靴もまともに履かず、玄関を飛び出た。

夏の夜。

少しマシにはなったが、それでも外は暑い。

額ににじむ汗も気にせず、彼女の家まで走った。

彼女の家に近づくと、小さな人影が見えた。

足音に気付いたのか、こちらに手を振っている。

わたしも大きく手を振って、彼女の元に駆けていく。

澪「お待たせ!」

律「走ってきたのか?」

澪「うん、汗かいちゃった」

律「冷たいもの入れてくる、先に部屋行ってて」

澪「ありがとう、行ってるな」


律「はい、召し上がれ」

澪「いただきます」

律「あ、音楽掛けなきゃ」

澪「ほんと、続きからだな」

律「そりゃー澪が来るの待ってたからな~」


ベッドに腰掛けるわたしの隣に彼女が座る。

少しジュースを口にして、ため息をついて、また口を開く。


律「もうちょっと、近く行ってもいい?」

澪「何だよ改まって…いいよ」

律「へへ~」

澪「嬉しそうにしちゃって」

律「嬉しいもん」

澪「わたしもだけどな」

律「…もう怒ってない?」

澪「最初から怒ってないよ」

澪「律は?」

律「わたしも怒ってないよ、ちょっと寂しかっただけ」

澪「そっか、よかった」

律「…よし、背中向けて」


彼女の右手が背中に伸びてくる。

指を立てて、何か書こうとしてるようだ。


澪「ん?何?」

律「さっきの続き」

澪「すき焼きの?」

律「そう、すき焼きではないけど」

澪「直接言うんじゃないのか?」

律「まあいいじゃん、何書いてるか当ててみ~」

澪「ふふ、ちょっとくすぐったい」


細い指が背中をすべる。

くすぐったさを我慢しながら、その指先に神経を集中させる。


―みおすき やきもちやいて ごめん―


律「…わかった?」

澪「うん」

律「答えは?」

澪「ヤキモチやいてごめん?」

律「正解!じゃあこれはー?」


―しゃれこうべ―


澪「しゃれこうべ?」

律「そうそう」

澪「何でしゃれこうべ?」

律「怖がるかなって思って」

澪「怖くないよ?」

律「何だつまんない、じゃあ次~」


―りつ すき―


澪「律好き」

律「ありがと~」

澪「ずるい、答えただけなのに」

律「だって言わせたかったんだも~ん」

澪「そんなことしなくても言うよ?」

律「あ、えっと、じゃあ次!」

澪「はは、照れてる」


―あい  …ん?


澪「あれ、わかんなかった」

律「間違えた、やり直す」


―あいしてる―


澪「…わかった」

律「答えは?」

澪「背中向けて、わたしも答え書く」

律「はいどーぞ」


―わたしも―


澪「わかった?」

律「…それ答えじゃなくねー?」

澪「でも…こう答えたかったんだ」

律「そっか…良かった」

澪「もしテストだったら丸もらえるかな?」

律「満点だよ、わたしには」


―ぎゅって してもいい ?―


澪「えっとね」

律「ちょっと難しかったかな、小さい字も入ってるし」

澪「うん、それに律が照れて早く書くから」

律「何だ、わかってんじゃん」

澪「何となくだけどな」

律「じゃあ、答えは?」

澪「いい、に決まってる」


彼女が腕を回して、わたしを横から抱きしめる。

肩にあごを乗せて、見つめられる。

少し照れてしまって、まともに顔を見れないけど、

何となく、彼女が微笑んでるのがわかった。


律「唯ってさ、どんな気持ちで梓に抱きついてるんだろ」

澪「梓が可愛くて仕方ない、とかじゃないか?」

律「好きなのかな?」

澪「まあ人としては好きだろう、それが恋かはわからないけど」

律「もしそういう好きなら、辛いだろうな」

澪「そうか?」

律「わたしは澪に抱きつくと、少しだけ切ないよ」

澪「…どうして?」

律「気持ち高ぶってさ、離したくないって思う。だから」

澪「じゃあ、離さないでいいだろ」

律「どんどん欲張りになって、キスしたいって思っちゃう」

澪「…なればいいんじゃない?」

律「欲張ってもいいと思う?」

澪「いいと思う」

律「なっちゃおうかな」

澪「…なっちゃいなよ」


少し体勢を正して、彼女の顔が寄ってくる。

ゆっくり目を閉じると、唇が触れ合った。

離してはまた合わせて、その繰り返し。

少し経つと、次は舌も合わせてみる。

今まで何度もこうして来て、何度も繰り返しても幸せだと思える。

昨日から今日にかけて、少しケンカっぽくなってしまったけど。

時々ケンカもして、それでも笑い合えるわたしたちでいたいな。


…そう思っていた時、現実に引き戻された。


澪「んん、律!」

律「何だよ、いいところだったのに~」

澪「だって、だって今!」

律「今、何?」

澪「…今、胸触った」

律「欲張りになれって言いましたよ?」

澪「でも、急に!」

律「予告するべきだった?」

澪「そういう意味じゃなくて!」

律「…なあ澪」

澪「…はい?」

律「うちら付き合って何ヶ月?」

澪「去年の年末から、今8月だから…8ヶ月くらい?」

律「じゃあ初めてキスしたのは?」

澪「…小学生」

律「つまりはもう8年ほどだ、ベテランだな」

澪「まあ、そうかもな」

律「…そろそろ先に進んでもいいと思わない?」

澪「先って…」

律「…そういうことだよ?」

澪「…んー」

律「嫌ならいいんだけどな」

澪「何て言うか、ね」

律「澪が今のままを望むなら、それで」

澪「…そういう言い方、ずるい」

律「…じゃあ、どうよ?」

澪「まださ、心の準備が…」

律「じゃあ心の準備しよう!」

澪「そうだな、準備」

律「来週な!」

澪「え!?」

律「遅かった?」

澪「違う!早いよ!」

律「…でもさ、来週うちの父さん出張で、母さんも付いて行くんだよね」

澪「…うん」

律「聡も生意気に部活の遠征試合とかで、帰ってこないんだよね」

澪「…そうか」

律「来週しかないと思わねー?」

澪「来週か…」

律「だから決まり、その日泊まりに来て?」

澪「…わかった」

律「まあさ、まだ無理でもお泊り来いよ。一緒に寝たい」

澪「…そうだな、そうする」

律「楽しみ?」

澪「…ちょっと、怖いかな?」



番外編「ケンカ」終わり!



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最終更新:2011年10月15日 23:38