
夕日を見ながら呟く。
何の風の吹き回しか、晃は大内さんに積極的に話し掛けるようになった。
罪の意識からか、復帰した後も遠目で晃を見ることしか出来なかった大内さんと、今日みたいに帰っているのも晃の意志だ。
どうやら大内さんの好意を無視したことで、彼女を狂気に走らせてしまった。
そう晃は考えているらしく『ちゃんと向き合わないとな』なんて言っていた。
晃の考えすぎな気はするが、正直外見だけならお似合いだと思う。
ま、どうするかは二人次第なのだろうが。
「……そろそろか」
時計を見た後、俺は帰りの支度をして教室を出る。まだ時刻は夕方なのに、辺りは段々と薄暗くなっている。
マフラーをしながら校門に向かうと既に人影がいた。
「それでですね……あ、お兄ちゃん!」
「おう、お待たせ。弥生もいたのか」
「弥生"も"ってなによ!酷いですよね、先輩!」
「ふふっ、そうね」
頬を膨らまて抗議する弥生に、雪はそっと微笑む。
「さ、帰るか。じゃあな弥生!」
「何よ!弥生だって先輩と一緒に帰るもん!」
「今日の買い物当番お前だろ。残念ながらスーパーは逆方向だ!」
「こ、この人で無し!!」
ぎゃあぎゃあと二人で大騒ぎをするのもいつもの光景だった。
……あの事件の後、結局俺と弥生は普通の兄妹に戻った。あの時の弥生の気持ちを、俺はまだ改めて聞けずにいる。
しかし、弥生は何かが吹っ切れたように、以前と変わらず俺に接して来る。
以前よりも依存することが少なくなり、キスを求めてくることもなくなった。
もしかしたら、あの出来事が弥生を成長させたのかもしれない。
「司、一緒に行ってあげればいいじゃない」
「あ、別に気にしないでください先輩!お兄ちゃん、先輩に変なことしないでよね!」
「ばっ!?お前っ!」
「じゃ、先輩また明日!」
弥生は言いたいことだけ言うと全速力で俺達から離れていった。家に帰ったら覚えておけよ、我が妹。
「……じゃ、帰るか」
「うん」
自然と雪と手を繋いで通学路を歩く。雪の手から伝わる体温が心地好い。
結局、俺達は付き合うことにした。
あの事件からお互いの大切さを再認識したのだろうか、病院で目を覚ました雪に向かってすぐに俺は告白した。
また声が裏返ってしまいかなりからかわれたが。色々喧嘩もするが、なかなか上手くやっている。
「どう?勉強は進んだ?」
「まあな。相変わらず晃は五月蝿いけど。久しぶりの部活はどうだった?」
「うーん……やっぱり身体が鈍っちゃうね。でも弥生ちゃんは頼もしかったよ。キャプテンの貫禄がついてきたのかな」
たわいもない話をしながら二人、夕暮れの通学路を歩いていく。
雪も晃と同じ大学に推薦が決まっており、俺だけが一般受験で頑張っている。
「もうすぐ今年も終わりね。どう、受験生さん?」
「同じ大学に行けないと別れるカップルが多いとか聞くし、三人で馬鹿やるためにも頑張らないと――」
冗談混じりで言った瞬間、雪にぎゅっと抱きしめられた。甘い香りが俺を包む。
雪はちょっと不機嫌な顔をして俺を見上げた。
「……別れないよ」
「ああ、ただの冗談――」
「絶対に、離さないからね」
雪は更に強く俺を抱きしめた。
付き合ってから改めて知った、雪の愛情の深さ。そして……執着。
別に迷惑でないし、むしろ嬉しいが、度々こういうことが起きる。
こういう時は言葉じゃなくて態度で示さないといけない。
……言っておくが、別によこしまな気持ちがあるとかじゃない。断じてない。
「絶対に――」
俺は雪の唇にそっとキスをする。柔らかい感触と共に自分の頬が暑くなるのを感じる。
雪の顔を見ると真っ赤だった。目は潤んでいて呆然としている。
「好きだよ、ゆ――」
「ば、ばばばばばはかぁぁあ!?」
「ぐはぁ!?」
思いっ切りビンタされて俺は道端に倒れる。雪は肩で息をしながら潤んだ目でこちらを見ていた。
「こ、ここここんな場所でなにしてんのよ!?へ、変態っ!!」
「あ、あのなぁ……」
起き上がって雪に近付くと、まるで獣でも見るような目付きをされた。
付き合ってもうすぐ一年。愛情深くて嫉妬深くて、それでいてかなり繊細……というかキス一つでここまで顔を真っ赤にする。
そんな彼女、中条雪と俺は一緒に歩いている。



……そしてそこには、全ての元凶であり俺と雪を結び付けた、辻本真実の姿はなかった。



雪を自宅まで送った後、何となく近くの河原まで来ていた。
たまに黄昏れたくなる、そんなお年頃なのかもしれない。
黄昏れというには、周囲はもう暗くなっているのはご愛敬ということで許して頂きたい。
「…………」
真実はあの事件の後、すぐにこの街からいなくなった。
弥生が呼んでくれた晃の協力もありあの日、真実も雪も奇跡的に一命を取り留めた。
手術室に入って行く真実を俺は祈る思いで見つめ、それが俺が見た最後の真実の姿となった。
真実が助かったことはご両親から聞かされたが俺達が会いたいというと、はっきりと断られた。
『もう真実には関わらないでほしい。賠償ならいくらでもする』と、ただそれだけ言われた。
悔しかった。そういう目でしか俺達は見られなかったから。
結局そのまま真実には会えず、いつの間にか彼女は家族と一緒にこの街からいなくなっていた。
電話も、メールも変えられていて全く連絡が取れないまま、もうすぐ一年が過ぎようとしている。
「……何してんのかな、真実」
違う学校でもまた、委員長をやっているのだろうか。
また誰かにお節介をして、誰かを叱ったりしているのだろうか。
……また一人で抱え込んで、悩んで、苦しんでいるのだろうか。
結局俺は真実を救えなかった。必死に呼び掛けたが、彼女には届かなかった。
だから今、真実はこの街にいない。
「…………?」
ふと対岸を見ると同じように黄昏れている人がいた。
顔はよく見えないが服装からして、どうやら女子のようだ。ぼーっと見ていると女の子は河辺に近付いて――
「………………えっ」
「久しぶり……司君」
ゆっくりと微笑んだ。
決して大きな声ではなかったが、俺にははっきりと分かった。
あの一ヶ月間の掛け替えのない思い出が溢れ出てくる。いつの間にか俺は川のギリギリまで駆け寄っていた。
確かめたかった。会いたいと思う俺が生み出した幻なのか、それとも――
「ま、真実なのか……」
「……他に誰がいるのよ」
初めて出会った時と同じように辻本真実はクスッと笑う。
あの時と違うのは、俺が知らないグレーの制服を着ているという点だった。
やっと会えたという喜びと同時に、やはり真実はもうこの街にはいないのだと俺は改めて気付かされた。
「…………心配したぞ。連絡も寄越さず突然消えやがって。連絡先も変えるしさ」
「親に変えられたのよ。"全て忘れて、新しくやり直そう"って……」
真実は何処かさみしげな笑みを浮かべる。
"全て忘れて"という言葉が俺の中で引っ掛かった。真実は、真実の家族は一年前の出来事をないことにしようとしているのだろうか。
「全てって……でも、また真実は帰って来てくれたじゃないか」
「帰って来たわけじゃないわ。少し用があって、たまたま通り掛かっただけよ……じゃあね」
突然、真実は踵を返して河辺から離れていく。まるで俺を拒絶するかのように。
「真実っ!!」
今を逃がしたら二度と会えない気がして俺は無意識に叫んでいた。
このまま終わるなんて、あまりにも悲しすぎる。
「…………何?」
真実は振り返らないまま、俺の言葉を聞いていた。言うなら今しかない。
あの時、一年前に届かなかった想いを伝えなければならない。
「行くなっ!!」
「……っ」
「真実が居てくれて本当に楽しかった!たった一ヶ月だったけど、俺にとっては掛け替えのない時間だった!」
「……私は復讐する為に、司君に近付いたのよ」
「だから何だ!きっかけなんてどうでもいい!俺は、俺達はまた真実に居てほしい!」
「……皆をたくさん傷付けたわ」
「謝って許して貰おう!一人が嫌なら俺も付き添う!だから……行くなっ!!」
俺の叫びが真っ暗な河辺に響く。真実は身体を震わしながら俺を見ていた。
「な、何で……何でそこまでしてくれるのよ!?私は、私は司君の妹を殺そうとしてたのよ!」
そして真実は今までの感情を爆発させるように叫ぶ。
やはり今でも真実は、あの時のことを後悔しているようだった。
「……真実のおかげで大切なものに気が付けた。色んなことが分かった。真実が居なきゃ、分からなかったことばっかだ」
「……嘘」
「嘘じゃない。真実には本当に感謝してる。だから、今度は真実の力になりたいんだ」
俺は真実に向かって手を差し出す。
一年前はちゃんと言えなかった真実への気持ちを、今度は言うことが出来た。
俯いていて真実の表情はよく分からない。そのまましばらく、川の流れる音だけがこの空間を支配していた。
やがて、真実はゆっくりと顔を上げて俺を見た。
「…………私も、やり直したい」
「真実……」
真実は消えてしまいそうな程小さな声で、それでも俺の眼を見て話しつづける。
「もう一度……もう一度やり直して、今度はちゃんと……皆に向き合いたい……!」
「じゃあ――」
「ありがとう。司君は、いつも私に勇気をくれるわ。……もう、決めたから」
真実は俺の言葉を遮って力強く話す。その言葉には、既に迷いはないように思えた。
「真実……?」
「私、やり直したい。今すぐは無理だけど、必ず帰ってくる。だから…………待っていてくれる?」
「……ああ、待ってる。皆で、真実のこと必ず待ってるから!」
「うん……」
川越しに俺達は約束をする。いつか必ずまた笑い合う為に。
この川は今の俺達の距離だ。簡単には越えられない。
それでもお互いを見失わなければ、俺達はまた出会えるはずだ。だって俺達にはお互いが見えているのだから。
「……司君、もし私達が普通に出会えてたら――」
真実はそこで口を閉じる。何かを言いかけたようだったが、少し考えた後,笑顔を作った。
「やっぱり何でもない!……中条さんとお幸せに!」
「お、おいっ!?」
「あはは、顔真っ赤よ?」
「ぐっ……」
この暗闇でも分かるとは相当真っ赤なのだろうか。考えると余計に恥ずかしいのであまり気にしないことにする。
「……じゃあ、私行くね」
「おう、必ず戻ってこい!」
「うん。行ってきます!」
真実は手を振った後、そのまま振り返らず、河辺から去って行った。
真っ暗な河辺に俺が一人残される。それでも俺の心はとても晴れやかだった。
「真実……」
結局、何故この街に来たのかは分からなかったが、おかげでもう一度真実に会えた。
そして大切な仲間を失わずに済んだ。どれくらい掛かるのかは分からない。
でも俺達は約束をした。だから俺は信じて待とう。必ず、今度は皆で笑い合える日を信じて――





何が真実で、何が嘘なのか。決めるのは結局、自分自身だ。
たとえ嘘から始まった出会いだとしても、その関係や気持ちは真実だと、俺は思う。
嘘と真実が混ざりあったあの一ヶ月は、今までもそしてこれからも、俺自身にとって掛け替えのない思い出になるに違いないから。





――春。桜が舞い散る並木道を俺達は歩いていた。全員がスーツ姿に身を包んでいる。
同じ方向へ歩く人達も、俺達と同じように真新しいスーツに緊張気味の面持ちを浮かべていた。
「……結局大学も皆同じだもんな」
「本当は落ちたらどうしようとか思ってた癖に。司君もツンデレですな」
「本当にね。あたし達の方が緊張したよ」
高校の時と同じように雪と晃にからかわれる。
かなり際どかったが、何とかこの二人と同じ大学に合格することが出来、晴れて大学生になった。
真新しいスーツに身を包み、俺達はこれから入学式を迎えるのだった。
俺達の大学は桜山市の市内にあり通学も高校の時とあまり変わらないが、結構知名度があり倍率は中々に高かったのだ。
「まあ入っちゃえばこっちのもんだからさ。な、大内さん!」
「う、うん!ふ、藤塚君の言う通りだよ!"棚からぼたもち"って言うしね!?」
顔を真っ赤にさせながら晃の隣を歩いていた大内が必死に答える。
彼女も俺と同じ一般入試で合格した仲間だ。
そして一緒に皆で勉強した甲斐あってか、何とか晃以外とも少し会話出来るようになった。まあ、よく吃るが。
「なんか使い方違う気もするけど……とにかく今日から大学生なんだな」
「おっ、何だか感慨深げじゃないか」
「どうかした、司?」
雪が不安げにギュッと俺の手を握ってくる。
……自分の彼女ながらその仕草は可愛すぎだろ。
「……いや、何でもない」
俺は満開の桜を眺めながら、ここに居ないもう一人の大切な仲間に想いを馳せる。
彼女も同じ空を見ているのだろうか。そんなことを考えながら。
「そういえば今日の新入生代表挨拶、入試の成績優秀者がやるっていってたな」
「もしかして司……はないとして、大内さん?かなり自己採点良かったみたいだし」
雪がさりげなく俺を馬鹿にしてから大内さんに話し掛ける。
確かに俺はかなりボーダーラインで滑り込んだ感じはしたから、成績優秀者なんかになるわけはない。
「そ、そういう話はなかったので……」
「じゃあ誰だろうな。要するに一番出来た奴ってことだろ」
「さあ?……そろそろ着くな」
桜並木を抜けると目の前に大きな建物がずらっと並んでいた。
俺達は少し感動しながらも案内され、人の波に流されて行く。
会場である大型体育館にはスーツ姿の新入生がぎっしり用意された椅子に座っていて、思い思いに入学式が始まるのを待っていた。
しばらくすると入学式が始まり、同時に学長の長い話が始まる。
いよいよ俺達の大学生活がスタートする瞬間だった。そして――
『続きまして、新入生代表の挨拶』
「ついに来たな。司君よりも頭の良い天才が」
「うるせっ」
晃と小声で話しながら誰も居ない壇上をぼーっと眺める。
一体どんながり勉が出て来るのか。せめて眠くなるような話はして欲しくないなんて考えていた俺の耳に入って来たのは――
『新入生代表、辻本真実』
「………………………へっ?」
聞き覚えのある名前だった。
辻本真実と呼ばれた女の子は以前より伸びて腰ほどにもなった黒髪を揺らしながら壇上に立つ。
どうみても俺達が知っている辻本真実だった。
呆然としている俺を知ってか知らずか、真実はゆっくりとマイクスタンドに近付き、挨拶を始める。
『新入生の挨拶。新入生代表、辻本真実――』
「おいおい……」
晃も相当驚いているようだった。同じように大内さんも眼を見開いている。
「…………司は絶対に渡さないから」
「ゆ、雪……?」
雪に至ってはぶつぶつ言いながら俺の手をギュッと握り締めている。
そんな俺達の状況などお構いなしに、真実はすらすらと挨拶を続ける。
そして最後に確かに俺達の方を見ながら――
『……冬に学校見学に来てからこの大学に入りたいと心に決めておりました。これからは心機一転、人生をやり直すつもりで大学生活を謳歌したいです』
笑顔でそう言った。挨拶が終わり真実は壇上から降りる。
「……あいつ」
そんな真実を見ながら、俺は思わず笑い出しそうになるのを必死に抑える。
――何が今すぐは無理、だ。全然すぐじゃないか。
あの時河辺を通り掛かったのも、この大学の学校見学のついでだったに違いない。
真実は親も、俺たちすら出し抜いて、最初からこの街に戻る気だったんじゃないだろうか。
「……ったく、とんだ嘘つきだよ、アイツは」
「……さてと、これから修羅場かもな、司君」
「はい?」
「司は……あたしの恋人なんだから……!」
「あはは……」
……やっぱり真実にあんなこと言わなきゃ良かったなんて思いながらも、何故か俺は嬉しかった。









――春が始まる。
今まで違う、新しい春が。
でも全て上手く行く気がする。
だって俺達は悲しみを乗り越えて、やっと揃うことが出来たのだから。
きっと今より素敵な未来が待っている。そんな気がするんだ。













――嘘と真実――  完
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